リチウム二次電池
【課題】安全で、実用的な充放電容量を有するリチウム二次電池を提供する
【解決手段】フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
【解決手段】フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)に関し、詳しくは溶融塩電解質を用いた中温型リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、アルカリ金属(フルオロスルフォニル)(トリフルオロメチルスルフォニル)アミド塩の合成と単塩の融点・熱分解温度について報告しているが、このアミド塩の混合塩の物性及びリチウムイオン電池の電解質として使用することについては開示していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Kubota, T. Nohira, R. Hagiwara, H. Matsumoto, Chem. Lett., 39, 1303, (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の蓄電デバイスの性能改善、または新たな電気化学デバイスの開発に資する電解質の開発を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のリチウム二次電池を提供するものである。
項1. フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
項2. 前記混合塩が、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2である、項1に記載のリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、LiFTAとCsFTA/KFTAを混合することで、低融点の溶融塩を作製した。特に、LiFTA がモル比で0.4である組成の塩は、融点33℃と非常に低融点であった。LiFTAとCsFTA/KFTAの混合塩を電解質に用いたリチウム二次電池を作成した。この溶融塩は5.1V広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出する(図4)。この溶融塩を用いたLiCoO2正極, LiFePO4正極, 炭素負極の充放電試験の結果、良好な充放電曲線が得られた。以上の結果から、この溶融塩は、中温作動のリチウム二次電池用の電解質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】様々なリチウム塩の融点を示す。
【図2】LiFTAとCsFTAの混合塩について示差走査熱量分析(DSC)を行った結果、モル組成xLiFTA = 0.4 0の組成の塩が特に低い融点(33℃)を持つことが分かった。
【図3】LiFTAとCsFTAの混合塩について110℃で導電率とリチウムイオン輸率の測定を行った結果(図3(a))、xLiFTA = 0.40の組成の塩はリチウムイオンの導電率(導電率とリチウムイオン輸率の積)が近傍の組成の塩(xLiFTA = 0.20, 0.60)よりも高いことが分かった(図3(b))。
【図4】図2と図3の結果から、液相温度域が広く、リチウムイオン導電率の比較的高いxLiFTA = 0.40の混合塩についてサイクリックボルタンメトリーを行った。その結果、この溶融塩は5.1 Vと広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出することが分かった。
【図5】LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図5(a)), LiCoO2正極(図5(b))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、サイクリックボルタンメトリーを行った。それぞれ3.4 V, 3.9 V付近で電極のリチウムイオンの脱離・挿入反応に起因する可逆な酸化還元電流が確認された。
【図6】LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図6(a)), LiCoO2正極(図6(b)), 炭素負極(図6(c))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、充放電試験を行った。その結果、それぞれ良好な充放電曲線が得られ、放電容量もそれぞれの電極の理論容量に近い値が得られた。
【図7】エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒にLiPF6を添加した(濃度1M)電解液と比較したところ、この溶融塩は導電率は低いが(図7(a))、LiFePO4正極を用いた充放電レート試験では65〜110℃の温度範囲で非常に高いレート特性を有することが分かった(図7(b))。
【図8】LiFTAとCsFTAの混合塩と同様に、LiFTAとKFTAの混合塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた。
【図9】LiFTA単塩のも含めた140℃における輸率測定の結果、Li塩濃度が高い組成(0.9以上)ではリチウムイオン輸率が特異的に高く、LiFTA単塩の輸率は約0.9であった。
【図10】LiFTA単塩の溶融塩においてCVを行った結果、145℃で5.0 Vと混合塩とほぼ同等の電気化学窓を有することが分かった。
