説明

リパーゼを使用するプロスタグランジンF2αエステルの製法

本発明は、プロスタグランジン又はその類似体の酵素触媒作用によるエステル化法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジン又はその類似体のエステルの新規な製法、特に、新規な酵素触媒エステル化法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンは、プロスタグランジンシンセターゼの作用を介してアラキドン酸から誘導される内生分子であり、各種生理活性を備えている。
【0003】
構造的には、プロスタグランジンは、環(多くの場合、シクロペンタン)及び2つの側鎖(その1つは末端カルボキシル基を持つ)によって形成され、前記環及び鎖は置換可能であり(通常、ヒドロキシル基又はケト基によって置換される)、可及的に不飽和結合を有する。
【0004】
プロスタグランジンの末端カルボキシル基がエステル化されている化合物、例えば、プロスタグランジンPGFの誘導体のラタノプロスト、トラボプロスト及びイニシャルAL-12182にて文献において定義された類縁化合物(例えば、Chemistry Today, 2007, 25(1): 58-60参照)は公知である。これらの化合物は、興味深い抗緑内障活性及び高眼圧症に対する活性を発揮する。
【0005】
使用する合成法にかかわらず、プロスタグランジン又はその類似体のエステル化誘導体を調製する開示された方法は、カルボキシル基をエステル化する最終工程を包含する。特に、好適な求電子物質上での酸の対応するカルボキシレートのタイプ2求核性置換反応が開示されている。各種の公知のエステル化反応は、実質的に、カルボキシル基の、Hunig塩基、ジイソプロピルエチルアミン(DIA)、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は水酸化物のような塩基による脱プロトン化を介して求核物質を生成する方法によって異なる。特に、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、K2CO3及びCs2CO3の使用が開示されている。
【0006】
求電子性成分は、通常、ハロゲン化物(例えば、臭化物又はヨウ化物)、アルキル‐又はアリール‐スルホネート又はトリフラートである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術によるエステル化法は、絶対的に精製することを必要とする生成物を提供するものであり、従って、多量の廃棄物の生成を伴う反応を必要とし、その結果、収率が低く、プロスタグランジン又はその類似体のような不安定な化合物の処理が困難であるなど、多くの課題を有する。
【0008】
酸と好適なアルコールとの間の反応(唯一の廃棄物質として水を生成する反応)によるエステルのより簡単な形成は、未だに、このエステル化反応を化学選択的なものとすることが可能ではないため、決して深刻に検討されてこなかった。事実、プロスタグランジン又はその類似体の環及び側鎖上のヒドロキシル基は、エステル化剤として使用するアルコールのヒドロキシル基と競合し、カルボキシル基と一緒に、分子内及び分子間エステル結合を形成し、その結果、除去することが困難な副生物を生成する。
【0009】
さらに、酸及び好適なアルコールを接触させることによってエステル化反応を行うためには、反応混合物を加熱し、このようにして、公知のように、熱不安定性の化合物であるプロスタグランジン又はその類似体の安定性を危険にさらす必要がある。
【0010】
従って、化学選択的であり、工業的に生産され、十分な純度の最終生成物を提供し、このようにして、最終製品についての更なる処理工程を排除でき、反応収率を顕著に増大することを可能にする、プロスタグランジン及びその類似体のエステル化法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことには、プロスタグランジン(又は末端カルボキシル基を持つその類似体)の末端カルボキシル基と所望のアルコールとのエステル化反応を、好適な酵素触媒の存在下で行う場合には、不要な分子内及び分子間エステル化反応に由来する副生物の生成を防止することができるとの知見を得た。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従って、本発明は、プロスタグランジン又は末端カルボキシル基を持つその類似体のエステルを製造する方法であって、前記プロスタグランジン又は末端カルボキシル基を持つその類似体を、酵素触媒の存在下で、アルコールと反応させることを含んでなる製法に関する。
【0013】
本発明によれば、用語「プロスタグランジン」は、末端カルボキシル基を持つ内生プロスタグランジン又は合成プロスタグランジンを意味する。
【0014】
本発明によれば、用語「プロスタグランジン類似体」は、末端カルボキシル基を持つプロスタグランジン、合成プロスタグランジンの構造類似体を意味する。
【0015】
