説明

レシピエント宿主細胞におけるゲノム組込み方法

開示の本発明は、第一の種(ドナー)から単離されたゲノムを適切に調製された第二の種(レシピエント)の細胞の中に組み込む方法に関する。ドナー遺伝性物質のレシピエント宿主細胞への組込みは、供与された遺伝性物質の操作の結果として、レシピエント宿主細胞をドナー遺伝性物質の属及び種に属すると機能的に分類される新たなる細胞に効率的に変える。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、双方とも2007年5月1日に出願されたU.S.仮出願60/927,259及び60/927,293に基づく優先権を主張する。これらの出願の内容は、それらの全体において本願明細書に引用によって組み込まれる。
【連邦政府支援研究発明に関する権利の宣言】
【0002】
この研究は、(合衆国)国立衛生研究所及び国防総省からの資金提供によって部分的に支援された。合衆国政府は、本発明において所定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、一般的に、レシピエント宿主細胞におけるゲノム組込み方法に関する。
【背景技術】
【0004】
4つの天然の(ないし自然な)プロセスが、細菌細胞への大きなDNA分子の導入に関して記載(報告)されている。それらは、形質転換、形質導入、接合及び細胞融合である。これらの天然のメカニズムも、また報告された実験方法も、いずれも細菌(性)のゲノムを他の細菌細胞に挿入して、挿入ゲノムの遺伝子型及び表現型を有する新たな細胞にすることができない。他の種からのDNAを用いる細菌の形質転換は、ルーチン的な作業であるが、小さなDNAの分節(segments)を用いるにすぎない。穏やかに溶解された赤松枯草菌プロトプラスト(Bacillus subtilis protoplasts Akamatsu)及びその仲間から単離されたヌクレオチドを使用することは、遠位マーカー(distant markers)の同種間同時形質転換を示した。それらの最新の解析は、4.2Mbpの枯草菌ゲノムの少なくとも30%がレシピエント細胞に組み換えられたと結論付ける。
【発明の概要】
【0005】
一つの実施形態において、本願明細書に開示の発明は、第一の種からドナーゲノムを調製すること、第二の種からレシピエント細胞を調製すること、ここで、第一の種および第二の種は、双方とも、同一の属からのものであり、そして単離したドナーゲノムをレシピエント細胞に組込み、それによって、ドナーゲノムがレシピエント細胞を第一の種のそれ(表現型)に表現型的に形質転換することを含む種間ゲノム移植方法に関する。ドナーゲノムは、第一の種の細胞から単離することができ、あるいは合成的に調製することができる。ドナーゲノムは、選択マーカーを任意に含むことができる。本発明の1つの視点において、タンパク質は、組込みの前にドナーゲノムから取り除かれる。本発明の別の視点において、レシピエント細胞は、レシピエントゲノムを含む。ドナーゲノムは、レシピエントゲノム内のシーケンスを認識するが、ドナーゲノム(内のシーケンス)を認識しない制限エンドヌクレアーゼをエンコードすることができる。ドナーゲノムをメチル化することができ、例えば、ドナーゲノムは、GATC(が)Dam(で)メチル化され得る。本発明の更に別の視点において、第一の種は、マイコプラズマ・ミコイデス ラージコロニー(LC)(Mycoplasma mycoides Large Colony)であり、第二の種は、マイコプラズマ・カプリコルム(Mycoplasma capricolum)である。
【0006】
本発明の別の実施形態は、第一の種からドナーゲノムを調製すること、第二の種からレシピエントミニセルを調製すること、ここで、第一の種および第二の種は、双方とも、同一の属からのものであり、そして、レシピエントミニセルにドナーゲノムを組込み、それによって、ドナーゲノムが、レシピエント細胞を第一の種のそれ(表現型)に表現型的に形質転換することを含むミニセルにおけるゲノム組込み方法に関する。ドナーゲノムは、第一の種の細胞から単離することができ、あるいは合成的に調製することができる。ドナーゲノムは、選択マーカーを任意に含むことができる。本発明の1つの視点において、タンパク質は、組込みの前にドナーゲノムから取り除かれる。本発明の更なる別の視点において、第一の種は、マイコプラズマ・ミコイデス ラージコロニー(LC)であり、第二の種は、マイコプラズマ・カプリコルムである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、種々の制限修飾系を示す。
【0008】
【図2】図2は、メチル化ゲノムDNAを示す。
【0009】
【図3】図3は、図2に示したメチル化ゲノムDNAと対比させて、メチル化ゲノムDNAを示す。
【0010】
【図4】図4は、FtsZの過剰発現に起因する変化した細胞形態を有するマイコプラズマ細胞の位相差顕微鏡写真を示す。
【0011】
【図5】図5は、FtsZタンパク質を過剰発現して、細長い細胞になり、ドナーゲノムの移植においてレシピエントとして使用することができるマイコプラズマ細胞の位相差顕微鏡写真及び落射蛍光顕微鏡写真を示す。
【0012】
【図6】図6は、制限酵素Mbo Iの存在中におけるM・ミコイデスLCゲノムDNAの増強された移植を示す。精製したM・ミコイデスLCゲノムDNAを制限酵素Mbo Iの段階希釈液(物)と混合し、その混合溶液(物)をM・カプリコルムレシピエント細胞に移植し、選択培地に蒔く(プレーティングする)ことによって移植細胞を回収した。ドナーM・ミコイデスゲノムDNAの天然の(自然な)メチル化は、それが酵素によって切断されることを防ぐ。これに対して、レシピエントM・カプリコルム細胞のゲノムDNAは、Mbo Iに対して感受性である。ドナーDNA及び酵素の同時形質転換は、レシピエント細胞のゲノムDNAを選択的に損なわせ(compromise)、このことが、回収された移植細胞の数に反映される。このメカニズムは、酵素濃度を増加することで移植細胞の収率が増加するという事象と一致する。プレート番号は、グラフの底辺にリストされている。プレート1 ゲノムDNA非添加;プレート2 レシピエント細胞なし;プレート3 ゲノムDNA及び10μlのMbo I;プレート4 ゲノムDNA及び1μlのMbo I;プレート5 ゲノムDNA及び0.1μlのMbo I;プレート6 ゲノムDNA及び0.01μlのMbo I;プレート7 ゲノムDNA、Mbo I無し。
【0013】
【図7】図7は、ブロック内のDNAが、無傷(intact)及び環状であったこと、その一方では、ゲルの中に移動したバンドの中のDNAは直線状であったことを示す。(A)は、M・ミコイデスLCのDNAを含むプラグを載せた(ロードした)パルスフィールドゲルを示す。0.5x TBEバッファーのゲルを20時間電気泳動し、次にSYBRゴールドで染色した。マーカーレーンは、BioRad(社)の出芽酵母ゲノムDNAサイズマーカーを含む。プラグ内に残る多量のDNAに注目。(B)では、プラグは、PFGE前(BPFGE)又はPFGE後(APFGE)の何れか、そして、PFGE後に生じたゲノムサイズバンド[であり]、そしてPlasmid−Safe DNA ヌクレアーゼによる処理あり又は無しの何れかを示す。ヌクレアーゼ酵素は、直線状DNAを消化(切断)するが、環状2本鎖DNAに対する影響を有さない。これらのデータは、ゲルの中に移動したDNAのバンドがエキソヌクレアーゼ感受性であり、従って直線状であったことを指し示す。
【0014】
【図8】図8は、M・カプリコルム、M・ミコイデスLC及び一連の移植クローンのサザンブロット解析を示す。ゲノムDNAを、HindIIIで消化(切断)し、1%アガロースゲルで電気泳動した。DNAを、N+ナイロンメンブレンに転写し、IS1296特異的プローブでプローブした。移植細胞における更なる(付加的な)IS1296バンドは、移植の際に、IS要素がM・カプリコルムの環境に移動させられたときの、IS要素(エレメント)の突発的な拡大の結果であり得る。
【0015】
【図9】図9は、プロテオミクス解析を示す。2次元ゲルは、M・ミコイデスLC(A)、M・カプリコルム(B)、移植クローン(C)からの細胞溶解液を使用して泳動された。固定化pH勾配(IPG)細長片(ストリップ)(pHは、4〜7に渡る)での第一次元のタンパク質のスポット(点)の分離、及び第二のSDS−PAGE次元(分子量8〜200kDa)におけるタンパク質のスポットの分離に、標準的な条件を使用した。ゲルを、クーマシーブリリアントブルー G−250で染色し、96個のスポットを各々のゲルから切り出した。スポット71(ゲルA)、スポット23(ゲルB)及びスポット8(ゲルC)は、酢酸キナーゼとして同定された。M・カプリコルムの酢酸キナーゼは、明確なアルカリpH移動(シフト)(ゲルB)を示した。トリプシン消化し、MALDI質量分析解析(MALDI−MS、ABI 4700 プロテオミクス分析装置)した酢酸キナーゼのペプチド(スポット8、ゲルC)に関するシーケンスカバーマップ(coverage map)は、2つのマイコプラズマ種に同一のペプチド(赤色)及びM・ミコイデスLCにのみ存在するペプチド(青色)を局在させる。
【0016】
【図10】図10は、アガロースブロック内で単離されたM・ミコイデスLC DNAのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動解析を示し、検出可能なレベルのDNA関連タンパク質が無かったことを示す。ゲルは、銀染色した。左パネルにおいて「無傷の細胞」とラベルされた3つのレーンは、SDS中で煮沸されゲルに載せられたM・ミコイデスLC細胞の3つの[段階]希釈物(液)であった。中央パネルは、PFGE前(B)又はPFGE後(A)のいずれかの、SDS中で煮沸されタンパク質ゲルに載せられたM・ミコイデスLC DNAを有するアガロースブロックを含む。右パネルにおいて、ゲルの最上部にある物質がタンパク質であったか、或いはDNAであったかを決定するために、PFGE前及びPFGE後のブロックをDNase Iで処理した。そのパネルにおいて、マーカーの1つは、DNase Iであった。
【0017】
【図11】図11は、移植前のM・ミコイデスLCドナーゲノムDNAの形態に対するストレプトマイシンの影響を示す。ゲノムDNAは、本願明細書に記載のようにM・ミコイデスLC細胞から穏やかに単離された。細胞は、テトラサイクリン(10μg/ml)(A)、又はテトラサイクリン(10μg/ml)及びストレプトマイシン(10μg/ml)(B)が添加されたSP4培地中で成長させた。脱タンパク質化したDNAをSYBRゴールド(1X、Molecular Probes(社))で15分間、室温で染色した。7μlの細胞をスライドガラスに載せ、蛍光顕微鏡(x1000)(Zeiss(社) Axioskop 2プラス)によって可視化した。
【0018】
【図12】図12は、17%のウシ胎仔血清及び0.5%のグルコースを添加したSOB培地中で成長させ、37℃で18時間の成長後に、pHが7.5(A)又は6.2であった時のM・カプリコルムレシピエント細胞の形態に対するpHの影響を示す。500μlの細胞を5分間、2200g、10℃で遠心分離し、200μlのPBSに再懸濁した。細胞を15分間室温でSYBRゴールド(1X、Molecular Probes(社))の添加によって染色した。7μlの細胞をスライドガラスに載せ、蛍光顕微鏡(x1000)(Zeiss(社)Axioskop 2プラス)によって可視化した。
【0019】
【図13】図13は、野生型ストレイン及び移植(細胞)(CL11.1)双方のM・カプリコルム及びM・ミコイデスLC特異的なPCR増幅を示す。
【0020】
【図14】図14は、30個の異なるM・ミコイデスLCフィルタークローン(filter clones)(A)および〜50個の移植(細胞ないしクローン)(B)のサザンブロットを示す。ブロットをIS1296挿入シーケンスにハイブリダイズしたPCR単位複製配列(アンプリコン)でプローブした。全てのサンプルはIS1296の複数コピーを有するが、異なるサンプルは、わずかに異なるパターンをブロットに有し、要素の移動を指し示した。移植(細胞)に関して、ドナーゲノムは単レーンに示される。
【0021】
【図15】図15は、M・カプリコルムのVmcE及びVmcF表面抗原に特異的なポリクローナル抗体、又はM・ミコイデスLCのVchL表面抗原に特異的なモノクローナル抗体でプローブされたM・ミコイデスLC(ゲノムのドナー)、M・カプリコルム(レシピエント細胞)及び4つの異なる実験からの移植(細胞ないしクローン)のコロニーハイブリダイゼーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の詳細な記載
ゲノムの化学合成が、近年記述(報告)されている。Gibson, et al.,「Complete Chemical Synthesis, Assembly, and Cloning of a Mycoplasma genitalium Genome」、Science(2008年2月29日)Vol. 319. no. 5867, pp. 1215〜1220、及び代理人事件整理番号(Attorney Docket No.)61687−3000800、61687−3000801、61687−3000802及び61687−3000803、これらの全ては引用によってそれらの全体において[本願明細書に]組み込まれる。この方法論は、細胞の生育に要求される遺伝子の最小セットに関する仮説を試験する手段としての使用、並びに、所望の代謝経路をエンコードするように選択された遺伝子を含有するカスタマイズ化された合成ゲノムを構築するための使用を含む、いくつかの使用に有用である。一度、合成ゲノムが構築されると、それは、エンコードしたゲノムの指示(instructions)を発現することができる細胞環境に導入されなければならない。本願明細書に開示の発明は、第一の種(ドナー)から単離されたゲノムを適切に調製された第二の種(レシピエント)の細胞に移植することができることを示す。ドナーの遺伝性物質(ないし遺伝子材料:genetic material)のレシピエント宿主細胞への導入は、供与される遺伝子材料の操作の結果として、効率的にレシピエント宿主細胞を、遺伝性物質のドナーの属及び種に属するものとして機能的に分類される(クラス分けされる)新たなる細胞に変える。
【0023】
任意の属及び種のドナー及びレシピエント細胞を、開示した方法で使用することができる。好ましくは、ドナー染色体は、レシピエント宿主細胞と同じ属の起源の生命体に由来する。例えば、種々のマイコプラズマ種からのドナーは、直接的(天然の素材から単離されたゲノムの形態で)、あるいは間接的(ゲノムが合成的に調製され、マイコプラズマ前駆体(上)に構築される)のどちらかで開示した発明での使用のために、遺伝性物質を提供することに使用することができる。
【0024】
開示した発明(本願発明)は、ドナーの遺伝性物質のレシピエント宿主細胞への移植に関し、ここで、ドナー遺伝性物質は、機能的であり、レシピエント宿主細胞を支配する。レシピエント宿主細胞の支配は、いくつかの異なる方法を介して達成することができる。該方法は、2つの一般的なカテゴリー(それらのゲノムを保持するレシピエント細胞を使用するための方法、及び内因性ゲノムを欠くレシピエント細胞を使用するための方法)に分けることができる。