【図11】LiFTA単塩の溶融塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、150℃で良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリチウム二次電池は、LiFTA単体の溶融塩またはLiFTAとCsFTA/KFTAの混合塩を電解質として使用することが特徴である。ここで、「CsFTA/KFTA」とは、CsFTAとKFTAの少なくとも1種の塩を示す。本発明の混合塩は、LiFTAとCsFTAの混合塩、LiFTAとKFTAの混合塩、LiFTAとCsFTAとKFTAの3種の混合塩のいずれかを意味する。
前記混合塩は、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2であるものが好ましい。前記混合塩は、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.6:0.8〜0.4であるものがより好ましく、LiFTA:CsFTA/KFTA=0.3〜0.5:0.7〜0.5であるものがさらに好ましく、LiFTA:CsFTA/KFTA=約0.4:約0.6であるものが液相線温度及び固相線温度が低いために特に好ましい。
【0009】
本発明のリチウム二次電池には、さらに他のイオン液体、有機溶媒などを含んでいてもよい。
【0010】
本発明で使用するアニオンの構造を以下に示す。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明のリチウム二次電池にはさらにLiCF3SO3、LiPF6、LiClO4、LiI、LiBF4、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiCF3CO2、LiSCN、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2などの他のリチウム塩を配合してもよい。
【0013】
本発明のリチウム二次電池は、前記混合塩の他に、正極、負極、セパレータなどを含む。
【0014】
負極の主要構成成分である負極活物質としては、炭素質材料(例えば、石炭、コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、有機物の炭素化品、天然黒鉛、人造黒鉛、合成黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、有機物の黒鉛化品及び黒鉛繊維)、及び、負極特性を向上させる目的でリンやホウ素を添加し改質を行った材料等が挙げられる。炭素質材料の中でも黒鉛は、金属リチウムに極めて近い作動電位を有するので電解質塩としてリチウム塩を採用した場合に自己放電を少なくでき、かつ充放電における不可逆容量を少なくできるので、負極活物質として好ましい。黒鉛結晶には良く知られている六方晶系とその他に菱面体晶系に属するものがある。特に、菱面体晶系の黒鉛は、電解液中の溶媒の選択性が広く、例えば、リチウムイオンと共挿入しやすい有機化合物や、比較的貴な電位で還元分解されやすい有機化合物を、非水電解質の構成材料として用いても、層剥離が抑制され優れた充放電効率を示すことから望ましい。
【0015】
正極としては、アルミニウム集電体に正極活物質を塗布して得られる正極を用いることが好ましい。正極活物質としては、リチウムイオン電池において用いられる公知の正極活物質を用いることができるが、特に、リチウム基準で3〜5Vの電位で作動する活物質を用いることが好ましい。正極活物質の具体例としては、高電圧を得るためには、リチウムコバルト酸化物(LixCoO2、x=0.4〜1)、リチウムニッケル酸化物(LixNiO2、x=0.3〜1)、リチウムマンガン酸化物(LixMnO2、x=0〜1)、遷移金属置換リチウムマンガン酸化物(LixMn1−yMyO2、M=Co、Al、Ni、Cr又はBi、x=0〜1、y=0.01〜0.25)、リチウムニッケルコバルト酸化物(LixNi1−y−zCoyMzO2、M=Al又はMn、x=0.3〜1、y=0.1〜0.4、z=0.01〜0.2)、オリビン相化合物LiMPO4(M=Fe又はCo)等を用いることができる。これらの内で、リチウムマンガン酸化物は、スピネル相及び層状構造のいずれでも良く、オリビン相化合物LiMPO4には、Mn、Ni等の遷移金属が少量含まれても良い。また、各酸化物は、異なる組成の酸化物の混合物であっても良い。
【0016】
また、高容量を得るためには、マンガン酸化物MnOx(x=1.5〜2)、バナジウム酸化物LixVyO5(x=0〜3、y=1.5〜3.5)、これらの複合酸化物などを用いることが好ましい。正極活物質は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0017】
正極は、常法に従って作製することができる。通常、上記した正極活物質に導電剤、バインダーなどを加え、この混合物を集電体上に塗布し、圧着することによって正極を製造することができる。導電剤、バインダー等は、公知の成分を使用できる。例えば、導電剤としては、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、合成黒鉛などを使用できる。
【0018】
本発明の混合塩電解質は、通常、セパレーター部分と電極の空隙部分に充填ないし含浸して用いられる。
【0019】