好適な内生又は合成のプロスタグランジンは、PGF及びその類似体である。
【0016】
特に好適なエステル化カルボキシル基を持つプロスタグランジンは、13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF(ラタノプロスト)、16-[3-(トリフルオロメチル)フェノキシ]-17,18,19,20-テトラノル-PGF(トラボプロスト)である。
【0017】
プロスタグランジンのエステル化類似体は、例えば、化合物AL-12182[(E)-イソプロピル-7-(2-((E)-4-(3-クロロフェノキシ)-3-ヒドロキシブト-1-エニル)-4-ヒドロキシテトラヒドロフラン-3-イル)-ヘプト-4-エノエート)]である(Chemistry Today, 2007, 25(1): 58-60)。
【0018】
本発明によれば、エステル化剤としてのアルコールは、形成されるエステル基に応じて選択される。好適なアルコールは、例えば、(C1-C8)アルカノール、(C4-C8)シクロアルカノールのような直鎖状又は環状の脂肪族アルコール、及び芳香族アルコール(任意に、置換されている)、有利には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びシクロヘキサノールである。本発明による特に好適なアルコールは、イソプロパノールである。
【0019】
本発明によれば、「酵素触媒」は、カルボキシル基とアルコールとの間のエステル化反応に対して触媒作用を発揮でき、同時に、分子内及び分子間エステル化を防止し得る化学選択的酵素を意味する。
【0020】
これらの触媒の例は、国際酵素命名法(www.chem.qmul.au.uk/iubmb/enzyme/)に従ってクラスEC3に属するものである。
【0021】
好適な化学選択的酵素触媒は、EC3.1に属するものから選択され、特に、各種の起源のリパーゼ及びエステラーゼから選ばれる。
【0022】
従って、豚又はウナギのリパーゼのような動物性のリパーゼを使用でき、カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)からのリパーゼのような微生物系リパーゼが使用できる。これら触媒は、当業者にとっては公知であり、市販品として入手可能である。
【0023】
本発明による酵素触媒は、遊離形、凍結乾燥形、精製形及び部分的に精製した形で使用され、又は、各種の公知の技術に従って不動化される(CLEC(架橋化酵素結晶), CLEA(架橋化酵素凝集体)、CSDE(架橋化噴霧乾燥酵素)及びCLE(架橋化酵素))、又は、当業者によって知られた技術に従って、例えば、分子ケージ内に捕捉される。
【0024】
エステル化反応は溶媒中で行われる。可能である場合及び本発明の好適な態様によれば、酸に対して過剰量で使用されるアルコールは、溶媒として作用できる。従って、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール又はシクロヘキサノールのようなアルコールが使用される場合には、エステル化反応は、他の溶媒を使用することなく実施される。
【0025】
望ましい場合又は望まれる場合には、反応に関与するアルコールに対して、異なる溶媒を使用することができる。好適な溶媒は、エステル化反応に対して不活性のものであり、例えば、環状又は直鎖状エーテル及び炭化水素(任意にハロゲン化されたもの)から選ばれる。
【0026】
本発明のエステル化反応は、一般に0〜50℃、有利には40℃以下、好適には室温〜35℃、例えば、約30℃の温度で行われる。
【0027】
有利には、温度は使用する酵素触媒及び/又は使用するプロスタグランジン又はその類似体の安定性にとって臨界的な温度を越えてはならない。
【0028】
しかし、酵素触媒の使用は、反応混合物を、例えば、室温又はわずかに高い温度に加熱する必要はなく、このように、上述のように、熱不安定化合物であるプロスタグランジン(又はその類似体)の安定性を危険にさらすことなく操作できるとの更なる利点を有する。反応混合物を加熱することを必要とすることなく操作できるとの事実は、工業的見地からの顕著な利点を提供し、結果的に、経済的な節約が可能になる。
【0029】
反応は、一般に、24時間以下の時間で完了する。しかし、当業者はTLC(薄層クロマトグラフィー)又はHPLC(高圧液体クロマトグラフィー)のような一般的な技術を介して、その進行を監視できる。
【0030】
反応終了時、通常、酵素を濾過によって除去し、例えば、低圧での蒸留によって溶媒を簡単に除去できる。
【0031】
このようにして、所望のエステルを純粋な形で直接得ることができ、さらに精製処理を行うことは必要ではなく、収率はほぼ定量的である。
【0032】
本発明による反応の具体例を、単なる実施例として下記の実験部分に記載する。
【0033】
実験部分
【実施例1】
【0034】
13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF酸イソプロピルエステル(ラタノプロスト)の調製
【化1】

