説明

リチウム硫化鉄一次電池

【課題】リチウム硫化鉄一次電池の1.0V終止電圧における放電容量を向上させ、電子機器の使用可能時間を最大限に延ばす。
【解決手段】正極容量の負極容量に対する比が0.900以上1.080以下、より好ましくは1.020以上1.050以下となるようにする。なお、正極容量とは、負極の入力容量の7%分予備放電を行った後、電池を分解して正極を取り出し、十分な量の負極とともに再度電池を作製し、1.0Vを終止条件として放電した場合の容量であり、負極容量とは、負極の入力容量の7%分予備放電を行った後、電池を分解して負極を取り出し、十分な量の正極とともに再度電池を作製し、0.6Vを終止条件として放電した場合の容量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、正極に硫化鉄、負極にリチウムを用いた一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆる乾電池と互換性を持つさまざまな電池が開発、使用されている。その一つとして、例えば、以下の特許文献1に示すような、正極に硫化鉄(FeS、FeS2)等の硫化物、二酸化マンガン(MnO2)等の遷移金属酸化物、(CFxn等の多炭素フッ化物を用い、負極に金属リチウム箔を用いた円筒型リチウム電池が挙げられる。中でも、正極に二硫化鉄(FeS2)を用いた単四型リチウム硫化鉄一次電池は、アルカリ乾電池に比べ0.2V高い平均放電電圧を有することから、定出力放電において単純に15%長持ちする。また、特許文献1のような構成の電池では、正極と負極とを積層して渦巻状に巻いた巻回構造を有しており、電極の反応面積を大きくとることができるため、優れた重負荷放電特性を得ることができる。
【0003】
【特許文献1】特許第3060109号公報
【0004】
このようなリチウム硫化鉄一次電池は、正極活物質の二硫化鉄が約894mAh/g、負極活物質のリチウムが約3863mAh/gと、非常に高い理論容量を示す正極材料および負極材料から構成されており、高容量かつ軽量、負荷特性、低温特性といった電池特性の面からも、極めて優れた電池である。
【0005】
また、リチウム硫化鉄一次電池は、初期の開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)が1.7V〜1.8V、平均放電電圧が1.3V〜1.6V付近であり、他の1.5V級一次電池、例えば水溶液を電解液に用いるマンガン電池、アルカリマンガン電池、酸化銀電池、空気電池、ニッケル/亜鉛電池と互換性を有する点からもその実用価値は高い。
【0006】
一般的な電子機器は、装着した電池の電圧が1セルあたり1V未満になると動作をしなくなる。このため、電池電圧が1Vとなる時点で電池容量をできるだけ多く使い切ることが非常に重要であり、これにより電子機器の使用可能時間を最大限に延ばすことが可能になる。
【0007】
しかしながら、リチウム硫化鉄一次電池は保存特性、放電特性等に優れた電池であるものの、電池電圧が1Vとなる時点でのリチウム利用率は85%程度であり、15%程度のリチウムが無駄になっている。また、リチウムは安全性の問題から輸送規制がなされており、リチウム充電容量は1gに制限されていることから、リチウムの無駄をできる限り抑えるように正極容量を調整しなければならない。
【0008】
以下の特許文献2では、活物質として硫化鉄を含むカソードと、リチウム金属箔からなるアノードについて、アノード対カソードのインプット比(負極容量/正極容量)が1.0以下となるように電池を構成することにより、放電容量および放電時間を増加させることができることが記載されている。
【0009】
【特許文献2】特表2005−529467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2のようなインプット比を有する電池であっても、正極容量が多すぎる、つまりアノード対カソードのインプット比が小さすぎる場合、放電容量が向上しないことがある。また、放電容量のみでなく、電池の平均電圧やリチウム利用率も十分ではない場合がある。
【0011】
したがって、この発明の目的は、上記問題点に鑑み、電池電圧1Vまでのリチウム利用率を向上させて、電子機器の使用可能時間を延ばすことを可能としたリチウム硫化鉄一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は、硫化鉄を含む正極と、リチウムもしくはリチウム合金を含む負極と、有機電解液とを備えたリチウム硫化鉄一次電池であって、負極容量に対する正極容量の比が0.900以上1.080以下であることを特徴とするリチウム硫化鉄一次電池である。
【0013】
なお、正極容量の負極容量に対する比が1.020以上1.050以下であることがより好ましい。
【0014】
ここで、上述の正極容量は、1.0Vを終止電圧とした場合の容量であり、負極容量は、0.6Vを終止電圧とした場合の容量である。
【0015】
この発明では、正極容量の負極容量に対する比が0.900以上1.080以下、より好ましくは正極容量の負極容量に対する比が1.020以上1.050以下となるようにリチウム硫化鉄一次電池を構成することにより、終止電圧が1Vの条件下でリチウム利用率を向上させ、優れた放電容量および高い平均電圧を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、電子機器が作動しなくなる電圧1Vまでにリチウムをほぼ使い切ることができるため、電池の放電容量を増加させて電子機器の使用可能時間を最大限に延ばすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(1)コイン型リチウム硫化鉄一次電池
