レーザー媒質、レーザー増幅器およびそれを備えたレーザー装置並びにレーザー増幅方法
【課題】太陽光などの光励起によるレーザー光の増幅器の提供。
【解決手段】ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質、好ましくは、さらに、クロム(Cr)イオンを含む。
上記のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器およびそれを備えたレーザー装置。
上記のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながらレーザーセルに循環させ、レーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射するレーザー増幅方法。
上記のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整するレーザー増幅方法。
【解決手段】ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質、好ましくは、さらに、クロム(Cr)イオンを含む。
上記のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器およびそれを備えたレーザー装置。
上記のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながらレーザーセルに循環させ、レーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射するレーザー増幅方法。
上記のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整するレーザー増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー媒質、レーザー増幅器及び該増幅器を用いてレーザー光を増幅するレーザー装置並びにレーザー増幅方法に関し、水溶液中の金属イオンを含む液体レーザー媒質によりレーザー光を増幅する技術に関するものである。さらに詳しくは、例えば、ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、レーザーセルに太陽からの光を集光する光学系、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光の発振器を配設し、屋外においてレーザー光を増幅することを可能とする技術に関する。
なお、「ネオジウム(Neodymium)」は「ネオジム」とも称されるが、本明細書では「ネオジウム」の用語を統一して用いる。
【背景技術】
【0002】
レーザー光は指向性や収束性に優れた光線としての性質や高密度エネルギー源としての性質を利用して、生活用品から核融合炉にまで広くその利用が実用化されまた開発が進められている。例えば、CD/DVDの読み取り、レーザープリンタ、切開メス、皮膚治療、目の治療などレーザー治療器、金属、セラミックスなどの切断、穴あけ、溶接などのレーザー加工、レーザーの持つ直線性を利用して、精度の高い位置を割り出すレーザーによる測定などが実用化されているばかりか、非常に高い出力のレーザーを用いた慣性核融合などへの利用が試みられている。
従来、レーザー装置は、主に電気エネルギーを光(ランプ点灯)や放電の形態に変換し、レーザー媒体を励起することによりレーザー光を発生している。この手法には、複数段のエネルギー変換過程が含まれており、エネルギー効率が低い(効率数%以下)ことが知られている。この理由としては、もともと品質の良い電気エネルギーを、低効率エネルギー変換を経て光に変換して利用することを挙げることができる。この点、光源として太陽光などを使用すれば、低効率の電気−光変換プロセスを使用することなく、レーザー発振のための励起光源とすることができる。
【0003】
例えば、太陽光をダイクロイックミラーなどで分波し、赤外線は半導体熱電素子による温度差発電に、赤色光は太陽電池発電に用い、これらから得られた電力は冷却液シリコーンオイルまたは水を介してレーザーロッド冷却用ペルチェ冷凍素子の電源として用い、さらに紫外線は蛍光体により可視光線変換し、直接入射した可視光線と共にレーザー媒質を励起することにより、太陽光の輻射するエネルギーを無駄なく利用して太陽光励起レーザーを発振させる装置(特許文献1参照)、
大口径で曲率の異なるトロイダル両凸レンズやミラーにより矩形または楕円状に集光された高密度太陽光を両凸トロイダル面であるビア樽状冷却水槽の中にある両凹トロイダルレンズで平行にした状態で冷却された固体レーザー媒質の被励起光入射面に垂直に太陽光を入射することにより均質で高出力高効率太陽励起レーザー装置(特許文献2参照)、
地球外周の宇宙空間から地上へ太陽の光エネルギーを大気中の水蒸気成分による影響のない波長帯のレーザー光に変換して伝送でき、打上げ時の重量が最も軽量にできるレーザー発生装置(特許文献3参照)など、太陽光励起レーザー装置が提案されている。
【0004】
大きなレーザー出力、例えば100W以上の出力が要求される用途は少なからずありこうした大出力レーザーの要求は、金属溶接などのレーザー加工機の熱源などとして必要になっている。高温加工の熱源として使う場合のレーザー光は、ピークエネルギーもさることながら平均出力の高いものが要求され、大出力のレーザー加工機を作る場合とか、金属を分離する際にプラズマ光源として使うとか、高温、高圧場を作る場合の強力なエネルギー源を確保する場合には多段レーザーを組み合わせたシステムが作られ、また、簡便で強力なレーザー増幅器も求められている。
【0005】
レーザーの増幅器としては、従来、ロッドの一方向からレーザー光の種火が入射し、ロッドを通過する過程で誘導放出を促しロッドから放出する時には入射光の何倍かになっているというロッド型増幅器を複数配置することによりレーザー光の増幅がされている。また、結晶面を平行四面体形状として媒質中(ロッド中)を伝わる光学パスを長くとった構造とし、媒質中をジグザグ状に幅広く伝搬することにより熱的な偏りがなくなり効率がよく品質が良い大出力レーザーが得られるスラブ型増幅器や、大きな口径の円盤状の媒質(ロッド)をブルースタ角に何段にも並べて徐々に口径を拡げてレーザーの光出力を上げるディスク型増幅器などが知られている。
【0006】
例えば、固体レーザー増幅部のスラブ状Nd:YAGレーザー結晶にその入出射面をブリュースター角度にカットしたものを使用することによって偏光度を高め、高い出力を得るようにした個体レーザー増幅器であり、固体レーザー発振部からの垂直偏光のレーザー光は偏光素子を通過し、偏光回転素子で左回り45度に、またファラデー回転素子で右回りに45度回転し、垂直偏光でレーザー結晶に入射され増幅される。該レーザー光は、ミラーで反射してレーザー結晶で増幅され、ファラデー回転素子で左回りに45度、偏光回転素子で左回りに更に45度回転して、水平偏光となり、偏光素子20で反射されて取り出される増幅器(特許文献4参照)などが提案されている。
【0007】
ところで、基板、および前記基板上に載置され、Nd3+を含む+3価の非対称型希土類イオン錯体が、透明樹脂、透明無機材料、透明有機−無機ハイブリッド材料の少なくともいずれかに導入された線状パターンとを備え、前記線状パターンに照射された0.05mJ以上の強度の励起光から増幅自発発光を発し、前記増幅自発発光を前記線状パターン中で増幅させて前記線状パターンの端面から出射させるレーザー発振装置が知られている(特許文献5の請求項1および3参照)。
しかしながら、従来、ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質は存在しなかった。非特許文献2には、「ネオジム(III)はNd(III)-YAGレーザーの発光体として知られているが、その近赤外領域の励起エネルギーはO-H、C-H振動へのエネルギー移動および近接するNd(III)イオン間のエネルギー移動に伴って急速に失活するため、水、有機溶媒、プラスティックス等の環境中では決して発光は得られない。」との記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−210999号公報
【特許文献2】特開2007−227406号公報
【特許文献3】特開2002−33537号公報
【特許文献4】特開平9−181378号公報
【特許文献5】特開2007−251186号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】荻野純平、浦野渡瑠、等共著、“宇宙太陽光励起レーザー実証用 1kW級レーザーシステムの要素技術開発”信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE SPS2009-02(2009-04 p5-12)
【非特許文献2】梁宗範・和田雄二共著、“希土類発光素子のホストとしてのナノゼオライト−ネオジム(III)近赤外フォトルミネッセンスを制御する”ゼオライト学会誌(2004 P2-10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のレーザー光の発振および増幅には主に固体レーザー媒質が使用され作動時にはレーザー媒質の温度が上昇して安定した発振が阻害されるため、レーザー媒質の熱歪みを抑制するためには冷却が不可欠であり、効率のよい冷却技術の開発が要請されていた。また、固体レーザーの媒質は必要とするレーザー光の特性に応じて固体レーザー媒質の濃度を変える必要が生じることがあり、そのためには必要とするレーザー光を発振する素材を作製し、交換する必要があった。しかし、固体レーザー媒質を作製することは容易ではなく、各種の媒質を予め用意しておくことは費用、作業量などからみて実現は困難であった。さらに、固体レーザー媒質は均一にする必要があるため、固体レーザー媒質を大型化することは非常に困難であった。
