説明

レーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品

【課題】レーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品において、基材樹脂の色相変化を抑えた低コストな材料を提供する。
【解決手段】カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品であって、成形品厚みをt(mm)、カーボンブラックの添加量をc(ppm)としたとき下式(1)を満足するものである。
−0.02t+0.06≦c≦−14t+33 ・・・・・ (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品に関する。さらに詳しくは、基材樹脂の色相変化を抑え、低コストなレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性と機械的強度、高い熱変形温度を有し、寸法安定性、加工性及び自己消火性に優れていることより、各種銘板用途に使用されている。銘板に印字する方法としては印刷加工が一般的であるが、近年では溶剤を使用した印刷に代わってレーザーマーク法も採用されている。レーザーマーク用の材料として、ドープされた二酸化錫の被膜を有する顔料を含む熱可塑性プラスチックが提案されている(例えば、特許文献1参照)が、顔料コストが高く経済性に欠けるものである。
【0003】
そして、炭酸カルシウムを含む熱可塑性樹脂が開示されている(例えば、特許文献2参照)が、透明性が要求される用途には使用できるものではなかった。また、マイカを含むレーザーマーキング用添加剤(Lazerflairシリーズ)が開示されている(例えば、非特許文献1参照)が、この場合も半透明にはなるもののくすんだ色調となり、銘板用途として適当とは言えないものであった。
【0004】
【特許文献1】特表平10−500149号公報
【特許文献2】特開平2002−309104号公報
【非特許文献1】メルク株式会社 Lazerflairシリーズカタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、レーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品において、基材樹脂の色相変化を抑えた低コストな材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品において、成形品厚みとカーボンブラックの添加量が特定の関係を満足することによって、基材樹脂の透明性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品であって、成形品厚みをt(mm)、カーボンブラックの添加量をc(ppm)としたとき下式(1)を満足するものである。
−0.02t+0.06≦c≦−14t+33 ・・・・・ (1)
【0008】
また、本発明の第2の要旨は、カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品であって、成形品厚みをt(mm)、カーボンブラックの添加量をc(ppm)としたとき下式(2)を満足するものである。
−0.1t+0.22≦c≦−t+2.3 ・・・・・ (2)
【0009】
また、本発明の第3の要旨は、使用の正面から見たときの背景色が、図1に示すxy色度図上において、下式(3)〜(6)で描かれる4角形とが重なり合う色度である請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品。
y=0.5x+0.08 ・・・・・ (3)
y=5.0x−0.9 ・・・・・ (4)
y=1.5x ・・・・・ (5)
y=2.0x−0.5 ・・・・・ (6)
【0010】
また、本発明の第4の要旨は、使用環境における正面側にハードコート処理を施した請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品である。
【0011】
また、本発明の第5、第6の要旨はカーボンブラックが粒子径15〜20nm、さらには16〜18nmの球状定形である請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、成形品厚みとカーボンブラックの添加量が特定の関係を満足することによって、基材樹脂の透明性が著しく改善され、低コストでレーザーマークに好適な成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物とホスゲンとを界面重合法により得られるか、または、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸のジエステルとのエステル交換反応により作られる分岐していてもよい熱可塑性ポリカーボネート重合体であり、例えば、ビスフェノールAを主原料とする炭酸エステル重合物が使用される。用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量は20,000〜30,000、好ましくは21,000〜29,000のものである。ポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、染顔料、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0014】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、粒子径が15〜20nm、好ましくは16〜18nmのものである。粒子径が20nmを超えると表面にブツが発生して表面状態が損なわれる。また、レーザーマークしたときの鮮明度が損なわれ易い。一方、15nm未満では凝集力が強まり、拡散性、分散性が悪くなり、均一分散性が悪くなる。
なお、本発明における粒子径は、カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径である。
【0015】
本発明に用いるカーボンブラックの形状は、球状定形である。不定形であると拡散分散性が悪くなる。
【0016】
次に、本発明のポリカーボネート成形品の製造方法を具体的に説明する。成形に先立ち、ポリカーボネート樹脂とカーボンブラックおよび各種添加剤は、押出機、ニーダー、ミキサーなどを用いてあらかじめ溶融混練することが望ましい。ポリカーボネート成形品の製造に用いられる成形装置としては、一般にポリカーボネート樹脂を押出す押出機と、形状を形成するためのロールまたは金型より構成される。押出機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃である。
【0017】
ポリカーボネート成形品の表層に機能を付与するために共押出によって耐候層や帯電防止層などを積層することができる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂層に機能性付与層を被覆する方法は、フィードブロック方式、マルチマニュホールド方式などの公知の方法を用いることができる。
【0019】
シート状成形品は溶融状のポリカーボネート樹脂が押出機から押出され、ダイスから吐出される。
【0020】
ダイスを通過したシート状の樹脂は、表面を鏡面処理またはパターン加工された成形ロール(ポリッシングロール)に流入する。このシート状成形体は、成形ロール通過中に鏡面仕上げまたはパターン付けと冷却が行われる。成形ロール温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃である。ロールは縦型ロールまたは、横型ロールを適宜使用することができる。
【0021】
