説明

リチウム二次電池負極物質用Si合金

【課題】 Zrに代わるアモルファス化促進元素としのTiを用いることにより、原料費が安価で、かつリチウム二次電池におけるサイクル特性に優れ、しかもアモルファス性に優れたSi合金を提供する
【解決手段】 原子%で、Al:15〜40%、Ti:1〜20%を含み、残部Siおよび不可避的不純物よりなることを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。また上記に加えて、Ta,Wの1種または2種を合計で3%以下含有させたこと。また、上記に加えて、Fe,Ni,Crの1種または2種以上を合計で30%以下含有させたこと。さらに、上記に加えて、Zrを10%以下含有させた、リチウム二次電池負極物質用Si合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の負極活物質に用いる、高放電容量、長サイクル寿命を有するアモルファス性に優れたSi合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の負極活物質には、従来より炭素材料からなる粉末が用いられているが、炭素材料は理論容量が372mAh/gと低く、更なる高容量化には限界がある。これに対し、近年では、SnやSiなど炭素材料よりも理論容量の高い金属材料の適用が検討され、実用化されている。特に、Siは4000mAh/gを超える理論容量があり、有望な材料である。これら炭素に変わる金属材料をリチウム二次電池の負極活物質として適用する際には、高容量は得られるものの、サイクル寿命が短いという課題があり、様々な改善が提案されている。
【0003】
例えば、特開2004−95469号公報(特許文献1)には、活物質相が微細化され、微細な活物質相の周囲が不活性相で包囲されていると、充放電中の活物質相の体積変化が抑制され、サイクル寿命が向上すると記載されており、メカニカルグラインディング処理(MG法)によりサイクル寿命を向上させている。すなわち、溶湯から急冷して得た負極材料をボールミル型の装置(アトライター、振動ボールミル、遊星ボールミル等)でメカニカルグラインディング処理(擦りつぶしによる粉砕・造粒)することにより、活性質相が微細化され、微細な活性質相の周囲が不活性相で包囲され、充放電中の活物質相の体積変化が抑制され、サイクル寿命が向上すると言うものである。
【0004】
また、特開2009−32644号公報(特許文献2)には、Si,Alおよびその他の添加元素を含む合金組成のリボンを、液体単ロール超急冷法により作製し、アモルファス合金あるいは微結晶合金を得ている。この特許文献2の実施例に記載されている合金のうち、特に微細化の効果が高いFe,Ni,Cr,Zrを含む実施例12〜14の合金ではアモルファス相が得られ、これを所定の温度で熱処理することにより、50nm以下の超微細結晶を得ている。
【0005】
ちなみに、この実施例12〜14の組成は原子%にすると、Siが55%、Alが20%、Feが10%、Zrが5%、Niが5%、Crが5%であり、MaterialsTransactions,JIM,Vol.38,No.12(1997),pp.1095〜1099.(Tohoku University)(非特許文献1)に記載の合金と全く同一であり、この非特許文献1に記載の通り、この組成がSi系アモルファス合金として知られている。
【0006】
このように、リチウム二次電池負極物質用Si合金には、サイクル寿命向上のために組織の微細化が必要であることが知られており、MG法やアモルファス合金の適用が検討されている。アモルファス合金を適用する方法では、MG法のように処理中において、酸素など不純物が増加する懸念がないため有効であると考えられるが、特にアモルファス合金を得るために有効な添加元素として、非特許文献1にはZr添加によりアモルファス単相が得られるSi含有量の領域が55%まで拡張されると記載されている通り、Zrが挙げられる。
【0007】
しかしながら、ZrはSi,Al,Fe,Ni,Crと比較しても非常に高価な原料であることから、リチウム二次電池負極用の合金の添加元素としては添加量を低く抑えざるを得ない。
【特許文献1】特開2004−95469号公報
【特許文献2】特開2009−32644号公報
【非特許文献1】Materials Transactions,JIM,Vol.38,No.12(1997),pp.1095〜1099.(Tohoku University)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1の場合には、MG法で酸素等の不純物の混入や処理費用の課題があり、また、特許文献2や非特許文献1のようにアモルファス合金の適用については、Zrのような高価な原料を使用するため、コストアップが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような問題を解消するために発明者らは鋭意開発を進めた結果、原料費の比較的安価な添加元素による、Si系アモルファス合金を検討し、Ti添加が有効であることを見出した。すなわち、本発明における第1の特徴は、Zrに代わるアモルファス化促進元素としてTiを用いること、第2は、Ta,Wを添加することにより、アトマイズ法での合金溶湯の出湯をスムーズにした点にある。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)原子%で、Al:15〜40%、Ti:1〜20%を含み、残部Siおよび不可避的不純物よりなることを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
