説明

レンズ製造方法及びコート液製造方法

【課題】レンズ表面に形成するコートの材料としてゲル等の異物を含むコート原液をろ過するにあたって、異物を良好に捕捉し、最終的なコート液の収率低下を抑える。
【解決手段】レンズ基板に被覆するコート液を製造するコート液製造工程において、材料を調製したコート原液を繊維構造のフィルタでろ過する工程を含む。フィルタは、有機繊維層2と、無機繊維層1とを備える。有機繊維層2側を一次側としてコート原液のろ過を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡等のレンズの製造にあたってコート液の調整工程を含むレンズ製造方法及びコート液製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学製品である眼鏡等のレンズ、特にプラスチックレンズの表面には、通常種々のコートが施されている。コートの形成方法には、蒸着等の乾式成膜と、スピンコートやディップコートなどの湿式成膜がある。
このうち湿式コートを行う場合、コート液に含まれる異物等を除去するために通常ろ過処理が行われる。異物が含まれた状態で成膜されると、膜中に異物が出現してしまい、光学製品として不良となるからである。
【0003】
各種コートの材料となるコート液としては、酸化物ゾルが分散しているハードコート層を形成するコート液や、層と層や基板と層の密着性を高めたりレンズ自体の耐衝撃性を高めたりするプライマー層を形成するコート液などがある。
プライマー層の一例として、密着性の向上や耐衝撃性を高めるポリウレタン層が挙げられる(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−007665号公報
【特許文献2】特開2005−199683号公報
【特許文献3】特開2007−23174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1〜3に記載されているようなプライマー層に好適なポリウレタン層の形成は、イソシアネートとポリオールを含むコート液を使用する場合と、予め反応が完結しているポリウレタンが含まれるエマルジョン状のコート液を使用する場合がある。両者のコート液は、液中にゲル状の凝集物を形成しやすい。特に、ポリウレタンエマルジョンのコート液の場合は、ゲル状凝集物の析出が深刻である。
【0006】
ゲル状の凝集物を含め、各種の異物を確実に取り除くには、ろ過精度を適切に選定する必要がある。低いろ過精度では異物を確実に取り除けなくなる恐れがあり、また例えばゲルが析出するコート液にゲルが残ってしまうと、時間の経過によりゲルが成長してしまう。したがって、不良品の発生率を抑えるためにはろ過精度を上げる必要がある。一方ろ過精度を単に上げるとフィルタが容易に詰まってしまうため収率が低下し、生産性の低下やコスト高を来す恐れがある。
【0007】
本発明は、レンズ表面に形成するコートの材料としてゲル等の異物を含むコート原液をろ過するにあたって、異物を良好にろ別し、最終的なコート液の収率低下を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明によるレンズ製造方法は、レンズ基板を形成する基板形成工程と、レンズ基板に被覆するコート液を製造するコート液製造工程と、製造したコート液をレンズ基板に被覆する工程と、を含む。そして、コート液製造工程は、材料を調製したコート原液を繊維構造のフィルタでろ過する工程を含む。更に、フィルタは、有機物繊維から成る有機繊維層と、無機物繊維から成る無機繊維層と、を備える多層構造の繊維フィルタより成り、有機繊維層側を一次側として前記コート原液のろ過を行うものである。
本明細書及び特許請求の範囲において、「一次側」とはフィルタのろ液進行方向における前側を意味し、「二次側」とはフィルタのろ液進行方向における後側を意味する。すなわち、一次側から二次側に向けてろ液が透過するものとする。
【0009】
また、本発明のコート液製造方法は、上述したコート液製造工程を含むものである。
【0010】
また本発明においては、ろ過工程で用いるフィルタとして、有機物繊維から成る有機繊維層と、無機物繊維から成る無機繊維層と、を備える多層構造の繊維フィルタを用いる。そしてろ過工程において、有機繊維層側を一次側としてコート原液のろ過を行うことで、確実にゲル等の異物を捕捉してろ別することができる。
【0011】
