説明

レシオメトリックであり、かつ赤色スペクトルで発光する蛍光カルシウム指示薬

カルシウムの細胞質ゾル濃度を測定するための蛍光イオン指示薬の新規な生成。これらの新規な指示薬は可視スペクトルの赤色部分で発光し、レシオメトリックである。レシオメトリーは、488nmにてアルゴンレーザーで励起した場合にカルシウムに結合した際の発光のシフトからなる。これらの指示薬は、より長い波長にて可視光で励起した場合に赤色蛍光の著しい増加も示す。すべてのカルシウム指示薬と同様に、それらは、BAPTA(ビスアミノフェニル四酢酸)をベースとする通常のキレート部分およびフルオロフォア部分、セミナフトフルオレセイン/セミナフトローダミンまたはジナフトフルオレセインを含み、レシオメトリーが可能となる。他のナフトフルオレセインと異なり、生物学的なカルシウム測定に適するようにするために、pKがナフト部位上で調節されている。本発明は、その指示薬の構造ならびにこれらの指示薬を合成する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
著者:AKWASI MINTAおよびPEDRO ROGELIO ESCAMILLA
【0002】
関連出願
本出願は、出願人によって2010年10月17日に出願された米国仮特許出願第61/252,654号明細書に関連し、その出願の優先日を主張する。
【0003】
背景−本発明の分野
本出願は、長波長蛍光イオン指示薬の設計および合成に関する。
【背景技術】
【0004】
背景−先行技術
レシオメトリックである、最も一般的な蛍光カルシウム指示薬としては、Fura−2(励起シフト)およびIndo−1(発光シフト)が挙げられる。レシオメトリーは、指示薬の濃度、細胞ローディングの程度、光退色、検出器の感度、細胞の厚さ、および光路などのカルシウム測定における可変的影響を排除する、特有の利点を有する。それは本質的に、較正および定量的測定を可能にする理想的な特性である。しかしながら、これらの一般的なレシオメトリック色素は紫外線で機能する。UV光学装置類は高価であり、したがってこれらの色素の一般的な使用が制限されている。高エネルギー紫外線光は細胞に有害でもある。レシオメトリーはこの問題を減らすが、紫外線光で励起した場合、ヌクレオチドおよび一部のアミノ酸による自家蛍光も、測定中に干渉を引き起こす。
【0005】
一般的な可視波長蛍光イオン指示薬、Fluo色素iiは、レシオメトリーを示さない。それらは単に、カルシウムに結合すると、発光強度を著しく高める。ベースラインは容易に線引きされないが、実験でマンガンまたはニッケルを使用して、ベースラインまたはバックグラウンドの有益な評価が可能である。
【0006】
2種類のレシオメトリック長波長指示薬がある。第1のBTCiiiは非常に高い解離定数Kを有し、そのため、カルシウムの細胞質ゾル濃度(ナノモル)の小さな変化を測定することができない。第2のFura−Redivは、それが疎水性であるため、水中で低い量子収量を有し、したがって、細胞研究においてあまり役に立たないことが分かっている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、可視スペクトルの赤色または近赤外で発光し、かつカルシウムに結合すると、励起波長に応じて発光波長をシフトする、カルシウム指示薬の新規なファミリーである。カルシウムに結合すると、その最大吸収波長で励起することによって、波長がシフトすることなく、蛍光が莫大に増加する。カルシウム指示薬のこの新規なファミリーは、4つの異なる化合物およびその変形体によって表される。
【0008】
これらの化合物の第1化合物は、フルオロフォア、推定のセミナフトフルオレセインまたはセミナフトローダミンのいずれかに、炭素−炭素結合により結合されたBAPTA主鎖を含む。これらの色素の発光極大は赤外領域の650nmにある。
【0009】
セミナフトフルオレセインおよびセミナフトローダミンのpKは、ナフトール部位をフッ素および塩素でハロゲン化することによって低減される。したがって、非ハロゲン化セミナフトフルオレセインのpKは、ジ−オルトハロゲン化により7.8から5.5に低減され、それによって色素は、細胞における小さなpH変化に対して応答しなくなる。
【0010】
化合物I:

X、Y、およびZは、H、F、またはClのいずれかの組み合わせであり、
=H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)である。
【0011】
これらの化合物の第2化合物は、推定のナフトフルオレセインフルオロフォアに、炭素−炭素結合により共役されたBAPTA主鎖を含む。色素のpKは、ナフトール部位上のフッ素および塩素の置換によって低減される。したがって、ナフトフルオレセインの通常のpKは、8を超える値から5.6へと低減される。これらの色素の発光は、追加の芳香族環によって近赤外領域の690nmに拡大される。
【0012】
化合物II:

XおよびYは、H、F、またはClのいずれかの組み合わせであり、
=H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)である。
【0013】
化合物IおよびIIのどちらも、解離定数300〜400nMおよびpK約5.5を有する。化合物Iは、励起最大540nmおよび発光最大650nmを有する(図1)。しかしながら、488nmで励起した場合には、525nmから650nmへのカルシウム依存性発光シフトを示し、それによってレシオメトリック可能となる(図2)。化合物IIは赤色励起最大635nmおよび赤色発光最大690nmを有する(図3)。レシオメトリーを得るために、458nmで励起されている(図4)。
【0014】
これらの化合物の第3の化合物は固有のキレート化主鎖を有する。BAPTAは、フルオロフォアに対してオルト位に追加のカルボキシル官能基を有する。このBAPTAに共役した色素は、増大した量子収量に関して、6−アミノセミナフトローダミンに最もよく似ている。ナフトールは塩素またはフッ素置換を有し、8を超えるpKから5.5へと低減される。この発光最大は、赤色領域の650nmにある。
【0015】
化合物III:

XおよびYは、H、F、またはClのいずれかの組み合わせであり、
=H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)である。
【0016】
第4の化合物は、化合物IIIと同じ固有のキレート化主鎖を有し、フルオロフォアに対してオルト位に追加のカルボキシル官能基を有し、6−アミノセミナフトフルオレセインによく似ている。ナフトールは塩素またはフッ素置換を有し、8を超えるpKから5.5へと低減される。この発光最大は650nmである。
【0017】
化合物IV:

X,YおよびZは、H、F、またはClのいずれかの組み合わせであり、
=H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)である。
【0018】
これらの4つの化合物は、必要に応じて細胞内でそれらに特別な機能を与える変形体を得るために、RおよびR位置で修飾されている。
a.RがHであり、かつRがメチルである場合、デフォルトの高親和性バージョンが得られる。
b.RがCHCHCOとして修飾される場合には、蛍光特性を変化させることなく、新規な漏れ抵抗性バージョンが得られる。
c.RおよびRがFである場合、デフォルトの高親和性バージョンよりもほぼ20倍高いカルシウムに対するKを有し、蛍光特性も変化させることなく、低親和性バージョンが得られる。
d.R