【0011】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とするレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などの提供を目的としている。また、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制し、かつ、安定したパルス発振動作を実現することができるようにしたレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供しようとするものである。さらにまた、簡単な構成でパルスエネルギーを所望のように調整することのできるレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
太陽エネルギーをレーザー光に高効率変換し、レーザーのコヒーレント性によりエネルギーの集中集約性を上げ、高エネルギー密度を達成し水素やエネルギー性化学合成物質に変換する方法が考案されてきた。このとき太陽光エネルギーのレーザーへの変換効率が課題となる。従来、可視光線の利用の一手段として、太陽光励起レーザーがあり、Cr3+イオンとNd3+イオンをドープしたYAG結晶を太陽光で励起すると1064nmのレーザー光が40%の効率で取り出せるとの報告があるが、本発明者は、このように固体で発振するNdイオンは液体中でのレーザー作用(増幅や発振)を示す可能性があることに着目して、ネオジウム水溶液のレーザー作用を検討する過程において本発明に到達した。
Nd3+イオンは900nm以下の波長帯域において吸収を示す。太陽光を効率よくレーザー光に変換するには、より広範囲の波長の光を励起光として利用できることが有利であるが、NdはCrやTiよりも長波長の光を吸収することができる。こうした特性をもつNdイオンに着目してレーザー作用を検討した。また、Crイオンは紫外線から可視光線領域において大きな吸収を示し、その励起準位はNdイオンのレーザー上準位よりもわずかに高いエネルギー準位にある。また、その寿命も数ミリ秒と長いため、CrイオンとNdイオンの衝突によってCrイオンからNdイオンにエネルギーが移行できる可能性があることが考えられる。非特許文献1には固体中でのこのプロセスが報告されている。
本発明者は、こうした従来技術の問題点が金属塩の水溶液を利用することにより解決できるのではないかと考え創意工夫を積み重ねることにより、金属塩の水溶液によるレーザー光の増幅技術の可能性を見出し、さらに研究開発を進めることにより、液体レーザー媒質、該媒質を使用したレーザー増幅器、さらには該媒を入れたレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光の発振器を配設したレーザー増幅器に係る発明に至った。
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下のレーザー媒質を要旨とする。
[1]ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質。
[2]ネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%である[1]に記載のレーザー媒質。
[3]さらに、クロム(Cr)イオンを含む[1]または[2]に記載のレーザー媒質。
[4]クロムイオン濃度が、0.01〜9重量%である[3]に記載のレーザー媒質。
【0014】
また、本発明は、以下のレーザー増幅器を要旨とする。
[5][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器。
[6]レーザー媒質がレーザーセルに封入または循環供給されるようになっている[5]に記載のレーザー増幅器。
[7]さらに、励起光線源からの励起光を所定方向からレーザーセル中に照射する光学系と、を備えることを特徴とする[6]に記載のレーザー増幅器。
[8]レーザー媒質が循環供給されるレーザーセルと、励起光線源からの励起光を所定方向から該セル中に入射する光学系と、レーザー媒質を該セルに循環供給する循環装置を備えることを特徴とする[7]に記載のレーザー増幅器。
[9]前記循環装置が、脱気ポンプを有する溶液タンクと、レーザーセル内のレーザー媒質を吸引して容器タンクに送出するポンプと、を含んで構成される[8]に記載のレーザー増幅器。
[10]前記レーザーセルが、励起光が入射する部分は300〜900nmの光が透過する材料より構成され、レーザー光が通過する部分が1000〜1100nmの光が透過する材料により構成される[6]ないし[9]のいずれかに記載のレーザー増幅器。
[11]石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂からなり、レーザー媒質を所定の温度範囲に冷却する冷却装置を備える[10]に記載のレーザー増幅器。
[12]励起光線源が、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれる[7]ないし[11]のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【0015】
また、本発明は、以下のレーザー装置を要旨とする。
[13][5]から[12]のいずれかに記載のレーザー増幅器が配設されたレーザー装置。
【0016】
また、本発明は、以下のレーザー増幅方法を要旨とする。
[14][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながら石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂製のレーザーセルに循環させ、レーザーセルを通過するレーザー種光とほぼ直交する方向からレーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射することを特徴とするレーザー増幅方法。
[15][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整することを特徴とするレーザー増幅方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とするレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などの提供をすることができる。また、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制し、かつ、安定したパルス発振動作を実現することができるようにしたレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供することができる。さらにまた、簡単な構成でパルスエネルギーを所望のように調整することのできるレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供することができる。
【0018】
より、具体的に述べると、本発明により次のような効果が奏される。
(1)レーザー媒質が水溶液であるため、安全かつ取り扱いが容易であり、また、レーザー装置の設置場所が制限されず、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制することができる。
(2)レーザー媒質の液体が熱容量の大きい水であるため増幅を実施中の温度上昇が緩やかである。
(3)セルの大きさや集光レンズ口径を大きくすることは容易に行なうことができることから、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とする。
(4)水溶液を循環させることにより、常に新しいレーザー媒質による光励起が可能となり、材料の劣化がなく取り扱いが容易である。
(5)水溶液を冷却する装置の付加によりレーザー媒質の温度を制御することが容易である。
(6)レーザー媒質の作製および濃度調整が容易であり、所望の条件に応じた光増幅効果を発揮することが可能となる。
(7)レーザーセルをサイズアップした際には濃度調整を行うことにより、透過率を容易に調整することが可能である。
(8)所定量の水溶性金属塩を水に溶解する操作のみで簡便にレーザー媒質の作製が短時間で行なえる。
(9)レーザーセル中の水溶液温度が変化してもレーザー光の透過率は変化がほとんどなく安定した増幅が可能である。
(10)環境に優しく、どこでも得られる太陽光をエネルギー源としてレーザー光の増幅を可能とする。また、レーザー媒質が水溶液であり、有機溶媒などを含まないため変質がなく、太陽光線下での長期運用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】硫酸クロム(3+)水溶液と硫酸ネオジウム(3+)水溶液の透過率特性を示すグラフである。
【図2】金属イオン濃度と透過率との関係を示すグラフである。
【図3】クロム1.0%とネオジウム2.0%混合液の透過率特性を示すグラフである。
【図4】実施例1に係る増幅率測定の実験装置の概要構成図である。
【図5】人工太陽灯の集光照度強度(セル表面の光量)に対するレーザー増幅率を示すグラフである。
【図6】人工太陽灯照度強度(集光前)に対する1064nmの増幅率を示すグラフである。
【図7】吸収を考慮した1064nmの増幅率を示すグラフである。
【図8】実験結果から推定した増幅率とゲインを示す(太陽強度はフレネルレンズ表面の光強度)。
