説明

レンズの製造方法

【課題】レンズ内に異なる遮光率を有するレンズを簡便かつ効率よく製造できるレンズの製造方法を提供することにある。
【解決手段】アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14であって、高透光性領域12よりも遮光率の高い低透光性領域16とをレンズ基材表面に有し、低透光性領域16は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズ10を製造する製造方法であって、透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式によりレンズ基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サングラスを含む眼鏡は、視力の矯正および眼球の保護の目的で利用される。例えば、白内障などの障害がある場合、水晶体周辺部を通って眼底に達する光量を減らすことで、水晶体周辺部での光の乱反射を減らし、物を見え易くできる。したがって、白内障の場合には、眼鏡レンズ中央部の光の遮光率を低くし、その周辺部の光の遮光率を高くすることが有効であることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方で、近年、サングラスを含む眼鏡には、視力の矯正および眼球の保護といった目的の他に、着用者の装身具あるいは装飾具としてのニーズがある。このニーズに対応し、レンズを所望の色合いに着色する方法として、インクジェット方式によるカラーレンズの製造方法が知られている(特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−82975号公報
【特許文献2】特開2008−528253号公報
【特許文献3】特開平8−20080号公報
【特許文献4】特開2006−264109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される上述の白内障用の眼鏡レンズは、レンズ部の前面に半透鏡のミラーコートを設け、これを、透孔を有するフレームに装着するもので、製造方法が煩雑なものである。
そして、特許文献2〜4に記載の発明は、均一な色合いのレンズを製造する方法であり、特許文献1に示されるような部分的に異なる遮光率を有するレンズを製造する方法については記載がない。また、均一な色合いのレンズを得る場合においても、特許文献2に記載の発明では、インクジェット方式による着色に先立って、印刷プライマーをレンズ表面に積層させる必要がある。そして、特許文献3に記載の発明では、インクジェット方式によるプリント後、当該プラスチックレンズをオーブン中で100℃〜130℃で1時間加熱し、染料を拡散させる必要がある。さらに、特許文献4に記載の発明では、着色後、重合を行う必要がある。すなわち、特許文献2〜4に記載の発明では、いずれもインクジェット方式による着色の前か後で、着色層を均一にするための工程が必要であり、必ずしも生産効率が高いとは言えない。さらに、これらの製造方法が、部分的に異なる遮光率を有するレンズの製造に適用できるかどうかは不明である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、レンズ内に異なる遮光率を有するレンズを簡便かつ効率よく製造できるレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレンズの製造方法は、アイポイントを含む高透光性領域と、前記高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域とをレンズ基材表面に有し、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズを製造する製造方法であって、透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式により前記レンズ基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えたことを特徴とする。
ここで「透明な」とは、無彩色で透明である状態を言い、視感透過率が85%以上であることを言う。より正確には、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*)色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上である。
【0008】
本発明によれば、アイポイントを含む高透光性領域と、前記高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域とをレンズ基材表面に有し、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズをインクジェット方式で製造する。したがって、例えば、遮光率の変化をレンズの色の濃淡により制御する場合は、色の濃淡を含むレンズの着色パターンをコンピューターで設計すればよい。そして、当該コンピューターにより制御されるインクジェットヘッドを用いて、当該パターンをレンズ基材表面にインクジェット方式で塗布するだけで、レンズ基材が所望のパターンに着色され、遮光率が部分的に変化したレンズを簡便に得ることができる。
また、本発明によれば、色ムラがなく、均一な層が形成できる。ここで、色ムラとは、前述した予め設計された色の濃淡以外のものであって、着色層が均一に形成されないことが原因で生じる色の変化を言う。従来は組成物(B)を塗布せず、組成物(A)のみを塗布したため、形成される着色層が十分に均一な層ではなかった。しかしながら本願発明によれば、組成物(B)を併せて塗布したので、組成物(A)と組成物(B)とが隙間なく塗布され、従来は塗布された組成物(A)間に出来ていた隙間をなくすことができたと考えられ、その結果、均一な層を形成することができたと考えられる。
