説明

リチウム電池用電解質およびリチウム電池

【課題】電池の安全性特性の改善が可能なリチウム電池用電解質及びリチウム電池を提供する。
【解決手段】本発明によれば,非水性有機溶媒と,リチウム塩と,下記化学式1の添加剤とを含むリチウム電池用電解質,およびリチウム電池が提供される。


本発明の電解質を含むリチウム電池は,過充電特性のような電池の安全性が,従来の非水系電解質を使用する電池に比べて非常に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,リチウム電池用電解質及びリチウム電池に係り,より詳しくは,電池の過充電特性を向上させるリチウム電池用電解質及びそれを含むリチウム電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,携帯用電子機器の小型化及び軽量化傾向に伴い,これら機器の電源として使用される電池の高性能化および大容量化に対する必要性が,高まっている。
【0003】
現在,商業化されて使用されているリチウム二次電池は,平均放電電位が3.7V,すなわち約4V台の電池であって,3Cと呼ばれる携帯電話,ノートブックコンピュータ,カムコーダなどに急速に適用されている,デジタル時代の心臓に相当する要素である。
【0004】
電池の容量および性能特性を改善し,かつ過充電特性のような安全性を向上させるための研究も,活発に行われている。
【0005】
電池が過充電すると,充電状態によって,正極ではリチウムが過剰析出され,負極ではリチウムが過剰吸蔵される。このために,正極および負極が熱的に不安定になり,電解質の有機溶媒が分解するなどの急激な発熱反応が起こったり,熱暴走現象が発生したりして電池の安全性の面で深刻な問題点が発生する。
【0006】
このような問題点を解決するために,電解質中にレドックスシャトル(redox shuttle)添加剤として,芳香族化合物を添加する方法が使用されている。例えば,特許文献1は,2,4−ジフルオロアニソールのようなベンゼン化合物を添加して,過充電電流およびこれによる熱暴走現象を防止することが可能な,非水系リチウムイオン電池を開示している。特許文献2は,ビフェニル,3−クロロチオフェン,フランなどの芳香族化合物を少量添加して,非正常的な過電圧状態でこれらを電気化学的に重合させて内部抵抗を増加させることにより,電池の安定性を向上させるための方法を開示している。
【0007】
これらレドックスシャトル添加剤は,酸化発熱反応から発生する熱によって,電池の内部温度を早期に上昇させ,セパレータの気孔を速く且つ均一に遮断させることにより,過充電反応を抑える作用をする。また,過充電の際,正極表面で添加剤の重合反応が過充電電流を消費して,電池を保護する機能も果たす。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,709,968号明細書
【特許文献2】米国特許第5,879,834号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,電池が,顧客のニーズに応えて次第に高容量化するにつれて,このような過充電防止添加剤では,高い水準の安全性要求条件を満足することが難しくなってきている。従って,電池の高容量化に対する要求の増加に伴い,これらの安全性を確保することが可能な新しい過充電添加剤およびこれを含む電解液システムに関する必要性が,切実に希求されている。
【0010】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,電池の安全性特性を改善させること可能な,新規かつ改良されたリチウム電池用電解質およびリチウム電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,非水性有機溶媒と,リチウム塩と,下記化学式1の添加剤とを含むリチウム電池用電解質が提供される。
【0012】
【化1】

(上記化学式1において,Xは,OまたはSであり,Y,YおよびYは,同一またはそれぞれ独立にO,S,CR,NRであり,上記Rは,H,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に,ハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状あるいはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【0013】
上記Rは,H,ハロゲン,またはC〜Cのアルキル基であり,上記R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲン,炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基,または炭素数8以下のアルコキシ基であってもよい。
【0014】
上記ハロゲンは,フロリンであってもよい。
【0015】
上記添加剤は,下記化学式2で表わされる化合物であってもよい。
【0016】
【化2】

(上記化学式2において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,C〜Cのアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【0017】
上記添加剤は,下記化学式3で表わされる化合物であってもよい。
【0018】
【化3】

(上記化学式3において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【0019】
上記添加剤は,下記化学式4で表わされる化合物あってもよい。
【0020】
【化4】

(上記化学式4において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,C〜Cのアルコキシ基,炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【0021】
上記添加剤は,下記化学式5で表わされる化合物であってもよい。
【0022】
【化5】

(上記化学式5において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【0023】
上記添加剤は,下記化学式6で表わされる化合物であってもよい。
【0024】
【化6】

