説明

リン含有汚泥焼却灰の有効利用方法

【課題】 本発明は、リンを含有する汚泥焼却灰の大量再利用を有効にかつ簡便に図れるようにする方法を提供するものであり、リン含有量の多い粒度区分を凝結遅延剤として、またリン含有量の少ない粒度区分をセメント原料として再利用することのできる、汚泥焼却灰の再利用方法を提供する。
【解決手段】 本発明の汚泥焼却灰の再利用方法は、汚泥焼却灰を粒度による分級処理し、
汚泥焼却灰の粒度に傾斜して含まれるリン含有量に応じて当該汚泥焼却灰を簡便に分別し、
リン含有量が多い粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として、またリン含有量が少ない粒度範囲の汚泥焼却灰をセメント原料として再利用を図る。
【図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有汚泥焼却灰の有効利用方法に関し、特に、リン成分を含む汚泥焼却灰を、セメント原料や凝結遅延剤として有効な利用に供することができる再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及に伴い下水処理量は年々増加しており、それとともに発生する汚泥量も着実に増加してきている。
かかる増大する汚泥を処理するために、汚泥を減量化(減容化)することが行われており、そのため汚泥を焼却処理したり、汚泥を溶融処理したりすることが実施されている。
特に汚泥の焼却処理が積極的に行われており、それに伴い焼却灰の発生量も増加している。
【0003】
このような現状下では、発生した汚泥や当該汚泥を焼却した焼却灰のほとんどが最終処分場で埋め立て処分されており、処分地の制約が大きい大都市のみならず、新たに下水処理を開始した中小都市においても莫大な埋め立て費用が大きな問題となっている。
そのため、例えば汚泥の焼却灰を加圧成形した後焼成してレンガを製造したり、前記焼却灰を加圧造粒して人造骨材にしたり、また、当該焼却灰を溶融して得られたスラグを路盤材に利用する技術等が提案されている。
【0004】
特に、近年、セメント業界においても、これらの焼却灰はセメント原料の粘土代替用材料として利用することが注目されており、セメント原料として有効に使用できると年間数千トンオーダで再利用が図れることも可能となり、その需要は年々増加している。
【0005】
しかし、一般に、汚泥焼却灰中にはリン成分が含有されており、かかるリン(P換算で、10〜20重量%程度)成分は、得られるセメントの性状、特に初期圧縮強度の低下、凝結の遅延やセメントクリンカの易焼成性の低下等、セメントに必要とされる特性に悪影響を与えることが知られている(5th International Congress on the Chemistry of Cement Vol.I, p.157−162,p.340−347(1968)、セメント技術年報Vol.24,p.39−43(1970)等)。
【0006】
また、通常ポルトランドセメント中のリン化合物は、P換算で0.1〜0.2重量%程度含有されているが、セメントクリンカ中のリン化合物がP換算で0.5重量%以上含有されるようになると、上記したようなセメント特性への悪影響が生じてしまうため、リン化合物を高濃度で含有した汚泥焼却灰等の廃棄物を、大量にセメント原料として使用することは困難であった。
【0007】
また、暑中でのコンクリート施工や、レディーミクストコンクリートで運搬距離が長い場合、連続して大量のコンクリートを打設するには、コールドジョイントを防止するために、凝結遅延剤を用いることがある。
前記凝結遅延剤は、セメントの水和反応を遅らせることにより、モルタルやコンクリートの凝結及び硬化を遅延させる混和剤であり、有機系凝結遅延剤と無機系凝結遅延剤とに大別される。
【0008】
有機系凝結遅延剤としては、リグニンスルホン酸塩、グルコン酸塩やポリオール高分子複合体を主成分にしたものがあり、また、無機系凝結遅延剤としては、珪フッ化物やリン酸塩を含む遅延剤や、塩化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛などがあるが、いずれの材料も非常に高価であり、安価な凝結遅延剤材料が求められている。
【0009】
しかし、従来、有機系凝結遅延剤として、リン成分を含有する汚泥焼却灰を用いても、含有されるリン成分量が十分でなく、セメントやコンクリートの凝結遅延剤としての機能を期待する程度にまで十分に発揮することができない。
また、汚泥焼却灰焼却灰中の含有されるリン化合物の量は、汚泥焼却灰の種類に応じて異なるため、含まれるリン含有量が低濃度である場合にはリン成分の凝結遅延性能が満足できる程度に至っておらず、セメントやコンクリートの凝結遅延を有効に図ることができなかった。
