説明

レンズ鏡筒および撮像装置

【課題】手振れ補正をより高い精度で行うことが可能なレンズ鏡筒を提供する。
【解決手段】振動を検出して、振動に応じた検出信号を出力する振動検出部220と、光軸と交差する方向に移動可能な振れ補正光学系212を有する振れ補正部と、像振れを補正するように振れ補正部を駆動させる駆動部273と、撮像素子で撮像された画像信号に基づいた被写体の動きベクトル量を受信する受信部と、検出信号に基づいて、像振れ量を演算する像振れ量演算部241と、振れ補正光学系の位置に応じて、振れ補正光学系を、振れ補正光学系の可動範囲中心に移動させるための向心力をバイアス量として演算するバイアス量演算部261と、像振れ量と、バイアス量を重畳した像振れ量との差をバイアス残差として算出するバイアス残差演算部281と、バイアス残差と、動きベクトル量に対応する振れ補正光学系の振れ残差とを比較し、該比較結果に基づいて、バイアス量を変更する制御部281,284とを備えることを特徴とするレンズ鏡筒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒および撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、角速度センサなどのセンサを用いて手振れを検出し、手振れ補正を行う技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−171341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、手振れを検出するためのセンサの出力が、周囲温度などの撮影環境に応じて変動してしまい、手振れ補正を高い精度で行えない場合があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、手振れ補正をより高い精度で行うことが可能なレンズ鏡筒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は本発明の理解を容易にするためだけのものであって本発明を限定する趣旨ではない。
【0007】
[1]本発明に係るレンズ鏡筒は、振動を検出して、振動に応じた検出信号を出力する振動検出部(220)と、光軸と交差する方向に移動可能な振れ補正光学系(212)を有する振れ補正部と、像振れを補正するように前記振れ補正部を駆動させる駆動部(273)と、撮像素子(110)で撮像された画像信号に基づいた被写体の動きベクトル量を受信する受信部と、前記検出信号に基づいて、像振れ量を演算する像振れ量演算部(241)と、前記振れ補正光学系の位置に応じて、前記振れ補正光学系を、前記振れ補正光学系の可動範囲中心に移動させるための向心力をバイアス量として演算するバイアス量演算部(261)と、前記像振れ量と、前記バイアス量を重畳した像振れ量との差をバイアス残差として算出するバイアス残差演算部(281)と、前記バイアス残差と、前記動きベクトル量に対応する前記振れ補正光学系の振れ残差とを比較し、該比較結果に基づいて、前記バイアス量を変更する制御部(281,284)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
[2]上記レンズ鏡筒に係る発明において、前記制御部(281,284)は、前記バイアス残差と前記振れ残差との差が、第1の基準値よりも大きい場合には、前記バイアス量を小さくなるように変更し、前記差が、第2の基準値よりも小さい場合には、前記バイアス量を大きくなるように変更するように構成することができる。
【0009】
[3]上記レンズ鏡筒に係る発明において、前記像振れ量演算部(241)は、前記バイアス残差と前記振れ残差との比較の結果に基づいて、前記像振れ量を変更するように構成することができる。
【0010】
[4]上記レンズ鏡筒に係る発明において、前記制御部(281,284)は、前記像振れ量が極大値を示した際に、前記バイアス量を変更するように構成することができる。
【0011】
[5]上記レンズ鏡筒に係る発明において、前記受信部は、撮像素子の露光を開始するための露光開始信号を受信可能となっており、前記制御部(281,284)は、前記露光開始信号を受信した場合に、前記バイアス量を変更するように構成することができる。
【0012】
[6]本発明に係る撮像装置は、振動を検出して、振動に応じた検出信号を出力する振動検出部(220)と、光軸と交差する方向に移動可能な撮像素子(110)を有する振れ補正部と、像振れを補正するように前記振れ補正部を駆動させる駆動部と、前記撮像素子で撮像された画像信号に基づいて、被写体の動きベクトル量を演算する動きベクトル量演算部(130)と、前記検出信号に基づいて、像振れ量を演算する像振れ量演算部と、前記撮像素子の位置に応じて、前記撮像素子を、前記撮像素子の可動範囲中心に移動させるための向心力をバイアス量として演算するバイアス量演算部と、前記像振れ量と、前記バイアス量を重畳した像振れ量との差をバイアス残差として算出するバイアス残差演算部と、前記バイアス残差と、前記動きベクトル量に対応する前記撮像素子の振れ残差とを比較し、該比較結果に基づいて、前記バイアス量を変更する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
