説明

リポペプチド化合物生合成遺伝子

【課題】リポペプチド化合物の生合成に関わる新規なポリペプチド及びそれらをコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリペプチドの発現を増加させるように改変した微生物を用いて前記化合物の生産性を向上させる方法等の提供。
【解決手段】リポペプチド化合物の生合成に関わる新規なポリペプチドのアミノ酸配列、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列、及びそれらの取得方法を開示する。前記ポリペプチドの発現を増加させるように改変した微生物の製造方法、及び該微生物を用いて前記化合物の生産性を向上させる方法等を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を生産する微生物における前記化合物の生合成に関与する新規なポリペプチド、ポリヌクレオチドに関する。前記ポリペプチドの発現を増加させるように改変した微生物、該微生物を用いた前記化合物の製造法、及び前記化合物の生産性を向上させる方法等に関する。
【化1】


(式中Rは、イソプロピル基、sec-ブチル基またはイソブチル基を意味する。)
【背景技術】
【0002】
前記一般式(I)で示されるリポペプチド化合物(以下、化合物Aと称する)は、土壌細菌の1種Pseudomonas fluorescens Q71576株(工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM BP-6944号として寄託移管請求を行った。原寄託日1999年1月8日)によって生産される二次代謝産物のひとつで、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害活性を有する。本化合物はヒストンのアセチル化の関与する疾患や病態、殊に腫瘍や感染症、自己免疫疾患、皮膚病等の細胞増殖性疾患の治療及び改善に有用である(特許文献1参照)。
【0003】
二次代謝産物の生産性を向上させるには、生合成経路において律速となっている反応を触媒する酵素や生合成に関係する遺伝子の発現を制御する因子などの生合成遺伝子を特定し、その生合成遺伝子を適当なベクターに連結して二次代謝産物の生産菌に導入することにより生合成遺伝子の発現を増強し、二次代謝産物の生産性を向上させる方法等が有効である(特許文献2参照)。しかし、これまで化合物Aの生合成遺伝子については何ら知られていなかった。
【0004】
近年、二次代謝産物の生産性向上や新規活性物質の創出を目的として、遺伝子組換え技術が利用され、様々な微生物において、既に多くの二次代謝系の遺伝子がクローン化され塩基配列が決定されている。例えば化合物Aとは異なるリポペプチド化合物の生産に関与する遺伝子としては、サーファクチン生合成遺伝子(非特許文献1)、FK506生合成遺伝子(非特許文献2)、PF1022生合成遺伝子(特許文献2)、ミクロシスチン生合成遺伝子(非特許文献3)、アルビシジン生合成遺伝子(非特許文献4)、ミコズブチリン生合成遺伝子(非特許文献5)、ブレオマイシン生合成遺伝子(非特許文献6)、バルバミド生合成遺伝子(非特許文献7)などが単離され、塩基配列が決定されている。
【0005】
これらのリポペプチド化合物を生産する微生物において、その生合成遺伝子の大部分がゲノム上に集まってクラスターを形成している。この遺伝子クラスターには巨大な多機能タンパク質である1型ポリケチドシンターゼ(PKS)とノンリボソーマルペプチドシンテターゼ(NRPS)をコードする種間及び遺伝子間で保存された領域が存在する。
PKSとNRPSは一般的に幾つかのモジュールより構成されており、複数の遺伝子によりコードされている。PKSの各モジュールはシーケンシャルにポリケチド鎖にアシル−CoA前駆体を付加し、β-ケト基を特異的に修飾する。NRPSの各モジュールはシーケンシャルにペプチド鎖に特定のアミノアシル基を付加し修飾する。生合成ステップの最後に関わるモジュールは、PKSやNRPSからリポペプチドを環化したり多量体化して遊離するチオエステラーゼ(TE)ドメインにて終わる(非特許文献8参照)。
【0006】
PKSやNRPSにより生成したリポペプチド骨格は、メチル化、アシル化、酸化、還元等のさらなる修飾を受け、最終的なリポペプチド化合物が合成される。これらの修飾のために必要とされる遺伝子の大部分はPKSやNRPSを構成する遺伝子とクラスターを形成していることが一般的である(特許文献3-4、非特許文献9参照)。
遺伝子組み換えにより新規活性物質を創出するために、PKSやNRPSのドメイン改変も行われている(特許文献3-4、非特許文献9参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2001-348240号
【特許文献2】欧州特許EP1215281号
【特許文献3】米国特許US6710189号
【特許文献4】米国特許US6066721号
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)」、(米国)、2004年、第186巻、p.1084-1096
【非特許文献2】「ジーン(Gene)」、(米国)、2000年、第251巻、p.81-90
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)」、(米国)、2003年、第185巻、p.564-572
【非特許文献4】「マイクロバイオロジー(Microbiology)」、(米国)2001年、第147巻、p.631-642
【非特許文献5】「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Scineces of the United States of America)」、(米国)、1999年、第96巻、p.13294-13299
【非特許文献6】「ケミストリー・アンド・バイオロジー(Chemistry and Biology)」、(米国)、2000年、第7巻、p.623-642
【非特許文献7】「ジーン(Gene)」、(米国)、2002年、第296巻、p.235-247
【非特許文献8】「カレント・オピニオン・イン・ケミカル・バイオロジー(Current Opinion in Chemical Biology)」、(米国)、1997年、第1巻、p.543-551
【非特許文献9】「バイオケミストリー(Biochemistry)」、(米国)、2002年、第41巻、p.9718-9726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化合物Aはヒストンのアセチル化の関与する疾患や病態、殊に腫瘍や感染症、自己免疫疾患、皮膚病等の細胞増殖性疾患の治療及び改善に有用である。本発明者らは、化合物Aの生産性の高い微生物を取得することが化合物Aを効率よく製造するのに重要であると考えた。また、化合物Aの生合成遺伝子の発現を上げることで化合物Aの生産性の高い微生物が取得できると考えた。しかし、化合物Aの生合成遺伝子についてはこれまで全く知られていなかった。
本発明の課題は、化合物Aの生産に関わる新規なポリペプチド及びポリヌクレオチドを提供し、前記ポリペプチドの発現を増加させるように改変した微生物やその製造方法を提供することにある。更に、前記微生物を用いて化合物Aを効率よく製造する方法、及び前記ポリペプチドの発現量を指標に化合物Aの生産性を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を行なった結果、配列番号2乃至配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが、化合物Aの生合成に関わっていることを見出し、配列番号3乃至配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させるように改変した化合物Aの生産性の高い微生物を取得した。更に、この微生物を用いた効率のよい化合物Aの製造法を確立し、配列番号3乃至配列番号14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量が高い微生物を選択することによる化合物Aの生産性を向上させる方法を確立し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] 下記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド、
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
[2] 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
[3] [1]又は[2]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[4] [3]に記載のポリヌクレオチドを含み、かつ当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド、
[5] 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
[6] 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程を含むことを特徴とする、前記化合物の生産性の高い微生物を製造する方法、
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド
[7] 化合物Aを産生する微生物に由来し、配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させるように改変した微生物、
[8] 化合物Aを産生する微生物がシュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)Q71576株(FERM BP-6944)である[7]記載の微生物、
[9] [7]又は[8]に記載の微生物を培養する工程、及び培養物から化合物Aを採取する工程を含むことを特徴とする前記化合物の製造法、
[10] 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程、及び微生物を培養し培養液から前記化合物を採取する工程を含むことを特徴とする前記化合物の製造法、
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド
[11] 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程を含むことを特徴とする、前記化合物の生産性を向上させる方法
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微生物を用い、本発明の化合物Aの製造法によれば、ヒストンのアセチル化の関与する疾患や病態、殊に腫瘍や感染症、自己免疫疾患、皮膚病等の細胞増殖性疾患の治療及び改善に有用な化合物Aの生産性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
[1]本発明のポリペプチド
本発明のポリペプチドには、以下の1〜13に記載のポリペプチドが含まれ、これらを総称して「本発明のポリペプチド」と称する。
1.(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第10878番〜第11747番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF1」と称する。
【0013】
2.(1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号3に記載のアミノ酸配列、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号3に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第12592番〜第17613番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF2」と称する。
【0014】
3.(1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号4に記載のアミノ酸配列、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号4に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第17616番〜第22298番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF3」と称する。
【0015】
4.(1)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号5に記載のアミノ酸配列、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号5に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第22298番〜第25825番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF4」と称する。