内因性宿主ゲノムの取り換え
【0025】
内因性ゲノムを含むレシピエント細胞を使用する移植方法は、好ましくは内因性ゲノムをドナーゲノムによってエンコードされた1以上の生成物によって不活性化することによる方法を含む。本願明細書において提供される種々の方法の実施形態によれば、ドナー染色体又はゲノムは、調製され、宿主細胞に導入される。ドナーゲノムは、レシピエント細胞への導入の際に、レシピエントゲノムを不活性化するか、あるいは、破壊する役割を果たす1以上のシステムをエンコードすることができる。種々のシステムがこの目的を達成する使用のために考えられる。例えば、レシピエントゲノムに対する特異性を有する制限エンドヌクレアーゼを、ドナーゲノム又は染色体によってエンコードすることができる。レシピエントゲノムの再生成又は機能を防ぐ阻害(抑制)性RNAなどの他のシステムも含むことができる。そのような阻害性RNAの例は、レシピエントゲノムの複製開始点(ないし起点:origin)を標的にするものだろう。ドナーによるこの阻害性RNAの生成は、内因性染色体の複製を防止(ないし阻害)するが、その代わりに、ドナーゲノムにレシピエント細胞の制御を行わせ、娘細胞への組込み用の遺伝性物質(genetic material)を提供する。
【0026】
本発明の一つの実施形態において、ドナーゲノムは、その作用がドナーゲノムに関しては遮断(ブロック)又は阻害されるが、内因性レシピエントゲノムに対しては機能的である1以上の制限エンドヌクレアーゼをエンコードする。例えば、非常に稀な部位(複数)で切断する制限エンドヌクレアーゼを選択し、それらの部位を欠く[ように]ドナーゲノム又は染色体を部分的に修飾する(ないし調整、操作)する(tailor)ことが可能である。好ましい実施形態において、この遮断(ブロッキング)は、ドナーゲノムのメチル化によって達成される。別の実施形態において、ドナーゲノム又は染色体を、ドナー染色体の宿主又はレシピエント細胞への組込み又は移植の前又は後にメチル化することができる。さらに、ドナー染色体のメチル化は、自然に又はインビトロ環境内などのように人工的に起こすことができる。
【0027】
レシピエント細胞内の内因性染色体は、メチル化されなくても良いし、及び/又は、エンドヌクレアーゼの活性からゲノムを保護しない部位でのメチル化のように不適切にメチル化されても良い。ドナー染色体からの制限酵素の発現により、制限酵素は、特異的な部位(複数)でレジデント染色体を切断することができる。更なる方法では、適切な制限エンドヌクレアーゼは、移植プロセスに含まれる。制限エンドヌクレアーゼは、制限エンドヌクレアーゼの宿主細胞への導入直後又はそのほとんど直後にレジデント染色体の分解を開始し、ドナーゲノムからの制限エンドヌクレアーゼの発現のために必要な時間に比べて時間を節約する(セーブする)。
【0028】
メチルディレクテッドエンドヌクレアーゼ(メチル化DNAの切断に指向された)は、レシピエント細胞内でメチラーゼを生成し、かつドナー染色体からメチルディレクテッド制限酵素を生成すること又はメチルディレクテッド制限酵素とドナー染色体との同時移植によって採用することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、レシピエントは、酵素の認識部位(複数)を含むので制限エンドヌクレアーゼに対して感受性である。ドナー染色体は、そのようなシーケンスを有さないだろうが、その酵素を生成するだろうし、その酵素と同時移植されるだろうし、あるいはレシピエントをその酵素で前処理することができた。同様に、レジデント染色体に特異的なシーケンスを標的にする化学酵素性ヌクレアーゼ(chemioenzymatic nucleases[sic, chemoenzymatic nucleases])、化学性ヌクレアーゼ及び修飾試薬の同時形質転換を使用することができる。全て、又はいくつかのこれらのアプローチは、移植の前、中及び/又は後に、選択的にレジデント染色体を損なうように処方することができる。認識部位を改修する(tailored)酵素の生成と一緒に利用可能な制限エンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼの範囲は、このアプローチを広範囲に適用可能にする。
【0030】
その代わりに、レシピエント細胞を、ヌクレオチド類似体の存在中で[成長させる]ことができ、したがって、そのような類似体は、レジデント染色体内でのみ存在することができる。その後、該類似体を、ドナー染色体によってエンコードされたエージェント又はドナー染色体と同時形質転換されたエージェントによって標的にすることができる。レジデント染色体は、そのような病変部位(lesion)を修復する遺伝子学的な能力の存在を伴って、あるいはその存在なしに、選択的に損なわれる(compromised)。
【0031】
本願明細書において提供される種々の方法によれば、マイコプラズマ・ミコイデスLCは、複数の制限修飾系(そのほとんどが、M・カプリコルムにおける単一の制限修飾系と異なる)をエンコードする。(図1)M・ミコイデスLC及びM・カプリコルムの双方は、ウェスタンブロット解析におけるメチル化アデニンに特異的な抗体の認識によって決定されるように、それらのゲノムDNAにメチル化アデニンを含むが(図2)、M・ミコイデスLCは、dam遺伝子(Damメチラーゼ)によってエンコードされた大腸菌メチラーゼのオーソログによってGATCシーケンスにおいて部位特異的にメチル化されるように見え、これに対して、M・カプリコルムは、そのように見えない。DAMメチラーゼは、S−アデノシルメチオニンからシーケンス「GATC」内のアデニン残基のN位置(ポジション)にメチル基を移動させる。このシステム及び方法のバイアビリティは、(以下の)2つの要素によって証明される;第一に、アデニンメチル化GATCシーケンスで特異的に切断する制限エンドヌクレアーゼDpn Iに対するM・ミコイデスLCゲノムDNAの感受性、及び、GATCシーケンスにおけるアデニンのメチル化によってブロックされる制限酵素Mbo Iに対する抵抗性、第二に、M・カプリコルムゲノムDNAのDpn Iに対する抵抗性、及びMbo Iに対する感受性(図3)。
【0032】
いくつかの実施形態において、1以上のレジデントゲノムに存在しないドナーゲノムの制限エンドヌクレアーゼは、レジデントゲノムを切断する。例えば、M・ミコイデスLCゲノム(GATC(が)Dam(で)メチル化される)がM・カプリコルム細胞(GATC Damメチル化されない)に移植される場合、移植ゲノムから転写されたM・ミコイデスLC制限酵素(非メチル化GATCシーケンスを切断する)の発現は、レジデントM・カプリコルムゲノムを多くの断片(pieces)へ切断するという結果になる。そのとき、移植されたM・ミコイデスLCは、ゴーストM・カプリコルム細胞を自由に利用する。M・カプリコルムに存在しないM・ミコイデスLCの他の制限エンドヌクレアーゼも、レジデントゲノムを切断することができる。
【0033】
天然の又は合成のM・ゲニタリウム(M. genitalium)ゲノム(あるいは、天然又は合成の他のゲノム)の効率的なゲノム移植は、適切な制限修飾系を有するゲノムを供給することによって、本願明細書において提供される1つの方法に従って達成することができる。この方法は、2つのステップにおいて実行することができる。第一に、大腸菌Damメチラーゼ遺伝子をM・ゲニタリウムゲノムにクローンして、M・ゲニタリウム細胞がDamメチル化されるゲノムを有するようにする。第二に、対応する制限エンドヌクレアーゼの遺伝子をメチラーゼを含むクローンに加える。この例は、大腸菌遺伝子を含むが、制限メチル化システムは、種々の生命体からのものであり得る。そのように遺伝子操作されたゲノムは、メチル化されて、それ自身の制限システムから保護される。適切なメチル化を欠く感受性ストレインへの移植は、レジデント染色体の分解(ないし変性:degradation)を起こす。合成ゲノムに関して、ゲノムが宿主生命体内で組み立てられる(ないしアッセンブルする)(かつ、不活性化する)場合、合成ゲノムのメチル化を、宿主クローニングストレインによって提供することができる。代わりのシステム及び方法によれば、メチル化は、移植の前にインビトロで行うことができ、あるいは、ドナーゲノムを、関連性のある制限エンドヌクレアーゼに対して抵抗性であるように合成することができる。ドナーゲノムの抵抗性は、他の方法によって達成することができ、そして、本願明細書において提供される種々の方法の範囲に含まれると評価されるだろう。
【0034】
種々の化合物または刺激にレシピエント細胞を曝すことによって、レシピエント細胞ゲノムが複製できないようにすることもできる。例えば、クロスリンク、あるいは他の方法でレシピエントゲノムが複製できないようにするが、しかしその後、システムから取り除かれる化合物に、レシピエント細胞を曝すことができる。レシピエント細胞を、放射線照射することもでき、それによって、内因性ゲノムは複製できないようにするが、移植されたドナー染色体の機能を維持したままにすることができる。
【0035】
更なるシステム及び方法によれば、レジデント染色体を、事実上の変更なしに選択的に損なわせる(compromised)ことができる。適切に設置されたlox−Pサイトは、決定的に重要な複製構成成分(複製の開始点及び終結点など)をレジデント染色体から選択的に取り除くことができる。染色体は実質的に無傷(intact)で残るが、複製したとしても、不完全である。それに比べ、そのような認識部位がないドナー染色体は、Cre lox−P組み換えの存在中に、より容易にコピーすることができる。複製開始点又は複製終結点以外の部位は、同様に、レジデント染色体が効率的にその複製する能力又は機能を失わせるようにし、それによってそれを損なわせることができる。同様に、小(small)RNAの発現は、休止状態の大腸菌を作ることができる。このRNAは、複製に干渉する。ドナー染色体を、このRNAに対して、あるいは同様のエージェントに対して非感受性にすることができる。そのような場合、非感受性ドナー染色体からのRNAの発現、又は、非感受性ドナー染色体とRNAとの同時移植は、染色体それ自体を顕著に変化させることなく、レジデント染色体の複製を選択的に損なわせる。T4−ファージ Nddタンパク質も、大腸菌染色体が正しく機能することを妨げるが、染色体は、本質的に変化が無い状態で残る。そのタンパク質は、ファージゲノムに対して同様の作用を有さない。Nddなどのタンパク質は、ドナー染色体がコピーされる能力に影響を与えることなく、レジデント染色体の複製を選択的に停止することに使用することができる。