である場合、ミトコンドリアバージョンが得られ、細胞質ゾルよりはむしろミトコンドリアにおけるカルシウム測定が可能となる。
e.R

である場合、膜付近バージョンが得られ、蛍光特性に影響することなく、膜付近のカルシウム測定が可能となる。
【0019】
これらの変形形態は、細胞内のカルシウム研究に対する、新規な発明の有用性を広げる。
【0020】
本発明のこれら、および他の目的かつ利点は、以下に示され、本発明における図面を参照することによってさらに明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、540nm発光での励起、650nmでの発光を有する、化合物Iの一般的な滴定である。
【図2】図2は、488nmでの励起を有し、525nmおよび650nmでの発光を示す、化合物Iの一般的な滴定である。
【図3】図3は、635nmでの励起および690nmでの発光を有する化合物IIの一般的な滴定である。
【図4】図4は、神経細胞におけるカルシウムに対する化合物Iの応答である。
【図5】図5は、ジオルトクロロ/フルオロハロゲン化でのナフタレンジオール前駆物質の合成スキームである。
【図6】図6は、化合物Iの方法A合成スキームである。
【図7】図7は、化合物IIの方法B合成スキームである。
【図8】図8は、化合物IIIおよびIVの方法C合成スキームである。
【図9】図9は、化合物Iの合成スキームである。
【0022】
図面の詳細な説明
本明細書で使用される用語の定義
本明細書および特許請求の範囲において、以下のように、本明細書で使用するために明確に定義される、当該技術分野のフレーズおよび用語が参照される:
【0023】
本明細書で使用される[Ca2+]とは、細胞内遊離カルシウムを意味する。
【0024】
本明細書で使用されるEGTAとは、エチレングリコールビス−(−β−アミノエチルエーテル−N,N,N’,N’四酢酸を意味する。
【0025】
本明細書で使用される「BAPTA様」とは、2つのビス(カルボキシエチル)アミノ置換フェニル環の本質的な特性を保持するBAPTAの置換誘導体であって、前記環が、原子4個の架橋によってアミンに対してオルト位で結合しており、各フェニル環に隣接する原子がOであり、2つの中心原子がそれぞれ炭素である、置換誘導体を意味する。フルオロフォアに結合するフェニル環のうちの1つの6位が、カルボキシル官能基またはHであり得る。
【0026】
本明細書で使用されるAMエステルとは、細胞ローディングを促進する、アセトキシメチルエステル、またはいずれかのエステル形態を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「μΜ」とは10−6モル/リットルを意味し、「nM」は10−9モル/リットルを意味する。
【0028】
本明細書で使用されるMOPSとは、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の簡単な説明
本発明は、電磁スペクトルの赤色および近赤外領域での発光を有する、カルシウム指示薬の新規なファミリーを説明する。新規な指示薬は、カルシウムキレート化のためにBAPTAまたはBAPTA様主鎖から誘導され、赤色または赤外蛍光は、塩素化およびフッ素化ベンゾ[c]キサンテノンとキレート化部分を連結することによって達成される。キサンテノンがレゾルシノールとナフタレンジオールの組み合わせから誘導される場合、その発光は650nmであり、2つのナフタレンジオールからの誘導体によって、690nmの発光が得られる。それらはカルシウム指示薬として細胞内カルシウムに応答する。波長が長くなると、量子収量がわずかに減少する。
【0030】
詳細な説明
図1は、化合物Iの非レシオメトリックなカルシウム滴定を示す。それぞれが化合物I 5μΜを含有する、適切な体積の10mMカリウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)および10mMカルシウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)を混合し、目的の遊離カルシウム濃度0nM、50nM、150nM、450nM、および39μΜを得た。540nmでの励起を有する、各溶液の発光スペクトルを記録し、カルシウム濃度の増加に伴って、650nmで発光強度が激しく増加した。解離定数を計算し、約400nMが得られた。SPEX Fluoromax−3でスペクトルを記録した。
【0031】