【図9】実施例2に係るレーザー増幅器の概要構成図である。
【図10】図9の光学系を説明する図面である。
【図11】実施例2に係るレーザー増幅器を備えたレーザー増幅装置の概要全体構成図である。
【図12】Nd3+(2.0%)水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図13】Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図14】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図15】Nd3+(2.0%)水溶液での増幅率を示すグラフである。
【図16】Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合水溶液の増幅率を示すグラフである。
【図17】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液のレーザー透過信号波形を示すグラフである。
【図18】Nd3+(2.0%)とCr3+(0.5%)の混合水溶液の温度と1064nm透過信号強度の関係を示すグラフである。
【図19】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液の温度と1064nm透過信号強度の関係を示すグラフである。
【図20】太陽光強度とNd3+(2.0%)水溶液およびNd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液の吸収率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、水溶液ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光を発振させるレーザー発振器を配設したレーザー光の増幅器であり、金属塩の水溶液に光を照射することによりレーザー増幅作用を行なわせることを特徴とする。励起光線源として太陽光を用いることもできる。地表における太陽スペクトルは280nmよりも長波長側にあり、950nm以下の紫外線、可視光線、赤外線で約50%の光量が見込まれる。太陽光の地表面における強度は1kW/m2であり、その50%(500w/m2)の可視光線を利用しようとすると効率が20%であっても100J/sのエネルギーを利用することができる。本発明は、太陽光の有効利用という点でも優れた技術である。
【0021】
[金属イオン水溶液の特性]
ネオジウムイオンを含有する水溶液は、炭酸ネオジウム、塩化ネオジウム、臭化ネオジウム、ヨウ化ネオジウム、硝酸ネオジウム、過塩素酸ネオジウム、臭素酸ネオジウム、酢酸ネオジウム、硫酸ネオジウム、リン酸ネオジウム等のネオジウム塩の水溶液が用いられる。
クロムイオンを含有する水溶液は、炭酸クロム、塩化クロム、臭化クロム、ヨウ化クロム、硝酸クロム、過塩素酸クロム、酢酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム等のクロム塩の水溶液が用いられる。
液体レーザー媒質を構成する金属イオン水溶液の濃度については、まず、それらの水溶液の吸光度のデータを検討することにより実験的に好適な濃度範囲が定められる。
好ましい金属イオン水溶液の濃度についてはレーザーセルの大きさによっても異なるが、一般には例えば水溶液のネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%とすることが好ましい。
ここで、上限の28重量%は塩化ネオジウムの溶解度より求めたネオジウムイオン濃度である。
また、下限の0.2重量%の根拠は次のとおりである。
図2のdとe(吸収の大きい波長)について見ると、1cm当たりの透過率が濃度0.5%で60%程度である。励起長(奥行き方向)を2cmとすると透過率は36%(=0.6*0.6*100)となり、濃度1%で励起長1cmの場合とほぼ同じ透過率となる。現実的な励起長5cmを考えると、透過率80%(図2のdとeにおける概算で濃度約0.2%)で全体の透過率は約33%となり、レーザー増幅作用が確認できる下限濃度(1cmのセル長でNd濃度1%)に相当するので、この値を下限とした。
【0022】
また、ネオジウムイオンを含有する水溶液中にはクロム(Cr)イオンを含むことが好ましい。図20に示すように、溶液の吸収率が高まるからである。レーザーセルの大きさによっても異なるが、一般にはクロムイオン濃度は0.01〜9重量%とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲とする。
ここで、上限の9重量%は塩化クロムの溶解度より求めたクロムイオン濃度である。
また、下限の0.1重量%の根拠は次のとおりである。
ネオジウムイオン濃度と同様に、図2のaと図13(Cr添加量0.25%)より下限を設定した。
図2(a)で、Cr濃度1%(透過率0%)、Cr濃度0.5%(透過率10%)、Cr濃度0%(透過率100%)を2次の多項式近似で近似すると、増幅作用を確認したCr添加量0.25%における透過率は45%となる。上述の励起長5cmの場合に透過率が45%となるCr濃度は0.06%となる。低濃度における増幅作用の確認は、Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合濃度以下では行っていないので、同じオーダーの0.01%を下限値とした。
【0023】
純水は800nm以下では吸収をもたず、973nmに吸収を示すが、1050nm付近の透過率は約90%であるため、このあたりの波長を有するレーザー光の透過性には優れている。ネオジウムとクロム水溶液の透過率を検討するために所定濃度の硫酸塩を水に溶解し、その透過率を検討したところ、図1の結果を得た。図1から、クロム水溶液では600nmと415nmに吸収をもち、ネオジウム水溶液では864nm、794nm、740nm、576nm、521nm、353nmに吸収をもつことが判明した。
また、クロムとネオジウムの透過率は濃度の上昇と共に減少する傾向を示すことが分かった。すなわち、クロムを含む水溶液とネオジウムを含む水溶液の透過率と溶液濃度との関係は、図2に示すとおりである。また、クロムとネオジウムを同時に含む水溶液(1.0%のCr、2.0%のNd混合水溶液)については図3に示す透過率を示した。
【0024】
以上の結果から、クロムとネオジウムの混合水溶液は300〜900nmの範囲の光を吸収することが明らかとなった。クロムについてみると、650〜900nmにおいては吸収が少なく、吸収の大きい600nm以下では1.0%と2.0%との間に大きな差異は見られなかった。ネオジウムについては、クロムが吸収を示さない650〜900nmの波長域で740nm、794nm、864nmに吸収線があり、濃度と共に吸収量が多くなっており、濃度2.0%以上では吸収が飽和する傾向にある。
また、紫外線から近赤外線を効率よく吸収するためには水溶液中のクロムイオン濃度を0.5〜1.5重量%とすることが好ましく、また、ネオジウムイオンの水溶液中の濃度は0.4〜2.5重量%が好ましい範囲であることが判明した。
また、レーザーセルをサイズアップした際には濃度調整を行うことにより、透過率を高めることが好ましい。
【0025】
本発明の金属イオン水溶液を調製するには、水に所定量の金属塩を溶解することで十分である。使用する水は、蒸留水、脱イオン水など不純物を含まず透明であればいずれのものも使用できる。金属塩としては、約0.2〜5重量%の金属塩が完全に溶解した水溶液が調整できる水溶性の塩から選ばれ、例えば、硫酸塩、塩化物などが挙げられる。
【0026】
[励起光線源]
励起光線源としては、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれた光線が好ましくは使用されるが、900nm以下の波長の光を多く含んでいるものであればいずれのものでも光線源として適しているが、例えば、自然太陽光線、人工太陽灯や、他の光線源が使用される。これらの光源で、900nm以上の赤外線は、Nd3+やCr3+イオンの吸収が無くレーザー媒質の励起に寄与しないこと、またNd3+イオンのレーザー発振波長を含むために自己発振してエネルギーを失うために増幅に用いるには不適であること、さらに熱線であるのでレーザーセル中の溶液を過度に加熱することがあるために、フィルターなどによりカットして使用することが好ましい。また、レーザーセルには強強度の光線を集中する必要があるため、光を凸レンズ(例えば、フレネル凸レンズ)などで集光して照射することが望ましい。励起光線はレーザー種光の光軸に対して直角となるよう照射することが好ましい。
【0027】
[レーザーセル]
金属塩水溶液が収納されたレーザーセル(以下、単に「セル」とも言う。)は、レーザー種光および人工太陽光や自然太陽光などの励起光源を透過することができる材質から作製されているが、具体的には、石英ガラス、ガラス類、ポリアクリレートなどのプラスチック類などが例示される。レーザーセル中のネオジウム水溶液は循環冷却することにより例えば約40℃程度に冷却できるため耐熱性の低いプラスチック類をも使用できる。レーザーセルの大きさは、レーザー光の種類、増幅率、必要とするセル中の水溶液の量、セルの温度管理などの条件により適宜選定されるが、例えば、分析用石英セルや、内径19mm、外径22mm、長さ102mmの石英セル(CV−Q−100;オーシャンオプティクス社製)などが挙げられる。循環冷却を行わない場合、セルには、強い光線が集中して照射されるため温度が上昇することは避けられないため耐熱性のある材質により作成する。しかし、耐熱性セルにおいても、セル内で水の沸騰により水蒸気が発生すると、セル内に空孔が生じてレーザー光の均一な通過が妨げられることとなるため、セルを冷却して水溶液が沸騰しないように制御することが好ましい。