【0016】
5.(1)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号6に記載のアミノ酸配列、又は配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号6に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第25825番〜第38067番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF5」と称する。
【0017】
6.(1)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号7に記載のアミノ酸配列、又は配列番号7に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号7に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第38067番〜第42632番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF6」と称する。
【0018】
7.(1)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号8に記載のアミノ酸配列、又は配列番号8に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号8に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第42625番〜第43797番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF7」と称する。
【0019】
8.(1)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号9に記載のアミノ酸配列、又は配列番号9に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号9に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第43797番〜第44762番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF8」と称する。
【0020】
9.(1)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号10に記載のアミノ酸配列、又は配列番号10に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号10に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第44762番〜第46978番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF9」と称する。
【0021】
10.(1)配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号11に記載のアミノ酸配列、又は配列番号11に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号11に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第47064番〜第47966番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF10」と称する。
【0022】
11.(1)配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号12に記載のアミノ酸配列、又は配列番号12に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号12に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第48027番〜第48929番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF11」と称する。
【0023】
12.(1)配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号13に記載のアミノ酸配列、又は配列番号13に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号13に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第48984番〜第49991番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF12」と称する。
【0024】
13.(1)配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号14に記載のアミノ酸配列、又は配列番号14に記載のアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
(3)配列番号14に記載のアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;並びに
(4)配列番号1の第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ化合物Aの生産性を向上させるポリペプチド;
上記(1)〜(4)のポリペプチドを以下では「生合成関連因子ORF13」と称する。
【0025】
また、本発明のポリペプチドは、前述の1〜13のいずれかに該当する限りシュードモナス属(Pseudomonas)に属する微生物由来のポリペプチドに限定されず、シュードモナス属以外の原核生物、及び真核生物由来のものも包含する。また、前述の1〜13のいずれかに該当する限り、天然のポリペプチドに限定されず人工的に製造した変異体も含まれる。好ましくはシュードモナス属(Pseudomonas)に属し化合物Aの生産能を有する微生物由来のポリペプチドであり、更に好ましくはPseudomonas fluorescens由来のポリペプチドであり、最も好ましくはPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)由来のポリペプチドである。
【0026】
本明細書における前記「化合物Aの生産性を向上させる」とは、一定量の微生物の培養物から採取される化合物Aの量を増加させることをいう。以下では、「一定量の微生物の培養物から採取される化合物Aの量」を「化合物Aの産生効率」と称し、一定量の微生物の培養物から採取される化合物Aの量が増加することを、化合物Aの産生効率が上昇するといい、一定量の微生物の培養物から採取される化合物Aの量が減少することを化合物Aの産生効率が低下すると称する。検討対象のポリペプチドが化合物Aの生産性を向上させるか否かは、2種以上の微生物において検討対象のポリペプチドの発現量を比較し、検討対象のポリペプチドの発現量の高い微生物では化合物の生産効率が高いことを確認することにより判断することができる。
【0027】
具体的には、例えば検討対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより検討対象のポリペプチドの発現量を低下させた微生物における化合物Aの産生効率が、遺伝子破壊する前の微生物と比較して、好ましくは1/2以下に、さらに好ましくは1/5以下に、最も好ましくは1/10以下に低下していることを確認することにより、検討対象のポリペプチドが化合物Aの生産性を向上させると判断することができる。なお、検討対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの遺伝子破壊は、当業者に周知の方法である遺伝子組み換えや突然変異誘発などの人為的な方法により行うことができ、具体的には例えば実施例4に記載の方法によって行うことができる。また、化合物Aの量は、微生物の培養3日目の培養液中の化合物Aの濃度を、培養液を希釈緩衝液(0.1% 硫酸銅5水和物、0.3 M グリシン、pH2.6)やアセトンで処理し、遠心分離を行い、得られた上清をHPLC分析することにより測定することにより求めることができる。具体的には例えば実施例3(2)に記載の方法で行うことができる。
【0028】
本明細書における前記「同一性」とは、Clustal program (Higgins and Sharp, Gene 73, 237-244, 1998; Thompson et al. Nucl. Acids Res. 22, 4673-4680, 1994)(Clustal V)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Pairwise Alignment Parametersとして
K tuple 1
Gap Penalty 3
Window 5
Diagonals Saved 5
【0029】
本明細書における前記「ストリンジェントな条件」でのハイブリダイゼ−ションとは、非特異的な結合が起こらない条件を意味し、例えばSambrookら、"Molecular Cloning-A Laboratory Manual"、Cold Spring Harbor Laboratory、NY、1989年に記載の条件等が挙げられる。具体的には、2×SSC(1×SSCの組成:0.15 M NaCl、0.015 Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100 mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中でプローブとともに50℃で一晩保温するという条件であり、最も好ましくは6×SSC、0.5%SDS、5×デンハート及び100 mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中でプローブとともに65℃で一晩保温するという条件である。
【0030】
[2]本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、
(1)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、ORF遺伝子と称する);
(2)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド(以下、ORF遺伝子クラスターと称する);及び
(3)配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド(以下、化合物A生合成遺伝子クラスターと称する)
が含まれる。
【0031】
以下に、本発明のポリヌクレオチドについて説明する。
(1)ORF遺伝子
本発明のORF遺伝子は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドならいずれの種由来のものであってもよい。好ましくは、配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、及び第50081番〜第51253番のいずれかからなるポリヌクレオチドである。
【0032】
(2)ORF遺伝子クラスター
本発明のORF遺伝子クラスターは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを1以上含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチドである。本発明のポリペプチドである生合成関連因子ORF1乃至生合成関連因子ORF13をコードするポリヌクレオチドはゲノム上で生合成関連因子ORF1から生合成関連因子ORF13まで順番に並んでいる。本発明のORF遺伝子クラスターには、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを1乃至13含むポリヌクレオチドが含まれる。
好ましくは配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを1以上含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチドである。
【0033】
さらに好ましくは、以下の(a)〜(m)のポリヌクレオチドである。
