説明

レンズ駆動装置

【課題】 ズーミング、フォーカス時の像ゆれ、像とびを防止する。

【解決手段】 駆動減としてモータを有し、カム環やヘリコイド筒を回転駆動することにより移動レンズ枠を駆動するレンズ鏡筒において、移動レンズ枠を重力に反して持ち上げる方向に回転力が働く場合には、重力加速度以下の加速で回転させる。逆の方向には最高加速で回転駆動する制御手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラ、ビデオ等のレンズ鏡筒、特にズーミングやフォーカス調整時の移動レンズ枠の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ズームミングやフォーカス調整のためにレンズ鏡筒内の移動レンズ枠を駆動する方法としては、直進溝に案内された移動レンズ枠をカム溝とカムフォロアによって駆動する方法や、ヘリコイド機構によって回転繰出しする方法が知られている。いずれの方法でもカム環やヘリコイド環の回転を光軸方向の移動に変換して駆動するものであり、駆動源としては手動、あるいはモータ等が用いられている。
【0003】
駆動源としてモータを用いた従来技術では、特許文献1のように一方向の駆動でズーミングとフォーカス調整を行うことを鑑み、鏡筒の繰り出し、繰り込み方向によって駆動速度を変え、撮影から収納までの駆動時間を短縮させたものがある。また、特許文献2のように、一方向の駆動のみでフォーカス調整を行うようにし、逆方向に駆動する際には高速で駆動することにより、コントラストの低い状態での合焦時間を短縮したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-182098号公報
【特許文献2】特開2002-296486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年はデジタル化が進み、画像処理の高速化、記録メディアも高容量化されている。それによって静止画撮影用のカメラにおいても動画撮影できるものが増えてきている。しかしながら、従来のレンズ鏡筒で動画を撮影しようとした場合、レンズ枠とカム環とのガタ、雄雌ヘリコイドのガタによって画像が揺れたり、像飛びを起こすことがある。特にレンズ枠の駆動開始時、停止時、反転時に発生しやすい。
【0006】
従来は常にガタが無い状態を保つように、ばね等の付勢手段を設けるよう構成していたが、そのために駆動負荷が大きくなり、電力消費の増大化、装置の大型化という問題が発生していた。このようなレンズ鏡筒を構成する部品のガタは、重力方向によってガタ量が大きくなる部分と、ガタが無い状態になる部分がある。
【0007】
そのため、回転筒の駆動方向がガタ量の増減に影響することが考えられるが、前記従来技術では、回転駆動方向によって速度を変化させているが、像揺れ、像飛びに鑑みてのものではなく、そのガタ量に関しては何ら開示するものは無い。
【0008】
そこで、本発明の例示的な目的は、移動する部材間のガタ量を低減させることにより、動画撮影時に、像揺れ、像飛びの発生を少なくするレンズ鏡筒を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のレンズ駆動装置は、光軸方向に移動するレンズ枠と、回動することによりレンズ枠を駆動する回転筒と、回転筒を回転させる駆動源となるモータを有するレンズ鏡筒において、回転筒を一方に回転させる際と、別の方向に回転させる場合とで異なる加速で回転させ、レンズ枠を重力に対して持ち上げる方向に回転させる場合は、重力加速度以下で加速駆動させる制御手段を有することを特徴とする。
【0010】
また、第二の発明において、制御手段はモータの駆動力を回転筒に伝える伝達部において、回転筒に加わる駆動力が、重力とは逆方向に向いている時は重力加速度以下で加速駆動し、重力と同方向の時はより高速で加速駆動することを特徴とする。
【0011】
さらに、第三の発明において、レンズ鏡筒に加わる重力方向を検出するための重力方向検出手段を有し、モータの駆動力を回転筒に伝える伝達部において、回転筒に加わる駆動力が、前記重力方向検出手段によって検出された重力方向とは逆方向に向いている時は重力加速度以下で加速駆動し、重力と同方向の時はより高速で加速駆動する制御手段を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付の図面を参照して説明される好ましい実施例等によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0013】
回転する部材に与える駆動力がその伝達部において重力と反対方向になる時は、重力加速度以下の加速でゆっくり駆動することになる。それによって、回転筒やレンズ枠を持ち上げる方向に力が働く際にもガタ量を増やすことが無く、動画撮影での像揺れや像飛びを発生しにくくできる。また、駆動力が重力と同じ方向に働く時には、最高速で駆動することができるため、ズーミングやフォーカス調整の駆動時間を短縮させることができる。