アクロモソーマル宿主細胞
【0036】
記載の本発明の代わりの一実施形態は、アクロモソーマル(achromosomal)宿主細胞あるいはレシピエント細胞の使用を必要とする。アクロモソーマル細胞(ミニセルとしても知られる)は、典型的には、異常(aberrant)な細胞分裂の産物であり、RNA及びタンパク質を含むが、染色体DNAをほとんど、あるいは全く含まない。ミニセルは、染色体DNAが欠如した細胞の類縁体(derivative)であり、ときには、無核細胞と称される。真正細菌の細胞、及び古細菌の細胞は、真核細胞とは異なり、核(染色体を包む明瞭な細胞小器官)を有さないので、これらの非真核生物のミニセルは、「無核の(anucleate)」に対して、より的確には「染色体がない(without chromosomes)」あるいは「アクロモソーマル(ないし染色体欠如:achromosomal)」と記載される。それにもかかわらず、本発明の分野における通常の知識を有する者は、細菌(性)のミニセルを称するときに、他のミニセルに加えて、用語「無核の」をしばしば使用する。従って、本願の開示(明細書及び特許請求の範囲)において、用語「ミニセル」は、染色体を欠如した真正細菌の細胞の類縁体(ないし誘導体)、染色体(1以上)を欠如した古細菌の細胞の類縁体(ないし誘導体)、及び真核細胞の無核の類縁体を包含する。しかしながら、いくつかの関連分野では、用語「無核のミニセル」又は「無核の細胞」を、ルーズに、上述のミニセルのタイプの何れかを称することに使用し得ることが理解される。外来性ゲノム又は人工染色体からのタンパク質合成を許容し、管理する酵素性機構をミニセルの細胞質が含むという点で、ミニセル又はゴースト細胞は、それらの内因性ゲノム又は人工的な細胞様構造(リポソームなど)を保持するレシピエント細胞を上回るいくつかの利点を有する。
【0037】
種々の細菌が、ミニセルを生成することが示されている。例えば、U.S.特許No.4,190,495(これをもって該特許の全体が本書に引用によって組みまれる)は、タンパク質の組み換え発現に有用であると述べられるミニセルを生じる大腸菌のストレインを示す。U.S.特許No.7,183,105(これをもって該特許の全体も本書に引用によって組みまれる)は、真正細菌のミニセルの生成及び核酸送達のためのベクターとしてのそれらの使用を記載する。
【0038】
ミニセル又はゴースト細胞は、ドナーゲノムを受け、そして、ドナーゲノムを発現する娘細胞を生成するためのレシピエント細胞として使用することができる。しかしながら、ゴースト細胞として標的されているレシピエント細胞がドナーゲノムを分解する制限ヌクレアーゼを合成するときに、それが防止されないならば、このプロセスは限定される。従って、ゴースト細胞合成及び娘細胞の生成のためのゲノムの組込み方法のニーズがある。
【0039】
ミニセルは、分裂又は成長(ないし増殖)できないが、それにもかかわらず、機能する細胞壁、細胞膜、リボソーム、エネルギー生成システムを含み、それらのシステムの完全性を長期間維持することができる。本願明細書の提供のシステム及び方法の1つによれば、マイコプラズマミニセルは、染色体分離(segregation)(SMC、scpA、scpB、gyrB)及び細胞分裂(ftsZ)に含まれるいくつかの遺伝子の破損又は過剰発現を介して、生成することができる。例えば、M・ゲニタリウム、M・カプリコルム及び/又はマイコプラズマ・allagatorisにおいて発見されたようなftsZ遺伝子は、これらの各マイコプラズマからのoriC領域(部分)を含むシャトルプラスミドにクローンされる。ftsZタンパク質の過剰発現は、長さが可変の(不定の)繊維状の細胞と一緒に、小さく(samll-)染色体が無い細胞の出現を導く。(図4、図5)
【0040】
加えて、移植の前にレジデント染色体を破壊するために処理することができるであろういくつか又は全ての方法と共に、広範囲の前処理(メチル化又はソラーレン処理を含む前処理を含む)を使用することができる。レジデント染色体を破壊するあるいは不活性化するための任意の遺伝子的な、化学的な、あるいは物理的な方法が、本発明の範囲に含まれる。
【0041】
さらに別のシステム及び方法において、温度感受性DNaseは、レシピエント細胞ゲノムを第一の温度で分解することに利用することができ、そして、次に、該DNaseは、移植に使用される第二の温度で不活性化される。同様に、染色体の破壊方法は、可逆性(リバーシブル)のDNase(コリシンE2)を採用することができる。この酵素及びそのホモログは、免疫性タンパク質によって容易に不活性化される。レシピエント細胞におけるコリシンE2の活性化、生成、又は添加は、そのゲノムを分解するが、その一方では、その後の対応する免疫性タンパク質の活性化、生成、又は添加は、後に加えられたドナー染色体を保護する。
【0042】
種々の実施形態及び方法が本願明細書に記載されるが、それらは、例として表されているのみにすぎず、限定的ではないと理解されるべきである。さらに、好ましい実施形態の幅及び範囲は、上記の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきでない。

