説明

ルシフェラーゼの発光基質

【課題】 本発明は、修飾されたホタルルシフェリンおよびホタルルシフェリン類似体に関する。より詳細には、本発明は、ルシフェラーゼによる発光活性を維持した修飾されたホタルルシフェリンおよびホタルルシフェリン類似体に関する。
【解決手段】 本発明は、ベンゾチアゾール環部分の5位が修飾されたルシフェリンを提供する。また、本発明は、ベンゼン環部分の6位が修飾されたルシフェリン類似体を提供する。さらに、本発明は、6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位が修飾されたルシフェリン類似体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体に関する。より詳細には、本発明は、ルシフェラーゼによる発光活性を維持した修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェリン
近年、生物学的事象および現象の可視化が重要視され、可視化のための材料の拡大が望まれてきている。これに伴い、標識技術にも多様化が求められている。特に分子イメージングのための標識技術は、診断および検査機器の進歩と相まって大きく発展している。たとえば、癌や心疾患などに対する個別化医療などの先端技術に応用するための標識技術が精力的に研究されている。また、計測技術の進歩に伴い、より高感度および高性能な機器や標識材料に対する需要が急速に高まっている。
【0003】
周知のように、ホタル生物発光系は、発光効率が非常に高く、最も効率よくエネルギーを光に変換することができる系といわれている。また、生物発光の分子機構解釈も進んでいる。
【0004】
このホタル生物発光は、発光基質であるルシフェリンが発光酵素ルシフェラーゼの作用で化学反応することによって光を放出することが知られている。この反応では、発光基質が発光酵素内でアデノシン三リン酸(ATP)および2価のマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下で、アデニリル化(AMP化)されて、活性型基質であるアデニリル体へと誘導される。次に、これが酸素化されてペルオキシドアニオンとなり、高エネルギー過酸化物であるジオキセタノンへと変換される。不安定なジオキセタノンは、分解しながらプロトンと二酸化炭素とを放出し、励起1重項状態となる。このジアニオン型励起1重項状態からの発光は、黄緑色であり、これがホタルの発光であるとされている。また、発光後の生成物は、オキシルシフェリンと称される。
【0005】
上記のように、発光効率が非常に高く、また生物発光の分子機構の解明が進んでいる。また、可視化が望まれる対象も拡大しており、多様な材料に対する標識が望まれている。これらの事情から、ホタル生物発光系を利用した多岐にわたる発光材料が多くの企業から販売されている。
【0006】
また、ホタル発光基質を利用した標識のための材料も、既に市販されている(たとえば、ルシフェラーゼレポーターシステムズ、プロメガ社)(非特許文献1)。この標識材料は、標識のための修飾部位をルシフェリンのフェノール性水酸基に結合させている。しかし、このようにフェノール性水酸基が修飾されたルシフェリンは、活性を有していない。したがって、修飾部位を介して可視化のための材料に結合させ、その後にルシフェリンによる発光を検出するためには、ルシフェリン部分から修飾部位を切断して遊離させる必要があった。上記プロメガ社の修飾ルシフェリンの場合、可視化のための材料に結合させた後、βガラクトシダーゼで処理することにより、ルシフェリン部分を切断して遊離させなければならない。そして、遊離後の溶液において、ルシフェラーゼと反応させる必要があった。
【0007】
可視化のための材料は、急速に拡大しているにもかかわらず、これらを可視化するために使用することができるプローブ材料は、乏しい。発光による可視化は、イメージングツールとして常識となっているが、種々の材料を標識化するために使用することができる発光基質は、存在しない。現在のところ、発光基質は、発光酵素を染色する目的でしか利用することができていない。
【0008】
材料を発光基質で標識して、任意の場所で発光酵素と作用させてその発光基質を発光させることができれば、標識した発光基質を介して活性物質をモニターすることができる。たとえば、活性物質が細胞内のどこに局在化するのかを調べるために発光基質を利用することができる。また、特定の化合物のみを発光基質で標識することにより、特定の化合物のみを発光させてモニターすることができる。また、発光波長の異なる複数の発光基質を使い分けることにより、複数の対象を同時にモニターすることができる。
【0009】
さらに、ホタル生物発光系の発光基質は、蛍光物質でもある。したがって、これらの発光基質は、蛍光標識としても利用することができる。特に、ホタル生物発光系の発光基質は、種々の波長を有する類似体が開発されており(特許文献1、2および3)、多様な波長を有する蛍光物質としても利用することができる。
【0010】
しかし、発光活性を損なわずに修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体は、開発されていない。特に、発光基質から伸長された炭素鎖を介して結合部分を有する発光基質など、「プローブ材料」として使用することができるルシフェリンおよびルシフェリン類似体は、開発されていない。この理由は、ルシフェリンおよびルシフェリン類似体において、酵素による発光に影響を及ぼさずに修飾することができる部位を特定することができなかったためであると考えられる。
【特許文献1】特開2006-219381号公報
【特許文献2】国際公開公報第2007/116687号パンフレット
【特許文献3】特願2008-023396
【非特許文献1】プロメガ社総合カタログ2008-9 12.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した状況に鑑み、本発明は、ホタル生物発光系において、ルシフェラーゼによる発光活性を維持した修飾されたホタルルシフェリンおよびホタルルシフェリン類似体を提供することを目的とする。また、本発明は、ルシフェラーゼによる発光活性を維持し、かつその他の材料に結合させることができる修飾されたホタルルシフェリンおよびホタルルシフェリン類似体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ホタル生物発光系における発光基質であるルシフェリンの30種以上の類似体による構造活性相関から、ルシフェリンおよびその類似体における発光のための必須部位および発光に影響を及ぼさずに修飾できる部位を明らかにした。これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0013】
本技術の特徴は、ホタル生物発光の発光基質から、その発光能を損なわないように、側鎖および結合部位を伸長させたことにある。このように伸長させた側鎖および結合部位は、アンカータグとして使用することができる。本技術により、従来の修飾ルシフェリンのように修飾した側鎖を切断することなく、様々な可視化のための材料を発光標識することができる。また、上記の通り、発光基質は、蛍光物質でもあるため、本発明修飾されたルシフェリンおよびその類似体は、発光プローブおよび蛍光プローブの双方の機能を有する材料として利用することができる。
【0014】
本発明は、ベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリンを提供する。
【0015】
また、本発明は、N,N-ジアルキルアニリン部分の6位が修飾された、以下の一般式Iのルシフェリン類似体を提供する:
【0016】
【化1】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【0017】
さらに、本発明は、6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位が修飾された、以下の一般式IIのルシフェリン類似体を提供する:
【0018】
【化2】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【0019】
さらに、本発明は、修飾基が他の材料に結合することができる反応性基である、上記ルシフェリンまたはルシフェリン類似体を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、反応性基がN-α-ブロモ酢酸である、上記ルシフェリンまたはルシフェリン類似体を提供する。
さらに、本発明は、反応性基が炭素鎖を介して結合されている、上記ルシフェリンまたはルシフェリン類似体を提供する。
【0021】
また、本発明は、上記記載のルシフェリンまたはルシフェリン類似体を、ATPおよびMg2+と共に含む、発光検出のためのキットを提供する。
【0022】
また、本発明は、発光活性を維持したままルシフェリンまたはルシフェリン類似体を修飾する方法であって、
ルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリンを製造する工程、または
N,N-ジアルキルアニリン部分の6位が修飾された一般式Iのルシフェリン類似体を製造する工程、または、
6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位が修飾された一般式IIのルシフェリン類似体を製造する工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、上記記載の化合物を、所望の材料に対して結合させる工程と、
化合物を発光甲虫ルシフェラーゼと反応させる工程と、
該化合物からの発光を検出する工程と、
を含む発光検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、発光活性を損なわずに修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体が提供される。また、本発明により、発光活性を維持したままルシフェリンまたはルシフェリン類似体を修飾する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の修飾されたルシフェリンによる生物発光の模式図。
【図2】従来のフェノール性水酸基が修飾されたルシフェリンによる生物発光の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリンを提供する。本明細書において、ルシフェリンは、以下の構造を有する。
【0027】
【化3】