(上記化学式6において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,C〜Cのアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【0025】
上記添加剤は,下記化学式7で表わされる化合物であってもよい。
【0026】
【化7】

(上記化学式7において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【0027】
上記添加剤は,下記化学式8〜14からなる群より選択される化合物であってもよい。
【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
上記添加剤の含量は,上記電解質全体質量に対して0.01〜50質量%であってもよい。
【0036】
上記リチウム塩は,LiPF,LiBF,LiSbF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,Li(CFSON,LiCSO,LiAlO,LiAlCl,LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ここで,xおよびyは自然数である),LiCl,およびLiIからなる群より選択される1種または2種以上であってもよい。
【0037】
上記リチウム塩は,0.6〜2.0Mの濃度で使用されることも可能である。
【0038】
上記非水性有機溶媒は,カーボネート,エステル,エーテルおよびケトンからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であってもよい。
【0039】
上記カーボネートは,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,ジプロピルカーボネート,メチルプロピルカーボネート,エチルプロピルカーボネート,メチルエチルカーボネート,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,およびブチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であってもよい。
【0040】
上記カーボネートは,環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒であってもよい。
【0041】
上記非水性有機溶媒は,カーボネート系溶媒と芳香族炭化水素系有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0042】
上記芳香族炭化水素系有機溶媒は,下記化学式25の芳香族化合物であってもよい。
【0043】
【化15】

(上記化学式25において,R11はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基であり,nは0〜6の整数である。)
【0044】
上記芳香族炭化水素系有機溶媒は,ベンゼン,フルオロベンゼン,トルエン,フルオロトルエン,トリフルオロトルエン,およびキシレンからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であってもよい。
【0045】
上記カーボネート系溶媒と芳香族炭化水素系有機溶媒とは,1:1〜30:1の体積比で混合されてもよい。
【0046】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,上記のいずれかに記載の電解質と,リチウムを吸蔵/放出することが可能な正極活物質を含む正極と,リチウムを吸蔵/放出することが可能な物質,リチウム金属,リチウム含有合金,およびリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することができる物質からなる群より選択される負極活物質を含む負極とを含むリチウム電池が提供される。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば,過充電特性のような電池の安全性を向上させることが可能な,リチウム電池用電解質およびリチウム電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0049】
本実施形態は,非水系リチウム電池の電解質に関するものである。一般的な非水系リチウム二次電池1の構造は,図1に示されている通りである。
【0050】
上記電池は,リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な活物質を含む電極を正極2および負極4として使用し,正極2と負極4との間にセパレータ6を挿入する。これらを巻き取って電極アセンブリ8を形成した後,ケース10に入れることにより製造される。上記電池の上部は,キャッププレート12とガスケット14で密封する。上記キャッププレート12には,電池の過圧形成を防止する安全弁16を設置してもよい。上記正極2および負極4には,それぞれ正極タブ18と負極タブ20を設置し,絶縁体22,24は,電池の内部短絡を防止するために挿入する。電池を密封する前に,電解質26を注入する。注入された電解質26はセパレータ6に含浸する。
【0051】
リチウム電池は,誤用や充電器の故障などによる過充電現象,および電池自体の設計上の欠陥による短絡などで電池の温度が急激に上昇する熱暴走現象が起こるおそれがある。特に,過充電している間,過量のリチウムが正極から抜け出て負極の表面に析出することにより,両電極が熱的に非常に不安定な状態となる。その結果,電解質の熱分解,電解質とリチウムとの反応,正極での電解質酸化反応,正極活物質の熱分解によって発生する酸素と電解質との反応などによって,発熱反応が急激に進行し,電池の温度が急上昇する,いわゆる熱暴走現象が発生する。この熱暴走現象のために,電池の最高許容温度を超過して,電池の発火および発煙に繋がることになる。
【0052】
本実施形態では,下記化学式1の化合物を電解質添加剤として用いることにより,電池の過充電時に安全性を向上させることができる電解質を提供する。
【0053】
【化16】

