説明

レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ製品

【課題】 安定した品質を有し、製剤化工程および製剤への影響を防止できるレシチン化ス−パーオキシドディスムターゼ製品を提供する。
【解決手段】 ヒト由来スーパーオキシドディスムターゼ等のスーパーオキシドディスムターゼをレシチン化して得られるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼの水性液を、該水性液が接する面がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のフッ素樹脂からなる容器に収容したレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーオキシドディスムターゼ(以下、SODと略記する。)は、動物、植物、微生物などの生体内に広く分布する酵素である。SODは、反応性に富む遊離(フリー)の活性酸素であるスーパーオキシドアニオンラジカルを不均化分解する活性を有する。SODは、抗リウマチ剤、自己免疫性疾患治療剤、心筋梗塞治療剤、臓器移植時の使用、脳梗塞後の抗血栓剤の使用時に生体内で生じるラジカルの除去を目的とする使用、および種々の炎症への適用等が期待されている(非特許文献1参照。)。
SODは、例えば、標的となる患部への集積性、生体内での安定性等を格段に向上させるために、SODのレシチン化を行い、レシチン化ス−パーオキシドディスムターゼ(以下、PC−SODと略記する。)としたものが製剤として提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3070980号公報
【非特許文献1】谷口直之編、「活性酸素の臨床への展望」、医薬ジャーナル社、東京 61−111頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、該PC−SODを水性液として保存した場合、活性のばらつきが生じる現象が認められた。この活性のばらつきは、製剤化工程および製剤に影響を与える可能性があった。
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、安定した品質を有し、製剤化工程および製剤への影響を防止できるPC−SOD製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討の結果、PC−SOD水性液の活性のばらつきの一因が、これを収容する容器にあることを見出した。すなわち、PC−SOD水性液をガラス製容器、またはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の非フッ素系樹脂からなる容器に保存した場合に、該容器の内壁面にPC−SODの吸着等が起こることによって、該水性液の活性低下が起こることをみいだした。そして容器の種類を検討した結果、該水性液が接する面がフッ素樹脂からなる容器を用いることによって活性の低下を抑制できることをみいだした。さらに、該容器を用いることにより、安定した品質で、低温条件下で製品を保存できることをみいだした。
すなわち本発明は、PC−SOD水性液を、該水性液が接する面がフッ素樹脂からなる容器に収容したPC−SOD製品を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明のPC−SOD製品中のPC−SODは、酵素活性が一定であることから、製剤化において含量のばらつきを考慮する必要がなく、得られる製剤の品質を一定にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明におけるPC−SOD水性液は、PC−SODを精製水、イオン交換水、蒸留水、注射用水等の水に溶解、懸濁、または分散させてなる液であり、溶解させてなる水溶液であることが好ましい。
PC−SOD水性液中のPC−SODの量は、該水性液に対して0.1〜300mg/mLが好ましく、1〜50mg/mLが特に好ましい。
PC−SOD水性液は、PC−SODおよび水以外の成分を含まないことが好ましい。
【0007】
本発明におけるPC−SODは、SODがレシチン化された化合物であり、公知ないしは周知のPC−SODが含まれる。
【0008】
PC−SOD中のSODとしては、天然型のSOD、または天然型のSODのアミノ酸残基の配列をコードする塩基配列の一部を、部位特異的突然変異法等の遺伝子操作を用いることにより変異させることによって発現したSODが挙げられる。