ゲル成分等の変形する異物を残渣として捕捉する際に、有機繊維のように軟質の繊維でフィルタが構成されていると、コート原液中のゲル等と繊維が共に変形してしまい、ゲル等がフィルタをすり抜けて捕捉することができない。軟質な高分子から成る有機繊維のみをフィルタとして用いる場合はこのような現象が生じてしまい、フィルタの役目を果たせない。一方、硬質な無機繊維を用いると、フィルタの繊維の変形が抑制される。この結果、フィルタにおいてゲルの捕捉率が高くなり、ゲルのフィルタの透過が抑制される。
【0012】
すなわち、無機繊維層と有機繊維層が隣り合うことにより、無機繊維に支えられることで有機繊維の形状安定性が高まる。フィルタの形状は、ろ過面積を広く確保するためにヒダ状にフィルタ形状を屈曲させる構成とする場合もある。このように屈曲変形する形状としても、有機繊維層の繊維形状が無機繊維層により安定化されるため、ろ過工程の終始にわたってろ過能力が衰えないこととなる。
【0013】
本発明の製造方法には、多層構造の繊維フィルタによるろ過(一次ろ過)のろ液を、更に二次フィルタでろ過する二次ろ過工程が含まれていると好ましい。二次フィルタの種類は限定されないが、一次フィルタよりも細密なゲルを捕捉できる能力を有するフィルタが好ましい。二次フィルタで更にろ過することにより、より確実にゲルを排除することができる。
【0014】
なお、本明細書においては、コート材料を調製したろ過工程前の状態をコート原液とし、一次ろ過工程後のろ液を一次ろ液、二次ろ過工程後のろ液を二次ろ液と呼ぶ。
【0015】
このように二次ろ過を行う場合は、レンズ用のコート原液をろ過するにあたって、一次ろ過で異物の大部分をろ過しておき、より微小な異物を二次ろ過で除去する。このように二段階のろ過を行うことで、ゲル等の凝集物を含む異物を一次ろ過工程において効率よくろ過することが可能となる。
【0016】
本発明によれば、コート原液がゲル成分を含む材料である場合においても、一次ろ過工程において確実にゲルをろ別することが可能である。一次ろ過工程でゲルを大幅に排除しておくことができるので、一次ろ液として保管しておいてもゲルの成長が生じにくい。さらに、二次ろ過工程をおこなうことで、一次フィルタで捕捉されなかった微細なゲルもろ別され、また、一次ろ液中で新たに発生した微細なゲルも排除することができる。
【0017】
本発明のレンズ製造方法において、用いる二次フィルタはメンブレンフィルタとすることが好ましい。メンブレンフィルタは多数の孔が基体に設けられる構造のフィルタであり、孔の径が比較的均等とされるものを指す。このようなフィルタを二次フィルタとして用いることで、光学製品であるレンズに用いる最終コート液として、十分な精度のろ過を行うことができる。
【0018】
また、一次フィルタは、無機繊維層を挟んで一次側及び二次側に有機繊維層が設けられて成ることが好ましい。無機繊維層の両側に有機繊維層を設けることで、より確実にゲル等の異物をろ別することが可能となる。また、繊維フィルタの両面を一次側とすることが可能となる。
【0019】
更に、一次フィルタに設ける有機繊維層が、ろ過精度の異なる有機繊維層が積層された構造であることが好ましい。異なるろ過精度の層を有することによって、径の異なる異物が有機繊維層内の異なる領域で捕捉されることとなる。したがって、一次フィルタ全体において、目詰まりを抑制することが可能である。
【0020】
なお、本明細書においてろ過精度とは、捕捉粒子径と、その捕捉効率(百分率で表示)より表される指標であり、捕捉粒子径が小さい程、また捕捉効率が高い程ろ過精度が高いと判断される。なお、捕捉効率は例えば日本工業規格(JIS)によるJIS Z 8901(試験用粉体及び試験用粒子)に準ずる試験用粉体を分散した分散水を、所定の流量でろ過したときのろ別した粉体の重量比等から得ることができる。
【0021】
本発明においては、一次フィルタに設ける無機繊維として、ガラス繊維を用いることが好ましい。ガラス繊維は、繊維の径を微細にすることが可能であることから、高い空隙率でゲルの捕捉を確実に行うことができる。更に、繊維の空隙率を高くすることにより、ろ液の流通を阻害せず、ろ過速度を維持することができる。また、十分な硬度をもつことで、有機繊維と接する領域で有機繊維を強固に保持することが可能である。
【0022】
また、一次フィルタの有機繊維として、ポリオレフィン、例えばポリプロピレンを用いることが好ましい。ポリオレフィンは、繊維形状が一定であり、極性の側鎖を有さない。コート液の液性によらず、安定したフィルタリングを行うことができる。
【0023】
