説明

ルシフェラーゼの発光基質

【課題】ホタルルシフェリン類似構造を有する化合物。より詳細には、天然のホタルルシフェリンとは異なる発光波長で発光する複素環化合物の提供。
【解決手段】以下の一般式I


の複素環化合物。上記一般式において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。上記一般式において、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。上記一般式において、「n」として表されたオレフィン鎖部分は、所望の長さに変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタルルシフェリン類似構造を有する化合物に関する。より詳細には、本発明は、天然のホタルルシフェリンとは異なる発光波長で発光する複素環化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェリン
近年、生物学的事象および現象の可視化が重要視され、可視化対象の拡大が望まれてきている。これに伴い、標識技術にも多様化が求められている。特に分子イメージングのための標識技術は、診断および検査機器の進歩と相まって大きく発展している。たとえば、癌や心疾患などに対する個別化医療などの先端技術に応用するための標識技術が精力的に研究されている。また、計測技術の進歩に伴い、より高感度および高性能な機器や標識材料に対する需要が急速に高まっている。
【0003】
周知のように、ホタル生物発光系は、発光効率が非常に高く、最も効率よくエネルギーを光に変換することができる系といわれている。また、生物発光の分子機構解釈も進んでいる。
【0004】
このホタル生物発光は、発光基質であるルシフェリンが発光酵素ルシフェラーゼの作用で化学反応することによって光を放出することが知られている。この反応では、発光基質が発光酵素内でアデノシン三リン酸(ATP)および2価のマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下で、アデニリル化(AMP化)されて、活性型基質であるアデニリル体へと誘導される。次に、これが酵素化されてペルオキシドアニオンとなり、高エネルギー過酸化物であるジオキセタノンへと変換される。不安定なジオキセタノンは、分解しながらプロトンと二酸化炭素とを放出し、モノアニオン型励起1重項状態となる。さらにこれが脱プロトン化して、ジアニオン型励起1重項状態となる。モノアニオン型励起1重項状態からの発光は、赤色であるとされている。一方、ジアニオン型励起1重項状態からの発光は、黄緑色であり、これがホタルの発光であるとされている。また、発光後の生成物は、オキシルシフェリンと称される。
【0005】
上記のように、発光効率が非常に高く、また生物発光の分子機構の解明が進んでいる。これらの事情から、ホタル生物発光系を利用した多岐にわたる発光材料が多くの企業から販売されている。しかし、ホタル生物発光関連の発光材料開発は、医学生化学的分野を中心に実用化が進んでいるため、一般にタンパク質(酵素)側からの研究開発は盛んであるが、低分子化合物(基質)側からのアプローチは非常に少ない。特に、発光基質の骨格変換を行ったような構造と活性の相関研究はほとんど存在しない。
【0006】
さらに、発光酵素を組換え技術によって安価に供給できるにもかかわらず、キット製品などのホタル生物発光系を応用した発光標識材料が安価ではない。これは、発光基質がルシフェリンであることに起因する。現在、天然の発光基質であるD体のルシフェリンは、非天然アミノ酸であるD-システインから合成されているが、D-システインは、非常に高価である。
【0007】
生物発光系を利用した多色発光のニーズと状況
多現象を観測するために、標識を利用した検出系においても、多色発光が求められている。このため、検出系に利用できる標識材料の波長域は、幅広い方が望ましい。また、生体内深部標識における用途では、短波長光よりも長波長光のほうが優れた光透過性を有するという観点から、赤色発光標識材料が望まれている。たとえば、多色発光を利用した研究には、標識として450 nm以下程度〜650 nm以上程度の波長にわたる発光を有する標識材料が準備されることが望ましい。
【0008】
現在、ホタル生物発光系のための発光基質として入手可能なものには、いくつかの発光波長をもつ基質が存在する。これらの基質の最短および最長の両端の波長は、セレンテラジン系の青色(約480 nm)とホタル系の赤色(約613 nm)である。これらは、プロメガ社から入手可能であり、製品化されている。また、鉄道虫発光酵素を利用したより長波長の赤色発光材料(約630
nm)が、東洋紡から最近市販されている。しかし、これらの発光波長だけでなく、発光波長の最短および最長の両端の波長のさらなる拡張には、潜在的需要が見込まれる。
【0009】
生物発光系を利用した赤色と青色発光の既存製品の例を以下に示す:
1.プロメガ社:Chroma-Luc: 約613 nm(非特許文献1)
この系は、ヒカリコメツキ虫(クリックビートル)の突然変異体および天然型ホタル発光基質を利用した系である。
2.東洋紡績(株):MultiReporter Assay System-Tripluc:
約630 nm(非特許文献2)
この系は、鉄道虫赤色発光酵素および天然型ホタル発光基質を利用した系である。緑色発光ルシフェラーゼ(SLG、最大発光波長550nm)、橙色発光ルシフェラーゼ(SLO、580nm)および赤色発光ルシフェラーゼ(SLR、630nm)の色のルシフェラーゼ遺伝子を使用して発光色を変化させている。これは、異なる発光色を与える発光酵素を利用している。
3.東京大学:アミノルシフェリン:約610 nm(特許文献1)
これは、ルシフェリン誘導体を開示している。
4.プロメガ社:Chroma-Luc: 約480 nm(非特許文献3)
この系は、セレンテラジンおよびウミシイタケルシフェラーゼを利用した系である。
5.ATTO社:ウミホタル生物発光 約460 nm(非特許文献4)
セレンテラジン系基質およびウミホタルルシフェラーゼを利用した系である。
【0010】
また、本発明者らも、特許文献2において、ルシフェリン類似化合物を開示している。これらの化合物は、ルシフェリンと同様の骨格を有する化合物である。
【特許文献1】特開2007-091695号公報
【特許文献2】国際公開公報第2007/116687号パンフレット
【非特許文献1】プロメガ社総合カタログ2007 12.16
【非特許文献2】Upload vol. 79, 2005 p 1-10, Toyobo Biochemicals for Lifescience 2006/2007 p4-67.
【非特許文献3】プロメガ社総合カタログ2007 12.14
【非特許文献4】アトー総合カタログ2008-2009 p 247
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した状況に鑑み、本発明は、ホタル生物発光系において、天然型ホタル発光基質以外の、広範な発光波長で発光する基質を提供することを目的とする。また、本発明は、安価に合成することができる基質を提供することを目的とする。すなわち、天然型ホタル発光基質よりも合成が簡易なホタル生物発光系の基質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、天然型ホタル発光基質であるルシフェリンの骨格は、簡易な骨格に変更しても発光基質として作用することを見いだした。また、天然のフェノール型のルシフェリンをアニリン型にすることにより、発光波長を変化させることができることを見いだした。さらに、上記の簡易化された基質骨格において、オレフィン鎖単位の長さを変更することにより、発光波長を変化することができることを見いだした。これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下の一般式Iの複素環化合物を提供する:
【化2】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【0014】
また、本発明は、R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、XがNであり、YがSであり、並びにnが0、1、2または3である、上記複素環化合物またはその可能な塩を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、R1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、XがNであり、YがSであり、並びにnが0、1、2または3である、上記複素環化合物またはその可能な塩を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、nが0、1または2である、上記複素環化合物またはその可能な塩を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記の化合物をATPおよびMg2+と共に含む、発光検出のためのキットを提供する。
【0018】
また、本発明は、化合物を発光甲虫ルシフェラーゼと反応させる工程と、該化合物からの発光を検出する工程とことを含む、発光検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化合物により、天然型ホタル発光基質以外の、広範な発光波長で発光する基質が提供される。また、本発明の化合物により、天然型ホタル発光基質よりも合成が簡易なホタル生物発光系の基質が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、以下の一般式I
【化3】