SODの構造は、ヒト由来のSODと同一のアミノ酸配列を有するSOD(以下、ヒト由来SODと記す。)が好ましい。
ヒト由来SODの入手方法としては、特に限定されず、(1)ヒト起源のSOD、(2)ヒト起源のSODをコードする遺伝子配列の一部を、遺伝子操作を用いることにより変異させることによって発現させたSOD(たとえば、111位のシステイン残基がセリン残基に変異したSOD)等が挙げられる。
【0009】
レシチン化とは、SODにレシチン残基が直接または結合基を介して結合することをいう。該レシチン残基とは、レシチンのグリセロールの1位または2位の炭素原子に結合する脂肪酸1分子がとれて水酸基となったリゾレシチンにおいて、該水酸基に結合基が結合した基をいう。
本発明におけるPC−SODとしては、SODのアミノ基に、グリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンの該水酸基から水素原子を除いた残基が、結合基を介してSODに結合した化合物であるのが好ましい。
結合基としては、直鎖状ジカルボン酸、およびその無水物、そのエステル、またはその反応性誘導体からなる化学的橋かけ剤に由来する残基が挙げられ、式−C(O)(CHCO−(ただし、nは2〜10の整数を示す。)が好ましい。
【0010】
上記(2)のPC−SODとしては、たとえば、特許第3070980号公報に記載される、下記式[1]で表されるPC−SODが好ましい。
A−[C(O)−(CHC(O)−B] ・・・[1]
A:銅および/または亜鉛が配位した、111位がセリンで示されるヒト由来のSODの残基。
B:グリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンの、その2位の水酸基の水素原子を除いた残基。
m:1以上の整数。
n:2以上の整数。
【0011】
PC−SOD水性液の調製方法は、特に限定されず、たとえば特許第3070980号公報、特開平9−117279号公報等に記載の方法に従って実施でき、SODのレシチン化反応を行ったあと、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の方法によって精製したのち、PC−SODの濃度を所望の濃度に調整することによって得ることができる。
【0012】
本発明における容器とは、PC−SOD水性液が接する面がフッ素樹脂からなる容器であり、容器全体がフッ素樹脂からなる容器であってもよく、容器の内壁面がフッ素樹脂から構成される容器であってもよい。
フッ素樹脂としては、公知ないしは周知の含フッ素重合体からなるフッ素樹脂が挙げられる。含フッ素重合体としては、含フッ素重合性モノマーの1種以上を重合させた重合体、含フッ素重合性モノマーの1種以上とフッ素原子を含まない他の重合性モノマーの1種以上とを重合させた重合体が挙げられる。
含フッ素重合体の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、CF=CFO(CFCF=CFの環化重合体、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)重合体等が挙げられ、成型加工性に優れることから、PFAが好ましい。
PFAとしては、テトラフルオロエチレンのモノマー単位が0.1〜99.9%、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモノマー単位が99.9〜0.01%である共重合体が好ましい。
【0013】
本発明における容器に用いるフッ素樹脂は、前記含フッ素重合体のみからなっていてもよく、または含フッ素重合体に可塑剤等の添加剤を添加した含フッ素重合体組成物からなっていてもよく、前者が好ましい。
容器として、含フッ素重合体または含フッ素重合体組成物を成型して、容器全体がフッ素樹脂からなる容器を用いる場合には、圧縮成形、押出し成形、射出成形、切出成形、溶融加工等の成形方法により製造した容器が好ましい。
また、容器の内壁面が含フッ素重合体または含フッ素重合体組成物等のフッ素樹脂から構成される容器を用いる場合には、非フッ素系重合体材料からなる容器の内壁面を前記含フッ素重合体または含フッ素重合体組成物から形成された被膜で被覆されてなる容器を用いることが好ましい。
非フッ素系材料からなる容器としては、ガラス;ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリカーボネート等の非フッ素系樹脂;アルミニウム、ステンレス等の金属等からなる容器が挙げられ、容器の密閉性が高く、容器破損の可能性を低減できる点から、非フッ素系樹脂または金属からなる容器が好ましい。