コート原液が乳化液である場合、両媒体の分散状態の変動、及び、電荷の偏りなどにより、微細なゲル状物質が形成されやすい。微細なゲルが形成されると、そのゲルを核としてゲルの成長が生じる。本発明によれば、有機繊維層と無機繊維層との多層構造の一次フィルタを用いることで、予め微細なゲルを確実に捕捉することにより、一次ろ液中でゲルの成長を抑制することができる。
【0024】
本発明においては、コート原液が水系分散ポリウレタンである場合においても、良好に一次ろ過を行うことで、二次ろ過における収率の低下を回避することができる。さらに、高精度の一次フィルタを用いることにより、二次ろ過工程をも省略することができる
また、コート液が眼鏡用レンズのプライマーである場合に、良好に一次ろ過及び二次ろ過を行うことで、プライマー液の収率の低下を抑え、またプライマー層に異物が残留することによる眼鏡レンズの不良品発生率を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ゲル等の異物を含むコート原液をろ過するにあたって、ろ過に用いるフィルタとして、有機繊維層及び無機繊維層を有する繊維フィルタを用い、有機繊維層側を一次側としてろ過を行うことで、異物を良好にろ別することができる。本発明によれば、二次ろ過工程においてろ液(コート液)の収率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のレンズ製造方法の実施の形態の製造工程のフローチャートを示す図である。
【図2】本発明のレンズ製造方法の実施の形態に係るろ過工程に用いる一次フィルタの概略断面構成図である。
【図3】本発明のレンズ製造方法の実施の形態に係るろ過工程に用いる一次フィルタの概略断面構成図である。
【図4】(a)は本発明のレンズ製造方法の実施の形態に係るろ過工程に用いる一次フィルタの概略断面構成図、(b)は一次フィルタの有機繊維層を拡大した断面を模式的に示す説明図である。
【図5】(a)は本発明のレンズ製造方法の実施の形態に係るろ過工程に用いる二次フィルタの概略平面構成図、(b)はそのAA線上の概略断面構成図、(c)は他の実施の形態に係る二次フィルタの概略断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態に係るレンズ製造方法及びコート液製造方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。説明は以下の順序で行う。
1.レンズ製造方法の実施の形態(工程の概要)
2.コート液製造方法の実施の形態(フィルタの構造)
(1)一次フィルタ
(2)二次フィルタ
3.実施例
【0028】
1.レンズ製造方法の実施の形態(工程の概要)
図1は本発明のレンズ製造方法の実施の形態の製造工程を説明するフローチャートである。
図1に示すように、先ずレンズ用のプラスチック等より成る基板を用意し、その光学面の形成を行う基板形成工程を行う(ステップS0)。レンズ基板の構成材料やその製造方法などは特に限定されず、例えば眼鏡レンズの場合は注文の処方等に応じて適宜選択される。
【0029】
レンズの基板材料を例示すると、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等が挙げられる。これら材料に、必要に応じて各種添加剤が含まれていてもよい。また、プラスチックレンズ以外のガラスレンズにコートを成膜する場合においても、本発明を適用可能である。
【0030】
また、レンズの光学面形成方法は、前記材料に合わせて射出成形、注型成形等、又はカーブジェネレータ等のNC(数値制御)切削加工装置により形成してもよい。なお、基板の光学面形成は両面ともこの基板形成工程S0で行ってもよいが、片面のみを光学面形成した後この面にコート膜を形成し、その後他の面の光学面形成を行うことも可能である。
【0031】
この基板形成工程S0の後、又は同時に並行してコート液の材料を調合してコート原液を作製する(コート液調製工程、ステップS1)。コート液の種類及び材料は特に限定されず、光学部材表面に塗工成膜するコート液であれば特に限定はないが、経時変化によりゲル状の凝集物が発生する液性のものが好ましく、特に適しているのは高分子エマルジョンである。例えば前述した特許文献1〜3に記載の材料が挙げられ、媒体が水とポリウレタンである水系ポリウレタン等を適用可能であり、フォトクロミック膜やハードコート等の機能性膜のプライマー層材料等に用いられる。またその他フォトクロミック膜自体や、ハードコート、撥水コート等の種々のコート材に適用可能であり、ゲル等の異物を含むものであれば好適に用いることができる。
