説明

レドックスフロー電池

【課題】高い起電力を有しながら、析出物の析出を抑制できるレドックスフロー電池(RF電池)、及びレドックスフロー電池の運転方法を提供する。
【解決手段】RF電池100は、正極電極104と、負極電極105と、両電極104,105間に介在される隔膜101とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行う。正極電解液及び負極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。RF電池100は、正極活物質にマンガンイオンを利用し、正極電解液にチタンイオンを含有することで、MnO2の析出を抑制し、良好に充放電を行える。また、RF電池100は、従来のバナジウム系レドックスフロー電池と同等以上の高い起電力を有する。更に、RF電池100は、両極の電解液の金属イオン種が等しいため、電池容量の低下の抑制、液移りよる液量のアンバランスの是正が容易、電解液の製造性の向上という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池、及びその運転方法に関するものである。特に、高い起電力が得られるレドックスフロー電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が予測されている。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池セルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。上記電解液は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が利用される。正極に鉄イオン、負極にクロムイオンを用いる鉄-クロム系レドックスフロー電池の他、正極及び負極の両極にバナジウムイオンを用いるバナジウム系レドックスフロー電池が代表的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄-クロム系レドックスフロー電池やバナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供することにある。また、本発明の他の目的は、優れた電池特性を有する状態を維持できるレドックスフロー電池の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe2+/Fe3+が0.77V、V4+/V5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質の金属イオンとして、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価であって資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、マンガンイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。
【0008】
しかし、正極活物質の金属イオンにマンガンイオンを用いた場合、充放電に伴って固体のMnO2が析出するという問題がある。
Mn3+は不安定であり、マンガンイオンの水溶液では、以下の不均化反応によってMn2+(2価)及びMnO2(4価)を生じる。
不均化反応:2Mn3++2H2O ⇔ Mn2++MnO2(析出)+4H+
【0009】
上記不均化反応の式から、H2Oを相対的に減らす、例えば、電解液の溶媒を硫酸水溶液といった酸の水溶液とするとき、当該溶媒中の酸(例えば、硫酸)の濃度を高めることで、MnO2の析出をある程度抑制できることがわかる。ここで、上述したような大容量の蓄電池として実用的なレドックスフロー電池とするためには、エネルギー密度の点から、マンガンイオンの溶解度が0.3M以上であることが望まれる。しかし、マンガンイオンは、酸濃度(例えば、硫酸濃度)を高めると、溶解度が低下する特性を有する。即ち、MnO2の析出を抑制するために酸濃度を高めると、電解液中のマンガンイオンの濃度が高くできず、エネルギー密度の低下を招く。また、酸の種類によっては、酸濃度を高めることで電解液の粘度が増加して使用し難いという問題も生じる。
【0010】
本発明者らは、正極活物質にマンガンイオンを用いても、Mn(3価)の不均化反応に伴う析出が生じ難く、Mn2+/Mn3+の反応が安定して行われ、実用的な溶解度が得られる構成を更に検討した。その結果、詳しいメカニズムは不明であるが、正極電解液に、マンガンイオンと共にチタンイオンを存在させることで、上記析出を効果的に抑制できることを見出した。特に、正極電解液の充電状態(SOC:State of Charge、充電深度と言うことがある。)を、マンガンイオンの反応を全て1電子反応(Mn2+→Mn3++e-)で計算した場合に90%超、更に130%以上という高い充電状態で充電を行っても上記析出が実質的に観察されない、という驚くべき事実を見出した。このようにマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、上記析出を効果的に抑制できることから、溶媒の酸濃度を不必要に高くする必要が無く、マンガンイオンの溶解度を十分に実用的な値にすることができる。また、上記充電状態を100%以上に充電させた場合に充電過程で生成されたと考えられるMnO2(4価)は、析出物とならず、放電過程でMn(2価)に還元され得るという新たな事実も見出した。そして、正極活物質にマンガンイオンを用い、負極活物質にチタンイオンを用いた、Ti/Mn系レドックスフロー電池は、高い起電力を有することができ、かつ上記金属イオンが高濃度に溶解された電解液を用いて、安定して良好に動作することができる、との知見を得た。特に、マンガンイオンを正極活物質とし、かつ負極電解液もマンガンイオンを含有する電解液とし、両極の電解液中の金属イオン種を等しくすると、(1)金属イオンが対極に移動して、各極で本来反応する金属イオンが相対的に減少することによる電池容量の減少現象を効果的に回避できる、(2)充放電に伴って経時的に液移り(一方の極の電解液が他方の極に移動する現象)が生じて両極の電解液の液量やイオン濃度にばらつきが生じた場合でも、両極の電解液を混合するなどして、上記ばらつきを容易に是正できる、(3)電解液の製造性に優れる、といった特有の効果を奏し得る。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0011】
