説明

リポソーム及びX線用造影剤

【課題】(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なリポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供することにある。
【解決手段】下記一般式(1)で表される糖脂質誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有することを特徴とするリポソーム。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリポソーム及びこれを含有するX線用造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤キャリアとして注目されているリポソームの表面に、糖鎖を結合する材料として、糖を修飾した脂質誘導体が盛んに研究されている。
【0003】
京都大学の橋田らはガラクトース、マンノース、フコースをコレステロールに修飾し、これを構成成分とするリポソームが肝臓に特異的に集積することを見出している(例えば、非特許文献1参照)。また、三菱化学社では、スペルミジンをジョイントとして糖とコレステロールを結合した新規化合物を提案している。該コレステロール誘導体を構成成分とするリポソームは、核酸成分(DNA、RNA断片)を内包することができ、標的細胞に目的の遺伝子を送り込むことで効果的な遺伝子治療を実現できることが期待されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
しかしながら、上記の糖修飾コレステロールは、いずれもカチオン性であるため毒性に懸念があり、特に本発明者らの研究対象である造影剤での使用を念頭とした場合には、遺伝子治療に対して使用量が格段に多いため、致命的な欠点となる問題があった。また、非イオン性のヨード化合物を内包するリポソームを作製する場合に、カチオン性材料はその内包率が非常に低くなる欠点があった。
【0005】
また、糖鎖中の糖としてアルファ1,2マンノビオース二糖、アルファ1,3マンノビオース二糖、アルファ1,4マンノビオース二糖、アルファ1,6マンノビオース二糖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖、オリゴマンノース3五糖、オリゴマンノース4b六糖、オリゴマンノース5七糖、オリゴマンノース6八糖、オリゴマンノース7九糖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖、3′−シアリルラクトース三糖、6′−シアリルラクトース三糖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖、ルイスX型三糖、シアリルルイスX型四糖、2′−フコシルラクトース三糖、ジフコシルラクトース四糖及び3−フコシルラクトース三糖を用い、表面に該糖を修飾したリポソームが知られている(例えば、特許文献3参照)。該リポソームは、薬剤や遺伝子を注入し、癌等の標的細胞・組織を認識し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療用ドラックデリバリーとして使用される。
【0006】
さらに特定のオリゴ糖鎖で修飾された脂質を用いたリポソームが知られている(例えば、特許文献4参照)。該リポソームは血中での安定性に優れ、肝臓等の臓器に選択的に薬物を送達することができる。しかしながら、該リポソームも非イオン性ヨード化合物を内包する例は知られておらず、本発明者らの検討では、その内包率と経時安定性が極めて低くなる欠点があった。
【0007】
一方、ヨード原子を含有する造影剤は、汎用的には低分子量の有機ヨード剤として提供され、水に溶けるため、尿路撮影、血管造影、CTの造影のように、通常、静脈血管内投与で用いられる。ヨード造影剤は、投与されて数分間は血管内に滞留するが、急速に全身に分布し、通常は腎臓で排泄されて尿中に出る。現在使用されている低分子量・水溶性のヨード造影剤は、血管から臓器や組織への移行が早く、血管の中でも特に静脈を明確に造影することが困難であった。
【0008】
血中滞留性を上げるために、今から20年程前、ヨード化けし油をレシチンで分散したオイルエマルジョンタイプの造影剤がいくつか検討された(例えば、非特許文献2参照)。これらは目論見通り血中滞留性が向上し、全身血管の造影能力が格段に向上したが、発熱、悪心、アナフィラキシーショック等の重篤な副作用を引き起こす問題が解決できず、実用化に至っていない。
【0009】
一方、近年、特定臓器の癌疾患の造影が強く求められている。しかしながら、上述の造影剤には臓器特異的な集積性がないため、要望を満たすことが困難である。上述のカチオン性コレステロールを用いたリポソームは、肝臓への集積性が高いことが知られており(例えば、非特許文献1参照)、肝臓疾患用造影剤への応用が期待できる。また、特許文献3には、血中、肺、脳、癌組織、心臓、小腸、肝臓、脾臓、リンパ節、胸腺及び病変部の血管内皮細胞表面に存在する各種セレクチンへの指向性が高いリポソームが記載されている。また、特許文献4には肝臓への指向性が高いリポソームが記載されている。
【0010】
しかしながら、上記公知のリポソームは膵臓疾患部位への集積性は低く、膵臓疾患用造影剤への応用は期待できないのが現状である。現在、膵臓疾患、特に膵臓の転移性癌は早期発見が難しく、死亡率の高い疾患として知られており、新規な造影剤の開発が切望されている。
【特許文献1】特表2004−522722号公報
【特許文献2】特表2004−520301号公報
【特許文献3】国際公開第05/011632号パンフレット
【特許文献4】特開2007−153787号公報
