説明

リフティングマグネット式建設機械

【課題】 電動発電機が何らかの異常により発電不能となった場合においても、リフマグを駆動可能なように制御を行なうリフマグ式建設機械を提供することを課題とする。
【解決手段】 異常判定部30Aはエンジン回転数検出器11Aの検出値に基づいてエンジン11及び変速機13での異常の発生を判定する。異常時制御部30Bは、異常判定部30Aから異常発生信号を受けて異常時制御を行なう。異常時制御部30Bは、異常判定部30Aにより異常発生が判定されてからもリフティングマグネット200に電力を供給し続けるよう蓄電装置19,100を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネットを作業要素として有するリフティングマグネット式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業要素としてリフティングマグネットを有し、蓄電器から供給される電力及び電動発電機から供給される電力でリフティングマグネットを駆動するハイブリッド型リフティングマグネット式建設機械が知られている。ハイブリッド型リフティングマグネット式建設機械は、一般的に、リフティングマグネットを移動するためのブーム及びアーム等の作業要素を油圧駆動するための油圧ポンプを備えている。油圧ポンプを駆動するためのエンジンに変速機を介して電動発電機が接続され、電動発電機でエンジンの駆動をアシストするとともに、電動発電機による発電によって得られる電力を蓄電装置に充電する。以下、リフティングマグネットを略してリフマグと称する。
【0003】
バケットの代わりにリフマグを装着可能なハイブリッド型ショベルにおいて、電動発電機及び蓄電器の少なくとも一方からリフマグに電力を供給することが提案されている。例えば、リフマグ作業モードの場合、エンジン駆動に基づき電動発電機で発電した交流電流を直流電流に変換してリフマグに供給し、この電流が設定電流より低くなると、バッテリからリフマグに電力を供給するといった制御を行なうハイブリッド型ショベルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−38503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リフマグ式建設機械において、アシスト用の電動発電機が何らかの異常により発電不能となった場合に異常処理としてリフマグ式建設機械の全ての制御を停止してしまうと、リフマグへの電力供給も停止されてしまう。リフマグは重力物を運搬するために用いられることが多く、異常発生時にもリフマグだけは機能させておくことが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、電動発電機が何らかの異常により発電不能となった場合においても、リフマグを駆動可能なように制御を行なうリフマグ式建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様によれば、エンジンと、変速機を介して該エンジンに連結された電動発電機と、該電動発電機が発生した電力を蓄積する蓄電装置と、該蓄電装置から電力の供給を受けて励磁される電磁石を有するリフティングマグネットと、前記電動発電機と前記蓄電装置とを制御する制御部と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出器と、該エンジン回転数検出器の検出値に基づいて異常の発生を判定する異常判定部と、該異常判定部から異常発生信号を受けて異常時制御を行なう異常時制御部とを有し、前記異常時制御部は、前記異常判定部により異常発生が判定されてからも前記リフティングマグネットに電力を供給し続けるよう前記蓄電装置を制御することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械が提供される。
【0008】
上述のリフティングマグネット式建設機械において、前記電動発電機の回転数を検出する電動発電機回転数検出器をさらに有し、前記異常判定部は、前記エンジン回転数検出器の検出値と前記電動発電機回転数検出器の検出値とに基づいて異常の発生を判定することとしてもよい。また、前記異常判定部は、前記エンジン回転数検出器の検出値と前記電動発電機回転数検出器の検出値とを比較し、比較結果に基づいて異常の発生を判定することとしてもよい。
【0009】
また、本発明の他の実施態様によれば、エンジンと、変速機を介して該エンジンに連結された電動発電機と、該電動発電機が発生した電力を蓄積する蓄電装置と、該蓄電装置から電力の供給を受けて励磁される電磁石を有するリフティングマグネットと、前記電動発電機と前記蓄電装置とを制御する制御部と、前記変速機の温度を検出する温度検出器と、
該温度検出器の検出値に基づいて異常の発生を判定する異常判定部と、該異常判定部から異常発生信号を受けて異常時制御を行なう異常時制御部とを有し、前記異常時制御部は、前記異常判定部により異常発生が判定されてからも前記リフティングマグネットに電力を供給し続けるよう前記蓄電装置を制御することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動発電機がエンジンや変速機の異常により発電不能となった場合においても、リフマグが駆動可能な状態に制御されるので、リフマグによる作業の途中で異常時制御が行なわれても、リフマグ作業を安全な状態で中止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるリフマグ式建設機械の一例であるハイブリッド型リフマグ式ショベルの側面図である。
【図2】図1に示すリフマグ式ショベルの構成を示すブロック図である。
【図3】リフマグ式ショベルに用いられている蓄電系の詳細図である。
【図4】リフマグ式ショベルの異常発生前後におけるリフマグの駆動制御のパターンを概念的に示すタイムチャートである。
【図5】変速機が焼き付きを起こして異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。
【図6】変速機内の歯車が破損して異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。
【図7】変速機の温度が過度に上昇して温度異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は本発明によるリフマグ式建設機械の一例であるハイブリッド型リフマグ式ショベルの側面図である。図1に示すリフマグ式ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3からはブーム4が延在し、ブーム4の先端にアーム5が設けられ、アーム5の先端にリフマグ(リフティングマグネット)200が装着される。ブーム4はブームシリンダ7により油圧駆動され、アーム5はアームシリンダ8により油圧駆動され、リフマグ200はバケットシリンダ9により油圧駆動される。また、上部旋回体3には、操縦者が乗り込むキャビン10が設けられ、且つ動力源としてエンジンや電動発電機が搭載される。