図2は、化合物Iのレシオメトリックなカルシウム滴定を示す。それぞれが化合物I 5μΜを含有する、適切な体積の10mMカリウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)および10mMカルシウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)を混合し、目的の遊離カルシウム濃度0nM、50nM、150nM、450nM、および39μΜを得た。488nmでの励起を有する、各溶液の発光スペクトルを記録し、カルシウム濃度の増加に伴って、520nmで発光強度が減少し、650nmで発光強度が増加した。等吸収点が575nmで生じる。SPEX Fluoromax−3でスペクトルを記録した。
【0032】
図3は、化合物IIの非レシオメトリックなカルシウム滴定を示す。それぞれが化合物I 5μΜを含有する、適切な体積の10mMカリウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)および10mMカルシウム−EGTA、100mM KCl、10mM MOPSバッファー(pH7.20)を混合し、目的の遊離カルシウム濃度0nM、50nM、150nM、450nM、および39μΜを得た。635nmでの励起を有する、各溶液の発光スペクトルを記録し、カルシウム濃度の増加に伴って、690nmで発光強度が増加した。SPEX Fluormax−3でスペクトルを記録した。
【0033】
図4は、ラットの迷走神経細胞におけるカルシウムに対する化合物Iの応答を示す。ラットの迷走神経細胞におけるATP誘発Ca2+トランジエントのレシオメトリックな発光測定である。SDラット由来の迷走神経(結節)下神経節を酵素的に切り離した。10%(v/v)ウシ胎児血清およびペニシリン−ストレプトマイシンが補われたLiebowitz L−15培地に、結節神経細胞の収量を懸濁し、No.1ガラスカバースリップ上にプレーティングした。神経細胞を化合物I 3μΜ、AMエステルと共に室温で50分間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、新たなL−15培地中で40分間維持し、AMエステルを細胞内で加水分解させて、完了まで続けた。指示薬がローティングされた神経細胞を倒立顕微鏡(Axiovert 100M Zeiss)のステージ上に位置付け、Locke溶液(CO 5%とO 95%の混合物で平衡化されている)で灌流した。LSM 510システム(Zeiss)を用いて9×40対物レンズ(開口数1.2;油浸)によってフレームレート0.5Hzにて、共焦点イメージング顕微鏡法を行った。励起は488nmであり;545nm二色性ミラーによって蛍光発光が、2つの構成要素:500〜550nmバンドパスフィルターを通過する短波長要素(F525と表される)と、560nmロングパスフィルターを通過する長波長要素(F650)に分離された。灌流液を通して送達される10秒パルスのATP100μmで神経細胞を刺激した。
【0034】
図5は、ハロゲン化ナフトール前駆物質を合成するための合成スキームを示す。6−ヒドロキシナフトエ酸をエステル化し、得られたエステルをSelectfluorでジェミナルに二フッ素化し、(2)を得て、続いて直ぐに、亜鉛および酢酸で還元し、モノフルオロ化合物(3)を得た;そのフッ素化化合物を塩素化して(4)を得て、次いでフェノールを臭化ベンジルで保護して(5)を得た。水素化アルミニウムリチウムで(5)のメチルエステルを最初にアルコールに還元し、そのアルコールをクロロクロム酸ピリジニウムでアルデヒド(7)に酸化することによって、最終化合物を得た。バイヤー・ビリガー反応によって、アルデヒドをナフトール(8)へと転化し、BBrでベンジル保護を脱保護することによって(9)を得た。
【0035】
図6は、化合物Iを合成するための方法Aを示す。市販の3−ヒドロキシ−4−ニトロ安息香酸をエステル化し、次いで2−ブロモエトキシ−4−メチル−ニトロベンゼンと共役させ、BAPTA主鎖が形成された。エステルを遊離酸へと加水分解した後、混合無水物が形成し、それを4−ハロレゾルシノールと反応させて、ベンゾフェノンを得た。塩化第一スズでニトロ基を還元し、得られたアニリンをアルキル化する前に、そのフェノール基をベンジルエーテルとして保護した。パラジムと水素での脱ベンジル化によってケトンが製造され、メタンスルホン酸の存在下で5,7−ジハロ−1,6−ジヒドロキシナフタレンとカップリングすることによって色素が形成された。この色素を続いて、カルシウムキレート化カリウム塩へと加水分解した。酸性化によって遊離酸が形成され、次いで酢酸ブロモメチルでそれをアルキル化し、膜透過性のアセトキシメチル(AM)エステルが得られた。
【0036】
図9は、化合物Iを合成するための方法Bを示す。メタンスルホン酸の存在下にて、Grynkiewiczらからのアルデヒド前駆物質を4−ハロレゾルシノールおよび5,7−ジハロ−1,6−ジヒドロキシナフタレンにカップリングした。次いで、そのエステルをカルシウムキレート化カリウム塩へと加水分解した。酸性化によって遊離酸が形成され、それをアルキル化してアセトキシメチル(AM)形が得られた。