上記した各構成要素は、コイン型、円筒型、ラミネートパッケージなどの公知の各種電池外装に封入され、密閉されて、リチウム二次電池とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により限定されるものではない。
【0021】
参考例1
公知の様々なリチウムの融点を測定した。結果を図1に示す。図1に示すように、LiFTAは最も融点が低いリチウム塩であった。
【0022】
実施例1
LiFTAとCsFTAを種々のモル比で混合して、固相線温度及び液相線温度を示差走査熱量分析(DSC)により測定した。結果を図2に示す。なお、固相線温度は混合塩が溶け始める温度であり、融解開始点ともいう。液相線温度は、混合塩が溶け終わり、全て液体になる温度であり、融解終了点ともいう。固相線温度と液相線温度の間では、物体は固体と液体が混在している。
【0023】
本発明の混合塩は、LiFTAと比較して融点が大きく低下することが明らかになった。
【0024】
特に、モル組成xLiFTA = 0.40の組成の塩が低融点(33℃)を持つことが分かった。
【0025】
実施例2
LiFTAとCsFTAの混合塩について110℃で導電率とリチウムイオン輸率の測定を行った結果(図3(a))、xLiFTA = 0.40の組成の塩はリチウムイオンの導電率(導電率とリチウムイオン輸率の積)が近傍の組成の塩(xLiFTA = 0.20, 0.60)よりも高いことが分かった(図3(b))
【0026】
実施例3
図2と図3の結果から、液相温度域が広く、リチウムイオン導電率の比較的高いxLiFTA = 0.40の混合塩についてサイクリックボルタンメトリーを行った(図4)。その結果、この溶融塩は5.1 Vと広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出することが分かった。
【0027】
実施例4
LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図5(a)), LiCoO2正極(図5(b)))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、サイクリックボルタンメトリーを行った。それぞれの電位でリチウムイオンの脱離・挿入反応に起因する可逆な酸化還元電流が確認された。
【0028】
実施例5
LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図6(a)), LiCoO2正極(図6(b)), 炭素負極(図6(c))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、充放電試験を行った。その結果、それぞれ良好な充放電曲線が得られ、放電容量もそれぞれの電極の理論容量に近い値が得られた。
【0029】
実施例6
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒にLiPF6を添加した(濃度1M)従来の電解液と比較したところ、本発明の混合溶融塩は導電率は低いが(図7(a))、LiFePO4正極を用いた充放電レート試験では非常に高いレート特性を有することが分かった(図7(b))。
【0030】
実施例7
LiFTAとCsFTAの混合塩と同様に、LiFTAとKFTAの混合塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた(図8)。
【0031】
実施例8
より高温での電解液特性を調べるため、LiFTA単塩も含めた溶融塩について140℃で輸率測定を行った。LiFTA:CsFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2の混合塩は、図3の110℃における値とほぼ同じであったが、Li塩の割合が0.9以上の溶融塩ではリチウムイオン輸率が特異的に高く、LiFTA単塩の輸率は約0.9であった(図9)。
【0032】
実施例9
LiFTA単塩の溶融塩においても同様の電気化学測定を行った。CVの結果、測定温度は145℃と混合塩よりも高温になるが、5.0 Vと混合塩とほぼ同等の電気化学窓を有することが分かった(図10)。
【0033】
実施例10
LiFTA単塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、作動温度は150℃と混合塩よりも高温であるが、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた(図11)。このことから溶媒・他のアルカリ金属等の添加物を一切含まないLiFTA塩単体のみからなる電解液は、150℃という高温環境下でも高容量の充放電が可能であることが確認された。図1〜8の混合溶融塩の実験は、このLiFTAの高い熱的・電気化学的安定性とLiFePO4正極に対する高い容量を保ちつつ、より低温まで作動温度を広げるための試みである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)に関し、詳しくは溶融塩電解質を用いた中温型リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、アルカリ金属(フルオロスルフォニル)(トリフルオロメチルスルフォニル)アミド塩の合成と単塩の融点・熱分解温度について報告しているが、このアミド塩の混合塩の物性及びリチウムイオン電池の電解質として使用することについては開示していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Kubota, T. Nohira, R. Hagiwara, H. Matsumoto, Chem. Lett., 39, 1303, (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の蓄電デバイスの性能改善、または新たな電気化学デバイスの開発に資する電解質の開発を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のリチウム二次電池を提供するものである。
