説明

リチウム含有複合酸化物の製造装置および製造方法

【課題】製造コストを低減することが可能なニッケル系リチウム複合酸化物の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造装置であって、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、リチウム含有複合酸化物を合成するための焼成炉と、焼成炉に酸素ガスを供給する第1ガス供給路と、焼成炉から水蒸気と酸素ガスとを含む混合ガスを排出するガス排出路と、混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収するガス回収部と、ガス回収部で回収した酸素ガスを、焼成炉に供給する第2ガス供給路と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のポータブル化およびコードレス化が進むにつれて、その駆動用電源として用いられる、小型かつ軽量であり、高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目を集めている。
一般的なリチウムイオン二次電池は、リチウム含有複合酸化物を含む正極と、リチウムを吸蔵および放出可能な黒鉛を含む負極を具備する。正極と負極との間には、両者を電気的に絶縁するとともに、非水電解質を保持するためのセパレータが介在する。非水電解質には、リチウム塩が溶解した非水溶媒が用いられる。
【0003】
従来から、リチウムイオン二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウムが多用されている。コバルト酸リチウムは、炭酸リチウムおよび酸化コバルトの混合物を大気中で焼成して得られる。
電池の高エネルギー密度化および高容量化に対しては、正極活物質に、多くの電気量を取出し可能な、すなわち単位重量当たりの容量が大きいニッケル酸リチウムを用いるのが有効である。ニッケル酸リチウムは、水酸化リチウムおよび水酸化ニッケルの混合物を、酸素分圧が一定以上である酸素リッチな雰囲気で焼成して得られる。焼成方法としては、例えば、必要な酸素分圧を維持するために、予め原料の水酸化物を焼成して酸化物とし、水酸化物の焼成時に発生する水蒸気の分圧を下げる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−058053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、焼成炉内において、酸化ニッケルの脱水反応に伴う水蒸気の分圧を低減して、焼成に必要な酸素分圧を維持するため、リチウム含有複合酸化物の化学両論比の5倍量もの多量の酸素ガスを用いる必要がある。
また、通常、液体酸素を気化させて得られた酸素ガスを焼成炉に供給するが、液体酸素が気化する際に発生する気化熱を補うために多量の熱を必要とする。このため、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の合成に対する製造コストは高い。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するため、製造コストの低減が可能なニッケルを含むリチウム複合酸化物の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造装置であって、
リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成するための焼成炉と、前記焼成炉に酸素ガスを供給する第1ガス供給路と、前記焼成炉から水蒸気と酸素ガスとを含む混合ガスを排出するガス排出路と、前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収するガス回収部と、前記ガス回収部で回収した酸素ガスを、前記焼成炉に供給する第2ガス供給路と、
を備えることを特徴とする。
上記製造装置は、さらに、前記酸素ガスを貯蔵する貯蔵部を備えるのが好ましい。
前記焼成炉は、前記原料を前記焼成炉内に連続的に供給することが可能な構造を有するのが好ましい。
【0008】
前記焼成炉は、前記原料を前記焼成炉内に連続的に搬入するための入口、および前記合成されたリチウム含有複合酸化物を前記焼成炉外へ連続的に搬出するための出口を有し、
前記ガス排出路は、前記焼成炉の入口側に接続され、
前記第1ガス供給路および前記第2ガス供給路の少なくとも一方は、前記焼成炉の出口側に接続されているのが好ましい。
前記ニッケルを含む水酸化物は、水酸化ニッケルであるのが好ましい。
前記ニッケルを含む酸化物は、酸化ニッケルであるのが好ましい。
前記ガス回収部は、前記水蒸気が液化するように前記混合ガスを冷却する冷却部を備えるのが好ましい。