【非特許文献1】5th International Congress on the Chemistry of Cement Vol.I, p.157−162,p.340−347(1968)
【非特許文献2】セメント技術年報Vol.24,p.39−43(1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、リンを含有する汚泥焼却灰の大量再利用を有効にかつ簡便に図れるようにする方法を提供するものであり、具体的には、リン含有焼却灰を分級処理することによりリン含有量に応じて簡便に分別して、リン含有量の多い粒度区分を凝結遅延剤として再利用することのできる、汚泥焼却灰の再利用方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、リン含有焼却灰を分級処理し、リン含有量の少ない粒度区分の汚泥焼却灰部分を大量にセメント原料に利用できるようにすると共に、リン含有量の多い粒度区分の汚泥焼却灰をセメントやコンクリートの凝結遅延剤として再利用することができる、汚泥焼却灰の再利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リン含有汚泥焼却灰中に含まれるリン成分の含有量は、焼却灰の粒度により偏在があり、従って焼却灰を分級処理することで、調整されたリン含有量の焼却灰を分別し、これにより有効利用が達成できるものである。
【0012】
本発明の汚泥焼却灰の再利用方法は、汚泥焼却灰を粒度による分級処理することにより、汚泥焼却灰の粒度に傾斜して含まれるリン含有量に応じて当該汚泥焼却灰を簡便に分別し、所望するリン含有量を有する粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として用いることを特徴とする。
好適には、上記本発明の汚泥焼却灰の再利用方法において、リン含有量が多い粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として用い、更には、リン含有量が少ない粒度範囲の汚泥焼却灰をセメント原料として用いることを特徴とする焼却灰の再利用方法である。
【発明の効果】
【0013】
リン化合物を高濃度で含有した汚泥焼却灰廃棄物は、セメントの物性に悪影響を与えるため、大量にセメント原料に使用することが実際は困難であり、また、暑中でのコンクリートの施工や、レディーミクストコンクリートで運搬距離が長い場合、連続して大量のコンクリートを打設する場合にコールドジョイントを防止するため、凝結遅延剤を用いるが、非常に高価であるといい問題を有していたところ、本発明のリン含有汚泥焼却灰の再利用方法は、これらの汚泥焼却灰を風力遠心力分級機などにより粒度ごとに分級し、粗粉と微粉とに分けたのち、リン含有量が低い粗粉はセメント原料に大量に有効利用することができ、リン含有量が多い微粉は凝結遅延剤として利用に供することができるため、汚泥焼却灰の大量かつ安定したリサイクル処理が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体的な態様に基づいて、次の好適例により詳細に説明する。
本発明の汚泥焼却灰の再利用方法は、汚泥焼却灰を粒度による分級処理し、汚泥焼却灰の粒度に傾斜して含まれるリン含有量に応じて当該汚泥焼却灰を簡便に分別し、所望するリン含有量を有する粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として用いることにより、汚泥焼却灰を大量にかつ有効に再利用できる方法である。
当該本発明の方法は、リン含有汚泥焼却灰中のリン含有量には、当該汚泥焼却灰の粒度により偏在しており、すなわち粒度に傾斜して、含まれるリン含有量が異なるという新規な知見に基づくものである。
【0015】
具体的には、汚泥焼却灰の微粉側にはリン成分が多く偏在して含有され、一方粗粉側にはリン成分の含有量が少なく、所定の条件で分級処理して粒度ごとに分けることにより、特定のリン含有量を含む焼却灰ごとに分別調整でき、当該リン含有量に応じて汚泥焼却灰に異なる処理を施してその有効利用を図るものである。
好適には、汚泥焼却灰を分級処理すると、リン含有量の少ない汚泥焼却灰は、大量にセメント原料に利用する処理に課し、それとともにリン含有量の多い汚泥焼却灰はセメントまたはコンクリート用の凝結遅延剤として、再利用が図られるものである。
【0016】
本発明の汚泥焼却灰の再利用方法に用いることができる汚泥焼却灰は、リン成分を含有する汚泥焼却灰であれば特に限定されず、例えば、下水汚泥、浄水汚泥、食品残渣汚泥、家畜糞尿汚泥、し尿、家庭用雑排水及び産業用廃水処理などによって発生した任意の汚泥焼却灰の少なくとも1種以上を適用することができる。
