説明

レオキャスト設備

【課題】半凝固金属スラリーを、金属成形体を得る金型を装着した成形装置に容易にかつ安定して供給することで、品質が一定した金属成形体を得ることができるコンパクトなレオキャスト設備を提供する。
【解決手段】半凝固金属スラリーを保持する保持容器(3)を1とし、該1つの保持容器(3)を、傾斜冷却体(1A)の下端にてそれで流下する溶湯を受ける位置から成形装置(2)の湯口部の上方近傍位置までの間にわたり、往復動可能とする搬送手段(6)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半凝固金属スラリー製造装置と、それで作った半凝固金属スラリーを用い、金属成形体を得る金型を装着した成形装置とを具備したレオキャスト設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用部品や携帯情報機器用部品などの各種部品がアルミニウム合金やマグネシウム合金などの半凝固金属スラリーを用い、ダイキャストや溶湯鍛造により作られている。これは半凝固加工法により、結晶粒が球状でマクロ偏析や収縮巣がなく、優れた機械的性質が得られるからである。
この種の半凝固加工法では、半凝固金属スラリー製造装置で作った金属スラリーが半凝固域にある状態で成形装置に供給するレオキャスト法と、半凝固金属スラリーを一旦凝固させてビッレト状とし、それを半溶融温度域に再加熱して加工するチクソキャスト法が知られ、前者のレオキャスト法が再加熱する必要がないことから、省エネルギー性に優れた加工法である。それに用いる半凝固金属スラリーは、結晶粒が液相マトリックス中に互いに分離した状態で存在し球状であることが、良好な金属成形体を得るうえで、必要である。
【0003】
そのため、従来から、各種の半凝固金属スラリーの製造方法が提案されている(例えば特許文献1)。この特許文献1に記載の製造方法は、図4に示すような半凝固金属スラリー製造装置1を用い、ほぼ球状化した微細な結晶粒を得るために、溶融金属(溶湯ともいう)を傾斜冷却体1A上に流下して急冷し、次いで保持容器3内で保持する方法である。
なお、溶融金属保持炉1Cで保持した溶湯は、当該アルミニウム合金の液相線温度TL(℃)からTL+60(℃)の間の温度で傾斜冷却体1Aと接触させ、当該溶融金属の少なくとも一部を固液共存状態とすると共に、細粒で粒状の1次粒子を晶出させ、その後、保持容器3内で1次粒子が晶出した溶湯を半溶融温度域に所定の時間保持し、半凝固金属スラリーとしている。この半凝固金属スラリー製造装置1では、溶融金属保持炉1C内に制御棒を浸漬させ、溶融金属保持炉1C内の溶湯を、図4に示したように、給湯管1Bを経て傾斜冷却体1A上に流下させ、回転テーブル11上の保持容器3で受けるのが普通である。
【0004】
従来の金属スラリーの搬送装置は、回転テーブル11の円周上に沿って保持容器3が複数個並べられ、回転中心11A周りの回転テーブル11の回転に伴って保持容器3が順次、傾斜冷却体1Aの下端にて流下する溶湯を受ける位置に来るようになっている。
【特許文献1】特開平8−187547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転テーブル方式の半凝固金属搬送装置は、回転テーブル11の回転に伴って保持容器3が順次、傾斜冷却体1Aの下端にて流下する溶湯を受ける位置に来るようにしなければならず、また、回転テーブル11の円周上に沿って保持容器3が複数個並べられているため、大型となる。したがって、これを具備したレオキャスト設備に広い設置スペースを要するという欠点があった。
【0006】
また、従来の回転テーブル方式の半凝固金属搬送装置と、溶湯鍛造装置やダイキャスト装置などの金型を装着した成形装置2とを具備したレオキャスト設備の場合には、回転テーブル11の回転に伴って成形装置2の近くに来た保持容器3を人手で持ち上げ、図5に示したように、金型を装着した成形装置2の湯口部に、半凝固金属スラリーが流下するよう保持容器3を傾斜させていた。
【0007】
このため、成形装置2の湯口部へ半凝固金属スラリーを供給する作業者の作業負荷が大きく、熟練した作業者でも成形装置2の湯口部へ半凝固金属スラリーを安定して供給するのが難しいという欠点があった。これを解消するため、傾斜冷却体1Aで溶湯を冷却する半凝固金属スラリー製造装置1と、それで作った半凝固金属スラリーを用い、金属成形体を得る金型を装着した成形装置2とを具備したレオキャスト設備にロボットを導入し、保持容器3を持ち上げ、傾斜させて半凝固金属スラリーを成形装置2に供給する作業などを行うことも考えられるが、それを導入した場合、設置スペースが余分に必要になると共に高度な機械を扱うには熟練を要するという問題が発生してしまう。