説明

リン酸アルミニウムを生成するためのプロセス

本発明は、アルミニウムアジュバントAlPOを生成する改良された方法を提供する。一態様において、本発明は、リン酸アルミニウムを生成する方法であって、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップを含み、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約50℃〜約70℃の範囲の温度で沈降させることを含む方法を提供する。別の態様において、本発明は、リン酸アルミニウムを閉鎖系内で生成する方法を対象にする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
一部のワクチンおよび他の医薬品は、ワクチン抗原の免疫原性を増強し、それによってワクチンをより有効にするように機能するアジュバントと呼ばれる1種または複数の成分を含有する。研究によって、多くのアルミニウム含有ワクチンは、アジュバントなしで製剤された同じワクチンより高くかつ長期の抗体応答を引き出すことがわかった。ワクチンアジュバントとして機能するアルミニウム含有塩(「ミョウバンとも呼ばれる」)には、いくつかのタイプ:(i)リン酸アルミニウムまたはAlPO、(ii)水酸化アルミニウムまたはAl(OH)、および(iii)硫酸アルミニウムカリウムAlK(SOがある。各アルミニウム含有アジュバントの有効性は、しばしば特定のワクチンの特性、および製造業者のワクチン調製方法に依存する(非特許文献1)。アジュバントとして機能するために、典型的には、抗原をアルミニウムに吸着させて、抗原を注射部位に維持する必要がある。
【0002】
米国が認可している小児用アルミニウムアジュバント含有ワクチンとしては、ジフテリア−破傷風−無細胞百日咳(DTaP)ワクチン、一部のHaemophilus influenzae b型結合型(Hib)ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン、B型肝炎ワクチン、DTaPとTdapとA型肝炎ワクチンとヒトPapillomavirusワクチンとの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0003】
Wyethから市販されているPrevnar(登録商標)は、アジュバントとしてリン酸アルミニウムを含有する結合型肺炎球菌ワクチンである。Prevnar(登録商標)の抗原は、Streptococcus pneumoniae細菌の異なる血清型7種に由来する多糖体の混合物であり、それぞれ担体タンパク質CRM197に結合している。Prevnar(登録商標)は、アルミニウムアジュバントAlPOに吸着させた特異的防御免疫応答を刺激する物質である抗原のコロイド懸濁液を含有する清澄な水性液体として製剤される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Baylorら、「Aluminum salts in vaccines−US perspective」、Vaccine、20巻:S18〜23頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン酸アルミニウムアジュバントを生成する方法は記述されているが、より効率的でかつ/または無菌である方法、特に工業規模の方法が当技術分野でまだ求められている。さらに、すでに商業利用されている、例えばPrevnar(登録商標)のリン酸アルミニウムアジュバントと同様の物理的、化学的、および機能的特性を有するリン酸アルミニウムアジュバントを生成する新規方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルミニウムアジュバントAlPOを生成する改良された方法を提供する。これらの改良された製造方法は、他の方法に比べて効率の向上および/または無菌性の向上によって利益を受け、特に工業規模で有用である。
【0007】
したがって、一態様において、本発明は、リン酸アルミニウムを生成する方法であって、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップを含み、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約50℃〜約70℃の範囲の温度で沈降させることを含む方法を提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、リン酸アルミニウムを生成する方法であって、(i)塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム懸濁液および上澄み液を生成するステップと、(ii)リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップと、(iii)上澄み液を除去するステップとを含み、混合、沈降、および除去のステップは閉鎖系内で行われる方法を対象にする。
【0009】
本発明の上記その他の態様は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】AlPOを生成する方法の流れ図を示す。
【図1A】AlPOを生成する方法の流れ図を示す。
【図1B】AlPOを生成する方法の流れ図を示す。