また、含フッ素重合体または含フッ素重合体組成物から形成された被膜の膜厚としては0.1μm〜5mmが好ましい。
【0014】
本発明における容器の形状、大きさは、特に限定はなく、PC−SOD製品の用途、出荷形態等に応じて適宜設定すればよい。形状としては、バイアル瓶等が挙げられる。
本発明における容器が蓋を有する場合には、蓋部分はフッ素樹脂から構成されていても、他の樹脂から構成されていてもよい。後者の場合には、PC−SOD水性液が接する面はフッ素樹脂から構成されていることが好ましい。
【0015】
フッ素樹脂からなる容器に収容されるPC−SOD水性液の容量は、該容器の内容積に対し、1/1000以上の容量が好ましく、1/100以上の容量が特に好ましく、上限量は、凍結時のPC−SOD水性液の体積増の観点から、0.9/1が好ましい。
【0016】
本発明のPC−SOD製品は、PC−SOD水性液を容器に充填した後、充填口を密閉または密封して得ることができる。また、必要に応じて、容器中の気相部分を窒素置換する等の操作を行ってもよい。
【0017】
本発明のPC−SOD製品の保管については、0℃以下の低温条件が好ましく、−20〜−80℃で保管するのが特に好ましい。特にフッ素樹脂からなる容器を用いた場合には、低温条件で保管する際に、水性液が凍結して容積が増加したとしても、容器の破損等をおこすことなく製品の品質を一定に保ちうる。
【0018】
本発明のPC−SOD製品中のPC−SOD水性液は、添加剤の添加、希釈、乾燥、濾過等の操作を行うことによって製剤とすることができる。製剤形態としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用事溶解用固形製剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、ゲル化剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、坐剤等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を具体的に説明するが,本発明はこれら実施例に限られるものではない。
[参考例1]PC−SOD水性液の製造
20Lのフラスコに注射用蒸留水(大塚製薬社製、商品名:大塚蒸留水、以下同様。)(9000mL)を添加し、ホウ酸(27.7g)、NaOH(3.6g)、KCl(33.7g)を順次添加し溶解した。つぎに、SOD水溶液(100g、SOD濃度113.6mg/mL)を添加後、210rpmで撹拌しながら、クロマトチャンバー内で8℃にしておいたイソプロピルアルコール(2000mL)を33mL/分で滴下し、SOD溶液を調製した。
【0020】
特許第3070980号公報に記載の方法に従って製造した下記レシチン誘導体(15.7g)をイソプロピルアルコール(500mL)に溶解した。つぎに、疎水性フィルターで濾過し、不溶物を除去した。濾液にイソプロピルアルコールを添加し、総容量を8000mLとしてレシチン誘導体溶液を調製した。溶液温度は8℃であった。つぎに、このレシチン誘導体溶液(8000mL)を、前記SOD溶液中に66mL/分で滴下し、210rpmで4時間撹拌した液を反応液とした。
【0021】
【化1】

【0022】
ホウ酸緩衝液(50mmol/L、pH8.5±0.2)とメタノールとの1:1(容量比)混合溶液であらかじめ平衡化したイオン交換樹脂(Cellulofine sf A−500)を充填したカラムに、反応液全量を担持させた。前記混合溶液で未吸着物質を溶出し、N−ヒドロキシスクシンイミド、1H−テトラゾール、およびジシクロヘキシルカルボジイミドを含む画分を得た。
次いで、NaClを溶解させた50mmol/Lのホウ酸緩衝液(pH8.5±0.2、NaCl濃度=25mmol/L)とメタノールとの1:1(容量比)からなる溶出溶媒を用いて、未修飾SODを溶出させた。
次いで、NaClを溶解させた50mmol/Lのホウ酸緩衝液(pH8.5±0.2、NaCl濃度=200mmol/L)とメタノールとの1:1(容量比)からなる溶出溶媒を用いて溶出した画分をPC−SOD組成物画分とした。
【0023】
PC−SOD組成物画分を限外濾過することにより塩類およびメタノールを除き、注射用蒸留水に置換し、濃度を調整するために濃縮した。限外濾過膜には、ミリポア社のPLGC0005(分画分子量10,000、膜面積0.5m)を用いた。限外濾過透過側の電気伝導度が、注射用蒸留水と同じになったところで濾過操作を終了し、さらに溶液中のPC−SOD濃度を約40mg/mLに調整してPC−SOD組成物の水性液(Lot.001)を得た。ここまでの操作は、4℃に保冷したクロマトチャンバー内で、液温を測定しながら実施した。