【0037】
図7は、化合物IIを合成するための方法Bを示す。Grynkewiczらからのアルデヒド前駆物質をメタンスルホン酸の存在下にて5,7−ジハロ−1,6−ジヒドロキシナフタレンにカップリングした。次いで、エステルをカルシウムキレート化カリウム塩に加水分解した。酸性化によって遊離酸が形成され、それをアルキル化してアセトキシメチル(AM)形が得られた。
【0038】
図8は、化合物IIIおよびIVを合成するための方法Cを示す。5位でニトロ化する前に、市販の4−ヒドロキシフタル酸をジメチルフタレートにエステル化した。2−ブロモエトキシ−4−メチル−ニトロベンゼンとの反応によって、BAPTA主鎖が形成された。メチルエステルを加水分解した後、無水酢酸におけるフタル酸が環状無水物を形成した。4−ハロレゾルシノールでのフリーデル・クラフツのアシル化によって、異性体ベンゾフェノンが形成され、さらに進行する前に、カラムクロマトグラフィーによってそれを分離した。塩化第一スズでニトロ基を還元する前に、フェノールおよび遊離酸をベンジル化し、続いて得られたアニリンをアルキル化した。パラジウムおよび水素で脱ベンジル化することによって、メタンスルホン酸の存在下にて5,7−ジハロ−1,6−ジヒドロキシナフタレンにカップリングした場合に色素が形成された。その色素をカルシウムキレート化カリウム塩へと加水分解した。酸性化によって遊離酸が形成され、それをアルキル化し、膜透過性AM形が得られた。
【実施例】
【0039】
化合物IおよびIIの合成
本発明の一態様は、セミナフトフルオレセイン、ジナフトフルオレセイン、およびセミナフトローダミン様フルオロフォアのpKを下げる能力である。かかる変化を可能にする前駆物質は、5−フルオロ−7−クロロ−1,6−ナフタレンジオール(図5、化合物9)である。
【0040】
実験的な図5からの化合物9の合成:
メチル−5−フルオロ−6−ヒドロキシナフトエート(3)
6−ヒドロキシナフトエ酸(25g)をメタノール(250ml)に溶解し、硫酸(25ml)を添加した。混合物を80℃で一晩加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチルで希釈し、ブラインで洗浄し、次いで重炭酸ナトリウムで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を蒸発させ、クリーム色の固形物(24g)としてエステルを得た。そのエステル(10g)をアセトニトリル(500ml)に溶解し、Selectfluor 2当量を添加し、室温で3時間攪拌し、その時点で出発原料は消費されていた。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させて、クリーム色の固形物(7g)としてジェミナルに二フッ素化された化合物(2)が得られた。酢酸200mL中の亜鉛粉末2gを使用して、この固形物をモノフルオロ化合物へと還元した。固形物を濾過し、減圧下で溶媒を除去した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル6:1)によって、化合物3を6g得た。
【0041】
メチル−5−フルオロ−6−ベンジルオキシ−7−クロロ−ナフトエ酸エステル(5)
化合物(3)5gをトルエン(50ml)に溶解し、s−ブチルアミン(500μl)を添加し、反応混合物を油浴で66℃に維持し、塩化スルフリル(1.2当量)を3時間にわたって添加した。混合物を酢酸エチルで希釈し、ブライン、5%チオ硫酸ナトリウムで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させて、(4)を得た。残留物をアセトニトリル(10ml)に溶解し、炭酸カリウム(4g)に続いて臭化ベンジル(3ml)を添加した。すべての出発原料が消費されたことがTLCで分かった時に、混合物を還流下にて2時間加熱した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、ブラインで洗浄し、乾燥させ、蒸発させて、油状残留物を得て、それをヘキサン:酢酸エチル(9:1)のカラムクロマトグラフィーによって精製し、白色の固形物(3g)として(5)を得た。
【0042】
5−フルオロ−6−ベンジルオキシ−7−クロロ−ナフトアルデヒド(6)
化合物(5)(5.8g)をジエチルエーテル(100ml)に溶解し、無水エーテル75mL中の水素化アルミニウムリチウム(2当量)に一滴ずつ添加した。添加が完了した時、攪拌をさらに30分間続け、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、希硫酸と共に攪拌した。有機抽出物を乾燥させ、蒸発させて、クリーム色の残留物を得た。その残留物を無水塩化メチレン(75ml)に溶解し、CHCl(75ml)中のクロロクロム酸ピリジニウム(1.5当量)に添加し、室温で2時間攪拌した。酢酸エチルを反応混合物に添加し、次いで300cmのシリカに通してそれを濾過した。有機濾液を蒸発させて、淡褐色の固形物4gとして(6)を得た。