【図1C】AlPOを生成する方法の流れ図を示す。
【図2】AlPOを生成する改良された方法の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アルミニウムアジュバントAlPOを製造するための改良された方法を提供する。これらの方法は、特に工業規模のAlPO製造に有用である。
【0012】
図1は、リン酸アルミニウムを生成する方法を示し、まず、塩化アルミニウム(AlCl)と第三リン酸ナトリウム(NaPO)が、別々に調製される。塩化アルミニウムは、塩化アルミニウム六水和物の形とすることができる。次いで、これらの試薬を製剤容器に無菌的に移送し、水(例えば、Water−for−Injection(商標)またはWFI(商標))と組み合わせる。これらの試薬間の反応によって、AlPO懸濁液が生成する。次いで、懸濁液を25℃で沈降用ドラムに移し込む。このプロセスの沈降時間(すなわち、ドラム中でAlPO沈殿物の沈降が可能になるのに要する時間)は約7〜10日であり、これは全プロセスで最も遅いステップである。沈降後、上澄み液を各ドラムから除去し、沈殿したAlPOを製剤容器に移し込み、定置滅菌(例えば、≧121℃、45分)およびpH調整を行う。次いで、最終AlPOを貯蔵用ドラムに移し込む。工業規模における本方法の全バッチサイクル時間は、約10〜12日である。さらに、本方法の開かれた特性では、複数の無菌操作を清浄な空気環境(例えば、クラス100)で行う必要がある。これはコストがかかり、かつ無菌性試験も必要とする。
【0013】
図1に示す方法の効率は、とりわけ沈降ステップをより高い温度で行うことによって大幅に改善されている。図2に示す改良された方法では、塩化アルミニウム、第三リン酸ナトリウム、および水を混合して、AlPO懸濁液を生成した後、懸濁液を約50℃〜約70℃(例えば、60℃)で沈降させる。これらのより高い温度での沈降時間は、約7〜10日から約2〜5日に短縮される。
【0014】
図1の方法に比べて別の改良は、プロセスステップのすべてを閉鎖系内で行うものである。これには、(例えば、細菌などによる)汚染のリスクを低減し、それによって最終生成物の無菌性保証を高め、かつ無菌性試験の必要性を低減する利点がある。したがって、図2において、(例えば、浸漬用管を使用して)上澄み液を製剤容器から除去し、(まだ同じ反応容器に)残存しているAlPO懸濁液を定置滅菌(例えば、≧121.1℃、30分)した後、pHを調整する。次いで、最終AlPO生成物を貯蔵用ドラムに移し込むことができる。工業規模における本方法の全バッチサイクル時間は、約3〜6日(すなわち、図1の方法のサイクル時間の半分)である。サイクル時間の短縮によって、効率が促進される。表2では、図1と2に示した方法間の相違点を並列に並べて比較する。
【0015】
幾分かはこれらの知見に基づいて、本発明は、リン酸アルミニウムを生成する方法であって、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップを含み、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約50℃〜約70℃の範囲の温度で沈降させることを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約55℃〜約65℃の範囲の温度で沈降させることを含む。別の実施形態において、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約62℃の温度で沈降させることを含む。さらに別の実施形態において、改良は、リン酸アルミニウム沈殿物を約60℃の温度で沈降させることを含む。
【0016】
上述されたように、これらの改良は、リン酸アルミニウムの沈降時間を大幅にかつ予想外に短縮する。例えば、いくつかの実施形態において、沈降ステップは、より低い温度での約7〜10日間に比べて約2〜5日間で行うことができる。実施形態の一組においては、沈降ステップは、約2〜4日間、例えば約2〜3日間または約3〜4日間で行うことができる。沈降ステップは、これらの範囲内で必要に応じて長く、またはより長い(例えば、5日以上)もしくはより短い(例えば、2日未満)期間でさえ行うことができることを理解されたい。より長い沈降期間は、より短い沈降期間に比べて、一般に収率が高くなる。しかし、製造プロセス全体の時間が増加する結果として、効率とのトレードオフも存在する。したがって、最適の沈降時間は、両因子を考慮に入れる必要があり、正確な沈降温度にも依存する。
【0017】