さらに、本発明によれば、インクジェット方式により両組成物を塗布し、乾燥するだけで、レンズ基材に直接着色層を形成できる。すなわち、両組成物の塗布工程の前後に着色層を均一にするための工程が必要なく、製造効率が高い。
【0009】
本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることが好ましい。さらには、前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることがより好ましく、両組成物の表面張力Xがともに15≦X≦40の範囲にあることが最も好ましい。
この発明によれば、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が所定の範囲にあるので、染料や顔料の溶媒への分散性と、レンズ基材表面への濡れ性とのバランスをうまく保つことができる。
【0010】
さらに本発明では、前記塗布工程における、前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。
この発明によれば、前述の効果をより一層発揮することができ、特にレンズ基材を所望の色合いとすることができる。
【0011】
また、本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物であることが好ましい。
この発明によれば、上述の効果の他、レンズ基材と着色層との密着性の向上、耐衝撃性の向上という効果を発揮することができる。
【0012】
さらに、本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが金属酸化物ゾルを含む組成物であることが好ましい。
この発明によれば、上述の効果の他、レンズ基材と着色層の屈折率差が小さくなるように金属酸化物ゾルの種類や量を調整することで、干渉縞が減るという効果を奏する。また、金属酸化物ゾルがフィラーとして作用することにより耐水性、耐候性や耐光性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたレンズの正面図。
【図2】図1に示すレンズのII−II端面図。
【図3】図2に示す着色層の遮光率の分布を示した図。
【図4】本発明の一実施形態に係る製造方法を実現する装置の概念図。
【図5】本発明の変形例に係るレンズの正面図。
【図6】図5の変形例に係るレンズの着色層の遮光率の分布を示した図。
【図7】従来の塗布層の模式図。
【図8】(A),(B)本発明の一実施形態に係る塗布層の模式図。
【図9】本発明の実施形態を実施するための装置の一例を一部拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
本実施形態におけるレンズの製造方法により製造されるレンズは、眼鏡用のプラスチックレンズである。
【0015】
〔レンズ10の構成〕
図1に本実施形態のレンズ10を正面図で示し、図2にレンズ10の概略構成を、縦方向の端面図(図1のII−II端面)で示す。
レンズ10は、アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含む。低透光性領域14は、周辺に向かって遮光率が変化する領域として、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が増加する領域(グラディエント領域、グラデーション領域)16を含む。
このレンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの色の濃度(濃淡)を徐々に濃くすることにより、レンズ中央部(高透光性領域)12からレンズ周辺部(低透光性領域)14にかけてドーナッツ状あるいはリング状のグラディエント領域16を形成している。
【0016】
図1においては、説明のため、レンズ10におけるアイポイント11を含む高透光性領域12と、その高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14との境界13を破線で示している。この例では、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16は境界13に隣接するように設けられている。したがって、高透光性領域12と低透光性領域14との境界13において遮光率は滑らかに変化しており、破線で示された境界13は、レンズ10を眼鏡レンズとして装着したときに、外から眼鏡を見た人にも、また、眼鏡を装着しているユーザーにもほとんど意識されない、あるいは目立たないようになっている。
【0017】
なお、レンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの側から見た場合にも、表面(物体側の面)10aから見た場合と同様に、図1に示したデザインとして認識される。
【0018】
図2に示すように、レンズ基材41の裏面41bには、着色層20、反射防止層44および防汚層45が積層されており、レンズ10は、着色層20により、レンズ10の場所に依存した遮光率に制御されている。レンズ基材41の前面41aには、レンズ基材41表面側から順に、プライマー層42、ハードコート層43、反射防止層44、調光層30および防汚層45が積層されている。
つまり、レンズ10は、レンズ基材41の裏面41b、すなわち眼球101の側に遮光率を変化させる着色層20を含み、レンズ基材41の前面41a、すなわち物体側に調光層30を含む構造を有する。着色層20を表面10aの側に設け、プライマー層42、ハードコート層43、および調光層30を裏面10bの側に設けることも可能である。しかしながら、調光層30が紫外線により感度良く変色するためには、紫外線がレンズ基材41あるいは他の層により吸収されやすい裏面10bの側よりも紫外線に晒されやすい表面10aの側に調光層30を設けることが望ましい。