[7]上記撮像装置に係る発明において、前記制御部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との差が、第1の基準値よりも大きい場合には、前記バイアス量を小さくなるように変更し、前記差が、第2の基準値よりも小さい場合には、前記バイアス量を大きくなるように変更するように構成することができる。
【0014】
[8]上記撮像装置に係る発明において、前記像振れ量演算部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との比較の結果に基づいて、前記像振れ量を変更するように構成することができる。
【0015】
[9]上記撮像装置に係る発明において、前記制御部は、前記像振れ量が極大値を示した際に、前記バイアス量を変更するように構成することができる。
【0016】
[10]上記撮像装置に係る発明において、前記制御部は、前記撮像素子の露光を開始する直前に、前記バイアス量を変更するように構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、手振れ補正をより高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態に係るカメラ1を示すブロック図である。
【図2】図2は、バイアス残差の一例を示すグラフである。
【図3】図3は、本実施形態に係るカメラ1の動作を示すフローチャートである。
【図4】図4は、他の実施形態に係るカメラを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態の一眼レフデジタルカメラ1(以下、単にカメラ1という。)は、カメラ本体100とレンズ鏡筒200とから構成され、これらカメラ本体100とレンズ鏡筒200とはマウント部300により着脱可能に結合されている。
【0021】
レンズ鏡筒200には、レンズ211,212を含む撮影光学系が内蔵されている。補正レンズ212は、レンズ枠213により保持され、レンズ枠213とともに、カメラの光軸L1に交差する方向に移動可能とされている。補正レンズ212が移動できる範囲は機械的に制限されており、補正レンズ212は、この移動可能範囲内において移動することで、光学的に像振れを補正することができる。
【0022】
角速度センサ220はカメラ1に入力された振動を検出し、振動に応じた検出信号を出力する。角速度センサ220により出力された検出信号は、増幅回路とローパスフィルタで構成される増幅器231により、所望の信号レベルまで増幅されるとともに、振れ補正に必要のない高周波ノイズが除去される。そして、増幅器231から出力された検出信号は、A/D変換器232によりアナログ信号からデジタル信号に変換された後、2つに分岐され、一方は、LPF233を介して第1の減算器234に入力されるとともに、他方は、そのまま第1の減算器234に入力される。これにより、極低周波数の直流成分(ドリフト成分)が検出信号から取り除かれ、積分可能な角速度信号を得ることができる。
【0023】
目標位置算出部241は、得られた角速度信号を積分して、撮影光学系の光軸L1の傾きを算出し、この光軸L1の傾きと、撮影光学系の焦点距離および被写体距離とに基づいて、像振れを補正するための補正レンズ212の目標位置を算出する。目標位置算出部241により算出された補正レンズ212の目標位置は、後述する第2の減算器262および第4の減算器281に送出される。
【0024】
一方、位置検出センサ251は、補正レンズ212の現在位置を検出し、補正レンズ212の現在位置に応じた位置信号を出力する。補正レンズ212の位置信号は、A/D変換器252により、アナログ信号からデジタル信号に変換される。そして、レンズ位置演算部253は、変換された位置信号に基づいて、補正レンズ212の現在位置を算出する。なお、位置検出センサ251は、光軸L1と垂直な平面上に設定された第1方向における補正レンズ212の位置と、光軸L1と垂直な平面上において第1方向と垂直な第2方向における補正レンズ212の位置とを検出することができように構成されている。
【0025】
レンズ位置演算部253により算出された補正レンズ212の現在位置は、バイアス量演算部261に入力される。バイアス量演算部261は、補正レンズ212を、補正レンズ212の可動範囲の中心に向かってを移動させるための向心力をバイアス量として演算し、算出したバイアス量を、第2の減算器262に入力する。また、第2の減算器262には、目標位置算出部241により算出された補正レンズ212の目標位置も入力され、第2の減算器262において、目標位置算出部241により算出された補正レンズ212の目標位置から、バイアス量演算部261により算出されたバイアス量が減算され、補正レンズ212の制御位置が求められる。
【0026】
第3の減算器263は、第2の減算器262により出力された補正レンズ212の制御位置から、レンズ位置演算部253により算出された補正レンズ212の現在位置を減算して、補正レンズ212の駆動制御量を算出し、算出した補正レンズ212の駆動制御量を駆動信号演算部271に出力する。
【0027】
駆動信号演算部271は、第3の減算器263から入力された駆動制御量に基づいて、補正レンズ212を駆動するための駆動信号を出力し、出力された駆動信号が、モータドライバ272に入力される。モータドライバ272は、駆動信号演算部271により出力された駆動信号に基づいて、駆動部273を駆動させるための駆動電圧および駆動電流を出力する。これにより、駆動部273が、補正レンズ212を含む補正レンズ機構を駆動させるための駆動力を出力する。