別の態様において、本発明は、閉鎖系内でリン酸アルミニウムを生成する方法を対象にする。閉鎖系を使用すると、プロセスの無菌性保証が大幅に改善される。これによって、実施する必要がある無菌性試験の数は低減され、かつ清浄な空気環境内で実施するべきプロセスはもはや必要とされないので、プロセス全体がより効率的になる。本明細書では、「閉鎖系」という用語は、1個または複数の容器の内部に入っている反応混合物の外部環境(例えば、空気、酸素、微生物など)への曝露を低減または防止している系を意味する。この態様によれば、本発明の方法は、(i)塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム懸濁液および上澄み液を生成するステップと、(ii)リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップと、(iii)上澄み液を除去するステップとを含み、混合、沈降、および除去のステップは閉鎖系内で行われる。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記の方法の混合ステップでは、第三リン酸ナトリウムの溶液を塩化アルミニウムの溶液に添加する。典型的には、第三リン酸ナトリウムの溶液を、pHが約5.0〜約5.4の範囲(すなわち、約5.2±0.2)になるまで塩化アルミニウムの溶液に添加する。いくつかの実施形態において、第三リン酸ナトリウムの溶液を、pHが約5.1〜約5.3の範囲になるまで塩化アルミニウムの溶液に添加する。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記の方法の混合ステップは、約20℃〜約30℃の範囲の温度で行われる。いくつかの実施形態において、混合ステップは約25℃の温度で行われる。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記の方法の混合ステップは、約150rpm〜約350rpmで回転するインペラーで、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む。いくつかの実施形態において、上記の方法の混合ステップは、約200rpm〜約300rpmで回転するインペラーで、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む。さらに他の実施形態において、上記の方法の混合ステップは、約250rpmで回転するインペラーで、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記の方法の沈降ステップは、約50℃〜約70℃の範囲の温度で、すなわち本発明の第1の態様に記載されているように行われる。いくつかの実施形態において、上記の方法の沈降ステップは、約55℃〜約65℃の範囲の温度で行われる。別の実施形態において、沈降ステップは約62℃の温度で行われる。さらに他の実施形態において、沈降ステップは約60℃の温度で行われる。
【0022】
いくつかの実施形態において、沈降ステップは、約2〜5日間で行うことができる。例えば、沈降ステップは、約2〜4日間、例えば約2〜3日間または約3〜4日間で行うことができる。沈降ステップは、これらの範囲内で必要に応じて長く、またはより長い(例えば、5日以上)もしくはより短い(例えば、2日未満)期間でさえ行うことができることを理解されたい。
【0023】
いくつかの実施形態において、除去ステップは、上澄み液をデカンテーションすることを含む。いくつかの実施形態において、除去ステップは、浸漬用管を用いて、上澄み液を除去することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記の方法は、リン酸アルミニウム沈殿物を無菌化するステップをさらに含み、混合、沈降、除去、および無菌化のステップはすべて、閉鎖系内で行われる。いくつかの実施形態において、無菌化ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物を約110℃を超える温度に加熱することを含む。いくつかの実施形態において、無菌化ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物を約121℃を超える温度に加熱することを含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、上記の方法は、リン酸アルミニウム沈殿物のpHを調整するステップをさらに含み、混合、沈降、除去、無菌化、および調整のステップはすべて、閉鎖系内で行われる。いくつかの実施形態において、調整ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物のpHを約5.6〜約6.0の範囲になるように調整することを含む。いくつかの実施形態において、調整ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物のpHを約5.7〜約6.0の範囲になるように調整することを含む。いくつかの実施形態において、調整ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物のpHを約5.8〜約6.0の範囲になるように調整することを含む。いくつかの実施形態において、調整ステップは、リン酸アルミニウム沈殿物のpHを約5.9〜約6.0の範囲になるように調整することを含む。
【0026】
本発明の方法を使用して、種々の濃度のリン酸アルミニウムを生成することができる。しかし、いくつかの実施形態において、上記の混合ステップ後のリン酸アルミニウムの濃度は約9.0〜16.5mg/mlの範囲である。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記のpHを調整するステップの後に、リン酸アルミニウム沈殿物は、約3.0μm〜約9.0μmの範囲、または約4.5μm〜約6.5μmの範囲のD[v,0.5](具体的なサイズ分布値の定義は、下記の実施例1に記載する)を有するサイズ分布の粒子を含む。いくつかの実施形態において、上記のpHを調整するステップの後に、リン酸アルミニウム沈殿物は、約1.5μmを超える、または約2.0μmを超えるD[v,0.1]を有するサイズ分布の粒子を含む。いくつかの実施形態において、上記のpHを調整するステップの後に、リン酸アルミニウム沈殿物は、約25μm未満、約24μm未満、約23μm未満、約22μm未満、約21μm未満、または約20μm未満のD[v,0.9]を有するサイズ分布の粒子を含む。
