説明

レンズ及びレンズの製造方法

【課題】レンズの表面が摩耗した場合でも、撥水性を維持することができるレンズおよびレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、レンズ基材11と、このレンズ基材11に設けられた反射防止層13とを備えるレンズ1であって、反射防止層13には、その表面131からその厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部20が設けられ、穴部20における反射防止層13の内面132に内部撥水層30が設けられている。本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材11の表面に反射防止層13を積層する積層工程と、反射防止層13の表面131に、その厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部20を形成する穴部形成工程と、穴部20における反射防止層13の内面132に内部撥水層30を形成する撥水工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ及びレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡レンズやカメラレンズなどの表面は、手垢、指紋、汗、化粧料等が付着することで、汚れが目立ちやすく、またその汚れが取れ難いという問題がある。そのため、汚れ難く、あるいは汚れを拭き取りやすくするために、レンズの表面に防汚層として撥水層を設けている(特許文献1)。
特許文献1に記載のレンズは、レンズ基材に反射防止層が形成され、反射防止層の表面に最表撥水層が形成されている。ここで、最表撥水層の厚さは、2nm以上3nm以下程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−3817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のレンズでは、表面が摩耗した場合、最表撥水層は非常に薄いため、反射防止層の表面から剥がれてしまう。このように最表撥水層が剥がれた場合、レンズの撥水性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、レンズの表面が摩耗した場合でも、撥水性を維持することができるレンズおよびレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレンズは、レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、前記反射防止層には、その表面からその厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部が設けられ、前記穴部における前記反射防止層の内面に内部撥水層が設けられていることを特徴とする。
この構成の発明では、従来レンズ表面に設けた撥水層の材料と同じ材料からなる内部撥水層を穴部に設けることで、内部撥水層が反射防止層に馴染みやすく、反射防止層の内面に密着する。そのため、レンズの表面が摩耗したとしても、反射防止層の内面に撥水層が残るので、撥水性を維持することができる。
【0007】
また、本発明では、前記穴部の前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置していることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層に位置する深さまで穴部を形成すればよく、レンズ基材まで穴部を設けても、レンズ基材に内部撥水層を密着させることは難しい。よって、反射防止層に位置する深さまで穴部を形成することにより、内部撥水層と馴染みやすい反射防止層に積極的に内部撥水層を設けることができる。これにより、十分な撥水性が得られる。
【0008】
そして、本発明では、前記反射防止層の内面全体に前記内部撥水層が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層の内面全体に内部撥水層を設けるので、さらに撥水性を向上させることができる。
【0009】
さらに、本発明では、前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい。
この構成の発明では、0.3μm以上とすることにより、反射防止層の内面に内部撥水層を十分に形成することができる。一方、1μm以下とすることにより、穴部を比較的浅くしてレンズの透明性が低下することを抑制できる。
【0010】
また、本発明では、前記反射防止層の表面に最表撥水層が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、最表撥水層と内部撥水層とを両方設けるため、優れた撥水性を得ることができる。
【0011】
本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材の表面に反射防止層を積層する積層工程と、前記反射防止層に、その表面からその厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、前記穴部における前記反射防止層の内面に内部撥水層を形成する撥水工程と、を備えることを特徴とする。
この構成の発明では、上述したように、表面が摩耗しても、撥水性を維持できるレンズを得ることができる。
【0012】
ここで、前記穴部形成工程は、前記反射防止層の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成することが好ましい。
この構成の発明では、比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部を形成するため、穴部が必要以上に拡がって、レンズの透明性などが低下することを抑制できる。
【0013】
また、本発明では、前記撥水工程は、浸漬法により、前記内部撥水層を形成することが好ましい。
この構成の発明では、穴部の内部に全体的に内部撥水層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図。
【図2】前記レンズを示す平面図。