【0032】
次に、コート原液のろ過を行う。このろ過工程として、先ず一次フィルタによるろ過を行う(一次ろ過工程、ステップS2)。その後、二次フィルタを用いて二次ろ過を行う(二次ろ過工程、ステップS3)。一次フィルタ及び二次フィルタの構造の詳細は後述する。以上のコート液調製工程S1、一次ろ過工程S2及び二次ろ過工程(S3)によって、コート液製造工程(ステップS10)が終了し、最終コート液が製造される。
なお、一次フィルタの精度が高い場合(例えば、捕捉粒子径が1μm以下で捕捉効率98%以上のフィルタを用いた場合)には、二次ろ過工程(ステップS3)を省略しても良い。その場合は、ろ過工程を簡略化することができる。
【0033】
次に、二次ろ過後の二次ろ液を最終コート液として用いて基板上に成膜する(コート液成膜工程、ステップS4)。成膜方法は、ディッピング法、スピン法、スプレー法等いずれの湿式成膜法も利用可能である。その後、乾燥、加熱等による硬化処理を行い(ステップS5)、塗膜を完成させる。
【0034】
以上のコート液製造工程S10、コート液成膜工程S4及び硬化工程S5を、コートの種類によって目的に応じて2回以上行ってもよい。更に、必要に応じて反射防止膜等のコート材を乾式成膜する工程(ステップS6)を加えてもよい。湿式成膜と乾式成膜の回数や順序は図1に示す例に限定されるものではなく、乾式成膜の後に、追加して湿式成膜を行うことも可能である。
以上の工程を経てレンズの製造工程が終了する。
【0035】
2.コート液製造方法の実施の形態(フィルタの構造)
次に、前述したコート液製造工程において一次及び二次ろ過工程に用いるろ過フィルタの構造について説明する。
(1)一次フィルタ
(1−a)一次フィルタの一実施形態
一次フィルタの一実施形態の概略断面構成を図2に示す。この一次フィルタ10は、無機繊維からなる無機繊維層1と、有機繊維からなる有機繊維層2が隣り合うように積層した繊維フィルタとして構成される。図2に示す例では、無機繊維層1を支持体とし、上面(一次側)に有機繊維層2を備える構成である。そして有機繊維層2側を一次側としてろ過を行う。すなわち、矢印51で示すようにコート原液を有機繊維層2側から注入して、無機繊維層1側から矢印52で示すように一次ろ液を得る。この場合、無機繊維層1により有機繊維層2の形状が安定するため、コート原液にゲル等の凝集物が存在する場合においても、その透過を阻止することができ、確実に異物を捕捉できる。
【0036】
(1−b)一次フィルタの他の実施形態
図3は、一次フィルタの他の実施形態の概略断面構成図である。図3に示す一次フィルタ20は、無機繊維層11の両面を有機繊維層12及び13が覆うように構成された繊維フィルタの例である。この場合、一方の有機繊維層12上を一次側としてコート原液を矢印51で示すように注入し、反対側の有機繊維層12側から矢印52で示すように一次ろ液を取り出してろ過を行う。この場合、無機繊維層11が有機繊維層12の形状を安定化させるわけであるが、反対側の有機繊維層13もまた硬質な無機繊維層11により安定化するため、有機繊維層13におけるゲル等の異物の捕捉能力も改善する。したがって、より確実に異物をろ別することが可能である。なお、反対側の有機繊維層13側を一次側とすることも可能である。
【0037】
(1−c)一次フィルタの他の実施形態
図4(a)は、一次フィルタの他の実施形態の概略断面構成図である。図4(a)に示す一次フィルタ30は、無機繊維層21の一方の面にろ過精度の異なる多層構造の有機繊維層22を設け、他方の面に単層の有機繊維層23を設ける例である。多層構造とされる有機繊維層22は、ろ過精度に勾配を持たせた構造とすることが好ましく、例えば一次側から比較的ろ過精度の低い有機繊維層22a、中程度のろ過精度の有機繊維層22b、比較的ろ過精度の高い有機繊維層22cを積層した構成とする。この場合の各繊維層22a〜22cの模式的な拡大図を図4(b)に示す。このような構成によれば、ゲルを含むコート原液をろ過する場合に、ゲルの成長具合により、有機繊維層22内で捕捉する領域が変わるため、一次フィルタ30の目詰まりが生じにくいという利点を有する。
【0038】
なお、図4に示す例では、無機繊維層21の片面にろ過精度に勾配をもたせた多層構造の有機繊維層22を設ける例であるが、他方の面にも同様の多層構造の有機繊維層を設けてもよい。また、多層構造とする有機繊維層の層数は3層に限定されるものではなく、2層又は4層以上でももちろんよい。更に、無機繊維層21においてもろ過精度の異なる多層構造とすることも可能である。図4(a)の例と同様に、異なる径の異物を異なる領域で捕捉することとなるので、全体として目詰まりを抑制することが可能となる。