【0019】
[着色層20]
レンズ10の裏面(眼球101の側の面)10bの着色層20は、着色濃度を変えることにより遮光率を変化させるよう形成されている。この着色層20は、前述の高透光性領域12と、高透光性領域12に対して遮光率の高いグラディエント領域16を含む低透光性領域14と、を備えている。
本実施形態においては、視野角θが10度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが10度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが10度から20度の範囲をグラディエント領域16とすることができる。
【0020】
図3に、レンズ10の着色層20を抜き出して、視野角θに対する着色状態を示す。
着色層20の視野角θが0度〜10度の範囲は着色されておらず、着色層20による遮光性の制御は行われてない領域(遮光率が0%)となっている。弁別視のときに頭部の動きが伴わない領域(弁別視の際の眼球の運動領域)は、視野角θが約10度の領域とされている。したがって、視野角θが0度〜10度の範囲を遮光性の制御が行われてない領域として確保することにより、ユーザーが使用する上で違和感が少なく、使い方の相違も少ないレンズ10とすることができる。
【0021】
着色層20の視野角θが10度から15度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が0%から10%に徐々に変化し、着色層20の視野角θが15度から20度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が10%から40%に徐々に変化するように着色されている。
指標(対象物)を大まかに認識するいわゆる自由視は、視野角θが15度程度以内であり、視野角θが15度を超えると対象物を視野に捉えてもその対象物の明確な把握に寄与する率(能力)は少ない領域であるといえる。したがって、視野角θが10度から20度の範囲では、クリアーな視界を得ることと、グレア光をカットまたは抑制することとをある程度のレベルで両立させたり、またはいずれか一方を優先してもよい。すなわち、視野角θが10度から20度程度の範囲は、ユーザーあるいは用途によりレンズ10の機能をフレキシブルに設定できる。
【0022】
着色層20の視野角θが20度以上の範囲は、遮光率40%となるように着色されている。視野角θが20度よりも広いグレア(眩しさ)はソフトなグレア光(障害グレア光、減能グレア光)であり、視野角θの小さな領域の不快なグレア光(不快グレア光)と異なり、グレア光の侵入を避けなくても、そのグレア光を抑制することにより作業効率の低下を抑制できる。
【0023】
また、遮光率が10%以下程度であれば夜間でも視野を狭める要因にほとんどならない。したがって、視野角θが15度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが15度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが15度から20度の範囲を低透光性領域14におけるグラディエント領域16と定義してもよい。
なお、本明細書において遮光率が0%とは、着色などにより遮光率の増加が図られていないことを示しており、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収は考慮していない。したがって、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収により、本明細書において遮光率が0%と記載しても、レンズ10により光の吸収(減衰)が認められることがある。
【0024】
[調光層30]
レンズ10の物体側の面(表面)10aに形成された調光層30は、紫外線を含む光の照射により変色する調光機能(フォトクロミック機能)を有する層であり、レンズ10の高透光性領域12および低透光性領域14の遮光率を共に変える(調整する)層である。調光層30の一例は、紫外線の強度により遮光率が変わり、可視光(460〜600nm、好ましくは400〜760nm)を0%から50%の範囲でカットし、近紫外光(310〜400nm)の範囲を0%から90%、さらに好ましくは0%から100%の範囲でカットするものである。
この調光層30は、調光機能を有する液体(コーティング液)を塗布することにより製造されている。そのようなコーティング液としては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含み、ラジカル重合性単量体がシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができる。
【0025】
〔レンズ10の製造方法〕
次に本実施形態にかかるレンズ10の製造方法を着色層20の形成を中心に説明する。
[レンズ基材41]
レンズ基材41の材質としては、特に限定されないが、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック素材を使用することがレンズの軽量化の点で好ましい。例えば、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるチオウレタン系プラスチックや、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造されるエピスルフィド系プラスチックをレンズ基材の素材として使用することができる。
【0026】
チオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0027】
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
【0028】