(a)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを1以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(b)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを2以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第17613番、第12592番〜第22298番、第17616番〜第25825番、第22298番〜第38067番、第25825番〜第42632番、第38067番〜第43797番、第42625番〜第44762番、第43797番〜第46978番、第44762番〜第47966番、第47064番〜第48929番、第48027番〜第49991番、若しくは第48984番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0034】
(c)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを3以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第22298番、第12592番〜第25825番、第17616番〜第38067番、第22298番〜第42632番、第25825番〜第43797番、第38067番〜第44762番、第42625番〜第46978番、第43797番〜第47966番、第44762番〜第48929番、第47064番〜第49991番、若しくは第48027番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(d)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを4以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第25825番、第12592番〜第38067番、第17616番〜第42632番、第22298番〜第43797番、第25825番〜第44762番、第38067番〜第46978番、第42625番〜第47966番、第43797番〜第48929番、第44762番〜第49991番、若しくは第47064番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0035】
(e)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを5以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第38067番、第12592番〜第42632番、第17616番〜第43797番、第22298番〜第44762番、第25825番〜第46978番、第38067番〜第47966番、第42625番〜第48929番、第43797番〜第49991番、若しくは第44762番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(f)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを6以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第42632番、第12592番〜第43797番、第17616番〜第44762番、第22298番〜第46978番、第25825番〜第47966番、第38067番〜第48929番、第42625番〜第49991番、若しくは第43797番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0036】
(g)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを7以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第43797番、第12592番〜第44762番、第17616番〜第46978番、第22298番〜第47966番、第25825番〜第48929番、第38067番〜第49991番、若しくは第42625番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(h)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを8以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第44762番、第12592番〜第46978番、第17616番〜第47966番、第22298番〜第48929番、第25825番〜第49991番、若しくは第38067番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0037】
(i)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを9以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第46978番、第12592番〜第47966番、第17616番〜第48929番、第22298番〜第49991番、若しくは第25825番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(j)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを10以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第47966番、第12592番〜第48929番、第17616番〜第49991番、若しくは第22298番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0038】
(k)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを11以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第48929番、第12592番〜第49991番、若しくは第17616番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(l)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを12以上含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第49991番、若しくは第12592番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
(m)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを13含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第51253番を含み、しかも当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド
【0039】
最も好ましく以下の(a)〜(m)のポリヌクレオチドである。
(a)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを1含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(b)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを2含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第17613番、第12592番〜第22298番、第17616番〜第25825番、第22298番〜第38067番、第25825番〜第42632番、第38067番〜第43797番、第42625番〜第44762番、第43797番〜第46978番、第44762番〜第47966番、第47064番〜第48929番、第48027番〜第49991番、若しくは第48984番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0040】
(c)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを3含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第22298番、第12592番〜第25825番、第17616番〜第38067番、第22298番〜第42632番、第25825番〜第43797番、第38067番〜第44762番、第42625番〜第46978番、第43797番〜第47966番、第44762番〜第48929番、第47064番〜第49991番、若しくは第48027番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(d)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを4含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第25825番、第12592番〜第38067番、第17616番〜第42632番、第22298番〜第43797番、第25825番〜第44762番、第38067番〜第46978番、第42625番〜第47966番、第43797番〜第48929番、第44762番〜第49991番、若しくは第47064番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0041】
(e)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを5含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第38067番、第12592番〜第42632番、第17616番〜第43797番、第22298番〜第44762番、第25825番〜第46978番、第38067番〜第47966番、第42625番〜第48929番、第43797番〜第49991番、若しくは第44762番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(f)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを6含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第42632番、第12592番〜第43797番、第17616番〜第44762番、第22298番〜第46978番、第25825番〜第47966番、第38067番〜第48929番、第42625番〜第49991番、若しくは第43797番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0042】
(g)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを7含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第43797番、第12592番〜第44762番、第17616番〜第46978番、第22298番〜第47966番、第25825番〜第48929番、第38067番〜第49991番、若しくは第42625番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(h)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを8含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第44762番、第12592番〜第46978番、第17616番〜第47966番、第22298番〜第48929番、第25825番〜第49991番、若しくは第38067番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0043】
(i)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを9含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第46978番、第12592番〜第47966番、第17616番〜第48929番、第22298番〜第49991番、若しくは第25825番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(j)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを10含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第47966番、第12592番〜第48929番、第17616番〜第49991番、若しくは第22298番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0044】