の複素環化合物を提供する。
【0021】
上記一般式において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。置換としてのこのような低級アルキルは、活性に影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。
【0022】
本明細書において、「C1-4アルキル」という用語は、1〜4炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基、たとえばメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルをいう。同様に、「C1-C3アルキル」という用語は、1〜3炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基(たとえば、メチル、エチルまたはイソ-プロピル)をいう。
【0023】
上記のように、R3がC1-4アルキルであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2には、本発明の化合物のR3部分に対応する部分がAMPであるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0024】
上記一般式において、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。XおよびYのヘテロ原子がC、N、SまたはOであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2に記載された種々のルシフェリン類似化合物には、本発明の化合物と対応する部分が種々のヘテロ原子であるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0025】
上記一般式において、「n」として表されたオレフィン鎖単位は、所望の長さに変更することができる。また、このオレフィン鎖部分の長さを変化させることにより、発光波長を変化させることができる。たとえば、n=0の場合、天然のルシフェリンよりも短波長の445nmの青色の発光を有する。また、n=1の場合、天然のルシフェリンとほぼ同じ565nmの黄緑色の発光を有する。また、n=2の場合、天然のルシフェリンよりも長波長の680nmの赤色の発光を有する。さらに、n=3以上の場合、680nmの赤色の発光よりも長波長の赤外領域以上の波長を有すると考えられる。
【0026】
本明細書において、「波長」とは、基質の発光波長について使用される場合、その極大波長を意味する。たとえば、ジメチルアニリン型ルシフェリンで得られる発光スペクトル(左)は、図1に記載したように、およそ445nm極大波長を有する発光スペクトルを示すが、本明細書では、単に445nmの発光を有すると表現される。
【0027】
上記のとおり、一般式Iの化合物は、天然型ホタル発光基質であるルシフェリンと比較して、大幅に簡略化された骨格を有する。
【0028】
一つの態様において、本発明の化合物は、以下の一般式II
【化4】

の複素環化合物である。この化合物は、天然のルシフェリンよりも長波長の680nmの赤色の発光を有する。
【0029】
一つの態様において、本発明の化合物は、以下の一般式III
【化5】

の複素環化合物である。この化合物は、天然のルシフェリンとほぼ同じ565nmの黄緑色の発光を有する。
【0030】
一つの態様において、本発明の化合物は、以下の一般式IV
【化6】