【0028】
また、第4の減算器281には、目標位置算出部241により算出された補正レンズ212の目標位置、および、レンズ位置演算部253により算出された補正レンズ212の現在位置が入力される。第4の減算器281は、補正レンズ212の目標位置から補正レンズ212の現在位置を減算し、補正レンズ212の目標位置と補正レンズ212の現在位置との差分をバイアス残差Bとして算出する。
【0029】
ここで、図2は、バイアス残差Bの一例を示すグラフである。図2では、縦軸に補正レンズ212の位置を表しており、横軸に時間を表している。また、図2においては、角速度センサ220の検出信号に基づく補正レンズ212の目標位置の推移を実線で表しており、バイアス量が重畳された補正レンズ212の現在位置の推移を破線で表している。補正レンズ212を可動範囲の中心に向かって移動させる補正レンズ機構のセンタリングバイアス機能により、補正レンズ212の現在位置は、図2に示すように、補正レンズ212の目標位置よりも、補正レンズ212の可動範囲の中心に近い位置となる。そして、このようにバイアス量が重畳された補正レンズの現在位置と、補正レンズ212の目標位置との差分がバイアス残差Bとして算出される。また、バイアス量は、像振れが大きくなり、補正レンズ212の目標位置が可動範囲の中心から遠くになるほど大きくなる。そのため、補正レンズ212の目標位置から補正レンズ212の現在位置を減算したバイアス残差Bも、像振れが大きくなり、補正レンズ212の目標位置が可動範囲の中心から遠くになるほど大きくなる。なお、補正レンズ212の位置は、光軸L1と垂直な平面上に設定された第1方向における位置と、光軸L1と垂直な平面上において第1方向と垂直な第2方向における位置があるが、図2においては、説明の便宜のため、1軸方向の補正レンズ212の位置のみを表している。
【0030】
動きベクトル変換部283は、マウント部300に設けられた接点部310を介して、カメラ本体100から、後述する撮影画面内の動きベクトル量Vjkを受信し、受信した動きベクトル量Vjkを、補正レンズ212の振れ残差Vに変換する。変換された振れ残差Vは、第5の減算器282に出力される。
【0031】
第5の減算器282は、第4の減算器281により送出されたバイアス残差Bから、動きベクトル量変換部283により送出された振れ残差Vを減算し、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uを、判定部284に出力する。判定部284は、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、所定の第1の基準値thmaxよりも大きいか否かを判定するとともに、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、所定の第2の基準値thminよりも小さいか否かを判定する。判定部284による判定結果は、バイアス量演算部261に出力される。
【0032】
バイアス量演算部261は、判定部284の判定結果に基づいて、算出するバイアス量を変更する。具体的には、バイアス量演算部261は、判定部284の判定の結果、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第1の基準値thmaxよりも大きいと判定された場合には、バイアス量のゲインを大きくなるように設定することで、差分Uが第1の基準値thmax以下である場合と比べて、バイアス量をより大きい値で算出する。また、バイアス量演算部261は、判定部284の判定結果、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第2の基準値thminよりも小さいと判定された場合には、バイアス量のゲインを小さくなるように設定することで、差分Uが第2の基準値thmin以上である場合と比べて、バイアス量をより小さい値で算出する。判定部284の判定結果に基づいて変更されたバイアス量のゲインは、不揮発性メモリ264に記憶される。
【0033】
パンニング検出部290は、角速度センサ220から出力された検出結果に基づいて、パンニングが行われている否かを検出する。パンニング検出部290の検出結果は、判定部284に出力される。
【0034】
一方、カメラ本体100は、撮像素子110、画像処理部120、および動きベクトル量演算部130を内蔵する。
【0035】
撮像素子110は、カメラ本体100の、被写体からの光束の光軸L1上であって、レンズ211,212を含む撮影光学系の予定焦点面となる位置に設けられている。この撮像素子110は、複数の光電変換素子が二次元に配列されたものであって、二次元CCDイメージセンサ、MOSセンサまたはCIDなどで構成することができる。この撮像素子110で光電変換された画像信号は、画像処理部120で画像処理されたのち、動きベクトル量演算部130に送出される。
【0036】
動きベクトル量演算部130は、画面全体の動き(動き方向、動き量)を示す動きベクトル量を演算する。例えば、動きベクトル量演算部130は、連続する2つのフレーム画像データに含まれる輝度情報を比較することによって、画面全体の振れ量及び振れ方向を検出して、これをベクトルとして出力することができる。動きベクトル量演算部130により出力された動きベクトル量は、マウント部300に設けられた接点部310を介して、レンズ鏡筒200の動きベクトル変換部283に送信される。