また、エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の着色層20は、レンズ基材41表面に、透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを塗布することにより形成される。
[組成物(A)]
組成物(A)としては、染料や顔料の分散系が好ましく用いられる。染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、および反応分散染料など通常のインクジェット方式に用いられる各種の染料が適用可能である。例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、およびフタロシアニン染料などのいずれかを適当な溶媒(水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)に分散させて組成物(A)として使用できる。上記染料は1種単独でも、2種以上併用しても用いることができる。
【0030】
顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等を使用することができる。また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等を使用できる。これらの顔料のいずれかを適当な溶媒(水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)に分散させて組成物(A)として使用できる。上記顔料は1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。
上述した染料や顔料は併用することもできる。耐光性や耐水性の観点からは顔料の方が好ましい。
【0031】
染料および顔料に対する分散剤としては、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、レンズ基材の目標とする着色濃度に応じて、使用する染料および顔料の量(100質量部)に対して0.005質量部以上10質量部以下の範囲で使用するのが好ましい。
【0032】
また、組成物の表面張力を下げるために使用する界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤を用いることができる。これらの界面活性剤は全組成物基準で0.005質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下含有されるのが好ましい。
【0033】
そして、これらの染料および顔料、界面活性剤の中から適宜選択して組成物(A)を調製すればよい。また、染料および顔料に要求される特性として、分散性、可溶性および染料および顔料の安定性(使用溶剤に対して化学反応が起こらないこと)などがあり、このような特性を考慮して具体的な染料および顔料を選択する。
これらの染料および顔料の配合量も、目的とするカラーレンズの色調に応じて適宜決定すればよい。なお、染料および顔料を多量に使用すると、分散および溶解しないおそれがあるので、分散および溶解する程度の配合量が好ましい。逆に染料の使用量が少量の場合、着色層を厚くする必要があるため、目的色となる着色層を形成するのは困難となる。このような点を踏まえて最終的な配合量を決定する。
【0034】
本実施形態では、組成物(A)および後述する組成物(B)の少なくともいずれかが有機ポリマーや金属酸化物ゾルを含むことも好ましい。
有機ポリマーとしては、極性基を有するものが好ましく、極性基を有する有機ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基材に対する密着性と、後述する金属酸化物ゾルの分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
ポリエステル樹脂を用いると、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基が基材(プラスチック眼鏡レンズの表面分子)と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。さらに、染料および顔料に対する親和性も向上する。なお、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物ゾルが安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よって、着色層に金属酸化ゾルが局在化せずに均質に分散した状態となり、着色層の架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性も向上する。
【0035】
金属酸化物ゾルとしては、シリカ、チタニアゾル、アルミナゾル等が挙げられ、中でもチタニアゾルが好ましく用いられる。
チタニアゾルとしては、酸化チタンのみを含有するものであってもよく、酸化チタンと他の無機酸化物とを含有するものであってもよい。例えば、酸化チタンと、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等金属の酸化物を混合して使用してもよい。さらに、金属酸化物ゾルとしては、酸化チタンと他の無機酸化物との複合粒子であってもよい。複合粒子を使用する場合には、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等の金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用すればよい。また、酸化チタンとしては、アナターゼ型よりも、光触媒作用が相対的に少なく、屈折率も高いルチル型を用いることが好ましい。
【0036】
[組成物(B)]