【0014】
さらに、回転筒に伝達される駆動力がその作用点において重力方向と一致するかどうかは、カメラの姿勢によって変化するため、重力方向を検出する検出手段を有することによって、回転筒を駆動する加速パターンを最適化することができ、像揺れ像飛びを発生することなく、ズーミングやフォーカス調整の駆動時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1によるレンズ鏡筒の構成を示すワイド状態の断面図
【図2】図1のレンズ鏡筒のテレ状態を示す断面図
【図3】図1のレンズ鏡筒のズーミングでの移動軌跡を示す線図
【図4】図1のレンズ鏡筒の断面図でモータの駆動力伝達を示す図
【図5】図4と同じ断面図で別の姿勢状態を示した図
【図6】図4と同じ断面図で図4、図5とは異なる姿勢状態を示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
[実施例1]
図1は本発明の実施例1によるレンズ鏡筒の構成を示すワイド状態の断面図、図2はそのテレ状態の断面図である。図1、図2において、L1〜L5は第1群から第5群レンズを示し、図3に示すようにワイド端からテレ端にズームする間に、第1群レンズL1は前方に直線的に移動する。第2群レンズL2はおよび第4群レンズL4は固定、第3群レンズL3及び第5群レンズL5は非直線的に前方へ移動する。
【0018】
1は樹脂による射出成形で形成した固定筒、2は固定筒1の外周で回転のみ可能に保持したカム筒を示す。3は第2群レンズL2を保持するとともに、固定筒1に組み込み、該固定筒の外周に3ケ所設けた取付穴1aを通して、ピン3aを取付けることで、一体的に保持した第2群鏡筒を示す。4は後端内周部3ケ所にキー4aを段ビス4bによって取付けた直進筒であり、キー4aは固定筒1に設けた直進溝1bとカム筒2に設けた1群カム2aに係合しているため、カム筒2が回転することにより、直進筒4は光軸方向に直進移動する。
【0019】
この直進筒4の外周にはオスヘリコイド4cが形成してあり、第1群レンズL1を固着した第1群鏡筒5の内周部に形成したメスヘリコイド5aと係合している。すなわち、第1群鏡筒5が回転することにより、第1群レンズL1は光軸方向に移動し、焦点調節を行う。
【0020】
6は第3群レンズL3を固着するとともに、公知の電磁絞りユニット7をビス7aにより固定保持している第3群鏡筒である。この第3群鏡筒6は周方向に3つのコロ6aを有し、このコロ6aは固定筒1に設けた直進溝1cとカム筒2に設けた3群カム2bに係合している。
【0021】
8は第5群レンズL5を保持するとともに、外周に3つのコロ8aを有した第5群鏡筒を示している。このコロ8aは固定筒1の第3群鏡筒と共通の直進溝1cとカム筒2に設けた5群カム2cに係合しており、カム筒2の回転により、第3群鏡筒及び第5群鏡筒とも光軸方向に移動する様に構成している。
【0022】
9は第4群鏡筒であり、外周3箇所の突出部9bが固定筒1に嵌合し、ビス9aで固定されている。第5群鏡筒8の穴部8bに第4群鏡筒9の突出部9bが挿入されるよう構成している。
【0023】
10は後端10bが固定筒1とバヨネット結合し、光軸まわりに回転自由に保持されているフォーカスリングであり、このフォーカスリング10は内周に直進溝10aを形成し、第1群鏡筒5の後端に設けたキー部5bが係合している。これによって、フォーカスリング10の回転のみを第1群鏡筒5に伝達し、ヘリコイド機構によってフォーカス調整が可能となっている。
【0024】
11は金属材料による補強リングであり、この補強リング11はフォーカスリング10の直進溝10aの開口部をふさぐと同時に変形による動きの低下を防止している。12はズームリングであり、このズームリング12は後端フランジ部12aを固定筒1と該固定筒にビス固定した外装環13によって挟持され、光軸まわりの回転のみ可能に保持している。
【0025】
図2に示した14は固定筒の円弧状の穴1eを挿通し、カム筒2にビス14aにより固定されている連結板であり、この連結板14の後端はズームリング12の溝部12bに嵌合し、ズームリング12の回転をカム筒2に伝達している。
【0026】
15は前述の絞りユニット7をカメラ本体(図示せず)との通信により駆動制御する実装部品であり、固定筒1の小径部外周にビス15bにより固定されている。この実装部品15は絞りユニット7と図示しない電気配線が行われており、後方にはカメラ本体との通信及び電源の給電を行う接点部品15aが接続されている。16は外装環13にビス固定したカメラ本体に取付けるためのマウントであり、このマウント16には接点部品15aをビス固定している。17はマウント16に弾性を利用して固定している裏蓋である。
【0027】