【0014】
図2は、図1に示すリフマグ式ショベルの構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系を二重線、高圧油圧ラインを太実線、パイロットラインを破線、電気駆動・制御系を細実線でそれぞれ示す。
【0015】
機械式駆動部としてのエンジン11と、発電用電動機及びアシスト用電動機としての電動発電機12は、ともに変速機13の入力軸に接続されている。変速機13の出力軸には、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。
【0016】
コントロールバルブ17は油圧系の制御を行う制御装置である。コントロールバルブ17には、下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続される。
【0017】
電動発電機12には、インバータ18A及び蓄電制御部としての昇降圧コンバータ100を介して蓄電器としてのバッテリ19が接続される。
【0018】
蓄電系には、インバータ18Bを介してリフマグ(リフティングマグネット)200が接続されている。リフマグ200は、電磁石により磁性物を吸着して保持する吸着器である。すなわち、リフマグ200は金属物を磁気的に吸着するための磁気吸着力を発生する電磁石を含んでいる。リフマグ200には、インバータ18Bを介して蓄電系から電力が供給される。
【0019】
また、蓄電系には、インバータ20を介して作業用電動機としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21は、旋回機構2の動力源であり、上部旋回体3を右方向又は左方向に回転させるための駆動制御が行われる。蓄電系は、リフマグ200、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間で電力の授受を行うために配設されている。
【0020】
旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。旋回用電動機21、インバータ20、レゾルバ22、及び旋回用減速機24とで負荷駆動系を構成する。
【0021】
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26C、及びボタンスイッチ26Dを含み、レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cには、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29がそれぞれ接続される。圧力センサ29には、電気系の駆動制御を行うコントローラ30が接続されている。
【0022】
説明の便宜上、図2においてボタンスイッチ26Dは操作装置26から分離した状態で示されているが、ボタンスイッチ26Dは操作者の右側に位置するレバー26Aの頂部に配設される押ボタンスイッチである。ボタンスイッチ26Dは、コントローラ30に電気的に接続される。ボタンスイッチ26Dはリフティングマグネット200の操作(励磁(吸着)又は消磁(釈放)の切替操作)を行うためのボタンスイッチである。また、励磁用と消磁用のスイッチは別々であってもよく、操作者の左前方にあるレバー26Bに励磁用スイッチを取り付け、操作者の右前方にあるレバー26Aに励磁用のスイッチを取り付けてもよい。
【0023】
次に、リフマグ式ショベルの機械系の構成について説明する。
【0024】
エンジン11は、例えば、ディーゼルエンジンで構成される内燃機関であり、その出力軸は変速機13の一方の入力軸に接続される。エンジン11は、リフマグ式ショベルの運転中は常時運転される。エンジン11には、回転数を検出する回転数検出器11Aが設けられている。回転数検出器11Aが検出したエンジン11の回転数は、コントローラ30に入力される。
【0025】
電動発電機12は、電動(アシスト)運転及び発電運転の双方が可能な電動機である。ここでは、電動発電機12として、インバータ20によって交流駆動される電動発電機を示す。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)モータで構成することができる。電動発電機12の回転軸は変速機13の他方の入力軸に接続される。電動発電機12には、電動発電系の異常検出部としての温度センサ12Aが設けられており、温度センサ12Aが検出した電動発電機12の温度はコントローラ30に入力される。電動発電機12に負荷がかかると温度センサ12Aの温度検出値が上昇する。これにより、温度センサ12Aの温度検出値が高すぎると、電動発電機12が過負荷状態であることを把握することができる。また、電動発電機12には、回転数を検出する回転数検出器12Bが設けられている。回転数検出器12Bが検出した電動発電機12の回転数は、コントローラ30に入力される。
【0026】
変速機13は、2つの入力軸と1つの出力軸とを有する。2つの入力軸の各々には、エンジン11の駆動軸と電動発電機12の駆動軸が接続される。出力軸にはメインポンプ14の駆動軸が接続される。エンジン11への負荷が大きい場合には、電動発電機12が電動(アシスト)運転を行い、電動発電機12の駆動力が変速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。これによりエンジン11の駆動がアシストされる。一方、エンジン11の負荷が小さい場合は、エンジン11の駆動力が変速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電運転して発電を行う。電動発電機12の電動運転と発電運転の切り替えは、コントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0027】
変速機13は、2つの入力軸と1つの出力軸との間で歯車を介して動力を伝達する動力伝達機である。歯車の駆動により変速機13の内部で温度上昇が生じるので、変速機13の温度を管理するために、変速機13には温度センサ13Aが設けられる。温度センサ13Aにより検出した変速機13Aの温度はコントローラ30に入力される。
【0028】
メインポンプ14は、コントロールバルブ17に供給するための油圧を発生する油圧ポンプである。メインポンプ14で発生した油圧は、コントロールバルブ17を介して油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々を駆動するために供給される。
【0029】
パイロットポンプ15は、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生するポンプである。油圧操作系の構成については後述する。
