説明

レーザー切断用鋼材とそのための塗料組成物

【課題】ジンクプライマー型の一次防錆用塗料組成物を塗布した鋼材をレーザー切断する際に、切断不良を発生させずに切断速度を上げ、夜間無人運転において切断中断による生産性低下が起こるのを防止する。
【解決手段】(1)2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物(バインダー)、(2)亜鉛末、(3)SiO2、および(4)Alおよび/もしくはAl化合物からなるAl供給源の粉末を含有する塗料組成物を塗布する。全固形分に基づいて、亜鉛末の量は30〜80質量%、SiO2の量は5〜40%とし、Al供給源はバインダーを除外した全成分におけるSi/Al質量比が1〜20の範囲内となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛末を含有する一次防錆塗料を塗装した状態で高速に鋼材をレーザー切断することを可能にする、鋼材の前処理用塗料組成物と、この塗料組成物を塗布した鋼材およびその鋼材を用いた切断鋼材の製造方法に関する。本発明の塗料組成物は、亜鉛末を含有していて鋼材に防食性を付与できるだけでなく、鋼材に優れたレーザー切断性を付与することができる。
【背景技術】
【0002】
船舶、橋梁、プラント等の大型鉄鋼構造物の建造に使用される鋼材には、一般に加工・組立中の鋼材の発生を一時的に防止するための一次防錆塗料として、防食性と上塗り塗装性に優れた、亜鉛末を含有する無機ジンク系の防食塗料(ジンクプライマー)が塗装されている。
【0003】
近年、このような大型構造物の製作時にも、加工と組立を迅速に行って納期短縮を目指す目的で、鋼材の切断にレーザー切断が採用されることが多くなってきた。この用途に従来から利用されてきたガス切断、プラズマ切断等の手法に比べて、レーザー切断には、切断精度と切断面の品質が良く、切断部の熱影響幅が小さく、さらにはコンピュータ制御により夜間自動運転が可能といった利点があるためである。
【0004】
レーザー切断は、当初は自動車部品、産業機械などのプライマー塗装されていない鋼板の切断に主に利用されてきた。しかし、近年は5KW、6KWといった大出力レーザーによる高速切断が可能となったことから、造船、橋梁等の大型鋼材の切断にもレーザー切断の利用が急速に拡大してきたのである。
【0005】
ところが、レーザー切断は鋼材の表面の影響を強く受けるため、亜鉛末を含有するジンクプライマーで塗装された鋼材のレーザー切断には種々の問題があることが知られている。特に大きな問題点は、切断速度を上げると切断面に傷やドロス付着が発生しやすく、切断速度を上げることができないため作業性が低下することと、切断不良により切断作業を中断する事態が起こり、特に夜間無人運転中に切断作業が中断すると、後工程に大きな影響を及ぼし、生産性が著しく低下することである。
【0006】
切断速度の向上に関して、下記特許文献1には、鋼材に塗装するジンクプライマー中のZnおよびSiO2(シリカ)量を制限し、特にSiO2量を極力下げて、レーザー切断性を向上させた鋼材が開示されている。SiO2は、プライマー層の耐火性向上と強度向上の観点からプライマーに含有させる成分であるが、SiO2は高温まで安定であるため、レーザーエネルギーの鋼板への伝導を妨げ、切断速度への悪影響が非常に大きいことが記載されている。
【0007】
下記特許文献2には、珪酸エステル縮合物、亜鉛末および鉄よりも融点が低い顔料(例、タルク、マイカ、フェロ合金、蛍石など)を含有する、レーザー切断性に優れた一次防錆用塗料組成物(プライマー)が開示されている。
【0008】
しかし、上記のプライマーまたは塗料組成物はいずれも、近年の大出力レーザー切断機を用いたレーザー切断に対してはなお効果が不十分であり、1300mm/minといった高い切断速度には十分に対応することができない。また、切断不良の発生に対する対策が考慮されていないため、特に夜間無人運転においては切断中断が発生しやすくなる。さらに、特許文献1では塗料中のSiO2量を著しく低減し、特許文献2では塗料がSiO2を全く含有していないため、塗膜の耐火性や強度が不十分になるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−226846号公報
【特許文献2】特開2002−114944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ジンクプライマーで塗装された鋼材のレーザー切断速度を、例えば、1300mm/minといった高速に上げることができ、且つ夜間無人運転における切断中断が防止可能な、ジンクプライマー型(即ち、亜鉛末を含有する)塗料組成物と、それを塗装したレーザー切断用鋼材、および切断鋼材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、大出力のレーザー切断機を用いてジンクプライマー塗料について鋭意検討した結果、大出力レーザー切断機での切断作業において従来のジンクプライマーを塗装した鋼材で切断不良が起こり、特に夜間無人自動運転時に切断中断となる要因が、鋼材のうねり、傷などに起因するレーザー焦点距離の変動であることを究明した。