組成物(B)としては、視感透過率が85%以上である組成物を用いることができ、より正確には、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上である。例えば、上記組成物(A)において、染料および顔料を含まない組成物を使用すればよい。
すなわち、組成物(B)は、組成物(A)から着色成分を除いた無色透明な成分とすればよい。また、組成物(A)と同様に、さらに有機ポリマーと金属酸化物ゾルを含むものが好ましい。
【0037】
[組成物(A)と組成物(B)の表面張力および粘度について]
本実施形態における組成物(A)および組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力Xは、15mN/m≦X≦45mN/mであることが好ましい。さらには、前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることがより好ましく、両組成物の表面張力Xがともに15≦X≦40の範囲にあることが最も好ましい。
両組成物の25℃における表面張力が15mN/m未満であると、染料や顔料(固形分)を溶媒にうまく溶解あるいは分散させることができなくなるおそれがある。また、この表面張力Xが45mN/mを超えると、レンズ基材表面への濡れ性が悪化するおそれがある。また、少なくとも一方の組成物が表面張力Xを有することにより、液だれなどを防ぐこともできる。
ここで、前記組成物(B)の表面張力Xが上記範囲にあるときに上述した効果がより大きく、さらに、両組成物の表面張力Xがともに上記の範囲内にあるときに最も効果が大きい。
すなわち、本発明では、従来技術のように組成物(A)と組成物(B)を単に混ぜて染料または顔料の濃度を薄くし、当該組成物を塗布した場合とは全く異なる効果を奏するのである。
【0038】
また、本実施形態における組成物(A)および組成物(B)の25℃における粘度は、0.5mPa・s以上、20mPa・s以下であることが好ましい。当該組成物の25℃における粘度が0.5mPa・s未満であると、塗布層に組成物濃度のムラが生じ、結果として着色層の色ムラが生じやすくなる可能性がある。一方、25℃における粘度が20mPa・sを超えると、インクジェット方式を用いる際に、吐出が不安定となるおそれがあり、レンズ基材への塗布層の形成が困難となる。
【0039】
[着色層20の形成]
(塗布工程)
本実施形態では、組成物(A)および組成物(B)をレンズ基材41の上にインクジェット方式で塗布する。本実施形態に用いる装置Mとしては、図4に示す装置が挙げられる。装置Mは、レンズ基材41を配置するテーブルTと、テーブルTの両側に設けられた一対のガイドG1と、ガイドG1間に架け渡して設けられたガイドG2と、ガイドG2に取り付けられたインクジェットヘッドHと、このインクジェットヘッドHに接続されるコンピューターPとを備える。
インクジェットヘッドHとしては、組成物(A)と組成物(B)が各々充填され、テーブルTおよびレンズ基材41に対向する先端にノズル開口部を有するものを使用できる。そして、インクジェットヘッドHは、コンピューターPからの指令を受けて、ガイドG2に沿ってX方向に移動し、ガイドG2はガイドG1に沿ってY方向に移動する。すなわち、インクジェットヘッドHはコンピューターPからの指令により、XY方向に自在に移動可能になっている。
【0040】
ここで、インクジェット方式とは、一般に10〜100μm径の微小なノズル開口部と圧力発生素子とが設けられた圧力室にインクが充填され、圧力発生素子を電子的に制御することによって圧力室内のインクを加圧し、その圧力で、ノズル開口部からインクを微小な液滴として吐出するものである。圧力発生素子の種類により、ピエゾ素子による圧電振動子を用いたピエゾ方式や、発熱素子を用い、インクを加熱して気泡を発生させ、その圧力を利用するインクジェット方式など、種々の方式がある。本実施形態では、いずれのインクジェット方式も用いることができる。
【0041】
具体的な塗布方法としては、例えば、まず、着色層20に形成する色の濃淡を設けたパターンをコンピューターP上で設計する。そして、当該コンピューターPにより、インクジェットヘッドHをレンズ基材41の表面と略等間隔を保つように制御しつつ、レンズ基材41の表面を走査させる。走査の方向としては、レンズ基材の表面と略等間隔を保てる方向であれば、特に制限はない。すなわち、図4に示すXY方向に走査すればよい。そして、同時にコンピューターPにより組成物(A)と組成物(B)のノズル開口部からの吐出を制御することによって、レンズ基材41の必要な部分に前述の色の濃淡を設けたパターンを塗布する。このとき、両組成物は着色層20が均一になるよう塗布される。
【0042】
組成物(A)と組成物(B)との吐出割合は質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。前記割合が1/0.5より大きいと、染料や顔料が均一に塗布されず、色ムラが発生したり、干渉縞が生じたりする可能性がある。一方、前記割合が1/8より小さいと、染料や顔料の割合が少なすぎて、目的の色合いが得られない可能性がある。
なお、色の濃淡は、組成物(A)と組成物(B)との吐出割合を変更することにより変化させてもよいし、組成物(A)で予め色の濃淡を調整することにより変化させ、組成物(A)と組成物(B)とは、一定の吐出割合で吐出させてもよい。
【0043】
また塗布の際、インクジェットヘッドHだけを動かしてもよく、あるいはインクジェットヘッドHを特定の方向に移動させ、タイミングをとってレンズ基材41を前記方向と直交する方向に移動させてもよい。
【0044】
また、レンズ基材の支持体に首振り運動させることで、インクジェットヘッドHとレンズ基材41の表面との間隔を概ね一定にするような塗布方法を採用してもよい。
また、塗布面としては、レンズ基材の両面に塗布しても、片面のみに塗布しても良い。
【0045】
(定着工程)
