説明

リチウム二次電池用負極材料とその製造方法およびリチウム二次電池

【課題】安全性が高くサイクル安定性に優れた新規なリチウム二次電池用負極材料およびその製法ならびにこれを用いたリチウム二次電池の提供。
【解決手段】N、C、B、F、P、Sの少なくとも1つの元素をアニオンとして含有するチタン化合物と、リチウム化合物またはリチウムチタン化合物との混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理する。これによって、安全性が高く急速充放電が可能で、優れたサイクル特性を持つ高性能リチウム二次電池用負極材料が容易に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高く急速充放電が可能で、優れたサイクル特性を持つ高性能リチウム二次電池用負極材料およびその製造方法、ならびにそれを用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やモバイルパソコン等のユビキタス機器の発展や、環境問題に対する関心の高まりを背景としたハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に対する需要の増大などから、高エネルギー密度で単電池の電圧が高いリチウム二次電池の利用が近年急増している。
【0003】
リチウム二次電池の負極材料としては、エネルギー密度の観点から見れば最も還元力が強く原子量も小さな金属リチウムが望ましいが、充電時に負極上にリチウムデンドライトが発生しやすく、サイクル寿命や安全性に大きな問題がある。そのため、現状のリチウム二次電池においてはリチウムの挿入脱離が可能でリチウムの電極電位に対して0〜1Vの電位を有する炭素材料が広く用いられている。
【0004】
しかし、炭素負極は過充電によりリチウム金属の析出が起こりやすく、また、温度が上昇すると有機電解液の炭素表面における分解反応が熱暴走しやすいことから、電池の安全性に問題がある。また、炭素負極へのリチウムの脱挿入に伴い結晶格子が膨張・収縮するため、大電流による急速充放電にも適していない。
【0005】
そこで、リチウム二次電池の新たな負極材料として以下の特許文献1に報告されているように、スピネル型の堅固な3次元結晶構造を有するチタン酸リチウムが注目されている。チタン酸リチウムは堅固な3次元トンネル構造を有するため、リチウムの脱挿入における結晶格子の変化が2%程度しかなく、高速充放電が可能であると共に優れたサイクル安定性を示す。また、電極表面での電解液の熱分解や電極材料そのものの熱分解反応が起こりにくい上に、電極電位がリチウムの溶解析出電位に比べて比較的高いためにリチウム金属の析出も起こりにくいことから、チタン酸リチウムを負極材料として用いることにより電池の安全性も高められる。
【0006】
ところが、チタン酸リチウムの導電性はリチウムの脱離に伴って低下し、完全にリチウムが脱離した酸化チタンでは導電性が非常に低くなるため、チタン酸リチウムを負極として用いた電池では、充放電電流を減少させることやチタン酸リチウム粒子の極端な微細化等を行わない限り、リチウムを完全に脱挿入し、理論値に近い電池容量を実現することが困難である。
【0007】
また、以下の非特許文献1に示すように、リチウム二次電池のエネルギー密度を増大させるためには金属リチウムの電位に近い電極電位を有する負極材料を用いることが好ましく、比較的高い電極電位(1.55V、vs.Li/Li)を有するチタン酸リチウムは、他の負極材料と比較してエネルギー密度を高めることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3502118号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.B.Goodenough.,Solid State Ionics,Vol.69,pp.184(1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述した従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、安全性が高くサイクル安定性に優れたリチウム二次電池用負極材料であるチタン酸リチウムの放電容量および電極電位を改善し、リチウム二次電池の安全性やエネルギー密度、あるいはサイクル特性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明によるリチウム二次電池用負極材料は、3次元トンネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムであるLiTi(0.75≦x≦2.66、1.33≦y≦4、3≦z≦7)に、アニオンがドープされていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