【0054】
上記化学式1において,XはOまたはSであり,Y,Y及びYは,同一またはそれぞれ独立にO,S,CR,NRであり,このRはH,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,好ましくはH,ハロゲン,C〜Cアルキル基であり,隣接したアルキル基は互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基,好ましくはメトキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。
【0055】
好ましくは,R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲン,炭素数8以下の不飽和もしくは飽和されたアルキル基,または炭素数8以下のアルコキシ基である。
【0056】
上記添加剤化合物の好ましい他の例としては,上記化学式1の定義でXがOで,YがO,Y及びYがCRであり,RはHもしくはR〜Rであり,R〜Rは同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,Hまたは炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる,下記の化学式2がある。
【0057】
【化17】

【0058】
上記化学式2において,R及びRは化学式1のYの定義でRに対応し,R及びRは化学式1のYの定義でRに対応し,R〜Rは化学式1でR〜Rに対応するので,R〜Rは同一またはそれぞれ独立的にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。
【0059】
上記添加剤化合物の好ましい例としては,上記化学式1の定義で,XがOで,YがO,Y及びYがCHである,下記化学式3の化合物がある。
【0060】
【化18】

【0061】
上記化学式3において,R〜Rは同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。好ましくは,R〜Rのうち少なくとも一つはハロゲン,さらに好ましくはハロゲンである。
【0062】
本実施形態の好ましい他の例としては,上記化学式1の定義でXがOで,Y及びYがO,YがCRであり,ここで,RはR〜Rであり,R〜Rが同一またはそれぞれ独立にC〜Cのアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる,下記化学式4がある。
【0063】
【化19】

【0064】
上記化学式4において,R及びRは化学式1のYの定義でRに対応し,R〜Rは化学式1でR〜Rdに対応するので,R〜Rは同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。好ましくは,R〜Rのうち少なくとも一つはハロゲン,さらに好ましくはFである。
【0065】
本実施形態に係る添加剤の好ましい他の例としては,化学式1の定義でXがOで,Y及びYがO,YがCHである,下記化学式5の化合物がある。
【0066】
【化20】

【0067】
上記のR〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。好ましくは,R〜Rdのうち少なくとも一つはハロゲン,さらに好ましくはFである。
【0068】
また,本実施形態の好ましい添加剤の例としては,上記化学式1の定義でXがOで,Y及びYがO,YがCRであり,ここで,RはR〜Rであり,R〜Rdが同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,Hまたは炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる下記化学式6がある。
【0069】
【化21】

【0070】
上記化学式6において,R及びRは化学式1のYの定義でRに対応し,R〜Rは化学式1でR〜Rdに対応するので,R〜Rは同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,C〜Cのアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。
【0071】
本実施形態に係る添加剤の好ましい他の例としては,化学式1の定義でXがOで,Y及びYがO,YがCHである,下記化学式7の化合物がある。
【0072】
【化22】

【0073】
上記化学式7において,R〜Rdは同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。好ましくは,R〜Rのうちの少なくとも一つはハロゲン,さらに好ましくは,Fである。
【0074】
また,本実施形態に係る好ましい化合物としては,下記化学式8〜14で表される化合物からなる群から選択されるものがある。下記化学式8の化合物は化学式1の定義で,XがO,YがO,Y及びYがCH,R〜RがHである化合物であり,下記化学式9の化合物はXがO,Y及びYがO,YがCHであり,R〜RがHである化合物,下記化学式10の化合物はXがO,Y及びYがO,YはCHであり,R〜RdがHである化合物,下記化学式11の化合物はXがO,YがO,Y及びYがCH,R,R及びRがH,RはFである化合物,下記化学式12の化合物はXがO,YがO,Y及びYがCHであり,R,R及びRがH,RがFである化合物,下記化学式13の化合物はXがO,Y及びYがO,YがCH,R及びRはH,R及びRがFである化合物,下記化学式14の化合物はXがO,Y及びYがO,YがCH,R,R及びRがH,RはFである化合物である。
【0075】
【化23】