【図3】(A)前記レンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図。(B)前記レンズの製造方法における穴部形成工程を説明するためのレンズの断面図。
【図4】前記レンズの製造方法における撥水工程を説明するための図。
【図5】表面が摩耗した前記レンズを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施形態のレンズについて図1,2を用いて説明する。図1は、本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図であり、図2は、前記レンズを示す平面図である。
本実施形態のレンズは、眼鏡用レンズとして説明するが、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ等の光学レンズでもよい。
【0016】
<レンズの構成>
レンズ1は、レンズ基材11に、ハードコート層12と反射防止層13と最表撥水層14とが順に積層された構成である。そして、レンズ1の表面には、穴部20が設けられ、穴部20の内部には内部撥水層30が設けられている。
なお、必要に応じて、レンズ基材11とハードコート層12との間に、レンズ基材11とハードコート層12との密着性を向上させるためのプライマー層を設けてもよい。プライマー層の材料としては、極性を有する有機樹脂ポリマーと、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子とを含む組成物が挙げられる。有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0017】
レンズ基材11は、厚みが1mm以上2mm以下程度である。このレンズ基材11は、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック製であることが好ましい。このようなレンズ基材としては、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が例示できる。なお、レンズ基材11は、無機ガラス製でもよい。
ハードコート層12は、レンズ基材11と反射防止層13との密着性を向上させるとともに、レンズ基材11に耐擦傷性を付与するためのものである。ハードコート層12の厚みは、2μm以上3μm以下程度である。
ハードコート層12を形成する材料としては、例えば、オルガノポリシロキサンを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO、TiOなどの無機微粒子を有する無機微粒子含有熱硬化性組成物がある。
【0018】
反射防止層13は、多層からなる無機層であることが好ましく、その厚みは、例えば、432nmである。
このような多層からなる無機層としては、例えば、ハードコート層12側から順にSiO層/ZrO層/SiO層/ZrO層/SiO層の5層構造や、SiO層/TiO層/SiO層/TiO層/SiO層の5層構造がある。ただし、反射防止層13は、有機層により構成されていてもよい。
なお、図1,3,5では、説明の都合上、反射防止層13を構成するSiO層などの記載は省略している。
【0019】
最表撥水層14は、撥水性や撥油性を有し、防汚層として機能する。この最表撥水層14は、反射防止層13の表面131に設けられる。最表撥水層14は、内部撥水層30と同じ厚みであり、30と同じ材料で形成されている。最表撥水層14を形成する材料は、例えば、2種以上のシラン化合物が挙げられ、そのうちの少なくとも1種が含フッ素シラン化合物である。含フッ素シラン化合物としては、例えば、一般式(1)で表されるものを例示できる。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(1)中のRfは直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基である。
最表撥水層14の好ましい材料は、「KY−130」(商品名:信越化学工業株式会社製)と「KP−801」(商品名:信越化学工業株式会社製)とを混合したものである。
【0022】
穴部20は、図1、2に示すように、点状に複数形成され、互いに離間している。穴部20は、平面視で円形状であるが、半円形状、多角形状でもよい。
また、穴部20は、反射防止層13の表面131から反射防止層13の厚さ方向の一部に亘って形成されている。つまり、穴部20は、レンズ基材11、ハードコート層12を貫通していない。そして、穴部20は、周面21と底面22とから構成されている。穴部20のレンズ基材11側の底面22は、反射防止層13に位置している。なお、周面21と底面22とは、反射防止層13の内面132を構成している。
穴部20の深さ(D)は、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい。0.3μm以上とすることにより、反射防止層13の内面132に内部撥水層30を十分に形成することができる。一方、1μm以下とすることにより、穴部20を比較的浅くしてレンズ1の透明性が低下することを抑制できる。
【0023】
図2に示すように、穴部20の直径(L)は、1μm以上40μm以下であることが好ましく、例えば、20μmであることが好ましい。
隣り合う穴部20の中心と穴部20の中心との距離(ピッチ間隔)(P)は、50μm以上70μm以下であることが好ましく、例えば、60μmであることが好ましい。
このような深さ(D)、直径(L)、ピッチ間隔(P)とすることにより、最表撥水層14が剥離しても内部撥水層30により撥水性を良好に維持できる。
【0024】
内部撥水層30は、反射防止層13の内面132全体に設けられている。内部撥水層30は、最表撥水層14と連続している。
内部撥水層30の厚みは、0.05nm以上10nm以下が好ましく、0.1nm以上1nm以下がより好ましい。厚みを0.05nm以上とすることにより、十分に撥水性が得られる。一方、厚みを10nm以下とすることにより、乱反射や干渉が生じるなどの光学的な問題を回避できる。
内部撥水層30と最表撥水層14とは、それぞれ反射防止層13のSiO層とシロキサン結合を形成している。そのため、内部撥水層30と最表撥水層14とは、反射防止層13と強固に密着している。