明によるリチウム二次電池用負極材料は、前記アニオンとして、非金属のpブロック元素であり、特に2pまた3pの価電子を有するB、C、N、F、P、Sの少なくとも1つがドープされていることを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明によるリチウム二次電池用負極材料は、前記アニオンが前記チタン酸リチウムの酸素に対し、モル比でアニオン(A)/酸素(O)=n、0.1≦n≦3.5となるようにドープされていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明によるリチウム二次電池用負極材料の製造方法は、チタン酸リチウムにアニオンをドープするために、アニオン含有チタン化合物であるTiA(A=N、C、B、F、P、S)と、リチウム化合物またはリチウムチタン化合物の混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理することを特徴とするものである。
【0015】
さらに本発明によるリチウム二次電池は、本発明によるリチウム二次電池用負極材料を含有する負極と、リチウムの挿入脱離が可能な正極材料を含有する正極と、当該正極と前記負極の間に配置されたリチウムイオン伝導性電解質とを有することを特徴とするものである。
【0016】
一般的な電極材料においては、原子と原子の結合により構成される価電子帯内の電子の分布やその相互作用が材料内の電子の動き、言い換えれば材料の導電率に強く影響する。酸化チタンはイオン結合性が強いために電子が結合している原子間に局在しており、電子が自由に動きにくく材料全体としての導電性が低い。
【0017】
本発明に提案したように、チタン酸リチウムに酸素と異なる価数を持つpブロックの非金属アニオンをドープすることで、酸素とアニオンの相互作用により電子が共有されることで酸素−チタン間のイオン結合性が低下し、電子が価電子帯内で動きやすくなるのでリチウムが脱離した状態でのチタン酸リチウムの導電性が向上する。
【0018】
また、非金属アニオンと酸素の相互作用により、フェルミ準位に近い新たなドープ準位が作られるため、酸化還元反応の電位が従来のチタン酸リチウムより卑な電位にシフトする。
【0019】
ドープするアニオンとしては、p軌道に不対電子を有する、B(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、F(フッ素)、P(リン)、S(硫黄)のいずれか1つ、あるいはそれ以上が望ましい。
【0020】
このような現象は酸素とアニオンのモル比がアニオン(A)/酸素(O)=n、0.1≦n≦3.5の時に結晶中の酸素欠陥が生成することによって達成される。すなわち、nが0.1未満では、酸素欠陥が少ないため導電性への効果が小さいという不都合が生じ、3.5を超えると、LTOの3次元トンネル構造が変化してしまい、リチウムイオンの出入りが難しくなるという不都合が生じるからである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下に示すような効果が得られる。
【0022】
(1)本発明のリチウム二次電池用負極材料は、3次元トンネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムに前記のような非金属アニオンをドープしてなることから、従来の負極材料に比べ、卑な作動電位で、高速充放電に優れ、充放電サイクルを行っても放電容量の低下が少なく、高いエネルギー密度を発揮できる。
【0023】
(2)本発明の製造方法は、前記のようなアニオンをドープしたチタン化合物と、リチウム化合物またはリチウムチタン化合物との混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程を含むことから、前記(1)のような高品質、高性能なリチウム二次電池用負極材料を容易かつ確実に製造することができる。
【0024】
(3)本発明のリチウム二次電池は、その負極が、前記(1)のような高品質、高性能なリチウム二次電池用負極材料によって構成されているため、従来のリチウム二次電池に比べて優れた安全性やエネルギー密度、サイクル特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る負極材料を構成する3次元トンネル構造を持つチタン酸リチウムの合成過程を示す説明図である。
【図2】本発明におけるテストセルを示す断面図である。
【図3】実施例1において合成した窒素ドープチタン酸リチウムのXRDパターンである。
【図4】実施例1および比較例1において作製したリチウム二次電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明によるリチウム二次電池用負極材料の実施形態について説明する。
