説明

リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性を高速で検出および/または測定する方法

本発明は、リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性をインビトロで検出および/または測定する方法に関する。前記方法は、リパーゼまたはホスホリパーゼを含有している可能性のある試料を、前記リパーゼまたは前記ホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質の層で被覆した微量滴定プレートのウェルに添加すること;および前工程中に遊離されたα−エレオステアリン酸のUVスペクトルを測定することによって、リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性を検出および/または測定することからなることを特徴とする。また、本発明は、血漿リパーゼ濃度の上昇に関連する病理をインビトロ診断する、前記方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性を高速でインビトロ検出および/または測定する方法、ならびにその利用である。
【0002】
リパーゼの検出および検定の分析的方法の開発は、長年にわたる研究テーマである(BeissonF.、Tiss A.、Riviere C.およびVerger R. (2000); Methods for lipase detection and assay: a critical review. Eur. J. Lipid Sci. Technol. 2: 133-153)。
【0003】
「ファージディスプレイ」技術によって生じたリパーゼの動態およびエナンチオ選択性を特定するために、非常に低いリパーゼ活性を検出する天然の蛍光性トリグリセリドが使用されている(Beisson F.、Ferte N.、Nari J.、Noat G.、Arondel V.およびVerger R. (1999); Use of naturally fluorescent triacylglycerols from Parinari glaberrimum to detect low lipase activities from Arabidopsis thaliana seedings. J. Lipid Res. 40: 2313-2321)。
【0004】
一方、この方法の原理は、天然の蛍光性脂肪酸(パリナリン酸)がパリナリウム油(parinarium oil)に存在することであり、この酸は4個の共役二重結合を有するので、その結果、紫外領域の光を吸収し、その光を蛍光現象を介して放出する。リパーゼの加水分解作用を受けて元のトリグリセリドからパリナリン酸が放出され、これがミセル相に可溶化される。この(乳化相からミセル相への)相変化に伴って、蛍光スペクトル放射が変化するので、この変化を利用して、加水分解反応の経時的進行を高感度でモニターしている。
【0005】
この蛍光法の制約の1つは、パリナリン酸の4個の共役二重結合が、大気中の酸素によって酸化されやすいことに関連する。この理由から、本発明者らは、アブラギリから抽出され、大昔から中国漆の製造に用いられている油(キリ油)に同上の測定原理を移した。この油は、高い割合でα−エレオステアリン酸を含有しており、この酸は共役二重結合を3個しか有しておらず、蛍光性はないが、紫外線を吸収する。また、この酸は、パリナリン酸よりもはるかに酸化されにくい。このため、本発明らは、一方ではα−エレオステアリン酸の紫外吸収特性を、他方では上記の(乳化相からミセル相への)相変化を利用することによって、Pencreac'h G.、Graille J.、Pina M.およびVerger R.の論文(2002); An ultraviolet spectrophotometric assay for measuring lipase activity using long-chain triacylglycerols from Aleurites fordii seeds. Anal. Biochem. 303: 17-24に記載されている、いわゆる「エマルション」法を発展させた。
【0006】
これらの研究成果の枠組みの中で、本発明らは、キリ油の精製トリグリセリドを使用して、(紫外線を吸収しないプラスチック材料から構成される)微量滴定プレートのウェルを非常に薄い膜(数百の単分子層に相当)で被覆した。トリグリセリドのこの薄膜は各種の水性緩衝液ですすいだ後でもウェルの壁に完全に付着したままであることを本発明らは実証した。上記のように、各種リパーゼの加水分解作用(油水界面における)を受けて、α−エレオステアリン酸が遊離しミセル相中に可溶化される。結果として、α−エレオステアリン酸の紫外線吸収スペクトルが変化し、また他方では、吸着状態から溶解状態に移行した結果、光学経路が大幅に増大して、「被覆」技術にとって大きな利点となる。