(2)前記(1)に加えて、Ta,Wの1種または2種を合計で3%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
【0011】
(3)前記(1)または(2)に加えて、Fe,Ni,Crの1種または2種以上を合計で30%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1に加えて、Zrを10%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明によるZrに代わるアモルファス化促進元素としのTiを用いることにより、原料費が安価で、かつリチウム二次電池におけるサイクル特性に優れ、しかもアモルファス性に優れたSi合金を提供することにある。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
上述したように、本発明における第1の特徴は、Zrに代わるアモルファス化促進元素としてTiを見出したことにある。図1〜3は、急冷合金リボンのアモルファス形成能をX線回折法(XRD)にて測定した結果を示す図である。この図に示すように、アモルファス相を有する試料のX線回折を測定すると、アモルファス特有のブロードなハローパターンが見られる。また、完全なアモルファスでなく、アモルファスと結晶が混在している試料の場合はハローパターンの他に半値幅(回折ピークの半分の高さにおける幅)の比較的広い回折ピークが見られる。このピークは混在する結晶相の存在量と関係があるため、半値幅の広さにより、合金のアモルファス形成能を評価することができる。
【0014】
このパターンの半値幅を詳細に検討し、本合金系においてTi添加が極めて有効であることを見出したものである。例えば、図1はZrを添加した急冷リボンのX線回折パターンであり、また、図2はTiを添加した急冷リボンのX線回折パターンである。いずれも明確なハローパターンが見られる。一方、図3はTi、Zrのいずれも添加していない急冷リボンのX線回折パターンであり、明確なハローパターンが見られない。このように、TiはZrと同様にアモルファス形成能を改善する有効な添加元素であることを見出した。その上、TiはZrと比較して原料費が安価である。
【0015】
本発明の第2の特徴は、Ta,Wを添加することにより、アトマイズ法での合金溶湯の出湯をスムーズにした点にある。この作用における詳細な原理は不明であるが、以下の要因が推測される。一般にアトマイズで製造する粉末は、Fe合金、Ni合金、Co合金、Cu合金などであり、その比重は8Mg/m3 前後である。これに対し、本発明合金はSi合金であり、比重は3Mg/m3 程度である。
【0016】
アトマイズ法では、耐火物などの坩堝内で合金を溶解し、この溶湯を坩堝下部のノズルから出湯し、不活性ガスなどで噴霧する。この時、ノズル部を通過する溶湯は、坩堝内に残存している合金溶湯の重みを受け、この荷重に押し出されるようにノズルから出湯される。したがって、アトマイズ後半においては、残りの合金溶湯が少量となり、徐々にこの荷重が少なくなるため、ノズルからの出湯が不安定になる。特に比重の小さいSi合金においては、この現象は顕著となる。ここで比重の大きい元素であるTa,Wを少量添加することにより、ノズルからの出湯がスムーズになっている可能性が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の成分組成の範囲を定めた理由についで述べる。
Al:15〜40%
Alは、アモルファス化促進元素として必須の元素であるが、しかし、15%未満ではアモルファス化促進の効果が十分ではなく、また、40%を超えると粉末が活性となり粉塵爆発の恐れがある。したがって、その範囲を15〜40%とした。好ましくは、18〜30%、より好ましくは20〜26%とする。
【0018】
Ti:1〜20%
Tiは、Zrに代わる原料費が比較的安価なアモルファス化促進元素として必須の元素であるが、しかし、1%未満ではアモルファス化促進の効果が十分ではなく、また、20%を超えるとアモルファス形成能が低下する。したがって、その範囲を1〜20%とした。好ましくは、2〜15%、より好ましくは3〜10%とする。
【0019】
Ta,Wの1種または2種を合計で3%以下
Ta,Wは、アトマイズ法による粉末の製造を安定化させるための元素であり、必要に応じて合計で3%以下の範囲で添加できるが、3%を超えて添加すると、高融点材料であるTa,Wが溶け残り、合金組成が安定しない。したがって、その上限を3%とした。好ましくは0.2〜2%、より好ましくは0.5〜1%とする。
【0020】
Fe,Ni,Crの1種または2種以上を合計で30%以下
Fe,Ni,Crは、アモルファス化促進元素であり、必要に応じて合計で30%以下の範囲で添加できるが、30%を超えて添加するとアモルファス形成能が低下する。したがって、その上限を30%とした。好ましくは、10〜28%、より好ましくは15〜25%とする。
【0021】
Zr:10%以下
Zrは、アモルファス化促進元素であり、必要に応じて10%以下の範囲で添加できるが、10%を超えて添加する効果が飽和し、原料費を上げてしまう。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下とする。
【実施例】
【0022】