特に下水処理場で発生する汚泥量は、近年増加しており、本発明の方法が下水処理場で発生する汚泥焼却灰の再利用方法として好適に用いられる。
更に、汚泥焼却灰を大別すると、高分子凝集剤が添加された汚泥を焼却したものと、石灰系凝集剤が添加された汚泥を焼却した灰とに分けられるが、減容化対策から最近では高分子凝集剤を使用したものが多く、本発明においては両者共に適用が可能である。
【0017】
これらの焼却灰は、通常、汚泥を汚泥処理場で含水率約60〜90重量%程度にまで脱水処理されたものを焼却したものであり、本発明においては、汚泥の含水率は特に限定されないが、上記各種汚泥を含水率約60〜90重量%程度にまで脱水処理した通常の汚泥を焼却した焼却灰が好適に使用される。
【0018】
また、汚泥の焼却には、多段焼却炉や流動床焼却炉等の任意の焼却炉を用いることができ、さらにその焼却方法は、通常使用されている任意の焼却方法を使用することが可能である。
一般に、流動床炉を用いて汚泥を焼却する場合には、得られる焼却灰の平均粒径は25〜50μm程度である。
【0019】
このようにして、汚泥を焼却して得られた汚泥焼却粉を、粒度ごとに分級する。
これは、一定の幅の粒度ごとに分級処理して分別された汚泥焼却灰中に含有されるリン成分の含有状況を確認したところ、粒度が大きくなるにつれて、含有されるリン成分の量が少なくなる傾向があり、粒度に傾斜して汚泥焼却灰中に含まれるリン含有量が異なるからである。
かかる分級処理により、汚泥焼却灰を、含有されるリン成分の量に応じて分別できるので、用途に合致させた汚泥焼却灰の再利用が有効となる。
【0020】
粒度ごとの分級方法としては、重力分級機、遠心分級機、慣性分級機等の通常の分級方法を用いることができ、他に、JISふるいによる分級法等も使用可能である。
【0021】
粒度ごとに分級処理された汚泥焼却灰は、粒度の大きい粗粉側は、含有されるリン成分の量が少ないので、リン成分が多量に含まれると弊害が生じてしまうような用途に好適に用いることができる。
このような用途としては、セメント原料として利用されることが好適であり、これは含有されるリン成分量が少ないとともに、汚泥焼却灰はシリカ成分を含むため、セメント原料として大量に用いるのに好適だからである。特に、粘土代替用材料として有効に使用できる。
これは、リン化合物がP換算で0.5重量%以上含まれると、初期圧縮強度の低下等のセメントに必要とされる特性の低下が生じてしまうので、大量にリン成分を含有させることは適切ではないからであり、また、後述するように、汚泥焼却灰の粗粉側に含まれるシリカ(SiO)成分は、粗粉側で増加傾向を示し、このことはセメントにおいて粘土代替材料として用いるのに好適だからである。
【0022】
一方、粒度ごとに分級処理された汚泥焼却灰であって粒度の小さい微分側の汚泥焼却灰は、含有されるリン成分の量が多くなるので、特にリン成分が多量に含まることにより有効な処理が図れる用途に好適に用いることができる。
このような用途としては、セメントやコンクリート用の凝結遅延剤として利用されることが好適であり、セメントやコンクリートの水和反応を抑制する成分として、汚泥焼却灰中に含まれる多量のリン成分が有する凝結遅延作用が有効に発現され、期待する凝結遅延効果を有することができる。
【0023】
分級された汚泥焼却灰の粒径と含有されるリン成分の含有量とは一義的に決定されるわけではないが、一般に、分級平均粒径が例えば10から40μmへと大きくなるとともにリン含有量が漸次減少し、特に30μm前後、好適には約32μm付近で急激に減少する。
よってセメント原料として使用される汚泥焼却灰粗粉とリン回収用原料として使用される汚泥焼却灰の微粉との粒度分級点としては、20〜32μm以上が好ましいが、汚泥の性状や、焼却装置、焼却条件等によりリン成分の偏在状況は変化するため、この条件に限定されるものではない。
【0024】
従って、分級処理して粒度ごとに分別された汚泥焼却灰の含有リン量を、公知の方法、例えば、JIS R 5202により測定して、汚泥焼却灰の粒度区分ごとの汚泥焼却灰中に含まれるリン含有量を決定し、微粉と粗分とに分級する適切な分級点を決定、または所望する再利用に適するリン含有量の汚泥焼却灰粒度範囲を決定することが好ましい。
ここで、粗粉または微粉とは、上記決定された分級点により、前記篩、分級機等で粒度を分けた場合の篩上残分(篩上)、もしくは分級点より粗い粒子を粗粉とし、また、篩通過分(篩下)、もしくは分級点より細かい粒子を微粉としているものである。
【0025】