(k)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを11含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第48929番、第12592番〜第49991番、若しくは第17616番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(l)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを12含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第49991番、若しくは第12592番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
(m)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを13含むポリヌクレオチド
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第51253番からなるポリヌクレオチド
【0045】
本明細書における前記「当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより、化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド」において、「当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊する」とは、微生物に遺伝子組み換えや突然変異誘発などの人為的な処理を施し、当該ポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの機能を失活若しくは低下させることをいう。遺伝子組み換えは相同組み換えによって行うことができる。具体的には例えば実施例4に記載の方法によって行うことができる。また突然変異誘発は常法通り、紫外線照射やN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸などの突然変異誘発物質で処理することによって得ることができる。微生物における検討対象のポリヌクレオチドが遺伝子破壊されたか否かを調べるには、微生物やその抽出液を用い、検討対象のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを検出できる抗体を使用したウエスタンブロッティング、或いは、検討対象のポリヌクレオチドを特異的に検出するプライマーを使用したリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などにより確認することができる。処理前の微生物と比較して、遺伝子破壊させた微生物で検討対象のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの発現量が低下していることを確認することにより、検討対象のポリヌクレオチドが遺伝子破壊されたと判断することができる。
【0046】
また「当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより、化合物Aの生産を低下させるポリヌクレオチド」とは、化合物Aの生産能を有する微生物、好ましくはシュードモナス属(Pseudomonas)に属し化合物Aの生産能を有する微生物において、検討対象のポリヌクレオチドを遺伝子破壊した場合、遺伝子破壊しなかった場合と比較して化合物Aの産生量が低下することをいう。微生物が化合物Aの産生能を有するか否か、また化合物Aの産生量の変化を調べるには、微生物の培養3日目の培養液を希釈緩衝液(0.1% 硫酸銅5水和物、0.3 M グリシン、pH2.6)やアセトンで処理し、遠心分離を行い、得られた上清をHPLC分析することにより行うことができる。具体的には実施例3(2)に記載の方法で行うことができる。
本発明のポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊した場合、化合物Aの産生量を好ましくは1/2以下に、さらに好ましくは1/5以下に、最も好ましくは1/10以下に低下させるようなポリヌクレオチドである。
【0047】
(3)化合物A生合成遺伝子クラスター
本発明のポリヌクレオチドには、配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドが含まれる。配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドは配列番号2〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする、Pseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)由来の化合物A生合成遺伝子クラスターである。
【0048】
なお、本明細書における「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
本発明のORF遺伝子には本発明のポリペプチドをコードする限り、また本発明のORF遺伝子クラスターには、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、かつ当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより化合物Aの生産を低下させる限り、あらゆる変異体を含むことが出来る。より具体的には天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、欠失、置換、付加及び挿入を有する変異体を含むことができる。前記の変異は、例えば天然において突然変異によって生じることもあるが、人為的に改変・作製することも出来る。本発明は、上記ポリヌクレオチドの変異の原因及び手段を問わず、上記本発明のポリペプチドをコードする全ての変異遺伝子を包含する。上記の変異体作製にいたる人為的手段としては、例えば塩基特異的置換法(Methods in Enzymology、(1987)154、350,367-382)等の遺伝子工学的手法の他、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイド法などの化学合成手段(Science、150,178、1968)を挙げることができる。それらの組み合わせによって所望の塩基置換を伴うポリヌクレオチドを得ることが可能である。あるいはPCR法の繰り返し作業や、その反応液中にマンガンイオンなどを存在させることによりポリヌクレオチド中の非特定塩基に置換を生じさせることが可能である。
【0049】
本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドは、本発明により開示された配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法、例えば「Molecular Cloning」(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)に記載の方法により製造・取得することができる。
本発明のポリヌクレオチドは具体的には、例えば塩基配列の情報を基に設計し合成したプライマーやプローブを用いて、PCR法やハイブリダイゼーションによるスクリーニングにより、シュードモナス属(Pseudomonas)に属し化合物Aの生産能を有する微生物の染色体DNA、総RNA若しくはmRNA、ゲノムライブラリー、cDNAライブラリー、又はファージライブラリーから単離することができる。
ゲノムライブラリーは、具体的には例えば、微生物から常法に従い染色体DNAを調製し、適当な制限酵素で部分消化した後、得られたDNA断片を適当なベクターに組み込み大腸菌に導入し、DNA断片を含むベクターが導入された大腸菌を選択することで作製することができる。より具体的には例えば実施例1(2)に記載の方法で実施できる。
【0050】
ゲノムライブラリーから化合物A生合成遺伝子クラスターを含むベクターが導入されている大腸菌のコロニーを選択するには、プライマーセットとして配列番号43と配列番号44で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたコロニーPCRを行い、約700 bpの増幅産物が生じるクローンを選択すればよい。より具体的には実施例1(3)に記載の方法により実施できる。
なお、実施例1に記載の方法に従って作製した配列番号1に記載の化合物A生合成遺伝子クラスターを一部に含むDNA断片が組み込まれたベクタープラスミドにより形質転換された大腸菌組換体E.coli EPI300/pCC1BACは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20221号(寄託日 2004年9月9日)として国内寄託されている。
【0051】
前記のように選択した大腸菌クローンを鋳型として、PCR法により、配列番号2乃至配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得することができる。また受託番号FERM P-20221号の大腸菌組換体を鋳型として用いた場合は、PCR法により、容易に本発明のポリヌクレオチドを取得することができる。
PCRは大腸菌そのものを鋳型として行ってもよいが、常法により大腸菌から調製したプラスミドを用いるのが好ましい。配列番号2乃至配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得する場合、PCRに使用するプライマーセットは取得するポリヌクレオチドに応じて、例えば、配列番号15と配列番号16(配列番号2)、配列番号17と配列番号18(配列番号3)、配列番号19と配列番号20(配列番号4)、配列番号21と配列番号22(配列番号5)、配列番号23と配列番号24(配列番号6)、配列番号25と配列番号26(配列番号7)、配列番号27と配列番号28(配列番号8)、配列番号29と配列番号30(配列番号9)、配列番号31と配列番号32(配列番号10)、配列番号33と配列番号34(配列番号11)、配列番号35と配列番号36(配列番号12)、配列番号37と配列番号38(配列番号13)、又は配列番号39と配列番号40(配列番号14)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0052】
PCRは、常法に従い実施することができるが、例えばDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex Taq;タカラバイオ)を用い、94℃(30秒間)/55℃(30秒間)/72℃(1分間)からなるサイクルを30回繰り返すことにより行うことができる。
配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを取得する場合、受託番号FERM P-20221号の大腸菌組換体から調製したプラスミドを制限酵素NotIで消化しパルスフィールド電気泳動など高分子量のポリヌクレオチドを分離する方法により分離した後、約64 kbpの断片を抽出することにより行うことができる。
【0053】
上述のように得られた本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning」(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)等に記載の方法により、適当なプロモーターの下流に連結することで本発明のポリペプチドを試験管内、あるいは試験細胞内で発現させることができる。
具体的には上述のように得られた本発明のポリペプチドの開始コドン上流に特定のプロモーター配列を含むポリヌクレオチドを付加することにより、遺伝子の転写、翻訳による本発明のポリペプチドの発現が可能である。或いは、上述の本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当な発現ベクタープラスミドに組み込み、プラスミドの形で宿主細胞に導入すれば細胞内で本発明のポリペプチドの発現が可能になる。
【0054】
宿主細胞は本発明のポリペプチドを発現することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば、通常使用される公知の微生物、例えば、大腸菌又は酵母(Saccharomyces Cerevisiae)、或いは公知の培養細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株CHO細胞、CHO細胞のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub及びChasin、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第77巻、第4216-4220頁、1980年)、ヒト胚性腎293(HEK293)細胞、HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA-1遺伝子を導入した293EBNA細胞(Invitrogen社)、アフリカミドリザル腎臓由来細胞株COS細胞、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)を挙げることができる。