【0076】
【化24】

【0077】
【化25】

【0078】
【化26】

【0079】
【化27】

【0080】
【化28】

【0081】
【化29】

【0082】
また,この他に本実施形態で使用可能な化合物は,下記化学式15〜24からなる群より選択される化合物である。
【0083】
【化30】

【0084】
【化31】

【0085】
【化32】

【0086】
【化33】

【0087】
【化34】

【0088】
【化35】

【0089】
【化36】

【0090】
【化37】

【0091】
【化38】

【0092】
【化39】

【0093】
本実施形態で電解質添加剤として用いられる上記化学式1の化合物は,約4.5V以上で重合が開始され,極板表面をコーティングすることによって,正極と負極との間の抵抗を増加させたり,約4.5V以上の電圧で酸化還元反応が起こり,過充電時に印加される電流を消費したりすることで,リチウム電池の安全性を確保する機能を果たす。
【0094】
上記化学式1の添加剤化合物は,電解質の全量を基準に,例えば,0.01〜50質量%使用されることが好ましく,0.01〜30質量%使用することがさらに好ましく,0.01〜10質量%使用することがさらに好ましく,0.01〜5質量%が最も好ましい。上記化学式1の添加剤化合物の添加量が0.01質量%未満であれば,電池が発火する可能性があり好ましくなく,50質量%を超えれば,電池性能が低下する問題点があるため好ましくない。
【0095】
上記の電解質添加剤は,リチウム塩を含有する非水性有機溶媒に添加される。リチウム塩は,電池内でリチウムイオンの供給源として作用して,基本的なリチウム電池の作動を可能にし,非水性有機溶媒は,電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を果たす。
【0096】
上記リチウム塩としては,例えば,LiPF,LiBF,LiSbF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,Li(CFSON,LiCSO,LiAlO,LiAlCl,LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ここで,xおよびyは自然数である),LiCl,およびLiIよりなる群から選択される1種または2種以上を混合して使用してもよい。
【0097】
リチウム塩の濃度は,例えば0.6〜2.0Mの範囲内で使用することが好ましく,0.7〜1.6Mの範囲内で使用することがさらに好ましい。リチウム塩の濃度が0.6M未満であれば,電解質の伝導度が低くなって電解質性能が低下し,2.0Mを超えれば,電解質の粘度が増加してリチウムイオンの移動性が減少する問題点がある。
【0098】
非水性有機溶媒としては,例えば,カーボネート,エステル,エーテルまたはケトン等を使用することができる。上記カーボネートとしては,ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),ジプロピルカーボネート(DPC),メチルプロピルカーボネート(MPC),エチルプロピルカーボネート(EPC),メチルエチルカーボネート(MEC)エチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ブチレンカーボネート(BC)などがあり,上記エステルは,例えばメチルアセテート,エチルアセテート,プロピルアセテートなどを使用することができる。
【0099】
上記非水性有機溶媒がカーボネート系溶媒の場合,例えば環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合して使用することが好ましい。この場合,環状カーボネートと鎖状カーボネートは,1:1〜1:9の体積比で混合して使用することが好ましい。上記体積比で混合されなければ,電解質の性能が好ましくない。
【0100】
また,本実施形態に係る電解質は,上記カーボネート系溶媒に加えて,芳香族炭化水素系有機溶媒をさらに含むこともできる。芳香族炭化水素系有機溶媒としては,下記化学式25の芳香族炭化水素系化合物を使用することができ,その例としては,例えばベンゼン,フルオロベンゼン,トルエン,フルオロトルエン,トリフルオロトルエンまたはキシレンがある。
【0101】
【化40】