本発明は、正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池に係るものである。上記正極電解液及び上記負極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。
【0012】
上記構成によれば、従来のレドックスフロー電池と同等以上の高い起電力が得られる上に、比較的安価な金属イオンを正極活物質及び負極活物質に利用することで、活物質を安定して供給できると期待される。かつ、上記構成によれば、正極電解液にマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、マンガンイオンを活物質に利用しながらも、MnO2を実質的に析出させることが無く、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行えることから、良好に充放電動作を行うことができる。また、MnO2が生成された場合にも析出されず、MnO2を活物質として利用でき、より大きな電池容量を実現できる。更に、上記構成によれば、両極の電解液中の金属イオン種が等しいことで、対極への金属イオンの移動に伴う電池容量の低下を抑制できることから、長期に亘り、安定した電池容量を確保することができる。そして、上記構成によれば、MnO2の析出を抑制できることから、溶媒の酸濃度を過剰に高くする必要が無いため、正極電解液におけるマンガンイオンの溶解度を高められ、実用的なマンガンイオン濃度を有することができる。その他、上記構成によれば、両極の電解液中の金属イオン種が等しいことで、液移りによる液量やイオン濃度のばらつきを容易に是正できる上に、電解液の製造性にも優れる。従って、本発明レドックスフロー電池は、新エネルギーの出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化に好適に利用できると期待される。
【0013】
上記正極電解液の具体的な形態として、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有する形態が挙げられる。上記いずれかのマンガンイオンを含有することで、放電時:2価のマンガンイオン(Mn2+)が存在し、充電時:3価のマンガンイオン(Mn3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両マンガンイオンが存在する形態となる。正極活物質に上記二つのマンガンイオン:Mn2+/Mn3+を利用することで標準酸化還元電位が高いため、高い起電力のレドックスフロー電池とすることができる。また、上記マンガンイオンに加えて、4価のチタンイオンが存在することで、上述のようにMnO2の析出を抑制することができる。4価のチタンイオンは、例えば、硫酸塩(Ti(SO4)2、TiOSO4)を電解液の溶媒に溶解することで電解液に含有させることができ、代表的にはTi4+で存在する。その他、4価のチタンイオンは、TiO2+などを含み得る。なお、正極に存在するチタンイオンは、主としてMnO2の析出の抑制に作用し、活物質として積極的に作用しない。
【0014】
本発明では、上述のようにチタンイオンの存在によりMnO2の析出の抑制を図るが、実際の運転では、充電状態によっては4価のマンガンが存在していると考えられる。従って、本発明の一形態として、正極電解液が2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有する形態が挙げられる。4価のマンガンはMnO2と考えられるが、このMnO2は固体の析出物ではなく、電解液中に溶解したように見える安定な状態で存在していると考えられる。この電解液中に浮遊するMnO2は、放電時、2電子反応として、Mn2+に還元され(放電して)、即ち、MnO2が活物質として作用して、繰り返し使用できることで、電池容量の増加に寄与する。
【0015】
一方、負極電解液は、負極活物質としてチタンイオンを含有し、更に、正極電解液の金属イオン種と揃うようにマンガンイオンを含有する。このような本発明のチタン-マンガン系レドックスフロー電池では、1.4V程度の起電力が得られる。
【0016】
具体的には、負極電解液は、3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有する形態が挙げられる。上記いずれかのチタンイオンを含有することで、放電時:4価のチタンイオン(Ti4+、TiO2+など)が存在し、充電時:3価のチタンイオン(Ti3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両チタンイオンが存在する形態となる。但し、チタンイオンには、2価のものが存在し得る。従って、負極電解液として、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有する形態としてもよい。負極活物質に含有するマンガンイオンは、活物質として機能させるのではなく、主として、両極の電解液の金属イオン種を等しくさせるために含有する。
【0017】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記正極電解液のチタンイオンの濃度が上記正極電解液のマンガンイオンの濃度の50%以上である形態が挙げられる。
【0018】