【0007】
本発明者は、脂質(天然トリグリセリドまたは合成エステル)で「被覆」するこの新規技術は従来の「エマルション」技術に比べて次のような利点を有している事実を実証し、本発明はそれにより作成された。
− 経時的保存性は、微量滴定プレートのウェルに吸着(または「被覆」)した脂質基質の方が良好である、
− リパーゼ活性は、エマルション基質上よりも「被覆」基質上の方が高い、
− 実験の再現性は、「被覆」基質を用いた方が良好である、
− 吸着状態から溶解状態への移行の結果として光学経路が増大されるため、信号対雑音比がより好ましくなる。
【0008】
このため、本発明の目的は、リパーゼ活性の新規な測定方法であって、当技術分野で現在までに記載された方法よりもさらに特異的、定量的で感度がよく、そして、リパーゼの天然基質を使用して、極めて低い脂肪分解活性(サーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(Thermomyces lanuginosus Lipase)「TLL」の約2ngという微少量に相当する)の測定を可能にする方法を提供する。
【0009】
また、本発明の目的は、「ファージディスプレイ」技術によって生成される可能性のある多数のリパーゼ変異体を、高フローレートでスクリーニングするのを可能にする、リパーゼ活性の新規な測定方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、高フローレートでリパーゼ活性を測定することにより、エナンチオ選択的な変異体とリパーゼを選択するために、医薬的およびバイオテクノロジー的に重要で、α−エレオステアリン酸を含有するキラルエステルを使用するリパーゼ活性の、新規な測定方法を提供することである。このようにして選択された突然変異体は、医薬および農業食品で重要な分子を不斉合成するための酵素触媒として役立つ可能性がある。
【0011】
また、本発明の目的は、リパーゼ活性の新規な測定方法であって、種々の膵臓疾患の早期診断時に血漿中リパーゼ過剰症を測定するためのヒト臨床医療で使用できる方法の提供である。
【0012】
本発明は、天然起源または合成起源のリパーゼまたはホスホリパーゼを含有する可能性のある試料において、該リパーゼまたは該ホスホリパーゼの特性であるリパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性をインビトロで検出および/または測定する方法であって、
− 水溶液中に該リパーゼまたは該ホスホリパーゼを含有する可能性のある上記試料を、該リパーゼまたは該ホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を、遊離可能な脂質基質の厚さが約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの層で被覆した微量滴定プレートのウェルに添加し、遊離したα−エレオステアリン酸を、該水溶液中のミセル相に可溶化すること、
− 前工程中に遊離されたα−エレオステアリン酸の紫外線吸収スペクトルを分光光度測定することによって、リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性を検出および/または測定すること、
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0013】
天然起源または合成起源のリパーゼまたはホスホリパーゼとは、哺乳類または微生物(バクテリア、菌類など)の任意のリパーゼまたはホスホリパーゼであって、適切であれば、1種以上のアミノ酸の突然変異によって変性されるものを意味する。リパーゼ活性は、特にBeissonら(Beisson F. Tiss A. Riviere C.およびVerger R. (2000); Methods for lipase detection and assay: a critical review. Eur. J. Lipid Sci. Technol. 2: 133-153)に記載されている方法に従う、標準的な仕方で測定することができる。リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性は、例えば、Wolfら(Wolf C. Sagaert L.およびBereziat G. (1981) A sensitive assay of phospholipases using the fluorescent probe 2-parinaroyllecithin. Biochem. Biophys. Res. Com. 99: 275-283)に記載されている方法で測定することができ、その文献では、パリナリン酸を含有する合成リン脂質を用いて、ヘビ毒ホスホリパーゼA2の酵素活性が測定された。