前記冷却部は、前記ガス排出路内の混合ガスと、前記第1ガス供給路内の酸素ガスとを、熱交換する熱交換部を備えるのが好ましい。
【0009】
本発明は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、
(1)酸素雰囲気下の反応室内にて、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成する工程と、
(2)前記反応室に酸素ガスを供給する工程と、
(3)前記酸素ガスと、前記工程(1)で生じた水蒸気と、を含む混合ガスを前記反応室から排出する工程と、
(4)前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収する工程と、
(5)前記工程(4)で回収した酸素ガスを前記反応室に供給する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
前記反応室内における酸素ガスの分圧は、0.05〜0.1MPaであるのが好ましい。
前記工程(4)において、前記水蒸気が液化するように前記混合ガスを冷却するのが好ましい。
前記工程(4)において、前記工程(3)で排出された前記混合ガスと、前記工程(2)で供給される酸素ガスとの間で熱交換が行われるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の合成において、焼成炉内の酸素分圧を高く保持することができる。リチウムニッケル含有複合酸化物の合成に伴い発生する水蒸気を効率良く除去して、未反応の酸素ガスを効率よく原料として再利用できるため、合成で使用する酸素ガス量を化学量論比に相当する量にまで減らすことが可能であり、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1のリチウムニッケル複合酸化物の製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態2のリチウムニッケル複合酸化物の製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物(ニッケル系リチウム含有複合酸化物)の製造装置に関する。本発明の製造装置は、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成するための焼成炉と、前記焼成炉に酸素ガスを供給する第1ガス供給路と、前記焼成炉から水蒸気と酸素ガスとを含む混合ガスを排出するガス排出路と、前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収するガス回収部と、前記ガス回収部で回収した酸素ガスを、前記焼成炉に供給する第2ガス供給路と、を備える点に特徴を有する。
これにより、焼成炉から排出される酸素ガスおよび水蒸気の混合ガスから水蒸気を分離して回収された酸素ガスを再利用することが可能になる。このため、焼成に必要な酸素ガス量を減らすことができ、製造コストを低減することができる。
【0014】
炉内の雰囲気の制御性の観点から、焼成炉には、密閉性に優れたバッチ型のマッフル炉を用いるのが好ましい。また、生産性の観点から、焼成炉には、原料を焼成炉内に連続的に供給することが可能な連続焼成炉を用いるのが好ましい。連続焼成炉としては、例えば、プッシャー炉、コンベア炉、またはネットコンベア炉が挙げられる。
【0015】
焼成炉は、原料を焼成炉内に連続的に搬入するための入口、および合成されたリチウム含有複合酸化物を前記焼成炉外へ連続的に搬出するための出口を有するのが好ましい。この場合、焼成炉内における原料の搬送方向における酸素ガスの濃度分布の観点から、ガス排出路は、焼成炉の入口側に接続され、第1ガス供給路および第2ガス供給路の少なくとも一方は、焼成炉の出口側に接続されているのが好ましい。ここでいう入口側とは、焼成炉が筒状である場合、その軸方向の中間点から入口までの間の領域を指す。また、出口側とは、焼成炉が筒状である場合、その軸方向の中間点から出口までの間の領域を指す。また、炉内の雰囲気を制御し易くするために、上記の入口および出口には、入口および出口を開閉するためのシャッターを設けるのが好ましい。
【0016】
原料に用いられるニッケルを含む水酸化物は、水酸化ニッケルが好ましい。原料に用いられるニッケルを含む酸化物は、酸化ニッケルが好ましい。
ニッケル系リチウム含有複合酸化物としては、例えば、ニッケル酸リチウムが挙げられる。ニッケル酸リチウムは、例えば、水酸化ニッケルの粉体と、水酸化リチウムの粉体とを、リチウム:ニッケル=1:1のモル比となるように混合し、酸素雰囲気下で焼成することにより合成される。
【0017】
また、ニッケル系リチウム含有複合酸化物としては、例えば、ニッケルの一部を異種元素で置換したリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