本発明者らが調べたところ、後述する試験例に示すように、正極電解液において、正極活物質として利用するマンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比:正極Ti/正極Mnが高いほど、エネルギー密度や起電力を高められる、との知見を得た。具体的には、上記形態のように、正極Ti/正極Mnを50%以上とすることでエネルギー密度などを向上できる。この理由は、正極Ti/正極Mnが上記範囲を満たすことで、正極のチタンイオンの濃度が相対的に高められて、MnO2の析出物(固体)の生成を効果的に抑制できると共に、正極のマンガンイオンが、充電時、2価→3価の1電子反応に加えて、3価→4価の反応も併せることで2電子反応も行えるようになり、1電子反応のみの場合と比較して、約1.5倍のエネルギー密度が得られるためである、と考えられる。上記イオン濃度の比:正極Ti/正極Mnが高いほど、エネルギー密度などが高められ、正極Ti/正極Mnが80%以上の場合、エネルギー密度をより高められる上に、マンガンの起電力をより高められ、正極Ti/正極Mnが100%以上の場合、即ち、正極のチタンイオンの濃度が正極のマンガンイオンの濃度と同等以上である場合、マンガンの起電力を最大にできる。上記イオン濃度の比:正極Ti/正極Mnの上限は特に設けないが、正極のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度は、後述する特定の範囲を満たすことが好ましい。なお、長期に亘り運転を行う場合は、各イオンの濃度を監視しておき、必要に応じて濃度の調整をしてもよい。
【0019】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と、上記負極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とがそれぞれ等しい形態が挙げられる。
【0020】
本発明者らが調べたところ、正極電解液のマンガンイオンの濃度が負極電解液のマンガンイオンの濃度より高い場合、正極のマンガンイオンが経時的に負極側に拡散して(液移りによりイオンが移動して)、正極のマンガンイオンの濃度が低下する、即ち、正極活物質が低減する恐れがある、との知見を得た。また、正極電解液のチタンイオンの濃度が負極電解液のチタンイオンの濃度よりも高い場合、正極のチタンイオンも負極側に拡散して(液移りによりイオンが移動して)、正極電解液のチタンイオンの濃度が低下し、MnO2の析出物(固体)の生成を十分に抑制できなくなる恐れがある、との知見を得た。そして、上記のように正極のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度が負極のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度よりも高い場合、電池容量やエネルギー密度の低下を招く、との知見を得た。そこで、長期に亘って運転を行う場合、正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と負極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とをそれぞれ等しくすること、即ち、正極電解液及び負極電解液の両極電解液を同組成とすることを提案する。この正負極の金属イオンの濃度が等しい形態は、対極への金属イオンの移動に伴う電池容量などの減少を抑制でき、長期に亘って、エネルギー密度が高いなど優れた電池特性を有する状態を維持できる。また、この形態は、両極電解液が同組成であることで電解液の製造性にも優れる上に、液移りが生じた場合でも液移りの是正が容易である。
【0021】
本発明レドックスフロー電池の運転方法として、上記正極電解液と上記負極電解液とを混合することで、上記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と、上記負極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とをそれぞれ等しくすることを提案する。
【0022】
運転開始前において両極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度がそれぞれ異なっている場合、上述のように経時的にイオンが移動して電池容量やエネルギー密度の低下を招くことがある。そこで、長期の運転を行う場合は、濃度を監視しておき、適宜な時期に両極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度をそれぞれ等しくすると、イオンの移動を効果的に防止でき、当該濃度の調整以降、エネルギー密度が高いなどの優れた電池特性を有する状態を維持できる。濃度を等しくする方法としては、別途、所望のイオンを用意して添加することが考えられるが、両極電解液を混合することが最も簡単に行えて作業性に優れる。なお、運転開始前において両極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度を等しくした形態においても濃度を監視しておき、適宜な時期に濃度の調整操作を行っても勿論よい。
【0023】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記マンガンイオン及びチタンイオンの各濃度がいずれも0.3M以上5M以下である形態が挙げられる(「M」:体積モル濃度)。
【0024】
両極の活物質となる金属イオンの濃度が0.3M未満では、大容量の蓄電池として十分なエネルギー密度(例えば、10kWh/m3程度、好ましくはそれ以上)を確保することが難しい。エネルギー密度の増大を図るためには、上記金属イオンの濃度は高い方が好ましく、0.5M以上、更に1.0M以上がより好ましい。本発明では、正極電解液中にチタンイオンを存在させることで、マンガンイオンの濃度を0.5M以上、1.0M以上といった非常に高濃度としても、Mn(3価)が安定しており、析出物を抑制できるため、良好に充放電を行うことができる。但し、電解液の溶媒を酸の水溶液とする場合、酸濃度をある程度高めると上述のようにMnO2の析出を抑制できるものの、酸濃度の上昇により金属イオンの溶解度の低下、ひいてはエネルギー密度の低下を招くことから、上記金属イオンの濃度の上限は、5Mと考えられる。正極活物質として積極的には機能しない正極電解液中のチタンイオンも、濃度が0.3M〜5Mを満たすことで、MnO2の析出を十分に抑制することができると共に、上述のように正極電解液の溶媒を酸の水溶液とする場合に酸濃度をある程度高められる。