【0014】
より詳細には、本発明は、前記リパーゼまたは前記ホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質が、α−エレオステアラート(eleostearate)基が共有結合されている、工業上および/または医薬上重要な分子から選択される脂質であり、特に:
− 一般式、
【化3】



(式中、R、R、Rは、約12〜20個の炭素原子を含み、好ましくは18個の炭素原子を含み、場合により1以上の不飽和を有する、同一のまたは異なる脂肪酸の残基を表する)のキリ油の精製トリグリセリド、(snは、立体位置特定の番号付けを意味する)
− 目的のリパーゼまたはホスホリパーゼの位置選択性の種類に応じて、適切な位置に1個または2個のα−エレオステアラート(eleostearate)鎖を含む、ジグリセリドおよびモノグリセリド、またはコレステロールエステルもしくはリン脂質、
− 次式のシトロネロールα−エレオステアラート、
【化4】


− または、他のアルコールまたはプロキラルまたはキラルな医薬的に重要な分子、例えばβ−ブロッカーとして用いられるプロパノロール、ソタロールもしくはカルベジロール、または工業的に重要な分子、例えばメントール(香料として重要なテルペン誘導体)とのα−エレオステアラートの酸エステル、
から選択されることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0015】
特に、上記のRおよびRが、約12〜20個の炭素原子、好ましくは18個の炭素原子を含み、場合により1個以上の不飽和を有する、同一のまたは異なる脂肪酸の残基を表しており、かつ、Rがα−エレオステアリン酸を表わす合成トリグリセリドは、特異的なsn−2リパーゼ(すなわち、トリグリセリドのsn−2位置に存在する脂肪酸を遊離することができる)のスクリーニングを可能にする。同様に、sn−1位置および/またはsn−2位置にα−エレオステアリン酸を含む合成リン脂質は、ホスホリパーゼA1および/またはホスホリパーゼA2の酵素活性を測定することを可能にする。ここで、ホスホリパーゼA1は、グリセロリン脂質のsn−1位置に存在する脂肪酸を遊離できる酵素として定義され、ホスホリパーゼA2は、グリセロリン脂質のsn−2位置に存在する脂肪酸を遊離できる酵素として定義される。
【0016】
キリ油における有意量の脂肪酸は、α−エレオステアリン酸(70〜80%)、オレイン酸(10%)、およびリノール酸(15%)であり、これは特にRadunzら(A. Radunz, P. HeおよびG. H. Schmid; Analysis of the seed lipids of Aleurites montana. Z. Naturforsch. 53 (1998), pp. 305-310)に記載されている。
【0017】
また、本発明は、リパーゼまたはホスホリパーゼを含有する可能性のある試料を微量滴定プレートのウェルに添加する前に、トリス塩および胆汁塩(NaTDC)と、適切であればβ−シクロデキストリンとから構成され、特にNaTDC(4mM)およびβ−シクロデキストリン(3mg/mL)の割合の緩衝液を、脂質基質で被覆された微量滴定プレートのウェルに添加する工程を含むことを特徴とする、上記の方法に関する。
【0018】
また、本発明の主題は、脂質基質で被覆された微量滴定プレートを作成するために:
− 脂質基質を溶液中に含む組成物を、真空下で蒸発可能な適切な溶媒、例えばヘキサンまたは石油エーテルに添加すること、この添加を行う前に、適切であれば、前記プレートのウェルを前記溶媒で洗浄すること、
− 前記溶媒を真空下で蒸発させ、厚さ約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの前記脂質基質の被覆を、微量滴定プレートのウェルの壁に形成すること、
を特徴とする上記の方法でもある。
【0019】
本発明のさらに特別な主題は、ヒトまたは動物における血漿リパーゼ過剰症のインビトロ測定方法であって、リパーゼを含有する試料が、ヒトまたは動物から採取された血液試料であることを特徴とする上記の方法である。
【0020】
したがって、本発明は、ヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度の上昇に関連する病理を、健常なヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度との対比においてインビトロ診断するのに、前記に定義した方法を利用することに関する。
【0021】
本発明は、より詳細には:
− ヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度の上昇を特徴とする膵臓疾患、例えば急性膵炎、慢性膵炎を、健常なヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度との対比において、
− または腎不全、腹部外傷(虚血、腸間膜梗塞、腸穿孔、または腸閉塞)を、
インビトロ診断するのに、前記に定義した方法を利用することに関する。
【0022】
また、本発明は、リパーゼまたはホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離することが可能な脂質基質で被覆したウェルを含む微量滴定プレートの製造方法であって、以下の工程:
− 脂質基質を溶液中に含む組成物を、真空下で蒸発可能な適切な溶媒、例えばヘキサンまたは石油エーテルに添加すること、この添加を行う前に、適切であれば、前記プレートのウェルを前記溶媒で洗浄すること、
− 前記溶媒を真空下で蒸発させ、厚さ約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの該脂質基質の被覆を、微量滴定プレートのウェルの壁に形成すること、
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0023】
また、本発明の主題は、リパーゼまたはホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離することが可能な、脂質基質で被覆したウェルを含む微量滴定プレートであって、これを上記方法によって作成し、該微量滴定プレートのウェルの壁に形成される前記脂質基質の被覆が、厚さ約0.5〜5μm、好ましくは1μmである微量滴定プレートである。
【0024】
本発明のさらに特別な主題は、上記に定義されたリパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性をインビトロで検出および/または測定する方法を実施するにあたり、または、脂肪分解酵素の阻害剤(リパーゼまたはホスホリパーゼの阻害剤)をスクリーニングする方法を実施するにあたり、脂質基質で被覆されたウェルを含む上記の微量滴定プレートの使用であって、リパーゼまたはホスホリパーゼの活性をインビトロで検出および/または測定する本発明の方法によって、該酵素に対する阻害能を測定する工程を含む使用である。
【0025】
本発明を更に説明するために、微量滴定プレートを用いてリパーゼ活性を測定する本発明の方法(いわゆる「被覆」法)の実施を、いわゆる「エマルション」法との対比において、以下に詳細説明する。
【0026】
この研究の実施にあたり、リパーゼ活性の検討を並行して行うために、脂質(天然トリグリセリドまたは合成エステル)で「被覆」するか、または管内に予めエマルションを製造してからその試料をマイクロプレートウエルに分配した(図1)。
【0027】
この研究では、鏡像異性体エステル(RまたはSシトロネロールα−エレオステアラート)を用いて「被覆」と「エマルション」が対比され、これらの基質をマイクロプレート上に「被覆」すると、数種の利点があることが明確に示された。
【0028】
1. 経時的な保存性は被覆基質の方が良好であること
シトロネロールα−エレオステアラートの溶液を、マイクロプレートの96個のウェルに「被覆」した(ウェルごとに80μg)。次に、「被覆」から異なる日数が経過した後に、サーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(TLL)(最終濃度10nM)の活性を試験した。マイクロプレートを、ウェル内に緩衝剤があり、またはなしに、4℃で保存した。図2aのグラフから見られるように、リパーゼの活性は時間が経過しても一定に保たれており、マイクロプレートへの基質の結合は、再現可能で、少なくとも20日間安定していることが示される。
【0029】
並行して、20μm/mLのSシトロネロールα−エレオステアラートのエマルションを製造するために、12μLのエステル溶液(エタノール−BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)0.001%中に5mg/mL)をリパーゼ活性緩衝剤(qs 3mL)に注入し、次にエタノールのフラッシュを行う。次に、この溶液を2分間「ボルテックス」で攪拌する。乳化後の異なる時点においてTLL(10nM)の活性を測定することによって、エマルションの安定性を試験した。リパーゼの活性は、時間の経過に伴って一定ではなく、エマルションの作成後30分で大幅に低下する(図2b)。これらの結果から、エマルションは保存することができず、作成後直ちに使用しなければならないことが判る。これは、前もつて数日前に作成することができるマイクロプレート基質の「被覆」に比べ、大きな欠点である。
【0030】
2. リパーゼ活性がエマルションよりも「被覆された」基質で高いこと
リパーゼ活性は、エマルション基質よりも「被覆された」基質における方に高い(図3参照)。