表1に示す成分組成のリボンを単ロール式液体急冷装置にて作製した。母材は予めアーク溶解にて作製しておいた。その溶解量は10gで、急冷リボンの場合は、液体急冷装置のノズル径を約1mm、銅ロールの直径は300mm、回転数は3000rpmとした。作製した急冷リボンについて、アモルファス形成能として、X線回折パターンの半値幅評価した。また、X線回折の試料は、ガラス板に急冷リボンを貼り付けたものを用いた。この時、急冷リボンの銅ロールと接触していた側の面を被検面とした。
【0023】
そこで、上述したように、アモルファス相からなる試料のX線回折を測定すると、結晶に起因するシャープな回折ピークが見られず、アモルファス特有のブロードなハローパターンが見られた。これは完全なアモルファスでなく、アモルファスと結晶が混在している試料の場合は、ハローパターンの他に半値幅(回折ピークの半分の高さにおける幅)の比較的広い回折ピークが見られた。このピークは混在する結晶相の存在量と関係があり、この半値幅の広さにより、合金のアモルファス形成能を評価することができる。
【0024】
そこで、合金のアモルファス形成能をX線回折パターンから以下の基準で判定した。
明確なハローパターンが見られる:◎、明確なハローパターンは見られないがメインピークの半値幅が0.7°以上:○、明確なハローパターンが見られずメインピークの半値幅が0.7°未満:×、とした。
【0025】
なお、表1に示すNo.2、8〜10、15、16の組成の粉末をガスアトマズ法にて作製した。アルミナ製坩堝内で減圧アルゴン雰囲気中で誘導溶解にて溶解量800gを溶解し、ノズル径を3mmで出湯し、窒素ガスにてアトマイズした。この時、出湯後半においてノズルから出湯された合金溶湯のブレ(湯ブレ)と、出湯後の溶け残りを確認した。また、No.5、12については急冷リボンをアルゴン中で乳鉢中で粉砕し、−45μmに分級した後、爆発テストを実施し爆発性を評価した。爆発テストとしては、ハルトマン式粉塵爆発試験装置を用い、0.5mgの重量で試験した。
【0026】
【表1】

表1に示すNo.1〜10は本発明例であり、No.11〜18は比較例である。
【0027】
表1に示すように、急冷リボンでのアモルファス形成能から優れた合金組成であることが分かる。その上で、Ta,W添加によりアトマイズ時の出湯を安定化させる効果のあることを示している。さらに、Alによる爆発性についての評価を本発明例No.5と比較例No.12の合金によって評価しています。
【0028】
すなわち、比較例No.11は成分組成としてのAl含有量が低いために、アモルファス形成能が劣る。比較例No.12は成分組成としてのAl含有量が高いためにアモルファス形成能はあるが、しかし粉塵爆発が生じる。比較例No.13は成分組成としてのTi含有量が低いために、アモルファス形成能が劣る。比較例No.14は成分組成としてのTi含有量が高いために、アモルファス形成能が劣る。比較例No.15は成分組成としてのW含有量が高いために、アトマイズ時に溶け残りが生じた。
【0029】
また、比較例No.16は成分組成としてのTa含有量が高いために、アトマイズ時に溶け残りが生じた。比較例No.17は成分組成としてのFe,Ni,Crの合計含有量が高いために、アモルファス形成能が劣る。比較例No.18は成分組成としてのZr含有量が高く、アモルファス形成能は優れているが、しかし、原料費が高くなりコスト高という問題がある。これに対し、本発明例No.1〜10はいずれも本発明の条件を満たしていることから、アモルファス形成能、アトマイズ時の出湯の安定化を図り湯流れ性に優れ、かつ爆発性についても小さいことが分かる。
【0030】
以上のように、本発明によるZrに代わるアモルファス化促進元素としのTiを用いることにより、原料費が安価で、しかもリチウム二次電池におけるサイクル特性に優れ、かつアモルファス性に優れたSi合金を低コストにて提供することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】Zrを添加した急冷リボンのX線回折パターンである。
【図2】Tiを添加した急冷リボンのX線回折パターンである。
【図3】Ti、Zrのいずれも添加していない急冷リボンのX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、
Al:15〜40%、
Ti:1〜20%
を含み、残部Siおよび不可避的不純物よりなることを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
【請求項2】
請求項1に加えて、Ta,Wの1種または2種を合計で3%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
【請求項3】
請求項1または2に加えて、Fe,Ni,Crの1種または2種以上を合計で30%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に加えて、Zrを10%以下含有させたことを特徴とするリチウム二次電池負極物質用Si合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−70779(P2011−70779A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218397(P2009−218397)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】