【0025】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記両極極電解液の溶媒は、H2SO4、K2SO4、Na2SO4、H3PO4、H4P2O7、K2PO4、Na3PO4、K3PO4、HNO3、KNO3、及びNaNO3から選択される少なくとも一種の水溶液である形態が挙げられる。
【0026】
上述のように両極の活物質となる金属イオンや析出抑制のための金属イオン、活物質として積極的に機能しない金属イオンがいずれも水溶性イオンであるため、両極の電解液の溶媒として、水溶液を好適に利用できる。特に、水溶液として、上記硫酸、リン酸、硝酸、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩の少なくとも一種を含有する場合、(1)金属イオンの安定性の向上や反応性の向上、溶解度の向上が得られる場合がある、(2)Mnのような電位が高い金属イオンを用いる場合でも、副反応が生じ難い(分解が生じ難い)、(3)イオン伝導度が高く、電池の内部抵抗が小さくなる、(4)塩酸(HCl)を利用した場合と異なり、塩素ガスが発生しない、といった複数の効果が期待できる。この形態の電解液は、硫酸アニオン(SO42-)、リン酸アニオン(PO43-)、及び硝酸アニオン(NO3-)の少なくとも一種が存在する。但し、電解液中の上記酸の濃度が高過ぎると、マンガンイオンなどの溶解度の低下や電解液の粘度の増加を招く恐れがあるため、上記酸の濃度は5M未満が好ましいと考えられる。
【0027】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記両極電解液が硫酸アニオン(SO42-)を含有する形態が挙げられる。このとき、上記両極電解液の硫酸濃度は5M未満が好ましい。
【0028】
両極電解液が硫酸アニオン(SO42-)を含有する形態では、上述したリン酸アニオンや硝酸アニオンを含有する場合と比較して、両極の活物質となる金属イオンの安定性や反応性、析出抑制のための金属イオンの安定性、両極の金属イオン種を等しくすることを目的とし、活物質として積極的に機能しない金属イオンの安定性などを向上できるため好ましい。両極電解液が硫酸アニオンを含有するには、例えば、上記金属イオンを含む硫酸塩を利用することが挙げられる。更に、硫酸塩を用いることに加えて、電解液の溶媒を硫酸水溶液とすると、上述のように金属イオンの安定性や反応性の向上、副反応の抑制、内部抵抗の低減などを図ることができる。但し、硫酸濃度が高過ぎると、硫酸イオンが存在することで上記溶解度の低下を招くため、硫酸濃度は、5M未満が好ましく、1M〜4Mが利用し易い。
【0029】
上記両極電解液が硫酸アニオンを含有する形態として、上記両極電解液の硫酸濃度が1M以上3M以下、上記両極電解液のマンガンイオンの濃度が0.5M以上1.5M以下、上記両極電解液のチタンイオンの濃度が0.5M以上1.5M以下である形態が挙げられる。
【0030】
電解液に水溶液を用いる場合、有機溶媒を用いる場合と比較してエネルギー密度が小さい傾向にある。そのため、電解液として水溶液を用いるレドックスフロー電池システムを構築した場合、各極電解液を貯留するタンクが大きな体積を占める。より小型なシステムにするためには、電解液のエネルギー密度を高めることが好ましい。エネルギー密度を高める手法として、所望のイオンの溶解度を十分に高めることが挙げられる。例えば、上述のように溶媒に用いる硫酸水溶液において硫酸濃度をある程度低くすることが考えられる。一方、電池に求められる別の特性として、セル抵抗率が小さいことが挙げられる。セル抵抗率は、後述する試験例に示すように硫酸濃度が高いほど小さくなる傾向にある。そこで、エネルギー密度が高く、かつセル抵抗率も小さい、という要求を満たすレドックスフロー電池を検討した結果、硫酸濃度:1M〜3M、各極電解液のマンガンイオンの濃度及びチタンイオンの濃度:0.5M〜1.5Mが好ましい、と知見を得た。硫酸濃度:1.5M以上2.5M以下、各極電解液のマンガンイオンの濃度:0.8M以上1.2M以下、各極電解液のチタンイオンの濃度:0.8M以上1.2M以下がより好ましい。実用的により好ましい溶解度は1M以上と考えられることから、各極電解液の少なくとも活物質となるイオンの濃度は、1M以上がより好ましい。
【0031】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記正極電極及び上記負極電極は、以下の(1)〜(10)から選択される少なくとも一種の材料から構成された形態が挙げられる。
(1) Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材(例えば、Ti基体にIr酸化物やRu酸化物を塗布したもの)、(2) 上記複合材を含むカーボン複合物、(3) 上記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、(4) 導電性ポリマ(例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどの電気を通す高分子材料)、(5) グラファイト、(6) ガラス質カーボン、(7) 導電性ダイヤモンド、(8) 導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、(9) カーボンファイバからなる不織布、(10) カーボンファイバからなる織布
【0032】
ここで、電解液を水溶液とする場合、Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位が酸素発生電位(約1.0V)よりも貴な電位であることで、充電時、酸素ガスの発生を伴う可能性がある。これに対し、例えば、カーボンファイバからなる不織布(カーボンフェルト)から構成される電極を利用すると、酸素ガスが発生し難く、導電性ダイヤモンドから構成される電極の中には、酸素ガスが実質的に発生しないものがある。このように電極材料を適宜選択することで、酸素ガスの発生をも効果的に低減又は抑制できる。また、上記カーボンファイバからなる不織布から構成される電極は、(1)表面積が大きい、(2)電解液の流通性に優れる、といった効果がある。