【0011】
従って、プライマー層がレーザー焦点距離の変動に鈍感であれば、切断不良や夜間無人運転での切断中断が防止され、同時に切断速度も著しく高めることができることになる。そこで、そのようなプライマー層を形成できる塗料組成物についてさらに探究し、次のような知見を得た。
【0012】
ジンクプライマーの塗料成分として、ZnとSiO2は、プライマー層の防食性および機械的特性を確保するために塗料成分として必須であるが、SiO2と一緒にAl供給源として金属Alおよび/もしくはAl化合物が共存すると、形成されたプライマー層のレーザー切断性が著しく向上し、従来のジンクプライマーが示す長所(良好な防食性や上塗り塗装性)を損なうことなく、レーザー切断速度を上げることができ、しかも、切断可能なレーザー焦点距離の幅が広いため、レーザー焦点距離の変動に鈍感で、この変動に起因する切断不良や、夜間自動運転中の切断中断が防止される。これは、レーザー切断時に鋼の酸化により生じるFe2SiO4の共晶点或いは粘度がAlの含有によって低下し、切断時に溶融した鉄(或いは酸化鉄)が切断部から容易に排出されることによるものと考えられる。
【0013】
また、プライマーのバインダー成分としては、シロキサン結合(Si−O)を骨格とする緻密な皮膜を形成できるアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物が適していることも判明した。
【0014】
1側面において、本発明は、2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有することを特徴とするレーザー切断用鋼材に塗布するための塗料組成物である。
【0015】
別の側面からは、本発明は、2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有する塗料組成物が塗布されていることを特徴とするレーザー切断用鋼材である。
【0016】
さらに別の側面からは、本発明は、2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有する塗料組成物を鋼材に塗布し、該塗料組成物の塗布部にレーザーを照射して鋼材を切断することを特徴とする、切断鋼材の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗料組成物を鋼材に塗装すると、レーザー切断性に非常に優れたプライマー層が形成される。このプライマー層は、レーザー焦点距離の幅が広く、鋼材のうねりや傷によるレーザー焦点距離の変動に鈍感である。そのため、本発明の塗料組成物を塗装した鋼材では、レーザー切断における切断不良が発生しにくく、夜間無人運転における切断中断が防止され、1300mm/minといった高速で安定して鋼材のレーザー切断作業を実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るレーザー切断用鋼材に塗布するための塗料組成物は、(1)2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、(2)亜鉛末、(3)SiO2、ならびに(4)Al供給源(金属Alおよび/もしくはAl化合物)の粉末という4種類の成分を含有する。各成分とも、1種または2種以上を使用することができる。このうち、(1)のアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物は、バインダー成分であり、加水分解と縮合を受けてシロキサン結合(Si−O)を骨格とする皮膜を形成する。残りの(2)〜(4)はいずれもプライマー層中に分散粒子として含有される。
【0019】
バインダーとして用いる2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランは、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、およびジアルキルジアルコキシシランを包含する。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えばテトラメトキシシラン(メチルシリケート)、テトラエトキシシラン(エチルシリケート)、テトラプロポキシシラン(プロピルシリケート)、テトライソプロポキシシラン(イソプロピルシリケート)、テトラブトキシシラン(ブチルシリケート)、テトライソブトキシシラン(イソブチルシリケート)、エチルシリケート40(日本コルコート社製)等が挙げられる。アルキルトリアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。ジアルキルジアルコキシシランの具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等が挙げられる。例示した以外の化合物も使用可能である。アルキル基を含有するアルコキシシランの場合、アルキル基がビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基などの官能基で置換されている、シランカップリング剤と呼ばれるアルコキシシランも使用できるが、アルコキシシランの一部だけに使用することが好ましい。アルコキシシランの少なくとも一部は、テトラアルコキシシランとすることも好ましい。