【0031】
3. 実験の再現性は「被覆された」基質の方が良好であること
8回の実験にわたる平均および標準偏差を計算して得られた結果の分散は、エマルション基質の方が大きい(図3)。さらに、再現可能な方法でエマルションを作成することは、困難である(上記を参照)。
【0032】
結論として、このマイクロプレート試験の成果は、天然トリグリセリドを用いてリパーゼを迅速に、そして連続して測定する従来のあらゆる方法(Beissonら;Eur. J. Lipid Sci. Technol. 2000, 2: 133 - 153)に比べると、革新的な特徴を提示する方法であって、その特徴は、α−エレオステアリン酸が紫外部にスペクトル特性を有することに存する。これは感度がよく、再現可能な試験である。基質の「被覆」によって、マイクロプレートを予め作製し、格別の留意なしに少なくとも2週間冷所に保存することが可能である。他方、Pencreac'hらによって公開されている乳化技術(Anal Biochem. 2002; 303: 17-24)には、エマルションが不安定で、脂肪分解活性が低い等、数多くの欠点がある。
【0033】
従来の公開物(Pencreac'hら;Anal Biochem. 2002; 303: 17-24)に比べ、本発明は、技術上の2つの重要な改良を提案する。
− 高フローレート: 公開された方法(Pencreac'hら、Anal Biochem. 2002; 303: 17-24)の原理を高フローレートシステム(96穴ウェルのマイクロプレート)に適用すること、
− 微量滴定プレートのウェルに脂質基質を「被覆」することで、保存期間を大幅に延長すること。
【0034】
脂肪分解酵素の阻害剤をスクリーニングする方法の実施に本発明プレートの使用
リパーゼまたはホスホリパーゼA1もしくはA2によって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質で被覆したウェルを含む、本発明の方法によって得られた、微量滴定プレートはリパーゼまたはホスホリパーゼA1もしくはA2の阻害剤の高フローレートによるスクリーニング、およびその阻害度の測定に使用される。
【0035】
テトラヒドロリプスタチンの例(オルリスタットまたはTHL): 消化リパーゼの強力な阻害剤(次の諸論文を参照:Digestive lipases inhibition: an in vitro study. Tiss A. Miled N. Verger R. Gargouri Y. Abousalham A. (2004); Lipases and phospholipases in drug development from biochemistry to molecular pharmacology, Wiley VCH (Muller G.およびPetry S., Eds)、155, 193; Covalent inactivation of lipases. Ransac S. Gargouri Y. Marguet F. Buono G. Beglinger C. Hildebrand P. Lengsfeld H. Hadvary P. Verger R. (1997); Methods in Enzymol., 286, 190-231)。
【0036】
脂質基質の「被覆」を有する微量滴定プレートを、上記の方法で作製する。トリス緩衝剤とβ−シクロデキストリン(3mg/ml)から構成される溶液をウェルに添加する。270nmでの光学濃度を時間の関数として5〜10分間記録する(図4Aおよび図4B参照)。ヒト膵リパーゼ(HPL)溶液を、単独でまたはTHL(阻害剤)と共にプレインキュベートしてからウェルに注入する。次に酵素活性を時間の関数として記録するために、272nmでのODを測定する(方法A、図4A)。HPLをTHLと共に1〜100または1〜50のモル過剰で、10分間プレインキュベーションすることによって、最初のリパーゼ活性をそれぞれ75%または40%減少する(図4A参照)。
【0037】
リパーゼ活性に対するTHLの効果を測定するために、脂肪分解中にTHLを注入する(方法B、図4B)。THL(最終濃度10nMでの)の注入によって、HPLの活性は約40%減少する。
【0038】
結論
図4Aおよび図4Bに示した結果を見ると、本発明がリパーゼの阻害度を高フローレートで測定するのに、したがってリパーゼならびにホスホリパーゼA1およびA2の阻害剤をスクリーニングするのに、完全に適していることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】マイクロプレートの作製手順を「被覆」とエマルションの対比で表わす。脂質基質をマイクロプレートの各ウェルに吸着させる(「被覆」)か、エマルション中に作製してからマイクロプレートに沈着させる(エマルション)。