【0033】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、上記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜である形態が挙げられる。膨潤性隔膜とは、官能基を持たず、かつ水を含む高分子(例えば、セロハン)で構成された隔膜を言う。イオン交換膜は、(1)正負極の活物質である金属イオンの隔離性に優れる、(2)H+イオン(電池内部の電荷担体)の透過性に優れる、といった効果があり、隔膜に好適に利用することができる。特に、イオン交換膜は、チタンイオンやマンガンイオンの透過性が小さいものであると、マンガンイオンやチタンイオンの拡散防止効果が期待できる。このようなイオン交換膜として、例えば、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との共重合体から構成されたものが挙げられる。市販品を利用してもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明レドックスフロー電池は、高い起電力が得られる上に、析出物の生成を抑制できる。本発明レドックスフロー電池の運転方法は、長期に亘り、エネルギー密度が高く、電池特性に優れる状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、レドックスフロー電池を具える電池システムの動作原理を示す説明図である。
【図2】図2は、試験例1で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、各極の電解液量や電流密度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、硫酸濃度(M)と、マンガンイオン(2価)の溶解度(M)との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、試験例2で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、両極電解液として同組成の電解液を用いて充放電を行ったときの経時的な電流効率の変化、及び放電容量の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、硫酸濃度(M)と、マンガンイオン及びチタンイオンの溶解度(M)との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、硫酸濃度(M)と、セル抵抗率(Ω・cm2)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図1を参照して、実施形態のレドックスフロー電池を具える電池システムの概要を説明する。また、図1において、実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。その他、図1に示す金属イオンは代表的な形態を示しており、図示される以外の形態も含み得る。例えば、図1では、4価のチタンイオンとしてTi4+を示すが、TiO2+などのその他の形態も含み得る。
【0037】
レドックスフロー電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池100と、この電池100に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを具える以下の電池システムが構築される。
【0038】
レドックスフロー電池100は、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜101とを具える。正極セル102には、正極電解液用のタンク106が配管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用のタンク107が配管109,111を介して接続される。配管108,109には、各極の電解液を循環させるためのポンプ112,113を具える。レドックスフロー電池100は、配管108〜111、ポンプ112,113を利用して、正極セル102(正極電極104)、負極セル103(負極電極105)にそれぞれタンク106の正極電解液、タンク107の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0039】
レドックスフロー電池100は、代表的には、上記セル102,103を複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される。上記セル102,103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを具えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成し、この流路は配管108〜111に適宜接続される。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。なお、レドックスフロー電池システムの基本構成は、公知の構成を適宜利用することができる。
【0040】
特に、本発明では、上記正極電解液及び上記負極電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。また、本発明では、マンガンイオンを正極活物質とし、チタンイオンを負極活物質とする。以下、試験例を挙げて説明する。
【0041】
[試験例1]
図1に示すレドックスフロー電池システムを構築し、正極電解液及び上記負極電解液に、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する電解液を用いて充放電を行い、析出状態及び電池特性を調べた。
【0042】