Niの一部を異種元素Mで置換したリチウム含有複合酸化物は、一般式:
LiNi(1-x)x2で表される。式中のxは、異種元素Mの置換量を示す。式中、xは、0<X≦0.35を満たすのが好ましい。
Mは、Co、Al、Ti、およびMnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であるのが好ましい。MがCoの場合、電池のサイクル寿命特性が向上する。MがAl、Ti、Mnの場合、充電状態での正極の結晶構造が熱的に安定になり、電池の保存特性が向上する。
LiNi(1-x)x2は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ニッケル、Mを含む水酸化物を、リチウム:ニッケル:M=1:(1−x):xのモル比となるように混合し、酸素雰囲気下で焼成することにより合成される。MがCoおよびAlの場合、Mを含む水酸化物は、それぞれ水酸化コバルトおよび水酸化アルミニウムが好ましい。
MがCoおよびAlの場合、一般式:
LiNi(1-a-b)CoaAlb2(0.01≦a≦0.3、0.01≦b≦0.07)で表される化合物が好ましい。
【0018】
ガス回収部には、冷却装置および圧縮装置のような、水蒸気を凝縮させる装置が用いられる。混合ガス中の水蒸気を液化(凝縮)させることにより、混合ガス中から酸素ガスを容易に回収することができる。
液体の水と、酸素ガスとの分離が容易であるため、冷却装置は、混合ガスを冷却するための冷却トラップを備えるのが好ましい。
また、冷却装置は、ガス排出路内の混合ガスと、第1ガス供給路内の酸素ガスとを熱交換する熱交換部を備えるのが好ましい。熱交換部にて、第1ガス供給路内の酸素ガスと、焼成炉より排出された高温の混合ガスとの間で熱交換が行われることにより、酸素ガスの温度が上昇する。このため、焼成炉内に高温の酸素ガスを供給することができ、焼成炉内を高温に制御し易くなる。一方、混合ガスの温度が低下し、混合ガス中の水蒸気が液化するため、酸素ガスを容易に回収することができる。
【0019】
本発明の製造方法は、ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、
(1)酸素雰囲気下の反応室内にて、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成する工程と、
(2)前記反応室に酸素ガスを供給する工程と、
(3)前記酸素ガスと、前記工程(1)で生じた水蒸気と、を含む混合ガスを前記反応室から排出する工程と、
(4)前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収する工程と、
(5)前記工程(4)で回収した酸素ガスを前記反応室に供給する工程と、を含む。
【0020】
これにより、工程(4)により、工程(3)で排出される混合ガスから水蒸気を分離して回収された酸素ガスを再利用することが可能になる。このため、焼成に必要な酸素ガス量を減らすことができ、製造コストを低減することができる。
ニッケル系リチウム含有複合酸化物を容易に合成するためには、工程(1)において、反応室内における酸素ガスの分圧は、0.05〜0.1MPaであるのが好ましい。工程(1)での焼成温度は、650〜825℃が好ましい。
【0021】
工程(3)で排出される混合ガスから酸素ガスを容易に分離・回収することができるため、工程(4)において、水蒸気が液化するように混合ガスを冷却するのが好ましい。
工程(4)において、工程(3)で排出される混合ガスと、工程(2)で供給される酸素ガスとの間で熱交換が行われるのが好ましい。工程(2)の高温の酸素ガスを高温にして反応室に供給することができ、反応室内を高温に制御し易くなる。一方、混合ガスの温度は低下し、混合ガス中の水蒸気が液化するため、混合ガスから酸素ガスを容易に分離・回収することができる。
【0022】
以下、本発明のニッケル系リチウム含有複合酸化物の製造装置の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
(実施形態1)
本発明の製造装置は、図1に示すように、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、リチウム含有複合酸化物を合成するため焼成炉106(マッフル炉)と、焼成炉106に酸素ガスを供給する第1ガス供給路102と、焼成炉106から水蒸気と酸素ガスとを含む混合ガスを排出するガス排出路119と、混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収するガス回収部130と、ガス回収部130で回収した酸素ガスを、焼成炉106に供給する第2ガス供給路120と、を備える。
【0023】