【非特許文献1】Chem.,Pharm.,Bull.,53(8),871−880(2005)
【非特許文献2】Radiology,216,154−162(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なリポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0013】
1.下記一般式(1)で表される糖脂質誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有することを特徴とするリポソーム。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1、R2は、水素原子または下記式(Q1)〜(Q5)から選ばれる基を表し、R3は、下記式(A1)〜(A4)から選ばれる基を表す。)
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R4、R5は、同一または異なってもよい、炭素数5〜20のアルキル基を表す。)
2.前記1に記載のリポソームを含有することを特徴とするX線用造影剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なリポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは鋭意検討の結果、前記一般式(1)で表される糖脂質誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有するリポソームを含有する造影剤は、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なX線用造影剤(以下、単に造影剤ともいう)は、優れた造影剤であることを見出した。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
《一般式(1)で表される糖脂質誘導体》
本願明細書中、糖鎖を構成する糖残基について、マンノース残基をMan、グルコース残基をGlc、N−アシルグルコサミン残基をGlcNAc、ガラクトース残基をGal、シアル酸残基をNeuAcと表記する場合がある。
【0025】
まず、本発明の一般式(1)で表される糖脂質誘導体について詳述する。
【0026】
一般式(1)におけるR1及びR2は、同一または異なってよく、水素原子、式(Q1)〜(Q5)からなる群から用途に応じて適宜選択される。特に、R1及びR2が式(Q1)または(Q2)、特に(Q1)であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)におけるR4及びR5は、直鎖または分岐のペンチル、ヘキシル、オクチル、デカニル、イソオクチル、ドデカニル、テトラデシル、2−メチルテトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等の炭素数5〜20のアルキル基であり、好ましくは炭素数8〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数10〜20のアルキル基である。炭素数が5未満ではリポソーム構造を形成しにくくなり、炭素数が20を超える場合には取扱性に劣る。
【0028】
本発明に係る糖脂質誘導体の代表的な例として、N−結合部位がアスパラギンである化合物に下記に示す。
【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
以下、これらの糖脂質誘導体を簡易に表記する場合があり、例えば、式(i)を「Asn結合型2,6−ジシアロ糖鎖C18脂質誘導体」、式(ii)を「Asn結合型2,3−ジシアロ糖鎖C18脂質誘導体」、式(iii)を「Asn結合型2,6−モノシアロ糖鎖C18脂質誘導体」、式(iv)を「Asn結合型2,3−モノシアロ糖鎖C18脂質誘導体」、式(v)を「Asn結合型アシアロ糖鎖C18脂質誘導体」、式(vi)を「Asn結合型ジMan−GlcNAcC18脂質誘導体」、式(vii)を「Asn結合型ジMan糖鎖C18脂質誘体」、式(viii)を「Asn結合型2,6−ジシアロ糖鎖C14脂質誘導体」、式(xi)を「Asn結合型2,6−ジシアロ糖鎖C14脂質誘導体」と示す。
【0035】
本発明に係る糖脂質誘導体は、分子内に少なくともアミノ基を有する糖鎖誘導体と2分岐型のカルボン酸化合物とを、反応活性化剤の存在下で反応させる方法により製造できる。具体的には、下記一般式(2)で表される糖鎖誘導体と、下記一般式(3)または(4)で表されるカルボン酸化合物とを、反応活性剤の存在下で反応させることにより、一般式(1)で表される糖脂質誘導体を製造することができる。
【0036】
【化11】

【0037】
式中、R1、R2は水素原子または前記式(Q1)〜(Q5)から選ばれる基を表し、R6はアミノ基またはアスパラギン残基を表す。
【0038】
【化12】

【0039】
式中、R4、R5は、同一または異なってもよい、炭素数5〜20のアルキル基を表す。
【0040】
一般式(2)で表される糖鎖誘導体には、R6がアミノ基である化合物(以下、「糖鎖アミン」と称する場合がある)と、R6がアスパラギン残基である化合物(以下、「糖鎖アスパラギン」と称する場合がある)が含まれる。これらの糖鎖誘導体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(2)で表される化合物の代表的な例として、糖鎖アスパラギンを下記に示す。
【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
以下、これらの糖鎖誘導体を簡易に表記する場合があり、例えば、式(i−a)を「2,6−ジシアロ糖鎖アスパラギン」等と示す。