【0039】
(2)二次フィルタ
本発明において二次ろ過工程に用いる二次フィルタとしては、メンブレンフィルタを好ましく用いることができる。図5(a)は、メンブレンフィルタより成る二次フィルタ60の概略平面図であり、図5(a)のAA線上の概略断面図を図5(b)に示す。メンブレンフィルタを用いる場合、その構成については特に限定はないが、図5(a)に示す例では、セルロースや樹脂等より成り、例えば平面円形の基体61に多数の孔部が設けられるもので、図5(b)に示すように、一次側から二次側にかけてトンネル状の複数の細孔62が形成されている例を示す。
【0040】
その他、図5(c)に示すように、基体71に例えば球状の多数の孔部72が形成される例を示す。
二次フィルタとしてはこのようなメンブレンフィルタを用いることが好ましく、孔部の形状がほぼ一定であり、安定したろ過精度を保持することができる。
【0041】
3.実施例
次に、実施例として、眼鏡用のレンズのコート液を製造して、得られたコート液の評価を行った。
(1)評価方法
一次フィルタの評価方法について説明する。まず、一次フィルタとして異なる構造のものを用意し、それぞれによりコート原液をろ過する(一次ろ液)。次いで、一次ろ液を二次フィルタでろ過し、そのろ液の収量の値、すなわち二次ろ過量によって一次フィルタの性能を評価した。すなわち、二次フィルタでとれる最終のコート液の量が多いほど良く、少ないほど一次フィルタの性能が悪い、として評価を行った。
【0042】
(2)コート原液
コート原液として、各例共に、プラスチックレンズ基板と機能性膜との密着性を高める用途で設けられるプライマー層を成膜するためのコート原液を用いた。このコート原液は、水系ポリウレタン液で、ポリウレタン濃度が凡そ30〜45重量%の水系エマルジョンを用いた。
【0043】
(3)一次フィルタ
以下、捕捉効率98%以上のろ過精度でフィルタの層構造や捕捉粒子径が異なるいくつかのフィルタを用い、一次フィルタの能力を比較した。
(3−1)実施例1
一次フィルタとして、無機繊維層がガラス繊維より成り、このガラス繊維の両面にポリオレフィン系繊維(ポリプロピレン(PP))より成る有機繊維層が設けられている3層構造のカプセル形フィルタを用いた。ろ過精度は、捕捉粒子径が1〜1.5μmである。
【0044】
(3−2)実施例2
一次フィルタとして、無機繊維層がガラス繊維より成り、ガラス繊維層の両面にポリオレフィン系繊維より成る有機繊維層が設けられた3層構造のカプセル形フィルタを用いた。ろ過精度は、捕捉粒子径が0.3μmである。
【0045】
(3−3)実施例3
一次フィルタとして、無機繊維層がガラス繊維より成り、ガラス繊維層の両面にろ過精度勾配を付けたポリオレフィン系繊維(PP)より成る有機繊維層が設けられているカプセル形フィルタを用いた。有機繊維層は、図4(b)に示す例と同様に浸透方向に向けてろ過精度が高くなるように形成されている。ろ過精度は、捕捉粒子径が0.5μmである。
【0046】
(3−4)比較例1
一次フィルタとして、ポリプロピレン繊維層を2層積層したカプセル形フィルタ)を用いた。ろ過精度は、捕捉粒子径が1μmである。
【0047】
(3−5)比較例2
一次フィルタとして、ポリプロピレン繊維層を3層積層したカプセル形フィルタ)を用いた。ろ過精度は、捕捉粒子径が0.8μmである。
【0048】
(3−6)比較例3
一次フィルタとして、ポリプロピレン繊維層をメインとしたカプセル形フィルタ(を用いた。ろ過精度は、捕捉粒子径が2μmである。
【0049】
(4)二次フィルタ
二次フィルタは、フィルタ材質がセルロースアセテート、孔径0.8μmのメンブレンフィルタを使用した。
【0050】
(5)結果
以上の各例において、一次フィルタによりろ過した一次ろ液を二次フィルタに通した時に二次フィルタでろ過できる限り(上限120ml)一次ろ液を注入し、ろ過された二次ろ液の量を計測して、一次フィルタの性能を評価した。この結果を下記の表1に示す。なお、表1においては、各例における一次フィルタのろ過精度として捕捉粒子径及び捕捉効率、二次フィルタの孔径、一次フィルタの材質及び構成も記す。
【0051】
【表1】

【0052】
以上の結果から、ガラス繊維より成る無機繊維層を含む一次フィルタを用いる実施例1〜3においては、二次フィルタの通過率が高く、十分な収率が得られることがわかる。これに対し、ガラス繊維より成る無機繊維層を含まない比較例1〜3による場合は、二次フィルタによるろ過量が少ないことが判った。