【0037】
続いて、図3を参照して、本実施形態に係るカメラ1の動作例について説明する。図3は、本実施形態に係るカメラ1の動作例を示すフローチャートである。なお、以下に説明する処理は、例えば、図示しないレリーズボタンが半押しされている間、繰り返し行われる。
【0038】
まず、ステップS101では、角速度センサ220により、カメラ1に入力された振動が検出され、振動に応じた検出信号の出力が行われる。そして、角速度センサ220の検出信号が、目標位置算出部241により取得される。
【0039】
そして、ステップS102では、目標位置算出部241により、ステップS101で取得された角速度センサ220の検出信号に基づいて、像振れを補正するための補正レンズ212の目標位置の算出が行われる。
【0040】
ステップS103では、パンニング検出部290により、パンニングが行われたか否かの判断が行われる。パンニングが行われたと判断された場合は、ステップS119に進み、一方、パンニングが行われていないと判断された場合は、ステップ104に進む。
【0041】
ステップS104では、位置検出センサ251により、補正レンズ212の現在位置に応じた位置信号の出力が行われる。そして、レンズ位置演算部253により、出力された位置信号に基づいて、補正レンズ212の現在位置の算出が行われる。
【0042】
ステップS105では、第4の減算器281により、ステップS102で算出された補正レンズ212の目標位置から、ステップS104で算出された補正レンズ212の現在位置が減算され、補正レンズ212の目標位置と補正レンズ212の現在位置との差が、バイアス残差Bとして算出される。
【0043】
ステップS106では、カメラ本体100の動きベクトル量演算部130により、撮影画面内の動きベクトル量Vjkの算出が行われ、算出された動きベクトル量Vjkが、マウント部300に設けられた接点部310を介して、レンズ鏡筒200の動きベクトル変換部283に送信される。
【0044】
ステップS107では、動きベクトル量変換部283により、ステップS106で算出された動きベクトル量Vjkが受信され、受信された動きベクトル量Vjkに基づいて、撮影画面内の動きベクトル量Vjkにばらつきが生じているか否かの判断が行われる。例えば、動きベクトル量変換部283は、撮影画面を複数の領域に分け、各領域ごとの動きベクトル量Vjkに基づいて、動きベクトル量Vjkの標準偏差を求め、得られた標準偏差が所定値以上である場合に、撮影画面内の動きベクトル量Vjkにばらつきがあると判断することができる。動きベクトル量Vjkにばらつきがないと判断された場合は、撮影画面内の動きベクトル量Vjkは、手振れに対応する動きベクトル量としての信頼性が高いものと判断され、ステップS108に進む。一方、撮影画面内の動きベクトル量Vjkにばらつきがあると判断された場合は、撮影画面内の動きベクトル量には、動体などの手振れ以外の動きベクトル成分が含まれており、手振れに対応する動きベクトル量としての信頼性が低いものと判断され、ステップS114に進む。なお、ステップS107の処理は、動きベクトル量演算部130が行ってもよい。
【0045】
ステップS108では、動きベクトル量変換部283により、動きベクトル量Vjk(速さを単位とする)を、動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差V(位置を単位とする)に変換する処理が行われる。なお、動きベクトル量Vjkを振れ残差Vに変換する方法は、特に限定されないが、例えば、動きベクトル量Vjkに所定の変換係数を乗算することで、動きベクトル量Vjkを振れ残差Vに変換することができる。
【0046】
ステップS109〜ステップS114では、ステップS105で算出したバイアス残差Bと、ステップS108で算出した動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差Vとを比較し、該比較結果に応じて、バイアス量を変更する処理が行われる。
【0047】
具体的には、まず、ステップS109では、第5の減算器282により、ステップS105で算出されたバイアス残差Bから、ステップS108で得られた振れ残差Vが減算され、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差が差分Uとして算出される。
【0048】
そして、ステップS110では、判定部284により、差分Uが第1の基準値thmaxよりも大きいか否かの判定が行われる。差分Uが第1の基準値thmaxよりも大きいと判定された場合は、ステップS111に進み、一方、差分Urが第1の基準値thmax以下であると判定された場合は、ステップS112に進む。
【0049】
ステップS111では、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第1の基準値thmaxよりも大きいと判定されているため、バイアス量演算部261により、バイアス残差Bが振れ残差Vに対して大きく、センタリングバイアス機能により補正レンズ212を可動範囲の中心に寄せる量が大きいものと判断され、バイアス量のゲインを小さくなるように設定が行われる。