の複素環化合物である。この化合物は、天然のルシフェリンよりも短波長の445nmの青色の発光を有する。
【0031】
上記本発明の化合物には、その塩が含まれる。「塩」とは、本発明の化合物において、該化合物のいずれかの部分が塩基を形成することができる場合にのみ想定される。
【0032】
「塩」という表現には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、亜燐酸、亜硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、パモ酸、ステアリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸および生きた生物に対して非中毒性であるその他のような無機酸または有機酸とのいずれかの塩、または式Iの化合物の性質が酸性である場合、アルカリまたはアルカリ土類塩基、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムその他のような無機塩基との塩も包含する。
【0033】
本発明の化合物は、たとえば以下の実施例1に記載した手順に従って作製することができる。より詳細な手順は、下記の実施例に記載してある。実施例1には、一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが2であるジメチルアニリン型の化合物の合成手順を記載してある。簡単には、開始物質として市販の4−ジメチルアミノシンナミックアルデヒドなどのアルデヒド体を使用し、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォランと反応させてエチルエステル体を得る。次いで、このエチルエステル体を水酸化ナトリウム水溶液中でカルボキシル体に変換する。一方、D-システイン-S-トリチル化合物を塩化水素、1,4-ジオキサン溶液中で反応させて、メチルエステル体を作製しておく。次いで、このメチルエステル体をカルボキシル体をと反応させて、アミド体を形成する。次いで、このアミド体をトリフェニルホスフィンオキシドおよびトリフルオロメタンスルホン酸無水物によって環化させて複素環を形成させ、チアゾリン体を得る。次いで、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望の置換基に変換して所望の化合物を得る。
当業者であれば、R1およびR2を所望の置換基と置き換えた開始物質から開始して、実施例1と同様の手順によって、D-システイン-S-トリチル由来のメチルエステル体との反応により、対応する化合物を合成することができることを理解するであろう。また、最後の工程において、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望のエステルに置換することにより、対応するR3を有する化合物を得ることができるであろう。さらに、開始物質と指定使用するエチルエステル体のオレフィン部分の長さを変更することにより、一般式Iにおいて所望の長さのnを有する化合物を得ることができるであろう。
【0034】
本発明の化合物は、発光甲虫ルシフェラーゼ、ATPおよびMg2+の存在する系に添加することによって、発光甲虫ルシフェラーゼにより酸化して発光する。本発明の化合物は、単独で発光基質として利用可能であるが、必要に応じて、その他の発光基質と組み合わせて使用してもよい。本発明の化合物は、ATPおよびMg2+と共にキットとして提供することもできる。また、キットには、その他の発光基質や適切なpHに調製した溶液を含めることもできる。さらに、本発明の化合物は、ATPおよびMg2+と共に本発明の化合物を適切なpHに調製した発光基質組成物を発光剤キットとして提供することもできる。
【0035】
ホタル生物発光系は、水性系であるので、親水性有機化合物が存在していてもよい。たとえば、テトラフルオロ酢酸、酢酸およびギ酸などが存在していてもよい。本発明の化合物を発光系に応用する場合、好適な発光強度を得るためには、1μM以上の発光基質の濃度で使用されることが好ましく、たとえば5μM以上で使用される。また、発光系のpHは、4〜10、好ましくは6〜8であることが想定されるが、特に限定されない。必要に応じて、pHを安定化させるために、リン酸カリウム、トリス塩酸、グリシンおよびHEPESなどの緩衝剤を使用することができる。
【0036】
また、本発明の化合物は、ホタル発光甲虫ルシフェラーゼ発光系において、種々の酸化酵素によって発光させることができる。ルシフェラーゼは、北アメリカ産ホタル(Photinus pyralis)および鉄道虫(Railroad worm)などの種々の生物から単離されており、それらのいずれを使用することもできる。使用可能な酸化酵素には、たとえばヒカリコメツキムシルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼおよびフラビン含有モノオキシゲナーゼなどを含む。
【0037】
本発明の化合物を発光基質とする生物発光は、発光系にコエンザイムA(CoA)、ピロリン酸またはMgイオン(Mg2+)が存在すると、その発光が増強されることが知られている。したがって、これらを発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光増強剤として利用することができる。これらの化合物の発光増強効果は、発光系におけるCoA、ピロリン酸またはMg2+の濃度がそれぞれ5μM以上において顕著であり、濃度の増加にしたがって増強されることが知られている。
【0038】
ホタル生物発光系を測定/検出に使用するためには、酵素の失活を防止してプラトーな発光挙動を示すように、発光を安定化させることが重要である。たとえば、ホタル生物発光系における発光の安定化には、Mgイオンが有効である。発光系にMgイオンが存在すると、立ち上がった後の減衰が抑制されるように発光挙動が変化する。特に、ピロリン酸およびMgイオンが発光系に共存すると、発光挙動が大きく変化する。すなわち、発光安定化がきわめて顕著となり、発光基質に対して大過剰のピロリン酸およびMgイオンが共存する場合の発光挙動は、急速に立ち上がり、これが維持されてプラトーな状態が形成される。Mgイオン単独の場合、発光系のMgイオン濃度が0.5mM以上において、発光安定化効果が顕著であり、Mgイオンの濃度の増加にしたがって増強される。プラトーな発光挙動を達成するために、たとえば10μM以上、好ましくは100μM以上の濃度のピロリン酸マグネシウムを存在させることができる。また、ピロリン酸とMgイオンとの割合は、当量比である必要はない。ピロリン酸マグネシウムは、水溶性が低いものの、これを使用することにより、ピロリン酸およびMgイオンをそれぞれ別個に供給することができる。これらは、遊離形態および塩の形態で発光系に供給することができる。使用可能なMg塩には、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムなどの無機酸塩、並びに酢酸マグネシウムなどの有機酸塩を含む。ピロリン酸塩には、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩、並びにマグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩、鉄などとの塩を含む。これらは、水溶液状態で発光系に含めてもよい。また、酵素に対する影響を考慮して、発光系のpHは、2〜10になるように含めることが好ましい。
【0039】
本発明の化合物は、化学発光における基質として使用してもよい。化学発光は、本発明の化合物を酸化して過酸化物を生成し、この過酸化物の分解物が励起状態の発光種となることによって生じる。酸化は、たとえばDMSO中でt-ブトキシカリウムを使用して空気酸化させることによって進行させることができる。化学発光の場合、ホタル生物発光系における発光よりも短波長の発光が想定される。
【0040】
本発明の化合物は、生物学的測定/検出における発光標識として利用することができる。たとえば、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質および核酸などを標識するために使用することができる。本発明の化合物をこれらの物質に結合させるための手段は、当業者に周知である。たとえば、本発明の化合物は、当業者に周知の方法を使用して、目的の物質のカルボキシル基およびアミノ基に対して結合させることができる。
【0041】
また、本発明の化合物は、発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定/検出に利用することができる。たとえば、本発明の化合物を、上記のような発光甲虫ルシフェラーゼとの反応に適した条件下で反応させる。次いで、該化合物からの発光を検出する。たとえば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞または動物に対して本発明の化合物を投与することにより、インビボにおける標的遺伝子またはタンパク質の発現などを測定/検出することができる。本発明の化合物は、それぞれ異なる発光波長で発光させることができる。したがって、複数の化合物を使用することにより、複数の標的による発光を同時に測定/検出することができる。また、波長が長波長であるほど光透過性を有するため、組織透過性も高い。したがって、本発明の化合物のうち、長波長の発光を有する化合物は、生体内深部標識のために有用である。
【0042】
本発明の化合物により、上記のように445nmの青色発光色と天然とほぼ同じ565nmの黄緑色、さらに680nmの赤色発光が実現される。これら一連の類似体基質により、光の3原色であるRGBの発光をホタルルシフェリン類似体で実現できる。また、この両端にあたる450nmよりも短波長な青色と650nmよりも長波長な赤色は、既存のホタル生物発光系では達し得なかった発光波長領域である。
【0043】
上記のとおり、本発明の化合物による発光は、光の3原色であるRGBに対応する。光の3原色を組み合わせることにより、あらゆる色調を得ることができることが周知である。したがって、3原色に対応する発光波長の化合物を組み合わせることにより、無限の色調の発光を得ることができる。また、3原色に対応する発光波長の化合物を発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定・検出に利用した場合、その結果として、3原色のそれぞれの発光の程度に応じた色調の発光が得られるであろう。したがって、得られた発光の色調から、3原色のそれぞれの発光の程度を同時に判断することができるであろう。また、フィルタなどを用いて、所望の波長を選別して測定し、検出することもできるであろう。
【0044】
ホタルルシフェリンよりも短波長(約500nm以下)で発光する発光基質は、発光オワンクラゲの緑色蛍光タンパク(GFP)にエネルギー移動が可能である。このようなエネルギー移動により、緑色のGFPから蛍光(約520nm)が発光される。この発光基質を使用して、GFP/発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質によるBRET(Bioluminescence
Resonance Energy Transfer)型発光系を構成することができる。BRET型発光系により、種々のタンパク質翻訳後修飾および遺伝子発現のバイオイメージングが可能になる。たとえば、GFPと発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質とがタンパク質プロセッシング配列を介している状態で発現される場合、融合タンパク質がプロセッシングを受けなと、GFPの緑色蛍光が検出される。逆に、融合タンパク質がプロセッシングを受けると、発光基質の青色発光が検出される。したがって、発光状態に基づいて、融合タンパク質をプロセッシングする酵素の発現についてのバイオイメージングが可能になる。また、タンパク量の測定およびタンパク質の局在化状態のバイオイメージングも可能になる。さらに、タンパク質の熟成に必要な糖鎖の付加プロセスのバイオイメージに利用することもできる。また、タンパク質/タンパク質間の相互作用等を観測するために利用することができる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例において、本発明を具体的に説明してあるが、本発明は、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0046】
1)機器分析および測定装置
pH測定:東洋濾紙株式会社製pH試験紙UNIVを使用して測定した。また、pHメータとして、堀場社製pH/ION
METER F-23 を使用して測定した。
【0047】
融点測定(m.p.):Yamamoto社製model MP-2を使用して測定。測定値は未補正である。
【0048】
赤外吸収スペクトル(IR):堀場製作所社製FT-730フーリエ変換赤外分光光度計を使用して、錠剤法(KBr)、溶液法(CHCl3、CH3OH)により測定を行った。測定値は、波数(cm-1)で記載した。なお、幅広い吸収は、brと記した。
【0049】
1H核磁気共鳴スペクトル(1H
NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(270 MHz)を使用して測定した。“1H NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(水素の数,
多重度, スピン結合定数)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)はテトラメチルシラン(δ = 0)を内部基準とし、ppで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線あるいは複雑に重なったシグナル)で表示し、幅広いシグナルは、brと記した。スピン結合定数(J)は、Hzで記載した。
【0050】
13C核磁気共鳴スペクトル(13C
NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(67.8 MHz)を使用して測定した。“13C NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(多重度)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)は、テトラメチルシラン(δ=
0)を内部基準とし、ppmで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)で表示した。
【0051】
質量スペクトル(MS):日本電子社製JMS-600H型質量分析計を用い、電子衝撃法(EI、イオン化エネルギー:70
eV)により測定した。日本電子社製JMS-T100LC型TOF質量分析計AccuTOFを用い、エレクトロンスプレーイオン化法(ESI)により測定した。なお、装置の設定は脱溶媒ガス250
℃、オリフィス1温度80 ℃、ニードル電圧2000 V、リングレンズ電圧10 V、オリフィス1電圧85 V、オリフィス2電圧5 Vとした。サンプル送液はインフュージョン法で行い、流速10
μl/minとした。“MS(測定法)m/z 質量数(相対強度)”と記載した
比旋光度:日本分光社製DIP-1000型旋光計を使用して測定した。光源は、ナトリウムランプ、セルは円筒型ガラスセル(Φ10×100
mm)を使用した。測定値は未補正であり、データは5回測定の平均値である。それぞれD体、L体について“D or L: [α]温度 測定値(濃度, 測定溶媒)”と記載した。
【0052】
2)クロマトグラフィー
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC):E.Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5715)厚さ0.25
mmを使用した。TLC上の化合物の検出はUV照射(254 nmあるいは365 nm)および発色剤に浸した後に加熱して発色させることによって行った。発色剤としてはp-アニスアルデヒド(9.3
ml)と酢酸(3.8 ml)をエタノール(340 ml)に溶解し、濃硫酸(12.5 ml)を添加したものを使用した。
【0053】
分取用薄層クロマトグラフィー(PTLC):E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5744)厚さ0.5
mmを用いるか、あるいはE. Merck社製の薄層クロマトグラフィー用シリカゲル60GF254(Art.7730)を20 cm×20
cm のガラスプレート上に、厚さ1.75 mmに調整したものを使用して行った。
【0054】
シリカゲルカラムクロマトグラフィー:E.Merck社製のシリカゲル60F254(Art.7734)を使用して行った。
【0055】
3)基本操作
反応溶液の冷却は、冷媒を満たしたジュワー瓶に反応容器を浸して行った。室温〜4℃では、氷水、4〜-90℃では、液体窒素−アセトンを冷媒として用いた。反応後の抽出溶液の乾燥は、飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸マグネシウムを加えることで行った。反応後の中和を樹脂で行ったものについては、オルガノ株式会社製陽イオン交換樹脂アンバーライトIR120B
NAまたは陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA400 OH AGを使用した。溶液の減圧濃縮は、アスピレーターの減圧下(20〜30 mmHg)、ロータリーエバポレーターを使用して行った。痕跡量の溶媒の除去は、液体窒素浴で冷却したトラップを装着させた真空ポンプ(約1
mmHg)を使用して行った。溶媒の混合比は全て体積比で表した。
【0056】
4)溶媒
蒸留水は、アドバンテック東洋株式会社製GS-200型蒸留水製造装置を使用して蒸留およびイオン交換処理したものを使用した。
【0057】
トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ブタノンは、関東化学株式会社製の有機合成用脱水溶媒または特級溶媒をモレキュラーシーブス(4A)を使用して乾燥させて使用した。
【0058】
NMR測定用溶媒は、以下に示すものをそのまま用いた。CDCl3:ISOTEC
Inc.製 99.7 ATOM%D、0.03% TMS、CD3OD:ISOTEC Inc.製 99.8 ATOM%D(〜0.7
ATOM%13C)、0.05% TMS。
【0059】
実施例1-1:エチルエステル体の合成
【化7】