【0028】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、決してこれらの実施例によって限定されるものではないと理解されたい。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
系/プロセスの説明
この実施例は、図2に示すものなど本明細書に記載する方法のいくつかを行うための系およびプロセスの例を説明する。この実施例では、AlPOの製造プロセスの調製およびバッチングは、Media Preparation System(MPSまたはMedia Preparation Skid)によって制御される。MPSは、3個のバッチング容器(50L、200L、および800L)、フィルターハウジング、およびサニタリーコネクションを備えたパイピングからなる。製造プロセスでは、200L(V12)および800L(V13)の両方の容器を利用する。それによって、AlPOを800L(全容積)のバッチで生成し、350Kgのリン酸アルミニウム沈殿物を得る。最終沈殿物を50Lのドラムにダウンロードする。
【0030】
このプロセスで使用する原材料には、下記が含まれた。
・第三リン酸ナトリウム(20.4Kg)
・WFI(商標)(第三リン酸ナトリウムを溶解するため)(107.4L)
・塩化アルミニウム六水和物(10.1Kg)
・WFI(商標)(塩化アルミニウム六水和物を溶解するため)(91.6L)
・5N 水酸化ナトリウム(pH調整用)
プロセスの第1のステップは、20.4Kgの第三リン酸ナトリウムを原材料保持容器に計量し、別にしておくことであった。次に、10.1Kgの塩化アルミニウム六水和物を原材料保持容器に計量し、別にしておいた。
【0031】
リン酸アルミニウムの自動化処方を開始し、系に圧力試験を施した。次いで、V12容器、V13容器、および連結した移送ラインをWFI(商標)で予備すすぎした。WFI(商標)ですすいだ後、粒子制御フィルターを、V12とV13の間の移送ラインの「濾過側」と「清澄側」の両側にインラインで配置した。バルクをサンプリングする前に、C−Flexを備えた予め無菌化したサンプルポートをV13容器に連結した。
【0032】
次いで、系に別の圧力保持試験を施した。圧力保持の終了時に、系を清浄な蒸気でフラッシュした。蒸気でフラッシュした後、予め設置したフィルターを合計50LのWFIでフラッシュした。
【0033】
次いで、目標である162.0LのWFIをV12に添加した。次いで、WFIをV13に移送した。さらに、100LのWFIをV12に添加し、次いでV13に移送した。最終の臨界反応温度25℃をV13で確立した。
【0034】
目標である63.0LのWFIをV12容器に添加した。V12に連結した撹拌装置を始動し、目標である350rpmに制御した。予め計量した塩化アルミニウムを、(溶解温度である35〜45℃に到達した後)V12に添加した。最初に塩化アルミニウムが溶解した後、V12を目標である91.6LのWFIまで引き上げ、5〜35分間混合した後、塩化アルミニウムが溶解していることを肉眼で検証した。次いで、V13容器では、WFIの撹拌を設定値250rpmで開始した。次いで、塩化アルミニウムを、V12からV13に移送した。
【0035】
目標である150LのWFIをV12に添加した。次いで、WFIをV13に移送し、さらに150LのWFIをV12に添加し、再びV13に移送した。最終の臨界反応温度25℃をV13で確立した。
【0036】
目標である70LのWFIをV12に添加した。V12に連結した撹拌装置を始動し、目標である350rpmに制御した。予め計量した第三リン酸ナトリウムを、(溶解温度である35〜45℃に到達した後)V12に添加した。最初に第三リン酸ナトリウムが溶解した後、V12を目標である107.4LのWFIまで引き上げ、5〜35分間混合した後、第三リン酸ナトリウムが溶解していることを肉眼で検証した。
【0037】
次いで、第三リン酸ナトリウムをV12からV13に移送し、目標のpH5.20が実現するまで塩化アルミニウムと混合した。1時間後、第三リン酸ナトリウムを添加することによって、pHを再び目標のpH5.20に調整した。pHが安定したら、撹拌装置を150rpmに減速し、温度設定値を60℃に変更した。1時間混合した後、撹拌装置を止めた。残留している第三リン酸ナトリウムをV12から排出し、次いで粒子フィルターを取り外し、CIPキャップに取り換え、V12および移送ラインにCIP手順を施した。
【0038】
リン酸アルミニウムは、V13中、目標温度の60℃で浸漬用管の下に沈降した。(浸漬用管の下に)沈降が終了したら、上澄み液をV13から浸漬用管によってデカンテーションする。次いで、V13の試料用バルブを、≧121.1℃で15分間手動で無菌化した。試料用バルブを無菌化し、60℃未満に冷却したら、25mLの生物汚染試料2個を採取した。
【0039】