燃焼炉106内には、原料109を入れたるつぼ108が載置されている。燃焼炉106の側面には、ヒータ107が設けられている。ニッケル系リチウム含有複合酸化物の合成時において焼成炉106内の温度は、例えば、650〜700℃に制御される。
第1ガス供給路102の一方の端部は、焼成炉106に設けられた第1酸素ガス供給口105に接続され、第1ガス供給路102の他方の端部は、酸素ガスを貯蔵する貯蔵部(液体酸素タンク)101に接続されている。第1ガス供給路102には、貯蔵部から供給された液体酸素を気化するための気化器103、および焼成炉106への酸素ガス供給量を調整するための、すなわち炉内の酸素分圧を制御するための第1レギュレータ104が設けられている。第1ガス供給路102を通過する酸素ガスの純度は、例えば、98%以上である。
【0024】
ガス排出路119の一方の端部は、燃焼炉106に設けられたガス排出口110に接続され、ガス排出路119の他方の端部は、ガス回収部130の排ガス供給口112に接続されている。
【0025】
ガス回収部130(冷却トラップ)は、混合ガスを冷却するための冷却容器111、冷却容器111の上部に設けられた、混合ガスを冷却容器111内に供給するための排ガス供給口112、排ガス供給口112より下方に延びる混合ガスを冷却するための冷却管112a、および、冷却容器111の上部に設けられた、水蒸気と分離された酸素ガスを回収するためのガス回収口113を具備する。冷却容器111は、冷却水を冷却容器内に導入する冷却水導入口114、冷却容器より排出する冷却水排出口115、内部に冷却水を流すための配管(図示せず)を有する。
【0026】
第2ガス供給路120の一方の端部は、ガス回収部130のガス回収口113に接続され、第2ガス供給路120の他方の端部は、焼成炉106に設けられた第2酸素ガス供給口118に接続されている。第2ガス供給路120には、焼成炉106への酸素ガス供給量を調整するための、すなわち炉内の酸素分圧を制御するための第2レギュレータ117が設けられている。
【0027】
以下、ニッケル系リチウム含有複合酸化物製造時の製造装置の動作について説明する。
液体酸素タンクから供給された液体酸素は、第1ガス供給路102上に設けられた気化器103を通過し、酸素ガスとなる。この酸素ガスは、第1ガス供給路102を通り、第1酸素ガス供給口105より炉内へと供給される。このとき、炉内の圧力が常に一定になるように、第1レギュレータ104で圧力が調節される。第1酸素ガス供給口105より焼成炉106内へ酸素ガスが供給される。マッフル炉内に供給された酸素ガスの一部は、リチウム含有複合酸化物の合成に消費される。
【0028】
リチウム含有複合酸化物の合成反応により生成した水蒸気、および酸素ガスの混合ガスが、ガス排出口110より排出される。
排出された高温(例えば、300〜500℃)の混合ガスは、ガス排出路119を通り、排ガス供給口112より冷却容器111内に導入される。
冷却容器111に導入された混合ガスは、冷却容器111内を流れる冷却水(例えば、50〜200℃)により冷却される。
ここで水蒸気は凝縮し、冷却容器111の下部に、水116として滞留する。これにより、混合ガスから水蒸気が分離され、酸素ガスが回収される。回収された酸素ガスは、ガス回収口113から第2ガス供給路120を通り、第2酸素ガス供給口118より焼成炉106内へと供給される。このとき、炉内の圧力が常に一定になるように、第2レギュレータ117で圧力が調節される。
第1酸素ガス供給口105および第2酸素ガス供給口118より焼成炉106内に供給される酸素ガス量、ならびに排出口110より焼成炉106外へ排出される混合ガス量を調整して、焼成炉106内の酸素分圧は所定値(例えば、0.05〜0.1MPa)に制御される。
【0029】
(実施形態2)
本実施形態のリチウム含有複合酸化物の製造装置を、図2を参照しながら説明する。
本実施形態の製造装置は、ガス回収部130の代わりにガス回収部230を備え、第1ガス供給路の一部がガス回収部230を通過する以外は、実施形態1の製造装置と同じである。実施形態1と重複する部分については、説明を省略する。
ガス回収部230は、混合ガスを冷却するための容器211、容器211の上部に設けられた、混合ガスを容器211内に供給するための排ガス供給口112、ガス排出路119内の混合ガスと、第1ガス供給路102内の酸素ガスとの間で熱交換を行うための熱交換部216、および容器211の上部に設けられた、水蒸気と分離された酸素ガスを回収するためのガス回収口113を具備する。
【0030】
熱交換部216は、ガス供給口112より下方に延びる、熱交換により混合ガスを冷却するための配管212a、および配管212aの周りを囲むように配された第1ガス供給路の一部102aからなる。第1のガス供給路の一部102aとは、第1のガス供給路102における、酸素ガスが熱交換部216に導入される入口214から酸素ガスが熱交換部216から排出される排出口215までの区間を指す。配管212aおよび第1ガス供給路の一部102aは、混合ガスの流れが酸素ガスの流れと逆向きとなるように配される。