【0030】
コントロールバルブ17は、高圧油圧ラインを介して接続される下部走行体1用の油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々に供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御することにより、これらを油圧駆動制御する油圧制御装置である。
【0031】
インバータ18Aは、電動発電機12と蓄電系との間に設けられ、コントローラ30からの制御指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う電動発電機12の駆動制御部である。これにより、インバータ18Aが電動発電機12を電動運転している際には、必要な電力を蓄電系を介して電動発電機12に供給する。また、電動発電機12を発電運転している際には、電動発電機12により発電された電力を蓄電系を介してバッテリ19に充電する。電動発電機12とインバータ18とで電動発電系を構成している。
【0032】
インバータ18Bは、リフマグ200と蓄電系との間に設けられ、コントローラ30からの制御指令に基づき、電磁石をオンにする際には、リフマグ200へ要求された電力を蓄電器より供給するリフマグ200の駆動制御部である。また、電磁石をオフにする場合には、回生された電力を蓄電系に供給する。インバータ18Bとリフティングマグネット200とにより吸着系を構成する。
【0033】
バッテリ19は、昇降圧コンバータ100を介してインバータ18A、インバータ18B、及びインバータ20に接続されている蓄電器である。バッテリ19と昇降圧コンバータ100とで蓄電装置を構成する。バッテリ19は、電動発電機12の電動(アシスト)運転と旋回用電動機21の力行運転との少なくともどちらか一方が行われている際、又は、リフマグ200を励磁する(オンにする)際には、必要な電力を供給する。また、バッテリ19は、電動発電機12の発電運転と旋回用電動機21の回生運転の少なくともどちらか一方が行われている際、又は、リフティングマグネット200を消磁する(オフにする)ときに回生電力が発生している際には、発電運転又は回生運転によって発生した電力を電気エネルギとして蓄積する。
【0034】
なお、蓄電系には、インバータ18A、18B、及び20を介して、電動発電機12、リフマグ200、及び旋回用電動機21が接続されているため、電動発電機12で発電された電力がリフマグ200又は旋回用電動機21に直接的に供給される場合がある。また、リフマグ200で回生された電力が電動発電機12又は旋回用電動機21に供給される場合もある。さらに、旋回用電動機21で回生された電力が電動発電機12又はリフマグ200に供給される場合もある。バッテリ19と昇降圧コンバータ100とで蓄電系を構成している。
【0035】
インバータ20は、旋回用電動機21と昇降圧コンバータ100との間に設けられ、コントローラ30からの制御指令に基づき、旋回用電動機21に対して運転制御を行う旋回用電動機21の駆動制御部である。これにより、インバータが旋回用電動機21の力行を運転制御している際には、必要な電力を蓄電系から旋回用電動機21に供給する。また、旋回用電動機21が回生運転をしている際には、旋回用電動機21により発電された電力を蓄電系へ充電する。
【0036】
電動発電機12が電動(アシスト)運転を行う場合には、インバータ18Aを介して電動発電機12に電力を供給する必要があるため、DCバス電圧値を昇圧する必要がある。一方、電動発電機12が発電運転を行う場合には、発電された電力をインバータ18Aを介してバッテリ19に充電する必要があるため、DCバス電圧値を降圧する必要がある。
【0037】
これは、リフマグ200の励磁(オン)と消磁(オフ)、及び旋回用電動機21の力行運転と回生運転においても同様である。電動発電機12はエンジン11の負荷状態に応じて運転状態が切り替えられ、リフマグ200は作業状態において駆動状態(励磁と消磁)が切り替えられ、さらに、旋回用電動機21は上部旋回体3の旋回動作に応じて運転状態が切り替えられる。
【0038】
このため、電動発電機12、リフマグ200、及び旋回用電動機21には、いずれかに蓄電系を介して電力供給が行われ、いずれかから蓄電系に電力供給が行う状況が生じる。したがって、昇降圧コンバータ100は、電動発電機12、リフマグ200、及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値を一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える制御を行う。
【0039】
蓄電系は、3つのインバータ18A、18B、及び20と昇降圧コンバータとの間に配設されており、バッテリ19、電動発電機12、リフマグ200、及び旋回用電動機21の間で電力の授受を行う。
【0040】
旋回用電動機21は、力行運転及び回生運転の双方が可能な電動作業要素としての電動機であればよく、上部旋回体3の旋回機構2を駆動するために設けられている。力行運転の際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が減速機24にて増幅され、上部旋回体3が加減速制御され回転運動を行う。また、上部旋回体3の慣性回転により、減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させることができる。ここでは、旋回用電動機21として、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ20によって交流駆動される電動機を示す。この旋回用電動機21は、例えば、磁石埋込型のIPMモータで構成することができる。これにより、より大きな誘導起電力を発生させることができるので、回生時に旋回用電動機21にて発電される電力を増大させることができる。
【0041】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサであり、旋回用電動機21と機械的に連結することで旋回用電動機21の回転前の回転軸21Aの回転位置と、左回転又は右回転した後の回転位置との差を検出することにより、回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出するように構成されている。旋回用電動機21の回転軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構2の回転角度及び回転方向が導出される。また、図2にはレゾルバ22を取り付けた形態を示すが、電動機の回転センサを有しないインバータ制御方式を用いてもよい。
【0042】
メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。このメカニカルブレーキ23は、電磁式スイッチにより制動/解除が切り替えられる。この切り替えは、コントローラ30によって行われる。