次いで、V13中のリン酸アルミニウムを≧121.1℃で30分間無菌化し、続いて塩基添加ラインの無菌化(≧121.1℃の温度で15分)を行った。無菌の連結装置を使用して、5N NaOHの1Lビンを塩基添加ラインに連結した。
【0040】
リン酸アルミニウムが目標温度の25℃に冷却したら、リン酸アルミニウムのpHを目標である5.95に調整した。予め清浄および無菌化した50Lのドラムを16本まで、それぞれの充填ステーションの位置に連結した。
【0041】
次いで、移送ラインを≧121.1℃で15分間無菌化した。次いで、V13の試料用バルブを≧121.1℃で15分間無菌化した。試料用バルブを無菌化し、60℃未満に冷却したら、粒径、pH、アルミニウム濃度、および無菌性のために、30mLのバルク試料を2個採取した。
【0042】
試料を採取した後、リン酸アルミニウムを50Lのドラムにダウンロードした。ダウンロードが終了したら、V13および移送ラインに完全な化学的CIPを施した。次いで、アルミニウム濃度および無菌性のために、50Lのドラムのすべてから試料を採取した(しかし、無菌性のためには、実際には最初と最後のドラムだけから試料を採取した)。磁気式安定器を各ドラムに固定し、ドラムを2〜8℃の冷蔵室で貯蔵した。
【0043】
(実施例2)
AlPOの物理的、化学的、および機能的特性のアッセイ
図1のプロセスに従って生成したAlPO 3ロット、および図2(および実施例1)のプロセスに従って生成した材料3ロットを分析して、両方のプロセスに従って生成した材料が類似していることを確実にした。使用するアッセイは、AlPOの物理的、化学的、および機能的特性に基づいて選択した。これらのキャラクタリゼーション試験を、放出試験に加えて行い、すべてのロットが、AlPOの放出基準を満たした。同等性試験のデータを以下の通りまとめる:
粒径分析:バルクのアジュバントおよび製剤したワクチンの粒径分析は、Malvern粒径分析器(Mastersizer、Serial 2.15)を用いて、レーザー光散乱によって行った。溶媒(例えば、イソプロパノール)中の粉末の懸濁液を低角レーザー光線で測定し、粒径分布を算出した。体積メジアン径D[v,0.5]は、分布の50%がメジアンを超え、50%がメジアン未満である直径である。好ましくは、平均粒径の2つの測定は、相対的に5%を超えて異なるべきでない。2つの測定曲線の形状も、好ましくは同じであるべきである。D[v,0.9]は、体積分布の90%がこの値未満である直径である。D[v,0.1]は、体積分布の10%がこの値未満である直径である。スパンは、10%、50%、および90%の分位値に基づく分布の幅である(スパン={D[v,0.9]−D[v,0.1]}/D[v,0.5])。各測定に先立って、2μmおよび10μmを表す既知の分子サイズのビーズを使用することによって、機器を標準化した。両方のプロセスで作製したAlPOの粒径(Prevnar(登録商標)への製剤前およびその後)は類似し、表1に列挙する仕様の範囲内であることが確定した。
【0044】
【表1】

タンパク質結合アッセイ:アルミニウムペレットと接触させる前とアルミニウムペレットで処理した後に全タンパク質濃度を測定することによって、AlPOに結合しているタンパク質(%)を決定した。生理食塩水に再懸濁した後、ペレット中のタンパク質含有量を測定した。担体タンパク質CRM197の平均結合率(%)について、図1のプロセスによるAlPOで製剤した場合(97.5±0.8)と図2のプロセスによるAlPOで製剤した場合(96.1±1.4)は類似していた。Prevnar(登録商標)の平均結合率(%)についても、図1のプロセスによるAlPOで製剤した場合(91.5±1.6)と図2のプロセスによるAlPOで製剤した場合(91.7±1.9)は類似していた。
【0045】
比濁アッセイ:アルミニウムペレットを可溶化するための方法としてクエン酸化を使用して、ワクチンPrevnar(登録商標)を比濁法で、抗原性について分析した。以前の研究に基づいて、複合多糖だけがアルミニウムに結合し、遊離多糖または活性化糖は結合しないことが知られている。抗原性がペレットと関連していることは、多糖が複合化していることを表す。比濁測定は、抗体を用いて、Beckman Array 360 Systemで実施し、ウサギにおいて産生された。比濁法を用いて、個々のPrevnar(登録商標)コンジュゲートのAlPOへの結合を測定し、図1および2のプロセスを使用して作製した材料に関するデータは、類似していることがわかった。
【0046】
ゼータ電位/電気泳動移動度:ゼータサイザーを使用して、ゼータ電位および電気泳動移動度を決定した。図1のプロセスによるAlPOのゼータ電位は、平均して4.7±0.2mV(5.1±0.1、3.5±0.2、および5.5±0.2mV)であった。図2のプロセスによるAlPOのゼータ電位は、平均して3.3±0.3mV(3.6±0.3、2.6±0.4、および3.7±0.1mV)であった。
【0047】
沈降時間:分光光度計(Shimadzu UV160−IPC)で、波長645nmにおいて、光学密度の変化を30分間にわたって、測定することによって、沈降時間を監視した。図1のプロセスによるAlPOの沈降時間/速度(A645/分)は、0.024、0.025、および0.023であった。図2のプロセスによるAlPOの沈降時間/速度(A645/分)は、0.027、0.026、および0.026であった。
