説明

リンク式複動変換型エンジンを動力源とする省エネルギー装置

【課題】 あらゆる実用化されている熱機関の中で、熱効率が理論上最も高いアトキンソンサイクルエンジンは発明されて以来実用化た例はないが、本発明は、その実用化を阻むエンジンの技術上の問題点を克服し、改良し、その問題を解決したエンジンを発電機と組み合せた電力発生装置、車両の走行又は移動のための装置、船舶が航行するためのスクリュウ駆動装置、及び油圧ポンプや産業機械等と組み合せて従来の汎用内燃機関との組み合わせでは全く到達不可能なレベルの高い発電効率の実現や、高いレベルの省エネルギー効果が得られる装置の開発に目途をつけることを目的とする。
【解決手段】 実用化を阻むエンジンの技術上の問題点を、2本の遥動アームと1本のリンクバーで構成されるピストンの複動変換機構を、クランク軸とピストンの間に挿入するメカニズムで解決し、高速作動から中・低速作動ができるアトキンソンサイクルエンジンを工夫し、上記のそれぞれの装置の動力源に使うことによって問題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リンク式複動変換機構を備えた完全膨張型エンジンによる発電、車両走行、船舶航行、各種産業機器等の作動をする装置、及びシステムに関する。
【先行技術文献】
【0002】
本発明で特定する完全膨張型のリンク式複動変換型エンジンは特開2002−4801のリンク式完全膨張型エンジンである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
あらゆる実用化されている熱機関の中で、熱効率が理論上最も高いアトキンソンサイクルエンジンは1886年にイギリスのジェームス・アトキンソンによって発明されたが、同じ気体又は液体の炭化水素燃料を使用するオットーサイクルやディーゼルサイクルの内燃機関より圧倒的に理論熱効率は優れているにもかかわらず、今日まで実用化された実績がない。
本発明は、その実用化を阻むエンジンの技術上の問題点を克服、改良し、それと発電機と組み合せた電力発生装置、車両の走行又は移動のための装置、船舶が航行するためのスクリュウ駆動装置、及び油圧ポンプやクレーンなどの産業機械装置などと組み合せて従来の汎用内燃機関と組み合わせでは全く到達不可能であった高レベルの省エネルギー作動が出来る装置の開発を目的とする。
【課題を解決する上の問題点】
【0004】
課題を解決する上で最大の難関であるアトキンソンエンジンが今日まで実用化されていない技術上の理由を挙げると、1)ピストンの2段ストローク運動をする機構が複雑になるため、構成部品の数が多くなること、2)構造上ピストンに大きな摺動摩擦抵抗が発生するため機械効率が著しく低くなること、の2つの問題点の克服が出来ないことが主たる理由である。その為他の単純構造の汎用往復動内燃機関に比較して、実用エンジンとしての総合性能が全く出せない評価になっている。
本発明の目的である高いレベルの省エネルギー効果を実現できる電力発生装置、車両の走行又は移動のための装置、船舶が航行するためのスクリュウ駆動装置、及び油圧ポンプやクレーンなどの産業機械装置と組み合せた装置の発明には、そのエンジンの問題点の解決が最重要課題となる。
【問題点を解決する為の手段】
【0005】
汎用の往復動4サイクルエンジンはピストンとクランク軸が連接棒で直結されているので、ピストンのガスの吸入・圧縮行程と膨張・排気行程のストローク長さは同じになるので、シリンダー内では燃焼ガスは十分膨張しきれず、相当量の燃焼エネルギーが有効に使えないという不完全な構造になっているので、本発明の目的には使えない。
【0006】
エンジンの問題点を解決する有効な手段として考えられるのは実用エンジンとして現在全く評価されていないアトキンソンサイクルエンジン独特の機能、即ちピストンの往復運動の長さを2段階にし、ガスの吸入・圧縮行程と膨張・排気行程のストロークの長さを機構的にに差をつけ、シリンダー内で燃焼ガスが十分膨張出来るようにし、汎用の往復動4サイクルエンジンでは絶対に不可能なガスの膨張エネルギーを有効エネルギーとして取り出せる新しいメカニズムを工夫する事である。
【0007】
その新しいメカニズムは汎用の4サイクルエンジンのように、ピストンとクランク軸との間を直結する連接棒代わりに、2本の遥動アームと1本のリンクバーで構成されるピストンの複動変換機構を挿入するメカニズムである。
【0008】
そのピストンの複動変換機構の作動原理を[図1]で説明すると次の通りである。
頑丈なフレームの内側の壁にアームが遥動運動をする2つの支点1と2を設ける。遥動アームaは支点1を、bは支点2を中心に自由に遥動運動が出来るが、両アームの先端のピン3と4の間に自由に遥動運動が出来るが、両アームの先端のピン3と4の間にリンクバーcを設けると、遥動アームbの単振動の遥動運動は遥動アームaの振幅の異なる2つの複振動に変わる。その遥動アームbの1往復の遥動をダイアグラムに表すと[図2]のようになる。