【0025】
<レンズの製造方法の構成>
本実施形態のレンズの製造方法について、図3,4を用いて説明する。
図3(A)は、本実施形態のレンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図であり、(B)は、レンズの製造方法における穴部形成工程を示すレンズの断面図である。図4は、レンズの製造方法における撥水工程を説明するための図である。
本実施形態のレンズの製造方法は、積層工程と、穴部形成工程と、撥水工程とを備える。
【0026】
積層工程は、図3(A)に示すように、レンズ基材11の表面にハードコート層12と,反射防止層13とを順に形成する。ハードコート層12の形成方法としては、浸漬法(ディッピング法)、スピンコート法などを採用できる。反射防止層13の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法等を採用できる。
ここで、反射防止層13は、例えば、レンズ基材11側から順にSiO層/ZrO層/SiO層/ZrO層/SiO層の5層構造である。
【0027】
穴部形成工程は、図3(B)に示すように、反射防止層13の表面131に、紫外線パルスレーザーを照射して複数の穴部20を形成する。
具体的には、反射防止層13の表面131からその厚さ方向で反射防止層13の一部に亘って穴部20を形成する。これにより、穴部20の底面22を反射防止層13の内部に位置させる。
穴部20の深さ(D)や直径(L)は、レーザーの光強度、パルスの周波数、スポットサイズ等を調節することによって調節できる(図1,2参照)。
例えば、レーザーの光強度を0.02mW以上20mW以下程度とすることにより、穴部20の深さを0.05μm以上8μm以下程度とすることができる。
また、スポットサイズを15μm程度とすることにより、穴部20の直径(L)を20μm程度とすることができる。
【0028】
撥水工程は、浸漬法により反射防止層13の内面132全体に内部撥水層30を形成すると同時に、反射防止層13の表面131に内部撥水層30と連続して最表撥水層14を形成する。
ここで、反射防止層13に内部撥水層30と最表撥水層14とが密着するメカニズムについて図4を用いて説明する。
【0029】
撥水工程は、例えば、含フッ素シラン化合物を含む撥水処理液を用いて、反射防止層13に内部撥水層30と最表撥水層14とを形成する。
まず、撥水工程は、穴部20を形成した反射防止層13等を有するレンズ基材11を撥水処理液に浸漬する。これにより、反射防止層13の内面132と表面131とに撥水処理液を塗布する。
ここで、撥水処理液の溶媒が蒸発することにより、溶媒の気化熱による自己冷却で反射防止層13の内面132の温度及び表面131の温度が低下し、空気の水分の吸着が起こると考えられる。この過程で、図4に示すように、含フッ素シラン化合物が加水分解する。そして、この状態で、加熱処理することで脱水縮合が起き、反射防止層13のSiO層と、含フッ素シラン化合物とがシロキサン結合を形成する。さらに、含フッ素シラン化合物同士でも、脱水縮合が起こり、シロキサン結合を形成する。このようにして、反射防止層13の内面132と内部撥水層30とが強固に密着するとともに、反射防止層13の表面131と最表撥水層14とが強固に密着する。
このようにして、図1,2に示すようなレンズ1が得られる。
【0030】
ここで、レンズ1の表面が摩耗した場合について、図5を用いて説明する。図5は、表面が摩耗したレンズを示す断面図である。
図5に示すように、レンズ1の表面が摩耗して最表撥水層14が剥がれた後でも、反射防止層13の内面132に内部撥水層30が残るため、撥水性を維持できる。
【0031】
このような本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)レンズ1の表面が摩耗し、最表撥水層14が剥離しても、反射防止層13の内面132に内部撥水層30が残るので、撥水性を維持することができる。
(2)反射防止層13に位置する深さまでしか穴部20を形成しないので、内部撥水層30と馴染みやすい反射防止層13に積極的に内部撥水層30を設けることができる。これにより、さらに良好な撥水性が得られる。
(3)反射防止層13の内面132全体に内部撥水層30を形成するので、さらに撥水性を向上させることができる。
【0032】
(4)穴部20の深さを0.3μm以上とすることにより、反射防止層13の内面132に内部撥水層30を十分に形成することができる。一方、穴部20の深さを1μm以下とすることにより、穴部20を比較的浅くしてレンズ1の透明性が低下することを抑制できる。
(5)内部撥水層30と最表撥水層14とを両方設けることにより、優れた撥水性を得ることができる。
(6)比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部20の形成するため、穴部20が必要以上に拡がって、レンズ1の光学特性が低下することを抑制できる。
(7)浸漬法により、穴部20の内部に全体的に内部撥水層30を形成することができる。
【0033】
(変形例)
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、反射防止層までしか穴部を設けない構成を説明したが、レンズ基材やハードコート層まで穴部を設けてもよい。
また、前記実施形態では、最表撥水層やハードコート層を有する構成を説明したが、最表撥水層やハードコート層を設けなくてもよい。
さらに、前記実施形態では、穴部が平面視で点状であると説明したが、所定の長さを有する溝状でも良い。
また、前記実施形態では、反射防止層の内面全体に内部撥水層を形成すると説明したが、反射防止層の内面全体に内部撥水層を形成しなくてもよい。この場合、穴部の直径を小さくすることにより、穴部に汚れが入り込むことを防止できる。
【実施例】
【0034】
実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
(実施例1)
実施例1のレンズとして、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。このレンズは、レンズ基材にハードコート層と、反射防止層とが順に積層された構成である。なお、反射防止層の厚みは、432nmである。