本発明のレーザー増幅の媒体は液体である特徴を利用して、セル中で高温になった水溶液をセル外に取り出し冷却した後、セルに循環させて再度使用することが可能となる。循環装置は、レーザー媒質を該セルに供給するとともに該セルに供給された前記のレーザー媒質を回収して再度該セルに循環供給するようになっている。セルには水溶液の流入口および流出口を設け、流入口、出口を介して貯留タンクに大量貯留されている水溶液をセルに循環させることによりセル中の水溶液を最適な温度に保持することが容易に行なわれる。本発明では液体をレーザー増幅媒質とするため、固体のレーザー増幅媒質を使用する従来の装置における冷却の問題を簡単な手法で解決することが可能となる。
水溶液の貯留タンクには、冷却装置および/または脱気ポンプが配設されていて、冷却された水溶液がセル内を最適な温度に制御すると共に、脱気ポンプを設置してセル内に気体が混入しないようにしている。
【0028】
以上説明したように、本発明は、ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光を発振させる発振器を配設したレーザー光の増幅器であり、水溶液にはNd3+またはCr3+とNd3+を含む(例えば、硫酸クロム、硫酸ネオジウムを溶解させた水溶液)を循環させながらセルに光を照射してレーザー増幅作用を行わせる装置に関するものであり、増幅する種光となるレーザー光の波長は概ね1040〜1080nmの波長、例えば、1060、1047nmの波長を有することが好ましい。
【0029】
本発明ではレーザー光の増幅媒体として水溶液を用いることから光エネルギーが集中するセル内の水溶液の温度が上昇して沸騰点にまで達し、気泡が発生することがないように常に適温に冷却した水溶液をセルに供給してレーザー媒質として利用することが好ましい。冷却は強制冷却、自然冷却のどちらでも良い。水溶液は貯留タンクに大量の水溶液を貯留してセルへ循環させるとよいが、気泡の発生とレーザーセルへの流入を確実にする防止するためには貯留タンクに脱気装置を設置することが好ましい。水溶液をポンプで送出して循環させると気泡が発生するので、水溶液をポンプで吸引することにより循環させることが好ましい。水溶液の温度が変化しても光の透過率にはほとんど影響しないが、水溶液の温度を一定以下に保持することでレーザーセルを非耐熱性の材料で構成することが可能となる。
また、セル内の水溶液をできるだけ高温にしないように集光系には赤外線をカットずるフィルターあるいは波長選択ミラーを配置して、水溶液(レーザー媒質)に900nm以下の光が集光照射されるようにして水溶液の温度上昇を軽減させることが好ましい。太陽光励起レーザー媒質を飽和増幅させて出力を安定化させることが実施面からは望まれる。
【0030】
本発明の太陽光励起増幅システムは、使用する全てのエネルギーを太陽光エネルギーから供給することができる。例えば、増幅する種光となるレーザー光の発振器、セルへの水溶液の送液ポンプ、脱気ポンプ、水溶液の冷却装置を太陽電池で発電した電気を電池に蓄えて駆動する。増幅する種光となるレーザー光の発振器には電気的な発振器を使用することが好ましい。
【0031】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
実施例1では、人工太陽灯による光増幅試験を行なった。実施例1に係る実験装置の概要構成図を図4に示す。
光源1により硫酸ネオジウムと硫酸クロムの混合水溶液(Nd:2.0重量%、Cr:1.0重量%)セルに光を照射して、1064nmのパルスNd:YAGレーザー光を照射可能なレーザー発振器5によりその増幅率を測定した。
レーザー発振器5から照射されたレーザー光は、偏光ビ−ムスプリッター(PBS)6と赤外線透過フィルター7を透過した後、レーザーセル4の金属塩水溶液に入射され、増幅されたレーザー光が透過波長が1050±5nmの透過フィルター8を通過した後に受光器9で受光され、その光強度がオシロスコープ10で測定される。
300nmから900nmの波長範囲において透過率の異なる光学フィルター3を凸レンズ2と水溶液セル4の間に配置し、水溶液セルへの人工太陽灯照射強度を変更した。また、レーザー発振器5からの励起ランプの漏れ光を遮断するために、レーザー発振器5と水溶液セル4の間に900nm以上の赤外線透過(可視光と紫外線カット)フィルター7を配置した。
【0033】
上記の光増幅試験に用いた各装置の構成は次のとおりである。
光源1は、直流点灯の人工太陽灯(100W、XC−100;セリックス社製)である。
凸レンズ2は、焦点距離が30cmのアクリル(アクリライト#000;三菱レイヨン社製)製フレネルレンズである。日照計(ML020V;英弘精機社製)で測定した人工太陽照明のフレネルレンズ面での光強度は16Wh/m2であり、セル表面での強度は1.8kWh/m2である。
光学フィルター3は、シグマ光機社の反射型NDフィルターである。
水溶液セル4は、石英セル(T−23−UV−10;日本石英硝子社製)でありその光路長は1cmである。異なる波長の増幅率を調べるためNd:YLF(発振波長:1047nm、エクスプローラー;スペクトラフィジックス社製)を用いて同様の測定を行なった。
レーザー発振器5はカンテル社のウルトラを使用し、偏光ビ−ムスプリッター6はニューポート社の05BC15PH.9を使用した。
赤外線透過フィルター7は保谷硝子社のIR−85を使用し、透過フィルター8はアンドーバー社の105FS10−50を使用した。
受光器9は浜松ホトニクス社製のピンホトダイオードS1722−01を使用し、オシロスコープ10はテクトロニクス社のTDS3054Bを使用した。
【0034】
図5に、人工太陽照明の集光照射強度(凸レンズで集光した水溶液セル表面での光強度)とレーザー光の増幅率を示す。同図から人工太陽照明照射強度が強くなるに従いレーザー工の増幅率が上昇することが確認された。また、図6に集光前の人工太陽灯照射強度に対する増幅率の関係を示す。
以上の実験により光源1の照射光量を増加とレーザー増幅率の増加には相関関係がみられることから、水溶液セル4内の水溶液によりレーザー増幅作用が得られたことが確認された。
【0035】
ところで、水溶液は実験したレーザー波長において約10%の吸収を示す。したがって、レーザーとしての真の増幅はこの吸収を上回る必要がある。そこで、水溶液の吸収を考慮した増幅率を図7に示す。この実験では増幅率の最大は0.99であった。増幅率が1以上になればレーザー光を増幅することができる。そこで、この実験でデータをもとに増幅率の推定値を計算により求めた。計算条件として、口径50cmのフレネルレンズ(焦点距離50cm)を用いて、太陽光を1cm2に集光した場合を想定した計算結果を図8に示す。計算上では、太陽光強度が1Wh/m2で増幅率は1となり、晴天の1kWh/m2では110倍の増幅率が見込めることとなった。実際には、レーザーでは強度が増加すると飽和の傾向が現れるため増幅率は7割程度しか見込めない。しかしながら、増幅率の飽和現象を利用すると出力の安定したレーザー光を取り出すことができる。図8は、実験結果から推定した増幅率とゲインを、フレネルレンズ表面での太陽光強度との関係で示したものである。
【実施例2】
【0036】
実施例2では、太陽光集光型のレーザー増幅装置による光増幅試験を行なった。
この装置では、太陽光は、レンズA21〜C23により集光され、赤外線吸収フィルター11を透過した後、レーザーセル4に照射される。他方、YAGレーザー発振器5から照射されたレーザー光は、PBS6、赤外線透過フィルター7およびYAGレーザー減衰フィルター12を介してレーザーセル4中の金属塩水溶液中を透過し、干渉フィルター8を介して受光素子9に入射され、そこで発生した電気信号がオシロスコープ10により観察される。
【0037】
本実施例のレーザー増幅器の構成は図9および図10に示すとおりである。(なお、図9中、レンズB22とレンズC23は図示省略している。)
レンズA21は、有効径500mmφ、焦点距離500mmのフレネル凸レンズであり、レンズB22は有効径170mmφ、焦点距離−76mmのフレネル凹レンズであり、レンズC23は83×102mm、焦点距離76mmのフレネル円柱レンズである。
赤外線吸収フィルター11は、保谷硝子社の熱線吸収フィルターHA−50であり、300nmから900nmの光を透過し、900nm以上の熱線を吸収遮断する。フレネル円柱レンズC23とレーザーセル4の間に配置した。
レーザーセル4の位置における太陽光の集光面積は横方向約7cm、縦方向約3cmである。なお、この装置は太陽追尾装置を設けていないため、集光面積を広くして実験時間を長くした。
【0038】
YAGレーザー発振器5は、カンテル社のウルトラを使用し、PBS6はニューポート社の05BC15PH.9を使用した。
赤外線透過フィルター7はシグマ光機社のITF−50S−85IRを使用し、YAGレーザー減衰フィルター12はシグマ光機社のANDY−50S−50を使用した。
干渉フィルター8はアンドーバー社の105FS10−50を使用し、受光素子9は浜松ホトニクス社のピンホトダイオードS1722−01を使用した。オシロスコープ10はテクトロニクス社のTDS3054Bを使用した。
【0039】
レーザーセル4は、内径19mm、外径22mm、長さ26mmの石英セルである。レーザーセル4には、水溶液の流入口と流出口が設けられている。但し、後述する図12から図15のデータの収集については、実施例1で使用した光路長1cmの分析用セルを用いた。理由は、実施例1に係る人工太陽灯のデータと比較するためである。
【0040】