この試験では、正極電解液及び上記負極電解液の双方が同一の金属イオン種を含有するように、正極電解液及び負極電解液を同じ組成とした。具体的には、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸マンガン(2価)及び硫酸チタン(4価)を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度かつチタンイオン(4価)の濃度がいずれも1.2Mの電解液を用意した(正極Ti/正極Mn=1.0(100%))。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
【0043】
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型の単セル電池を作製し、形態(I)では、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、形態(II),(III)ではそれぞれ、正極電解液を6ml(6cc)、負極電解液を9ml(9cc)用意して、これらの電解液を用いて充放電を行った。特に、この試験では、充電と放電とを切り替えるときの電池電圧:切替電圧を上限充電電圧とし、形態(I)〜(III)のいずれも切替電圧を1.7Vとした。充電及び放電は、形態(I)及び(III):電流密度:50mA/cm2の定電流で行い、形態(II):電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、上記切替電圧に達したら、充電から放電に切り替えた。
【0044】
各形態(I),(II),(III)のレドックスフロー電池について、初期の充電時間の充電状態:SOCを測定した。充電状態は、通電した電気量(積算値:A×h(時間))が全て充電(1電子反応:Mn2+→Mn3++e-)に使用されたと想定して、以下のように算出した。この試験では、充電効率がほぼ100%であり、通電した電気量が全て充電に使用されたと想定しても誤差は小さいと考えられる。
【0045】
充電電気量(A・秒)=充電時間(t)×充電電流(I)
活物質電気量=モル数×ファラデー定数=体積×濃度×96,485(A・秒/モル)
理論充電時間=活物質電気量/充電電流(I)
充電状態=充電電気量/理論充電電気量
=(充電時間×電流)/(理論充電時間×電流)
=充電時間/理論充電時間
【0046】
図2(I)に形態(I)、図2(II)に形態(II)、図2(III)に形態(III)の充放電サイクル時間と電池電圧との関係を示す。形態(I)の充電状態は101%(26min)であり、負極電解液量を正極電解液量よりも多くして充電状態を高めたところ、形態(II)の充電状態は110%(20.2min)である。また、各極の電解液量を形態(II)と同様とし、電流密度を70mA/cm2から50mA/cm2に下げることで充電状態を高めたところ、形態(III)の充電状態は139%(35.6min)である。そして、このように充電終了時の正極電解液の充電状態が100%を超えるまで、更には130%を超えるまで充電を行った場合でも、析出物(MnO2)が実質的に全く観察されず、2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として問題なく機能することが確認できた。この結果から、正極電解液にチタンイオンを含有することで、Mn3+が安定化されていると共に、MnO2が生成されても析出物とならず安定して電解液中に存在して、充放電反応に作用していると推測される。
【0047】
また、各形態(I),(II),(III)のそれぞれについて、上記充放電を行った場合の電流効率、電圧効率、エネルギー効率を調べた。電流効率は、放電電気量(C)/充電電気量(C)、電圧効率は、放電電圧(V)/充電電圧(V)、エネルギー効率は、電流効率×電圧効率で表わされる。これらの各効率は、通電した電気量の積算値(A×h(時間))、充電時の平均電圧及び放電時の平均電圧をそれぞれ測定して、これら測定値を利用して算出する。
【0048】
その結果、形態(I)では、電流効率:98.8%、電圧効率:88.9%、エネルギー効率:87.9%、形態(II)では、電流効率:99.8%、電圧効率:81.6%、エネルギー効率:81.4%、形態(III)では、電流効率:99.6%、電圧効率:85.3%、エネルギー効率:85.0%であり、いずれの場合も優れた電池特性を有することが確認できた。
【0049】
ここで、体積:6ml、マンガンイオン(2価)の濃度:1.2Mの電解液における1電子反応(Mn3++e-→Mn2+)の理論放電容量(ここでは電流値が一定であるため放電時間で記載する)は25.7分(50mA/cm2)である。これに対して、形態(I)〜(III)の放電容量はそれぞれ、24.2min(50mA/cm2),20.1min(70mA/cm2),33.5min(50mA/cm2)である。放電容量がこのように増加した理由は、充電時に生成されたMnO2(4価)が2電子反応によりマンガンイオン(2価)に還元されたためと考えられる。また、この理由は、正極電解液のイオン濃度の比:正極Ti/正極Mnが50%以上であったことが考えられる。このことから、2電子反応(4価→2価)に伴う現象を利用することで、エネルギー密度が高められ、より大きな電池容量が得られると考えられる。
【0050】
このように正極活物質としてマンガンイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池であっても、チタンイオンを存在させることで、MnO2といった析出物の析出を効果的に抑制し、良好に充放電を行えることが分かる。特に、この試験例に示すチタン-マンガン系レドックスフロー電池では、約1.4Vといった高い起電力を有することができる。また、このレドックスフロー電池は、正負両極の電解液に存在する金属イオン種が等しいため、(1)対極への金属イオンの移動に伴う電池容量の減少が実質的に生じない、(2)液移りが生じて両極の電解液の液量やイオン濃度にばらつきが生じたとしても、ばらつきを容易に是正できる、(3)電解液を製造し易い、という優れた効果を奏する。更に、カーボンフェルト製の電極を利用することで、酸素ガスの発生は、実質的に無視できる程度であった。