【図2a】吸着または乳化された脂質基質の安定性を表わす。図2aでは、Sシトロネロール−α−エレオステアラート・エステル(ウェルごとに80μg)による「被覆」によってマイクロプレートを調製し、4℃で数日間保存した。緩衝剤トリス(10mM pH8.0)、CaCl(6mM)、EDTA(1mM)、BHT(0.001%)、およびβ−シクロデキストリン(3mg/mL)中のエステルによる「被覆」から異なる日数が経過した時点において、サーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(TLL)(最終濃度10nM)の脂肪分解活性を測定することによって、被覆の安定性を検討した。図2aは、「被覆」後の数日間における相対酵素活性(%)を表わす。
【図2b】吸着または乳化された脂質基質の安定性を表わす。図2bでは、Sシトロネロールα−エレオステアラートを20μg/mL含むエマルションを製造し、微量滴定プレートの各ウェルに分配(200μL)した。図2aに関して上述したように、エマルションの安定性を試験するために、乳化後の異なる時点でTLLの活性を測定する。
【図3】「被覆された」またはエマルション中の、Sシトロネロール−α−エレオステアラート・エステルについて測定されたTTLの活性の再現性を表わす。緩衝剤トリス(10mM pH8.0)、CaCl(6mM)、EDTA(1mM)、BHT(0.001%)およびβ−シクロデキストリン(3mg/mL)中で、マイクロプレート内で、吸着したSシトロネロール−α−エレオステアラート・エステル(ウェルごとに80μg)、またはエマルション中のSシトロネロール−α−エレオステアラート・エステル(20μg/mL)について、TTL(4nM)の活性を試験した。速度は、1分ごとに現れるミリ単位の吸収度(mAU/min)で示されている。結果の変動は、実験条件ごとに行った8回の実験にわたって計算した。
【図4A】THO(テトラヒドロリプスタチン)によるHPL(ヒト膵リパーゼ)の阻害の動力学を表わす。マイクロプレートを作製するために、キリ油から抽出しα−エレオステアリン酸を多く含有するトリグリセリドを「被覆」(ウェルごとに50μm)した。トリス緩衝剤の溶液(200μl)をウェルに添加する。HPL単独の活性、またはTHLと共にプレインキュベートしたHPLの活性を測定するために光学濃度を記録する(方法A、図4A)。図4Aは、272nmでの光学濃度(OD)を時間の関数として表わす。黒い円の付いた曲線は、単独のリパーゼHPLに対応し、黒い四角の付いた曲線は、1:100の比率でTHLでプレインキュベートしたリパーゼHPLに対応し、白い円の付いた曲線は、1:50の比率でTHLでプレインキュベートしたリパーゼHPLに対応する。
【図4B】図4Bは、異なる手順(方法B)に対応しており、HPLを(最終濃度2nMで)注入後、脂肪分解中にTHLを(最終濃度10nMで)反応媒体に注入する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然起源または合成起源のリパーゼまたはホスホリパーゼを含有する可能性のある試料において、リパーゼまたはホスホリパーゼの特性であるリパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性をインビトロで検出および/または測定する方法であって、
− 水溶液の前記リパーゼまたは前記ホスホリパーゼを含有する可能性のある試料を、厚さ約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの、前記リパーゼまたは前記ホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質の層で被覆した微量滴定プレートのウェルに添加し、遊離したα−エレオステアリン酸を前記水溶液中のミセル相に可溶化すること、
− 前工程中に遊離されたα−エレオステアリン酸の紫外線吸収スペクトルを、分光光度測定することによって、リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性を検出および/または測定すること、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
リパーゼまたはホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質が、以下:
− 一般式、
【化1】


(式中、R、R、Rは、約12〜20個、好ましくは18個の炭素原子を含み、場合により1以上の不飽和を有する、同一のまたは異なる脂肪酸の残基を表す)
のキリ油の精製トリグリセリド、
− 目的のリパーゼまたはホスホリパーゼの位置選択性の種類に応じて適切な位置に、1個または2個のα−エレオステアラート鎖を含む、ジグリセリドおよびモノグリセリド、またはコレステロールエステルもしくはリン脂質、