【0048】
表2では、図1および2の方法で使用するパラメータの一部を比較する。示されたように、リン酸アルミニウム沈殿物の沈降時間は、沈降温度を25℃から60℃に上げることによって、約7〜10日から約2〜5日に短縮された。これは、効率が大幅に改善されたことを意味する。実施例1に記載したように、両方の方法で生成したリン酸アルミニウム試料は、同様の物理的、化学的、および機能的特性を有する。
【0049】
【表2】

(実施例3)
培地シミュレーション
トリプシンダイズブロス(TSB)を使用して、実施例1のMedia Preparation Skid(MPS)について、培地シミュレーション試験を行った。これらの試験は、MPSの無菌化操作が無菌性を維持し、無菌溶液の製造、pH調整、サンプリング、次いでドラムへの移送時に、微生物進入から保護することを極めて確実に実証した。各培地試験トライアルは、無菌化、5N水酸化ナトリウムを使用した無菌的pH調整、およびドラム16本へのTSBの無菌的移送からなった。無菌的移送は、≧10時間無菌保持した後に起こる。無菌保持は、無菌化操作を行った(11時間)後に系を保持することができる全時間量を確立した。TSBを、充填ステーションの位置16か所すべてから1Lビンに回収し、完全なインキュベーションにかけた。位置#1および#16から採取した試料は、溶液をドラムに移送するプロセス全体を代表する。実施例1のMedia Preparation Skidの閉鎖系設計およびこの試験の好結果のため、無菌性試験は、図1に示す方法で必要とされたように、商業生産時に、各ドラムについてではなく、最初と最後のドラムについて行うだけでよい。
【0050】
均等形態
本明細書に引用した資料(特許および特許出願が挙げられるが、これらに限定されるものではない)は、このような文献および同様の資料の形式にかかわらずすべて、参照によりそれらの全体が明示的に組み込まれる。組み込まれた文献および同様の資料のうちの1つまたは複数が、本明細書(定義した用語、用語の用い方、記載した技法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない)と異なるかまたは矛盾する場合、本願が優先する。
【0051】
本明細書で使用したセクションの見出しは、構成上の目的にすぎず、決して記載した対象を限定するものと解釈されるべきでない。
【0052】
本発明を様々な実施形態および実施例と共に説明してきたが、本発明をこのような実施形態または実施例に限定するものではない。これに反して、本発明は、当業者によって理解されるような様々な代替形態、修正形態、および均等形態を包含する。
【0053】
具体的には、特定の例示的実施形態を参照して、本発明を示し、かつ説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細について様々に変更を行うことができると理解されたい。したがって、本発明の範囲および趣旨に入るすべての実施形態、およびその均等形態は、特許請求されるよう意図されている。本発明の特許請求の範囲および明細書は、別段の記述のない限り、要素の記載順序に限定するものと理解されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸アルミニウムを生成する方法であって、塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップを含み、前記リン酸アルミニウム沈殿物が約50℃〜約70℃の範囲の温度で沈降することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記沈降ステップが約55℃〜約65℃の範囲の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈降ステップが約60℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リン酸アルミニウムを生成する方法であって、
塩化アルミニウムの溶液と第三リン酸ナトリウムの溶液を混合して、リン酸アルミニウム懸濁液および上澄み液を生成するステップと、
前記リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて、リン酸アルミニウム沈殿物を生成するステップと、
前記上澄み液を除去するステップと
を含み、前記混合、沈降、および除去のステップは閉鎖系内で行われる方法。
【請求項5】
前記第三リン酸ナトリウムの溶液を前記塩化アルミニウムの溶液に添加する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第三リン酸ナトリウムの溶液を、pHが約5.0〜約5.4の範囲になるまで前記塩化アルミニウムの溶液に添加する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記pHが約5.1〜約5.3の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合ステップが約20℃〜約30℃の範囲の温度で行われる、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合ステップが約25℃の温度で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