【0046】
前記糖鎖アスパラギンは、例えば、国際公開第03/008431号パンフレットに開示された方法に従って調製することができる。この方法は、糖鎖アスパラギンに脂溶性の保護基を導入して誘導体化することにより、天然物由来の糖鎖アスパラギン混合物から、個々の糖鎖アスパラギン誘導体の分離を可能とした点を特徴としている。前記脂溶性保護基としては、例えばFmoc基、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)基、ベンジル基等が挙げられ、なかでも脂溶性の高い官能基が好ましく用いられる。特にFmoc基は、ODSカラム等の逆相系カラムを用いて効率よく分離することができ、シアル酸等の比較的酸性条件に不安定な糖が糖鎖に存在する場合であっても好適に利用できる。
【0047】
保護基が導入された糖鎖アスパラギンは、ゲル濾過カラムやHPLCカラム等を用いて分離回収でき、さらにガラクトース加水分解酵素、マンノース加水分解酵素、N−アセチルグルコサミン加水分解酵素等の糖加水分解酵素を用いて糖鎖構造を調整し、慣用の方法で保護基を脱保護することにより、目的の糖鎖アスパラギンを得ることができる。
【0048】
前記糖鎖アミンは、例えば、前記糖鎖アスパラギンを出発原料として、国際公開公報WO03/008431号パンフレット及び国際公開第05/010053号パンフレットに開示された方法に従って調製することができる。
【0049】
一般式(3)または(4)で表されるカルボン酸化合物は、一般式(3)及び式(4)のいずれの化合物であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明では、糖脂質誘導体がリポソームの構成成分であるという点で、前記R4及びR5における炭素数は12〜20のアルキル基が好ましい。カルボン酸化合物の使用量は、糖鎖誘導体1モルに対して例えば0.1〜10モル程度である。
【0051】
反応活性化剤としては、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド及び/またはN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)等が挙げられる。反応活性剤の使用量は、糖鎖誘導体1モルに対して例えば0.1〜10モル程度である。
【0052】
反応は、例えば0〜80℃、好ましくは10〜60℃程度の温度下、10分〜5時間程度行われる。反応により生成した糖脂質誘導体は、例えば、濾過、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の方法で分離精製することができる。化合物の同定は、NMR、HPLC(ODSカラム)でUVにおける検出時間により行うことができる。
【0053】
《リン脂質》
本発明に係るリン脂質としては、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステロイルホスファチジルコリン(DSPC)等のジアシルホスファチジルコリン類;ジステロイルホスファチジルエタンールアミン等のホスファチジルエタンールアミン類;ジミリストイルホスファチジン酸等のホスファチジン類;ガングリオシドGM1等のガングリオシド類;グルコシルセラミド等の糖脂質類;ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)等のジアシルホスファチジルグリセロール類;ポリエチレングリコールパルミテート、ポリエチレングリコールミリスチレート等のポリエチレングリコール(PEG)脂質類;及びコレステロール等が挙げられる。なかでも、DSPC、DPPC、DPPG、コレステロール等が好ましく、より好ましくはDPPG等が用いられる。これらのリポソーム構成脂質は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0054】
本発明におけるリポソーム構成脂質は、好ましくは2種以上組み合わせて用いられる。
【0055】
このようなリポソーム構成脂質の組み合わせには、例えば、ジアシルホスファチジルコリン類とコレステロール;ジアシルホスファチジルグリセロール類及び/またはPEG脂質類とコレステロール;ホスファチジルコリン類とコレステロールとホスファチジルグリセロール類及び/またはPEG脂質類等の組み合わせが含まれる。好ましいリポソーム構成脂質の具体例としては、例えば、DSPCとコレステロール;DSPCとコレステロールとDPPG;DSPCとコレステロールとPEGの分子量が500以下のPEG脂質類等の組み合わせが挙げられる。
【0056】
また、リポソーム構成脂質を構成する分子の比率は、高い順に、ジアシルホスファチジルコリン類、コレステロール、ジアシルホスファチジルグリセロール類及び/またはPEG脂質類である。特に、ジアシルホスファチジルグリセロール類及び/またはPEG脂質類を少量(リポソーム構成脂質の総量に対して例えば0.1〜30モル%、好ましくは1〜20モル%程度)併用することにより、糖鎖末端の糖構造特異的臓器移行性が得られる点で好ましい。
【0057】
また、前記一般式(1)で表される糖脂質誘導体の糖鎖部の長さの0.1〜0.8、好ましくは0.2〜0.6となるような親水基部を有するリポソーム構成脂質で構成されていることが好ましい。前記「式(1)で表される糖脂質誘導体の糖鎖部の長さ」とは、一般式(1)における置換基R3を除く構造部位の長さを意味している。上記の観点から、糖鎖修飾リポソームを構成するリポソーム構成脂質としては、具体例には、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)等のジアシルホスファチジルグリセロール類;ポリエチレングリコールパルミテート、ポリエチレングリコールミリスチレート等のPEG脂質類(PEGの分子量が例えば500以下のもの)等が好適である。