【0024】
分取用HPLCにより、PC−SOD組成物中のPC−SODの各ピークに対応する画分を分取した。HPLCのカラムには、Phenyl 5PW−RP(75mm×4.6mm、東ソー社製)を用い、移動相として0.1%トリフルオロ酢酸と20%アセトニトリルとの水溶液、0.075%トリフルオロ酢酸と90%アセトニトリルの水溶液を濃度勾配をかけて、0.8mL/分で流した。検出器としてはUV検出器(波長220nm)を用い、カラム温度は室温とした。
得られた画分についてMALDI TOF−MS分析を行い、PC−SODの分子量、およびフラグメントを測定した。PC−SODの1分子に結合するレシチン誘導体の結合数(m)と、各結合数に相当するPC−SODの比率(モル%)、mの平均値、およびPC−SOD二量体あたりのmの平均値を求めた。その結果、水性液に含まれるPC−SODには1〜4分子のレシチン誘導体が結合しており、m=1であるPC−SODが31モル%、m=2であるPC−SODが43モル%、m=3であるPC−SODが16モル%、m=4であるPC−SODが10モル%であり、mの平均値が2であり、二量体あたりのmの平均値が4であった。
【0025】
[実施例1]
内容積30mLのPFA(NALGENE社製)製容器5個に、参考例1で製造したPC−SOD水性液を各5mL入れ、−60℃で1か月間保存した。その結果、PFA製容器の破損は観測されなかった。
【0026】
[比較例1]
内容積50mLのガラス製容器5個に、参考例1で製造したPC−SOD水性液を各25mL入れ、−60℃で1か月間保存した。その結果、2個のガラス製容器に亀裂が入り、破損していることが分かった。
【0027】
[実施例2]
内容積100mLおよび500mLのPFA製容器に、参考例1で製造したPC−SOD水性液を各容器の内容積の約半量入れ、−80℃で凍結させ、1日保存し、その後室温に戻した。
各容器内の試料につき、比活性値の測定と、HPLC分析を行った。比活性値は、Y.Oyanagi(SODと活性酸素調節剤、95P,(1989))、J.M.McCord(J.Biol.Chem.,224、6049、(1969))、K.Asada(Agr.Biol.Chem.38、471、(1974))に記載の方法に従って求めた。
比活性値
保存前:3295、保存後:3200
HPLC分析
HPLCの分析条件は、カラムとして、YMC A−502 S−5 120A CN(150mm×4.6mm、YMC社製)を用い、移動相には、0.1%トリフルオロ酢酸と20%アセトニトリルとの水溶液、および0.075%トリフルオロ酢酸と90%アセトニトリルとの水溶液を、濃度勾配をかけて0.8mL/分で流した。検出器はUV検出器(波長220nm)を用い、カラム温度を室温とした。
HPLC分析によると、保存前のPC−SOD濃度を100.0%とすると、保存後の濃度も100.0%であった。
以上の結果から、PFA製容器に保存した場合には、PC−SODの容器内壁への吸着は認められなかった。
【0028】
[比較例2]
半径0.5cm、高さ5cmのポリプロピレン製容器(内容積5mL)に、参考例1で製造したPC−SOD水性液を、高さ3cmまで入れ、0℃で1時間保存する。実施例2と同様の条件でHPLC分析を行う。HPLC分析によると、保存前のPC−SODの濃度を100.0%とすると、保存後の含量が99.1%まで減少する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のPC−SOD製品は、収容されるPC−SOD水性液の保存中の活性低下が防止でき、容器破損の懸念もない。そのため、本発明のPC−SOD製品を用いることにより、活性が一定であり安定した性質を有するPC−SOD製剤を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ水性液を、該水性液が接する面がフッ素樹脂からなる容器に収容してなるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ製品。
【請求項2】
フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である請求項1記載のレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ製品。