項1. フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
項2. 前記混合塩が、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2である、項1に記載のリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、LiFTAとCsFTA/KFTAを混合することで、低融点の溶融塩を作製した。特に、LiFTA がモル比で0.4である組成の塩は、融点33℃と非常に低融点であった。LiFTAとCsFTA/KFTAの混合塩を電解質に用いたリチウム二次電池を作成した。この溶融塩は5.1V広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出する(図4)。この溶融塩を用いたLiCoO2正極, LiFePO4正極, 炭素負極の充放電試験の結果、良好な充放電曲線が得られた。以上の結果から、この溶融塩は、中温作動のリチウム二次電池用の電解質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】様々なリチウム塩の融点を示す。
【図2】LiFTAとCsFTAの混合塩について示差走査熱量分析(DSC)を行った結果、モル組成xLiFTA = 0.4 0の組成の塩が特に低い融点(33℃)を持つことが分かった。
【図3】LiFTAとCsFTAの混合塩について110℃で導電率とリチウムイオン輸率の測定を行った結果(図3(a))、xLiFTA = 0.40の組成の塩はリチウムイオンの導電率(導電率とリチウムイオン輸率の積)が近傍の組成の塩(xLiFTA = 0.20, 0.60)よりも高いことが分かった(図3(b))。
【図4】図2と図3の結果から、液相温度域が広く、リチウムイオン導電率の比較的高いxLiFTA = 0.40の混合塩についてサイクリックボルタンメトリーを行った。その結果、この溶融塩は5.1 Vと広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出することが分かった。
【図5】LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図5(a)), LiCoO2正極(図5(b))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、サイクリックボルタンメトリーを行った。それぞれ3.4 V, 3.9 V付近で電極のリチウムイオンの脱離・挿入反応に起因する可逆な酸化還元電流が確認された。
【図6】LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図6(a)), LiCoO2正極(図6(b)), 炭素負極(図6(c))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、充放電試験を行った。その結果、それぞれ良好な充放電曲線が得られ、放電容量もそれぞれの電極の理論容量に近い値が得られた。
【図7】エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒にLiPF6を添加した(濃度1M)電解液と比較したところ、この溶融塩は導電率は低いが(図7(a))、LiFePO4正極を用いた充放電レート試験では65〜110℃の温度範囲で非常に高いレート特性を有することが分かった(図7(b))。
【図8】LiFTAとCsFTAの混合塩と同様に、LiFTAとKFTAの混合塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた。
【図9】LiFTA単塩のも含めた140℃における輸率測定の結果、Li塩濃度が高い組成(0.9以上)ではリチウムイオン輸率が特異的に高く、LiFTA単塩の輸率は約0.9であった。
【図10】LiFTA単塩の溶融塩においてCVを行った結果、145℃で5.0 Vと混合塩とほぼ同等の電気化学窓を有することが分かった。
【図11】LiFTA単塩の溶融塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、150℃で良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリチウム二次電池は、LiFTA単体の溶融塩またはLiFTAとCsFTA/KFTAの混合塩を電解質として使用することが特徴である。ここで、「CsFTA/KFTA」とは、CsFTAとKFTAの少なくとも1種の塩を示す。本発明の混合塩は、LiFTAとCsFTAの混合塩、LiFTAとKFTAの混合塩、LiFTAとCsFTAとKFTAの3種の混合塩のいずれかを意味する。