次に、レンズへ波長266nmのパルスレーザー(パルス周波数10kHz、光強度0.2mW、スポットサイズ15μm)を照射した。その照射部位の空隙を位相差顕微鏡 ZYGO New View 6300(キヤノン(株)製)にて測定したところ、穴直径20μm、ピッチ間隔60μm、深さ0.3μmであった。
【0035】
次に、撥水処理液を準備した。具体的には、シラン化合物A(商品名「KY−130」信越化学工業株式会社製)を溶媒に希釈したとき固形分濃度として0.1%と、シラン化合物B(商品名「KP−801」信越化学工業株式会社製)を溶媒に希釈したとき固形分濃度として0.1%と、をフッ素系溶剤(商品名「ノベックHFE−7200」住友スリーエム株式会社製)に希釈して固形分濃度が0.2%となるように調製した。これにより、浸漬用撥水処理液を得た。
穴部を形成したレンズを撥水処理液に浸漬して1min保持した後40cm/minにて引き上げ、その後、60℃、60%RHに設定した恒温恒湿槽に投入し、2時間保持することで内部撥水層と最表撥水層とを形成した。これにより、実施例1のレンズを得た。
【0036】
(実施例2から4まで)
パルスレーザーを照射する際の光強度、穴部の深さを表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてレンズを得た。
(比較例)
パルスレーザーを照射せず、穴部を形成していないレンズを用いた以外は、実施例1と同様にしてレンズを得た。
【0037】
(評価)
実施例1から4までのレンズと比較例のレンズとについて、油性インクの拭き取り性と、透明性とを評価した。
(拭き取り性)
拭き取り性を評価する前に、#0000スチールウールに200gの荷重を加えつつレンズの表面上で500往復させ、最表撥水層を払拭した。
その後、レンズの表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約4cmの直線を描いた後5min放置した。放置後、該マーク部をワイプ紙(「ケイドライ」株式会社クレシア製)によって拭き取りを行い、その拭き取り易さを下記の評価基準にて評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
(評価基準)
○:10回以下の拭き取りで完全に除去。
△:11回から20回までの拭き取りで完全に除去。
×:20回の拭き取り後も除去されない部分が残る。
【0039】
(透明性)
実施例1から4までのレンズと比較例のレンズとについて、下記評価基準で目視により透明性を評価した。
(評価基準)
○:穴部は見えず、十分な透明性を有していた。
×:穴部を視認できた。
【0040】
【表1】

【0041】
(結果)
実施例1,2では、拭き取り性も透明性も良好であった。実施例3では、透明性が良好であったが、穴部が浅かったために、実施例1,2,4よりも拭き取り性が悪くなった。実施例4では、拭き取り性が良好であったが、穴部が深すぎたため、実施例1から3までよりも透明性が悪くなった。
一方、比較例では、内部撥水層が設けられていないので、最表撥水層がスチールウールにより剥離された後では、拭き取り性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、眼鏡レンズやカメラレンズなどのレンズ及びレンズの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1…レンズ、11…レンズ基材、13…反射防止層、14…最表撥水層、20…穴部、22…底面、30…内部撥水層、131…表面、132…内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、
前記反射防止層には、その表面からその厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部が設けられ、
前記穴部における前記反射防止層の内面に内部撥水層が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズにおいて、
前記穴部の前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置している
ことを特徴とするレンズ。
【請求項3】
請求項2に記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の内面全体に前記内部撥水層が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のレンズにおいて、
前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下である
ことを特徴とするレンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の表面に最表撥水層が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項6】
レンズ基材の表面に反射防止層を積層する積層工程と、
前記反射防止層に、その表面からその厚さ方向で少なくとも一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、
前記穴部における前記反射防止層の内面に内部撥水層を形成する撥水工程と、を備える
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のレンズの製造方法において、
前記穴部形成工程は、前記反射防止層の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のレンズの製造方法において、
前記撥水工程は、浸漬法により、前記内部撥水層を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−185348(P2012−185348A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48711(P2011−48711)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】