【0043】
旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を減速して旋回機構2に機械的に伝達する減速機である。これにより、力行運転の際には、旋回用電動機21の回転力を増力させ、より大きな回転力として旋回体へ伝達することができる。これとは逆に、回生運転の際には、旋回体で発生した回転数を増加させ、より多くの回転動作を旋回用電動機21に発生させることができる。
【0044】
旋回機構2は、旋回用電動機21のメカニカルブレーキ23が解除された状態で旋回可能となり、これにより、上部旋回体3が左方向又は右方向に旋回される。
【0045】
操作装置26は、旋回用電動機21、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6を操作するための操作装置であり、レバー26A、レバー26B、ペダル26C、及びボタンスイッチ26Dを含む。レバー26A、レバー26B、ペダル26C、及びボタンスイッチ26Dは、キャビン10内の運転席の前方に配設されている。
【0046】
レバー26Aは、旋回用電動機21及びアーム5を操作するためのレバーであり、レバー26Bは、ブーム4及びバケット6を操作するためのレバーである。また、ペダル26Cは、下部走行体1を操作するための一対のペダルであり、運転席の足下に設けられる。ボタンスイッチ26Dは、リフマグ200の操作(励磁(吸着)又は消磁(釈放)の切替操作)を行うためのスイッチであり、レバー26Aの頂部に配設され、運転者が例えば右手親指で容易に切替操作を行えるように構成されている。
【0047】
操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)をレバー26A、26B、及びペダル26Cの操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。操作装置26は、ボタンスイッチ26Dに入力されるリフマグ200の操作内容(励磁(吸着)又は消磁(釈放))を表す電気信号をコントローラ30に伝達する。
【0048】
レバー26A及び26Bとペダル26Cの各々が操作されると、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17が駆動され、これにより、油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9内の油圧が制御されることによって、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6が駆動される。ボタンスイッチ26Dが操作されると、リフマグ200の駆動状態(励磁(吸着)又は消磁(釈放))が切り替えられる。
【0049】
なお、油圧ライン27は、油圧モータ1A及び1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の駆動に必要な油圧をコントロールバルブ17に供給する。
【0050】
旋回用操作検出部としての圧力センサ29では、操作装置26に対して旋回機構2を旋回させるための操作が入力されると、この操作量を油圧ライン28内の油圧の変化として検出する。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。これにより、操作装置26に入力される旋回機構2を旋回させるための操作量を的確に把握することができる。この電気信号は、コントローラ30に入力され、旋回用電動機21の駆動制御に用いられる。また、実施の形態1では、レバー操作検出部としての圧力センサを用いる形態について説明するが、操作装置26に入力される旋回機構2を旋回させるための操作量をそのまま電気信号で読み取るセンサを用いてもよい。
【0051】
コントローラ30は、リフマグ式ショベルの駆動制御を行う制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納される駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。 コントローラ30は、圧力センサ29から入力される信号のうち、旋回機構2を旋回させるための操作量を表す信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。また、コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)、リフマグ200の駆動制御(励磁(オン)と消磁(オフ)の切り替え)、及び、昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるバッテリ19の充放電制御を行う。コントローラ30は、バッテリ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、リフティングマグネット200の駆動状態(励磁(オン)と消磁(オフ))、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御を行い、これによりバッテリ19の充放電制御を行う。
【0052】
また、コントローラ30は、エンジン11や変速機13の故障等により電動発電機12が発電すべきであるのに発電できなくなった異常状態を判定するための異常判定部30Aと、異常判定部30Aが異常状態と判定した際に異常時制御処理を行なう異常時制御部30Bとを有している。
【0053】
上述の異常状態として、例えば、変速機13が焼き付きを起こして作動不能となった状態がある。この状態では、変速機13がロックされるため変速機13に機械的に接続されているエンジン11の駆動も停止し(エンスト)、且つ、電動発電機12の駆動も停止してしまう。したがって、電動発電機12による発電が行なわれなくなり、バッテリ19に充電できなくなってしまう。
【0054】
また、上述の異常状態として、例えば、変速機13の歯車の歯が無くなってしまった状態がある。この状態では、エンジン11が駆動しても変速機13の入力軸が空回りするだけで、駆動力を電動発電機12に伝達することができない。したがって、エンジン11を駆動しても電動発電機12による発電が行なわれなくなり、バッテリ19に充電できなくなってしまう。
【0055】
さらに、上述の異常状態として、例えば、変速機13が過負荷となって発熱し、変速機13の温度が予め定められた上限温度を超えた状態がある。変速機13が過熱状態となると、電動発電機12の制御が停止され(サーボオフ)、要求された電力を発電できなくなる。すなわち、電動発電機12は空回り状態となり、電動発電機12が発生する電圧は誘起電圧のみとなる。したがって、エンジン11を駆動しても電動発電機12による発電は十分に行なわれなくなり、バッテリ19に充電できなくなってしまう。
【0056】