4−ジメチルアミノシンナミックアルデヒド(104 mg, 0.592 mmol)をトルエン(9
ml)に溶解させ、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォラン(621.6 mg, 1.78 mmol)を加え4.5時間加熱還流した。反応混合物を放冷した後、水(50
ml)を加え、酢酸エチル(3×50 ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー {シリカゲル192
g; ヘキサン−酢酸エチル(3:2)}にて精製し、エチルエステル体(144 mg, 99%)を黄色固体として得た。
【0060】
実施例1-2:カルボキシル体の合成
【化8】

上記エチルエステル体(235 mg, 1.08 mmol)をイソプロピルアルコール(7
ml)に溶解させ、1 M水酸化ナトリウム水溶液(4 ml, 4 mmol)を加えた。室温で3日撹拌した後、1 M塩酸を使用して中和した。それに水(50 ml)を加え、酢酸エチル(3×50
ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮するとカルボキシル体(137.1 mg, 58%)が黄色固体として得られた。
実施例1-3:メチルエステル1の合成
【化9】

D-システイン-S-トリチル化合物(497 mg, 1.37 mmol)をメタノール(60
ml)に溶解させ、4 N塩化水素 1,4-ジオキサン溶液(4 ml)を加えた。室温で18日間撹拌した後、陰イオン交換樹脂 IRA400 OH AG を用いて中和した。樹脂を濾別し、得られた溶液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル44.0
g;ヘキサン−酢酸エチル(2:3)}にて精製し、メチルエステル1(421 mg, 81%)を薄黄色油状として得た。
メチルエステル1
IR (neat) 3381, 3317, 1739, 1595 cm-1
1H NMR
(270MHz, CD3OD):δ2.46(1 H, dd, J = 7.1, 12.4
Hz), 2.58(1 H, dd, J = 5.8, 12.4 Hz), 3.11(1 H, dd, J = 5.8, 7.1 Hz), 3.65(3 H,
s), 7.19-7.32(9 H, complex), 7.32-7.42(6 H, complex)
13C NMR
(67.8MHz, CD3OD):δ37.37(t), 52.62(q),
54.42(d), 67.86(s), 127.87(d), 128.97(d), 130.64(d), 145.82(s), 174.98(s)。
【0061】
実施例1-4:アミド体の合成
【化10】

メチルエステル体1(147 mg, 0.387 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(4
ml)にアルゴン雰囲気下、カルボキシル体 (81.4 mg, 0.375 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(181
mg, 0.944 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(103 mg, 0.845 mmol)を加え、室温で18時間撹拌した。反応混合物に水(100 ml)を加え、ジエチルエーテル(3×100
ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル112 g;ヘキサン−酢酸エチル(3:
2)}にて精製し、アミド体(158 mg, 73%)を黄色油状として得た。
【0062】
実施例1-5:チアゾリン体の合成
【化11】

アミド体(43.3 mg, 0.0751 mmol)のジクロロメタン溶液(5 ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(44.9
mg, 0.161 mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(17 μl, 0.101 mmol)を加え、室温で80分撹拌した。反応混合物に水(50
ml)を加え、クロロホルム (50 ml)、酢酸エチル(2×50 ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20
cm×20 cm×0.5 mm 3枚;ヘキサン−酢酸エチル (1:1)}にて精製し、チアゾリン体(17.6 mg, 74%)を薄黄色固体として得た。
【0063】
ジメチルアミノジエンのチアゾリン
1H NMR
(270MHz, CDCl3)
δ3.00(6 H, s), 3.54(1 H, dd, J = 8.9,11
Hz), 3.57(1 H, dd, J = 8.9,11 Hz), 5.17(1 H, t, J = 8.9 Hz), 6.54(1 H, d, J =
15 Hz), 6.65-6.80(4 H, complex), 6.94(1 H, dd, J = 8.9,15 Hz) 7.36(2 H, d, J =
8.9 Hz)。
【0064】
実施例1-6:ジエン体発光基質の合成
【化12】