【0027】
本発明によるアニオンドープチタン酸リチウムは、図1に示すような2段階の反応通りに合成される。
【0028】
まず、第1段階として、チタン酸化物あるいはドープするアニオン(A)を含有しないチタンの化合物と、リチウム化合物とを反応させることにより、トンネル構造を有さないチタン酸リチウムを合成する。合成方法としては固相反応法、ゾルゲル法や、沈殿法などが挙げられ、特定の方法に限定されるものではない。
【0029】
次に、第2段階として、合成したトンネル構造を有さないチタン酸リチウムを、ドープするアニオンを含有するチタンの化合物と混合し、必要に応じてチタン酸化物を添加した上で、不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより、3次元トンネル構造を持つチタン酸リチウムが合成される。
【0030】
3次元トンネル結晶構造を持つチタン酸リチウムとしては、スピネル型、ラムスデライト型、ホランダイト型などが挙げられ、第2段階の反応に用いる混合物のモル比や熱処理温度、あるいは雰囲気ガスや熱処理時間などの条件により構造が決定される。
【0031】
例えば、スピネル構造を形成させるためには、チタン酸リチウム:チタン化合物:酸化チタン=1/2:1/4:5/4のモル比で混合し、650〜850℃で熱処理を行うことが望ましい。また、同じモル比でさらに高温の1000〜1250℃での熱処理を行うことでラムスデライト構造が合成される。本発明においては3次元トンネル構造を有するものであれば、どのような結晶系であってもかまわない。
【0032】
本発明におけるアニオンドープ処理は、アニオン含有チタン化合物であるTiAとリチウム化合物またはリチウムチタン化合物との混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理を行うことにより行う。
【0033】
ドープ処理は原則として、上記の合成反応における第2段階の反応において行うが、アニオンのドープ量を増やしたい場合等においては、第1段階の反応においてある程度のアニオンを含有するリチウムチタンアニオン化合物を合成し、さらに第2段階の反応においてもドープ処理を行い、所定の構造およびドープ量を有するアニオンドープチタン酸リチウムを合成することもある。
【0034】
次に、本発明のリチウム二次電池用負極材料の性能評価に用いたコイン状のテストセルの構成について、図2に示した電池断面図に基づいて説明する。
【0035】
図2において、符号1は対極ケース、2は金属リチウムからなる対極本体、3はガスケット、4は負極材料ペレットからなる作用極本体、5は作用極ケース、6はセパレータ、7は非水電解液をそれぞれ示す。
【0036】
このような構造をしたテストセルの製造方法としては、まず、対極ケース1の内側にニッケルメッシュを溶接し、その上に金属リチウムシートを円形に打ち抜いた対極本体2を圧着する。次に対極ケース1の外周部にガスケット3をセットする。
【0037】
作用極本体4を構成する負極材料ペレットは、前記の方法で合成したアニオンドープチタン酸リチウムと導電性カーボンとバインダーをらい潰機により混合した後に、ロールプレスによりシート化したものを所定の大きさに打ち抜くことにより作製した。なお、ペレット中の材料混合比は、負極材料:カーボン:バインダー=70:25:5とした。
【0038】
作製した負極材料ペレットは真空で乾燥させた後にあらかじめチタンメッシュを溶接した作用極ケース5上にのせ、さらにチタンチタンメッシュで覆い、チタンメッシュと作用極ケース5を溶接した後にメッシュごと圧着することによりペレットを固定した。
【0039】
上記の負極材料ペレットを固定した作用極ケース5に非水電解液7とセパレータ6を入れ、その上から対極本体2とガスケット3をセットした対極ケース1をかぶせ、最後にケースをかしめることによりテストセルを作製した。
【0040】
ここで、負極材料ペレットを構成するカーボンとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックなどのカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類などが挙げられ、チタン酸リチウムに対して不活性であり、チタン酸リチウム粒子と電池ケース間の導電性を十分確保するために適した粒子径であれば特に限定されない。一般的にはチタン酸リチウム粒子表面全域でカーボン粒子と接触していることが導電性の観点からは好ましく、カーボン粒子のサイズはチタン酸リチウムの粒子サイズより小さい値を有しているものが望ましい。
【0041】
また、バインダーは特に限定されるものではなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など通常のリチウムイオン二次電池に用いられているバインダーを用いることができる。