異常判定部30Aは、以上のような異常状態が発生したと判定したら、以上状態を示す異常信号を異常時制御部30Bに送る。異常時制御部30Bは、異常信号を受けると、異常時制御を行なう。異常時制御では、リフマグ200への電力供給のみを継続し、他の電気負荷への電力の供給を停止する。異常状態ではバッテリ19への充電が行なわれないが、バッテリ19に蓄電されている分だけはDCバス11に放出することができる。そこで、リフマグ200への電力供給はバッテリ19に蓄積されている電力をDCバス11に放出させることでまかなう。
【0057】
異常時制御での動作は後述することとし、次に蓄電系について説明する。図3は、リフマグ式ショベルに用いられている蓄電系の詳細図である。
【0058】
昇降圧コンバータ100は、一側がDCバス110を介して電動発電機12、リフマグ200、及び旋回用電動機21に接続されるとともに、他側がバッテリ19に接続されており、DCバス電圧値が一定の範囲内に収まるように昇圧又は降圧を切り替える制御を行う。
【0059】
昇降圧コンバータ100は、リアクトル101、昇圧用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)102A、降圧用IGBT102B、バッテリ19を接続するための電源接続端子104、インバータ105を接続するための出力端子106、及び、一対の出力端子106に並列に挿入される平滑用のコンデンサ107を備える。コンバータ100の出力端子106とインバータ105との間は、DCバス110によって接続される。インバータ105は、インバータ18A、18B、20に相当する。また、昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102BをPWM駆動するコントローラ30の図示を省略する。
【0060】
昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧検出部111によって検出されるDCバス電圧値、バッテリ電圧検出部112によって検出されるバッテリ電圧値、及びバッテリ電流検出部113によって検出されるバッテリ電流値に基づいて行われる。
【0061】
リアクトル101は、一端が昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bの中間点に接続されるとともに、他端が電源接続端子104に接続されており、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴って生じる誘導起電力をDCバス110に供給するために設けられている。
【0062】
昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)をゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタで構成され、大電力の高速スイッチングが可能な半導体素子である。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、後述する昇降圧コンバータの駆動制御装置からゲート端子にPWM電圧が印加されることによって駆動される。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bには、整流素子であるダイオード102a及び102bが並列接続される。
【0063】
バッテリ19は、昇降圧コンバータ100を介してDCバス110との間で電力の授受が行えるように、充放電可能な蓄電器であればよい。なお、図3には、蓄電器としてバッテリ19を示すが、バッテリ19の代わりに、コンデンサ、充放電可能な二次電池、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源を蓄電器として用いてもよい。
【0064】
バッテリ19の充放電制御は、バッテリ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、リフマグ200の駆動状態、旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づき、昇降圧コンバータ100によって行われる。この昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧検出部111によって検出されるDCバス電圧値、バッテリ電圧検出部112によって検出されるバッテリ電圧値、及びバッテリ電流検出部113によって検出されるバッテリ電流値に基づき、コントローラ30によって行われる。
【0065】
バッテリ電圧検出部112は、バッテリ19の電圧値(vbat_det)を検出し、DCバス電圧検出部111は、DCバス110の電圧(以下、DCバス電圧:vdc_det)を検出する。
【0066】
DCバス電圧検出部111は、DCバス電圧値を検出するための電圧検出部である。検出されるDCバス電圧値はコントローラ30に入力され、このDCバス電圧値を一定の範囲内に収めるための昇圧動作と降圧動作の切替制御を行うために用いられる。
【0067】
バッテリ電圧検出部112は、バッテリ19の電圧値を検出するための電圧検出部であり、バッテリの充電状態を検出するために用いられる。検出されるバッテリ電圧値は、コントローラ30に入力され、昇降圧コンバータ100の昇降圧制御の応答性が向上するように昇圧動作と降圧動作の切替制御を行うために用いられる。そして、DCバス電圧検出部111とバッテリ電圧検出部112とは、昇降圧コンバータ100とバッテリ19との間で断線異常が発生すると、バッテリ電圧検出部112とDCバス電圧検出部111との電圧値を比較することで、異常の発生と異常発生箇所の特定を行うことができる異常検出部としても機能する。
【0068】
バッテリ電流検出部113は、バッテリ19の電流値を検出するための電流検出部である。バッテリ電流値は、バッテリ19から昇降圧コンバータ100に流れる電流を正の値として検出される。検出されるバッテリ電流値は、コントローラ30に入力され、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御を行うために用いられる。そして、バッテリ電流検出部113は、蓄電系の異常検出部としても機能する。
【0069】
電源接続端子104及び出力端子106は、バッテリ19及びインバータ105が接続可能な端子であればよい。一対の電源接続端子104の間には、バッテリ電圧を検出するバッテリ電圧検出部112が接続される。一対の出力端子106の間には、DCバス電圧を検出するDCバス電圧検出部111が接続される。
【0070】
平滑用のコンデンサ107は、出力端子106の正極端子と負極端子との間に挿入され、DCバス電圧を平滑化できる蓄電素子であればよい。
【0071】
バッテリ電流検出部113は、バッテリ19に通流する電流の値を検出可能な検出手段であればよく、電流検出用の抵抗器を含む。バッテリ電流検出部113は、バッテリ19に通流する電流値(ibat_det)を検出する。