【0028】
また、本発明において、ルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位に対する修飾は、いずれの修飾であってもよい。本明細書において、修飾とは、任意の化合物に対して任意の基を結合させることをいう。本発明において、修飾基は、たとえば他の材料に結合することができる反応性基であってもよい。本発明において、反応性基は、N-α-ブロモ酢酸であってもよい。さらに、本発明は、反応性基は、炭素鎖-(CH3n-または-NH-(CH3n-を介して結合されていてもよい。
【0029】
たとえば、ルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位に対してN-α-ブロモ酢酸を結合させることができる。具体的態様において、本発明の修飾されたルシフェリンは、以下の構造を有する修飾されたルシフェリンのように、ベンゾチアゾール部分の7位に対して、炭素鎖を介してN-α-ブロモ酢酸が結合されたルシフェリンである:
【0030】
【化4】

【0031】
上記化合物において、炭素鎖nの長さは、任意の長さであってもよい。また、上記化合物の炭素鎖-(CH3n-は、必ずしも-NH-に結合された炭素鎖である必要はなく、炭素鎖は、ルシフェリンに直接炭素鎖が結合されていてもよい。さらに、N-α-ブロモ酢酸は、ルシフェリンに対して直接結合させることもできる。
【0032】
修飾は、ルシフェリン類似体に対して行ってもよい。修飾部位は、ベンゾチアゾール部分の7位に対応する部位であることができる。たとえば、以下の一般式I:
【0033】
【化5】

を有する化合物のN,N-ジアルキルアニリン部分の6位を修飾してもよい。
【0034】
上記一般式Iにおいて、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。置換としてのこのような低級アルキルは、活性に影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。
【0035】
本明細書において、「C1-4アルキル」という用語は、1〜4炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基、たとえばメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルをいう。同様に、「C1-C3アルキル」という用語は、1〜3炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基(たとえば、メチル、エチルまたはイソ-プロピル)をいう。
【0036】
上記のように、R3がC1-4アルキルであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2には、本発明の化合物のR3部分に対応する部分がAMPであるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0037】
上記一般式Iにおいて、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。XおよびYのヘテロ原子がC、N、SまたはOであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2に記載された種々のルシフェリン類似化合物には、本発明の化合物と対応する部分が種々のヘテロ原子であるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0038】
上記一般式Iにおいて、「n」として表されたオレフィン鎖単位は、所望の長さに変更することができる。
【0039】
具体的には、以下の式
【0040】
【化6】