【0042】
非水電解液も通常のリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液が利用可能であり、特に限定されるものではない。セパレータとしても通常のリチウムイオン二次電池に用いられているポリプロピレンまたはポリエチレンの多孔質フィルムを用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明に係るリチウム二次電池用負極材料についての実施例を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
(実施例1)
窒素ドープチタン酸リチウムを以下の化学式に示した2段階固相反応により合成した。
【0044】
TiO+LiCO→LiTiO+CO…(1)
1/2LiTiO+3/4TiO+3/4TiN→LixTiyO:N…(2)
まず上記式(1)に示すように、チタン酸化物の1つである酸化チタン(TiO)と、リチウム化合物である炭酸リチウム(LiCO)を混合し、500〜800℃で5〜10時間の熱処理を行うことによる第1段階の反応によりトンネル構造を有さないチタン酸リチウム(LiTiO)が得られた。
【0045】
次に上記式(2)に示すように、得られたトンネル構造を有さないチタン酸リチウムと、アニオン(窒素)を含有するチタン化合物である窒化チタン(TiN)と酸化チタン(TiO)を混合し、800〜900℃で10〜20時間の熱処理を行うことによる第2段階の反応によりアニオン(窒素)がドープされた3次元トンネル構造を持つチタン酸リチウム(LixTiyO:N)を合成した。
【0046】
なお、第1段階の反応や第2段階の反応を行わせるための熱処理は、不活性ガス雰囲気である窒素ガス中で行った。
【0047】
本実施例1で作製した試料のXRD(X線回折)パターンを図3に示す。
【0048】
このXRDパターンは公知のスピネル型構造を有するチタン酸リチウムのパターンと同様であり、アニオンとして窒素をドープしたチタン酸リチウムにおいてもスピネル型構造が維持されていることが確認された。
【0049】
また、得られた窒素ドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、窒素と酸素のモル比はN/O=0.2であった。
【0050】
合成した窒素ドープチタン酸リチウムの評価は2320サイズのコイン状のテストセルを用いて行った。
【0051】
以下にテストセルの詳細な作製法を説明する。
【0052】
まず、前記の方法で合成した窒素ドープチタン酸リチウムとアセチレンブラックとPTFEと重量比で、負極材料:カーボン:バインダー=70:25:5となるようにらい潰機で混合した後、ロールプレスにより0.5mmの厚みになるまでシート状に圧延した。得られたシートを直径15mmの円盤状に打ち抜き、乾燥機で乾燥させることにより負極材料ペレットを作製した。
【0053】
次に、図2に示すように作用極ケース5の内側に直径15mmのチタンメッシュを溶接し、その上に作用極本体4となる上記の負極材料ペレットをのせ、さらに負極材料ペレット4の上を直径17mmのチタンメッシュで覆い、チタンメッシュを作用極ケース5に溶接した後に圧着することにより負極材料ペレット4を作用極ケース5に固定した。
【0054】
一方、対極ケース1には内側にニッケルメッシュを溶接し、その上に直径17mmの金属リチウムシートを圧着し、対極ケース1の外縁部にガスケット3をセットした。
【0055】
次に、負極材料ペレット4を固定した作用極ケース5に非水電解液7である1mol/L LiPF/EC+DMCを2mL程度注ぎ、セパレータ6をのせた後に、ガスケット3をセットした対極ケース1を上からかぶせ、全体をかしめることによりコイン状のテストセルを作製した。
【0056】
作製したテストセルを用いて、電流密度1mA/cm、電圧範囲0.5〜3.5Vの条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0057】
試験において測定された充放電曲線を図4に示す。
【0058】
放電曲線には1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0059】
また、以下の表1に、初回(1st)、10サイクル目(10th)、50サイクル目(50th)、100サイクル目(100th)の放電容量と、100サイクル目の放電容量維持率を示す。それぞれの放電容量は170、160、155、150mAh/gであった。
(実施例2)
実施例1の第2段階の反応において、アニオンを含有するチタン化合物として用いたTiNの代わりにTiCを用い、以下の化学式(3)に示すような固相反応を行うことにより炭素ドープチタン酸リチウムを合成した。
【0060】
1/2LiTiO+1/4TiO+5/4TiC→LixTiyO:C…(3)