【0058】
本発明のリポソームが糖脂質誘導体とリン脂質とで構成される場合には、リリン脂質(総量)が、糖脂質誘導体1molに対して、例えば0.1〜100mol、好ましくは1〜80mol、より好ましくは2〜50mol程度用いられる。
【0059】
本発明のリポソームは、本発明の効果を損なわない範囲で、一般式(1)で表される糖脂質誘導体及びリポソーム構成リン脂質以外の他の構成成分を含んでいてもよい。また本発明のリポソームは、リポソーム表面に親水性化等の公知の処理が施されたものであってもよい。リポソーム表面を親水性化する方法として、例えば、ポリエチレングリコール(例えば分子量500以下のもの)、ポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体等を用いる方法(特開2001−302686号公報等)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いる方法(特開2003−226638号公報等)等の公知の方法を利用できる。
【0060】
《非イオン性ヨード化合物》
本発明に係る非イオン性ヨード化合物は、上述のリポソームに内包される成分であるが、水溶性であることが好ましく、具体的にはヨウ化フェニル基、例えば2,4,6−トリヨードフェニル基を少なくとも1個有する非イオン性ヨード化合物が好適である。好ましい非イオン性ヨード化合物として具体的には、イオヘキソール、イオペントール、イオジキサノール、イオプロミド、イオトロラン、イオメプロール、N,N′−ビス〔2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)−エチル〕−5−〔(2−ヒドロキシ−1−オキソプピル)−アミノ〕−2,4,6−トリヨード−1,3−ベンゼン−ジカルボキシアミド(イオパミドール);メトリザミド等が挙げられる。
【0061】
非イオン性ヨード化合物は、これらの例示に限定されるものではない。また、非イオン性ヨード化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物等も含めて言及することがある。特に好適なヨード系化合物として、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならないイオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノール等が挙げられる。イオトラン、イオジキサノールといった二量体非イオン性ヨード化合物では、ヨウ素担持効率が高く、同一ヨード濃度の造影剤を調製しても全体のモル数が低いために浸透圧を低下させる利点がある。
【0062】
本発明に係る非イオン性ヨード化合物の濃度は、該化合物の性質、意図する製剤の投与経路及び臨床上の指標といった要因に基づき任意に設定することができる。リポソーム内に封入されたヨード化合物の量は、典型的には添加された全ヨード化合物の5〜40質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜25質量%である。非イオン性ヨード化合物の濃度をこの値の範囲にするには、非イオン性ヨード化合物を含有する造影剤溶液(例えば、日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml))の添加量を調整する。
【0063】
この内包率はリポソーム粒子の細密充填の限界を下回るために、リポソームにおける造影物質の保持安定性は損なわれない。本発明のリポソームの構成成分は、上記に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、FEBS Lett.223,42(1987);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85,6949(1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem.Lett.2145(1989);Biochim.Biophys.Acta 1148,77(1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim.Biophys.Acta 1029,91(1990);FEBS Lett.268,235(1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0064】
《リポソームの形成方法》
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で形成してもよい。形成法の例としては、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9,467(1980)、“Liposomes”(M.J.Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラまたはマルチラメラ等のいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の化合物の1種または2種以上を配合することも可能である。
【0065】
形成方法の一例を以下に示す。糖脂質誘導体、リン脂質、安定化剤、及び酸化防止剤等の構成成分を、フラスコ内のクロロホルム等の有機溶媒中で混合し、有機溶媒を留去した後、真空乾燥することによりフラスコ内壁に薄膜を形成させる。次に、前記フラスコ内に非イオン性ヨード化合物の水溶液を加え、激しく攪拌することにより、リポソーム分散液を得る。得られたリポソーム分散液を遠心分離し、上澄みをデカンテーションして封入されなかった化合物等を除去する。必要に応じ、さらに、親水性高分子の脂質誘導体の溶液を加えて加温することにより、本発明のリポソームが得られる。