【0031】
熱交換部216において、第1ガス供給路の一部102aと配管212aとの間の壁を介して、排ガス供給口112より供給された高温(例えば、300〜700℃)の混合ガスは、入口214から供給された低温(例えば、−100〜100℃)の酸素ガスと熱交換する。これにより、混合ガスが冷却され、水蒸気が液化して水116となり、混合ガスから酸素ガスを容易に回収することができる。一方、混合ガスとの熱交換により、第1ガス供給路の一部102aを通過した酸素ガスは高温となる。このため、焼成炉内に供給される酸素ガスによる焼成温度の低下が抑制され、焼成炉内を高温に制御し易くなる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1》
(1)正極活物質の合成
正極活物質の合成には、図1と同じ構造の製造装置を用いた。
焼成炉106には、マッフル炉((株)モトヤマ製、型番MBK 11-1020)を用いた。
回収部130(冷却トラップ)には、(有)桐山製作所製の真空トラップV77-C-5を用いた。冷却水の温度は60℃であった。
水酸化ニッケル(関東化学(株)製)0.1モルと、水酸化リチウム(関東化学(株)製)0.1モルとを、メノウ乳鉢で混合し、原料混合物を得た。この混合物をアルミナ製のるつぼ(内容積50ml)に入れた。このるつぼを焼成炉106に入れ、混合物を温度800℃で20時間焼成した(工程(1))。
酸素ガスと、正極活物質の合成で生じた水蒸気と、を含む混合ガスを焼成炉106のガス排出口110より排出した(工程(3))。混合ガスの排出量は1.9dm3/min
であった。
回収部130により、混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収した(工程(4))。
焼成炉106内への酸素ガス供給量を2dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧は0
.10MPaに制御した。
このとき、第1酸素ガス供給路102からの酸素ガス供給量は0.1dm3/minで
あった(工程(2))。第1酸素ガス供給路102から供給される酸素ガスの純度は、99.99%であった。
第2酸素ガス供給路120からの酸素ガス供給量は2dm3/minであった(工程(
5))。
室温まで冷却した後、るつぼから焼成物を取り出し、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。焼成物をX線回折測定した結果、焼成物はニッケル酸リチウムであることが確認された。
【0033】
(2)正極活物質の評価
以下の手順で、正極活物質の電気化学特性を評価した。上記で合成したニッケル酸リチウム85mg、アセチレンブラック(電気化学工業(株)製)10mg、およびポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン(株)製)5mgを混合し、正極合剤を得た。この正極合剤をディスク状にプレス成形して、厚さ200μmの正極を得た。上記で得られた正極に、セパレータを介して負極を配置した。負極には、厚さ150μmのディスク状の金属リチウム(本城金属(株)製)を用いた。セパレータには、厚さ50μmのポリエチレン不織布を用いた。このようにして、CR2032型のコイン型電池を作製した。
上記で作製した電池を、2mAの定電流で4.3Vまで充電した後、2mAの定電流で2.5Vまで放電し、放電容量を求めた。その結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は205mAh/gであった。
【0034】
《実施例2》
水酸化ニッケル(関東化学(株)製)0.08モルと、水酸化コバルト(関東化学(株)製)0.02モルと、水酸化リチウム(関東化学(株)製)0.1モルとを混合して、原料混合物を得た。この原料混合物を用いた以外、実施例1と同様の方法により正極活物質を作製した。
この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は195mAh/gであった。
【0035】
《実施例3》
焼成炉内への酸素ガス供給量を1dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.10
MPaとした以外、実施例1と同様の方法により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は206mAh/gであった。
【0036】
《実施例4》
焼成炉内への酸素ガス供給量を0.3dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.