以下に、この発明の一実施形態による電池の第1の例について説明する。図1は、この発明の一実施形態によるリチウム硫化鉄一次電池の一構成例を示す。このリチウム硫化鉄一次電池は、例えば、コイン型形状を有するものである。
【0019】
図1に示すようにリチウム硫化鉄一次電池は、正極2と、この正極2を収容する正極缶3と、負極4と、この負極4を収容する負極缶5と、正極2および負極4の間に配されたセパレータ6と、正極缶3と負極缶5との間を絶縁する絶縁ガスケット7と、非水電解液8とを有している。
【0020】
[正極]
正極2は、正極集電体2b上に正極合剤層2aが形成されてなる。正極集電体2bとしては、例えば網状や箔状のアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ステンレス(SUS)等の金属を用いることができる。
【0021】
正極合剤層2aは、例えば、正極活物質である二硫化鉄(FeS2)と、導電剤と、結着剤とからなる。正極活物質である二硫化鉄は、主に自然界に存在する黄鉄鉱(Pyrite)を粉砕したものが用いられるが、化学合成、例えば、塩化第一鉄(FeCl2)を硫化水素(H2S)中にて焼成して得られる二硫化鉄なども使用可能である。
【0022】
結着剤としては、この種の非水電解質電池に通常用いられる公知の樹脂材料を用いることができる。より具体的には、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。また、導電剤としては、この種の非水電解質電池に通常用いられている公知のものを用いることができる。より具体的には、例えばカーボンブラック、グラファイト等を用いることができる。
【0023】
[正極缶]
正極缶3は、正極2を収容する底の浅い皿状、いわゆるシャーレ状の導電性金属からなる容器であり、電池1の外部正極となる。具体的に、この正極缶3には、正極2が収容された際に、例えばアルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)、ニッケル(Ni)が正極2側から厚み方向に順次蓄積された積層構造の金属容器等を用いる。
【0024】
[負極]
負極3は、円形の形状を有する金属箔からなる。この負極活物質でもある金属箔の材料としては、リチウム金属またはリチウムにアルミなどの合金元素を添加したリチウム合金などが挙げられる。
【0025】
[負極缶]
負極缶5は、負極4を収容するシャーレ状の導電性金属からなる容器であり、電池1の外部負極となる。具体的に、この負極缶5には、例えばステンレスや、表面にニッケル(Ni)めっきが施された鉄(Fe)等からなる金属容器を用いる。
【0026】
[セパレータ]
セパレータ6は、正極2と負極4とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ非水電解液8中のリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ6は、微少な孔を多数有する微多孔性膜からなる。ここで、微多孔性膜とは、孔の平均孔径が5μm以下程度の微孔を多数有する樹脂膜のことである。また、セパレータ6としては、材料として従来の電池に使用されてきたものを利用することが可能である。そのなかでも、ショート防止効果に優れ、且つシャットダウン効果による電池の安全性向上が可能なポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン材料からなる微多孔性フィルムを用いることが特に好ましい。
【0027】
セパレータ6は、例えば、その厚みが5μm以上50μm以下の範囲にされているとともに、その全体積における空隙体積の比率を表す空孔率が20%以上60%以下の範囲にされている。このような条件に合致するセパレータ6では、製造歩留まり、出力特性、サイクル特性、安全性に優れた電池1を得ることが可能となる。
【0028】
[絶縁ガスケット]
絶縁ガスケット7は、負極缶5に組み込まれ一体化された構成となっており、例えばポリプロピレン等の有機樹脂で形成されている。この絶縁ガスケット7は、外部正極となる正極缶3と外部負極となる負極缶5とを絶縁させているとともに、正極缶3および負極缶5内に充填された非水電解液8の漏出を防止させるように機能することになる。
【0029】
[非水電解液]
非水電解液8としては、リチウム塩を電解質塩として、これを有機溶媒に溶解させた電解液を用いることができる。ここで有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の、単独もしくは二種類以上の混合溶媒を用いることができる。
【0030】
電解質塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ヨウ化リチウム(LiI)等を用いることができる。
【0031】
次に、この発明の一実施形態によるリチウム硫化鉄一次電池の製造方法について説明する。
【0032】
[リチウム硫化鉄一次電池の製造]