【0055】
発現ベクターには、宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターを用いることができる他、宿主細胞に応じて適宜選択したベクタープラスミドに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入したものを用いることができる。また組み込んだポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが発現する際にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)やFlag、Hisなどのタグが融合された状態で発現するように特定の配列を導入した発現ベクターを用いることもできる。数種類のポリヌクレオチドで同時に一つの細胞を形質転換する場合は、数種類のポリヌクレオチドが一つの発現ベクターに含まれるように構成してもよく、または各々別々の発現ベクターに含まれるように構成してもよい。或いは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。
【0056】
所望のポリヌクレオチドを導入した発現ベクターは、DEAE-デキストラン法(Luthmanら、Nucleic Acids Res.、第11巻、第1295-1308頁、1983年)、リン酸カルシウム-DNA共沈殿法(Grahamら、Virology、第52巻、第456-457頁、1973年)、市販のトランスフェクション試薬であるLipofectamine 2000(Invitrogen社)やFuGENE 6(Roche Molecular Biochemicals社)を用いた方法、及び電気パルス穿孔法(Neumannら、EMBO J.、第1巻、第841-845頁、1982年)等により宿主細胞に取り込ませ、形質転換させることができる。
【0057】
上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養により所望のタンパク質が生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択できる。
前記細胞を培養することにより、細胞中で産生した本発明のポリペプチドを検出、定量、さらには精製することが出来る。例えば、本発明のポリペプチドと結合する抗体を用いたウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により本発明のポリペプチドを検出、精製することが可能である。あるいは、本発明のポリペプチドを、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)など適当なタグタンパク質との融合タンパク質として発現させることにより、これらタグタンパク質に特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により本発明のポリペプチドを検出、タグタンパク質を利用して精製することが出来る。あるいは所望により、該タンパク質の物理的性質、化学的性質を利用した各種の分離操作によっても精製できる。具体的には限外濾過、遠心分離、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーの利用を例示することが出来る。
【0058】
さらに本発明のポリペプチドは、配列番号2乃至配列番号14に記載のアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することが出来る。具体的には液相、及び固相法によるペプチド合成法が包含される。合成はアミノ酸を1個ずつ逐次結合させても、数アミノ酸からなるペプチド断片を合成した後に結合させてもよい。これらの手段により得られる本発明ポリペプチドは前述の各種の方法に従って精製することが出来る。
【0059】
[3] 本発明の微生物
本発明の「化合物Aを産生する微生物に由来し、配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させるように改変した微生物」は、例えば、化合物Aを産生する微生物の染色体DNA上のORF1をコードするポリヌクレオチドとORF2をコードするポリヌクレオチドの間の位置に適当なプロモーターを挿入することで製造することができる。
化合物Aを産生する微生物には、化合物Aの生産能を有する微生物ならいずれでも用いることができるが、好ましくはシュードモナス属(Pseudomonas)に属し化合物Aの生産能を有する微生物であり、最も好ましくはPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)である。
挿入するプロモーターには、シュードモナス属で機能できるものなら何れでもよく、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、又はλPLプロモーター等を適宜用いることができるが、tacプロモーター(Proc Natl Acad Sci USA. 80, 21-25, 1983)を用いるのが最も好ましい。
【0060】
化合物Aを産生する微生物の染色体DNA上のORF1をコードするポリヌクレオチドとORF2をコードするポリヌクレオチドの間の位置とは、配列番号1の第11751番目〜第12591番目の領域のことをいう。この領域のいずれかにtacプロモーターの挿入部位を決定し、挿入部位に隣接する5'側領域、tacプロモーター、挿入部位に隣接する3'側領域の順で構成される改変DNA断片を組み込んだ組み換えプラスミドを作製する。化合物Aを産生する微生物に作製した組み換えプラスミドを導入し、改変を施したDNA断片と微生物の染色体上の相同な領域とを遺伝子交換した菌株を取得することにより、配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させるように改変した微生物を取得することができる。より具体的には、例えば、実施例2に記載の方法で実施することができる。
【0061】
上述の方法により得られた微生物は、染色体遺伝子改変体ではあるが、それが由来した親株と同一形態学上の特徴を有しており、本発明の微生物は、配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量が親株と比較して、1.3倍〜3.4倍(平均1.9倍)高く、化合物Aの生産性が20〜40%高いという点で、親株と性質を異にするものである。親株としてPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)を使用した場合、その形態学は特開2001-348340号明細書に詳しく記載してある。
【0062】
[4] 本発明の微生物を製造する方法
本発明の微生物を製造する方法には、(1) 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び(2) 本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程により、化合物Aの生産性の高い微生物を製造する方法が含まれる。本発明の方法について以下に説明する。
【0063】
(1)化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程
化合物Aを産生する微生物には、化合物Aの生産能を有する微生物ならいずれでも用いることができるが、好ましくはシュードモナス属(Pseudomonas)に属し化合物Aの生産能を有する微生物であり、最も好ましくはPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)である。
【0064】
微生物に遺伝的な変異を付与するには、当業者に公知の方法が用いられるが、具体的には例えば、微生物を変異誘起剤で処理する方法、紫外線、X線、放射線照射をする方法、シュードモナス属で機能できるプロモーター、例えばlacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、λPLプロモーター等を前記「[3]本発明の微生物」に記載の方法で配列番号1の第11751番目〜第12591番目の間に挿入する方法を用いることができ、これらの方法を単独で、あるいは組み合わせることにより実施することができる。このなかでも特にシュードモナス属で機能できるプロモーター、例えばtacプロモーターを前記「[3]本発明の微生物」に記載の方法で配列番号1の第12312番目〜第12341番目の間に挿入する方法及び微生物を変異誘起剤で処理する方法を用いるのが好ましい。微生物を変異誘起剤で処理する場合、変異誘起剤としては、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート、亜硝酸、アクリジン系色素等、当業者に公知のものを適宜用いることができるが、好ましくはNTGを用いることができる。具体的には例えば、(5μg NTG/ml(0.1M phosphate buffer pH7.0)、28℃、20分間)により、微生物に遺伝的な変異を付与することができる。
【0065】
(2)本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程
微生物における本発明のポリペプチドの発現量を測定するには、微生物の抽出液を用い、検討対象のポリペプチドを検出できる抗体を使用したウエスタンブロッティング、或いは本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部または全部の塩基配列を利用することにより、微生物における前記ポリヌクレオチドの発現レベルを特異的に検出し、それにより本発明のポリペプチドの発現量を測定することができる。
前記ポリヌクレオチドの発現レベルの検出方法としては、RT(Reverse transcribed)-PCR、ノーザンブロッティング解析、in situ ハイブリダイゼーションなどの方法を挙げることができる。RT-PCRによって本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出する場合に用いられるプライマーは、前記ポリヌクレオチドのみを特異的に増幅できるものである限り特に制限は無く、本発明のポリヌクレオチドの配列情報に基づいて適宜設定することができる。具体的には例えば、実施例3(3)に記載の方法で測定することができる。
遺伝的な変異を付与した微生物における本発明のポリペプチドのいずれかの発現量が、変異を付与する前の微生物と比較して高いものを選択する。
【0066】
(3)化合物Aの生産性の高い微生物を製造する方法
上記(1)、(2)の工程を1回、或いは数回繰り返すことにより、遺伝的な変異を付与した微生物における本発明のポリペプチドのいずれかの発現量が、変異を付与していない微生物と比較して、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。さらに好ましくは、生合成関連因子ORF2乃至生合成関連因子ORF13の12のすべてのポリペプチドの発現量が1.2倍以上、最も好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。この方法により化合物Aの産生効率が1.2倍〜4倍に上昇した、化合物Aの生産性の高い微生物を製造することができる。
【0067】
[5] 本発明の化合物Aの製造法
本発明の製造方法には、
i) (1) 本発明の微生物を培養する工程、及び(2) 培養物から化合物Aを採取する工程により、化合物Aを製造する方法(以下、本発明の微生物を用いた化合物Aの製造方法と称する)、並びに
ii) (1) 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、(2) 本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程、及び(3)微生物を培養し培養液から化合物Aを採取する工程により、化合物Aを製造する方法(以下、遺伝的変異付与微生物を用いた化合物Aの製造方法と称する)
が含まれる。本発明の製造法によれば、化合物Aを効率よく製造することができる。以下i)及びii)の方法について説明する。
【0068】
i) 本発明の微生物を用いた化合物Aの製造方法
本発明の製造方法には、(1) 本発明の微生物を培養する工程、及び(2) 培養物から化合物Aを採取する工程が含まれる。以下に各工程について説明する。
(1)本発明の微生物を培養する工程