【0051】
[試験例2]
硫酸(H2SO4)に対するマンガンイオン(2価)の溶解度を調べた。その結果を図3に示す。図3に示すように硫酸濃度の増加に従って、マンガンイオン(2価)の溶解度が減少し、硫酸濃度が5Mの場合、溶解度は0.3Mとなることが分かる。逆に、硫酸濃度が低い領域では、4Mという高い溶解度が得られることが分かる。この結果から、電解液中のマンガンイオン濃度を高めるためには、特に、実用上望まれる0.3M以上の濃度を得るためには、電解液の溶媒に硫酸水溶液を用いる場合、硫酸濃度を5M未満と低くすることが好ましいことが分かる。
【0052】
[試験例3]
図1に示すレドックスフロー電池システムを構築し、長期に亘り充放電を行って、電池特性(放電容量、電流効率、電圧効率、エネルギー効率)を調べた。
【0053】
この試験では、正極電解液及び負極電解液を同じ組成とした。具体的には、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液に、硫酸マンガン(2価):MnSO4及び硫酸チタン(4価):TiOSO4を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度:1M、チタンイオン(4価)の濃度:0.8M(正極Ti/正極Mn=0.8(80%))の電解液を用意した。
【0054】
この試験では、各極電解液量:3L(リットル)程度、隔膜:陰イオン交換膜、各極の電極:カーボンフェルト、各電極の面積:500cm2とし、出力50W程度が得られる電池セルを具えるTi/Mn系レドックスフロー電池システムを構築した。
【0055】
上記レドックスフロー電池を電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を行った(切替電圧:1.5V)。運転中の電流効率及び放電容量を図4に示す。電流効率、電圧効率、エネルギー効率は、試験例1と同様にして求めた。放電容量(Ah)は、放電時間(h)×電流(A)(電流=電流密度×電極面積)により求めた。その結果、約3週間に亘り充放電を継続しても、電流効率:ほぼ99.7%、放電容量:ほぼ32Ahを維持しており、実質的に低下しなかった。また、抵抗が大きく変化しなかったことで電圧効率がほぼ85%と一定であったことから、エネルギー効率もほぼ85%で一定であり、実質的に低下しなかった。このような結果となったのは、両極電解液として、同組成(各極電解液中の同種の金属イオンの濃度がそれぞれ等しい)の電解液を用いたことで、マンガンイオン及びチタンイオンが拡散することを抑制できたためであると考えられる。また、正極Ti/正極Mnが十分に大きいことで、正極のチタンイオンがMnO2の析出物(固体)の生成を効果的に抑制できると共に、2電子反応が行われることで放電容量を高められたと考えられる。従って、正極のマンガンイオンの濃度と負極のマンガンイオンの濃度、正極のチタンイオンの濃度と負極のチタンイオンの濃度がそれぞれ等しい電解液や、正極電解液においてマンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比が高い電解液を具えるTi/Mn系レドックスフロー電池は、長期に亘り、優れた電池特性を維持できる、即ち、長期に亘り安定した性能を有すると言える。
【0056】
なお、運転開始時、各極電解液に上述のような同組成の電解液を用いていない場合でも、使用時、各極タンクに貯留された各極電解液のイオンの濃度を適宜測定し、正極のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と負極のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とがそれぞれ等しくなるように、濃度の調整を行ってもよい。例えば、両極電解液を混合することで両極のイオンの濃度を等しくすることが挙げられる。両極電解液の混合には、例えば、各極電解液を貯留する各極タンクを連結する配管と、この配管に設けられて両極間を導通・不通を切替可能にする開閉栓とを具えるシステムを構築することが挙げられる。必要に応じて上記開閉栓を開閉することで、配管を介して両極タンクの電解液を簡単に混合できる。
【0057】
[試験例4]
硫酸(H2SO4)に対するマンガンイオン(2価)及びチタンイオン(4価)の双方を溶解させたときの溶解度を調べた。
【0058】
ここでは、表1に示す種々の硫酸濃度(M=mol/L)の硫酸水溶液を用意し、各硫酸水溶液に硫酸マンガン(2価):MnSO4及び硫酸チタン(4価):TiOSO4を溶解して、マンガンイオン濃度(M)及びチタンイオン濃度(M)の双方の濃度が等しい場合に溶解可能な最大の濃度を表1及び図5に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1及び図5に示すように、硫酸濃度を3M以下とすることで、マンガンイオン及びチタンイオンの双方に対して、1M以上の溶解度を確保できることが分かる。従って、実用的な溶解度であると考えられる0.3M以上を十分に満たす。また、硫酸濃度の増加に従って、マンガンイオン及びチタンイオンの溶解度が減少することが分かる。
【0061】
[実施例5]
図1に示すレドックスフロー電池システムを構築し、両極電解液として、硫酸濃度:1M〜3M、マンガンイオン及びチタンイオンの濃度:1M〜1.5Mの電解液を用いて充放電を行い、電流効率、エネルギー密度、セル抵抗率を調べた。
【0062】