− 次式のシトロネロールα−エレオステアラート、
【化2】


− あるいは、他のアルコールまたはプロキラルまたはキラルな医薬素材の分子(例えばプロパノロール、ソタロールもしくはカルベジロール)または工業素材の分子(例えばメントール)とのα−エレオステアラートの酸エステル、
から選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リパーゼまたはホスホリパーゼを含有する可能性のある試料を微量滴定プレートのウェルに添加する前に、トリスおよび胆汁塩(NaTDC)と、適切であればβ−シクロデキストリンとから構成される緩衝液を、脂質基質で被覆された該微量滴定プレートのウェルに添加する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
脂質基質で被覆された微量滴定プレートを、
− 脂質基質を溶液中に含む組成物を、真空下で留去可能な適切な溶媒、例えばヘキサンまたは石油エーテルに添加すること、適切であれば、前記プレートのウェルを前記溶媒で洗浄した後に、この添加を行うこと、
− 前記溶媒を真空下で留去し、厚さ約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの前記脂質基質の被覆を微量滴定プレートのウェルの壁に形成すること、
によって得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
リパーゼを含有する試料が、ヒトまたは動物から採取された血液試料であることを特徴とする、ヒトまたは動物の血漿リパーゼ過剰症をインビトロで測定するための請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
ヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度の上昇に関連する病理を、健常なヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度との対比においてインビトロ診断するための、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法の利用。
【請求項7】
− ヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度の上昇を特徴とする膵臓疾患、例えば急性膵炎、慢性膵炎を、健常なヒトまたは動物における血漿リパーゼ濃度との対比において、
− または腎不全、腹部外傷(虚血、腸間膜梗塞、腸穿孔、腸閉塞)を、
インビトロ診断するにあたり、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法の、請求項6記載の利用。
【請求項8】
リパーゼまたはホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質で被覆したウェルを含む微量滴定プレートの製造方法であって、以下の工程:
− 脂質基質を、真空下で留去可能な適切な溶媒、例えばヘキサンまたは石油エーテル中の溶液に含む組成物を、上記プレートのウェルに添加すること、適切であれば、前記プレートのウェルを前記溶媒で洗浄した後に、この添加を行うこと、
− 前記溶媒を真空下で留去させ、厚さ約0.5〜約5μm、好ましくは約1μmの前記脂質基質の被覆を微量滴定プレートのウェルの壁に形成すること、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8の方法によって得られるリパーゼまたはホスホリパーゼによって加水分解されてα−エレオステアリン酸を遊離可能な脂質基質で被覆したウェルを含む微量滴定プレートであって、微量滴定プレートのウェルの壁に形成される前記脂質基質の被覆が、厚さ約0.5〜5μm、好ましくは1μmである微量滴定プレート。
【請求項10】
リパーゼ活性またはホスホリパーゼ活性をインビトロで検出および/または測定する請求項1〜7のいずれか一項記載の方法を実施するための、または、脂肪分解酵素の阻害剤をスクリーニングする方法を実施するための、請求項9記載のプレートの使用。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−529512(P2008−529512A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554602(P2007−554602)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000310
【国際公開番号】WO2006/085009
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】