遥動アームbのピン4の振動は振幅が一定の単純振動になるが、遥動アームaのピン3の振動は振幅がSとSの複動振動に変わる。
【0009】
この作動原理を利用してピストンによるガスの吸入・圧縮行程と膨張・排気行程のストローク長さが異なるアトキンソンエンジンの構成を考えることが出来る。即ち[図3]のように、ピン3の振動はピストン5の往復運動に、ピン4の振動はクランク軸6の回転運動にそれぞれ転換するように、ピストンロッドdとコンロッドeとで連接する。
この構造では[図4]のダイアグラムに示すように、クランク軸6が1回転する間に、ピストン5は行程の長さが異なる長行程と短行程を交互に2往復する。
【0010】
ピストン5とクランク軸6との作動状態は[図5]のような動きをして、4サイクルエンジンの機能を果たすことが可能になる。
この図の場合クランク軸6は矢印のように反時計回りに1回転をするが、ピストン5の運動は図▲1▼の状態から▲2▼への移行する過程は吸入行程、▲2▼から▲3▼への移行は圧縮行程、▲3▼から▲4▼への移行は膨張行程、▲4▼から▲1▼への移行は排気行程となる。
この作動図から明らかなように、このエンジンの場合はクランク軸6が1回転する間にピストン5は2往復して完全な4サイクル行程を遂行する。
【0011】
しかし複動変換機構を装備したエンジンはピストンとクランク軸とをコンロッドで直接連結する単純構造の往復動エンジンと較べて、部品点数も多く、機構が相当に複雑になる難点がある。
一般にエンジン機能の複雑化はその実用化にとって極めて不利な要素となるが、本発明に使うアトキンソンエンジンのリンク式複動変換機構にはその複雑化に伴う難点をカバーする有利な側面を持っている。
【0012】
それを[図6]で説明すると、アトキンソンエンジンの機械効率を落とす最大の要素はピストンの摺動摩擦抵抗が大きくなる点にあるが、リンク式複動変換型エンジンの場合は、単純構造のエンジンのピストンとシリンダーの間に発生する摺動摩擦抵抗よりはるかに低く、1/10以下に抑えることが出来る特性がある。
その理由は[図6]の(1)と(2)とを比較すれば明白である。
仮に単純構造のエンジンのピストンの行程長さとリンク式複動変換型エンジンの行程長さが同じRである場合で比較すると、両方のピストンロッドの遥動幅SとSの間には大きな差が出る。
この差はピストンの上面に掛かる荷重Pによって発生する横方向の分力に大きな差が出る。その差は横方向分力TをTの1/10以下に設計する事が可能になり、リンク式複動変換型エンジンの摺動摩擦抵抗による機械効率の低下を確実に避けることが出来る。つまりリンク式複動変換型エンジンには機構の複雑化に伴うマイナス要因を打ち消す特性がある。
【0013】
更に複動変換機構のリンク構造は上記以外でも機械的損失を軽減できる特徴を持っている。
[図3]において、ピストンの上面に掛かる負荷圧力pは2つの支点ピン1と2で受け止められるが、そのピンの軸受けにボールベアリング、又はローラーベアリング等を使用すると、その部分の遥動運動に伴うピンの摺動摩擦抵抗は転がり摩擦になり、アームの遥動運動に伴う機械的損失は更に微少になる。
従ってピストンの上面に掛かる負荷圧力pの大部分を殆ど損失することなくクランク軸を回転させる方向の力Fに変換することができる。
つまり本発明に使用するリンク式複動変換型エンジンの機械効率は、上記の2つの特異なエンジン特性により単純構造の汎用4サイクルエンジンと較べ、遜色のないレベルの機械効率の高いエンジンになる。
【0014】
更に使用するリンク式複動変換型エンジンの省エネルギー特性は、膨張比を他の類似エンジン(例えばミラーサイクルエンジン)より圧倒的に大きく採ることが出来るので、単純構造の汎用4サイクルエンジンはもとより、どのようなエンジンを使用した装置より優れた省エネルギー性能を発揮する装置になる。
それは[図7]のようにエンジンのサイクル特性を描くと明白にあらわれる。シリンダ内のガスの状態の圧力を(P)・体積を(V)であらわす熱力学で使われるP・V線図で表すと、単純構造の汎用往復動エンジンはピストンの行程体積(V)が往復一定であるために、出力はLだけになるが、本発明に使用するエンジンは、膨張体積がVとなるため、出力はL+Lとなり、熱効率が大幅に改善される。
これは単純構造の汎用4サイクルエンジンのサイクル(オットーサイクル)が、1→2→3→4→5′→2→1という過程を取るのに対し、リンク式複動変換型エンジンは1→2→3→4→5→6→1という過程を取ることになり、前者が大気中に無為に放出していたエネルギーLを、後者はシリンダー内の膨張体積をvだけ大きいVにして吸収し、有効エネルギーをL+Lにしていることを示している。
特に行程体積の膨張比V/Vを2倍以上にする事も可能で、他の方法(例えばミラーサイクルエンッジン)では構造上絶対に実現できない高比率で、優れた省エネルギー効果を発揮する。