09MPaとした以外、実施例1と同じ方法により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は205mAh/gであった。
【0037】
《実施例5》
水酸化ニッケル(関東化学(株)製)0.08モルと、水酸化コバルト(関東化学(株)製)0.02モルと、水酸化リチウム(関東化学(株)製)0.1モルとを混合して、原料混合物を得た。この原料混合物を用い、焼成炉内への酸素ガス供給量を0.3dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.09MPaとした以外、実施例1と同様の方法
により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は194mAh/gであった。
【0038】
《比較例1》
焼成炉にマッフル炉((株)モトヤマ製、型番MBK 11-1020)を用い、焼成炉への酸素ガス供給量を2dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.07MPaとした。製造
装置には、ガス排出路119、ガス回収部130、および第2酸素ガス供給路120を備えない以外は実施例1と同じ製造装置を用いた。上記以外、実施例1と同じ方法により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は、180mAh/gであった。
【0039】
《比較例2》
焼成炉への酸素ガス供給量を0.3dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.0
5MPaとした以外、比較例1と同様の方法により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は、162mAh/gであった。
【0040】
《比較例3》
焼成炉への酸素ガス供給量を10dm3/minとし、焼成炉内の酸素分圧を0.09
MPaとした以外、比較例1と同様の方法により正極活物質を作製した。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は、182mAh/gであった。
【0041】
《比較例4》
水酸化ニッケル(関東化学(株)製)0.08モルと、水酸化コバルト(関東化学(株)製)0.02モルと、水酸化リチウム(関東化学(株)製)0.1モルとを混合して、原料混合物を得た。この原料混合物を用いた以外、比較例1と同様の方法により正極活物質を得た。この正極活物質の電気化学特性を上記と同様の方法により評価した結果、正極活物質の単位重量あたりの電気化学容量は、170mAh/gであった。
以上の結果より、実施例1〜5の正極は、比較例1〜4の正極と比べて、電気化学容量が大きいことがわかった。本発明の製造装置を用いることにより、少量の酸素ガスで効率よくリチウムニッケル複合酸化物を作製できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、リチウムイオン電池の正極活物質として利用可能なリチウムニッケル複合酸化物を合成する装置を供給でき、リチウムニッケル複合酸化物を低コストで合成することが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
101 液体酸素タンク
102 第1ガス供給路
103 気化器
104 第1レギュレータ
105 第1酸素ガス供給口
106 焼成炉(マッフル炉)
107 ヒータ
108 ルツボ
109 原料
110 排出口
111 冷却容器
112 排ガス供給口
113 ガス回収口
114 冷却水入口
115 冷却水出口
116 水
117 第2レギュレータ
118 第2酸素ガス供給口
119 ガス排出路
120 第2ガス供給路
211 容器
214 入口
215 排出口
216 熱交換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造装置であって、
リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成するための焼成炉と、
前記焼成炉に酸素ガスを供給する第1ガス供給路と、
前記焼成炉から水蒸気と酸素ガスとを含む混合ガスを排出するガス排出路と、
前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収するガス回収部と、
前記ガス回収部で回収した酸素ガスを、前記焼成炉に供給する第2ガス供給路と、
を備えることを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項2】
さらに、前記酸素ガスを貯蔵する貯蔵部を備える請求項1記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項3】
前記焼成炉は、前記原料を前記焼成炉内に連続的に供給することが可能な構造を有する請求項1記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項4】
前記焼成炉は、前記原料を前記焼成炉内に連続的に搬入するための入口、および前記合成されたリチウム含有複合酸化物を前記焼成炉外へ連続的に搬出するための出口を有し、
前記ガス排出路は、前記焼成炉の入口側に接続され、
前記第1ガス供給路および前記第2ガス供給路の少なくとも一方は、前記焼成炉の出口側に接続された請求項3記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項5】
前記ニッケルを含む水酸化物は、水酸化ニッケルである請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項6】
前記ニッケルを含む酸化物は、酸化ニッケルである請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項7】
前記ガス回収部は、前記水蒸気が液化するように前記混合ガスを冷却する冷却部を備える請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項8】
前記冷却部は、前記ガス排出路内の混合ガスと、前記第1ガス供給路内の酸素ガスとを、熱交換する熱交換部を備える請求項7記載のリチウム含有複合酸化物の製造装置。
【請求項9】
ニッケルを含むリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、
(1)酸素雰囲気下の反応室内にて、リチウムを含む水酸化物と、ニッケルを含む酸化物または水酸化物と、を含む原料を焼成し、前記リチウム含有複合酸化物を合成する工程と、
(2)前記反応室に酸素ガスを供給する工程と、
(3)前記酸素ガスと、前記工程(1)で生じた水蒸気と、を含む混合ガスを前記反応室から排出する工程と、
(4)前記混合ガスから水蒸気を分離し、酸素ガスを回収する工程と、
(5)前記工程(4)で回収した酸素ガスを前記反応室に供給する工程と、
を備えることを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記反応室内における酸素ガスの分圧は、0.05〜0.1MPaである請求項9記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記工程(4)において、前記水蒸気が液化するように前記混合ガスを冷却する請求項9または10記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記工程(4)において、前記工程(3)で排出された前記混合ガスと、前記工程(2)で供給される酸素ガスとの間で熱交換が行われる請求項11記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269947(P2010−269947A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120967(P2009−120967)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】