この試験では、両極の電解液に種々の組成の電解液を用いた以外の点は、試験例1と同様の仕様の小型の単セル電池を構成した(隔膜:陰イオン交換膜、各極の電極:カーボンフェルト電極、各電極の面積:9cm2、各極電解液量:6ml(6cc))。両極の電解液は同じ組成の電解液を用いた。そして、電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を行い(切替電圧:1.5V)、上記各特性を調べた。その結果を表2に示す。電流効率は、試験例1と同様にして求めた。エネルギー密度は、放電平均電圧(V)×放電時間(h)×電流値(A)÷電解液体積(m3)から算出した。セル抵抗率は、{(充電時の平均端子電圧(V)−放電時の平均端子電圧(V))/(2×電流密度(A/cm2))}により求めた。セル抵抗率(Ω・cm2)と硫酸濃度(M)との関係を図6に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2及び上述した試験例4に示すように、硫酸濃度が低いほど、マンガンイオン及びチタンイオンの溶解度が高いことが分かる。しかし、セル抵抗率は、表2及び図6に示すように、硫酸濃度が高いほど、小さいことが分かる。そして、硫酸濃度:1M〜3M、両極電解液のチタンイオンの濃度及びマンガンイオンの濃度:0.5〜1.5Mであれば、セル抵抗率が小さく、かつエネルギー密度が高いレドックスフロー電池とすることができる、と言える。更に、実用的に好ましいセル抵抗率(1.5Ω・cm2以下)と、エネルギー密度を高めたこと(即ち、マンガンイオン及びチタンイオンの溶解度を高めること)によるシステムの小型化とを考慮すると、硫酸濃度:1.5M〜2.5M、両極電解液のチタンイオンの濃度及びマンガンイオンの濃度:0.8〜1.2Mが好ましいと言える。このように、硫酸濃度、両極電解液のチタンイオンの濃度及びマンガンイオンの濃度を特定の範囲に制御することで、より実用的なエネルギー密度、セル抵抗率を有するレドックスフロー電池とすることができる。
【0065】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、各極電解液のマンガンイオンの濃度やチタンイオンの濃度、各極電解液の溶媒の種類や濃度、電極の材質、隔膜の材質などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。本発明レドックスフロー電池の運転方法は、上記本発明レドックスフロー電池を上記種々の用途で使用する際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 レドックスフロー電池 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極電解液用のタンク
107 負極電解液用のタンク 108,109,110,111 配管 112,113 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液及び前記負極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有することを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記正極電解液のチタンイオンの濃度は、前記正極電解液のマンガンイオンの濃度の50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と、前記負極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とがそれぞれ等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記マンガンイオン及びチタンイオンの各濃度がいずれも0.3M以上5M以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記正極電解液及び前記負極電解液の両極電解液は、硫酸アニオンを含有し、
前記両極電解液の硫酸濃度が5M未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記両極電解液の硫酸濃度が1M以上3M以下、
前記両極電解液のマンガンイオンの濃度が0.5M以上1.5M以下、
前記両極電解液のチタンイオンの濃度が0.5M以上1.5M以下であることを特徴とする請求項5に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記正極電極及び前記負極電極は、
Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材、
前記複合材を含むカーボン複合物、
前記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、
導電性ポリマ、
グラファイト、
ガラス質カーボン、
導電性ダイヤモンド、
導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、
カーボンファイバからなる不織布、
及びカーボンファイバからなる織布から選択される少なくとも一種の材料から構成されており、
前記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
前記正極電解液及び前記負極電解液の両極電解液の溶媒は、H2SO4、K2SO4、Na2SO4、H3PO4、K2PO4、Na3PO4、K3PO4、H4P2O7、HNO3、KNO3、及びNaNO3から選択される少なくとも一種の水溶液であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池の運転方法であって、
前記正極電解液と前記負極電解液とを混合することで、前記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度と、前記負極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度とをそれぞれ等しくすることを特徴とするレドックスフロー電池の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−79679(P2012−79679A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49693(P2011−49693)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】