チアゾリン体(12.7 mg, 0.0402 mmol)を、エタノール(2 ml)と10
mM炭酸水素アンモニウム水溶液(6 ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で25時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体(10.2
mg, quant.)を薄黄色固体として得た。
【0065】
ジメチルアミノジエン体発光基質
1H NMR
(270MHz, CD3OD)
δ2.98(6 H, s), 3.54(1 H, d, J = 8.9 Hz),
3.57(1 H, d, J = 8.9 Hz), 5.19(1 H, t, J = 8.9 Hz), 6.47(1 H, d, J = 15 Hz),
6.70-7.06(5 H, complex), 7.38(2 H, d, J = 8.9 Hz)。
【0066】
実施例2-1:アミド体の合成
【化13】

メチルエステル体1(184 mg,
0.485 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5 ml)にアルゴン雰囲気下、p-ジメチルアミノ桂皮酸(92.1 mg, 0.482 mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(196
mg, 1.02 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(124 mg, 1.02 mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(100 ml)を加え、酢酸エチル(3×100
ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル181 g;ヘキサン−酢酸エチル(1:1)}にて精製し、アミド体(214
mg, 80%)を黄色油状として得た。
【0067】
ジメチルアミノモノエンのアミド
1H NMR
(270MHz, CDCl3)
δ2.99(6 H, s), 3.71(3 H, s), 4.78(1 H, dd, J
= 5.1,7.8 Hz), 6.05(1 H, d, J = 7.8 Hz), 6.15(1 H, d, J = 15 Hz), 6.66(1 H, d, J
= 8.6 Hz), 7.16-7.40(19 H, complex), 7.53(1 H, d, J = 15 Hz)。
【0068】
実施例2-2:チアゾリン体の合成
【化14】

アミド体(118 mg, 0.214 mmol)のジクロロメタン溶液(10 ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(124
mg, 0.446 mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(360 μl, 2.14 mmol)を加え、室温で40分撹拌した。反応混合物に水(50
ml)を加え、クロロホルム(50 ml)、酢酸エチル(2×50 ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー{シリカゲル42
g;ヘキサン−酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン体(44.2 mg, 71%)を黄色固体として得た。
【0069】
ジメチルアミノモノエンのチアゾリン体
1H NMR
(270MHz, CDCl3)
δ3.00(6 H, s), 3.56(1 H, dd, J = 9.2, 11
Hz), 3.58(1 H, dd, J = 9.2, 11 Hz), 3.83(3 H, s), 5.18(1 H, t, J = 9.2 Hz),
6.67(2 H, d, J = 9.5 Hz), 6.91(1 H, d, J = 16 Hz), 7.07(1 H, d, J = 16 Hz),
7.38(2 H, d, J = 9.5 Hz)。
【0070】
実施例2-3:モノエン体発光基質の合成
【化15】

チアゾリン体(16.3 mg, 0.0591 mmol)を、エタノール(2 ml)と10
mM炭酸水素アンモニウム水溶液(8 ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で19時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体(15.2
mg, quant.)を橙色固体として得た。
【0071】
モノエン体発光基質
1H NMR
(270MHz, CD3OD)
δ3.02(6 H, s), 3.57(1 H, dd, J = 8.6,11
Hz), 3.72(1 H, dd, J = 8.6,11 Hz), 5.03(1 H, t, J = 8.6 Hz), 6.73(2 H, d, J =
8.9 Hz), 6.87(1 H, d, J = 16 Hz), 7.24(1 H, d, J = 16 Hz), 7.45(2 H, d, J = 8.9
Hz)。
【0072】
実施例3:ジメチルアニリン型発光基質の合成
【化16】

4-ジメチルアミノベンゾニトリル(103 mg, 0.706 mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(371
mg, 2.12 mmol)をエタノール (4 ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、1 M水酸化ナトリウム水溶液(5 ml)を加え、80℃で5時間撹拌した。反応混合物に1
M塩酸(5ml)を加え酸性にした後、減圧濃縮した。得られた固体を濾過し、蒸留水で洗浄して類似体(50.9 mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0073】
ジメチルアニリン型発光基質
1H NMR
(270MHz, CDCl3)
δ3.01(6 H, s), 3.50(1 H, dd, J = 9.2, 11
Hz), 3.61(1 H, dd, J = 9.2, 11 Hz), 5.00(1 H, t, J = 9.2 Hz), 6.71(2 H, dd, J =
2.4, 7.0 Hz), 7.71(2 H, dd, J = 2.4, 7.0 Hz)
【0074】
実施例4-1:メチルの脱保護(フェノール体13の合成)
【化17】

市販の2‐シアノ‐6‐メトキシベンゾチアゾール(651.7
mg、3.43 mmol)に、ピリジニウムクロライド(30.6 g、265 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で20℃に加熱し、塩化ピリジニウムを融解させ30分間撹拌した。反応混合物を放冷した後、1
M塩酸(80 ml)を加え、酢酸エチル(4×60 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル85
g; クロロホルム‐メタノール(10:1)}にて精製し、フェノール体13(448.8 mg、74%)を黄色固体として得た。また原料(213.4 g、1.12
mmol)を回収した。
【0075】
フェノール体13
mp 155-170 ℃ decomp.
IR(film)3178, 2225 cm-1
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 7.17(1H, dd, J = 2.6, 8.9 Hz), 7.40(1H, d, J = 2.6 Hz),
7.99(1H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 107.00(d), 114.29(s), 119.61(d), 126.58(d), 133.91(s),
139.01(s), 147.29(s), 160.32(s)
MS(EI)m/z 176(M+・, 100), 124(5)。
【0076】
実施例4-2:ホタルルシフェリン(1)の合成
【化18】

フェノール体13(20.0 mg、0.114 mmol)、D‐システイン塩酸塩一水和物(19.7
mg、0.125 mmol)をメタノール:蒸留水(2:1)(3.0 ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、炭酸カリウム(17.0 mg、0.123 mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。反応混合物に1
M塩酸0.2 mlを加え、酸性にした後、減圧濃縮した。得られた固体を濾過し、蒸留水で洗浄してホタルルシフェリン(1)(23.5 mg、74%)を黄色固体として得た。
【0077】
ホタルルシフェリン(1)
1H NMR(270
MHz, DMSO-d6):δ 3.66(1H, dd, J = 8.2, 11.2 Hz), 3.67(1H, dd, J =
9.9, 11.2 Hz), 5.40(1H, dd, J = 8.2, 9.9 Hz), 7.06(1H, dd, J = 2.6, 8.9 Hz),
7.51(1H, d, J = 2.6 Hz), 7.96(1H, d, J = 8.9 Hz), 10.24(1H, br.s, OH)
13C NMR(67.8
MHz, DMSO-d6):δ 34.5(t), 78.0(d), 106.7(d), 117.0(d), 124.8(d),
137.1(s), 146.1(s), 157.3(s), 159.8(s), 164.3(s), 171.1(s)。
【0078】
実施例4-3:類似体7の合成
【化19】

p‐シアノフェノール(229.6
mg、1.93 mmol)、D‐システイン塩酸塩一水和物(1.73 g、9.82 mmol)をアルゴン雰囲気下、脱気したエタノール(5.0 ml)と1 M水酸化ナトリウム水溶液(15.0
ml)の混合溶液に溶解させ、80℃で18時間加熱撹拌した。反応混合物を放冷後、陽イオン交換樹脂を使用して中和した。樹脂を濾別し得られた溶液に水(80 ml)を加え、酢酸エチル(3×130
ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、類似体(388.2 mg、90%)を無色固体として得た。
【0079】
類似体7
mp 200-204 ℃ decomp.