図11は、上記のレーザー増幅器を搭載したレーザー増幅装置の概要全体図である。(なお、図11中、レンズB22、レンズC23、PBS6およびフィルター7,12は図示省略している。)
このレーザー増幅装置は、全ての電力を太陽エネルギーから得られるように構築している。必要とする電力は太陽電池により発電した電力を蓄電池に蓄え、冷却機、装液ポンプ、脱気ポンプ、レーザー発振器に使用し、レーザー光を増幅するに必要な光エネルギーはフレネルレンズ21により集光した太陽光により得る。このレーザー増幅装置は太陽エネルギーのみで作動可能である。
【0041】
上記レーザー増幅装置による増幅試験は夏の晴天の日に行った。
レーザー媒質は、Nd3+の2.0重量%のネオジウム塩水溶液である。このネオジウム塩水溶液は、Nd2(SO4)3・8H2Oの試薬(分子量:720、内Ndは288)を取得し、10gの純水に0.53gの試薬を入れることにより作製した。(参考:0.53*(288/720)/(10+0.53)*100=2%)
光路長1cmのNd3+の2.0重量%の金属塩水溶液による増幅試験の結果を図12に示す。日射量はレンズA表面で0.72kWh/m2、セル表面で32kWh/m2であった。図12の結果から分かるように、太陽光を照射した場合の増幅率は1.47倍であった。
【実施例3】
【0042】
実施例2と同じレーザー増幅装置により光増幅試験を行なった。
レーザー媒質は、Nd3+を1.0重量%とCr3+を0.25重量%含む金属塩水溶液である。この金属塩水溶液のうち、ネオジウム塩水溶液は実施例2の方法で作製し、クロミウム塩水溶液は、Cr2(SO4)3(分子量:392、内Crは104)の試薬を取得し、10gの純水に0.095gの試薬を入れることにより作製した。(参考:0.095*(104/392)/(10+0.095)*100=0.25%)
Nd3+を1.0重量%とCr3+を0.25重量%含む金属塩水溶液による試験では、日射量はレンズA表面で0.77kWh/m2(セル表面で34kWh/m2)の太陽光をセルに照射することにより遮光した場合と比べ光増幅率が1.69倍の値を得た。その結果を図13に示す。
【実施例4】
【0043】
実施例2と同じレーザー増幅装置により光増幅試験を行なった。実施例3と同様にして作製したNd3+を2.0重量%とCr3+を1.0重量%含む混合水溶液による試験では、日射量はレンズA表面で0.77kWh/m2(セル表面で34kWh/m2)の太陽光をセルに照射することにより遮光した場合と比べ光増幅率が2.42倍の値を得た。その結果を図14に示す。
【実施例5】
【0044】
入力レーザー光強度(Input)に対する出力強度(Output)の関係を図15(Nd3+2.0重量%水溶液)および図16(Nd3+1.0重量%とCr3+0.25重量%)に示す。レーザー強度を大きくすると増幅率(Amp)が飽和に達する傾向が観察されるところから、増幅によるレーザー光出力が安定するものと考えられる。Nd3+2.0重量%とCr3+1.0重量%の混合水溶液では短時間で温度が上昇し、沸騰してしまうため増幅率は測定できなかった。経時的な信号波形の例を図17に示す。上から照射直後、冷却・再照射、連続照射(沸騰)、遮光の順で図示してある。連続的に太陽光を照射すると増幅率は低下し、遮光して冷却した後に再照射すると増幅率が回復するが、もとの状態には復帰しなかった。これらの原因は不明である。
【実施例6】
【0045】
NdとCr混合水溶液の温度に対する波長200〜900nmの透過率を測定したところ、25〜75℃の温度範囲内で、この波長領域では吸収は温度によって変化することはなかった。
【実施例7】
【0046】
混合水溶液の温度と1064nmのレーザー光の透過率を測定した。光路長1cmの混合水溶液を、湯煎によって温度を調整して1064nmのレーザー光を通過させた場合の受光信号強度を図18および図19に示す。温度の変化による信号強度の顕著な違いは観測できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るレーザー増幅装置は、レーザーセルの大型化には制限されることがなく、また、集光装置は大型化や多数の装置の連続化などの採用に技術的な制約が少ないためレーザー増幅装置の大型化が容易である。したがって、大出力レーザー装置の構築に大いに利用され、高ピークパワーレーザー装置、高平均パワーレーザー装置、超短パルスレーザー装置にも適しており、廃棄物処理その他の高温処理、高密度プラズマ源、レーザー核融合などへの広範な応用が期待できる。また、本発明のレーザー増幅器は太陽光線をエネルギー源としたレーザーシステムの構築を可能とする。
【符号の説明】
【0048】
1 光源
2 凸レンズ
3 NDフィルター
4 レーザーセル(水溶液セル)
5 レーザー発振器
6 偏光ビ−ムスプリッター(PBS)
7 赤外透過フィルター
8 干渉フィルター
9 受光器(受光素子)
10 オシロスコープ
11 赤外線吸収フィルター
12 YAG用吸収型固定式NDフィルター
13 送液ポンプ
14 脱気ポンプ
15 冷却機
16 蓄電池
17 太陽電池
21 レンズA
22 レンズB
23 レンズC
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー媒質、レーザー増幅器及び該増幅器を用いてレーザー光を増幅するレーザー装置並びにレーザー増幅方法に関し、水溶液中の金属イオンを含む液体レーザー媒質によりレーザー光を増幅する技術に関するものである。さらに詳しくは、例えば、ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、レーザーセルに太陽からの光を集光する光学系、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光の発振器を配設し、屋外においてレーザー光を増幅することを可能とする技術に関する。
なお、「ネオジウム(Neodymium)」は「ネオジム」とも称されるが、本明細書では「ネオジウム」の用語を統一して用いる。
【背景技術】
【0002】
レーザー光は指向性や収束性に優れた光線としての性質や高密度エネルギー源としての性質を利用して、生活用品から核融合炉にまで広くその利用が実用化されまた開発が進められている。例えば、CD/DVDの読み取り、レーザープリンタ、切開メス、皮膚治療、目の治療などレーザー治療器、金属、セラミックスなどの切断、穴あけ、溶接などのレーザー加工、レーザーの持つ直線性を利用して、精度の高い位置を割り出すレーザーによる測定などが実用化されているばかりか、非常に高い出力のレーザーを用いた慣性核融合などへの利用が試みられている。
従来、レーザー装置は、主に電気エネルギーを光(ランプ点灯)や放電の形態に変換し、レーザー媒体を励起することによりレーザー光を発生している。この手法には、複数段のエネルギー変換過程が含まれており、エネルギー効率が低い(効率数%以下)ことが知られている。この理由としては、もともと品質の良い電気エネルギーを、低効率エネルギー変換を経て光に変換して利用することを挙げることができる。この点、光源として太陽光などを使用すれば、低効率の電気−光変換プロセスを使用することなく、レーザー発振のための励起光源とすることができる。
【0003】
例えば、太陽光をダイクロイックミラーなどで分波し、赤外線は半導体熱電素子による温度差発電に、赤色光は太陽電池発電に用い、これらから得られた電力は冷却液シリコーンオイルまたは水を介してレーザーロッド冷却用ペルチェ冷凍素子の電源として用い、さらに紫外線は蛍光体により可視光線変換し、直接入射した可視光線と共にレーザー媒質を励起することにより、太陽光の輻射するエネルギーを無駄なく利用して太陽光励起レーザーを発振させる装置(特許文献1参照)、
大口径で曲率の異なるトロイダル両凸レンズやミラーにより矩形または楕円状に集光された高密度太陽光を両凸トロイダル面であるビア樽状冷却水槽の中にある両凹トロイダルレンズで平行にした状態で冷却された固体レーザー媒質の被励起光入射面に垂直に太陽光を入射することにより均質で高出力高効率太陽励起レーザー装置(特許文献2参照)、
地球外周の宇宙空間から地上へ太陽の光エネルギーを大気中の水蒸気成分による影響のない波長帯のレーザー光に変換して伝送でき、打上げ時の重量が最も軽量にできるレーザー発生装置(特許文献3参照)など、太陽光励起レーザー装置が提案されている。
【0004】
大きなレーザー出力、例えば100W以上の出力が要求される用途は少なからずありこうした大出力レーザーの要求は、金属溶接などのレーザー加工機の熱源などとして必要になっている。高温加工の熱源として使う場合のレーザー光は、ピークエネルギーもさることながら平均出力の高いものが要求され、大出力のレーザー加工機を作る場合とか、金属を分離する際にプラズマ光源として使うとか、高温、高圧場を作る場合の強力なエネルギー源を確保する場合には多段レーザーを組み合わせたシステムが作られ、また、簡便で強力なレーザー増幅器も求められている。
【0005】
レーザーの増幅器としては、従来、ロッドの一方向からレーザー光の種火が入射し、ロッドを通過する過程で誘導放出を促しロッドから放出する時には入射光の何倍かになっているというロッド型増幅器を複数配置することによりレーザー光の増幅がされている。また、結晶面を平行四面体形状として媒質中(ロッド中)を伝わる光学パスを長くとった構造とし、媒質中をジグザグ状に幅広く伝搬することにより熱的な偏りがなくなり効率がよく品質が良い大出力レーザーが得られるスラブ型増幅器や、大きな口径の円盤状の媒質(ロッド)をブルースタ角に何段にも並べて徐々に口径を拡げてレーザーの光出力を上げるディスク型増幅器などが知られている。
【0006】