培養は一般微生物の培養方法に準じて行われる。培養に用いられる培地としては、シュードモナス属に属する微生物が利用する栄養源を含有する培地であればよく、合成培地、半合成培地または天然培地が用いられる。培地に添加する栄養物として公知のものを使用できる。培地の組成は、例えば炭素源としてはD-グルコース、D-マンノース、D-フルクトース、イノシトール、D-マンニトール、D-ガラクトース、トレハロース、キサンチン、デンプン、ブドウ糖、デキストリン、グリセリン、植物油等が挙げられる。窒素源としては肉エキス、ペプトン、グルテンミール、綿実粕、大豆粉、落花生粉、魚粉、コーンスチーブリカー、乾燥酵母、酵母エキス、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿酸その他の有機、無機の窒素源が用いられる。また、金属塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄、コバルトなどの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが必要に応じて添加される。さらに、必要に応じてメチオニン、システイン、シスチン、チオ硫酸塩、オレイン酸メチル、ラード油、シリコン油、界面活性剤などの生成促進化合物または消泡剤を添加することもできる。
【0069】
培養条件としては好気的条件下で培養するのが一般的に有利で、培養温度は3〜32℃の範囲、好ましくは20〜25℃付近で行われる。培地のpHは約4.5〜9、好ましくは約5〜7.5の範囲に調整すると好結果が得られる。培養期間は培地の組成、温度条件に応じて適宜設定されるが、通常1〜7日程度、好ましくは2〜4日程度である。具体的には、例えば、実施例3 (1)に記載の方法で実施できる。
【0070】
(2)培養物から化合物Aを採取する工程
培養物から目的とする化合物Aを単離するには、微生物が産生する代謝産物に用いる通常の抽出、精製の手段が適宜利用できる。例えば培養化合物中の該化合物は培養液をそのままか、又は遠心分離或いは培養物に濾過助剤を加えて濾過して得られた培養液に酢酸エチル等の水と混和しない有機溶剤を加えて抽出する。また、培養液を適宜の担体に接触させ、濾液中の生産化合物を吸着させ、次いで適当な溶媒で溶出することにより該化合物を抽出することができる。例えば、アンバーライトXAD-2、ダイヤイオンHP-20、ダイヤイオンCHP-20、又はダイヤイオンSP-900のような多孔性吸着樹脂に接触させて該化合物を吸着させる。次いでメタノール、エタノール、アセトン、ブタノール、アセトニトリル又はクロロホルム等の有機溶媒を単独若しくは混合した溶媒を、又は当該溶媒と水の混合液を用いて該化合物を溶出させる。このときの有機溶媒の混合比率を低濃度より段階的に又は連続的に高濃度まで上げていくことにより、該化合物の含まれる比率のより高い画分を得ることができる。酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒で抽出する場合には、培養濾液にこれらの溶媒を加え、良く振盪し、該化合物を抽出する。次に、上記の各操作法を用いて得た該化合物含有画分は、シリカゲル、ODS等を用いたカラムクロマトグラフィー、遠心液々分配クロマトグラフィー、ODSを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の定法により、さらに純粋に分離精製することができる。一方、TGF-β様作用等を指標として、適当な溶剤に対する溶解性及び溶解度の差等を利用する一般の生理活性化合物の製造に用いられる手段によって、分離、精製することもできる。これらの方法は必要に応じて単独に用いられ、又は任意の順序に組合せ、反復して適用できる。具体的には、例えば、実施例3 (2)に記載の方法で実施できる。
【0071】
ii) 遺伝的変異付与微生物を用いた化合物Aの製造方法
本発明の製造方法には、(1) 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、(2) 本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程、及び(3)微生物を培養し培養液から化合物Aを採取する工程が含まれる。以下に各工程について説明する。
(1)化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程
化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与するには、前記「[4] 本発明の微生物を製造する方法(1)」に記載の方法で行うことができる。
【0072】
(2)本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程
本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択するには、前記「[4] 本発明の微生物を製造する方法(2)」に記載の方法で行うことができる。
上記(1)化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び(2)本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程を1回、或いは数回繰り返すことにより、遺伝的な変異を付与した微生物における本発明のポリペプチドのいずれかの発現量が、変異を付与していない微生物と比較して、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。さらに好ましくは、生合成関連因子ORF2乃至生合成関連因子ORF13の12のすべてのポリペプチドの発現量が1.2倍以上、最も好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。
(3)微生物を培養し培養液から化合物Aを採取する工程
選択した微生物を培養するには、前記「i) 本発明の微生物を用いた化合物Aの製造方法 (1)」に記載の方法で培養することができる。培養液から化合物Aを採取するには、前記「i) 本発明の微生物を用いた化合物Aの製造方法 (2)」に記載の方法で実施することができる。
【0073】
[6] 本発明の化合物Aの生産性を向上させる方法
本発明の化合物Aの生産性を向上させる方法には、(1) 化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び(2) 本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程により、化合物Aの生産性を向上させる方法が含まれる。本発明の方法について以下に説明する。
【0074】
(1)化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程
化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与するには、前記「[4] 本発明の微生物を製造する方法(1)」に記載の方法で行うことができる。
(2)本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程
本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択するには、前記「[4] 本発明の微生物を製造する方法(2)」に記載の方法で行うことができる。
上記(1)化合物Aを産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び(2)本発明のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程からなる2つの工程を1回、或いは数回繰り返すことにより、遺伝的な変異を付与した微生物における本発明のポリペプチドのいずれかの発現量が、変異を付与していない微生物と比較して、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。さらに好ましくは、生合成関連因子ORF2乃至生合成関連因子ORF13の12のすべてのポリペプチドの発現量が1.2倍以上、最も好ましくは1.5倍以上増加している微生物を選択する。
【0075】
(3)化合物Aの生産性を向上させる方法
上記(1)、(2)の工程に従って選択した微生物を「[4]本発明の化合物Aの製造法(1)」に記載の方法で培養し、「[4]本発明の化合物Aの製造法(2)」に記載の方法で培養物から化合物Aを採取することができる。
この方法により化合物Aの生産効率を1.2倍〜4倍に上昇させることができ、化合物Aの生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従っても実施可能である。
以下の実施例におけるPCR反応は特に記載しない限り、DNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex Taq;タカラバイオ)を用い、94℃(30秒間)/55℃(30秒間)/72℃(1分間)からなるサイクルを30回繰り返すことにより行った。
【0077】
[実施例1]
生合成遺伝子の単離と塩基配列の決定
(1)化合物A生合成遺伝子クラスターのクローニング
生合成酵素の構造遺伝子や発現制御遺伝子の生合成に関連する遺伝子の探索をトランスポゾンによる変異導入で行った。プラスミドpUTmini-Tn5gfp(FEMS Microbiol Lett. 145, 87-94, 1996)上のテトラサイクリン耐性遺伝子を有するトランスポゾン(Tn5)を化合物Aを生産するPseudomonas fluorescens IX-724株に導入した。Pseudomonas fluorescens IX-724株は、Pseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)を5μg/ml (0.1M phosphate buffer pH7.0)のNTG溶液に懸濁し、20分間、28℃で行う処理を繰り返し行い、単離された株である。得られたテトラサイクリン耐性クローン360株から化合物Aの非生産株を選択した。非生産株を培養温度20℃、LB培地中で一晩、前振盪培養した。培養液500μlから、DNA単離キット(PUREGENE Cell and Tissue DNA Isolation Kit;Gentra Systems)を用いて、キットの指示書に従い、染色体DNAを調製した。染色体DNAを制限酵素SalI(タカラバイオ)を用いて消化後、T4DNAライゲース(タカラバイオ)を用いてセルフライゲーション反応を行った。得られたライゲーション反応液を鋳型とし、上記のトランスポゾン内の配列をもとに作製したプライマー(配列番号41及び配列番号42)を用いてPCR反応を行った。得られた約2300 bpの増幅産物を、pGEM-T easyベクターシステム(Promega)を用いてクローニングした。
得られたクローンの塩基配列を解析したところ、トランスポゾンはORF1内部に挿入されていることがわかった。また、ORF1の下流にORF2の配列が見つかった。
【0078】
(2) 染色体の抽出とライブラリーの作成
Pseudomonas fluorescens IX-724株から以下の方法により染色体DNAを調製した。Pseudomonas fluorescens IX-724株を培養温度20℃、LB培地(1% Bacto Tripton、0.5% Yeast Extract、1% NaCl)中で一晩、振盪培養した。培養液1 mlを50 mlのLB培地に植菌して20℃で5時間振盪培養し、終濃度180μg/mlになるようにクロラムフェニコールを添加後、さらに1時間振盪培養した。この培養液を遠心して得られた菌体から、CHEFバクテリア用DNAプラグキット(バイオラッド)を用いて、キットに添付の指示書に従い、染色体DNAアガロースプラグを調製した。
アガロースプラグ内の染色体DNAを制限酵素Sau3AI(タカラバイオ)を用いて部分消化後、パルスフィールド電気泳動を行った。電気泳動後、150 kbp付近のDNA画分をゲルとともに切り出し、β-アガラーゼ(NEB社)によりアガロースを消化してDNAを調製した。
T4 DNA Ligase(タカラバイオ)を用い、調製したDNAと制限酵素BamHIで切断したベクターpCC1BAC(EPICENTRE)を連結し、ライゲーション産物を得た。
このライゲーション産物をエレクトロポレーション法によって大腸菌Electro Max DH10B株(Invitrogen社)に導入し、SOC培地(2%(w/v) Tryptone、0.5%(w/v) Yeast Extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM Glucose)を加え37℃で1時間培養した。培養液を遠心後、100μlの20% Glycerol含有SOC培地に懸濁し、-80℃で保存した。
室温にて融解後、適宜希釈し、12.5μg/mlクロラムフェニコール、40μg/ml X-gal、0.4 mM IPTGを含有するLB寒天培地に塗布し37℃で一晩培養した。生じた白色コロニーを12.5μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天培地にレプリカし、ライブラリーとした。
【0079】
(3) 目的クローンの選択
ライブラリーのクローンをDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex Taq;タカラバイオ)を用い、コロニーPCR法で選択した。プライマーセットとして、上述にて得られたORF2の塩基配列をもとに設計した配列番号43で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号44で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCR反応は94℃(30秒間)/55℃(30秒間)/72℃(1分間)からなるサイクルを35回(一部は30回)繰り返した後、反応液をアガロースゲル電気泳動にて解析した。約700 bpの増幅産物を生じるクローンが複数個得られた。この中の1クローンを6F5と命名した。クローン6F5からアルカリ抽出法(「Molecular Cloning 3rd ed.」(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年))にてBAC DNAを抽出した。得られたBAC DNAを用い、エレクトロポレーション法にて大腸菌EPI300株(EPICENTRE)を形質転換した。形質転換の方法はメーカーの指示書に従った。得られた形質転換体(EPI300/BAC 6F5)を12.5μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB寒天培地上で増やした後、集菌し凍結乾燥を行い独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した(受託番号FERM P-20221号)。
【0080】
(4)BACクローンの塩基配列解析
形質転換体(EPI300/BAC 6F5)からアルカリ抽出法によりBAC DNAを抽出した。BAC DNAを部分分解した後、1.5〜2 kbpの断片を精製し末端平滑化後、SmaI消化し末端脱リン酸化を行ったpUC13由来プラスミドへ連結した。このプラスミドを用いて大腸菌DH5α(Invitrogen社)を形質転換した。任意のコロニーからプラスミドを抽出し、DNA解析装置ABI3730(アプライドバイオシステムズ)により、塩基配列解析を行った。得られた結果をシーケンスアセンブルソフトウェアSequencher 3.1.1(GENECODES)を用いて編集した。配列番号1の10878番目から51253番目で表される塩基配列からなるORF遺伝子クラスターの配列を明らかにした。ORF遺伝子クラスターは、13のオープンリーディングフレーム(ORF)を有しており、このORFから予測されるアミノ酸配列は、配列番号2〜配列番号14で表されるアミノ酸配列であった。5’側から順番にORF1(配列番号2)〜ORF13(配列番号14)と命名した。
【0081】
[実施例2]
配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させた改変微生物の製造
(1)相同組換えベクターの作成
ベクターpDNR1r(BDクロンテック)を制限酵素AccIIIおよびEcoRIで消化し、4.2 kbpのDNA断片を取得した。ベクターpBR322を鋳型とし、プライマーセットとして、配列番号45で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号46で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、PCR反応を行った。得られたテトラサイクリン耐性遺伝子を含むPCR産物をAccIIIおよびEcoRIで消化し、1.5 kbpのDNA断片を取得した。上記の2つの断片を用いてライゲーション反応を行い、反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、25μg/mlテトラサイクリン耐性、10%スクロース感受性の形質転換体を選択し、相同組換えベクターpDNRtetを得た(図1)。図1において、SacBは枯草菌由来のスクラーゼ遺伝子を、CmRはクロラムフェニコール耐性遺伝子を、AmpR若しくはApRはアンピシリン耐性遺伝子を、TetRはテトラサイクリン耐性遺伝子を、Oriは複製開始点を表す。
【0082】
(2)tacプロモーターを含むDNA断片の調製
プラスミドpKK223-3(ファルマシア)を鋳型とし、プライマーセットとして、配列番号47で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号48で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、PCR反応を行い、得られたtacプロモーターを含むPCR産物をpGEM-T easyベクターシステム(Promega)を用いてクローニングした。得られた組換えプラスミドを制限酵素SphIおよびBamHIで消化しtacプロモーターを含む0.16 kbpのDNA断片を取得した。
【0083】
(3)ORF2の上流およびN末部分を含むDNA断片の調製
IX-724株を培養温度20℃、LB培地中で一晩、振盪培養した。培養液500μlから、DNA単離キット(PUREGENE Cell and Tissue DNA Isolation Kit;Gentra Systems)を用いて、キットの指示書に従い、染色体DNAを調製した。
IX-724株の染色体DNAを鋳型とし、プライマーセットとして、配列番号49で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号50で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、PCR反応を行い、得られたORF2上流配列を含むPCR産物をpGEM-T easyベクターシステム(Promega)を用いてクローニングした。更に得られた組換えプラスミドを制限酵素BamHIおよびBglIIで消化し、3.6 kbpのDNA断片を得た。この断片をライゲーション反応により自己環化し、大腸菌JM109を形質転換した。更に得られた組換えプラスミドを制限酵素NdeIおよびSphIで消化し、ORF2上流配列を含む0.64 kbpのDNA断片を得た。
ORF2のN末部分を含むDNA配列は、IX-724株の染色体DNAを鋳型とし、プライマーセットとして、配列番号51で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号52で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、PCR反応を行い、同様の方法でクローニングした。得られた組換えプラスミドを制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、ORF2のN末部分を含む0.87 kbpのDNA断片を取得した。
【0084】
(4)化合物A生産株XX-126のORF2上流へtacプロモーターを挿入
相同組換えベクターpDNRtetを制限酵素NdeIおよびEcoRIで消化し、5.5 kbpのDNA断片を調製した。この5.5kbpのDNA断片と上記の3つのDNA断片を混合し、ライゲーション反応を行った。反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、25μg/mlテトラサイクリン耐性のクローンを選択し、組換えプラスミドをpEXP0119を得た(図2)。
プラスミドpEXP0119を用いてPseudomonas fluorescens XX-126株の形質転換を行った。Pseudomonas fluorescens XX-126株は実施例1のPseudomonas fluorescens IX-724株と同様にPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)の変異処理により得た株である。形質転換は遺伝子導入装置ジーンパルサー(バイオラッド)を用いて行った。形質転換体はLB寒天培地上での10μg/mlテトラサイクリン耐性と10%スクロース感受性を指標に選択した。得られた形質転換体から、染色体DNAを抽出し、制限酵素HindIII、BamHIあるいはSalIで消化後、サザンブロットを行い、所望の相同組み換えが生じていることを確認した。その際のプローブには前述のORF2上流配列を含む0.64 kbpのDNA断片、あるいはORF2のN末部分を含む0.87 kbpのDNA断片を使用した。
更に、以下の方法により、得られた形質転換体の染色体から相同組換えによりベクター配列を脱落させた。形質転換体をLB培地に植菌し、一晩20℃で振盪培養後、適宜希釈し、スクロース10%を含むLB寒天培地に塗布し、更に25℃で2日間培養した。生じたコロニーをLB寒天培地及び10μg/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天培地へレプリカし、テトラサイクリン感受性を確認した。得られたクローンから、染色体DNAを抽出しBamHIで消化後、前述と同様にサザンブロットを行い、所望の相同組み換えが生じていることを確認した。得られたクローンをtacプロモーター挿入株と称する。
【0085】
[実施例3]
化合物Aの製造
(1)tacプロモーター挿入株の培養
親株Pseudomonas fluorescens XX-126株とtacプロモーター挿入株をそれぞれLB培地に植菌し20℃で一晩振盪培養後、5 mlの種培地(1.0% 大豆粉、4.0% トレハロース、0.2% 酵母エキス、0.05% リン酸2カリウム、pH7.0)に一白金耳植菌し、更に3日間20℃で振盪培養を継続した。0.4 mlの種培養液を500 ml容三角フラスコ中の20 ml生産培地(4.5% グルテンミール、1.0% 大豆粉、0.8% コーンスティープリカー、5.0% トレハロース、0.7% 硫酸マグネシウム7水和物、0.1% シスチン、0.08% リン酸1カリウム、0.005% 硫酸亜鉛7水和物、0.005% 硫酸鉄7水和物、pH5.5)に植菌し、20℃で振盪培養を行った。培養2日目に希硫酸を用い培養液のpHを約5.5に調整した。
【0086】
(2)化合物Aの濃度の測定
培養3日目に培養液0.3 mlをサンプリングし、以下の前処理を行った後、HPLC法にて化合物A生産量を測定した。0.3 mlのサンプルに0.3 mlの希釈緩衝液(0.1% 硫酸銅5水和物、0.3 M グリシン、pH2.6)を加え、ボルテクスにより混和した後、0.6 mlのアセトンを加えた。更に、ボルテクスにより混和した後、遠心分離を行い、得られた上清をHPLC分析サンプルとした。HPLCの分析はカラムCadenza CD-C18(Imtact)を用い、24℃で移動層に40% アセトニトリル、0.25% トリフルオロ酢酸を用い、流速0.8 ml/分間で行い、UV210 nmで検出した。
分析の結果、図3に示すように、生産培養3日目のtacプロモーター挿入株での化合物A生産効率は親株に比して上昇していることが明らかとなった。
【0087】
(3)ORF遺伝子発現量の測定
生産培養2日目の培養液を150μlサンプリングし、300μlのRNA安定化用試薬(RNAprotect Bacteria Reagent;QIAGEN)と混和した後、遠心分離により沈殿を回収し、-80℃で保存した。後日、融解し、RNA精製用試薬(RNeasy Mini Kit;QIAGEN)を用いて全RNAを抽出した。RNA抽出操作はキットの指示書に従い実施したが、ホモジナイゼーション用試薬(QIA Shredder;QIAGEN)を用いたホモジナイズと、DNase (RNase free)(QIAGEN)を用いた混入DNAの分解を追加で実施した。
得られた全RNAの一部0.2μgから、耐熱性逆転写酵素を用いたRT-PCRキット(ThermoScript RT-PCR System;Invitrogen)を用い、cDNAの合成を行った。キット同梱のRandom Hexamersをプライマーとして用い、キットの指示書に従い実施した。
【0088】
ORF遺伝子の発現をリアルタイムPCRシステム(ABI PRISM 7900HT Sequence Detection System;アプライドバイオシステムズ)(以下Prism7900と称する)を用いたリアルタイムPCRにより行った。PCRはPCR検出定量試薬キット(SYBR Green PCR Master Mix;アプライドバイオシステムズ)を用いてキット添付の指示書に従って行い、OFR1〜13遺伝子の発現量を定量的に測定した。PCR反応は95℃(10分間)反応後、95℃(15秒間)/60℃(1分間)からなるサイクルを45回行った。測定に用いたプライマーは、ORF1〜13遺伝子および16SrRNAの配列情報からプライマー設計ソフトPrimer Express 1.5(アプライドバイオシステムズ)を用いて設計した。プライマーセットとして、ORF1の発現量の測定には配列番号53と配列番号54、ORF2の発現量の測定には配列番号55と配列番号56、ORF3の発現量の測定には配列番号57と配列番号58、ORF4の発現量の測定には配列番号59と配列番号60、ORF5の発現量の測定には配列番号61と配列番号62、ORF6の発現量の測定には配列番号63と配列番号64、ORF7の発現量の測定には配列番号65と配列番号66、ORF8の発現量の測定には配列番号67と配列番号68、ORF9の発現量の測定には配列番号69と配列番号70、ORF10の発現量の測定には配列番号71と配列番号72、ORF11の発現量の測定には配列番号73と配列番号74、ORF12の発現量の測定には配列番号75と配列番号76、ORF13の発現量の測定には配列番号77と配列番号78、また16SrRNAの定量には配列番号79と配列番号80で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0089】