IR(film)3066, 1652, 1583 cm-1
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 3.70(1H, dd, J = 7.9, 11.5 Hz), 3.76(1H, dd, J = 8.9,
11.5 Hz), 5.23(1H, dd, J = 7.9, 8.9 Hz), 6.85(2H, d, J = 8.9 Hz), 7.74(2H, d, J
= 8.9 Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 35.95(t), 77.97(d), 116.53(d)×2, 124.48(s), 131.80(d)×2,
163.00(s), 173.94(s), 174.63(s)
MS(EI)m/z 223(M+・, 44), 178(100),
137(43), 119(46)
Optical rotation:L:
[α]25 -1.0600°(c = 1.2000, CH3OH)、D: [α]22
+6.6979°(c = 0.7692, CH3OH)。
【0080】
実施例5-1:エステル体15の合成
【化20】

D‐システイン‐S‐トリチル化合物(932.8
mg, 2.57 mmol)をメタノール(200 ml)に溶解させ、4 N塩化水素1,4‐ジオキサン溶液(10 ml, 40 mmol)を加えた。室温で2日間撹拌した後、陰イオン交換樹脂IRA400
OH AGを使用して中和した。樹脂を濾別し、得られた溶液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル85 g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1)→
クロロホルム‐メタノール(10:1)}にて精製し、エステル体15(414.6 mg、43%)を薄黄色油状物として得た。
【0081】
エステル体15
IR(neat)3381, 3315, 1739, 1595 cm-1

1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.47(1H, dd, J = 7.7, 12.4 Hz), 2.60(1H, dd, J = 4.8,
12.4 Hz), 3.20(1H, br.dd, J = 4.8, 7.7 Hz), 3.65(3H, s), 7.18-7.31(9H, complex),
7.40-7.45(6H, complex)
13C NMR(67.8
MHz, CDCl3):δ 36.90(t), 52.16(q), 53.78(d), 66.83(s), 126.76(d)×3,
127.94(d)×6, 129.57(d)×6, 144.51(s)×3, 174.18(s)
MS(FAB)m/z 378(M+H+, 10), 243(100)。
【0082】
実施例5-2:アセチル体16の合成
【化21】

p‐ヒドロキシ桂皮酸(254.2
mg、1.55 mmol)のジクロロメタン溶液(20 ml)に、無水酢酸(0.5 ml、5.3 mmol)、4‐ジメチルアミノピリジン(572.0 mg、4.68
mmol)を加えた。室温にて4時間撹拌した後、反応混合物に1 M塩酸(40 ml)を加え、ジクロロメタン(1×50 ml)、酢酸エチル(2×50 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル200
g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アセチル体16(303.4 mg、95%)を無色結晶として得た。
【0083】
アセチル体16
mp 182-183℃
IR(film)3050, 1743, 1680, 1630 cm-1

1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.33(3H, s), 6.41(1H, d, J = 16.0 Hz), 7.15(2H, d, J =
8.7 Hz), 7.58(2H, d, J = 8.7 Hz), 7.77(1H, d, J = 16.0 Hz)
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 2.28(3H, s), 6.47(1H, d, J = 16.0 Hz), 7.14(2H, d, J =
8.6 Hz), 7.58-7.64(3H, complex)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 20.95(q), 120.99(d), 123.37(d)×2, 130.20(d)×2, 133.86(s),
144.18(d), 153.60(s), 170.85(s), 171.23(s)
MS(EI)m/z 206(M+・, 14), 164(100),
147(20), 119(12), 92(14)。
【0084】
実施例5-3:アミド体17の合成
【化22】

エステル体15(164.0
mg、0.435 mmol)のN,N‐ジメチルホルムアミド溶液(80 ml)にアルゴン雰囲気下、アセチル体16(109.4 mg、0.531 mmol)、塩酸1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(252.6
mg、1.32 mmol)、4‐ジメチルアミノピリジン(166.4 mg、1.36 mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(100 ml)を加え、ジエチルエーテル(3×180
ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル245 g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アミド体17(111.4
mg、37%)を薄黄色油状物として得た。
【0085】
アミド体17
IR(neat)3282, 1763, 1743, 1662, 1626 cm-1

1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.32 (3H, s), 2.70(1H, dd, J = 4.8, 12.4 Hz), 2.78(1H,
dd, J = 5.4, 12.4 Hz), 3.74(3H, s), 4.58(1H, ddd, J = 4.8, 5.4, 7.7 Hz), 6.10(1H,
d, J = 7.7 Hz), 6.30(1H, d, J = 15.7 Hz), 7.12(2H, d, J = 8.6 Hz), 7.18-7.31(9H,
complex), 7.37-7.41(6H, complex), 7.52(2H, d, J = 8.6 Hz), 7.57(1H, d, J = 15.7
Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CDCl3):δ 21.16(q), 33.94(t), 51.20(d), 52.74(q), 67.00(s),
120.04(d), 122.09(d)×2, 126.94(d)×3, 128.04(d)×6, 129.00(d)×2, 129.49(d)×6,
132.38(s), 140.78(d), 144.27(s)×3, 151.77(s), 165.07(s), 169.25(s), 170.93(s)
MS(FAB)m/z 566(M+H+, 1), 243(100)
Optical rotation :L: [α]19
-4.3639°(c = 13.946, CHCl3)、D: [α]19 +2.1802°(c = 5.3462,
CHCl3)。
【0086】
実施例5-4:チアゾリン体18の合成
【化23】

アミド体17(44.5 mg、0.0787 mmol)のジクロロメタン溶液(15 ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(45.6
mg、0.164 mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(50 μl、0.297 mmol)を加え、室温で45分間撹拌した。反応混合物に水(40 ml)を加え、クロロホルム(1×60
ml)、酢酸エチル(2×60 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20
cm×0.5 mm×4枚; ヘキサン‐酢酸エチル(1: 1)}にて精製し、チアゾリン体18(19.6 mg、82%)を無色固体として得た。
【0087】
チアゾリン体18
mp 118-121℃
IR(film)1757, 1724 cm-1
1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.31(3H, s), 3.58(1H, dd, J = 9.3, 11.2 Hz), 3.65(1H,
dd, J = 9.1, 11.2 Hz), 3.85(3H, s), 5.22(1H, dd, J = 9.1, 9.3 Hz), 7.04(1H, d, J
= 16.1 Hz), 7.12(2H, d, J = 8.6 Hz), 7.13(1H, d, J = 16.1 Hz), 7.51(2H, d, J =
8.6 Hz)、13C NMR(67.8 MHz, CDCl3):δ 21.15(q), 34.64(t),
52.89(q), 77.96(d), 122.15(d)×2, 122.42(d), 128.69(d)×2, 132.75(s), 141.094(d),
151.66(s), 169.20(s), 170.01(s), 171.17(s)、MS(EI)m/z 305(M+・, 44),
263(88), 205(100), 177(69), 163(15), 145(87)、Optical rotation:L: [α]22
+9.0924°(c = 2.9308, CHCl3)、D: [α]22 -10.9198°(c =
0.4077, CHCl3)。
【0088】
実施例5-5:類似体8の合成
【化24】