結晶構造はXRDの評価より実施例1と同じく、単相構造のスピネル型チタン酸リチウムと同様であることが確認された。
【0061】
また、得られた炭素ドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、炭素と酸素のモル比はC/O=0.6であった。
【0062】
次に、作製した炭素ドープチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0063】
放電曲線には実施例1と同様におよそ1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0064】
また、初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1と併せて表1に示す。
【0065】
それぞれの放電容量は165、155、150、145mAh/gであり、実施例1とほぼ同様のサイクル安定性を示している。
(実施例3)
実施例1の第2段階の反応において用いたTiNの代わりにTiBを用い、以下の化学式(4)に示すような固相反応を行うことによりホウ素ドープチタン酸リチウムを合成した。
【0066】
1/2LiTiO+3/2TiB→LiTiO4:B…(4)
結晶構造はXRDの評価より実施例1と同じく、単相構造のスピネル型チタン酸リチウムと同様であることが確認された。
【0067】
また、得られたホウ素ドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、ホウ素と酸素のモル比はB/O=1であった。
【0068】
次に、合成したホウ素ドープチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0069】
放電曲線には実施例1と同様におよそ1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0070】
また、初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1、2と併せて表1に示す。
【0071】
それぞれの放電容量は170、150、147、143mAh/gであり、実施例1とほぼ同様のサイクル安定性を示している。
(実施例4)
実施例1の第2段階の反応において用いたTiNの代わりにTiFを用い、以下の化学式(5)に示すような固相反応を行うことによりフッ素ドープチタン酸リチウムを合成した。
【0072】
1/2LiTiO+3/2TiF→LiTiO4:F…(5)
結晶構造はXRDの評価より実施例1と同じく、単相構造のスピネル型チタン酸リチウムと同様であることが確認された。
【0073】
また、得られたフッ素ドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、フッ素と酸素のモル比はF/O=2であった。
【0074】
次に、合成したフッ素ドープチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0075】
放電曲線には実施例1と同様におよそ1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0076】
また、初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1、2と併せて表1に示す。
【0077】
それぞれの放電容量は173、158、153、145mAh/gであり、実施例1とほぼ同様のサイクル安定性を示している。
(実施例5)
実施例1の第2段階の反応において用いたTiNの代わりにTiPを用い、以下の化学式(6)に示すような固相反応を行うことによりリンドープチタン酸リチウムを合成した。
1/2LiTiO+3/2TiP→LixTiyO:P…(6)
結晶構造はXRDの評価より実施例1と同じく、単相構造のスピネル型チタン酸リチウムと同様であることが確認された。
【0078】
また、得られたリンドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、リンと酸素のモル比はP/O=1であった。
【0079】
次に、作製したリンドープチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0080】
放電曲線には実施例1と同様におよそ1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0081】
また、初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1と併せて表1に示す。
【0082】
それぞれの放電容量は175、163、158、150mAh/gであり、実施例1とほぼ同様のサイクル安定性を示している。