商業利用性
【0043】
細菌のホールゲノムを合成する能力は近年報告されている。この技術を使用して、現在、ワクチン、バイオ燃料及び工業的に有用な酵素などの種々の商業利用製品を製造することができる代謝経路をエンコードするゲノムを合成することができる。
【0044】
本願明細書に記載の技術は、生命体からの免疫反応を誘導する免疫学的な組成物を提供することに有用である。例えば、本願明細書に記載の技術はワクチン組成物を提供するために使用することができる。ほとんどの効果的なワクチンは、いつも、生細胞又はウィルスを採用する。ポリオ、ワクシニア又はBCGを考察されたい。肺炎連鎖球菌又はサルモネラsp(Salmonella sp.)などのいくつかの病原性細菌のストレインは、それらを効果的なワクチンにすることができた免疫(抗)原性の特徴を有するが、しかしながら、現在では、それら生命体から効率的にそれらの病原性を取り除き、その一方では、それらの抗原性を保持することができていない。その作業は、現在のゲノム操作技術にとっては複雑過ぎる。未知の機能の遺伝子、及び潜在的なワクチンゲノムから削除する又は不活性化する必要がある知られた機能の遺伝子が多くあり過ぎる。遺伝子の除去は、個々にそして組み合わせで行われる必要があるだろう。その作業を行うには、単純にテストする可能性が多くあり過ぎる。
【0045】
合成ゲノムの技術の使用して、ゲノムを所与の生命体からの個々の遺伝子又はゲノムの領域(部位)を含む合成カセットから組合せ的に組み立てる(アッセンブルする)ことができ、多くの異なる変種(ないしバリエーション)のゲノムが生成された。このプロセスは、特定の削除及びランダムな削除の組合せであり得た。これらの異なるゲノムの集まり(populations)を適切なレシピエント細胞に移植することができ、移植(細胞)は、抗原性及び病原性の欠如を探索するインビトロ及び/又はインビボのアッセイにおいてスクリーニングされた。従って、非合成のゲノム技術を使用して行うことができたよりも速やかで、安価な方法で、更なる候補ワクチンを作ること及び適切な活性に関してスクリーニングすることができた。
【0046】
本願明細書に記載の方法は、細菌マイコプラズマ・ミコイデス スモール(small)コロニーに起因する伝染性ウシ胸膜肺炎(contagious bovine pleuro pneumonia: CBPP)症を処置することおよび予防することに効果的な組成物を製造することに使用することができる。この病気(肺ペストとしても知られた)は、ウシ、ヤク、水牛、ゼブ(zebu)の主要な病原である。この病気は、アフリカ、中東、南ヨーロッパ、並びにアジアの各地に広範囲に広がる。改良ワクチンに関する実際のニーズがある。この病気の生命体は、ゲノム移植を表すために本願明細書において使用されたM・ミコイデス ラージコロニー ストレイン GM12に系統学的に密接に関係する細菌である。M・ミコイデス スモールコロニーは、ゲノム操作を容易に受け入れない。上述の合成M・ゲニタリウムゲノムを生成することに使用された合成ゲノム技術を使用して、M・ミコイデス スモールコロニー細菌からの種々の抗原遺伝子を、M・ミコイデス ラージコロニー遺伝子ゲノムにクローンすることができた。本願明細書に記載の方法は、M・ミコイデス スモールコロニー遺伝子が加えられ、選択されたM・ミコイデス スモールコロニー抗原を発現するM・ミコイデス ラージコロニー細胞を生成する、多くの異なるバージョンのM・ミコイデス ラージコロニーゲノムを移植することができた。種々の異なるM・ミコイデス スモールコロニー抗原遺伝子の個々及び組合せが、使用のために考慮される。いくつかのこれらの突然変異体は、生ワクチンとして機能するだろう。
【0047】
本願明細書に記載の方法は、バイオ燃料を発展するためにも有用である。いくつかの真核生物の藻類は、それらの乾燥重量の70%と同程度を、油として合成する。光合成の産物であるこれらの油は、理想的なバイオ燃料であった。これらの油を生成する生命体は、砂漠内の泉の中で成長させることができるので、バイオ燃料生成のために耕作可能な耕地は失われないだろう。これらの藻類に伴う1つの問題は、それらがゆっくり成長することである。ゲノム組み立て(アセンブリー)技術を使用して、我々は、これらの経路を構成する酵素をエンコードする遺伝子をクローンすることができ、そして、転写プロモーター、翻訳シグナル、コドンの最適化を変更することによって、真核生物の遺伝子発現の代わりに原核生物の遺伝子発現を許容するように遺伝子を再構成することができた。代謝経路をエンコードするこれらの遺伝子のカセットを、光合成細菌のゲノムに組み入れることができ、その結果としてのキメラゲノムが、光合成の結果として同様の油を生成することができた。これらのゲノムは、次に、適切なレシピエント細胞に移植されるだろう。
【0048】
開示の発明は、工業的な酵素又は工業的な生命体の製造に関する利用性も有する。開示の方法は、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)及びクロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)のキメラである遺伝子(グルコースからエタノールを合成するために必要な酵素をエンコードする前者の種からの遺伝子、及び効率的にセルロースを分解することができるセルラーゼをエンコードする後者の種からの遺伝子を有する)を構築するために使用することができる。そのゲノムを適切なレシピエント細胞に移植することができ、エタノールを生成するために効率よくセルロースを分解することができた細胞を生成することができた。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供され、本発明を限定するためではない。
【実施例1】
【0050】
マイコプラズマ・カプリコルム レシピエント細胞へのマイコプラズマ・ミコイデス ラージコロニー(LC)ゲノムの移植
マイコプラズマ(モリキュート網のメンバー)は、合成細胞を構築するために選択された。この選択は、この細菌の分類単位に特異的な特徴の数に基づいた。マイコプラズマの本質的な特徴は、小さいゲノム、ほとんどの種によるトリプトファン(停止コドンではなく)をエンコードするUGAの使用、そして細胞壁の完全な欠如である。小さいゲノムは、合成し易く、取り扱い中に壊れにくい。遺伝子コードの変化は、マイコプラズマのタンパク質の発現を低減(ないし制限)するので、大腸菌におけるクローニングを促進する。細胞壁の欠如は、これらの細菌の外部表面を真核細胞の細胞膜と同様にし、確立された真核細胞への大きなDNA分子の挿入方法を我々が使用できるようにすることによって、レシピエント細胞内にゲノムを組み込む我々の作業を単純化することができる。
【0051】
我々の合成ゲノムは、純粋(ないし無菌)培養において成長する全ての細胞の(中で)、最小ゲノム(580Kb)を有するマイコプラズマ・ゲニタリウムに基づくだろう。我々の合成ゲノムは、M・ゲニタリウム染色体をモデルとするが、ゲノム組込み方法は、2つの高速成長マイコプラズマ種(マイコプラズマ・ミコイデス亜種 ミコイデス ラージコロニー ストレイン GM12、及びマイコプラズマ・カプリコルム亜種 カプリコルム ストレイン California kid)を、ドナー及びレシピエント細胞としてそれぞれ使用して発展した。これらの生命体は、双方ともヤギの日和見病原性菌であるが、BL2条件下の研究室内で成長(ないし増殖)させることができる。それらは、それぞれ80分毎及び100分毎に分裂するが、これに対し、M・ゲニタリウム(この生命体は、近年発表された合成ゲノムのモデルであった)は、9−10時間毎にのみ分裂する。これらの高速成長マイコプラズマの使用は、合成M・ゲニタリウムゲノムの移植方法を発展する我々の作業を加速させた。
【0052】
M・ミコイデスLC及びM・カプリコルムは、マイコプラズマのミコイデス亜種内の別々の種である。双方のゲノムをシーケンスし、関連性の度合いを決定した。2つのゲノムの比較は、1,083,241bpのM・ミコイデスLCゲノムのドラフトシーケンスの76.4%を、1,010,023bpのM・カプリコルムゲノム(Genbank 寄託番号NC007633.5)にマップさせることができ、この内容が、平均で91.5%のヌクレオチドの同一性(ないし相同性)で一致することを示した。残りの〜24%のM・ミコイデスLCゲノムは、M・カプリコルムに見られなかった多くの挿入シーケンスを含む。このホールゲノムショットガンプロジェクトは、プロジェクト寄託番号AAZK00000000の下でDDBJ/EMBL/GenBankに寄託されている。この実施例において記載のバージョンは、最初のバージョンAAZK01000000である。
【0053】
いくつかの方法が、この種間ゲノム移植を達成するために探求(ないし調査)された。このプロセスは、3つのキーとなる段階:(1)M・ミコイデスLCからの無傷のドナーゲノムの単離、(2)レシピエントM・カプリコルム細胞の調製、(3)レシピエント細胞への単離されたゲノムの組込み、を有した。M・ミコイデスLCの複製開始点(oriC)を含むプラスミドは、M・カプリコルム内で複製することができるが、これに対して、M・カプリコルムのoriCを有するプラスミドは、M・ミコイデスLC内で複製しないという知見(ないし観察結果)に基づいて、このゲノム移植の方向性が選択された。