の化合物のN,N-ジメチルアニリン部分の6位を修飾することができる。
【0041】
一つの態様において、以下の式
【0042】
【化7】

の化合物のN,N-ジメチルアニリン部分の6位を修飾することができる。
【0043】
もう一つの態様において、以下の式
【0044】
【化8】

の化合物のN,N-ジメチルアニリン部分の6位を修飾することができる。
【0045】
また、修飾は、さらなるルシフェリン類似体に対して行ってもよい。修飾部位は、ベンゾチアゾール部分の7位に対応する部位であることができる。たとえば、以下の一般式II:
【0046】
【化9】

を有する化合物の6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位を修飾してもよい。
【0047】
上記一般式IIにおいて、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。置換としてのこのような低級アルキルは、活性に影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。
【0048】
上記のように、R3がC1-4アルキルであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2には、本発明の化合物のR3部分に対応する部分がAMPであるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0049】
上記一般式IIにおいて、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。XおよびYのヘテロ原子がC、N、SまたはOであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2に記載された種々のルシフェリン類似化合物には、本発明の化合物と対応する部分が種々のヘテロ原子であるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0050】
上記一般式IIにおいて、「n」として表されたオレフィン鎖単位は、所望の長さに変更することができる。
【0051】
また、上記一般式IIにおいて、6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分が6-ナフトールである化合物を修飾してもよい。修飾部位は、ルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位に対応する部位であることができる。具体的には、修飾部位は、6-ナフトール部分の5位を修飾することができる。
【0052】
また、一般式IおよびIIに対する修飾は、いずれの修飾であってもよい。修飾基は、たとえば他の材料に結合することができる反応性基であってもよい。反応性基は、N-α-ブロモ酢酸であってもよい。さらに、本発明は、反応性基は、炭素鎖-(CH3n-または-NH-(CH3n-を介して結合されていてもよい。
【0053】
上記一般式IおよびIIに対する修飾において、炭素鎖nの長さは、任意の長さであってもよい。また、上記化合物の炭素鎖は、必ずしも-NH-に結合された炭素鎖である必要はなく、炭素鎖は、ルシフェリンに直接炭素鎖が結合されていてもよい。さらに、N-α-ブロモ酢酸は、ルシフェリンに対して直接結合させることもできる。
【0054】
本発明において、修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体には、その塩が含まれる。「塩」とは、本発明の化合物において、該化合物のいずれかの部分が塩基を形成することができる場合にのみ想定される。
【0055】
「塩」という表現には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、亜燐酸、亜硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、パモ酸、ステアリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸および生きた生物に対して非中毒性であるその他のような無機酸または有機酸とのいずれかの塩、または式Iの化合物の性質が酸性である場合、アルカリまたはアルカリ土類塩基、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムその他のような無機塩基との塩も包含する。
【0056】
本発明の修飾されたルシフェリンおよびルシフェリン類似体は、たとえば以下の実施例1に記載した手順に従って製造することができる。より詳細な手順は、下記の実施例に記載してある。実施例1には、本発明のベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリンを製造するための方法を記載してある。簡単には、以下の手順に従って製造することができる。
【0057】
【化10】

【0058】
簡潔には、開始物質として2-シアノ-6-メトキシベンゾチアゾールを使用し、ピリジン塩酸塩と反応させて、2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを得る。次いで、2‐シアノ‐6‐ヒドロキシベンゾチアゾールを臭化アリルと反応させて、6‐アリルオキシ‐ベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルを得る。
【0059】
得られた6‐アリルオキシ‐ベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルをアルゴン雰囲気下180℃にて加熱融解して反応混合物を放冷した後、7‐アリル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルを得る。次いで、7‐アリル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルをt-ブタノール:水に溶解し、室温にて四酸化オスミウムt-ブタノール溶液、過ヨウ素酸ナトリウムおよび飽和亜硫酸ナトリウム水溶液と反応させて、7‐ホルミル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルを得る。次いで、7‐ホルミル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルをエタノールに溶解し、水素化ホウ素ナトリウムと反応させて、リンカー伸長ニトリル化合物6を得る。次いで、リンカー伸長ニトリル化合物6をD-システイン塩酸塩一水和物と反応させて、N-Bocルシフェリンプローブ7を得る。
【0060】
最後に、N-Bocルシフェリンプローブ7をジオキサン(1.5ml)に溶解し、2-ブロモ酢酸ブロマイドと反応させて、N-α-ブロモ酢酸で修飾されたルシフェリン8を得る。
【0061】
また、実施例2には、一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが2であるN,N-ジメチルアニリン型の化合物の合成手順を記載してある。簡単には、開始物質として市販の4−ジメチルアミノシンナミックアルデヒドなどのアルデヒド体を使用し、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォランと反応させてエチルエステル体を得る。次いで、このエチルエステル体を水酸化ナトリウム水溶液中でカルボキシル体に変換する。一方、D-システイン-S-トリチル化合物を塩化水素、1,4-ジオキサン溶液中で反応させて、メチルエステル体を作製しておく。次いで、このメチルエステル体をカルボキシル体をと反応させて、アミド体を形成する。次いで、このアミド体をトリフェニルホスフィンオキシドおよびトリフルオロメタンスルホン酸無水物によって環化させて複素環を形成させ、チアゾリン体を得る。次いで、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望の置換基に変換して所望の化合物を得る。
【0062】
当業者であれば、上記一般式Iのジメチルアニリン型の化合物の合成手順を修正し、一般式IのN,N-ジメチルアニリン部分の6位を容易に修飾することができるであろう。たとえば、以下の合成手順を使用して合成することができる。
【0063】
一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが0であるN,N-ジメチルアニリン型の化合物の合成手順:
【0064】
【化11】