【0072】
以上のような昇降圧コンバータ100において、DCバス110を昇圧する際には、昇圧用IGBT102Aのゲート端子にPWM電圧を印加し、降圧用IGBT102Bに並列に接続されたダイオード102bを介して、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴ってリアクトル101に発生する誘導起電力をDCバス110に供給する。これにより、DCバス110が昇圧される。
【0073】
また、DCバス110を降圧する際には、降圧用IGBT102Bのゲート端子にPWM電圧を印加し、降圧用IGBT102B、インバータ105を介して供給される回生電力をDCバス110からバッテリ19に供給する。これにより、DCバス110に蓄積された電力がバッテリ19に充電され、DCバス110が降圧される。
【0074】
なお、図3では、昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102BをPWM駆動するコントローラ30を省略したが、コントローラ30は、電子回路又は演算処理装置のいずれでも実現することができる。
【0075】
図4は、リフマグ式ショベルの異常発生前後におけるリフマグ200の駆動制御のパターンを概念的に示すタイムチャートである。
【0076】
図4に示すように、時刻t=t1で、変速機13、エンジン11、及びそれらの間の動力伝達系のいずれかに異常が発生したとする。
【0077】
時刻t=t1以前にリフマグ200が励磁されていた(吸着力を発生していた)場合は、L1及びL2で示すように、時刻t=t1以後も励磁状態(吸着状態)が維持される。この場合、実線L1で示すように励磁(吸着)状態を維持することができる。あるいは、操作者が消磁(釈放)の操作を行なった場合は、破線L2で示すようにリフマグ200は消磁(釈放)される。
【0078】
一方、時刻t=t1以前にリフティングマグネット200が消磁(釈放)されていた場合で、時刻t=t1以後も励磁(吸着)の操作がない場合は、実線L4で示すように消磁(釈放)状態が継続される。また、時刻t=t1以後に、励磁(吸着)の操作があった場合は、点線L3で示すようにリフマグ200への励磁(吸着)の操作切り替えは禁止される。このように、本実施形態によるリフマグ式ショベルにおいては、異常状態が発生したと判定された後にリフマグ200を励磁(吸着)状態に切り替えることはできない。
【0079】
図5は、変速機13が焼き付きを起こして異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。すなわち、図5は、変速機13がロックされて動作できなくなり、その結果エンジン11がエンストするという異常が発生する前後の各部の状態を示すグラフである。
【0080】
図5(a)はDCバス110の電圧値VDCの変化、バッテリ19の電圧値VBATの変化、及び電動発電機12の電圧値VASMの変化を示すグラフである。変速機13が焼き付きを起こしてロックするという異常が時刻t1で発生すると、図5(c)に示すようにエンジン11が停止(エンスト)するので、図5(d)に示すようにエンジン11に直結している電動発電機12の運転も停止する。すなわち、コントローラ30の異常判定部30Aはエンジン11の回転数を監視しており、図5(c)に示すようにエンジン11の運転中に回転数が突然ゼロになると、異常が発生したと判定し、異常発生信号を生成して異常時制御部30Bに送る。異常時制御部30Bは、異常発生信号を受けると、通常の制御を異常時制御に切り替える。
【0081】
図5(a)に示す例では、異常発生前(時刻t1より前)には電動発電機12は発電運転をしていたので、電動発電機12の電圧値VASMは電動発電機誘起電圧値Vであった。しかし、異常発生により電動発電機12の発電運転はできなくなり、異常発生の時刻t1において電動発電機12の電圧値VASMは突然ゼロとなる。
【0082】
異常が発生する前は通常の制御が行なわれており、DCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vとなっている。本実施形態では、コントローラ30の異常判定部30Aが異常発生と判定すると、異常時制御部30Bが異常時制御を行ない、電気負荷への通電を停止するが、リフマグ200への通電だけは継続する。したがって、異常が発生した後もDCバス11の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。なお、リフマグ200への通電を継続するために、図5(b)に示すように、バッテリ19からDCバス110に供給する電圧を制御する昇降圧コンバータ100も動作を続けるように制御される。なお、バッテリ19と昇降圧コンバータ100とで蓄電装置を構成しており、異常の発生が判定されてからの異常時制御では、異常発生後もリフマグ200に電力を供給し続けるように蓄電装置を制御することとなる。
【0083】
電動発電機12からの電力供給無しでリフマグ200への通電が続けられるので、バッテリ19からの電力供給のみでDCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。したがって、バッテリ19に蓄積された電力は、異常発生の時刻t1以降は急激に減少し、バッテリ19の電圧値VBATは、時刻t1以降にバッテリ電圧初期値Vから大きく低下していくこととなる。
【0084】
時刻t1において異常発生すると、操作者はリフマグ200による運搬作業を中止し、リフマグ200で吸着・保持している運搬物を安全な場所に移動する。そして、図5(f)に示すように、時刻t2において、操作者は操作装置26のボタンスイッチ26Dを操作し、リフマグ200の吸着動作を停止する。これにより、図5(e)に示すようにリフマグ200は動作状態(吸着状態)から停止状態となり、運搬物の吸着・保持が安全な状態で解除される。図4に示すように、異常時制御では吸着をONにすることはできないが、吸着をOFFすることはできるため、操作者は異常発生後の任意の時刻(時刻t2)に操作装置26のボタンスイッチ26Dを操作してリフマグ200の吸着動作を停止することができる。
【0085】
なお、図5に示す例は、変速機13が故障して異常が発生した場合であるが、例えば運転中にエンジン11の燃料が無くなってエンジン11が突然停止したような場合にも同様な動作及び制御となる。
【0086】
図6は、変速機13内の歯車が破損して異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。すなわち、図6は、変速機13の入力軸が空回りして出力軸に動力が伝達されなくなり、その結果、電動発電機12を運転することができなくなるという異常が発生する前後の各部の状態を示すグラフである。
【0087】