【0066】
なお、親水性高分子の脂質誘導体の溶液を構成成分の混合時に加えることによっても、本発明のリポソームが得られる。
【0067】
また、別の方法として、上記の構成成分を混合し、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることにより、本発明のリポソームを得ることもできる。
【0068】
上述のリポソームの形成品は、必ず有機溶媒を含んでいる。残留する有機溶媒、特にクロル系有機溶媒は完全に除去することが困難であり、生体に及ぼす悪影響が懸念される。本発明に使用するリポソームを形成するには、上記の問題点を回避できる方法として、超臨界もしくは亜臨界の二酸化炭素を使用するリポソーム形成法を利用することが好ましい。二酸化炭素の臨界温度が31.1℃、臨界圧力が75.3kgf/cm2(7.38MPa)と比較的扱いやすく、大気圧下で不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できる等といった理由により好適である。本発明で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む)の二酸化炭素の好適な圧力は、80〜500kgf/cm2(7.8〜49MPa)、好ましくは90〜400kgf/cm2(8.8〜39MPa)、より好ましくは100〜200kgf/cm2(9.8〜20MPa)である。また好適な臨界状態の二酸化炭素ガスの温度としては、32〜200℃、好ましくは35〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃である。これらの範囲内で、温度及び圧力を適宜選択して組み合わせることにより、超臨界状態(亜臨界状態を含む)とするのがよい。
【0069】
超臨界二酸化炭素使用するリポソームの調製方法は、具体的に以下のようにして行われる。圧力容器に液体二酸化炭素を加え、上記の好適な圧力及び温度のもとにある超臨界状態もしくは亜臨界状態にする。超臨界(もしくは亜臨界)状態の二酸化炭素に本発明のリポソーム膜構成物質を溶解するか、あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして溶解してもよい。
【0070】
その際、溶解助剤を添加すると、膜脂質成分の超臨界二酸化炭素への溶解が短時間で充分に行われるため、形成されるリポソームにおける一枚膜リポソームの比率が高くなる。溶解助剤として、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル等を1種または2種以上併用することが望ましい。例えば、アルコール類を超臨界二酸化炭素の0.1〜10質量%、好ましくは、1〜8質量%の割合で助溶媒として使用するのがよい。より好ましい解助剤としては、安全性の観点からエタノールである。
【0071】
引き続き生成した脂質混合物に、本発明に係る非イオン性ヨード化合物、必要に応じて公知の製剤助剤を含む水溶液を連続的に添加して、水相/二酸化炭素エマルジョンを形成する。系内を減圧して二酸化炭素を排出すると、本発明に係る非イオン性ヨード化合物を内包するリポソームが分散している水性分散液が生成する。
【0072】
上記ヨード化合物のリポソーム内への内包化の割合は、リポソーム用脂質の総量とヨード化合物(必要に応じてさらに製剤助剤)を含む水溶液との比率によっても左右される。リポソームの円滑な形成、ならびにその脂質膜内へのヨード化合物の効率的な内包化には、使用する脂質総量と内包物質を含有する水溶液との比率もまた調整する必要がある。この脂質総量とは、リポソーム膜を構成するリン脂質類、前記一般式(1)で表される糖脂質誘導体、その他ステロール類、及びその他の添加した脂質類全てを対象とした総和の質量である。上記水溶液1リットルに対して、脂質総量が5〜150mmolの範囲、好ましくは30〜120mmolの範囲、より好ましくは50〜100mmolの範囲の割合で、リポソーム膜構成物質を含む溶媒を混合する。そうした場合、本発明に係る非イオン性ヨード化合物のリポソーム内への内包化は良好に進行し、結果的にそのヨード化合物の保持効率も向上する。
【0073】
次に、リポソーム粒子のサイズ及びその分布について詳述する。「中心粒径」とは、粒子分布で最も出現頻度の高い粒子径を指している。なお、粒子径または粒径は、粒子の直径を意味する。粒径の調整は、処方またはプロセス条件で行うことができる。例えば、上記の超臨界の圧力を大きくすると、形成されるリポソーム粒径は小さくなる。リポソームの粒子径の分布をより狭い範囲に揃えるには、作製されるリポソームの懸濁液を一定サイズの孔径を有する濾過膜、好ましくはポリカーボネート膜等に強制的に透過させてもよい。この場合、濾過膜として0.05〜0.4μm、好ましくは0.1〜0.4μm、さらに好ましくは0.15〜0.2μmの孔径のフィルターを装着した静圧式押出し装置に通すことにより、リポソーム多重層膜の脂質膜枚数を減らすとともに、中心粒径として100〜300nmの最適寸法を有する均一なリポソームを効率よく調製することができる。具体的には、各種の静圧式押出し装置、例えば「エクストルーダー」(商品名、日油リポソーム製)等を使用して、フィルターを強制的に透過させる。フィルターは、ポリカーボネート系、セルロース系等のタイプを適宜使用することができる。このような「押出し」操作工程を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、リポソーム分散液の交換、濾過滅菌も併せて可能になるという利点もある。引き続きリポソーム分散液を、遠心分離、ゲル濾過等の方法により未保持の薬剤を除去して精製したり、濃縮、希釈、凍結乾燥等の操作を任意に行ってもよい。本発明の造影剤リポソームの中心粒径は、通常50〜300nm、好ましくは50〜200nm、より好ましくは50〜130nmである。