前記混合塩は、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2であるものが好ましい。前記混合塩は、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.6:0.8〜0.4であるものがより好ましく、LiFTA:CsFTA/KFTA=0.3〜0.5:0.7〜0.5であるものがさらに好ましく、LiFTA:CsFTA/KFTA=約0.4:約0.6であるものが液相線温度及び固相線温度が低いために特に好ましい。
【0009】
本発明のリチウム二次電池には、さらに他のイオン液体、有機溶媒などを含んでいてもよい。
【0010】
本発明で使用するアニオンの構造を以下に示す。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明のリチウム二次電池にはさらにLiCF3SO3、LiPF6、LiClO4、LiI、LiBF4、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiCF3CO2、LiSCN、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2などの他のリチウム塩を配合してもよい。
【0013】
本発明のリチウム二次電池は、前記混合塩の他に、正極、負極、セパレータなどを含む。
【0014】
負極の主要構成成分である負極活物質としては、炭素質材料(例えば、石炭、コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、有機物の炭素化品、天然黒鉛、人造黒鉛、合成黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、有機物の黒鉛化品及び黒鉛繊維)、及び、負極特性を向上させる目的でリンやホウ素を添加し改質を行った材料等が挙げられる。炭素質材料の中でも黒鉛は、金属リチウムに極めて近い作動電位を有するので電解質塩としてリチウム塩を採用した場合に自己放電を少なくでき、かつ充放電における不可逆容量を少なくできるので、負極活物質として好ましい。黒鉛結晶には良く知られている六方晶系とその他に菱面体晶系に属するものがある。特に、菱面体晶系の黒鉛は、電解液中の溶媒の選択性が広く、例えば、リチウムイオンと共挿入しやすい有機化合物や、比較的貴な電位で還元分解されやすい有機化合物を、非水電解質の構成材料として用いても、層剥離が抑制され優れた充放電効率を示すことから望ましい。
【0015】
正極としては、アルミニウム集電体に正極活物質を塗布して得られる正極を用いることが好ましい。正極活物質としては、リチウムイオン電池において用いられる公知の正極活物質を用いることができるが、特に、リチウム基準で3〜5Vの電位で作動する活物質を用いることが好ましい。正極活物質の具体例としては、高電圧を得るためには、リチウムコバルト酸化物(LixCoO2、x=0.4〜1)、リチウムニッケル酸化物(LixNiO2、x=0.3〜1)、リチウムマンガン酸化物(LixMnO2、x=0〜1)、遷移金属置換リチウムマンガン酸化物(LixMn1−yMyO2、M=Co、Al、Ni、Cr又はBi、x=0〜1、y=0.01〜0.25)、リチウムニッケルコバルト酸化物(LixNi1−y−zCoyMzO2、M=Al又はMn、x=0.3〜1、y=0.1〜0.4、z=0.01〜0.2)、オリビン相化合物LiMPO4(M=Fe又はCo)等を用いることができる。これらの内で、リチウムマンガン酸化物は、スピネル相及び層状構造のいずれでも良く、オリビン相化合物LiMPO4には、Mn、Ni等の遷移金属が少量含まれても良い。また、各酸化物は、異なる組成の酸化物の混合物であっても良い。
【0016】
また、高容量を得るためには、マンガン酸化物MnOx(x=1.5〜2)、バナジウム酸化物LixVyO5(x=0〜3、y=1.5〜3.5)、これらの複合酸化物などを用いることが好ましい。正極活物質は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0017】
正極は、常法に従って作製することができる。通常、上記した正極活物質に導電剤、バインダーなどを加え、この混合物を集電体上に塗布し、圧着することによって正極を製造することができる。導電剤、バインダー等は、公知の成分を使用できる。例えば、導電剤としては、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、合成黒鉛などを使用できる。
【0018】
本発明の混合塩電解質は、通常、セパレーター部分と電極の空隙部分に充填ないし含浸して用いられる。
【0019】
上記した各構成要素は、コイン型、円筒型、ラミネートパッケージなどの公知の各種電池外装に封入され、密閉されて、リチウム二次電池とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により限定されるものではない。
【0021】
参考例1
公知の様々なリチウムの融点を測定した。結果を図1に示す。図1に示すように、LiFTAは最も融点が低いリチウム塩であった。
【0022】
実施例1
LiFTAとCsFTAを種々のモル比で混合して、固相線温度及び液相線温度を示差走査熱量分析(DSC)により測定した。結果を図2に示す。なお、固相線温度は混合塩が溶け始める温度であり、融解開始点ともいう。液相線温度は、混合塩が溶け終わり、全て液体になる温度であり、融解終了点ともいう。固相線温度と液相線温度の間では、物体は固体と液体が混在している。
【0023】
本発明の混合塩は、LiFTAと比較して融点が大きく低下することが明らかになった。
【0024】
特に、モル組成xLiFTA = 0.40の組成の塩が低融点(33℃)を持つことが分かった。