まず、例えば、正極活物質、結着剤および導電剤を混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に分散してペースト状の正極合剤スラリーとする。この正極合剤スラリーを正極集電体2b上に均一に塗布して乾燥させた後、ローラプレス機などにより圧縮成型して正極合剤層2aを形成する。これにより、正極2が作製される。
【0033】
このとき、正極2が有する正極容量は、負極4として用いるリチウム金属またはリチウム合金の負極容量に対する比(正極容量/負極容量)が0.900以上1.080以下、より好ましくは1.020以上1.050以下となるように調整する。
【0034】
なお、正極容量とは、負極の入力容量の7%分予備放電を行った後、電池を分解して正極を取り出し、十分な量の負極とともに再度電池を作製し、1.0Vを終止条件として放電した場合の容量であり、負極容量とは、負極の入力容量の7%分予備放電を行った後、電池を分解して負極を取り出し、十分な量の正極とともに再度電池を作製し、0.6Vを終止条件として放電した場合の容量である。
【0035】
この発明における正極容量、負極容量は電池電圧が1.0Vの時点での容量を示しているのに対し、特許文献2における容量は電池内に入力した正極および負極そのものの容量であり、容量の基準点が異なる。特許文献2においては、アノード対カソードのインプット比が1.0以下を好適な範囲としているが、このインプット比を1.0を超えるように設定した場合に必ず放電特性の低下が見られるわけではない。放電特性を向上させることができるのは、カソード(硫化鉄)の1.0V終止における容量に対してアノード(リチウム)の容量を少なくした場合のみである。
【0036】
次に、正極2を正極缶3に収容し、リチウムもしくはリチウム合金からなる負極4を負極缶5に収容する。続いて、正極2と負極4との間に、ポリプロピレン製の多孔質膜等からなるセパレータ6を配置する。これにより、電池1は、正極2、セパレータ6、負極4が順次に積層された内部構造となる。
【0037】
次に、非水電解液8を、正極缶3および負極缶5に注液し、絶縁ガスケット7を介して正極缶3と負極缶5とを固定する。以上のようにしてコイン型のリチウム硫化鉄一次電池が製造される。
【0038】
(2)円筒型リチウム硫化鉄一次電池
次に、この発明の一実施形態による第2の例について説明する。図2は、リチウム硫化鉄一次電池の第2の構成例を示す断面図である。
【0039】
このリチウム硫化鉄一次電池10は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、一対の帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体16を有している。セパレータ23には、液状の電解質である非水電解液が含浸されている。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板17、絶縁板18がそれぞれ配されている。
【0040】
電池缶11の開放端部には、電池蓋12と、この電池蓋12の内側に設けられた安全弁機構13および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)14とが、絶縁ガスケット15を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。
【0041】
電池蓋12は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構13は、熱感抵抗素子14を介して電池蓋12と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板13aが反転して電池蓋12と巻回電極体との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子14は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。絶縁ガスケット15は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0042】
巻回電極体16は、例えば、図示しないセンターピンを中心に巻回されている。巻回電極体16の正極21には正極リード24が接続されており、負極22には負極リード25が接続されている。正極リード24は安全弁機構13に溶接されることにより電池蓋12と電気的に接続されており、負極リード25は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0043】
図3は、図2に示した巻回電極体16の一部を拡大して示す断面図である。以下、図3を参照しながら、第2の構成例によるリチウム硫化鉄一次電池の正極21、負極22、セパレータ23について順次説明する。
【0044】
[正極]
正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21bの両面に正極合剤層21aが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体21bの片面のみに正極合剤層21aが設けられた領域を有するようにしてもよい。
【0045】
正極合剤層21aは、例えば正極活物質と、導電剤と、結着剤とからなり、正極活物質は上述の第1の例で説明した正極活物質と同様に、二硫化鉄を用いることができる。また、導電剤、結着剤および正極集電体21bについても第1の例で説明した材料を用いることができる。
【0046】
[負極]
負極22は、第1の例で説明した負極4と同様に、リチウム金属またはリチウム合金等を用いることができる。