【0020】
上記アルコキシシランは、皮膜形成を促進させるため、その加水分解物もしくは縮合物として使用することもできる。例えば、アルコキシシランを水または水と酸触媒の存在下で加水分解させた部分加水分解物、あるいは完全に加水分解させ、さらに部分的に縮合反応まで進めた初期縮合物の状態で使用することもできる。
【0021】
亜鉛末は市販品を使用することができる。亜鉛末の平均粒径は、亜鉛の溶出速度、すなわち防食性に影響を与える。亜鉛末の好ましい平均粒子径は3〜15μmであり、より好ましくは5〜13μmである。亜鉛末は、本発明の塗料組成物の塗装により形成された乾燥塗膜(プライマー層)中に30〜80質量%、好ましくは40〜60質量%の量で配合する。この配合量が30質量%未満では良好な防食性が得られず、80質量%を超えるとレーザー切断性が低下する。また、亜鉛末の一部が酸化され、酸化亜鉛となっていても用いることはできるが、その場合には全Zn中の酸化亜鉛のZnの割合が10%以下であることが好ましい。
【0022】
SiO2とは、本発明に関しては、防食塗料に使用されているコロイド粒径のシリカ微粒子を意味する。このシリカ微粒子は、ゾル状の湿式シリカ(水性シリカ)と、気相法により製造された乾式シリカ(ヒュームドシリカ)のいずれでもよく、市販品を用いることができる。SiO2は、塗膜の機械的特性や耐火性を改善するのに有効であり、それにより防食性も改善される。この目的には、SiO2を乾燥塗膜中に5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%の量で含有させる。
【0023】
Al供給源は、Al金属(他の金属と合金化していてもよい)とAl化合物のいずれでもよく、いずれの場合も粉末状で使用する。金属Alはフレーク状粉末であってもよい。Al化合物としては、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等の塩類も使用できるが、好ましいのは酸化物型の化合物である。特に、アルミナおよびそのシリカとの複合酸化物、ならびにアルミノ珪酸塩である。具体例としては、KAlSi38、CaAl2Si28、NaAlSi38、Al23・2SiO2・2H2O、K2O・3Al23・6SiO2・H2O、Al24・4SiO2・H2O、Al23等が例示される。粉末の粒度は顔料レベルであればよく、例えば、平均粒子径が0.2〜50μmの範囲内であればよい。
【0024】
Al供給源は、乾燥塗膜中の含有量が10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%の量となるように配合する。また、乾燥塗膜中のバインダー成分を除外した固形分(粉末成分の合計量)における全Si/Alの質量比が20/1〜1/1となるようにAl供給源を添加すると、レーザー切断性が一段と向上する。ここで、Si/Al質量比のSiの量は、SiO2成分のSi量に加えて、Al供給源がアルミノ珪酸塩またはシリカ・アルミナ複合酸化物のようにSiを含有するAl化合物である場合には、Al化合物に由来するSi量も含めた量である。
【0025】
前述したように、本発明の効果は、レーザー切断時に鋼の酸化により生じるFeSiOの共晶点あるいは粘度がAlの含有により低下することによって、レーザー切断により生じた溶融した鉄あるいは酸化鉄の切断部からの排出が促進されることと関係していると推測される。Si/Al質量比が大きすぎると、Alが少なすぎて、本発明の効果を十分に得ることができない。一方、Si/Al質量比が小さすぎると、塗膜中のSiO2の割合が少なくなりすぎて、やはりレーザー切断性が低下する。
【0026】
乾燥塗膜中の粉末成分の分析は、塗膜をクロロホルムに溶解し、超音波分散と遠心分離後の沈殿物を適当な手段で分析することにより実施することができる。
本発明の塗料組成物に用いる他の成分としては、上記の必須成分以外に、通常の塗料、特に従来のジンクプライマーに使用されてきた各種の顔料(着色顔料、体質顔料、防錆顔料)、その他の添加剤(有機ベントナイト等の沈降防止剤、分散剤など)を、目的に応じて、場合により配合することができる。しかし、これらを多量に配合するとレーザー切断性に悪影響を与えるので、乾燥塗膜中の量が合計で5質量%以下になるようにすることが望ましい。
【0027】
本発明の塗料組成物では、バインダー成分がアルコキシシランであることから、溶媒はアルコールのような水混和性有機溶媒を主成分とするものであることが好ましい。溶媒は水を含有していてもよいが、多量の水を含有すると、塗料の保管中にアルコキシシランの加水分解と縮合が進行し易く、保存寿命が短くなることがある。水不混和性の有機溶剤も適宜含有させることができる。
【0028】
上記塗料組成物の塗布は、例えばエアスプレー、エアレススプレー、刷毛など従来公知の塗布手段により行なうことができる。塗布後の塗膜の乾燥は、常温でも可能であるが、加熱乾燥してもよい。バインダーのアルコキシシランが完全には加水分解していないものである場合、成膜には加水分解用の水が必要であるが、この水は大気から供給される。しかし、成膜を加速するために、水蒸気を噴霧するなどして乾燥雰囲気の湿度を高めてもよい。