【0050】
一方、ステップS110において、差分Uが第1の基準値thmax以下であると判断された場合は、ステップS112に進む。ステップS112では、判定部284により、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第2の基準値thminよりも小さいか否かの判定が行われる。差分Uが第2の基準値thminよりも小さいと判定された場合は、ステップS113に進み、一方、差分Uが第2の基準値thmin以上であると判定された場合は、ステップS114に進む。
【0051】
ステップS113では、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第2の基準値thminよりも小さいと判定されているため、バイアス量演算部261により、バイアス残差Bが振れ残差Vに対して小さく、センタリングバイアス機能により補正レンズ212を可動範囲の中心に寄せる量が小さいものと判断され、バイアス量のゲインを大きくなるように設定が行われる。
【0052】
また、ステップS107において、動きベクトル量Vjkにばらつきが生じていると判断された場合、および、ステップS112において、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第2の基準値thmin以上であると判定された場合(すなわち、差分Uが、第1の基準値以下であり、かつ、第2の基準値thmin以上であると判定された場合)は、ステップS114に進む。ステップS114では、バイアス量演算部261により、振れ残差Vとバイアス残差Bとは対応しており、バイアス量を変更する必要がないものと判断されて、バイアス量のゲインを初期値に戻す処理が行われる。
【0053】
そして、ステップS115では、バイアス量演算部261により、ステップS111,113,114で設定されたバイアス量のゲインと、ステップS104で算出された補正レンズ212の現在位置とに基づいて、バイアス量の演算が行われる。算出されたバイアス量は、第2の減算器262に入力され、バイアス量を重畳した補正レンズ212の制御位置が算出される。
【0054】
ステップS116では、駆動信号演算部271により、補正レンズ212の制御位置に、補正レンズ212を駆動するための駆動信号の演算が行われ、続くステップS117では、駆動部273により、駆動信号に基づいて、補正レンズ212の駆動が行われる。
【0055】
そして、ステップS118では、バイアス量演算部261により、ステップS111,113,114で設定されたバイアス量のゲインが、不揮発性メモリ264に書き込まれる。
【0056】
また、ステップS103において、パンニングが行われたと判断された場合は、ステップS119に進む。ステップS119では、補正レンズ212が、パンニングに応じた位置に駆動される。例えば、補正レンズ212が、補正レンズ212の可動範囲の中心位置に駆動される。
【0057】
以上のように、本実施形態に係るカメラ1は動作する。
【0058】
このように、本実施形態では、角速度センサ220の検出信号に基づく補正レンズ212の目標位置と、バイアス量が重畳された補正レンズ212の現在位置との差を、バイアス残差Bとして求め、このバイアス残差Bと、撮影画面内の動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差Vとを比較する。ここで、理論上、撮影環境による変動成分による影響がなければ、バイアス残差Bに応じた動きベクトル量Vjkが算出されることとなる。すなわち、撮影環境による変動成分の影響がない場合には、動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差Vは、バイアス残差Bに対応するものとなる。そこで、本実施形態では、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uが、第1の基準値thmax以下であり、かつ、第2の基準値thmin以上であれば、振れ残差Vはバイアス残差Bに対応しており、撮影環境による変動成分による影響はないものと判断して、バイアス量のゲインを初期値のままとする。一方、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、所定の第1の基準値thmaxよりも大きい場合、あるいは、差分Uが、所定の第2の基準値thminよりも小さい場合は、振れ残差Vがバイアス残差Bに対応しておらず、撮影環境による変動成分などの影響が生じているものと判断し、バイアス量のゲインを変更する処理をする。具体的には、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uが、第1の基準値thmaxよりも大きい場合は、バイアス残差Bが振れ残差Vに対して大きく、センタリングバイアス機能により補正レンズ212を可動範囲の中心に寄せる量が大きいものと判断し、バイアス量のゲインを小さくなるように設定する。一方、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uが、第2の基準値thminよりも小さい場合は、バイアス残差Bが振れ残差Vに対して小さく、センタリングバイアス機能により補正レンズ212を可動範囲の中心に寄せる量が小さいものと判断し、バイアス量のゲインを大きくなるように設定する。これにより、本実施形態では、撮影画面内の動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差Vが、バイアス残差Bに対応していない場合でも、バイアス量を適切な値とすることができ、手振れ補正をより高い精度で行うことができる。