【0047】
[セパレータ]
セパレータ23は、上述の第1の例で説明したセパレータ6と同様の材料を用いることができる。
【0048】
[非水電解液]
非水電解液は、上述の第1の例で説明した非水電解液8と同様の材料を用いることができる。
【0049】
[リチウム硫化鉄一次電池の作製]
次に、リチウム硫化鉄一次電池の第2の例の製造方法の一例について説明する。まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体21bに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型することにより正極合剤層21aを形成する。これにより、正極21が得られる。
【0050】
このとき、第1の例と同様に、正極21が有する正極容量は、負極22として用いるリチウム金属またはリチウム合金の負極容量に対する比が0.900以上1.080以下、より好ましくは1.020以上1.050以下となるように調整する。
【0051】
次に、正極集電体21bに正極リード24を溶接などにより取り付けるとともに、負極22に負極リード25を溶接、圧着などにより取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回して巻回電極体16を作製し、正極リード24の先端部を安全弁機構13に溶接するとともに、負極リード25の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、巻回電極体16を一対の絶縁板17、18で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、非水電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。さらに、電池缶11の開口端部に電池蓋12、安全弁機構13および熱感抵抗素子14を、絶縁ガスケット15を介してかしめることにより固定する。これにより、図2に示した円筒型のリチウム硫化鉄一次電池が得られる。
【0052】
このようにして作製された第1および第2の例によるリチウム硫化鉄一次電池は、電池電圧が低下して電子機器の動作が停止する1Vの電圧となるまでに電池内に入力したリチウム負極の容量のほとんどを使い切ることができるため、電子機器の使用可能時間を最大限に伸ばすことができる。また、作製されたリチウム硫化鉄一次電池の容量のばらつきを非常に小さくすることができるため、優れた品質の電池を安定して供給することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
以下の実施例では、正極容量を変化させてサンプル1〜サンプル11の試験用電池を作製し、各電池の特性を評価する。なお、試験用電池はコイン型のリチウム硫化鉄一次電池とし、各サンプルごとに10個ずつ試験用電池を作製した。
【0055】
<サンプル1>
正極活物質として二硫化鉄(FeS2)を、導電剤として黒鉛を、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、二硫化鉄92重量%と、黒鉛3重量%と、ポリフッ化ビニリデン5重量%とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに十分に分散させて正極合剤スラリーとした。
【0056】
[正極の作製]
次に、正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布し、温度120℃で2時間乾燥させてN−メチル−2−ピロリドンを揮発させた後、一定圧力で圧縮成型して正極合剤層を形成した。次いで、正極合剤層が形成された正極集電体を直径16mmに打ち抜き、正極とした。
【0057】
[非水電解液の作製]
次に、1,3−ジオキシラン(DOL)と、1,2−ジメトキシエタン(DME)が1:1の体積比で混合された混合溶媒にヨウ化リチウム(LiI)を添加して、ヨウ化リチウムのモル濃度が1.0mol/lとなるように調整して非水電解液を作製した。
【0058】
[コイン型リチウム硫化鉄一次電池の作製]
ステンレスからなる正極缶に、作製した正極を正極集電体が正極缶側となるようにして収容した。次いで、ポリプロピレン製の多孔質膜からなるセパレータを収容し、非水電解液を滴下した。続いて、ステンレスからなる負極缶に直径16mmに打ち抜いたリチウム金属を収容し、これを絶縁ガスケットを介して正極缶と固定した。
【0059】
このあと、予備放電を行う。電流1mAで放電を行い、負極の入力容量の7%分の放電が行われた時点で予備放電を終了した。これにより、サンプル1のコイン型リチウム硫化鉄一次電池を作製した。なお、サンプル1の試験用電池では、予備放電後の正極容量が28.003mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.540となった。
【0060】
ここで、予備放電後の正極容量および負極容量は以下のようにして測定する。
【0061】
[正極容量の測定]
予備放電後の試験用電池を解体して正極を取り出し、容量が400mAhのリチウム金属を負極として再度電池を作製した。この電池を1mAの電流で放電し、電池電圧が1.0Vとなった時点で放電を終了し、このときの放電容量を正極容量とした。
【0062】
[負極容量の測定]