例えば、固体レーザー増幅部のスラブ状Nd:YAGレーザー結晶にその入出射面をブリュースター角度にカットしたものを使用することによって偏光度を高め、高い出力を得るようにした個体レーザー増幅器であり、固体レーザー発振部からの垂直偏光のレーザー光は偏光素子を通過し、偏光回転素子で左回り45度に、またファラデー回転素子で右回りに45度回転し、垂直偏光でレーザー結晶に入射され増幅される。該レーザー光は、ミラーで反射してレーザー結晶で増幅され、ファラデー回転素子で左回りに45度、偏光回転素子で左回りに更に45度回転して、水平偏光となり、偏光素子20で反射されて取り出される増幅器(特許文献4参照)などが提案されている。
【0007】
ところで、基板、および前記基板上に載置され、Nd3+を含む+3価の非対称型希土類イオン錯体が、透明樹脂、透明無機材料、透明有機−無機ハイブリッド材料の少なくともいずれかに導入された線状パターンとを備え、前記線状パターンに照射された0.05mJ以上の強度の励起光から増幅自発発光を発し、前記増幅自発発光を前記線状パターン中で増幅させて前記線状パターンの端面から出射させるレーザー発振装置が知られている(特許文献5の請求項1および3参照)。
しかしながら、従来、ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質は存在しなかった。非特許文献2には、「ネオジム(III)はNd(III)-YAGレーザーの発光体として知られているが、その近赤外領域の励起エネルギーはO-H、C-H振動へのエネルギー移動および近接するNd(III)イオン間のエネルギー移動に伴って急速に失活するため、水、有機溶媒、プラスティックス等の環境中では決して発光は得られない。」との記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−210999号公報
【特許文献2】特開2007−227406号公報
【特許文献3】特開2002−33537号公報
【特許文献4】特開平9−181378号公報
【特許文献5】特開2007−251186号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】荻野純平、浦野渡瑠、等共著、“宇宙太陽光励起レーザー実証用 1kW級レーザーシステムの要素技術開発”信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE SPS2009-02(2009-04 p5-12)
【非特許文献2】梁宗範・和田雄二共著、“希土類発光素子のホストとしてのナノゼオライト−ネオジム(III)近赤外フォトルミネッセンスを制御する”ゼオライト学会誌(2004 P2-10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のレーザー光の発振および増幅には主に固体レーザー媒質が使用され作動時にはレーザー媒質の温度が上昇して安定した発振が阻害されるため、レーザー媒質の熱歪みを抑制するためには冷却が不可欠であり、効率のよい冷却技術の開発が要請されていた。また、固体レーザーの媒質は必要とするレーザー光の特性に応じて固体レーザー媒質の濃度を変える必要が生じることがあり、そのためには必要とするレーザー光を発振する素材を作製し、交換する必要があった。しかし、固体レーザー媒質を作製することは容易ではなく、各種の媒質を予め用意しておくことは費用、作業量などからみて実現は困難であった。さらに、固体レーザー媒質は均一にする必要があるため、固体レーザー媒質を大型化することは非常に困難であった。
【0011】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とするレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などの提供を目的としている。また、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制し、かつ、安定したパルス発振動作を実現することができるようにしたレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供しようとするものである。さらにまた、簡単な構成でパルスエネルギーを所望のように調整することのできるレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
太陽エネルギーをレーザー光に高効率変換し、レーザーのコヒーレント性によりエネルギーの集中集約性を上げ、高エネルギー密度を達成し水素やエネルギー性化学合成物質に変換する方法が考案されてきた。このとき太陽光エネルギーのレーザーへの変換効率が課題となる。従来、可視光線の利用の一手段として、太陽光励起レーザーがあり、Cr3+イオンとNd3+イオンをドープしたYAG結晶を太陽光で励起すると1064nmのレーザー光が40%の効率で取り出せるとの報告があるが、本発明者は、このように固体で発振するNdイオンは液体中でのレーザー作用(増幅や発振)を示す可能性があることに着目して、ネオジウム水溶液のレーザー作用を検討する過程において本発明に到達した。
Nd3+イオンは900nm以下の波長帯域において吸収を示す。太陽光を効率よくレーザー光に変換するには、より広範囲の波長の光を励起光として利用できることが有利であるが、NdはCrやTiよりも長波長の光を吸収することができる。こうした特性をもつNdイオンに着目してレーザー作用を検討した。また、Crイオンは紫外線から可視光線領域において大きな吸収を示し、その励起準位はNdイオンのレーザー上準位よりもわずかに高いエネルギー準位にある。また、その寿命も数ミリ秒と長いため、CrイオンとNdイオンの衝突によってCrイオンからNdイオンにエネルギーが移行できる可能性があることが考えられる。非特許文献1には固体中でのこのプロセスが報告されている。
本発明者は、こうした従来技術の問題点が金属塩の水溶液を利用することにより解決できるのではないかと考え創意工夫を積み重ねることにより、金属塩の水溶液によるレーザー光の増幅技術の可能性を見出し、さらに研究開発を進めることにより、液体レーザー媒質、該媒質を使用したレーザー増幅器、さらには該媒を入れたレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光の発振器を配設したレーザー増幅器に係る発明に至った。
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下のレーザー媒質を要旨とする。
[1]ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質。
[2]ネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%である[1]に記載のレーザー媒質。
[3]さらに、クロム(Cr)イオンを含む[1]または[2]に記載のレーザー媒質。
[4]クロムイオン濃度が、0.01〜9重量%である[3]に記載のレーザー媒質。
【0014】
また、本発明は、以下のレーザー増幅器を要旨とする。
[5][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器。
[6]レーザー媒質がレーザーセルに封入または循環供給されるようになっている[5]に記載のレーザー増幅器。
[7]さらに、励起光線源からの励起光を所定方向からレーザーセル中に照射する光学系と、を備えることを特徴とする[6]に記載のレーザー増幅器。
[8]レーザー媒質が循環供給されるレーザーセルと、励起光線源からの励起光を所定方向から該セル中に入射する光学系と、レーザー媒質を該セルに循環供給する循環装置を備えることを特徴とする[7]に記載のレーザー増幅器。
[9]前記循環装置が、脱気ポンプを有する溶液タンクと、レーザーセル内のレーザー媒質を吸引して容器タンクに送出するポンプと、を含んで構成される[8]に記載のレーザー増幅器。
[10]前記レーザーセルが、励起光が入射する部分は300〜900nmの光が透過する材料より構成され、レーザー光が通過する部分が1000〜1100nmの光が透過する材料により構成される[6]ないし[9]のいずれかに記載のレーザー増幅器。
[11]石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂からなり、レーザー媒質を所定の温度範囲に冷却する冷却装置を備える[10]に記載のレーザー増幅器。
[12]励起光線源が、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれる[7]ないし[11]のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【0015】
また、本発明は、以下のレーザー装置を要旨とする。
[13][5]から[12]のいずれかに記載のレーザー増幅器が配設されたレーザー装置。
【0016】
また、本発明は、以下のレーザー増幅方法を要旨とする。
[14][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながら石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂製のレーザーセルに循環させ、レーザーセルを通過するレーザー種光とほぼ直交する方向からレーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射することを特徴とするレーザー増幅方法。