【0102】
上記の化学式25でR11はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基であり,nは0〜6の整数である。
【0103】
上記カーボネート系溶媒と芳香族炭化水素系有機溶媒は,1:1〜30:1の体積比で混合して使用することが好ましい。
【0104】
本実施形態では,上記の電解質を含むリチウム電池を提供する。リチウム電池の正極活物質としては,例えば,リチウムの可逆的な吸蔵/放出が可能な化合物(Liインターカレーション化合物)またはリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することが可能な物質などを使用できる。負極活物質としては,例えば,リチウム金属またはリチウムの可逆的な吸蔵/放出が可能な炭素材物質が使用される。
【0105】
上記正極及び負極活物質を用いて,リチウム電池製造時に使用される通常の方法によって,正極と負極を各々製造する。その後,正極と負極との間に網目構造を有する絶縁性樹脂からなるセパレータを挿入し,これらを巻き取ったり(winding),積み重ねたり(stacking)して,電極アセンブリを形成する。その後,この電極アセンブリを電池ケースに入れ,本実施形態に係る電解質を注入して,電池を組立てる。上記セパレータとしては,例えばポリエチレンセパレータ,ポリプロピレンセパレータ,ポリエチレン/ポリプロピレン2層セパレータ,ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層セパレータまたはポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータを使用することができる。このような工程を経て製造されたリチウム電池のうち,角形リチウム電池の断面図は図1に示されている。
【0106】
上述した方法によって製造された本実施形態に係るリチウム電池は,リチウム一次電池及びリチウム二次電池として使用することが可能である。
【0107】
本実施形態に係る電解質を含むリチウム電池は,過充電特性が従来の非水系電解質を使用する電池に比べて非常に優れている。
【0108】
以下,本発明に係る好ましい実施例,及び比較例を記載する。しかし,下記の実施例は,本発明の好ましい一実施例に過ぎず,本発明が下記の実施例に限られるわけではない。
【0109】
(比較例1)
LiCoO94g,スーパー−P3g及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)3gをN−メチル−2−ピロリドンに溶解して,正極活物質スラリーを製造した。この正極活物質スラリーを,幅が4.9cm,厚さが147μmであるAl箔に塗布し,これを乾燥及び圧延した後,所定の寸法に切断して正極を製造した。
【0110】
メゾカーボンファイバー(MCF:Petoca社)89.8g,シュウ酸0.2g,ポリフッ化ビニリデン10gをN−メチル−2−ピロリドンに溶解して,負極活物質スラリーを製造した。上記負極活物質スラリーを,幅が5.1cm,厚さが178μmの銅箔上に塗布した後,これを乾燥及び圧延し,所定の寸法に切断して負極を製造した。
【0111】
上記正極及び負極との間にセパレータを配置し,これを巻き取って電極集合体を製造した。上記電極集合体を電池ケース内に入れた後,液体電解液を減圧して注入することにより,電池を完成した。ここで,電解液としては1.3MのLiPFが溶解されたエチレンカーボネート,エチルメチルカーボネート,プロピレンカーボネート及びフルオロベンゼンの混合溶媒(30:55:5:10体積比)を使用した。
【0112】
(実施例1)
2-クロマノン(2−chromanon:化学式8)添加剤0.25gを1.3MのLiPFが溶解されたエチレンカーボネート,エチルメチルカーボネート,プロピレンカーボネート及びフルオロベンゼンの混合溶媒(30:55:5:10体積比)溶液5gに添加して製造された電解液を,電池ケースに2.3g注入した以外は,比較例1と同様の方法によって角形のリチウム二次電池を製造した。
【0113】
(実施例2)
化学式9の化合物を添加剤として使用した以外は,上記実施例1と同様の方法で角形のリチウム二次電池を製造した。
【0114】
上記実施例1,2,及び比較例1の角形電池を2Cで充放電して,発火の有無を測定し,その結果を下記表1に示した。過充電安全性特性は,上記実施例1及び比較例1の電池を,完全放電状態で,各リチウムイオン電池のカソード/アノード端子の間に2Aの充電電流を約2.5時間流して過充電を行って,その結果を記録した。
【0115】
【表1】

【0116】
表1に示すように,本実施形態の実施例1,2による電池が,過充電安全性面で比較例1より非常に優れていることが分かる。
【0117】
また,上記実施例1に使用したリチウム二次電池電解液に対して,サイクリックボルタモグラムを測定した。この際,サイクリックボルタモグラムは,リチウムを基準電極として使用し,対極および作用電極としては,白金電極を使用しており,走査速度は10mV/sであり,OCVで6.0Vの電圧範囲で測定した。その結果,酸化電位が4.5V,還元電位が0.3Vであることが明らかになった。したがって,酸化電位が4.5V以上であるので高容量電池に適することが分かる。
【0118】
また,実施例1の電池を1C,及び2Cで各々充放電した後,1C充放電する時の放電容量を100%とした場合,2C放電容量を%で計算して,高率充電特性を評価した。その結果,92%の高い高率充電特性を示すことを確認した。
【0119】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は,リチウム電池用電解質およびリチウム電池に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】一般的な非水系リチウム電池の構造を示す概略図である。
【符号の説明】
【0122】
1 リチウム二次電池
2 正極
4 負極
6 セパレータ
8 電極アセンブリ
10 ケース
12 キャッププレート
14 ガスケット
16 安全弁
18 正極タブ
20 負極タブ
22,24 絶縁体
26 電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性有機溶媒と;
リチウム塩と;
下記化学式1の添加剤と;
を含むことを特徴とする,リチウム電池用電解質。
【化1】