予備放電後の試験用電池を解体して負極を取り出し、容量が100mAhの正極を用いて再度電池を作製した。この電池を1mAの電流で放電し、電池電圧が0.6Vとなった時点で放電を終了し、このときの放電容量を負極容量とした。
【0063】
<サンプル2>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル2の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が31.115mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.600となった。
【0064】
<サンプル3>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル3の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が35.004mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.675となった。
【0065】
<サンプル4>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル4の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が38.893mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.750となった。
【0066】
<サンプル5>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル5の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が45.116mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.870となった。
【0067】
<サンプル6>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル6の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が46.672mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.900となった。
【0068】
<サンプル7>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル7の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が49.784mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が0.960となった。
【0069】
<サンプル8>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル8の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が52.895mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が1.020となった。
【0070】
<サンプル9>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル9の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が54.451mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が1.050となった。
【0071】
<サンプル10>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル10の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が56.007mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が1.080となった。
【0072】
<サンプル11>
正極合剤層の厚みを変化させた以外はサンプル1と同様にして試験用電池を作製した。なお、サンプル11の試験用電池では、予備放電後に測定した正極容量が57.562mAh、負極容量が51.869mAhとなり、正極容量の負極容量に対する比が1.110となった。
【0073】
上述のようにして作製したそれぞれの試験用電池について、(a)平均放電容量、(b)平均電圧、(c)リチウム利用率、(d)放電容量のばらつき、を評価した。
【0074】
(a)平均放電容量
サンプル1〜サンプル11の各試験用電池について、1mAの電流で放電し、電池電圧が1.0Vとなった時点で放電を終了し、このときの放電容量を測定した。試験数は各サンプルごとにそれぞれ10個とし、10個の平均を平均放電容量とした。
【0075】
(b)平均電圧
サンプル1〜サンプル11の各試験用電池について、1mAの電流で放電し、電池電圧が1.0Vとなった時点で放電を終了するまでの電池電圧の平均値を求めた。試験数は各サンプルごとにそれぞれ10個とし、10個の平均を平均電圧とした。
【0076】
(c)リチウム利用率
測定された平均放電容量を用い、{(平均放電容量)/(負極容量)}から電圧1.0Vで放電を終了するまでのリチウム利用率を求めた。
【0077】
(d)放電容量のばらつき