インクジェット方式で塗布した後は、塗布された組成物をレンズ基材41のガラス転移点Tg以下かつ20℃以上、好ましくは50℃以上の温度で乾燥してレンズ基材表面に定着させる。これにより、染料あるいは顔料で着色された着色層20をレンズ基材41表面に形成することができる。
【0046】
[その他の層の形成]
レンズ10の表面10a側に形成される層、および裏面10bの着色層20以外の層については、公知の各種方法を用いて形成することができる。例えば、表面10a側の各層は、以下のように形成すればよい。
【0047】
レンズ基材41およびハードコート層43の密着性を向上させるプライマー層(下地層)42は、レンズ基材41の表面10aに浸漬法により形成する。プライマー層42を形成するための塗布液P1は、例えば、市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマルジョン、固形分濃度27%)100部に、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)84部、希釈溶剤としてメチルアルコ−ル640部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで撹拌して調製する。この塗布液P1を、レンズ基材41の表面10aに、スピン方式(700rpm)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で20分間風乾することにより、プライマー層42を形成する。塗布液P1により形成されたプライマー層42の焼成後の固形分は、62重量%のポリエステル樹脂と、38重量%のルチル型酸化チタン複合ゾルとを含んでいる。また、上記スピン方式でなく、着色層がプライマー層を兼ねる役割もあることから、着色層を41a側にもインクジェット方式により塗布することでプライマー層42として使用することも可能である。
【0048】
プライマー層42が積層されたレンズ基材41の表面に、ハードコート層43を形成する。ハードコート層43は、ガラス製に比べて傷つきやすいプラスチック製のレンズ基材41の表面硬度を向上させる層である。ハードコート層43を形成するための塗布液H1は、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル138部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)688部を混合した後、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン106部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)38部を混合して得た混合液に、0.1N塩酸水溶液30部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させる。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート1.8部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)0.3部を添加して調製する。この塗布液H1を、プライマー層42の表面に、ディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で120分焼成を行うことにより、2.3μm厚のハードコート層43を形成する。塗布液H1により形成されたハードコート層43の焼成後の固形分は、55重量%の金酸化物微粒子(ルチル型酸化チタン複合ゾル)と、30重量%の有機ケイ素(γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)と、15重量%の多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエーテル)とを含んでいる。
【0049】
ハードコート層43または着色層20が積層されたレンズ基材41の表面に、光の表面反射を防止する反射防止層44を形成する。具体的には、プラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行い、ハードコート層側から大気側に向かって順に、SiO、ZrO、SiO、ZrO、SiOの5層で構成される多層の反射防止層を、真空蒸着機((株)シンクロン製)にて形成する。各層の光学的膜厚は、最初のSiO層、次のZrOとSiOの等価膜層および次のZrO層、最上層のSiO層について、設計波長λを520nmとしてそれぞれλ/4となるように形成する。
【0050】
反射防止層44が積層されたレンズ基材41の表面にフッ素系シラン化合物で撥水処理し、撥水膜(防汚層)45を形成する。
なお、レンズ10の表面10aの側においては、撥水処理する前に、調光機能を有する液体(コーティング液)を塗布することにより調光層30を成膜する。調光機能を有するコーティング液としては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含み、ラジカル重合性単量体がシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができる。
【0051】
〔本実施形態の作用効果〕
本実施形態によれば、高透光性領域12と、周辺に向かって遮光率が変化する低透光性領域14を含むレンズ10をインクジェット方式で製造する。したがって、色の濃淡を含むレンズの着色パターンを例えばコンピューターPで設計し、当該コンピューターPにより制御されるインクジェットヘッドHを用いて、当該パターンをレンズ基材41表面にインクジェット方式で塗布するだけで、所望のパターンに着色され、遮光率が部分的に変化したレンズ10を簡便に得ることができる。