(前記化学式1において,
Xは,OまたはSであり,
,YおよびYは,同一またはそれぞれ独立にO,S,CR,NRであり,
前記Rは,H,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rは,同一またはそれぞれ独立に,ハロゲン,H,炭素数8以下のアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状あるいはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【請求項2】
前記Rは,H,ハロゲン,またはC〜Cのアルキル基であり,
前記R〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲン,炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基,または炭素数8以下のアルコキシ基であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【請求項3】
前記ハロゲンは,フロリンであることを特徴とする,請求項1または2に記載のリチウム電池用電解質。
【請求項4】
前記添加剤は,下記化学式2で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化2】

(前記化学式2において,
〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,C〜Cのアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【請求項5】
前記添加剤は,下記化学式3で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化3】

(前記化学式3において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【請求項6】
前記添加剤は,下記化学式4で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化4】

(前記化学式4において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,C〜Cのアルコキシ基,炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【請求項7】
前記添加剤は,下記化学式5で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化5】

(前記化学式5において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【請求項8】
前記添加剤は,下記化学式6で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化6】

(前記化学式6において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立にH,ハロゲン,炭素数8以下のアルキル基であり,隣接したアルキル基は互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができ,
〜Rは,同一またはそれぞれ独立にハロゲン,H,C〜Cのアルコキシ基,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,隣接したアルキル基は,互いに環状またはヘテロ環状形態に結合することができる。)
【請求項9】
前記添加剤は,下記化学式7で表わされる化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化7】

(前記化学式7において,R〜Rは,同一またはそれぞれ独立に炭素数8以下のアルコキシ基,ハロゲン,H,または炭素数8以下の不飽和もしくは飽和アルキル基であり,
〜Rのうち少なくとも一つは,ハロゲンである。)
【請求項10】
前記添加剤は,下記化学式8〜14からなる群より選択される化合物であることを特徴とする,請求項1に記載のリチウム電池用電解質。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【請求項11】
前記添加剤の含量は,前記電解質全体質量に対して0.01〜50質量%であることを特徴とする,請求項1〜10のいずれかに記載のリチウム電池用電解質。
【請求項12】
前記リチウム塩は,LiPF,LiBF,LiSbF,LiAsF,LiClO,LiCFSO,Li(CFSON,LiCSO,LiAlO,LiAlCl,LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ここで,xおよびyは自然数である),LiCl,およびLiIからなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする,請求項1〜10のいずれかに記載のリチウム電池用電解質。
【請求項13】
前記リチウム塩は,0.6〜2.0Mの濃度で使用されることを特徴とする,請求項1〜12のいずれかに記載のリチウム電池用電解質。
【請求項14】
前記非水性有機溶媒は,カーボネート,エステル,エーテルおよびケトンからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であることを特徴とする,請求項1〜13のいずれかに記載のリチウム電池用電解質。
【請求項15】
前記カーボネートは,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,ジプロピルカーボネート,メチルプロピルカーボネート,エチルプロピルカーボネート,メチルエチルカーボネート,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,およびブチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であることを特徴とする,請求項14に記載のリチウム電池用電解質。
【請求項16】
前記カーボネートは,環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒であることを特徴とする,請求項14に記載のリチウム電池用電解質。
【請求項17】
前記非水性有機溶媒は,カーボネート系溶媒と芳香族炭化水素系有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする,請求項1〜13のいずれかに記載のリチウム電池用電解質。
【請求項18】
前記芳香族炭化水素系有機溶媒は,下記化学式25の芳香族化合物であることを特徴とする,請求項17に記載のリチウム電池用電解質。
【化15】

(前記化学式25において,R11はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基であり,nは0〜6の整数である。)
【請求項19】
前記芳香族炭化水素系有機溶媒は,ベンゼン,フルオロベンゼン,トルエン,フルオロトルエン,トリフルオロトルエン,およびキシレンからなる群より選択される少なくとも一つの溶媒であることを特徴とする,請求項17に記載のリチウム電池用電解質。
【請求項20】
前記カーボネート系溶媒と前記芳香族炭化水素系有機溶媒とは,1:1〜30:1の体積比で混合されることを特徴とする,請求項17に記載のリチウム二次電池用電解質。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の電解質と;
リチウムを吸蔵/放出することが可能な正極活物質を含む正極と;
リチウムを吸蔵/放出することが可能な物質,リチウム金属,リチウム含有合金,およびリチウムと可逆的に反応してリチウム-含有化合物を形成することができる物質からなる群より選択される負極活物質を含む負極と;
を含むことを特徴とする,リチウム電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−128127(P2006−128127A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314846(P2005−314846)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】