【0065】
一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが1であるN,N-ジメチルアニリン型の化合物の合成手順:
【0066】
【化12】

【0067】
一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが2であるN,N-ジメチルアニリン型の化合物の合成手順:
【0068】
【化13】

【0069】
また、修飾を有していない一般式IのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが1であるN,N-ジメチルアニリン型の化合物の合成手順は、以下の通りである:
【0070】
【化14】

【0071】
当業者であれば、上記一般式Iの化合物のR1およびR2を所望の置換基と置き換えた開始物質から開始して、上記合成手順と同様の手順によって対応する化合物を合成することができることを理解するであろう。また、最後の工程において、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望のエステルに置換することにより、対応するR3を有する化合物を得ることができるであろう。さらに、開始物質として使用するエチルエステル体のオレフィン部分の長さを変更することにより、一般式Iにおいて所望の長さのnを有する化合物を得ることができるであろう。
【0072】
また、当業者であれば、上記一般式IIのジメチルアニリン型の化合物の合成手順を修正し、一般式IIの6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位を容易に修飾することができるであろう。
【0073】
たとえば、一般式IIのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが1である化合物の合成は、以下のように合成することができるであろう:
【0074】
【化15】

【0075】
本発明の化合物は、修飾部分の反応性基を所望の材料に結合させるための反応液と共にキットとして提供することができる。たとえば、上記のようなルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位に対して、炭素鎖を介してN-α-ブロモ酢酸が結合されたルシフェリンの場合、50mM K2PO4緩衝液(pH8.0)などのタンパク質と結合させるために適した溶液と共にキットとして提供してもよい。上記キットを使用することにより、たとえば50mM K2PO4緩衝液(pH8.0)に溶解された修飾ルシフェリンを所望のタンパク質と混合することによってタンパク質に結合させることができる。タンパク質に結合させた本発明のルシフェリンは、結合させたタンパク質を検出するための発光プローブとして利用することができる。
【0076】
したがって、本発明の修飾されたルシフェリンは、生物学的測定/検出における発光標識として利用することができる。たとえば、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質および核酸などを標識するために使用することができる。本発明の化合物をこれらの物質に結合させるための手段は、当業者に周知である。たとえば、本発明の化合物は、当業者に周知の方法を使用して、目的の物質のカルボキシル基およびアミノ基に対して結合させることができる。具体的には、以下化合物:
【0077】
【化16】