また、本実施形態によれば、周辺に向かって遮光率が変化する領域、すなわちグラディエント領域16を含むレンズ10を、所望の色合いで、色ムラなく、かつ、干渉縞なく製造できる。製造にあたっては、インク受容層等を形成する必要がなく、レンズ基材に直接組成物を吐出し、乾燥するだけで、着色層を形成できるため、生産性が向上する。さらに、着色層の形成には、インクジェット方式を使用するので、所望の色合いで、色ムラなく、均一な着色層を簡単に形成することができる。
【0052】
ここで、図7は従来の塗布層の模式図であり、図8(A)、(B)は本発明の実施形態に係る塗布層の模式図である。図8(A)は、インクジェットヘッドHを図中右方向に走査させて塗布する場合の模式図であり、図8(B)は、インクジェットヘッドHを図中左方向に走査させて塗布する場合の模式図である。図7に示すように、従来、組成物(A)をインクジェット法で塗布すると、組成物(A)の液滴L間に隙間ができ、その結果、塗布層が均一にはならなかった。これに対し本発明では、組成物(A)と組成物(B)とを塗布するため、図8(A)および(B)に示すように、組成物(A)の液滴Lと組成物(B)の液滴Mとが隙間なく塗布された状態となる。すなわち、塗布層の表面がより平滑になる。その結果、均一な着色層が形成できると考えられる。また、組成物(A)と組成物(B)との表面張力の関係によっては、組成物(A)と組成物(B)とが塗布層において混ざり合うことで平滑化することも考えられる。
【0053】
一方、インクジェットヘッドHとしては、組成物(A)と組成物(B)とに個別のインクジェットヘッドを用いることの他、図9に示すインクジェットヘッドH1を用いることもできる。図9は、インクジェットヘッドH1をノズル開口部側から見た平面図である。図9に示すように、インクジェットヘッドH1は、吐出部H11、H12を備える。吐出部H1には複数のノズル開口部H111が備えられ、吐出部H12には複数のノズル開口部H121が備えられている。ノズル開口部H11とH12は、インクジェットヘッドH1を図9に矢印で示す方向に走査して、組成物(A)と組成物(B)とを吐出させた際に、レンズ基材表面において塗布された両組成物間の距離ができるだけ小さくなるよう位置が調整されている。具体的には、吐出部H11と吐出部H12を重ね合わせた際に、ノズル開口部H111とノズル開口部H121とが重ならず、ノズル開口部H111間にノズル開口部H121が位置するよう形成されている。
【0054】
〔変形例〕
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、レンズ10の高透光性領域12を視野角θが10度以下の範囲とし、グラディエント領域16を視野角θが10度から20度の範囲をとしたが、これに限らない。すなわち、図5に示すレンズ100Aとしてもよい。なお、図5はレンズ100Aを物体側から見た正面図で示している。また、図6に着色層20により実現される遮光率の分布を示している。
【0055】
レンズ100Aにおいては、遮光率がほとんどない(たとえば遮光率が0%)透光性の高い高透光性領域12が、視野角θが20度の範囲まで広がっている。また、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16では、視野角θが20度から40度の範囲で遮光率が0%から40%程度まで高くなっている。このような、レンズ100Aでは、視野角θが10度から20度の領域において、本実施形態のレンズ10と比較して、グレアカットよりもクリアーな像が得られることを優先できる。すなわち、レンズ100Aにおいて、遮光率が変化せずに全体として透明な高透光性領域12は、視野角θが20度の範囲まで確保されている。したがって、弁別視および自由視を含め、より広い視野が確保しやすい設計とできる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕
(レンズ基材)
レンズ基材として、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。
【0057】
(組成物Aの調製)
ジエチレングリコール 10質量%、グリセリン 5質量%、市販顔料インクであるICC38A(シアン)(セイコーエプソン製) 10質量%、水性ポリエステル樹脂(伊藤光学株式会社製)が固形分4質量%となるよう配合し、表面張力コントロールのための界面活性剤であるサーフィノール61(Air products inc.製)、およびFz−2105(日本ユニカー製)を5000ppmずつ添加した。残量を純水とし、これを、ろ過および脱泡して、組成物(A)とした。
このときの表面張力は25℃で23mN/mであった(協和界面科学製DM700を使用し、懸滴法で測定した。以下、表面張力の測定は同様に行った。)。また、組成物(A)中の顔料固形分は全組成物基準で1質量%であった。
【0058】
(組成物Bの調製)
組成物(B)は、組成物(A)で、顔料インクを加えないことにより調製した。
このときの組成物(B)表面張力は25℃で30mN/mであった。
表1に組成物(A)および(B)の組成を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(インクジェット方式による塗布)
これらの組成物をインクジェットプリンター(MMP183T、Mastermind製)を用いて、前述のレンズ基材表面に吐出して塗布し、80℃30分で乾燥(硬化)させることにより組成物を定着させ、着色層を形成した。
この着色層に関して、組成物(A)のみを吐出したときと、組成物(A)と組成物(B)を吐出して塗布した時の色ムラおよび層の均一性を目視により評価した。なお、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合は、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/2であった。結果を表2に示す。以下、各実施例の評価において、現行製品のメガネレンズと同程度の場合は○、製品として許容範囲ではあるがやや劣る場合を△、製品として許容できない場合は×とする。