【0074】
《X線用造影剤》
次に、本発明のリポソームを含有する造影剤について詳述する。
【0075】
注射のために製剤化された本発明の造影剤は、迅速で簡便な注射を可能にするよう適度な粘度のみを有するべきである。粘度は、10.20×10-4kgf・s/m2(10mPa・s、10cP)未満、または好ましくは5.10×10-4kgf・s/m2(5mPa・s、5cP)未満、またはより好ましくは2.04×10-4kgf・s/m2(2mPa・s、2cP)未満である。また、注射のために製剤化された本発明の造影剤は過度の浸透圧を有するべきではない。なぜなら、これは毒性を増加させ得るからである。浸透圧は、3000ミリオスモル/kg未満、または好ましくは2500ミリオスモル/kg未満、または最も好ましくは900ミリオスモル/kg未満である。
【0076】
本発明の造影剤は、無機または有機の酸及び塩基から誘導される塩を含有することができる。塩の具体例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛塩)、有機塩基を有する塩(例えば、ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン)、及びアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)を有する塩等を包含する。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド(例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、ジアルキル硫酸(例えば、ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル硫酸)、長鎖ハライド(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、アラルキルハライド(例えば、ベンジル及びフェネチルブロマイド)ならびにその他のような薬剤で4級化され得る。それによって、水溶性または油溶性あるいは水分散性または油分散性の生成物が得られる。本発明の好ましい塩は、N−メチル−D−グルカミン、カルシウム及びナトリウム塩である。
【0077】
本発明の造影剤は、任意のキャリア、アジュバントもしくはビヒクルを含有することができる。本発明の造影剤に使用され得るキャリア、アジュバント及びビヒクルは、イオン交換物質、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝性物質(例えば、ホスフェート)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及びラノリンを包含するが、これらに限定されない。
【0078】
本発明の造影剤は、注射可能な無菌の調合薬の形態(例えば、注射可能な無菌の水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、当該分野で公知の技術に従い、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤され得る。注射可能な無菌の調合薬はまた、無毒性の非経口で受容可能な希釈剤または溶媒中における、無菌の注射可能な溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であってもよい。用いられ得る受容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンガー溶液及び等張食塩水である。さらに、従来では、無菌の不揮発油が溶媒または懸濁媒体として使用される。この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む任意の刺激のない不揮発油が使用され得る。脂肪酸(例えば、オレイン酸及びそのグリセリド誘導体)は、天然の薬学的に受容可能なオイル(例えば、オリーブオイルまたはヒマシ油)と同様に、注射可能物の調製、特にこれらのポリオキシエチル化した変形物において有用である。これらのオイル溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤(例えば、Ph.Helvまたは類似のアルコール)を含み得る。
【0079】
本発明の造影剤は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬投与、膣投与または従来の無毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント及びビヒクルを含有する投薬製剤中に埋め込まれたリザーバを介して投与され得る。本明細書に使用されるように用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、くも膜下、肝臓内、病変内及び頭蓋内注射または点滴技術を含む。
【0080】