ドナーゲノムDNAの調製
【0054】
溶液中のホール染色体の操作は、破損(ないし切断)を引き起こし得る剪断応力(shear forces)にDNAを曝す。従って、アガロースブロックに細胞を懸濁することによって界面活性剤及びタンパク質分解酵素の処理中においてゲノム操作を最小化することが重要であった。細胞を元々保持したアガロース内に結果としてできる空洞(cavern)の中に無傷の染色体を固定化した。消化(分解)されたタンパク質成分、脂質、RNA及び剪断されたゲノムDNAは、固定化した無傷(intact)のゲノムDNAから、透析又は電気泳動して分離することができた。
【0055】
無傷のホールゲノムDNAの単離を、BIO−RAD(社)のCHEF 哺乳類ゲノム用DNAプラグキットを使用して行った。簡単に説明すると、テトラサイクリン耐性(tetM)及びβガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)を有するM・ミコイデスLC細胞を10μg/mlのテトラサイクリン及び10μg/mlのストレプトマイシンが添加されたSP4培地内で37℃で適当な密度まで成長(増殖)させた。培地へのストレプトマイシンの添加は、後述で議論されるだろう。50〜100mlの培養細胞を、4,575g、15分間、10℃の遠心分離によってペレット状にした。細胞を20mlの10mM トリス、pH 6.5、0.5M スクロース添加(溶液)に再懸濁し、上述のようにペレット状にし、1ml(〜1〜5x10細胞/ml)に[なるように]再び再懸濁した。細胞懸濁液を15分間、50℃でインキュベートし、次に、等容量の2%低融点(LMP)アガロース/1X TAEバッファー(in 1X TAE buffer)[40mM トリス酢酸、1mM EDTA]と混合した。50℃で5分間[インキュベートした]後、細胞及びLMPアガロースの混合溶液(2ml)を100pl[sic、μl]アリコットづつプラグモールドに分注した。20個のプラグを4℃で固形化した。240pl[sic、μl]のプロテイナーゼKを含む6mlのプロテイナーゼK反応バッファー[100mM EDTA、pH8.0、0.2% デオキシコール酸ナトリウム、1% ラウリルサルコシンナトリウム]を添加することによって、50℃で24時間、包埋したマイコプラズマ細胞を溶解し、タンパク質を消化した。次に、20個のプラグを室温で、1時間、20mlの1X TEバッファー[トリス−HCl(20mM)−EDTA(50mM)、pH 8.01]中で攪拌(アジテーション)で4回洗浄し、10mlのTEバッファー中で4℃で保管した。
【0056】
穏やかなゲノムDNAの調製は、無傷の環状分子をもたらしたことを確認した。いくつかのアガロースプラグを、Contour-clamped Homogeneous Electric Field(CHEF DRIII、BIO−RAD(社))を用いて、1% LMPゲルでTAE中のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)に供した。パルスタイムは、24時間に渡り、3.5V/cmで60秒から120秒までに勾配させた。移動の後、ウェルからプラグを取り除き、10mlのバッファー[トリス−HCl(20mM)−EDTA(50mM)、pH 8.01]中で4℃で、染色体移植実験の無傷のゲノムDNAの実験材料として使用するまで保管した。PFGEの間、無傷の環状細菌染色体は、アガロース中に保持されて、移動しないようにすることができるが、これに対して、直線化した全長DNA、並びに、小さいDNA断片、RNA、タンパク質及び界面活性剤及び酵素による消化後に残っている電化を帯びた他の全ての細胞分子は、電気泳動され、プラグの外に出た。図7Aに示した、SYBRゴールド(Molecular Probes(社))染色したパルスフィールドゲルは、1.125MBの直線状DNAサイズマーカー(ほとんどM・ミコイデスLCゲノムと同じサイズ)と共に電気泳動されたDNAのバンドと、ウェル(複数)の位置に強いバンドとを示し、多量のDANがプラグ内にまだあったことを示唆した。プラグ及び切除された1.125MBのバンドのPlasmid-Safe ATP-dependent DNAse(EPICENTRE BIOTECHNOLOGIES(社))を用いた広範囲の消化は、プラグ内のDNAの量を比較的に変化させることなく残したが、その一方では、1.125MBのバンド内のDNAは分解された(図7B)。Plasmid-Safe ATP-dependent DNaseは、直線状2本鎖DNAをデオキシヌクレオチドまで消化し、そして、より低い効率で、閉環状及び直線状1本鎖DNAを消化する。その酵素は、ニック状又は閉環状の2本鎖DNAあるいはスーパーコイル状のDNAに対しては活性を有さない。これは、多量の環状ゲノムDNAがプラグ内にあったことを指し示す。
【0057】
プラグに包埋されたDNAが裸状態であったことを確認するために、プラグを分析した。SDS中で煮沸した後に、SDSポリアクリルアミドゲルに載せられた(ロードされた)プラグは、検出可能レベルのタンパク質を示さず、少なくともDNAの大部分は裸状態であることを指し示した(図10)。さらに、染色体の脱タンパク質化の効率の証拠が、より敏感な技術である質量分析解析から来る。いずれのM・ミコイデスLCペプチドもPFGE前にアガロースプラグ内に存在せず、かろうじて検出可能な量の異なるM・ミコイデスLCペプチドがPFGEの後にプラグ内にわずかに存在した。別々のプラグは、別々のペプチドを有した。
【0058】
ドナーゲノム調製の最終ステップは、アガロース包埋からのDNAの遊離を必要とした。移植実験の前に、M・ミコイデスLCゲノムDNA(PFGEの前又は後)を含むアガロースプラグを2回、30分間、1mlの0.1X TEバッファー[トリス−HCl(2mM)−EDTA(5mM)、pH 8.01]で穏やかに攪拌して洗浄した。バッファーを完全に取り除き、アガロースプラグを10分の1の量の10x β−アガラーゼバッファー[10mM ビストリス−HCl(pH 6.5)、1mM EDTA]で65℃で10分間融解した。融解したアガロースを42℃まで10分間冷却し、100μlのプラグごとに2.5ユニットのβ−アガラーゼI(NEW ENGLAND BIOLABS(社))で同じ温度で一晩インキュベートした。各プラグは、およそ10μgのDNA(〜8x10ゲノム)を含むと計算された。すなわち、これらのデータは、プラグが多量の無傷で、環状、ス−パーコイル状で、かつ裸状態のM・ミコイデスLCからのゲノムDNAを含んだことを示唆した。
【0059】
アミノグリコシド(系)抗生物質ストレプトマイシンを含む培地で成長したM・ミコイデスLC細胞からのドナーゲノムDNAの調製は、ゲノム移植の効率を2倍にした。ゲノムに緊密性を誘導することができるストレプトマイシンは、ドナーゲノムの態様を変化させた。ストレプトマイシンなしで成長した細胞から単離されたドナーDNAの蛍光顕微鏡写真は、明るいドットがほとんど混ざってないDNA繊維のごたまぜを示す(図11A)。M・ミコイデスLC培養細胞をストレプトマイシンを含むSP4培地で成長させた場合、繊維というよりも明るいドットとして見えるDNAの分画は、さらに増強した(図11B)。明るいドットは、環状、スーパーコイル状態のゲノムを表すことができると信じられる。