【0043】
5−フルオロ−6ベンジルオキシ−7−クロロナフトール(8)
化合物6(3g)をベンゼン(30ml)に溶解し、m−クロロ過安息香酸(2当量)を添加し、混合物を70℃で24時間加熱した。混合物を攪拌しながら、1M KOH10mlを添加し、ギ酸エステルを加水分解した。反応混合物を1M HClで酸性化し、酢酸エチルで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させて、ゴム状残留物が得られ、ヘキサン:酢酸エチル4:1のカラムクロマトグラフィーによって精製して、クリーム色の固形物2gとして(8)を得た。
【0044】
5−フルオロ−7−クロロ−1,6−ナフタレンジオール(9)
化合物8(2g)を塩化メチレン(20ml)に溶解し、三臭化ホウ素(CH2Cl2中で1M、3当量)を添加し、溶液を3時間攪拌した。氷水を反応に添加し、塩化メチレン、続いて酢酸エチルで抽出することによって、洗浄および蒸発後に淡褐色の固形物(1g)として(9)を得た。色素の合成に直接使用できる状態であった。
【0045】
実験的な化合物Iの合成:
化合物I、エチルエステル:
GrynkewiczらからのBAPTAアルデヒド(1mmol)、4−フルオロレゾルシノール(1mmol)、および5−フルオロ−7−クロロ−1,6−ナフタレンジオール(1mmol)をメタンスルホン酸10mLに室温で1時間溶解させた。氷中の3M酢酸ナトリウム200mLに反応を注ぎ、紫色の沈殿物を濾過した。真空下にて五酸化リンで乾燥させた後、固形物をクロロホルム/メタノール(1:1)20mLに溶解し、p−クロラニル(2当量)を添加した。溶液を一晩還流した。反応混合物を乾燥するまで蒸発させ、次いで紫色の固形物をメタノールに溶解した。不溶性p−クロラニルを濾過除去した。濾液を蒸発させ、メタノール/クロロホルム勾配5〜15%を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製し、化合物I、エチルエステルを得た。
【0046】
化合物I、五カリウム塩:
純粋な化合物I、メチルエステル(0.5mmol)をメタノール4mL中の2M KOH水溶液(4.0mmol)で室温にて30分間加水分解した。水2mLを添加し、メタノールを減圧下で除去した。完全に水性の反応を室温で1時間攪拌し、その時点でC18TLC(メタノール/ブライン3:2)によって加水分解が完了したことが分かった。氷を反応混合物に添加し、pHが7.5〜8.5になるまで、2M HClを添加した。水中で充填されたLH−20カラム30g上に弱い塩基性の溶液をローディングし、水で溶出した。純粋な生成物画分を真空下にて45℃で溶媒から取り除き、化合物I、五カリウム塩を得た。
【0047】
化合物I、アセトキシメチル(AM)エステル:
化合物I、五カリウム塩(0.1mmol)を氷水1mLに溶解した。2M HClを添加してpHを1.5とし、沈殿した遊離酸を濾過した。紫色の固形物を真空下にて五酸化リンで乾燥させた。次いで、無水ジメチルホルムアミド1mLにそれを溶解し、ジイソプロピルエチルアミン1.5mmolを添加した。室温で5分間攪拌した後、酢酸ブロモメチル1mmolを添加し、反応を室温で2時間攪拌した。混合物を酢酸エチル50mLで希釈し、0.1Mクエン酸50mLで2回洗浄し、ブライン50mLで1回洗浄した。有機物質を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下にて溶媒から取り除いた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル1:1)によって純粋な化合物I、AMエステルが得られた。
【0048】
化合物II、エチルエステル:
GrynkewiczらからのBAPTAアルデヒド(1mmol)および5−フルオロ−7−クロロ−l,6−ナフタレンジオール(2.2mmol)をメタンスルホン酸10mLに室温にて1時間溶解した。氷中の3M酢酸ナトリウム200mLに反応を注ぎ、青紫色の沈殿物を濾過した。真空下にて五酸化リンで乾燥させた後、固形物をクロロホルム/メタノール(1:1)20mLに溶解し、p−クロラニル(2当量)を添加した。溶液を一晩還流した。反応混合物を乾燥するまで蒸発させ、次いで青紫色の固形物をメタノールに再び溶解した。不溶性p−クロラニルを濾過除去した。濾液を蒸発させ、メタノール/クロロホルム勾配5〜10%を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製し、化合物II、エチルエステルを得た。