経口投与される場合、本発明の薬学的組成物は任意の経口的に受容可能な投薬形態(カプセル、錠剤、水性の懸濁液または溶液が挙げられるが、これらに限定されない)で投与され得る。錠剤を経口使用する場合、一般的に使用されるキャリアには、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。代表的には、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた添加される。カプセル形態の経口投与に対して、有用な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口使用に水性懸濁液を必要とする場合、活性成分は乳化剤及び懸濁剤と配合される。所望の場合、特定の甘味料、香味料または着色料もまた添加してもよい。あるいは、直腸投与のために座薬形態で投与される場合には、本発明の造影剤は、室温で固体であるが直腸温で液体である適切な非刺激性の賦形剤とを混合して調製され、その結果直腸内で溶け薬剤を放出する。このような物質として、ココアバター、ビーズワックス及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0081】
また、前述のように、特に、処置標的が局所施用によって容易に接近可能な領域または器官(目、皮膚または下部腸道(lower intestinal tract)を含む)を含む場合に、本発明の造影剤は局所投与され得る。適切な局所製剤は、これらの各領域または器官用に容易に調製される。
【0082】
下部腸道に対する局所施用は、直腸用座薬製剤または適切な浣腸製剤でなされ得る。局所−経皮性パッチもまた使用してよい。局所施用に対して、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解される活性成分を含有する、適切な軟膏に製剤され得る。本発明の造影剤の局所投与のためのキャリアは、鉱油、液体ペトロラタム、白色ペトロラタム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水を包含するが、それらに限定されない。あるいは、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解された活性成分を含有する、適切なローションまたはクリームに製剤されてもよい。適切なキャリアは、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を包含するが、それらに限定されない。
【0083】
眼使用に対して、本発明の造影剤は防腐剤(例えば、ベンジルアルコニウムクロライド)を含有してもしなくてもよい。pH調節された等張の無菌生理食塩水中に微小化された懸濁液として、または好ましくはpH調節された等張の無菌生理食塩水中の溶液として製剤され得る。あるいは、眼使用に対して本発明の造影剤は、ペトロラタムのような軟膏に製剤され得る。
【0084】
鼻腔エーロゾルまたは吸入による投与に対して、本発明の造影剤は、製薬的製剤の分野で周知の技術に従って調製され、そしてベンジルアルコールもしくは他の適切な防腐剤、生体利用性を増大させる吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用し、生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0085】
投薬は、診断用画像化機器の感度、ならびに造影剤の組成に依存する。例えば、MRI画像化に対して、本発明のコレステロール誘導体を含有する造影剤は、一般的に、より低い磁気モーメントを有する常磁性物質、例えば、鉄(III)を含有する造影剤より、より低い投薬を必要とする。好ましくは、投薬は、1日当たり約0.001〜1mmol/kg体重の活性金属−リガンド錯体の範囲である。より好ましくは、投薬は、1日当たり約0.005〜0.05mmol/kg体重の範囲である。
【0086】
しかし、任意の特定の患者に対する特定の投薬処方もまた、種々の因子(年齢、体重、健康状態、性別、治療食、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ及び処置する内科医の判断を含む)に依存することが理解されるべきである。
【0087】
本発明では造影剤の適切な投薬の投与に続いて、X線画像化が行われる。本発明のX線画像化は従来公知の方法による脳血管撮影、選択的血管撮影、四肢血管撮影、ディジタルX線撮影法による静脈性血管撮影、コンピューター断層撮影における造影、静脈性尿路撮影等による画像化であることが好ましい。本発明の造影剤は全身血管、及び肝臓、特に膵臓の造影に優れているので、選択的血管撮影、コンピューター断層撮影における腹部造影が最適な撮像方法である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0089】
(合成例)
特開2007−153787号公報記載の方法により、本発明に係る糖脂質誘導体を製造した。構造を前記式(i)〜(ix)に示す。
【0090】
実施例1
〔非イオン性ヨード化合物を含有するリポソームの形成方法A〕
ジパルミトイルホスファチジルコリン(50nmol)(日本油脂株式会社製、COATSOME MC−6060)、前記式(i)〜(ix)に示す本発明に係る糖脂質誘導体(10nmol)及びPEG−リン脂質(10nmol)(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE−020CN)をJ.Med.Chem.,25(12),1500(1982)記載の方法により、ナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、非イオン性ヨード化合物を含有する造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)5mlを注入した。次に超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下で5分実施することにより、非イオン性ヨード化合を含有するリポソームの分散液を得た。
【0091】