レシピエント細胞調製及びゲノム移植反応条件
【0060】
M・カプリコルムレシピエント細胞を、培地のpHが6.2になるまで37℃でインキュベートした17%ウシ胎仔血清及び0.5%グルコースを含むSOB培地の6ml培地内で調製し、次に細胞を4,575g、15分間、10℃で遠心分離することによってペレット化した。更なる成長は、培地をさらに酸化して、レシピエント細胞をゲノム移植用により適さなくすることが見出された。pHが7.4から6.2まで減少すると、規則的な卵型のM・カプリコルム細胞が劇的に形を変えた。細胞は、より長く、より薄くないし細く、分枝状である(図12)。細胞を一度、[トリス 10mM−NaCl 250mM (pH 6.5)]で洗浄し、200μlのCaCl(0.1M)で再懸濁し、氷(上)で30分間保持した。その期間中、穴が大きいゲノムピペットチップを使用して、20μlのβ―アガラーゼ処理した複数のプラグ(〜50ng/μl)を、デリケートに血清を含まない400μlのSP4培地(SP4(−))の中に移し、30分間室温でインキュベートした。ゲノム移植のために、10μgの酵母tRNA(Invitrogen)と混合したM・カプリコルム細胞を20μlのM・ミコイデスLCホールゲノムDNAを含む400μlのSP4(−)の中に穏やかに移した。等量の2x融合バッファー[トリス 20mM、NaCl 500mM、MgCl 20mM、ポリエチレングリコール(PEG)8000 10%]を加え、内容物(液)をチューブを揺り動かすことによって穏やかに1分間混合した。50分間37℃で[インキュベートした]後、10mlのSP4を加え、3時間37℃でインキュベートして細胞を回復させた。最後に、細胞を4,575g、15分間、10℃で遠心分離し、0.7mlのSP4に再懸濁し、そして、3μg/mlのテトラサイクリン及び150μg/mlのX−Galを含むSP4アガー(寒天)プレート上に蒔いた。抗生物質クロラムフェニコール及びストレプトマイシンなどの他の抗生物質での処理は、移植の効率を顕著に増加させることも観察されている。
【0061】
プレートを37℃でインキュベートし、〜3日後、大きく青いコロニー(推定上のM・ミコイデスLC)が形成された。我々の移植培養細胞がドナーゲノム細胞調製プロセスからのM・ミコイデスLC細胞でコンタミするリスクを最小化するために、3つの別々の覆い(hoods)を細胞培養作業に使用した(1つは、M・ミコイデスLCドナー細胞調製用であり、1つは、M・カプリコルム用であり、1つは、移植クローンを用いる作業用である)。ときどき、〜10日後、(より)小さいコロニー(推定上カプリコルム、青と、白の両方)が可視化した。個々のコロニーを選び取り、5μg/mlのテトラサイクリンを含むブイヨン培地中で成長させた。増殖中に、テトラサイクリン濃度を徐々に10μg/mlまで増加させた。最初に開発されたとき、この技術は、全てのプラグにPFGEを施したが、後に、このステップは必要ないことがわかった。プラグのPFGEの結果としての移植収率において顕著な差は観察されなかった。
【0062】
各実験において2つのネガティブコントロールが含まれた。M・ミコイデスゲノムDNAが生育可能な細胞を含まなかったことを確証するために、1つのコントロールは、M・カプリコルムレシピエント細胞を使用しないことを除き、正確に上述のように処理した。同様に、別のコントロールにおいて、M・カプリコルムレシピエント細胞をいずれのドナーDNAを使用することなく、偽(模倣)移植した(mock transplanted)。一連の実験の結果を表1に示す。レシピエント細胞を欠くコントロール(複数)において、いずれもコロニーは全く観察されず、したがって、ドナーDNAは、生育可能なコンタミとしてのM・ミコイデスLC細胞を少しも含まなかった。