の場合、容易に目的の物質のアミノ基に対して結合させることができる。
【0078】
また、本発明の修飾されたルシフェリンは、発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定/検出に利用することができる。たとえば、本発明の修飾されたルシフェリンを、上記のような発光甲虫ルシフェラーゼとの反応に適した条件下で反応させる。次いで、ルシフェリンからの発光を検出する。たとえば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞または動物に対して、本発明の修飾されたルシフェリンを投与することにより、インビボにおける標的遺伝子またはタンパク質の発現などを測定/検出することができる。特に、本発明の修飾されたルシフェリンを結合させたタンパク質を、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞または動物に対して導入することによりインビボにおける標的遺伝子またはタンパク質の発現などを測定/検出することができる。
【0079】
本発明の修飾されたルシフェリン誘導体は、それぞれ異なる発光波長で発光させることができる。したがって、複数の修飾されたルシフェリン誘導体を使用することにより、複数の標的による発光を同時に測定/検出することができる。また、波長が長波長であるほど光透過性を有するため、組織透過性も高い。したがって、本発明の化合物のうち、長波長の発光を有する化合物は、生体内深部標識のために有用である。
【0080】
本発明の修飾されたルシフェリン誘導体により、445nmの青色発光色(たとえば、化11に示した化合物)、天然とほぼ同じ565nmの黄緑色(たとえば、化12に示した化合物)、さらに680nmの赤色発光(たとえば、化13に示した化合物)が実現される。これら一連の類似体基質により、光の3原色であるRGBの発光をホタルルシフェリン類似体で実現できる。また、この両端にあたる450nmよりも短波長な青色と650nmよりも長波長な赤色は、既存のホタル生物発光系では達し得なかった発光波長領域である。
【0081】
また、本発明の化合物は、発光甲虫ルシフェラーゼ、ATPおよびMg2+の存在する系に添加することによって、発光甲虫ルシフェラーゼにより酸化して発光する。本発明の化合物は、単独で発光基質として利用可能であるが、必要に応じて、その他の発光基質と組み合わせて使用してもよい。本発明の化合物は、ATPおよびMg2+と共にキットとして提供することもできる。また、キットには、その他の発光基質や適切なpHに調製した溶液を含めることもできる。さらに、本発明の化合物は、ATPおよびMg2+と共に本発明の化合物を適切なpHに調製した発光基質組成物を発光剤キットとして提供することもできる。
【0082】
ホタル生物発光系は、水性系であるので、親水性有機化合物が存在していてもよい。たとえば、テトラフルオロ酢酸、酢酸およびギ酸などが存在していてもよい。本発明の化合物を発光系に応用する場合、好適な発光強度を得るためには、1μM以上の発光基質の濃度で使用されることが好ましく、たとえば5μM以上で使用される。また、発光系のpHは、4〜10、好ましくは6〜8であることが想定されるが、特に限定されない。必要に応じて、pHを安定化させるために、リン酸カリウム、トリス塩酸、グリシンおよびHEPESなどの緩衝剤を使用することができる。
【0083】
また、本発明の化合物は、ホタル発光甲虫ルシフェラーゼ発光系において、種々の酸化酵素によって発光させることができる。ルシフェラーゼは、北アメリカ産ホタル(Photinus pyralis)および鉄道虫(Railroad worm)などの種々の生物から単離されており、それらのいずれを使用することもできる。使用可能な酸化酵素には、たとえばヒカリコメツキムシルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼおよびフラビン含有モノオキシゲナーゼなどを含む。
【0084】
本発明の化合物を発光基質とする生物発光は、発光系にコエンザイムA(CoA)、ピロリン酸またはMgイオン(Mg2+)が存在すると、その発光が増強されることが知られている。したがって、これらを発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光増強剤として利用することができる。これらの化合物の発光増強効果は、発光系におけるCoA、ピロリン酸またはMg2+の濃度がそれぞれ5μM以上において顕著であり、濃度の増加にしたがって増強されることが知られている。
【0085】
ホタル生物発光系を測定/検出に使用するためには、酵素の失活を防止してプラトーな発光挙動を示すように、発光を安定化させることが重要である。たとえば、ホタル生物発光系における発光の安定化には、Mgイオンが有効である。発光系にMgイオンが存在すると、立ち上がった後の減衰が抑制されるように発光挙動が変化する。特に、ピロリン酸およびMgイオンが発光系に共存すると、発光挙動が大きく変化する。すなわち、発光安定化がきわめて顕著となり、発光基質に対して大過剰のピロリン酸およびMgイオンが共存する場合の発光挙動は、急速に立ち上がり、これが維持されてプラトーな状態が形成される。Mgイオン単独の場合、発光系のMgイオン濃度が0.5mM以上において、発光安定化効果が顕著であり、Mgイオンの濃度の増加にしたがって増強される。プラトーな発光挙動を達成するために、たとえば10μM以上、好ましくは100μM以上の濃度のピロリン酸マグネシウムを存在させることができる。また、ピロリン酸とMgイオンとの割合は、当量比である必要はない。ピロリン酸マグネシウムは、水溶性が低いものの、これを使用することにより、ピロリン酸およびMgイオンをそれぞれ別個に供給することができる。これらは、遊離形態および塩の形態で発光系に供給することができる。使用可能なMg塩には、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムなどの無機酸塩、並びに酢酸マグネシウムなどの有機酸塩を含む。ピロリン酸塩には、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩、並びにマグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩、鉄などとの塩を含む。これらは、水溶液状態で発光系に含めてもよい。また、酵素に対する影響を考慮して、発光系のpHは、2〜10になるように含めることが好ましい。
【0086】
本発明の修飾されたルシフェリンは、化学発光における基質として使用してもよい。たとえば、タンパク質に結合させた本発明のルシフェリンを使用することにより、タンパク質を検出するための化学発光プローブとして利用することができる。化学発光は、本発明の化合物を酸化して過酸化物を生成し、この過酸化物の分解物が励起状態の発光種となることによって生じる。酸化は、たとえばDMSO中でt-ブトキシカリウムを使用して空気酸化させることによって進行させることができる。化学発光の場合、ホタル生物発光系における発光よりも短波長の発光が想定される。
【実施例】
【0087】
以下の実施例において、本発明を具体的に説明してあるが、本発明は、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0088】
1)機器分析および測定装置
pH測定:東洋濾紙株式会社製pH試験紙UNIVを使用して測定した。また、pHメータとして、堀場社製pH/ION METER F-23 を使用して測定した。
【0089】
融点測定(m.p.):Yamamoto社製model MP-2を使用して測定。測定値は未補正である。
【0090】
赤外吸収スペクトル(IR):堀場製作所社製FT-730フーリエ変換赤外分光光度計を使用して、錠剤法(KBr)、溶液法(CHCl3、CH3OH)により測定を行った。測定値は、波数(cm-1)で記載した。なお、幅広い吸収は、brと記した。
【0091】
1H核磁気共鳴スペクトル(1H NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(270MHz)を使用して測定した。“1H NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(水素の数, 多重度, スピン結合定数)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)はテトラメチルシラン(δ=0)を内部基準とし、ppで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線または複雑に重なったシグナル)で表示し、幅広いシグナルは、brと記した。スピン結合定数(J)は、Hzで記載した。
【0092】
13C核磁気共鳴スペクトル(13C NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(67.8MHz)を使用して測定した。“13C NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(多重度)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)は、テトラメチルシラン(δ= 0)を内部基準とし、ppmで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)で表示した。
【0093】
質量スペクトル(MS):日本電子社製JMS-600H型質量分析計を用い、電子衝撃法(EI、イオン化エネルギー:70eV)により測定した。日本電子社製JMS-T100LC型TOF質量分析計AccuTOFを用い、エレクトロンスプレーイオン化法(ESI)により測定した。なお、装置の設定は、脱溶媒ガス250℃、オリフィス1温度80℃、ニードル電圧2000V、リングレンズ電圧10V、オリフィス1電圧85V、オリフィス2電圧5Vとした。サンプル送液は、インフュージョン法で行い、流速10μl/minとした。“MS(測定法)m/z質量数(相対強度)”と記載した
比旋光度:日本分光社製DIP-1000型旋光計を使用して測定した。光源は、ナトリウムランプを使用し、セルは、円筒型ガラスセル(Φ10×100mm)を使用した。測定値は未補正であり、データは5回測定の平均値である。それぞれD体、L体について“D or L: [α]温度 測定値(濃度, 測定溶媒)”と記載した。
【0094】
2)クロマトグラフィー
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC):E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5715)厚さ0.25mmを使用した。TLC上の化合物の検出はUV照射(254nmまたは365nm)および発色剤に浸した後に加熱して発色させることによって行った。発色剤としてはp-アニスアルデヒド(9.3ml)と酢酸(3.8ml)をエタノール(340ml)に溶解し、濃硫酸(12.5ml)を添加したものを使用した。
【0095】
分取用薄層クロマトグラフィー(PTLC):E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5744)厚さ0.5mmを用いるか、またはE. Merck社製の薄層クロマトグラフィー用シリカゲル60GF254(Art.7730)を20cm×20cmのガラスプレート上に、厚さ1.75mmに調整したものを使用して行った。
【0096】
シリカゲルカラムクロマトグラフィー:E. Merck社製のシリカゲル60F254(Art.7734)を使用して行った。
【0097】
3)基本操作
反応溶液の冷却は、冷媒を満たしたジュワー瓶に反応容器を浸して行った。室温〜4℃では、氷水、4〜-90℃では、液体窒素−アセトンを冷媒として用いた。反応後の抽出溶液の乾燥は、飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸マグネシウムを加えることで行った。反応後の中和を樹脂で行ったものについては、オルガノ株式会社製陽イオン交換樹脂アンバーライトIR120B NAまたは陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA400 OH AGを使用した。溶液の減圧濃縮は、アスピレーターの減圧下(20〜30mmHg)、ロータリーエバポレーターを使用して行った。痕跡量の溶媒の除去は、液体窒素浴で冷却したトラップを装着させた真空ポンプ(約1mmHg)を使用して行った。溶媒の混合比は全て体積比で表した。
【0098】
4)溶媒
蒸留水は、アドバンテック東洋株式会社製GS-200型蒸留水製造装置を使用して蒸留およびイオン交換処理したものを使用した。
【0099】
トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ブタノンは、関東化学株式会社製の有機合成用脱水溶媒または特級溶媒を、モレキュラーシーブス(4A)を使用して乾燥させて使用した。
【0100】
NMR測定用溶媒は、以下に示すものをそのまま使用した。CDCl3:ISOTEC Inc.製99.7 ATOM%D、0.03% TMS、CD3OD:ISOTEC Inc.製99.8 ATOM%D(〜0.7 ATOM%13C)、0.05% TMS。
【0101】
実施例1-1
2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールの合成
【化17】