【0059】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0060】
例えば、上述した実施形態では、バイアス残差Bと振れ残差Vとの比較結果に応じて、バイアス量のゲインを変更する構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、バイアス残差Bと振れ残差Vとの比較結果に応じて、目標位置算出部241による補正レンズ目標位置の演算結果を変更する構成としてもよい。例えば、図4に示すように、目標位置算出部241において、判定部284の判定結果を取得し、判定の結果、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第1の基準値thmaxよりも大きい場合は、補正レンズ212の目標位置のゲインを小さなるように設定し、一方、バイアス残差Bから振れ残差Vを減算した差分Uが、第2の基準値thminよりも小さい場合は、補正レンズ212の目標位置のゲインを大きくなるように設定する構成としてもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では、レンズ鏡筒200に内蔵された補正レンズ212を移動させて像振れを補正する構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、カメラ本体100に内蔵された撮像素子110を移動させて像振れを補正する構成としてもよい。例えば、撮像素子110が、光軸と交差する方向に移動可能に保持されているカメラ本体において、撮像素子110を、角速度センサの検出結果に基づく目標位置にバイアス量を重畳した、撮像素子110の制御位置まで移動させることで、手振れ補正を行う構成としてもよい。この場合、撮像素子110の目標位置と、バイアス量が重畳された撮像素子110の現在位置との差分をバイアス差分Bとして算出し、算出したバイアス残差Bと、被写体の動きベクトル量に対応する撮像素子110の振れ残差Vとを比較し、比較の結果、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uが大きい場合は、センタリングバイアス機能により撮像素子110を可動範囲の中心に寄せる量が大きいと判断して、撮像素子110に対するバイアス量のゲインを小さくなるように設定する一方、バイアス残差Bと振れ残差Vとの差分Uが小さい場合は、センタリングバイアス機能により撮像素子110を可動範囲の中心に寄せる量が小さいものと判断して、撮像素子110に対するバイアス量のゲインを大きくなるように設定する構成としてもよい。なお、この場合に、図1に示す角速度センサ220、目標位置算出部241、バイアス量演算部261、動きベクトル量変換部283、判定部284、減算器262,263,281,282などを、カメラ本体100が備える構成とすることが好適である。この結果、カメラ本体100において、撮像素子110で撮像された画像信号に基づいて、動きベクトル量Vjkを算出することができ、動きベクトル量Vjkに対応する振れ残差Vを算出することができるため、カメラ本体100により、本実施形態に係る手振れ補正を行うことができる。
【0062】
さらに、上述した実施形態では、上述した手ぶれ補正処理を、レリーズボタンが半押しされている間に行う構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、像ぶれが極大となる場合にのみ、手ぶれ補正処理を行う構成としてもよい。あるいは、レリーズボタンが全押しされ、撮像素子110の露光が開始される直前にのみ、撮像素子110の露光が開始される直前のバイアス残差Bと振れ残差Vとを比較して、バイアス量のゲインを変更する構成としてもよい。このように、手振れ補正を行うタイミングを特定することで、演算負荷を軽減することができる。なお、撮像素子110の露光が開始されるか否かは、例えば、カメラ本体100から送信される撮像素子110の露光開始信号を受信したか否かで判断することができる。また、このような構成は、上述したような撮像素子110を光軸L1と交差する方向に移動させることで、像振れを補正する構成にも適用することができる。この場合、カメラ本体100において、レリーズボタンが全押しされたか否かを判断し、撮像素子110の露光が開始される直前にのみ、手振れ補正を行うことできる。
【0063】
なお、本実施形態に係るカメラ1は、特に限定されず、例えば、一眼レフデジタルカメラ、デジタルコンパクトカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用のカメラなどのその他の光学機器に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…一眼レフデジタルカメラ
100…カメラボディ
110…撮像素子
120…画像処理部
130…動きベクトル量演算部
200…レンズ鏡筒
212…補正レンズ
220…角速度センサ