表1. コントロールを示す一連の実験の結果

この実験の後、6回の実験を行ったが、移植クローンを全く生じなかったことを表1にはリストしなかった。
これらの実験におけるより高いゲノム移植効率は、M・ミコイデスLCドナーゲノムを成長させることに使用したSP4培地におけるストレプトマイシンの含有に起因した。

推定上の移植(細胞)の解析
【0063】
M・ミコイデスLCゲノム移植から結果として得られた青く、テトラサイクリン耐性のコロニーは、あたかもゲノムがうまく(成功して)移植されたと期待(予測)されよう。しかしながら、その表現型を有するコロニーは、tetM及びlacZ遺伝子を含むM・ミコイデスLCゲノムDNAのフラグメントのM・カプリコルムゲノムへの組み換えの結果でもあり得る。組み換えを除外するために、移植クローンの表現型及び遺伝子型を調査した。

遺伝子型解析
【0064】
推定上の移植(クローンないし細胞)が選択されたtetM及びlacZマーカー遺伝子以外のM・ミコイデスLCシーケンスを有するか否かを決定するために、いくつかの移植クローンを各々の種に特異的なプライマーを使用してPCRによって解析した。PCRプライマーの特異性は、シーケンスされたM・ミコイデスLCゲノムにおいては11コピーが存在するが、M・カプリコルムゲノムには不在のIS1296挿入シーケンスに使用された。同様に、M・ミコイデスLCには存在しないM・カプリコルムのアルギニンデイミナーゼ遺伝子に特異的なPCRプライマーを使用した。IS1296PCRは、テンプレートがM・ミコイデス野生型ストレインであった場合、又は移植クローンの1つであった場合にのみ単位複製配列を生成した。同様に、M・カプリコルムアルギニンデイミナーゼPCRは、M・カプリコルムテンプレートDNAを使用した場合には単位複製配列を生成したが、M・ミコイデスLC野生型DNA、或いは移植クローンからのDNAを使用した場合には単位複製配列を生成しなかった。PCR実験は、M・カプリコルムゲノム内に、IS1296、tetM遺伝子及びlacZ遺伝子を含むM・ミコイデスLCゲノムのフラグメントが、それらがアルギニンデイミナーゼ遺伝子を破壊するように、組み換えられたという可能性も残した(図13)。ゲノム全体に着目する、より確信する遺伝子型解析は、ドナー及びレシピエントマイコプラズマ、そして、一連の推定上の移植(細胞)のサザンブロット解析を使用した。それらの種の各々からのゲノムDNAを制限酵素HindIIIで消化し、1%アガロースゲル(上)で泳動した。サザンブロットを調製し、IS1296シーケンスでプローブした。期待(予測)したように、プローブは野生型M・カプリコルムのレーンに全くハイブリダイズしなかった(図8)。この解析は、得られた全ての移植細胞(>200)、並びに一連のM・ミコイデスLCクローンについて行われた(図14)。いくつかは、バンディング(banding)パターンにおいてバリエーションを示したが、野生型M・ミコイデス及び推定上の移植(細胞)の多くのサザンブロットが同一であったことが観察された。これはIS要素の転移の結果であったと思われた。30個の非移植M・ミコイデスLCサンプル及び71個の移植細胞を用いたブロットの解析は、移植細胞におけるIS1296含有フラグメントにおける更なる多様性を示す。ドナーゲノムがM・カプリコルム細胞質の中に導入された移植の初期の段階においては、抑制が無いことがあり得るが、これに対し、M・ミコイデスLC細胞内ではIS1296要素の移動度(性)を多少抑制することができると、仮定された。次に、2つの移植クローンから生成されたホールゲノムライブラリのサンプルシークエンシングを行った。各クローンのゲノムからの1300を上回るシーケンスの解読文(結果)(>1Xゲノムをカバー)の解析は、全ての解読文(結果)がM・ミコイデスLCシーケンスと一致したことを示した。M・カプリコルムに特有のシーケンスは無かった。M・ミコイデスLC又はM・カプリコルムゲノムシーケンスと一致しなかった24個の解読文(結果)は、ほとんどが、M・ミコイデスLCにおける活性化トランスポゾンに起因すると予測され、そして、ライブラリ作成の部分とも予測される、非常に短い解読文(結果)(<200ベース)又はキメラクローンの結果のいずれかであった。上述の結果は、M・ミコイデスLCゲノムがうまく(成功的に)M・カプリコルムに導入され、その後、抗生物質による選択中にカプリコルムゲノムの欠落が起こるという仮説と全て一致した。

表現型解析
【0065】
移植クローンの表現型を2つの方法で調査した。1つは(第一に)、これら2つのマイコプラズマの各々に特徴的な単一の遺伝子生成物に着目した。コロニーウエスタンブロットを使用して、ドナー及びレシピエント細胞コロニー、そして4つの異なる移植(細胞)からのコロニーを、M・カプリコルムのVmcE及びVmcFの表面抗原に特異的なポリクローナル抗体で、そして、M・ミコイデスLCのVchLの表面抗原に特異的なモノクローナル抗体でプローブした。双方のアッセイにおいて、M・ミコイデスLC VchL(特異的抗体)がM・ミコイデスLCのブロットに結合したのと同様の輝度で、移植細胞のブロットは、M・ミコイデスLC VchL特異的抗体を結合させた(図15)。同様に、移植細胞のブロットは、M・カプリコルムVmcE及びVmcFに特異的な抗体を結合させなかった。さらに、全ての3つのストレインの細胞溶解液を、2次元電気泳動(2−DE)ゲルにおける差の表示を使用するプロテオミクス解析に供し、次に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix-assisted laser desorption ionization:MALDI)質量分析を使用してタンパク質のスポットの同定を行った。顕著に、M・ミコイデスLC及び移植クローンの2−DEのスポットのパターンは、2−DEの限度内で同様であったが、その一方では、M・カプリコルムの2−DEのスポットのパターンは、非常に異なった。50%を上回るそれぞれのスポットを、ゲル間で一致させることができなかった(図9A−C)。移植細胞のプロテオームは、M・ミコイデスLCのプロテオームと同じであり、M・カプリコルムの特徴を少しも有さないという更なる証拠をMALDI−MSのデータから得た。移植細胞のおよそ90個の同定したスポットに関して、Mascotアルゴリズムで得られた信頼度のスコアは、高いシーケンス相同性にもかかわらず、M・カプリコルムタンパク質に比べM・ミコイデスLCの方が例外なく等しいか又は高かった。94個のMS/MSスコアは、M・ミコイデスLCのタンパク質におけるペプチドシーケンスとユニークに一致し(Mascotの期待値は、0.11及び3.8x10−11の間)、いずれのペプチドもM・カプリコルムにユニークに一致しなかったという結果を得た。例えば、図9Dは、それぞれのM・ミコイデスLCのタンパク質のシーケンスにのみ一致する酢酸キナーゼのペプチドを表す。したがって、表現型アッセイも、移植細胞がM・ミコイデスLCであること、及びM・ミコイデスLCゲノムの移植の後であり、かつ、細胞分裂の際に2つのゲノムに分離する前のドナー及びレシピエント細胞ゲノム間の組み換えによって生じたM・カプリコルム−M・ミコイデスLCのモザイクの結果では無いことと一致した。