合ステップが、約150rpm〜約350rpmで回転するインペラーで、前記塩化アルミニウムの溶液と前記第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記混合ステップが、約200rpm〜約300rpmで回転するインペラーで、前記塩化アルミニウムの溶液と前記第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記混合ステップが、約250rpmで回転するインペラーで、前記塩化アルミニウムの溶液と前記第三リン酸ナトリウムの溶液を混合することを含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記沈降ステップが約50℃〜約70℃の範囲の温度で行われる、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記沈降ステップが約55℃〜約65℃の範囲の温度で行われる、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記沈降ステップが約60℃の範囲の温度で行われる、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記沈降ステップが約2日〜約5日の期間行われる、請求項4から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記沈降ステップが約3日〜約4日の期間行われる、請求項4から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記除去ステップが、浸漬用管を使用して、前記上澄み液を除去することを含む、請求項4から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記リン酸アルミニウム沈殿物を無菌化するステップをさらに含み、前記混合、沈降、除去、および無菌化のステップは閉鎖系内で行われる、請求項4から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記無菌化ステップが、前記リン酸アルミニウム沈殿物を約110℃を超える温度に加熱することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記無菌化ステップが、前記リン酸アルミニウム沈殿物を約121℃を超える温度に加熱することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記リン酸アルミニウム沈殿物のpHを調整するステップをさらに含み、前記混合、沈降、除去、無菌化、および調整のステップは閉鎖系内で行われる、請求項19から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記調整ステップが、前記リン酸アルミニウム沈殿物のpHを約5.6〜約6.0の範囲になるように調整することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記pHを約5.8〜約6.0の範囲になるように調整する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記pHを約5.9〜約6.0の範囲になるように調整する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
混合ステップ後のリン酸アルミニウムの濃度が約9.0〜約16.5mg/mlの範囲である、請求項4から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、約3.0μm〜約9.0μmの範囲のD[v,0.5]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、約4.5μm〜約6.5μmの範囲のD[v,0.5]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、約1.5μmを超えるD[v,0.1]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、約2.0μmを超えるD[v,0.1]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、25μm未満のD[v,0.9]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記pHを調整するステップの後に、前記リン酸アルミニウム沈殿物が、約20μm未満のD[v,0.9]を有するサイズ分布の粒子を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533123(P2010−533123A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516234(P2010−516234)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/069584
【国際公開番号】WO2009/009629
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】