【0029】
鋼材上に形成された乾燥塗膜の膜厚は9〜25μmの範囲とすることが好ましい。塗膜が9μmより薄くても、逆に25μmより厚くても、レーザー切断性が低下する。塗膜が9μmより薄いと、耐食性も劣化する。なお、この膜厚は平均膜厚を意味し、電磁膜厚計、例えば(株)サンコウ電子研究所製CRT−2000II電磁式デジタル膜厚計を用いて、鋼材の表面における塗膜の膜厚を10点以上測定した平均値として求めることができる。
【0030】
本塗料組成物を塗布する鋼材は、予め公知の除錆方法、例えば、ショットブラストあるいはサンドブラストにより表面の錆を除去することが、耐食性を維持する観点から望ましい。また、鋼材の表面粗度はレーザー切断性に影響を与えるため、Rz=15〜85μm程度、より好ましくは15〜70μmとすることが好ましい。Rzが15μm未満であると、塗膜の十分な接着耐久性が得られず、85μmを超えるとレーザー切断特性が低下するためである。なお、Rzとは、JIS B 0601-1994で定義される10点平均粗さである。
【0031】
本塗料組成物を塗布する鋼材は、特に鋼種を限定されるものではなく、普通鋼であっても低合金鋼であっても構わない。ただし、鋼材成分も、レーザー切断性に影響を及ぼすため、次に述べる成分の鋼材が好ましい(成分の残部はFeおよび不可避不純物、%は質量%を意味する)。
【0032】
C:0.01%以上、0.20%以下
Cはプライマー塗布鋼材のレーザー切断性に有効な元素である。C量が0.01%未満では、レーザー切断性が劣化し、一方、0.20%を超えて含有すると溶接性が劣化する。C含有量の下限は0.06%以上、さらに望ましくは0.10%以上とすることが望ましい。その上限は0.15%以下とすることが望ましい。
【0033】
Si:0.03%以上、0.6%以下
Siもプライマー塗布鋼材のレーザー切断性に有効な元素である。Si量が0.03%未満では、レーザー切断面にノッチが発生し、切断性が劣化する。一方、Si量が0.6%を超えると、溶接性が劣化する。Si含有量の下限は0.10%以上とするのが望ましく、さらに望ましくは0.3%以上とするのが良い。
【0034】
Mn:0.3%以上,2.0%以下
Mnは鋼材の強度確保に有効な元素であり、レーザー切断性にも影響を及ぼす。Mn量が0.3%未満であると鋼材の強度が不足する。一方、Mn量が2.0%を超えると、靱性劣化に加えて、レーザー切断性が劣化する。
【0035】
solAl:0.005%超、0.10%以下
Alは、脱酸のために必要な元素であり、solAl量が0.005%以下では、鋼材の脱酸が不足し、靱性が劣化する。一方、solAl量が0.10%を超えると、溶接部に硬質の島状マルテンサイトが生成し、靱性が劣化する。
【0036】
N:0.0005%以上、0.008%以下
N量が0.0005%未満であると、鋼材の結晶粒径が粗大になり、靱性が劣化する。一方、N量が0.008%を超えると、やはり靱性が劣化する。
【0037】
以上の元素に加えて、強度を確保するために、下記から選んだ1または2以上の元素を場合によりさらに添加することができる。
Nb:0.005%以上、0.08%以下
Nbは強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.08%を超えて含有させると靱性が劣化する。
【0038】
Ti:0.005%以上、0.03%以下
Tiも強度確保に有効な元素であり、連続鋳造におけるヒビ割れ防止に有効である。添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.03%を超えて含有させると、靱性が劣化する。
【0039】
V:0.005%以上、0.08%以下
Vも強度確保に有効な元素であり、添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.08%を超えて含有させると、靱性が劣化する。
【0040】
Cu:1.5%以下、
Cuも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.3%以上とするのが望ましい。一方、1.5%を超えて含有させても、含有量に見合う効果が見られない。
【0041】
Ni:3.0%以下、
Niは強度および靱性の確保に有効な元素である。添加する場合、0.2%以上とするのが望ましい。一方、3.0%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
【0042】
Cr:1.0%以下
Crも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.2%以上とするのが望ましい。一方、1.0%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
【0043】
Mo:0.8%以下