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、半凝固金属スラリーを、金型を装着した成形装置に容易にかつ安定して供給することで、品質が一定した金属成形体を得ることができるコンパクトなレオキャスト設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、傾斜冷却体で溶湯を冷却する半凝固金属スラリー製造装置と、それで作った半凝固金属スラリーを用い、金属成形体を得る金型を装着した成形装置とを近接配置し、かつ前記半凝固金属スラリーを保持する保持容器を1とし、該1つの保持容器を、前記傾斜冷却体の下端にて流下する溶湯をそれで受ける位置から前記成形装置の湯口部の上方近傍位置までの間にわたり、往復動可能とする搬送手段を設けたことを特徴とするレオキャスト設備である。
【0010】
前記保持容器は、切り欠き部を形成した固定蓋と、その切り欠き部を塞ぐスライド蓋とで開口部の蓋ができることが好ましく、またさらに切り欠き部を形成した固定蓋と、容器底部の流出口を塞ぐ棒状ストッパーとを有し、前記固定蓋に棒状ストッパーが上下動できるガイド孔を設けてなり、前記固定蓋のガイド孔に挿入した棒状ストッパーで容器底部の流出口を塞いだものとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるレオキャスト設備によれば、傾斜冷却体で溶湯を冷却する半凝固金属スラリー製造装置と、金型を装着した成形装置とを近接配置し、半凝固金属スラリーを保持する保持容器を1つとし、それを往復動可能とする搬送手段を設けたので、コンパクトなレオキャスト設備とすることができる。
また、一つの保持容器の往復動する範囲を、前記傾斜冷却体の下端にて流下する溶湯を保持容器で受ける位置から前記成形装置の湯口部の上方近傍、すなわち容器底部の流出口より流下させた半凝固金属スラリーを自重により成形装置へ供給できる位置までの間としたから、金型を装着した成形装置に容易にかつ安定して半凝固金属スラリーを供給できる。このため、結晶粒がほぼ球状でマクロ偏析や収縮巣が少なく、品質が一定した金属成形体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を用い、本発明にかかるレオキャスト設備について説明する。図1は、本発明にかかるレオキャスト設備の構成の一例を示す側面図であり、図2は、図1に示したレオキャスト設備の平面図である。
本発明にかかるレオキャスト設備は、傾斜冷却体1Aで溶湯を冷却する半凝固金属スラリー製造装置1と、金属成形体を得る金型を装着した成形装置2とを近接配置し、半凝固金属を保持する一つの保持容器3を所定の範囲にわたり、往復動可能とする搬送手段6を設けたことを特徴とする。この場合、搬送手段6は、図1中に示した移動距離Lの範囲内で、レール部材7上を往復移動する移動台6であり、一つの保持容器3が移動台6に搭載されている。移動距離Lは、保持容器3が斜冷却体1Aの下端にて流下する溶湯を受ける位置から成形装置2の金型へ至る湯口部の上方近傍位置、すなわち、容器底部の流出口より流下させた半凝固金属スラリーを自重により成形装置2へ供給できる位置までの間である。なお、保持容器3には、流出口と連通させて傾斜連結管5が設けられている。容器底部の流出口は上下動可能な棒状ストッパー4で塞ぐのが好ましい。
【0013】
ここで、一つの保持容器3を搭載した移動台6は、2つのレール部材7によって移動方向10と直角な2方向への移動が規制されている。また一つの保持容器3を搭載した移動台6は、移動台6に搭載したモータを回転させ、モータを正転、逆転させ、移動距離Lの範囲内で往復移動するようになっている。
図1、2中、8、9は支持部材であり、2つのレール部材7を介して、移動台6に搭載された保持容器3の高さ方向位置が、半凝固金属スラリー製造装置1の側では、斜冷却体1Aの下端にて流下する溶湯を受ける高さとなり、成形装置2の側では、湯口部の上方にその底部が位置するように調整されていると共に、金属成形体に必要な量の溶湯を保持したときの一つの保持容器3と、それを搭載した移動台6とを支持している。
【0014】
なお、この実施の形態にかかるレオキャスト設備では、金型を装着した成形装置2は、パンチ2Aと、金型装着台2Bと、型締め2Cなどを有する溶湯鍛造装置とした。溶湯鍛造装置の湯口部は、パンチ2Aの下方に位置している。この実施の形態のレオキャスト設備に用いた半凝固金属スラリー製造装置1と、溶湯鍛造装置は、従来から用いられている装置である。
【0015】