【0053】
また、実施例1は、フィルタのろ過精度における捕捉粒子径が1〜1.5μmであり、二次フィルタのろ過精度における捕捉粒子径(0.8μm)よりも大きい。このことから、微細なゲルの通過を許容したため、ろ過精度が高く捕捉粒子径が小さい一次フィルタを用いる場合である実施例2及び3よりも、二次あフィルタのろ過量が少なかったと考えられる。
実施例2及び3は、一次ろ液を目詰まりすることなく透過することができた。これにより、一次フィルタが高精度であれば、二次フィルタが不要であることがわかった。
一方、比較例では、捕捉粒子径が0.8μmの比較例2のフィルタであっても、二次フィルタのろ過量が少なく、一次フィルタで0.8μmよりも大きいゲル等の異物がろ過されていたと考えられる。
【0054】
以上説明したように本発明によれば、有機繊維層の繊維形状を保持する無機繊維層を積層した一次フィルタを一次ろ過工程において用い、その後二次フィルタで二次ろ過を行うことで、二次ろ過の収率の低下を抑制することができる。
また、一次フィルタとして高精度なフィルタを用いる場合は、二次ろ過を省略することが可能となる。
なお、本発明は上述の実施の形態や実施例において説明した例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1,11,21・・・無機繊維層、2,22,22a,22b,22c,32・・・有機繊維層、10,20,30・・・一次フィルタ、60,70・・・二次フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基板を形成する基板形成工程と、
前記レンズ基板に被覆するコート液を製造するコート液製造工程と、
製造した前記コート液を前記レンズ基板に被覆する工程と、を含み、
前記コート液製造工程は、材料を調整したコート原液を繊維構造のフィルタでろ過する工程を含み、
前記フィルタは、有機物繊維から成る有機繊維層と、無機物繊維から成る無機繊維層と、を備える多層構造の繊維フィルタより成り、
前記ろ過工程において、前記有機繊維層側を一次側として前記コート原液のろ過を行う
レンズ製造方法。
【請求項2】
前記ろ過工程には、前記フィルタによりろ別されたろ液を二次フィルタでろ過する二次ろ過工程が含まれる請求項1に記載のレンズ製造方法。
【請求項3】
前記二次フィルタが、メンブレンフィルタより成る請求項2に記載のレンズ製造方法。
【請求項4】
前記フィルタが、前記無機繊維層を挟んで一次側及び二次側に前記有機繊維層が設けられて成る請求項1〜3のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項5】
前記有機繊維層が、ろ過精度の異なる有機繊維層が積層された構造である請求項1〜4のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維がガラス繊維より成る請求項1〜5のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項7】
前記有機繊維がポリオレフィンより成る請求項1〜6のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項8】
前記コート液がゲル成分を含む材料である請求項1〜7のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項9】
前記コート液が乳化液である請求項8に記載のレンズ製造方法。
【請求項10】
前記コート液が水系分散ポリウレタンである請求項8又は9に記載のレンズ製造方法。
【請求項11】
前記コート液がフォトクロミック層のプライマーである請求項1〜10のいずれかに記載のレンズ製造方法。
【請求項12】
レンズ用のコート原液を、有機物繊維から成る有機繊維層と無機物繊維から成る無機繊維層とを備える多層構造のフィルタを用いて、前記有機繊維層側を一次側としてろ過を行うろ過工程を含む
コート液製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−237606(P2010−237606A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88046(P2009−88046)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】