【0015】
その効果を具体的例、例えばエンジンの圧縮比V/Vが6のエンジンで、膨張比V/Vを2倍にした場合の熱効率の上昇率を計算してみると、[図7]のオットーサイクルの1.7倍、即ち熱効率が単純構造の汎用往復動エンジンよりも70%も高くなるという計算結果が得られる。
【発明の効果】
【0016】
従って上記のような工夫をしたリンク式複変動型アトキンソンエンジンは機構学的に機械効率の低下を、単純構造の汎用4サイクルエンジンと比較して遜色のないレベルにおさえながら、熱効率を数十パーセント以上高められるので、このエンジンの組み込みによって、従来のものよりも格段に高い省エネルギー装置を実現できる見通しがついた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
リンク式複動変換型エンジンの優れた特長は、単純構造の汎用往復動エンジンと同じように、使用目的に合わせて、高速型、低速型、大型、小型、定置型、移動型‥等色々の形式の使用目的に合わせた設計が出来るので、広範囲の装置の省エネルギーを可能になる。
例えば[図8]は動弁機構が高速作動に適したオーバーヘッドカム方式に設計したエンジンで、[図9]は動弁機構をプッシュロッドタイプのに設計し、遥動アームのスイング幅を大きくするためピストンロッドの結合ピンの位置をアームの中程にずらして、中型や大型の中・低速作動が出来るエンジン機構になる。
前者は自動車などの車両の走行又は移動用に適しているが、発電機と組み合せて、中・小型の発電装置や、油圧装置と組み合せて、各種産業装置の駆動用にも適した性能を備えている。
後者は中・大型船舶の主機や補機に適し、陸上定置形の発電装置にも適している。
いずれのエンジンの場合も、設計の段階で圧縮比を高く設定すれば、ディーゼルと同じアトキンソンサイクルディーゼルエンジンになり、熱効率は更に高くする事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】はピストンの複動変換機構の作動原理を示す図
【図2】はアームaのピン3とアームbのピン4の振動グラフ
【図3】は複動変換機構を使ってアトキンソンサイクルのエンジンを構成する作動説明図
【図4】はピストン5とクランク軸6との作動状態を表すダイアグラム
【図5】は作動がアトキンソンサイクルになることを示す図
【図6】はピストンの横方向分力の差を示す図
【図7】はリンク式複動変換型エンジンの熱力学特性を説明するP・V線図
【図8】は動弁機構がオーバーヘッドカム方式に設計した高速型エンジンの構造を示す縦断面図
【図9】は動弁機構がプッシュロッドタイプの中・低速型のエンジンの構造を示す縦断面図
【符号の説明】
【0019】
1 遥動アームbの支点ピン
2 遥動アームaの支点ピン
3 遥動アームbのリンクピン
4 遥動アームaのリンクピン
5 ピストン
6 クランク軸
7 排気弁
8 吸気弁
9 排気カム
10 吸気カム
11 プッシュロッド
12 吸、排気カム
a 遥動アーム
b 遥動アーム
C リンクバー
D ピストンロッド
E 連接バー
P ピストン上面に掛かる負荷
F クランク軸の回転力分力
,T ピストンの横分力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と発電機とを結合して作動する発電装置において、汎用の内燃機関と発電機との組み合わせでは到底実現できない高いレベルの熱効率で発電するために、エンジンに2本の遥動アーム(a及びb)とそれをつなぐ1本のリンク(c)で構成される複動変換機構を使って実現できるアトキンソンサイクルエンジン(以下これを「リンク式複変動型エンジン」と略称する)に発電機を組み合わせて燃費特性を大幅に改善出来るようにした発電装置。
【請求項2】
車輪や無限軌道を使って、自動車や各種産業の機械装置を走行、又は移動する装置において、汎用のエンジンによる駆動では達成できない高いレベルの省エネルギー効果を実現するために、動力源のエンジンにリンク式複変動型エンジンを組み込んでいることが特徴の、車両や機械、装置の走行、又は移動をさせる装置。
【請求項3】
エンジンの出力軸に船舶の推進プロペラ軸を直結、又は変速機介して結合する構造の船舶推進装置において、従来の汎用エンジンでは実現出来ない高いレベルの省燃費航行を可能にするため、リンク式複変動型エンジンを動力源に組み込んでいることが特徴の船舶の推進装置。
【請求項4】
エンジンの出力を油圧ポンプやクレーンなどの産業機械装置や機器の作動に使う装置において、高い省エネルギー効果や省燃費効果を発揮するために、リンク式複変動型エンジンとの組み合せが特徴のエンジン一体型機械装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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