上記で合成したcDNAを鋳型として以下のように解析を行った。目的遺伝子の各測定サンプル間での相対的発現量を算出するための標準曲線を作成する鋳型として、上述のIX-724株の染色体DNAと同様の方法で調製した親株XX-126株の染色体DNAの希釈系列を用いた。また、サンプル中のcDNA濃度の差を補正するため、補正用内部標準として16SrRNA遺伝子について同様の定量解析を行い、配列番号121で表される16SrRNA遺伝子の発現量を基に補正して、ORF1〜13遺伝子の発現量を算出した。生産培養2日目のtacプロモーター挿入株でのORF2〜13発現は親株に比して上昇していることが明らかとなった(図4)。
【0090】
[実施例4]
ORF1〜13遺伝子を個別に破壊された微生物の製造と化合物A生産効率
(1)遺伝子破壊微生物の製造
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの遺伝子が破壊された微生物は実施例1に記載されたトランスポゾンによる変異導入で取得された。配列番号3、配列番号4、配列番号6から配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの遺伝子の破壊は以下の方法で行った。
まず、各遺伝子のN末側の一部とC末側の一部をPCR反応により増幅した。N末側の増幅産物の上流側の末端およびC末側の増幅産物の下流側の末端には、相同組換えベクターpDNRtetにクローニングできるようにEcoRI部位およびBglII部位が生じるようにPCRプライマーを設計した。また、両断片が連結できるように、N末側の増幅産物の下流側の末端およびC末側の増幅産物の上流側の末端には同じ制限酵素認識部位(SalI部位またはPstI部位)が生じるようにPCRプライマーを設計した。PCR反応の鋳型にはPseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)の染色体DNAを用いた。プライマーとしては、各々N末側断片増幅用2本とC末側断片増幅用2本の順で、配列番号81、配列番号82、配列番号83及び配列番号84(配列番号3)、配列番号85、配列番号86、配列番号87及び配列番号88(配列番号4)、配列番号89、配列番号90、配列番号91及び配列番号92(配列番号6)、配列番号93、配列番号94、配列番号95及び配列番号96(配列番号7)、配列番号97、配列番号98、配列番号99及び配列番号100(配列番号8)、配列番号101、配列番号102、配列番号103及び配列番号104(配列番号9)、配列番号105、配列番号106、配列番号107及び配列番号108(配列番号10)、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112(配列番号11)、配列番号113、配列番号114、配列番号115及び配列番号116(配列番号12)、又は配列番号117、配列番号118、配列番号119及び配列番号120(配列番号13)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0091】
得られた増幅産物を各々突出末端とするため上述の制限酵素で消化し、さらにアガロースゲル電気泳動で分離精製の後、制限酵素EcoRI及びBglIIで消化された相同組換えベクターpDNRtet(実施例2(1)で調製した)と混合し、ライゲーション反応を行った。
ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109を形質転換し、25μg/mlテトラサイクリン耐性のクローンを選択し、組換えプラスミドを得た(図5)。得られた組換えプラスミドを用い、Pseudomonas fluorescens Q71576株(受託番号FERM BP-6944号)を実施例2(4)と同様の方法により形質転換し、2重相同組換えにより配列番号3、配列番号4、配列番号6から配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする各遺伝子が破壊された微生物を製造した。
【0092】
(2)遺伝子破壊微生物の培養
実施例3に記載の方法で、各遺伝子が破壊された微生物と破壊前の微生物(親株)を培養し、培養液中の化合物Aの濃度を測定した。図6に示すとおり、各遺伝子の破壊株は親株と比較して化合物Aの生産効率が1/2以下に低下していた。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号41、42、46-51、82、84、86、88、91-93、95-98、100-118、及び120の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
配列番号1に記載の塩基配列の第10878番〜第11747番はORF1(配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第12592番〜第17613番はORF2(配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第17616番〜第22298番はORF3(配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第22298番〜第25825番はORF4(配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第25825番〜第38067番はORF5(配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第38067番〜第42632番はORF6(配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第42625番〜第43797番はORF7(配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第43797番〜第44762番はORF8(配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第44762番〜第46978番はORF9(配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第47064番〜第47966番はORF10(配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第48027番〜第48929番はORF11(配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第48984番〜第49991番はORF12(配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)、第50081番〜第51253番はORF13(配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド)をコードしている。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】相同組換えベクターpDNRtetの作成過程を示す図である。
【図2】組換えプラスミドpEXP0119を示す図である。
【図3】tacプロモーター挿入株と親株の化合物Aの生産性を比較した図である。図の横軸のtacはtacプロモーター挿入株、WTは親株を表す。図の縦軸は培養液中の化合物Aの濃度を表し、親株の培養液を1とした場合の相対値を示している。
【図4】tacプロモーター挿入株と親株のORF1からORF13の発現量を比較した図である。図の横軸の数字は各ORFに対応し、図の縦軸は相対発現量を表す。黒塗りのバーはtacプロモーター挿入株における相対発現量を示し、白塗りのバーは親株における相対発現量を示している。
【図5】ORF1からORF3、ORF5からORF12の遺伝子破壊方法を示す図である。AはN末側の断片を表し、BはC末側の断片を表す。
【図6】ORF1からORF3、ORF5からORF12の遺伝子破壊株の生産性を親株と比較した図である。横軸の数字は遺伝子破壊株の破壊したORFに対応し、WTは親株を表す。縦軸は培養液中の化合物Aの濃度を表し、親株の培養液を1とした場合の相対値を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、かつ下記一般式(I)で示されるリポペプチド化合物の生産性を向上させるポリペプチド。
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
【化1】

(式中Rは、イソプロピル基、sec-ブチル基またはイソブチル基を意味する。)
【請求項2】
配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含み、かつ当該ポリヌクレオチドを遺伝子破壊することにより請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物の生産を低下させるポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程を含むことを特徴とする、前記化合物の生産性の高い微生物を製造する方法。
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物の生産性を向上させるポリペプチド
【請求項7】
請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を産生する微生物に由来し、配列番号3〜14に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を増加させるように改変した微生物。
【請求項8】
請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を産生する微生物がシュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)Q71576株(FERM BP-6944)である請求項7記載の微生物。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の微生物を培養する工程、及び培養物から請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を採取する工程を含むことを特徴とする前記化合物の製造法。
【請求項10】
請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程、及び微生物を培養し培養液から前記化合物を採取する工程を含むことを特徴とする前記化合物の製造法。
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物の生産性を向上させるポリペプチド
【請求項11】
請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物を産生する微生物に遺伝的な変異を付与する工程、及び下記(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチドの発現量の高い微生物を選択する工程を含むことを特徴とする、前記化合物の生産性を向上させる方法。
(a) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、
(c) 配列番号2〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列、並びに
(d) 配列番号1の第10878番〜第11747番、第12592番〜第17613番、第17616番〜第22298番、第22298番〜第25825番、第25825番〜第38067番、第38067番〜第42632番、第42625番〜第43797番、第43797番〜第44762番、第44762番〜第46978番、第47064番〜第47966番、第48027番〜第48929番、第48984番〜第49991番、若しくは第50081番〜第51253番で表されるポリヌクレオチド又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされるアミノ酸配列
からなるポリペプチドであり、かつ請求項1に記載の一般式(I)で示されるリポペプチド化合物の生産性を向上させるポリペプチド


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136291(P2006−136291A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330988(P2004−330988)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】