(実施例6)
実施例1の第1段階の反応においてさらにアニオン含有チタン化合物であるTiSを用いると共に、第2段階の反応において用いたTiNの代わりにアニオン含有チタン化合物であるTiSを用い、以下の化学式(7)、(8)に示した2段階固相反応により硫黄ドープチタン酸リチウムを合成した。
【0083】
LiCO+1/2TiO+1/2TiS→LiTiOS+CO…(7)
1/2LiTiOS+1/6TiO+4/3TiS→LixTiyO:S…(8)
結晶構造はXRDの評価より実施例1と同じく、単相構造のスピネル型チタン酸リチウムと同様であることが確認された。
【0084】
また、得られた硫黄ドープチタン酸リチウムの組成分析を行った結果、硫黄と酸素のモル比はS/O=3.8であった。
【0085】
次に、合成した硫黄ドープチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0086】
放電曲線には実施例1と同様におよそ1.4Vから1.2Vの領域に平坦部が観察された。
【0087】
また、初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1〜3と併せて表1に示す。
【0088】
それぞれの放電容量は165、160、158、146mAh/gであり、実施例1とほぼ同様のサイクル安定性を示している。
(比較例1)
アニオンドープを行っていない従来のスピネル型構造チタン酸リチウムを以下の化学式(9)、(10)に示した2段階固相反応により合成した。
【0089】
LiCO+Ti→LiTiO+CO…(9)
LiTiO+1/4TiO+5/4Ti→LixTiyO…(10)
チタンと炭酸リチウムを混合し、750℃で10時間の熱処理を行うことにより、第1段階の反応(10)によりトンネル構造を有さないチタン酸リチウム(LiTiO)が得られた。
【0090】
得られたチタン酸リチウム(LiTiO)と金属チタン(Ti)と酸化チタン(TiO)を混合し、900℃、10時間の熱処理を行うことにより、式(10)に示した反応により3次元トンネル構造を持つスピネル型チタン酸リチウムを合成した。なお、第1段階の反応や第2段階の反応を行わせるための熱処理は、不活性ガス雰囲気である窒素ガス中で行った。
【0091】
本比較例で作製した試料のXRDパターンは公知のスピネル型構造を有するチタン酸リチウムと同様であり、目標としたトンネル構造を有するチタン酸リチウムが合成されていることが確認された。
【0092】
作製したアニオンをドープしていないチタン酸リチウムを用いて実施例1と同一の方法により作製したテストセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った。
【0093】
試験において測定された充放電曲線を実施例1と併せて図4に示す。
【0094】
放電曲線には実施例1〜6と比べてやや高い1.5Vから1.3Vの領域に平坦部が観察された。
【0095】
これはリチウム二次電池の負極として本発明のアニオンドープチタン酸リチウムを用いた場合に、従来のアニオンをドープしていないチタン酸リチウムを用いた場合に比べて電池電圧が0.1V程度上昇し、電池のエネルギー密度が増加することを意味している。
【0096】
本発明によるアニオンドープチタン酸リチウムにおいて放電電圧が低下する原因としては、p軌道に不対電子を有する非金属アニオンをドープすることにより、アニオンと酸素の相互作用によりフェルミ準位に近い新たなドープ準位が作られ、酸化還元反応における電子授受が荷電子帯よりエネルギーレベルの低いこのドープ準位で行われるためと考えられる。
【0097】
また、本比較例についても初回、10サイクル目、50サイクル目、100サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量維持率を実施例1〜6と併せて表1に示す。
【0098】
それぞれの放電容量は160、145、140、135mAh/gと本発明のアニオンドープチタン酸リチウムを用いた実施例1〜6に比べてやや低く、100サイクルにおける容量維持率も実施例1〜4と比べて低い84.3%であった。
【0099】
本発明によるアニオンドープチタン酸リチウムにおいて放電容量やサイクル安定性が向上する原因としては、チタン酸リチウムに酸素と異なる価数のpブロックの非金属アニオンをドープすることにより、酸素とアニオンの相互作用により電子が共有されることで酸素−チタン間のイオン結合性が低下し、電子が価電子帯内で動きやすくなるために、リチウムが脱離した状態でのチタン酸リチウムの導電性が向上した結果、リチウムが多く脱離した状態でもリチウムの挿入脱離における抵抗分極が小さくなり、充放電に利用可能なリチウムの割合が増加することが考えられる。
【0100】