射出成形品は射出成形機から溶融状のポリカーボネート樹脂を吐出し、冷却金型にて成形する。
【0022】
上記成形品にはハードコートを施すことができる。ハードコート処理は、耐擦傷性を向上させるために活性エネルギー線あるいは熱によって硬化したハードコート層を積層する。
【0023】
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能のアクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物に硬化触媒として光重合開始剤が加えられた樹脂組成物が挙げられる。
【0024】
熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、ウレタン・メラミン系などのものが挙げられる。熱エネルギーで硬化させる塗料の一例としては、分岐状OH含有ポリエステルとウレタンプレポリマーおよびメチル化メラミンを主成分とするウレタン・メラミン系樹脂組成物が挙げられる。
【0025】
この様な樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すれば良い。
【0026】
これらの塗料には、必要に応じて、有機溶剤の他、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種安定剤やレベリング剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤等を適宜添加してもよい。
【0027】
ハードコートの方法は、刷毛、ロール、ディッピング、流し塗り、スプレー、ロールコーター、フローコーターや特開2004−130540号公報に提案された方法などが適用できる。熱硬化あるいは活性エネルギー線によって硬化したハードコート層の厚さは1〜20μm、好ましくは2〜15μm、さらに好ましくは3〜12μmである。ハードコート層の厚さが1μm未満であると表面硬度の改良効果が不十分になりやすく、逆に20μmを超えても表面硬度の改良効果は更には向上し難く、コスト的に不利で、耐衝撃性の低下を招くこともある。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0029】
本実施例で用いた評価、測定、加工方法を以下に示す。
(1)成形体の色相
成形品を目視にて確認した。
・ :カーボンブラック未添加品と同等の透明性を有する
・ :若干の着色はあるものの使用可能な透明性を有する
× :着色が強く、透明感が損なわれる
(2)印字の見易さ
レーザーマークした成形品を目視にて確認した。
・ :背景と印字の境界が明瞭で小さな文字も印字可能
・ :背景と印字の境界が明瞭で大きな文字は印字可能
×:背景と印字の境界が不明瞭
(3)レーザーマーク
LD励起式YAGレーザーマーカーを使用し、以下の条件でマークした。
波長:1.064μm
出力:3W
電流値:32A
印字速度:250mm/sec
モードセレクター径:0.8mmΦ
周波数:5kHz
(4)総合判定
・ :レーザーマーク用ポリカーボネート成形品として非常に適する
・ :レーザーマーク用ポリカーボネート成形品として適する
× :レーザーマーク用ポリカーボネート成形品として適さない
【0030】
実施例1
ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のユーピロンE−2000(粘度平均分子量:27,500、ガラス転移温度147℃)を使用し、カーボンブラックとしてキャボット社製のモナーク1000(粒子径16nm、球状定形)を0.2ppm添加し、30mmΦの2軸押出機池貝製PCM−30を用いてペレット化した。
上記ポリカーボネートペレットを押出す押出機として、バレル直径120mm、スクリュウのL/D=35を用い、シリンダー温度は270℃、ダイス温度は280℃に設定した。ダイスより押出された樹脂は、第1成形ロール温度130℃、第2成形ロール温度135℃、第3成形ロール温度145℃に設定された横型配置の3本ポリッシングロール(成形ロール)に導かれ、1.0mm厚シートを押出した。
押出されたシート裏面には帝国インキ社製FMX−611白インキでスクリーン印刷(200メッシュ)を行った後、反スクリーン印刷側からレーザーマークを行った。
評価結果を表1に示した。
【0031】
実施例2
カーボンブラックの添加量を0.8ppmに変更した以外は実施例1と同様に行い、評価結果を表1に示した。
【0032】
実施例3
実施例2において、押出しされたシートにハードコートを行った他は実施例2と同様に行い、評価結果を表1に示した。
【0033】
実施例4
実施例2において、押出しされたシートに白色印刷を行わない他は実施例2と同様に行い、評価結果を表1に示した。
【0034】
比較例1
カーボンブラックの添加量を0.02ppmに変更した以外は実施例1と同様に行い、評価結果を表2に示した。
【0035】
比較例2
カーボンブラックの添加量を20ppmに変更した以外は実施例1と同様に行い、評価結果を表2に示した。
【0036】
比較例3
カーボンブラックを三菱化学社製の#30(粒子径30nm、球状定形)に変更した以外は実施例2と同様に行い、評価結果を表2に示した。
【0037】
比較例4
比較例2において、押出しされたシートにハードコートを行った他は比較例2と同様に行い、評価結果を表2に示した。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】xy色度図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品であって、成形品厚みをt(mm)、カーボンブラックの添加量をc(ppm)としたとき下式(1)を満足するもの。
−0.02t+0.06≦c≦−14t+33 ・・・・・ (1)
【請求項2】
カーボンブラックを含有するレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品であって、成形品厚みをt(mm)、カーボンブラックの添加量をc(ppm)としたとき下式(2)を満足するもの。
−0.1t+0.22≦c≦−t+2.3 ・・・・・ (2)
【請求項3】
使用の正面から見たときの背景色が、xy色度図上で、下式(3)〜(6)で描かれる4角形とが重なり合う色度である請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品。
y=0.5x+0.08 ・・・・・ (3)
y=5.0x−0.9 ・・・・・ (4)
y=1.5x ・・・・・ (5)
y=2.0x−0.5 ・・・・・ (6)
【請求項4】
使用環境における正面側にハードコート処理を施した請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項5】
カーボンブラックが粒子径15〜20nmの球状定形である請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項6】
カーボンブラックが粒子径16〜18nmの球状定形である請求項1記載のレーザーマーク用ポリカーボネート樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−29845(P2009−29845A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192353(P2007−192353)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(597003516)MGCフィルシート株式会社 (33)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】