241…目標位置算出部
251…位置検出センサ
253…レンズ位置演算部
261…バイアス量演算部
262…第2の減算器
263…第3の減算器
271…駆動信号演算部
272…モータドライバ
273…駆動部
281…第4の減算器
282…第5の減算器
283…動きベクトル量変換部
284…判定部
290…パンニング検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を検出して、振動に応じた検出信号を出力する振動検出部と、
光軸と交差する方向に移動可能な振れ補正光学系を有する振れ補正部と、
像振れを補正するように前記振れ補正部を駆動させる駆動部と、
撮像素子で撮像された画像信号に基づいた被写体の動きベクトル量を受信する受信部と、
前記検出信号に基づいて、像振れ量を演算する像振れ量演算部と、
前記振れ補正光学系の位置に応じて、前記振れ補正光学系を、前記振れ補正光学系の可動範囲中心に移動させるための向心力をバイアス量として演算するバイアス量演算部と、
前記像振れ量と、前記バイアス量を重畳した像振れ量との差をバイアス残差として算出するバイアス残差演算部と、
前記バイアス残差と、前記動きベクトル量に対応する前記振れ補正光学系の振れ残差とを比較し、該比較結果に基づいて、前記バイアス量を変更する制御部と、を備えることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ鏡筒において、
前記制御部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との差が、第1の基準値よりも大きい場合には、前記バイアス量を小さくなるように変更し、前記差が、第2の基準値よりも小さい場合には、前記バイアス量を大きくなるように変更することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレンズ鏡筒において、
前記像振れ量演算部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との比較の結果に基づいて、前記像振れ量を変更することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のレンズ鏡筒において、
前記制御部は、前記像振れ量が極大値を示した際に、前記バイアス量を変更することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のレンズ鏡筒において、
前記受信部は、前記撮像素子の露光を開始するための露光開始信号を受信可能となっており、
前記制御部は、前記露光開始信号を受信した場合に、前記バイアス量を変更することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項6】
振動を検出して、振動に応じた検出信号を出力する振動検出部と、
光軸と交差する方向に移動可能な撮像素子を有する振れ補正部と、
像振れを補正するように前記振れ補正部を駆動させる駆動部と、
前記撮像素子で撮像された画像信号に基づいて、被写体の動きベクトル量を演算する動きベクトル量演算部と、
前記検出信号に基づいて、像振れ量を演算する像振れ量演算部と、
前記撮像素子の位置に応じて、前記撮像素子を、前記撮像素子の可動範囲中心に移動させるための向心力をバイアス量として演算するバイアス量演算部と、
前記像振れ量と、前記バイアス量を重畳した像振れ量との差をバイアス残差として算出するバイアス残差演算部と、
前記バイアス残差と、前記動きベクトル量に対応する前記撮像素子の振れ残差とを比較し、該比較結果に基づいて、前記バイアス量を変更する制御部と、を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
請求項6に記載の撮像装置において、
前記制御部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との差が、第1の基準値よりも大きい場合には、前記バイアス量を小さくなるように変更し、前記差が、第2の基準値よりも小さい場合には、前記バイアス量を大きくなるように変更することを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の撮像装置において、
前記像振れ量演算部は、前記バイアス残差と前記振れ残差との比較の結果に基づいて、前記像振れ量を変更することを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の撮像装置において、
前記制御部は、前記像振れ量が極大値を示した際に、前記バイアス量を変更することを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の撮像装置において、
前記制御部は、前記撮像素子の露光を開始する直前に、前記バイアス量を変更することを特徴とする撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−54264(P2013−54264A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193641(P2011−193641)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】