一般的に充放電サイクル数の増加に伴い電極の抵抗分極も増加する傾向があり、充放電サイクルが進行するにつれて放電終止、あるいは充電終止領域においてアニオンドープの効果が明瞭になった結果、容量維持率も向上したと考えられる。
【0101】
【表1】

(実施例7)
実施例1で作製した窒素ドープチタン酸リチウムを負極に、コバルト酸リチウムを正極に用いて2320サイズのリチウム二次電池を作製した。
【0102】
まず、実施例1に示した方法により窒素ドープチタン酸リチウムを含む電極ペレットを作製した。電池の負極ケースの内側にニッケルメッシュを溶接し、その上に上記の負極材料ペレットをのせ、さらに負極材料ペレットの上を直径17mmのニッケルメッシュで覆い、ニッケルメッシュを作用極ケースに溶接した後に圧着することにより負極材料ペレットを負極ケースに固定した。次いで負極ケースの外縁部にガスケットをセットした。
【0103】
一方、市販のコバルト酸リチウムとアセチレンブラックとPTFEと重量比で、正極材料:カーボン:バインダー=70:25:5となるようにらい潰機で混合した後、ロールプレスにより0.5mmの厚みになるまでシート状に圧延した。得られたシートを直径15mmの円盤状に打ち抜き、乾燥機で乾燥させることによりコバルト酸リチウムを含む正極材料ペレットを作製した。
【0104】
次に、コインセルの正極ケース内側に直径15mmのチタンメッシュを溶接し、その上に上記の正極材料ペレットをのせ、さらに正極材料ペレットの上を直径17mmのチタンメッシュで覆い、チタンメッシュを作用極ケースに溶接した後に圧着することにより正極材料ペレットを正極ケースに固定した。
【0105】
正極材料ペレットを固定した正極ケースに非水電解液である1mol/L LiPF6/EC+DMCを2mL程度注ぎ、セパレータをのせた上で、ガスケットをセットした負極ケースを上からかぶせ、全体をかしめることによりコインセルを作製した。
【0106】
作製したコインセルについて、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った結果、100サイクル経過後においても85.1%という高い容量維持率が観測された。
【0107】
このように本発明によるリチウム二次電池用のアニオンドープチタン酸リチウム負極は、従来のチタン酸リチウム材料よりも卑な作動電位を有すると共に充放電サイクル特性も優れており、優れたサイクル特性を有する高性能リチウム二次電池が実現可能な負極材料であることが確認された。
【符号の説明】
【0108】
1:対極ケース、2:対極本体(金属リチウム)、3:ガスケット、4:作用極本体(負極材料ペレット)、5:作用極ケース、6:セパレータ、7:非水電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンがドープされ、3次元トンネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムを有することを特徴とするリチウム二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記3次元トンネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムは、LiTi(0.75≦x≦2.66、1.33≦y≦4、3≦z≦7)で表されるチタン酸リチウムであることを特徴とするリチウム二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記アニオンは、p軌道に不対電子を有するB、C、N、F、P、Sの少なくとも1つの元素であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項4】
前記アニオンは、前記チタン酸リチウムの酸素に対し、モル比でアニオン(A)/酸素(O)=n、0.1≦n≦3.5となるようにドープされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項5】
N、C、B、F、P、Sの少なくとも1つの元素をアニオンとして含有するチタン化合物と、リチウム化合物またはリチウムチタン化合物との混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極材料を含有する負極と、
リチウムの挿入脱離が可能な正極材料を含有する正極と、
当該正極と前記負極の間に配置されたリチウムイオン伝導性電解質とを有することを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−165372(P2011−165372A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23978(P2010−23978)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】