【0102】
2-シアノ-6-メトキシベンゾチアゾール(1)(51.4mg、0.271mmol)にピリジン塩酸塩(2.32g)を加え、アルゴン雰囲気下で200℃に加熱し、ピリジン塩酸塩を融解させ30分間撹拌した。反応混合物を放冷した後、1M塩酸(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー{20cm×20cm×1.75mm×1枚;ヘキサン−酢酸エチル(1:1)}にて精製し、2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾール(2)(47.2mg、99%)を薄黄色固体として得た。
【0103】
ヒドロキシル体14
mp 155-170℃ decomp.
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ7.17(1H, dd, J=2.7, 9.2Hz), 7.41(1H, d, J=2.7Hz), 7.99(1H, d, J=9.2Hz)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ107.00(d), 114.29(s), 119.63(d), 126.58(d), 133.90(s), 139.00(s), 147.28(s), 160.33(s)
MS(EI)m/z 176(M+, 100), 124(5)。
【0104】
実施例1-2
6‐アリルオキシ‐ベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(3)の合成
【化18】

【0105】
2‐シアノ‐6‐ヒドロキシベンゾチアゾール(2)(336.2mg、1.91mmol)、臭化アリル(331μl、3.82mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1.5ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、炭酸カリウム(404.6mg、1.53mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水(20ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー{20cm×20cm×1.75mm×1枚;ヘキサン−酢酸エチル(1:1)}にて精製し、6‐アリルオキシ‐ベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(3)(418.1mg、90%)を薄黄色固体として得た。
1H NMR(270MHz、CDCl3
δ8.07(1H, d, J=9.2Hz), 7.36(1H, d, J=2.4Hz), 7.26(1H, dd, J=2.4, 9.2Hz), 6.08(1H, m), 5.41(2H, complex)。
【0106】
実施例1-3
7‐アリル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(4)の合成
【化19】