図6(a)はDCバス110の電圧値VDCの変化、バッテリ19の電圧値VBATの変化、及び電動発電機12の電圧値VASMの変化を示すグラフである。変速機13の歯車が損傷して入力軸が空回りし出力軸に動力が伝達されないという異常が時刻t1で発生すると、図6(c)に示すようにエンジン11が運転しているのにもかかわらず、図6(d)に示すように電動発電機12の運転が停止する。コントローラ30の異常判定部30Aはエンジン11の回転数と電動発電機12の回転数とを監視しており、図5(c)に示すようにエンジン11の回転数が検出されているのにもかかわらず、図6(d)に示すように電動発電機12の回転数が突然ゼロになると、異常が発生したと判定し、異常発生信号を生成して異常時制御部30Bに送る。異常時制御部30Bは、異常発生信号を受けると、通常の制御を異常時制御に切り替える。
【0088】
図6(a)に示す例では、異常発生前(時刻t1より前)には電動発電機12は発電運転をしていたので、電動発電機12の電圧値VASMは電動発電機誘起電圧値Vであった。しかし、異常発生により電動発電機12の発電運転はできなくなり、異常発生の時刻t1において電動発電機12の電圧値VASMは突然ゼロとなる。
【0089】
異常が発生する前は通常の制御が行なわれており、DCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vとなっている。本実施形態では、コントローラ30の異常判定部30Aが異常発生と判定すると、異常時制御部30Bが異常時制御を行ない、電気負荷への通電を停止するが、リフマグ200への通電だけは継続する。したがって、異常が発生した後もDCバス11の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。なお、リフマグ200への通電を継続するために、図6(b)に示すように、バッテリ19からDCバス110に供給する電圧を制御する昇降圧コンバータ100も動作を続けるように制御される。なお、バッテリ19と昇降圧コンバータ100とで蓄電装置を構成しており、異常の発生が判定されてからの異常時制御では、異常発生後もリフマグ200に電力を供給し続けるように蓄電装置を制御することとなる。
【0090】
電動発電機12からの電力供給無しでリフマグ200への通電が続けられるので、バッテリ19からの電力供給のみでDCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。したがって、バッテリ19に蓄積された電力は、異常発生の時刻t1以降は急激に減少し、バッテリ19の電圧値VBATは、時刻t1以降にバッテリ電圧初期値Vから大きく低下していくこととなる。
【0091】
時刻t1において異常発生すると、操作者はリフマグ200による運搬作業を中止し、リフマグ200で吸着・保持している運搬物を安全な場所に移動する。そして、図6(f)に示すように、時刻t2において、操作者は操作装置26のボタンスイッチ26Dを操作し、リフマグ200の吸着動作を停止する。これにより、図6(e)に示すようにリフマグ200は動作状態(吸着状態)から停止状態となり、運搬物の吸着・保持が安全な状態で解除される。図4に示すように、異常時制御では吸着をONにすることはできないが、吸着をOFFすることはできるため、操作者は異常発生後の任意の時刻(時刻t2)に操作装置26のボタンスイッチ26Dを操作してリフマグ200の吸着動作を停止することができる。
【0092】
なお、図6に示す例は、変速機13が故障して異常が発生した場合であるが、例えば運転中にエンジン11から電動発電機12への動力伝達系に故障が発生し、エンジン11は運転しているが電動発電機12が運転できなくなったような場合にも同様な動作及び制御となる。具体的には、変速機13の代わりに動力伝達系として、スプラインでエンジン11と電動発電機12を直線的に結合した構成において、スプライン部が異常となった場合でも適用できる。この場合、シリーズ方式にも適用できる。
【0093】
図7は、変速機13の温度が過度に上昇して温度異常発生となる際のリフマグ式ショベルの各部の状態を示す図である。すなわち、図7は、変速機13が過負荷となって温度が上限温度以上になったため電動発電機12の制御が停止され、電動発電機12が通常の発電運転を行なうことができないという異常が発生する前後の各部の状態を示すグラフである。
【0094】
図7(a)はDCバス110の電圧値VDCの変化、バッテリ19の電圧値VBATの変化、及び電動発電機12の電圧値VASMの変化を示すグラフである。図7(e)に示すように変速機13の温度が異常温度T1を超えて変速機13の温度異常が時刻t1で発生すると、電動発電機12の制御が停止されるので、電動発電機12は発電運転を行なわずに空回りをするので、図7(a)に示すように、電動発電機12の電圧値VASMは時刻t1において電動発電機誘起電圧値Vまで低下する。なお、コントローラ30の異常判定部30Aは、変速機13の温度を監視しており、変速機13の温度が異常温度を超えたら異常発生と判定し、異常発生信号を生成して異常時制御部30Bに送る。異常時制御部30Bは、異常発生信号を受けると、通常の制御を異常時制御に切り替える。
【0095】
変速機13の温度異常が発生しても、図7(c)に示すようにエンジン11は運転を継続する。したがって、図7(d)に示すように、電動発電機12も回転し続ける。ただし、上述のように時刻t1において電動発電機12の制御が停止されるため、電動発電機12の電圧値VASMは時刻t1において電動発電機誘起電圧値Vまで低下する。
【0096】
図7(a)に示す例では、異常発生前(時刻t1より前)には電動発電機12は発電運転をしていたので、電動発電機12の電圧値VASMは電動発電機誘起電圧値Vであった。しかし、異常発生により電動発電機12の発電運転はできなくなり、異常発生の時刻t1において電動発電機12の電圧値VASMは誘起電圧値に低下する。
【0097】
異常が発生する前は通常の制御が行なわれており、DCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vとなっている。本実施形態では、コントローラ30の異常判定部30Aが異常発生と判定すると、異常時制御部30Bが異常時制御を行ない、電気負荷への通電を停止するが、リフマグ200への通電だけは継続する。したがって、異常が発生した後もDCバス11の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。なお、リフマグ200への通電を継続するために、図7(b)に示すように、バッテリ19からDCバス110に供給する電圧を制御する昇降圧コンバータ100も動作を続けるように制御される。すなわち、バッテリ19と昇降圧コンバータ100とで蓄電装置を構成しており、異常の発生が判定されてからの異常時制御では、異常発生後もリフマグ200に電力を供給し続けるように蓄電装置を制御することとなる。
【0098】