得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmで加圧濾過した。得られた試料をスペクトラプロ社製、バイオテックRC透析チューブに封入し、多量の生理食塩水(9.0×10-1%、1000g)中に浸して透析を行い、リポソーム内に取り込めなかった非イオン性ヨード化合物等を除去した。
【0092】
〔非イオン性ヨード化合物を含有するリポソームの形成方法B〕
ジパルミトイルホスファチジルコリン(50nmol)(日本油脂株式会社製、COATSOME MC−6060)、前記式(i)〜(ix)に示す本発明に係る糖脂質誘導体(10nmol)及びPEG−リン脂質(10nmol)(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE−020CN)の混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素13gを加えた。撹拌を行いながら、50kgf/cm2(4.9MPa)であったオートクレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kgf/cm2(12MPa)にまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)5mlを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、非イオン性ヨード化合物を含有するリポソームの分散液を得た。
【0093】
得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmで加圧濾過した。得られた試料をスペクトラプロ社製、バイオテックRC透析チューブに封入し、多量の生理食塩水(9.0×10-1%、1000g)中に浸して透析を行い、リポソーム内に取り込めなかった非イオン性ヨード化合物等を除去した。
【0094】
〔試験1〕
リポソームの粒径の測定
得られた試料(リポソーム)をWBCアナライザー(日本光電社製、A−1042)にてリポソームの平均粒径を求めた。平均粒径が100〜400nmのものが好ましく、600nm以上のものは凝集が起こっており好ましくない。
【0095】
〔試験2〕
ヨード化合物の内包率の測定
得られた試料(リポソーム)を等張の食塩水で透析し、透析終了後にエタノールを添加してリポソームを破壊し、吸光度の測定によりリポソーム内のヨード化合物量を求めた。試料中の全ヨード化合物量に対する比率を内包率(%)として表す。
【0096】
試験1、2の結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1から分かるように、本発明の前記式(i)〜(ix)に示す本発明に係る糖脂質誘導体を含有するリポソーム含有造影剤は、形成方法A及びBのいずれにおいても良好な平均粒径を示した。
【0099】
実施例2
実施例1で作製したリポソーム(形成方法A及びB)及び生理食塩水を用い、体重30gのマウス一匹当たり3ml注入でヨウ素量が2500mgI/kgの投与量となる造影剤を調製した。
【0100】
〔試験3〕
急性毒性試験
この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより、投与後24時間以内に死亡したマウスの数をカウントした。検体数を20として得られた結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示すように、本発明の造影剤は生体に対する毒性が低いことが分かる。
【0103】
実施例3
実施例1で作製したリポソーム(形成方法B)及び生理食塩水を用い、体重30gのマウス一匹当たり0.3ml注入でヨウ素量が250mgI/kgの投与量となる造影剤を調製した。
【0104】
〔試験4〕
組織内分布の評価
この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより組織内分布を評価した。投入後、5分、30分、2時間、24時間の肝臓、膵臓及び血液内のヨウ素の濃度を、誘導結合プラズマ発光分析装置(Urtima−2、Jyobin Yvon社製)にて測定した。検体数を20として得られた結果の平均値を表3に示す。なお、投与後24時間以内に死亡したり、重篤な障害が生じる検体はなかった。
【0105】
【表3】

【0106】
表3より、本発明の造影剤は、全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ膵臓の造影にも優れ、さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される糖脂質誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有することを特徴とするリポソーム。
【化1】

(式中、R1、R2は、水素原子または下記式(Q1)〜(Q5)から選ばれる基を表し、R3は、下記式(A1)〜(A4)から選ばれる基を表す。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式中、R4、R5は、同一または異なってもよい、炭素数5〜20のアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のリポソームを含有することを特徴とするX線用造影剤。

【公開番号】特開2009−143879(P2009−143879A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325638(P2007−325638)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】