【0107】
6‐アリルオキシ‐ベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(3)(201.0mg、0.93mmol)を、アルゴン雰囲気下、180℃で加熱融解し、1時間撹拌した。反応混合物を放冷した後、分取薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー{20cm×20cm×1.75mm×1枚;ヘキサン−酢酸エチル(1:1)}にて精製し、7‐アリル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(4)(100.0mg、50%)を薄黄色固体として得た。
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ7.98(1H, d, J=8.9Hz), 7.17(1H, d, J=2.7Hz), 5.97(1H, m), 5.74(1H, s), 5.17-5.25(comp. 2H), 3.65(1H, dt, J=1.3, 6.2Hz)。
【0108】
実施例1-4
7‐ホルミル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリルの合成
【化20】

【0109】
7‐アリル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(4)(296.6mg、1.37mmol)をt-ブタノール:水(5:1、7.2ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、触媒量の四酸化オスミウムt-ブタノール溶液(200μl)、過ヨウ素酸ナトリウム(1.49g、6.97mmol)を加え、室温で10時間撹拌した。反応混合物に飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた茶褐色の固体は分離操作に対して不安定であったため、精製をせずに次の反応に用いた。
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ10.50(1H, s), 8.20(1H, d, J=8.9Hz), 7.28(1H, d, J=8.9Hz)。
【0110】
実施例1-5
リンカー伸長ニトリル基質6の合成
【化21】

【0111】
7‐ホルミル-6-ヒドロキシベンゾチアゾール‐2-カルボニトリル(5)(133.5mg、0.65mmol)をエタノール(5ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、室温で10時間撹拌した。その後、水素化ホウ素ナトリウム(138mg、0.36mmol)を加え、さらに24時間攪拌した。反応混合物に対し、水(20ml)を加え、酢酸エチル(3×30ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー{20cm×20cm×1.75mm×2枚;クロロホルム−酢酸エチル−トリエチルアミン(10:1:0.1)}にて精製し、リンカー伸長ニトリル化合物6(133.9mg、52%)を橙色固体として得た。
【0112】
リンカー伸長ニトリル化合物
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ7.832(1H, d, J=8.6Hz), 7.01(1H, d, J=8.6Hz), 4.18(1H, s), 3.03(2H, t, J=6.8Hz), 2.76(2H, t, J=7.0Hz), 1.62(2H, dt, J=7.3Hz), 1.28-1.53(13H, complex)。
【0113】
実施例1-6
N-Bocルシフェリンプローブ7の合成
【化22】

【0114】
リンカー伸長ニトリル化合物6(21.0mg、0.054mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(10.7mg、0.068mmol)をメタノール:蒸留水(2:1、4ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、炭酸カリウム(11.1mg、0.08mmol)を加え、室温で5時間撹拌した後、60℃に昇温し更に7時間攪拌した。反応混合物に1M塩酸(1ml)を添加して酸性にした後、メタノールを減圧下濃縮した。得られた油状固体を濾過した。得られた残渣を逆相カラム(0.05% TFA aq. 30cc→0.05%TFA aq.:MeOH=10:1→1:10)にて精製し、N-Bocルシフェリンプローブ7(18.7mg、70%)を橙色固体として得た。
【0115】
N-Bocルシフェリンプローブ
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ 7.87(1H, d, J=8.9Hz), 7.05(1H, d, J=8.9Hz), 5.41(1H, t, J=9.2Hz), 4.25(2H, s), 3.75(2H, m), 3.05-2.85(comp.4H), 1.62(2H, dt, J=7.3Hz), 1.26-1.70(13H, complex)。
【0116】
実施例1-7
N-α-ブロモ酢酸 ルシフェリンプローブの合成
【化23】

【0117】
N-Bocルシフェリンプローブ7(10.2mg、0.025mmol)をジオキサン(1.5ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、2-ブロモ酢酸ブロマイド(200μl、2.3mmol)を加え、室温で30時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、得られた油状固体を濾過した。得られた残渣を逆相カラム(0.05% TFA aq. 30cc→0.05%TFA aq.:MeOH=10:1→1:10)にて精製し、N-α-ブロモ酢酸ルシフェリンプローブ8(8mg、62%)を橙色固体として得た。
【0118】
N-α-ブロモ酢酸ルシフェリンプローブ8
MS(ESI-TOF)[M+H] found m/z 515.090(79Br), 516.965(81Br)
calcd for C19H23O4N4S279Br [M+H] 515.042, C19H23O4N4S281Br [M+H] 517.040。
【0119】
実施例2
実施例2-1:アミド体の合成
【化24】

【0120】
メチルエステル体1(184mg、0.485mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5ml)にアルゴン雰囲気下、p-ジメチルアミノ桂皮酸(92.1mg、0.482mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(196 mg、1.02mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(124mg、1.02mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(100ml)を加え、酢酸エチル(3×100ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル181g;ヘキサン−酢酸エチル(1:1)}にて精製し、アミド体(214mg、80%)を黄色油状として得た。
【0121】
ジメチルアミノモノエンのアミド
1H NMR (270MHz, CDCl3
δ2.99(6H, s), 3.71(3H, s), 4.78(1H, dd, J=5.1,7.8Hz), 6.05(1H, d, J=7.8Hz), 6.15(1H, d, J=15Hz), 6.66(1H, d, J=8.6Hz), 7.16-7.40(19H, complex), 7.53(1H,
d, J=15Hz)。
【0122】
実施例2-2:チアゾリン体の合成
【化25】