サンプル1〜サンプル11の各サンプルにおいて、10個の試験用電池のうち放電容量が最大であったものと、最小であったものの差をとって、放電容量のばらつきを評価した。
【0078】
以下の表1に、上述の各測定の結果を示す。また、表1にはサンプル1〜サンプル11の各試験用電池について、特許文献2に記載された方法により求めた正極容量、負極容量およびアノード対カソードのインプット比(負極容量/正極容量)のそれぞれも示す。なお、特許文献2に記載された方法では、正極容量および負極容量は直線インチあたりの容量を求めているため、この実施例により求めたものと異なる容量が示されている。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から分かるように、正極容量の負極容量に対する比が0.900以上1.080以下のとき、平均放電容量、平均電圧およびリチウム利用率が向上するとともに、放電容量のばらつきが非常に小さくなる。このため、放電時間を最大限に延ばすことができる。また、正極容量の負極容量に対する比が1.020以上1.050以下のとき、平均放電容量、平均電圧およびリチウム利用率が著しく向上する。特に、リチウム利用率については約99%と、電池内のリチウムをほぼ使い切ることができる。
【0081】
これは、正極容量の負極容量に対する比が0.900未満のとき、正極容量が小さすぎるため負極のリチウムを使い切ることができないためである。一方、正極容量が大きければ負極のリチウムを全て使いきれるわけではなく、正極容量の負極容量に対する比が1.080を超えた場合でも平均放電容量、平均電圧およびリチウム利用率が低下し、放電容量のばらつきも大きくなる。これは、原因は定かではないが、正極容量が多すぎる場合、正極および負極の膨張収縮のバランスが取れず、電池性能の低下を引き起こすのではないかと考える。
【0082】
上述のように、特許文献2によるアノード対カソードのインプット比が1.0以下であっても、放電容量が向上しない場合もあることが分かる。リチウム硫化鉄一次電池において、正極容量の負極容量に対する比が0.900以上1.080以下、より好ましくは1.020以上1.050以下のとき、電子機器使用可能時間を最大限に延ばすことができる。
【0083】
また、これにより、放電容量の向上のみでなく、作製された電池の放電容量のばらつきを抑制することも可能となり、不良品が少なく、優れた品質の電池を安定して供給することができる。
【0084】
以上、この発明の第1および第2の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の第1および第2の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0085】
例えば、上述の実施形態では、コイン型電池、円筒型電池を例に挙げて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、例えば角型電池、ボタン型電池等といった外装材に金属製容器等を用いた電池、薄型電池といった外装材にラミネートフィルム等を用いた電池等、様々な種種の形状や大きさにすることも可能である。
【0086】
また、上述の実施形態において挙げた数値および材料等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値および材料等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明の一実施形態によるリチウム硫化鉄一次電池の第1の例の内部構造を示す概略断面図である。
【図2】この発明の一実施形態によるリチウム硫化鉄一次電池の第2の例の構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・リチウム硫化鉄一次電池
2・・・正極
2a・・・正極合剤層
2b・・・正極集電体
3・・・正極缶
4・・・負極
5・・・負極缶
6・・・セパレータ
7・・・絶縁ガスケット
8・・・非水電解液
10・・・リチウム硫化鉄一次電池
11・・・電池缶
12・・・電池蓋
13・・・安全弁機構
13a・・・ディスク板
14・・・熱感抵抗素子
15・・・絶縁ガスケット
16・・・巻回電極体
17、18・・・絶縁板
21・・・正極
21a・・・正極合剤層
21b・・・正極集電体
22・・・負極
23・・・セパレータ
24・・・正極リード
25・・・負極リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化鉄を含む正極と、
リチウムもしくはリチウム合金を含む負極と、
有機電解液とを備えたリチウム硫化鉄一次電池であって、
上記負極の負極容量に対する上記正極の正極容量の比が0.900以上1.080以下である
ことを特徴とするリチウム硫化鉄一次電池。
【請求項2】
上記負極の負極容量に対する上記正極の正極容量の比が1.020以上1.050以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム硫化鉄一次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−335278(P2007−335278A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166938(P2006−166938)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】