(Ph=フェニル;iPr=イソプロピル)
酸(1g,2.56ミリモル)のイソプロピルアルコール(10ml)溶液に、酵素リパーゼNovozym 435(登録商標)(500 mg)を添加した。反応混合物を、磁気攪拌下(200 rpmを越えない)、30℃に維持した。反応をTLCによって制御し、18時間後に終了した。酵素を簡単に濾過、回収し、溶媒を低圧で除去して、淡黄色オイルの形の純粋な生成物を収率92%で得た。
1H NMR(200 MHz, CDCl3)δ:7.2(5H, m), 5.4(2H, m), 5.0(1H, m), 4.21(1H, s), 3.9(1H, s), 3.6(1H, q), 2.6-2.9(2H, m), 1.3-2.4(18H, m), 1.2(6H, d)
【実施例2】
【0035】
13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF酸エチルエステルの調製
【化2】

(Ph=フェニル;Et=エチル)
酸(30mg,0.077ミリモル)の無水エチルアルコール(350μl)溶液に、酵素リパーゼNovozym 435(15mg)を添加した。反応混合物を、磁気攪拌下(200 rpmを越えない)、30℃に維持した。反応をTLCによって制御し、18時間後に終了した。酵素を簡単に濾過、回収し、溶媒を低圧で除去して、淡黄色オイルの形の純粋な生成物を収率90%で得た。
1H NMR(200 MHz, CDCl3)δ:7.2(5H, m), 5.4(2H, m), 4.2(3H, m), 3.9(1H, s), 3.6(1H, q), 2.6-2.9(2H, m), 1.3-2.4(18H, m), 1.2(3H, t)
【実施例3】
【0036】
13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF酸メチルエステルの調製
【化3】

(Ph=フェニル;Me=メチル)
酸(25mg,0.065ミリモル)のエチルメチルエーテル(6ml)溶液に、メタノール(125μl)及び酵素リパーゼNovozym 435(16mg)を添加した。溶液を、200 rpmを越えない速度で磁気攪拌しながら、30℃に維持した。5時間後に反応が終了し、その間、反応をTLCによって制御した。酵素を濾過、回収し、ついで、溶媒を低圧で濃縮した。生成物は無色のオイルの形であり、収率は95%であった。
1H NMR(200 MHz, CDCl3)δ:7.2(5H, m), 5.4(2H, m), 4.21(1H, s), 3.9(1H, s), 3.6(4H, m), 2.6-2.9(2H, m), 1.1-2.4(18H, m)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジン又は末端カルボキシル基を持つその類似体のエステルを製造する方法であって、前記プロスタグランジン又はその類似体を、酵素触媒の存在下で、アルコールと反応させることを含んでなる製法。
【請求項2】
プロスタグランジンが、内生又は合成のプロスタグランジン、又はその合成の類似体であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロスタグランジン又はその類似体が、PGF又はその類似体から選ばれるものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
プロスタグランジン又はその類似体のエステルが、13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGFイソプロピルエステル(ラタノプロスト)、16-[3-(トリフルオロメチル)フェノキシ]-17,18,19,20-テトラノル-PGFイソプロピルエステル(トラボプロスト)から選ばれるものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
プロスタグランジン又はその類似体のエステルが、化合物(E)-イソプロピル-7-(2-((E)-4-(3-クロロフェノキシ)-3-ヒドロキシブト-1-エニル)-4-ヒドロキシテトラヒドロフラン-3-イル)-ヘプト-4-エノエート)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
アルコールが、直鎖状又は環状の脂肪族アルコール(任意に置換されている)から選ばれるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びシクロヘキサノールから選ばれるものであることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
酵素触媒が、クラスEC3.1から選ばれるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
酵素触媒が、リパーゼ及びエステラーゼから選ばれるものであることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応を40℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
反応を約30℃の温度で行うことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
反応を、他の溶媒を使用することなく行うことを特徴とする請求項7記載の方法。

【公表番号】特表2011−521666(P2011−521666A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512232(P2011−512232)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005536
【国際公開番号】WO2009/147479
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(510317254)シファヴィトル ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (3)
【Fターム(参考)】