図4は固定筒1の小径部で切断した断面図で、レンズ正面方向から見た図である。21は焦点調節用モータであり、このモータ21はギヤ地板22に図示しないビスによって固定され、このギヤ地板21は固定筒1にビス22aにより固定されている。23はモータ21のトルクを伝達するギヤ列であり、最終段のギヤ23aはフォーカスリング10の後部内周に設けたギヤ部10cに噛合している。実装部品15はフレキシブルプリント基板で構成され、固定筒1に巻きつきように配置されている。24は実装部品15に実装された姿勢センサを示し、重力方向を検出するものである。
【0028】
次に、本発明に関わるフォーカスリング10の駆動方法について説明する。
【0029】
図4は通常撮影姿勢を示しており、図中W方向に重力が働いている。その際モータ21の回転力が伝達され、フォーカスリングを駆動するが、図中A方向に回転させる際にはフォーカスリング10、および第1群鏡筒5を重力方向であるW方向に反して持ち上げる力が働くため低い電圧にて駆動する。駆動電圧はフォーカスリング10と固定筒1の摺動摩擦、およびフォーカスリング10と第1群鏡筒5のヘリコイド機構の摺動摩擦を考慮し、一群鏡筒5が持ち上がらない程度に設定されている。それによって、ガタの大きい部分とガタ寄せされる部分が変化しないため、像揺れ、像飛びを発生させにくくできる。
【0030】
一方B方向に回転させる時は、常に重力方向であるW方向にガタ寄せされるため、システムが許す範囲の最高電圧で駆動できる。従って、動画撮影時でも像揺れ、像飛びの無い撮影を可能にできる。また、重力と同じ方向に回転させる場合には最高速で駆動できるため、フォーカス調整時間を遅延させることも無い。
【0031】
図5、図6はカメラの別の姿勢を示した物で、それぞれカメラを横向きにした場合で図中Wで示した方向が重力方向である。重力方向は姿勢センサ24で検出され、姿勢センサ24の出力に応じてフォーカスリング10の駆動力を可変としている。すなわち図5に示す状態では、B方向に回転させる場合には第1群鏡筒5を持ち上げる方向に力が作用するため、低加速で回転させ、A方向に回転させる場合には最高速で回転させる。また、図6の状態では逆にA方向は低加速で、B方向は最高速で回転させる。このように、レンズの姿勢によって最適な駆動速度を設定できるため、常に像揺れ、像飛びの無い画像を撮影できるものである。
【0032】
本実施例において、モータはDCモータを使用しているが、ステップモータでもかまわない。その際はフォーカスリングの回転方向によって入力するパルス間隔を可変とればよい。また、電圧をPWM制御でのパワーレートを可変としてもよい。
【0033】
また、本実施例においては、ヘリコイド機構に関して示しているが、カム機構にも適応可能である。さらに、電動のズーミング機構に適応することも可能である。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 固定筒
5 第1群鏡筒(レンズ枠)
10 フォーカスリング(回転筒)
15 実装部品(制御手段)
21 モータ
23 ギア列
23a 最終段ギア(伝達部)
24 姿勢センサ(重力方向検出手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に移動するレンズ枠と、回動することによりレンズ枠を駆動する回転筒と、回転筒を回転させる駆動源となるモータを有するレンズ鏡筒において、回転筒を一方に回転させる際と、別の方向に回転させる場合とで異なる加速で回転させ、レンズ枠を重力に対して持ち上げる方向に回転させる場合は、重力加速度以下で加速駆動させる制御手段を有することを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
制御手段はモータの駆動力を回転筒に伝える伝達部において、回転筒に加わる駆動力が、重力とは逆方向に向いている時は重力加速度以下で加速駆動し、重力と同方向の時はより高速で加速駆動することを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。
【請求項3】
レンズ鏡筒に加わる重力方向を検出するための重力方向検出手段を有し、モータの駆動力を回転筒に伝える伝達部において、回転筒に加わる駆動力が、前記重力方向検出手段によって検出された重力方向とは逆方向に向いている時は重力加速度以下で加速駆動し、重力と同方向の時はより高速で加速駆動する制御手段を有することを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−123262(P2012−123262A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274822(P2010−274822)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】