【0049】
化合物II、五カリウム塩:
メタノール4ml中の2M KOH水溶液(4.0mmol)で、純粋な化合物II、エチルエステル(0.5mmol)を室温にて30分間加水分解した。水2mLを添加し、減圧下にてメタノールを除去した。完全に水性の反応を室温で1時間攪拌し、その時点でC18TLC(メタノール/ブライン3:2)によって加水分解が完了したことが分かった。氷を反応混合物に添加し、pHが7.5〜8.5になるまで、2M HC1を添加した。水中で充填されたLH−20カラム30g上に弱い塩基性の溶液をローディングし、水で溶出した。純粋な生成物画分を真空下にて45℃で溶媒から取り除き、化合物II、五カリウム塩を得た。
【0050】
化合物II、アセトキシメチル(AM)エステル:
化合物II、五カリウム塩(0.1mmol)を氷水1mLに溶解した。2M HClを添加して、pHを1.5とし、沈殿した遊離酸を濾過した。青紫色の固形物を真空下にて五酸化リンで乾燥させた。次いで、無水ジメチルホルムアミド1mLにそれを溶解し、ジイソプロピルエチルアミン1.5mmolを添加した。室温で5分間攪拌した後、酢酸ブロモメチル1mmolを添加し、反応を室温で2時間攪拌し、時間が経つにつれて無色になった。混合物を酢酸エチル50mLで希釈し、0.1Mクエン酸50mLで2回洗浄し、ブライン50mLで1回洗浄した。有機物質を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下にて溶媒から取り除いた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル2:1)によって純粋な化合物II、AMエステルが得られた。
【0051】
参考文献
特許文献
米国特許第4,849,362号明細書;DeMarinisら、1989年7月
米国特許第5,049,673号明細書;Tsienら、1989年9月
米国特許第4,603,209号明細書;Tsienら、1986年7月
非特許文献
Grynkiewicz, G.,Poenie,M.,Tsien,R.Y.,J.Biol.Chem.(1985)260,3440−3450.
ii Minta,A.,Kao,J.,Tsien,R.Y.,J.Biol.Chem.(1989)264,8171−8178.
iii latridou,H.,Foukaraki,I.,Kuhn,M.A.,Marcus,E.M.,Haugland,R.P.,Katerinopoulos,H.E.Cell Calcium,(1994)15,190−198.
iv DeMarinis,R.M.,Katerinopoulos,H.E.,Muirhead,K.A.Biochem.Methods(1990)112,381

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:

(式中、Rは、H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)であり;
は、H、F、またはCIであり、
は、H、Me、F、CHCHCO

または

であり、
は、HまたはCOであり、
は、ORまたはN(CHであり、
X、Y、およびZが独立して、H、F、またはClである)
を有することを特徴とする、化学的化合物およびその薬学的に許容される非毒性塩およびそのエステル。
【請求項2】
一般式:

(式中、Rは、H、塩(つまり、K)、またはCHOCOCH(AMエステル)であり、
は、H、F、またはClであり、
は、H、Me、F、CHCHCO

または

であり、
XおよびYが独立して、H、F、またはClである)
を有することを特徴とする、化学的化合物およびその薬学的に許容される非毒性塩およびそのエステル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−9】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−508304(P2013−508304A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534440(P2012−534440)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/053087
【国際公開番号】WO2011/047391
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512099851)アサンテ リサーチ,エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】ASANTE RESEARCH,LLC
【Fターム(参考)】