【0123】
アミド体(118mg、0.214mmol)のジクロロメタン溶液(10ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(124mg、0.446mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(360μl、2.14mmol)を加え、室温で40分撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(50ml)、酢酸エチル(2×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー{シリカゲル42g;ヘキサン−酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン体(44.2mg、71%)を黄色固体として得た。
【0124】
ジメチルアミノモノエンのチアゾリン体
1H NMR (270MHz、CDCl3
δ3.00(6H, s), 3.56(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.58(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.83(3H, s), 5.18(1H, t, J=9.2Hz), 6.67(2H, d, J=9.5Hz), 6.91(1H, d, J=16Hz), 7.07(1H, d, J=16Hz), 7.38(2H, d, J=9.5Hz)。
【0125】
実施例2-3:モノエン体発光基質の合成
【化26】

【0126】
チアゾリン体(16.3mg、0.0591mmol)を、エタノール(2ml)と10mM炭酸水素アンモニウム水溶液(8ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で19時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体(15.2mg、quant.)を橙色固体として得た。
【0127】
モノエン体発光基質
1H NMR (270MHz、CD3OD)
δ3.02(6H, s), 3.57(1H, dd, J=8.6,11Hz), 3.72(1H, dd, J=8.6,11Hz), 5.03(1H, t, J=8.6Hz), 6.73(2H, d, J=8.9Hz), 6.87(1H, d, J=16Hz), 7.24(1H, d, J=16Hz), 7.45(2H, d, J=8.9Hz)。
【0128】
実施例3
ルシフェリンプローブを使用する牛血清アルブミン(BSA)の標識化
材料および方法
牛血清アルブミン溶液は、1mgの牛血清アルブミン(BSA:Sigma Chemical Company)を1mlの50mM K2PO4緩衝液(pH8.0)に溶解させて作製した。
【0129】
プローブ溶液は、2mgのプローブを100μlの50mM K2PO4緩衝液(pH8.0)に溶解させて作製した。
【0130】
ルシフェラーゼ(Photinus Pyralis; Sigma Chemical Company)を1mg/mlになるように10%のグリセロールを含むTris-HCl緩衝液(50mM、pH8.0)で希釈した。これを35%のグリセロールを含むK2PO4緩衝液(50mM、pH8.0)でさらに希釈し、ルシフェラーゼ溶液を作製した。
【0131】
反応物を1.5mlエッペンチューブに牛血清アルブミン溶液を加え、その後、プローブ溶液を添加して混合し、添加した時間を記録した。プローブ溶液を添加、混合してから、10分後に試料を500μl取り、Ultrafree(登録商標)-MC(Millipore Corporation)に移して10分間遠心分離(12000回転/分)した。残渣を50mM K2PO4緩衝液300μlで4回洗浄したものから20μl取って、20μlの上記ルシフェリン検出溶液と混合した。そして、該溶液からの発光を直ちにルミノメーター(ATTO株式会社製Luminescencer-PSN AB-2200)を用いて測定した。
【0132】
結果
プローブ8の存在下および非存在下で、BSAとルシフェエラーゼを反応させた。これらの発光をルミノメーター(ATTO株式会社製Luminescencer-PSN AB-2200)を使用して測定した。プローブ8を結合したBSAと未結合のBSAにおいて、発光量(30秒積算)で2桁以上の優位な差が観測され、BSAがプローブ8によって標識されると共に、発光活性が損なわれていないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリン。
【請求項2】
N,N-ジアルキルアニリン部分の6位が修飾された、以下の一般式Iのルシフェリン類似体:
【化27】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【請求項3】
6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位が修飾された、以下の一般式IIのルシフェリン類似体:
【化28】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【請求項4】
前記修飾が他の材料に結合することができる反応性基による修飾である、請求項1に記載のルシフェリンまたは請求項2もしくは3に記載のルシフェリン類似体。
【請求項5】
前記反応性基がN-α-ブロモ酢酸である、請求項1に記載のルシフェリンまたは請求項2もしくは3に記載のルシフェリン類似体。
【請求項6】
前記反応性基が炭素鎖を介して結合されている、請求項1に記載のルシフェリンまたは請求項2もしくは3に記載のルシフェリン類似体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のルシフェリンまたはルシフェリン類似体を含む、発光検出のためのキット。
【請求項8】
発光活性を維持したままルシフェリンまたはルシフェリン類似体を修飾する方法であって、
請求項1に記載のルシフェリンのベンゾチアゾール部分の7位が修飾されたルシフェリンを製造する工程、または
請求項2に記載のベンゼン部分の6位が修飾された一般式Iのルシフェリン類似体を製造する工程、または、
請求項3に記載の6-(ジアルキルアミノ)-2-ナフタレニル部分の5位が修飾された一般式IIのルシフェリン類似体を製造する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のルシフェリンまたはルシフェリン類似体を、所望の材料に対して結合させる工程と、
前記ルシフェリンまたはルシフェリン類似体を発光甲虫ルシフェラーゼと反応させる工程と、
該ルシフェリンまたはルシフェリン類似体からの発光を検出する工程と、
を含む発光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−180191(P2010−180191A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27654(P2009−27654)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業、重点地域研究開発推進プログラム「シーズ発掘試験」、研究課題「ホタル生物発光系の発光波長改変指標の確立と制御技術の開発」、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】