【0025】
実施例2
LiFTAとCsFTAの混合塩について110℃で導電率とリチウムイオン輸率の測定を行った結果(図3(a))、xLiFTA = 0.40の組成の塩はリチウムイオンの導電率(導電率とリチウムイオン輸率の積)が近傍の組成の塩(xLiFTA = 0.20, 0.60)よりも高いことが分かった(図3(b))
【0026】
実施例3
図2と図3の結果から、液相温度域が広く、リチウムイオン導電率の比較的高いxLiFTA = 0.40の混合塩についてサイクリックボルタンメトリーを行った(図4)。その結果、この溶融塩は5.1 Vと広い電気化学窓を持ち、カソードリミットでリチウム金属が溶解析出することが分かった。
【0027】
実施例4
LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図5(a)), LiCoO2正極(図5(b)))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、サイクリックボルタンメトリーを行った。それぞれの電位でリチウムイオンの脱離・挿入反応に起因する可逆な酸化還元電流が確認された。
【0028】
実施例5
LiFTA(0.40モル):CsFTA(0.60モル)の混合塩を電解質に用い、LiFePO4正極(図6(a)), LiCoO2正極(図6(b)), 炭素負極(図6(c))についてそれぞれリチウム金属を対極に用いたハーフセルを作成し、充放電試験を行った。その結果、それぞれ良好な充放電曲線が得られ、放電容量もそれぞれの電極の理論容量に近い値が得られた。
【0029】
実施例6
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒にLiPF6を添加した(濃度1M)従来の電解液と比較したところ、本発明の混合溶融塩は導電率は低いが(図7(a))、LiFePO4正極を用いた充放電レート試験では非常に高いレート特性を有することが分かった(図7(b))。
【0030】
実施例7
LiFTAとCsFTAの混合塩と同様に、LiFTAとKFTAの混合塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた(図8)。
【0031】
実施例8
より高温での電解液特性を調べるため、LiFTA単塩も含めた溶融塩について140℃で輸率測定を行った。LiFTA:CsFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2の混合塩は、図3の110℃における値とほぼ同じであったが、Li塩の割合が0.9以上の溶融塩ではリチウムイオン輸率が特異的に高く、LiFTA単塩の輸率は約0.9であった(図9)。
【0032】
実施例9
LiFTA単塩の溶融塩においても同様の電気化学測定を行った。CVの結果、測定温度は145℃と混合塩よりも高温になるが、5.0 Vと混合塩とほぼ同等の電気化学窓を有することが分かった(図10)。
【0033】
実施例10
LiFTA単塩においてもLiFePO4正極の充放電試験を行った結果、作動温度は150℃と混合塩よりも高温であるが、良好な充放電曲線と理論容量に近い放電容量が得られた(図11)。このことから溶媒・他のアルカリ金属等の添加物を一切含まないLiFTA塩単体のみからなる電解液は、150℃という高温環境下でも高容量の充放電が可能であることが確認された。図1〜8の混合溶融塩の実験は、このLiFTAの高い熱的・電気化学的安定性とLiFePO4正極に対する高い容量を保ちつつ、より低温まで作動温度を広げるための試みである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
【請求項2】
前記混合塩が、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項1】
フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのリチウム塩(LiFTA)単体の溶融塩、またはLiFTAにフルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)アミドのセシウム塩(CsFTA)及びカリウム塩(KFTA)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を混合した混合塩の溶融塩を電解質として使用してなるリチウム二次電池。
【請求項2】
前記混合塩が、モル比でLiFTA:CsFTA/KFTA=0.2〜0.8:0.8〜0.2である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−84548(P2013−84548A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56160(P2012−56160)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/リチウム二次電池の安全性に資するイオン液体電解質の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/リチウム二次電池の安全性に資するイオン液体電解質の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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