電動発電機12からの電力供給無しでリフマグ200への通電が続けられるので、バッテリ19からの電力供給のみでDCバス110の電圧値VDCはDCバス電圧制御値Vに維持される。したがって、バッテリ19に蓄積された電力は、異常発生の時刻t1以降は急激に減少し、バッテリ19の電圧値VBATは、時刻t1以降にバッテリ電圧初期値Vから大きく低下していくこととなる。
【0099】
ここで、温度異常の場合において、電動発電機12の制御を停止すると(発電運転を停止して誘起電圧のみが出力される状態とすると)、変速機13の負荷が減少するため変速機13内で発生する熱が減少する。したがって、時刻t1以降、図7(e)に示すように、変速機13の温度は徐々に下がっていき、解除温度に近づいていく。そして、変速機13の温度は時刻t2において解除温度となる。変速機13の温度が解除温度T2となると、コントローラ30の異常判定部30Aは、異常が無くなったと判定し、異常解除信号を生成して異常時制御部30Bに送る。異常時制御部30Bは、異常解除信号を受けると、異常制御を解除し、通常の制御に戻す。
【0100】
したがって、時刻t2において通常の制御が再び行なわれるため、電動発電機12は発電運転を再開し、図7(a)に示すように、電動発電機12は時刻t2において電動発電機誘起電圧値Vを再び出力するようになる。
【0101】
以上のように、時刻t1において変速機13の温度異常が発生しても、リフマグ200への電力供給が継続されるため、操作者はリフマグ200による作業を継続して行なうことができ、時刻t2において通常の制御に戻されるため、引き続きリフマグ200による作業を継続することができる。したがって、操作者は、図7(g)に示すように、リフマグ200による作業を終了してから任意の時刻t3において、操作装置26のボタンスイッチ26Dを操作し、リフマグ200の吸着動作を停止する。これにより、図7(f)に示すようにリフマグ200は時刻t3において動作状態(吸着状態)から停止状態となり、運搬物の吸着・保持が解除される。ここで、本実施形態では、エンジンの回転動力がメインポンプ14と電動発電機12に分けられるパラレル方式のハイブリッド型リフマグ式建設機械について説明したが、エンジン11の回転動力を電動発電機12のみに伝達するシリーズ式のハイブリッド型リフマグ式建設機械に本発明を適用することもできる。その場合、電動発電機12はエンジン11の回転による発電機能のみを行なう。
【0102】
以上、本発明の例示的な実施形態のハイブリッド型リフマグ式建設機械について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 下部走行体
1A、1B 走行機構
2 旋回機構
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
7 ブームシリンダ
7A 油圧管
8 アームシリンダ
9 バケットシリンダ
10 キャビン
11 エンジン
11A 回転数検出器
12 電動発電機
12A 温度センサ
12B 回転数検出器
13 変速機
13A 温度センサ
14 メインポンプ
15 パイロットポンプ
16 高圧油圧ライン
17 コントロールバルブ
18、18A、18B、18C、20、410 インバータ
19 バッテリ
21 旋回用電動機
22 レゾルバ
23 メカニカルブレーキ
24 旋回減速機
25 パイロットライン
26 操作装置
26A、26B レバー
26C ペダル
26D ボタンスイッチ
27 油圧ライン
28 油圧ライン
29 圧力センサ
30 コントローラ
30A 異常判定部
30B 異常時制御部
100 昇降圧コンバータ
101 リアクトル
102A 昇圧用IGBT
102B 降圧用IGBT
103 バッテリ
104 電源接続端子
105 モータ
106 出力端子
107 コンデンサ
110 DCバス
111 DCバス電圧検出部
112 バッテリ電圧検出部
113 バッテリ電流検出部
120 駆動制御部
200 リフティングマグネット
300 発電機
310 油圧モータ
400 ポンプ用電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
変速機を介して該エンジンに連結された電動発電機と、
該電動発電機が発生した電力を蓄積する蓄電装置と、
該蓄電装置から電力の供給を受けて励磁される電磁石を有するリフティングマグネットと、
前記電動発電機と前記蓄電装置とを制御する制御部と、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出器と、
該エンジン回転数検出器の検出値に基づいて異常の発生を判定する異常判定部と、
該異常判定部から異常発生信号を受けて異常時制御を行なう異常時制御部と
を有し、
前記異常時制御部は、前記異常判定部により異常発生が判定されてからも前記リフティングマグネットに電力を供給し続けるよう前記蓄電装置を制御することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械。
【請求項2】
請求項1記載のリフティングマグネット式建設機械であって、
前記電動発電機の回転数を検出する電動発電機回転数検出器をさらに有し、
前記異常判定部は、前記エンジン回転数検出器の検出値と前記電動発電機回転数検出器の検出値とに基づいて異常の発生を判定することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械。
【請求項3】
請求項2記載のリフティングマグネット式建設記載であって、
前記異常判定部は、前記エンジン回転数検出器の検出値と前記電動発電機回転数検出器の検出値とを比較し、比較結果に基づいて異常の発生を判定することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械。
【請求項4】
エンジンと、
変速機を介して該エンジンに連結された電動発電機と、
該電動発電機が発生した電力を蓄積する蓄電装置と、
該蓄電装置から電力の供給を受けて励磁される電磁石を有するリフティングマグネットと、
前記電動発電機と前記蓄電装置とを制御する制御部と、
前記変速機の温度を検出する温度検出器と、
該温度検出器の検出値に基づいて異常の発生を判定する異常判定部と、
該異常判定部から異常発生信号を受けて異常時制御を行なう異常時制御部と
を有し、
前記異常時制御部は、前記異常判定部により異常発生が判定されてからも前記リフティングマグネットに電力を供給し続けるよう前記蓄電装置を制御することを特徴とするリフティングマグネット式建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105454(P2011−105454A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262196(P2009−262196)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】