[15][1]ないし[4]のいずれかに記載のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整することを特徴とするレーザー増幅方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とするレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などの提供をすることができる。また、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制し、かつ、安定したパルス発振動作を実現することができるようにしたレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供することができる。さらにまた、簡単な構成でパルスエネルギーを所望のように調整することのできるレーザー装置、それを構成するレーザー増幅器、レーザー媒質などを提供することができる。
【0018】
より、具体的に述べると、本発明により次のような効果が奏される。
(1)レーザー媒質が水溶液であるため、安全かつ取り扱いが容易であり、また、レーザー装置の設置場所が制限されず、製造コスト、消費電力量および発熱量の上昇を抑制することができる。
(2)レーザー媒質の液体が熱容量の大きい水であるため増幅を実施中の温度上昇が緩やかである。
(3)セルの大きさや集光レンズ口径を大きくすることは容易に行なうことができることから、増幅装置の大型化が容易であり、効率的に大きな増幅率を得る光励起を可能とする。
(4)水溶液を循環させることにより、常に新しいレーザー媒質による光励起が可能となり、材料の劣化がなく取り扱いが容易である。
(5)水溶液を冷却する装置の付加によりレーザー媒質の温度を制御することが容易である。
(6)レーザー媒質の作製および濃度調整が容易であり、所望の条件に応じた光増幅効果を発揮することが可能となる。
(7)レーザーセルをサイズアップした際には濃度調整を行うことにより、透過率を容易に調整することが可能である。
(8)所定量の水溶性金属塩を水に溶解する操作のみで簡便にレーザー媒質の作製が短時間で行なえる。
(9)レーザーセル中の水溶液温度が変化してもレーザー光の透過率は変化がほとんどなく安定した増幅が可能である。
(10)環境に優しく、どこでも得られる太陽光をエネルギー源としてレーザー光の増幅を可能とする。また、レーザー媒質が水溶液であり、有機溶媒などを含まないため変質がなく、太陽光線下での長期運用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】硫酸クロム(3+)水溶液と硫酸ネオジウム(3+)水溶液の透過率特性を示すグラフである。
【図2】金属イオン濃度と透過率との関係を示すグラフである。
【図3】クロム1.0%とネオジウム2.0%混合液の透過率特性を示すグラフである。
【図4】実施例1に係る増幅率測定の実験装置の概要構成図である。
【図5】人工太陽灯の集光照度強度(セル表面の光量)に対するレーザー増幅率を示すグラフである。
【図6】人工太陽灯照度強度(集光前)に対する1064nmの増幅率を示すグラフである。
【図7】吸収を考慮した1064nmの増幅率を示すグラフである。
【図8】実験結果から推定した増幅率とゲインを示す(太陽強度はフレネルレンズ表面の光強度)。
【図9】実施例2に係るレーザー増幅器の概要構成図である。
【図10】図9の光学系を説明する図面である。
【図11】実施例2に係るレーザー増幅器を備えたレーザー増幅装置の概要全体構成図である。
【図12】Nd3+(2.0%)水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図13】Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図14】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液を通過したレーザー信号波形を示すグラフである。
【図15】Nd3+(2.0%)水溶液での増幅率を示すグラフである。
【図16】Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合水溶液の増幅率を示すグラフである。
【図17】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液のレーザー透過信号波形を示すグラフである。
【図18】Nd3+(2.0%)とCr3+(0.5%)の混合水溶液の温度と1064nm透過信号強度の関係を示すグラフである。
【図19】Nd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液の温度と1064nm透過信号強度の関係を示すグラフである。
【図20】太陽光強度とNd3+(2.0%)水溶液およびNd3+(2.0%)とCr3+(1.0%)の混合水溶液の吸収率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、水溶液ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光を発振させるレーザー発振器を配設したレーザー光の増幅器であり、金属塩の水溶液に光を照射することによりレーザー増幅作用を行なわせることを特徴とする。励起光線源として太陽光を用いることもできる。地表における太陽スペクトルは280nmよりも長波長側にあり、950nm以下の紫外線、可視光線、赤外線で約50%の光量が見込まれる。太陽光の地表面における強度は1kW/m2であり、その50%(500w/m2)の可視光線を利用しようとすると効率が20%であっても100J/sのエネルギーを利用することができる。本発明は、太陽光の有効利用という点でも優れた技術である。
【0021】
[金属イオン水溶液の特性]
ネオジウムイオンを含有する水溶液は、炭酸ネオジウム、塩化ネオジウム、臭化ネオジウム、ヨウ化ネオジウム、硝酸ネオジウム、過塩素酸ネオジウム、臭素酸ネオジウム、酢酸ネオジウム、硫酸ネオジウム、リン酸ネオジウム等のネオジウム塩の水溶液が用いられる。
クロムイオンを含有する水溶液は、炭酸クロム、塩化クロム、臭化クロム、ヨウ化クロム、硝酸クロム、過塩素酸クロム、酢酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム等のクロム塩の水溶液が用いられる。
液体レーザー媒質を構成する金属イオン水溶液の濃度については、まず、それらの水溶液の吸光度のデータを検討することにより実験的に好適な濃度範囲が定められる。
好ましい金属イオン水溶液の濃度についてはレーザーセルの大きさによっても異なるが、一般には例えば水溶液のネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%とすることが好ましい。
ここで、上限の28重量%は塩化ネオジウムの溶解度より求めたネオジウムイオン濃度である。
また、下限の0.2重量%の根拠は次のとおりである。
図2のdとe(吸収の大きい波長)について見ると、1cm当たりの透過率が濃度0.5%で60%程度である。励起長(奥行き方向)を2cmとすると透過率は36%(=0.6*0.6*100)となり、濃度1%で励起長1cmの場合とほぼ同じ透過率となる。現実的な励起長5cmを考えると、透過率80%(図2のdとeにおける概算で濃度約0.2%)で全体の透過率は約33%となり、レーザー増幅作用が確認できる下限濃度(1cmのセル長でNd濃度1%)に相当するので、この値を下限とした。
【0022】
また、ネオジウムイオンを含有する水溶液中にはクロム(Cr)イオンを含むことが好ましい。図20に示すように、溶液の吸収率が高まるからである。レーザーセルの大きさによっても異なるが、一般にはクロムイオン濃度は0.01〜9重量%とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲とする。
ここで、上限の9重量%は塩化クロムの溶解度より求めたクロムイオン濃度である。
また、下限の0.1重量%の根拠は次のとおりである。
ネオジウムイオン濃度と同様に、図2のaと図13(Cr添加量0.25%)より下限を設定した。
図2(a)で、Cr濃度1%(透過率0%)、Cr濃度0.5%(透過率10%)、Cr濃度0%(透過率100%)を2次の多項式近似で近似すると、増幅作用を確認したCr添加量0.25%における透過率は45%となる。上述の励起長5cmの場合に透過率が45%となるCr濃度は0.06%となる。低濃度における増幅作用の確認は、Nd3+(1.0%)とCr3+(0.25%)の混合濃度以下では行っていないので、同じオーダーの0.01%を下限値とした。
【0023】
純水は800nm以下では吸収をもたず、973nmに吸収を示すが、1050nm付近の透過率は約90%であるため、このあたりの波長を有するレーザー光の透過性には優れている。ネオジウムとクロム水溶液の透過率を検討するために所定濃度の硫酸塩を水に溶解し、その透過率を検討したところ、図1の結果を得た。図1から、クロム水溶液では600nmと415nmに吸収をもち、ネオジウム水溶液では864nm、794nm、740nm、576nm、521nm、353nmに吸収をもつことが判明した。
また、クロムとネオジウムの透過率は濃度の上昇と共に減少する傾向を示すことが分かった。すなわち、クロムを含む水溶液とネオジウムを含む水溶液の透過率と溶液濃度との関係は、図2に示すとおりである。また、クロムとネオジウムを同時に含む水溶液(1.0%のCr、2.0%のNd混合水溶液)については図3に示す透過率を示した。
【0024】