チアゾリン体18(19.6 mg、0.0642 mmol)を、エタノール(7 ml)と10 mM炭酸水素アンモニウム水溶液(28 ml)の混合溶液に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓由来エステラーゼを加えた。35℃で14時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体8(18.0
mg、quant.)を黄色結晶として得た。
【0089】
類似体8
mp 138-140 ℃ decomp.
IR(film)3151, 1626, 1568 cm-1
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 3.52(1H, dd, J = 8.9, 10.9 Hz), 3.61(1H, dd, J = 8.9,
10.9 Hz), 5.01(1H, t, J = 8.9 Hz), 6.80(2H, d, J = 8.9 Hz), 6.91(1H, d, J =
16.0 Hz), 7.10(1H, d, J = 16.0 Hz), 7.42(2H, d, J = 8.9 Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 36.54(t), 81.19(d), 116.86(d)×2, 119.72(d), 128.00(s),
130.52(d)×2, 143.65(d), 160.70(s), 171.97(s), 177.53(s)
MS(EI)m/z 248(M+-H, 100), 204(57),
177(59), 163(4), 145(1)
Optical rotation:L: [α]23 +2.2244°(c
= 1.2462, CH3OH)、D: [α]23 -2.3653°(c = 0.4769, CH3OH)。
【0090】
実施例6-1:アセチル体19の合成
【化25】

m‐ヒドロキシ桂皮酸(1.80
g、11.0 mmol)のジクロロメタン溶液(200 ml)に、無水酢酸(4.0 ml、42 mmol)、4‐ジメチルアミノピリジン(6.70 g、54.8
mmol)を加えた。室温にて4時間撹拌した後、反応混合物に水(150 ml)を加え、ジクロロメタン(1×100 ml)、酢酸エチル(2×80 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル200
g; ヘキサン‐酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アセチル体19(1.28 mg、71%)を無色結晶として得た。
【0091】
アセチル体19
mp 140-142℃、IR(film)3037, 1761, 1687, 1631
cm-1
1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.30(3H,s), 6.44(1H, br.d, J = 15.6 Hz), 7.10-7.35(3H,
complex), 7.71(1H, br.d, J = 15.6 Hz)
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 2.28(3H, s), 6.49(1H, d, J = 16.0 Hz), 7.12(1H, d, J =
7.4 Hz), 7.34-7.46(3H, complex), 7.63(1H, d, J = 16.0 Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 20.91(q), 121.03(d), 122.06(d), 124.55(d), 12126.64(d),
130.91(d), 137.45(s), 144.75(s), 152.66(s), 170.47(br.s), 170.99(s)
MS(EI)m/z 206(M+・, 26), 164(100),
147(23), 119(6), 91(10)。
【0092】
実施例6-2:アミド体20の合成
【化26】

エステル体15(119.0 mg、0.315 mmol)のN,N‐ジメチルホルムアミド溶液(60 ml)にアルゴン雰囲気下、アセチル体19(133.0
mg、0.645 mmol)、塩酸1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(181.2 mg、0.945 mmol)、4‐ジメチルアミノピリジン(197.2
mg、1.61 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応混合物に水(250 ml)を加え、ジエチルエーテル(4×200 ml)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー{シリカゲル200
g; ヘキサン‐酢酸エチル(3:2)}、更に分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×0.5 mm×4枚; クロロホルム‐酢酸エチル(5: 1)}にて精製し、アミド体20(159.3
mg、89%)を薄黄色油状物として得た。
【0093】
アミド体20
IR(neat)3283, 1764, 1739, 1663, 1624 cm-1

1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.31(3H,s), 2.70(1H, dd, J = 4.8, 12.5 Hz), 2.78(1H,
dd, J = 5.4, 12.5 Hz), 3.72(3H, s), 4.75(1H, ddd, J = 4.8, 5.4, 7.9 Hz), 6.18(1H,
br.d, J = 7.9 Hz), 6.33(1H, d, J = 15.6 Hz), 7.09(1H, dt, J = 2.1, 7.1 Hz),
7.17-7.41(18H, complex), 7.55(1H, d, J = 15.6 Hz)
13C NMR(67.8
MHz, CDCl3):δ 21.15(q), 33.88(t), 51.22(d), 52.72(q), 66.97(s),
120.61(d), 121.03(d), 122.94(d), 125.45(d), 126.92(d)×3, 128.02(d)×6, 129.47(d)×6,
129.82(d), 136.26(s), 140.70(d), 144.25(s)×3, 151.01(s), 164.88(s), 169.31(s),
170.88(s)
MS(FAB)m/z 566(M+H+, 1), 243(100)
Optical rotation:L: [α]23
-3.3299°(c = 12.254, CHCl3)、D: [α]23 +4.1534°(c = 7.9231,
CHCl3)。
【0094】
実施例6-3:チアゾリン体21の合成
【化27】

アミド体20(508.1 mg、0.898 mmol)のジクロロメタン溶液(10 ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(758.0
mg、2.72 mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.70 ml、4.16 mmol)を加え、室温で5分間撹拌した。反応混合物に水(50)を加え、クロロホルム(3×50
ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20 cm×20 cm×1.75 mm×2枚; ヘキサン‐酢酸エチル(1:
2)}にて精製し、チアゾリン体21(93.6 mg、36%)を無色油状物として得た。
【0095】
チアゾリン体21
IR(neat)1768, 1743, 1633 cm-1
1H NMR(270
MHz, CDCl3):δ 2.32(3H,s), 3.58(1H, dd, J = 9.2, 11.2 Hz), 3.65(1H,
dd, J = 9.2, 11.2 Hz), 3.82(3H, s), 5.22(1H, t, J = 9.2 Hz), 7.06-7.10(3H,
complex), 7.21(1H, m), 7.34-7.42(2H, complex)
13C NMR(67.8
MHz, CDCl3):δ 21.13(q), 34.65(t), 52.89(q), 77.99(d), 120.62(d),
122.85(d), 123.23(d), 124.91(d), 129.89(d), 136.60(s), 141.07(d), 151.06(s),
169.27(s), 169.84(s), 171.13(s)
MS(EI)m/z 305(M+・, 31), 246(100),
204(86)
Optical rotation:L: [α]26
+6.2401°(c = 0.6923, CHCl3)、D: [α]18 -5.5608°(c = 1.1538,
CHCl3)。
【0096】
実施例6-4:類似体9の合成
【化28】