Moも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.1%以上とするのが望ましい。一方、0.8%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
【0044】
鋼材の形状は、レーザー切断が可能な限り特に制限されず、用途に応じて選択される。例えば、厚板、管材、異形材などが例示されるが、その他の形状であってもよいのは勿論である。
【実施例】
【0045】
表1に示す化学組成の2種類の試験鋼材(いずれも、500×500×16mm厚の板材)をショットブラストにより除錆した後、表2に示す組成の塗料組成物をエアスプレーにより塗装した。ショットブラスト後の表面粗度は50.2μmであった。
【0046】
塗料組成物に用いた成分のうち、アルコキシシランとしては、市販のエチルシリケート40(多摩化学工業(株)製)50質量部を使用し、これを0.1N塩酸1質量部、水6質量部、およびイソプロピルアルコール(IPA)43質量部と撹拌混合して用いた。亜鉛末は、平均粒子径が7μmの市販品であった。SiO2は平均粒子径が20nmの市販品であった。
【0047】
Al供給源としては、KAlSi38、CaAl2Si28、NaAlSi38、Al23および金属Al(平均粒子径は2〜5μmの範囲内)を使用した。一部の塗料には、着色顔料としてTiO2またはヘマタイトを添加した。表2に記載した「その他添加剤」は、沈降防止剤としての有機ベントナイトである。
【0048】
なお、表2の塗料組成物の各成分の数値は、バインダー成分も含めた全固形分(溶媒以外の成分の合計量)に基づく質量%である。
塗装は、小型塗装ロボット(安川電機(株)製PX−800、移動線速380mm/sec)と塗装ガン(デビルビスT−AGHV、ノズル径1.2mm、キャップNo.807)とを用いて、霧化エアー圧:1.3kgf/cm2、パターンエアー圧:1.0kgf/cm2、塗料吐出量:132g/min、ガン距離:150mmの条件で行った。塗装後に塗膜を自然乾燥させた。形成された乾燥塗膜の膜厚は、(株)サンコウ電子研究所製CRT−2000II電磁式デジタル膜厚計を用いて鋼板表面の81点で測定し、その平均値として求めた。また蛍光X線により塗膜のSi/Al質量比を求めた。これらの測定結果を鋼材の種類と一緒に表2に併記する。
【0049】
上記のように塗布が行われた500×500×19mm厚の板材について、レーザー切断試験を行った。切断に用いたレーザー切断機は小池酸素製5KWであり、切断条件は、デューティ100%、周波数1000Hz、酸素ガス圧(内側:0.05MPa、外側:0.03MPa)であった。塗布された板材からピアッシング後、50×50角(コーナー:R3mm)を切り出し、その際のノッチ現象あるいはノロ付着状況を観察した。切断速度は、1300mm/minであった。
【0050】
評価は、鋼材表面にレーザー焦点を決め、焦点距離を鋼材表面から0.5mmピッチで変動させて、ノッチ現象あるいはノロ付着あるいは切断不良が生じるどうかで、次のように判定した:
◎:ノロ、ノッチ現象無し、
▽:ノロ付着、
△:ノッチ発生、
×:切断不可。
【0051】
結果を表3に示す。この試験において、◎の切断焦点の幅(範囲)が大きいほど、安定して高速で鋼材を切断できることを表す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
発明例である試験No.1〜12に示すように、本発明の塗料組成物により鋼材を塗布すると、鋼材の種類によらず、切断可能なレーザー焦点距離の幅が広く、従って大出力レーザー切断機を用いた高速切断時においても鋼材のうねり、傷等に影響されることなく安定して切断可能であることがわかる。その結果、夜間の無人自動運転時に切断不良による切断中断が起こることが防止され、レーザー切断の生産性向上に大きく寄与する。
【0056】
一方、Al供給源を含有しない塗料組成物である比較例では、切断可能なレーザー焦点距離の幅が非常に狭く、焦点距離がわずか0.5mmあるいは1mm変化すると切断不能となって、切断が中断に追い込まれる。従って、夜間無人運転は困難となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有することを特徴とする、レーザー切断用鋼材に塗布するための塗料組成物。
【請求項2】
2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有する塗料組成物が塗布されていることを特徴とする、レーザー切断用鋼材。
【請求項3】
2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、亜鉛末、SiO2、ならびにAl供給源の粉末を含有する塗料組成物を鋼材に塗布し、該塗料組成物の塗布部にレーザーを照射して鋼材を切断することを特徴とする、切断鋼材の製造方法。

【公開番号】特開2007−39586(P2007−39586A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226829(P2005−226829)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】