本発明のレオキャスト設備に用いる保持容器3は、図3に示すように、切り欠き部を形成した固定蓋3Aと、その切り欠き部を塞ぐスライド蓋3Bとで開口部の蓋ができることが好ましい。このようにすれば、半凝固金属スラリー製造装置1側の斜冷却体1Aの下端にて流下する溶湯を保持容器3で受けた後、固定蓋3Aの切り欠き部をスライド蓋3Bをスライドさせて塞ぐことで、大気と容器内部の溶湯との接触を防ぐことができ、溶湯保持中の酸化を抑制できる。なお、保持容器3の内層3Cは、従来と同様に耐火物製とした。
【0016】
また、本発明のレオキャスト設備に用いる保持容器3は、切り欠き部を形成した固定蓋3Aと、底部の流出口を塞ぐ棒状ストッパー4とを有し、固定蓋3Aに棒状ストッパー4が上下動できるガイド孔を設けてなり、固定蓋3Aのガイド孔に挿入した棒状ストッパー4で底部の流出口を塞いだものとするのがさらに好ましい(図1参照)。
このような保持容器3を具備した場合、図1に示した、金型を装着した成形装置2に半凝固金属スラリーを供給するに際し、固定蓋3Aのガイド孔に挿入した棒状ストッパー4を引き上げるだけで、半凝固金属スラリーを成形装置2の金型内、容易にかつ安定して供給することができる。
【0017】
以上説明した実施の形態にかかるレオキャスト設備の動作について次に説明する。まず、移動台6に搭載された保持容器3の位置を、半凝固金属スラリー製造装置1の傾斜冷却体1Aの下端から流下する溶湯を受ける位置にしておく。その位置で、金型成形体に要する溶湯を保持容器3で受湯する。受湯後、移動台6を図1中の右方へ向かって移動距離Lだけ移動させる。移動台6が図1中に示す成形装置2の湯口部の上方近傍で止まる。その位置で棒状ストッパー4を引き上げると容器底部の流出口より半凝固金属スラリーが自重により流出し、傾斜連結管5を経て、成形装置の金型内へ供給される。半凝固金属スラリーの供給が終了した後、移動台6を図1中、左方へ向かって移動距離Lだけ移動させる。それと同時に、成形装置2で金型成形体の成形を行う。移動台6に搭載された保持容器3が、最初の位置に戻ったところで、1サイクルが終了する。これを繰り返すことで、結晶粒がほぼ球状でマクロ偏析や収縮巣が少なく、品質が一定した金属成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかるレオキャスト設備の構成の一例を示す側面図である。
【図2】図1に示したレオキャスト設備の平面図である。
【図3】図1に示したレオキャスト設備に用いて好適な保持容器の斜視図である。
【図4】従来のレオキャスト設備に具備した半凝固金属スラリー搬送装置の問題点を説明する側面図である。
【図5】従来のレオキャスト設備における問題点を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 スラリー製造装置
1A 傾斜冷却体
1B 給湯管
1C 溶融金属保持炉
2 溶湯鍛造装置(成形装置)
2A パンチ
2B 金型装着台
2C 型締め
3 保持容器
3A 固定蓋
3B スライド蓋
3C 内層
4 棒状ストッパー
5 傾斜連結管
6 移動台(搬送手段)
7 レール部材
8、9 支持部材
10 移動方向
11 回転テーブル
11A 回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜冷却体で溶湯を冷却する半凝固金属スラリー製造装置と、それで作った半凝固金属スラリーを用い、金属成形体を得る金型を装着した成形装置とを近接配置し、かつ前記半凝固金属スラリーを保持する保持容器を1つとし、該1つの保持容器を、前記傾斜冷却体の下端にてそれで流下する溶湯を受ける位置から前記成形装置の湯口部の上方近傍位置までの間にわたり、往復動可能とする搬送手段を設けたことを特徴とするレオキャスト設備。
【請求項2】
前記保持容器は、切り欠き部を形成した固定蓋と、その切り欠き部を塞ぐスライド蓋とで開口部の蓋ができることを特徴とする請求項1に記載のレオキャスト設備。
【請求項3】
前記保持容器は、切り欠き部を形成した固定蓋と、容器底部の流出口を塞ぐ棒状ストッパーとを有し、前記固定蓋に棒状ストッパーが上下動できるガイド孔を設けてなり、前記固定蓋のガイド孔に挿入した棒状ストッパーで容器底部の流出口を塞いだものとすることを特徴とする請求項1又は2に記載のレオキャスト設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−12544(P2008−12544A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183697(P2006−183697)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(506109753)株式会社正田製作所 (8)
【出願人】(304009862)三友精機株式会社 (5)
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)