チアゾリン体21(38.8 mg、0.127
mmol)を、エタノール(4 ml)と10 mM炭酸水素アンモニウム水溶液(16 ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓由来エステラーゼを加えた。35℃で20時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体9(34.6
mg、quant.)を黄色結晶として得た。
【0097】
類似体9
mp 163-165 ℃ decomp.
IR 3180, 1583, 1628 cm-1
1H NMR(270
MHz, CD3OD):δ 3.54(1H, dd, J = 8.9, 10.9 Hz), 3.63(1H, dd, J = 9.2,
10.9 Hz), 5.05(1H, dd, J = 8.9, 9.2 Hz), 6.79(1H, ddd, J = 1.0, 2.3, 7.9 Hz),
6.99-7.23(5H, complex)
13C NMR(67.8
MHz, CD3OD):δ 36.53(t), 81.23(d), 114.66(d), 118.12(d), 120.44(d),
122.89(d), 131.02(d), 137.82(s), 143.45(d), 159.13(s), 171.45(s), 177.05(s)
MS(EI)m/z 249(M+・, 15), 204(98),
145(100)。
【0098】
実施例7
生物発光スペクトルの測定
【0099】
1)測定装置
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
アジレント・テクノロジー株式会社製のAgilent 1100 series HPLC
を使用した。装置の内訳は、デガッサー、クォータナリポンプ、マニュアルインジェクター、カラムコンパートメント、ダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、ケミステーション(PC用ソフトウェア)である。用いたカラムはダイセル化学工業株式会社製CHIRALCEL
OD-RH(内径 0.46 cm、長さ 15 cm)である。
【0100】
pH測定
堀場製作所製F-23型ガラス電極式水素イオン濃度指示計を使用して行った。
【0101】
発光光子量測定
ATTO株式会社製Luminescencer-PSN AB-2200を使用して測定した。
【0102】
発光スペクトル測定
ATTO株式会社製微弱発光蛍光スペクトル装置AB-1850を使用して測定した。測定したスペクトルは全て検出器の特性を補正したスペクトルである。
【0103】
2)試薬
超純水は、MILLIPORE製Milli-RX12αから採水したものを使用した
メタノール、t-ブタノールは、関東化学株式会社製の特級溶媒を使用した。
【0104】
ルシフェラーゼ(北米産ホタルPhotinus pyralis由来)は、Sigma社製またはPromega社製の組換え型を使用した。
【0105】
ATP-Mgは、Sigma社製のものを使用した。
【0106】
リン酸緩衝液は、和光純薬工業株式会社製のリン酸水素二カリウム・12水和物(特級)とリン酸二水素カリウム・2水和物(特級)を超純水に溶かし、pHを調節して用いた。
【0107】
カリウムt‐ブトキシドは、東京化成工業株式会社製のものを使用した。
【0108】
蒸留水、アセトニトリルは、関東化学株式会社製の高速液体クロマトグラフィー用溶媒を使用した。
【0109】
トリフルオロ酢酸は、和光純薬工業株式会社製のもの(特級)を使用した。
【0110】
3)試料調製
基質溶液
基質を電子天秤で秤量し希釈した。溶媒として、生物発光の測定の場合はリン酸緩衝液(50
mM, pH 6.0)を、化学発光測定の場合はt-ブタノールを使用した。
【0111】
酵素溶液
ルシフェラーゼを1 μg/μlになるようにTris-HCl緩衝液(50 mM, pH8.0)で希釈し小分けにした。これをストック溶液とし、必要量をその都度希釈して用いた。なお、ストック溶液は-80 ℃の冷凍庫に保存した。
【0112】
ATP‐Mg溶液
ATP-Mgを超純水で希釈した。
【0113】
生物発光スペクトル
200μLポリスチレンチューブ内で、リン酸カリウム緩衝液(0.5 M, pH 8.0, 20μl)基質溶液(2.5 mM, 20 μl)、酵素溶液(20μl)、次いでATP-Mg溶液(10 mM, 40μl)を混合して発光スペクトル測定を行った。酵素溶液の濃度は、17μ Mのものを使用した。ただし、ホタルルシフェリン(1)は、1.7μM、フェノール型ルシフェリンは、170μ Mの酵素をそれぞれ使用した。また、発光スペクトル測定の露光時間は、60秒とした。ただし、ホタルルシフェリンは、5秒で行った。
【0114】
実験結果
上記実験より本発明のホタルルシフェリン類似体II、IIIおよびIVは、445nm、565nmおよび680nmの発光を生じる基質であることが明らかとなった(図1を参照されたい)。一方、アニリン型ではなく、フェノール型のホタルルシフェリン類似体に関しては、類似体9は発光しなかった。また、類似体7および類似体8は、それぞれ415nmと520nmの発光波長に発光活性があった(図2を参照されたい)。
【0115】
一方、ジメチルアニリン部分がMe-の類似体およびアセチルで類似体では、活性がなかった。したがって、生物発光の変化を検出することができなかった。
【0116】
考察
上記式II、IIIおよびIVの化合物は、図1に示したように、それぞれ青色、黄緑色および赤色に対応している。したがって、本発明のホタルルシフェリン類似体を使用することにより、光の3原色であるRGBに対応する発光を得ることができる。また、450nmよりも短波長の青色と650nmよりも長波長の赤色は、既存のホタル生物発光系では達し得なかった発光波長領域である。
【0117】
また、上記式II、IIIおよびIVの化合物は、天然のルシフェリンと比較して、格段に合成が容易である。
【0118】
また、実験結果から、オレフィン部分の鎖長が波長の変化に寄与していると考えられる。本発明のジメチルアニリン型の発光基質では、二重結合が一つ増えることにより、およそ120nm波長が変化している。したがって、二重結合の数を調節することにより、さらに長波長側に発光ピークを有する化合物を作製することができると考えられる。さらに、この知見から、ベンゼン環を有する部分(式Iの左)と複素環部分(式の右)との間の結合の距離を調節することにより、類似した構造をもつ基質の発光ピークも変化させることができると思われる。したがって、ジメチルアニリン型以外であっても、-NR1R2部分が他の基に置換されている発光基質についても、二重結合の数を調節することにより、発光ピークを調節することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の化合物による生物発光スペクトルを示す図。
【図2】ルシフェリン類似体による生物発光スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式Iの複素環化合物またはその塩:
【化1】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【請求項2】
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XがNであり、
YがSであり、並びに、
nが0、1、2または3である、
請求項1に記載の複素環化合物またはその塩。
【請求項3】
R1およびR2がそれぞれメチルであり、
R3がHであり、
XがNであり、
YがSであり、並びに、
nが0、1、2または3である、
請求項1に記載の複素環化合物またはその塩。
【請求項4】
nが0、1または2である、
請求項1に記載の複素環化合物またはその塩。
【請求項5】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物をATPおよびMg2+と共に含む、発光検出のためのキット。
【請求項6】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物を発光甲虫ルシフェラーゼと反応させる工程と、該化合物からの発光を検出する工程とことを含む、発光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−184932(P2009−184932A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23396(P2008−23396)
【出願日】平成20年2月2日(2008.2.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、よいシーズをつなぐ知の連携システム委託事業、産業技術協力化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】