また、かかる粗粉側での含有量減少傾向は、アルミナ(Al)や、酸化カルシウム(CaO)も同様であり、逆にシリカ(SiO)は、粗粉側で増加傾向を示すので、汚泥焼却灰を分級して粒度ごとに分別調整し、含有されるアルミナ(Al)、酸化カルシウム(CaO)やシリカ(SiO)の含有量の点から、粒度ごとに異なる処理に用いて有効利用に供することも可能である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
A市の下水処理場から発生した汚泥を焼却した下水汚泥焼却灰(乾灰)を入手した。
その組成を元粉と表示して、表1に示す。
次いで、当該A市の下水焼却灰中の、粒度による組成成分の偏在状況を確認するために、JIS篩を使用して32μmで分級し、当該分級点により分別された粒度範囲の組成(重量%)、平均粒径(μm)を表1に示す。
なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(CILAS1064:シーラス社製)を用いて測定した値を、組成はポルトランドセメントの化学分析方法(JIS R 5202)に準拠して測定した値を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記表1の分析結果より、粒径の小さい微粉側は、P、Al、CaOの含有量が増加し、逆にSiOの含有量は減少することが明らかである。
従って、所望するリン含有量を含む粒径範囲の汚泥焼却灰を選択することが容易となり、所望する再利用処理に適切に用いることが可能となる。
【0029】
次いで、普通ポルトランドセメントPC1,2(住友大阪セメント社赤穂工場製:PC1,2は同ロットのサンプル)に、表1の汚泥焼却灰を分級した微粉(32μm以下)部分を、無添加で、そして内割で10重量%、20重量%添加したセメント試験材料を調製し、各セメント試験材料を20℃恒温室に設置してあるコンダクションカロリーメーター(商品名 水和熱測定装置;東京理工社製)を用いて、総発熱量(cal/kg)、水和反応のピーク時間、凝結遅延時間(水和熱のピーク時間を無添加のものと比較した時間)、水和反応のピーク高さ(cal/g・hr)の測定を行った。なお、注水時の水セメント比は40%一定とし、上記コンダクションカロリーメーター装置内で自動注水、混練し、注水後40時間までデータを回収した。
また比較として、表1のリン含有量の少ない粗粉(32μmを越える範囲)を用いて、上記微粉と同様の試験を行った。
これらの結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、普通ポルトランドセメントに下水汚泥焼却灰の分級微粉を添加することにより、水和反応のピーク時間が2時間〜5時間遅延する結果が得られ、明らかに優れた凝結遅延効果を発揮できることがわかる。
またリン含有量の少ない粗粉においても、リン成分を含むため遅延効果を若干奏することができるが、その効果は充分ではないことがわかる。
【0032】
以上より、汚泥焼却灰元粉の種類に応じて含有されるリン成分の量は異なるが、どの汚泥焼却灰についても粒度が大きくなるに従い含有されるリン量は減少することが明らかである。
従って、汚泥焼却灰を粒度ごとに分級し、含有されるリン量を分級された汚泥焼却灰の粒度範囲ごとに測定して、当該リン含有量に応じた汚泥焼却灰を異なる処理に有効に用いて再利用を図ることができ、特に、リン含有量の少ない粗粉側の汚泥焼却灰をセメント原料に用い、リン含有量の多い微粉側の汚泥焼却灰をセメントやコンクリート用の凝結遅延剤として再利用処理に用いることが、汚泥焼却灰の大量処理を可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、リン含有量の多い汚泥焼却灰、特に下水汚泥焼却灰を大量にかつ効率的に再利用することに適用され、特にセメントやコンクリート用の凝結遅延剤やセメント原料として大量にかつ有効に用いられることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却灰を粒度による分級処理することにより、汚泥焼却灰の粒度に傾斜して含まれるリン含有量に応じて当該汚泥焼却灰を簡便に分別し、所望するリン含有量を有する粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として用いることを特徴とする、汚泥焼却灰の再利用方法。
【請求項2】
請求項1記載の汚泥焼却灰の再利用方法において、リン含有量が多い粒度範囲の汚泥焼却灰を凝結遅延剤として用いることを特徴とする、汚泥焼却灰の再利用方法。
【請求項3】
請求項2記載の汚泥焼却灰の再利用方法において、リン含有量が少ない粒度範囲の汚泥焼却灰をセメント原料として用いることを特徴とする、汚泥焼却灰の再利用方法。