ゲノム移植効率の最適化
【0066】
どの因子(要素)がゲノム移植効率を支配するのかを決定するために、移植実験において使用されたM・カプリコルムレシピエント細胞の数及びM・ミコイデスLCゲノムDNAの量を変化させた。10〜5x10個の細胞が使用された場合、移植細胞の収率(ないし移植効率:transplant yield)は最適であった。より低いドナーDNA濃度では、移植されたゲノムDNAの量及び移植細胞の収率の間の比例関係があった。より高いドナーDNA濃度では、収率は、台地状(平坦な台面状)になった(表2)。後の実験において、上述した実験において使用されたように5%PEG8000(USB)の代わりに5%PEG6000(Fluka)を用いることは、およそ5倍の移植効率の増加をもたらしたことがわかった(表S3)。ドナーゲノムのRNase処理が、移植(効率)を低減させないことも観察された。

表2 移植したM・ミコイデスLCゲノムDNAの量を関数とするゲノム移植

2つの異なるプレートで観察された移植コロニー





表3 ゲノム移植効率に対するPEGの入手元及び分子量の影響

【0067】
これらのデータは、ある種から別の種へのホールゲノムの移植が、ドナーゲノムと同様の種である子孫をもたらすことを示す。しかしながら、それらは、移植のメカニズムを説明しない。マイコプラズマがそれらの細胞壁を欠く点で、哺乳類の細胞に類似するので、一連のアプローチが、大きなDNA分子を真核細胞へ転移させることに関して有効であるかを試験した。これらは、カチオン−界面活性剤媒介の形質移入、エレクトロポレーション、及び種々のカチオン性剤を使用するドナーゲノムの圧縮(コンパクション)を含んだ。これらのアプローチのいずれもホールゲノム移植に関する有効性を立証しなかったが、PEGをベースにした方法は、真核細胞に関して開発したPEG誘導性細胞融合法に類似と仮定できる。この仮説を検証するために、2つのM・カプリコルムの親ストレイン(1つは、染色体にtetMマーカーを保有し、他の1つは、安定なoriCプラスミド内にクロラムフェニコール耐性マーカー(CAT)を有する)を双方とも「レシピエント」細胞として調製し、混合し、移植実験に関して上述のような融合バッファーの存在中でインキュベートした。5%PEGの存在中にのみ、双方の抗生物質に耐性がある子孫が低頻度で得られた。細胞をCaClで前処理した場合に、コロニーの数は、およそ30xに増加した(表S4)。30クローンのシーケンス解析は、全てのクローンが、細胞内に、予測した(期待した)染色体及びプラスミドの位置において、tetM及びCATマーカーの両方を有することを示した。したがって、我々のPEGをベースにした方法の下で、M・カプリコルム細胞が融合すると結論付けられた。これらの結果は、M・カプリコルム細胞の融合は5%PEG中で最大であったことを表すShlomo Rottem氏の膜研究に一致する。唯小さいDNAセグメントが転移されるのみであるにも拘らず、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)への遺伝子転移も、細胞が融合しやすい濃度でPEGによって媒介された。いくつかの場合において、細胞が、裸状態のM・ミコイデスLCゲノムの周囲で融合することができることを想像することができる。これらのゲノムは、M・カプリコルム原形質内に捕捉されて、tetMタンパク質を発現し、一度テトラサイクリンを含むSP4アガー培地上に蒔かれた場合に、大きな融合細胞をして成長・分裂せしめる。M・ミコイデスゲノムを欠く細胞は、成長しない。最終的には(eventually)、今やPEGの不在において、細胞分裂及び染色体分離のプロセスを介して、テトラサイクリン耐性であるかにかかわらず正常の、β−ガラクトシダーゼを生成するM・ミコイデス細胞が、大きい青いコロニーをプレート上に生成する。この基本的なPEGが媒介するゲノム移植のアプローチは、抗生物質耐性遺伝子を含む裸状態のゲノムで他の種が移植されることを許容することができる。文献(the literature)は、より多くの一般的な細菌(conventional bacteria)において、プロトプラスト又はスフェロプラストを作るための細胞壁の部分的な消化が、それらが多量の他のDNAの組込みを受けることができるようにすることを示唆する。それにもかかわらず、この種のホールゲノムの転移は、自然には起こりそうに無い。SDS及びプロテイナーゼK処理の不在時には、M・ミコイデスLC細胞からの各様態(ヌクレオイド)は、それらが脱タンパク質化(deproteinized)されてしまうまで移植細胞を生成しないだろうということが観察された。自然に起こる脱プロテイン化かつ無傷(intact)の双方の状態にある自由浮遊性の細菌のゲノムはありそうにないので、ゲノム移植は、研究室にユニークな現象であろう。それにもかかわらず、細菌のDNA伝達(transfer)の5番目の形態が発見されたものであり、それは、修飾(修正)された天然のゲノム、あるいは合成生物学者によって開発されている方法によって生成される人工ゲノムを使用して新種生成のための基盤に、レシピエント細胞がなることを許容するものである。

表S4 M・カプリコルムにおける細胞融合


a 2つの親ストレインを、ゲノム移植実験に関して上記記載したように「レシピエント」細胞として同時に調製し、2xの融合バッファー[トリス 20mM、NaCl 500mM、MgCl 20mM、ポリエチレングリコール8000(PEG)10%]の存在中で混合した。

b 細胞外プラスミドDNAの取り込みではなく、細胞融合に起因するコロニーを示すため、PEG−細胞混合物(液)中の10ユニットのDNase I(New England Biolabs(社))を添加。

c 2つの親ストレインを(a)に記載したように処理したが、2x融合バッファー[トリス 20mM、NaCl 500mM、MgCl 20mM]は、PEGを全く含まなかった。

d 2つの親ストレインを(a)に記載したように処理したが、CaCl処理は省略した。細胞は、洗浄バッファー[トリス 10mM、pH 6.5、NaCl 250mM]の中で、氷上で、30分間、プレインキュベートした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の種からドナーゲノムを調製すること、
第二の種からレシピエント細胞を調製すること、ここで、第一の種および第二の種は、双方とも、同一の属からのものであり、そして
単離したドナーゲノムをレシピエント細胞に組込み、それによって、ドナーゲノムがレシピエント細胞を第一の種のそれ(表現型)に表現型的に形質転換すること
を含む種間ゲノム移植方法。
【請求項2】
ドナーゲノムを第一の種の細胞から単離することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドナーゲノムを合成的に調製することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ドナーゲノムが、選択マーカーを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質は、組込みの前にドナーゲノムから取り除かれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
レシピエント細胞は、レシピエントゲノムを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ドナーゲノムが、レシピエントゲノム内のシーケンスを認識するが、ドナーゲノム内のシーケンスは認識しない制限エンドヌクレアーゼをエンコードすることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ドナーゲノムをメチル化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ドナーゲノムは、GATCがDamでメチル化されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第一の種は、マイコプラズマ・ミコイデス ラージコロニー(LC)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
第二の種は、マイコプラズマ・カプリコルムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第一の種からドナーゲノムを調製すること、
第二の種からレシピエントミニセルを調製すること、ここで、第一の種および第二の種は、双方とも、同一の属からのものであり、そして
レシピエントミニセルにドナーゲノムを組込み、それによって、ドナーゲノムが、レシピエント細胞を第一の種のそれ(表現型)に表現型的に形質転換すること
を含むミニセルにおけるゲノム組込み方法。
【請求項13】
ドナーゲノムを、第一の種の細胞から単離することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ドナーゲノムを、合成的に調製することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ドナーゲノムが、選択マーカーを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
タンパク質は、組込みの前にドナーゲノムから取り除かれることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
第一の種は、マイコプラズマ・ミコイデス ラージコロニー(LC)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
第二の種は、マイコプラズマ・カプリコルムであることを特徴とする請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−519263(P2011−519263A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506659(P2010−506659)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/062307
【国際公開番号】WO2008/144192
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509303567)シンセティック ゲノミクス、インク. (2)
【Fターム(参考)】