【0061】
【表2】

【0062】
表2より組成物(A)と組成物(B)を別個に吐出することで、色ムラなく均一な着色層を形成できることがわかる。また、この際、グラディエント領域も良好に形成できた。
【0063】
〔実施例2から7まで〕
界面活性剤の量、種類を変化させて表面張力を調整する以外は実施例1の組成物と同様の組成で組成物を作成した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズに着色層を形成した。界面活性剤には実施例1で用いたものに加えてメガファックF−444(DIC製)も用いた。表3に組成物(B)の組成を、表4に組成物(A)の組成を示す。
実施例2から7まで作成した着色層の色ムラおよび層の均一性の評価を行った結果を表5に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
表5から、組成物(A)および組成物(B)の表面張力Xがともに15≦X≦40のとき、特に色ムラなく均一な着色層を形成可能であることがわかる。また、この際、グラディエント領域も良好に形成できた。
【0068】
〔実施例8〕
組成物(A)の吐出量に対する組成物(B)の吐出割合(質量比)を表6に示す質量比とする以外は、実施例1の同様の組成で組成物を作成し、着色層の均一性を確認した。尚、吐出量の合計は、同量に設定している。また、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
表6に結果を示すように組成物(A)を1としたときの組成物(B)の割合が質量比で0.5から8までの場合に最適な着色層が形成されることがわかる。また、この際、グラディエント領域も良好に形成できた。
【0071】
〔実施例9〕
組成物(A)中において顔料固形分を約0.5質量%,1.0質量%,2.5質量%とした以外は実施例1と同様の組成とした組成物(A)を調製した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に着色層を形成した。また、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表7に示す
【0072】
【表7】

【0073】
表7に記載の通り、各顔料固形分に依らず、着色層の均一性、色ムラに問題ない結果を得た。また、グラディエント領域も良好に形成できた。
ただし、顔料固形分の割合があまり高過ぎるとインクジェット方式で吐出できない場合もあるので注意が必要である。
【0074】
〔実施例10〕
顔料の代わりに染料IC1C03(セイコーエプソン製)を用いる以外は実施例1と同様の組成で組成物(A)を作成した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に吐出して塗布し、評価した。なお、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表8に示す。
結果は顔料を使用した場合と同様の結果を得た。
【0075】
【表8】

【0076】
〔実施例11〕
金属酸化物ゾルであるルチル型チタニアゾルを添加する以外は実施例1と同様の組成で組成物(A)、(B)を作成した。組成物(A)、(B)の組成を表9に示す。なお、ゾルの固形分は2質量%とした。
そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に吐出して塗布し、評価した。なお、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表10に示す。
【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
表10に示すとおり、ルチル型チタニアゾルの添加による、色ムラおよび層の均一性の違いは見られなかった。また、グラディエント領域も良好に形成できた。
なお、目視で確認したところ、金属酸化物ゾルを添加したことにより、プラスチックレンズ基材との屈折率の差が小さくなり、干渉縞が減る効果が得られた。
【符号の説明】
【0080】
10,100A…レンズ、11…アイポイント、12…高透光性領域、14…低透光性領域、16…グラディエント領域、20…着色層、41…レンズ基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイポイントを含む高透光性領域と、
前記高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域であって、前記高透光性
領域よりも遮光率の高い低透光性領域とをレンズ基材表面に有し、
前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズを製造する製造方法であって、
透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式により前記レンズ基材表面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えた
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記塗布工程における、前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが金属酸化物ゾルを含む組成物である
ことを特徴とするレンズの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−133273(P2012−133273A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287185(P2010−287185)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】