以上の結果から、クロムとネオジウムの混合水溶液は300〜900nmの範囲の光を吸収することが明らかとなった。クロムについてみると、650〜900nmにおいては吸収が少なく、吸収の大きい600nm以下では1.0%と2.0%との間に大きな差異は見られなかった。ネオジウムについては、クロムが吸収を示さない650〜900nmの波長域で740nm、794nm、864nmに吸収線があり、濃度と共に吸収量が多くなっており、濃度2.0%以上では吸収が飽和する傾向にある。
また、紫外線から近赤外線を効率よく吸収するためには水溶液中のクロムイオン濃度を0.5〜1.5重量%とすることが好ましく、また、ネオジウムイオンの水溶液中の濃度は0.4〜2.5重量%が好ましい範囲であることが判明した。
また、レーザーセルをサイズアップした際には濃度調整を行うことにより、透過率を高めることが好ましい。
【0025】
本発明の金属イオン水溶液を調製するには、水に所定量の金属塩を溶解することで十分である。使用する水は、蒸留水、脱イオン水など不純物を含まず透明であればいずれのものも使用できる。金属塩としては、約0.2〜5重量%の金属塩が完全に溶解した水溶液が調整できる水溶性の塩から選ばれ、例えば、硫酸塩、塩化物などが挙げられる。
【0026】
[励起光線源]
励起光線源としては、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれた光線が好ましくは使用されるが、900nm以下の波長の光を多く含んでいるものであればいずれのものでも光線源として適しているが、例えば、自然太陽光線、人工太陽灯や、他の光線源が使用される。これらの光源で、900nm以上の赤外線は、Nd3+やCr3+イオンの吸収が無くレーザー媒質の励起に寄与しないこと、またNd3+イオンのレーザー発振波長を含むために自己発振してエネルギーを失うために増幅に用いるには不適であること、さらに熱線であるのでレーザーセル中の溶液を過度に加熱することがあるために、フィルターなどによりカットして使用することが好ましい。また、レーザーセルには強強度の光線を集中する必要があるため、光を凸レンズ(例えば、フレネル凸レンズ)などで集光して照射することが望ましい。励起光線はレーザー種光の光軸に対して直角となるよう照射することが好ましい。
【0027】
[レーザーセル]
金属塩水溶液が収納されたレーザーセル(以下、単に「セル」とも言う。)は、レーザー種光および人工太陽光や自然太陽光などの励起光源を透過することができる材質から作製されているが、具体的には、石英ガラス、ガラス類、ポリアクリレートなどのプラスチック類などが例示される。レーザーセル中のネオジウム水溶液は循環冷却することにより例えば約40℃程度に冷却できるため耐熱性の低いプラスチック類をも使用できる。レーザーセルの大きさは、レーザー光の種類、増幅率、必要とするセル中の水溶液の量、セルの温度管理などの条件により適宜選定されるが、例えば、分析用石英セルや、内径19mm、外径22mm、長さ102mmの石英セル(CV−Q−100;オーシャンオプティクス社製)などが挙げられる。循環冷却を行わない場合、セルには、強い光線が集中して照射されるため温度が上昇することは避けられないため耐熱性のある材質により作成する。しかし、耐熱性セルにおいても、セル内で水の沸騰により水蒸気が発生すると、セル内に空孔が生じてレーザー光の均一な通過が妨げられることとなるため、セルを冷却して水溶液が沸騰しないように制御することが好ましい。
本発明のレーザー増幅の媒体は液体である特徴を利用して、セル中で高温になった水溶液をセル外に取り出し冷却した後、セルに循環させて再度使用することが可能となる。循環装置は、レーザー媒質を該セルに供給するとともに該セルに供給された前記のレーザー媒質を回収して再度該セルに循環供給するようになっている。セルには水溶液の流入口および流出口を設け、流入口、出口を介して貯留タンクに大量貯留されている水溶液をセルに循環させることによりセル中の水溶液を最適な温度に保持することが容易に行なわれる。本発明では液体をレーザー増幅媒質とするため、固体のレーザー増幅媒質を使用する従来の装置における冷却の問題を簡単な手法で解決することが可能となる。
水溶液の貯留タンクには、冷却装置および/または脱気ポンプが配設されていて、冷却された水溶液がセル内を最適な温度に制御すると共に、脱気ポンプを設置してセル内に気体が混入しないようにしている。
【0028】
以上説明したように、本発明は、ネオジウム(Nd)イオンを含有する水溶液を収納したレーザーセル、光を該セル中のイオンに照射してイオンを励起させるための励起光線源、およびレーザーセル中の水溶液を透過させるレーザー種光を発振させる発振器を配設したレーザー光の増幅器であり、水溶液にはNd3+またはCr3+とNd3+を含む(例えば、硫酸クロム、硫酸ネオジウムを溶解させた水溶液)を循環させながらセルに光を照射してレーザー増幅作用を行わせる装置に関するものであり、増幅する種光となるレーザー光の波長は概ね1040〜1080nmの波長、例えば、1060、1047nmの波長を有することが好ましい。
【0029】
本発明ではレーザー光の増幅媒体として水溶液を用いることから光エネルギーが集中するセル内の水溶液の温度が上昇して沸騰点にまで達し、気泡が発生することがないように常に適温に冷却した水溶液をセルに供給してレーザー媒質として利用することが好ましい。冷却は強制冷却、自然冷却のどちらでも良い。水溶液は貯留タンクに大量の水溶液を貯留してセルへ循環させるとよいが、気泡の発生とレーザーセルへの流入を確実にする防止するためには貯留タンクに脱気装置を設置することが好ましい。水溶液をポンプで送出して循環させると気泡が発生するので、水溶液をポンプで吸引することにより循環させることが好ましい。水溶液の温度が変化しても光の透過率にはほとんど影響しないが、水溶液の温度を一定以下に保持することでレーザーセルを非耐熱性の材料で構成することが可能となる。
また、セル内の水溶液をできるだけ高温にしないように集光系には赤外線をカットずるフィルターあるいは波長選択ミラーを配置して、水溶液(レーザー媒質)に900nm以下の光が集光照射されるようにして水溶液の温度上昇を軽減させることが好ましい。太陽光励起レーザー媒質を飽和増幅させて出力を安定化させることが実施面からは望まれる。
【0030】
本発明の太陽光励起増幅システムは、使用する全てのエネルギーを太陽光エネルギーから供給することができる。例えば、増幅する種光となるレーザー光の発振器、セルへの水溶液の送液ポンプ、脱気ポンプ、水溶液の冷却装置を太陽電池で発電した電気を電池に蓄えて駆動する。増幅する種光となるレーザー光の発振器には電気的な発振器を使用することが好ましい。
【0031】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
実施例1では、人工太陽灯による光増幅試験を行なった。実施例1に係る実験装置の概要構成図を図4に示す。
光源1により硫酸ネオジウムと硫酸クロムの混合水溶液(Nd:2.0重量%、Cr:1.0重量%)セルに光を照射して、1064nmのパルスNd:YAGレーザー光を照射可能なレーザー発振器5によりその増幅率を測定した。
レーザー発振器5から照射されたレーザー光は、偏光ビ−ムスプリッター(PBS)6と赤外線透過フィルター7を透過した後、レーザーセル4の金属塩水溶液に入射され、増幅されたレーザー光が透過波長が1050±5nmの透過フィルター8を通過した後に受光器9で受光され、その光強度がオシロスコープ10で測定される。
300nmから900nmの波長範囲において透過率の異なる光学フィルター3を凸レンズ2と水溶液セル4の間に配置し、水溶液セルへの人工太陽灯照射強度を変更した。また、レーザー発振器5からの励起ランプの漏れ光を遮断するために、レーザー発振器5と水溶液セル4の間に900nm以上の赤外線透過(可視光と紫外線カット)フィルター7を配置した。
【0033】
上記の光増幅試験に用いた各装置の構成は次のとおりである。
光源1は、直流点灯の人工太陽灯(100W、XC−100;セリックス社製)である。
凸レンズ2は、焦点距離が30cmのアクリル(アクリライト#000;三菱レイヨン社製)製フレネルレンズである。日照計(ML020V;英弘精機社製)で測定した人工太陽照明のフレネルレンズ面での光強度は16Wh/m2であり、セル表面での強度は1.8kWh/m2である。
光学フィルター3は、シグマ光機社の反射型NDフィルターである。
水溶液セル4は、石英セル(T−23−UV−10;日本石英硝子社製)でありその光路長は1cmである。異なる波長の増幅率を調べるためNd:YLF(発振波長:1047nm、エクスプローラー;スペクトラフィジックス社製)を用いて同様の測定を行なった。
レーザー発振器5はカンテル社のウルトラを使用し、偏光ビ−ムスプリッター6はニューポート社の05BC15PH.9を使用した。
赤外線透過フィルター7は保谷硝子社のIR−85を使用し、透過フィルター8はアンドーバー社の105FS10−50を使用した。
受光器9は浜松ホトニクス社製のピンホトダイオードS1722−01を使用し、オシロスコープ10はテクトロニクス社のTDS3054Bを使用した。
【0034】
図5に、人工太陽照明の集光照射強度(凸レンズで集光した水溶液セル表面での光強度)とレーザー光の増幅率を示す。同図から人工太陽照明照射強度が強くなるに従いレーザー工の増幅率が上昇することが確認された。また、図6に集光前の人工太陽灯照射強度に対する増幅率の関係を示す。
以上の実験により光源1の照射光量を増加とレーザー増幅率の増加には相関関係がみられることから、水溶液セル4内の水溶液によりレーザー増幅作用が得られたことが確認された。
【0035】
ところで、水溶液は実験したレーザー波長において約10%の吸収を示す。したがって、レーザーとしての真の増幅はこの吸収を上回る必要がある。そこで、水溶液の吸収を考慮した増幅率を図7に示す。この実験では増幅率の最大は0.99であった。増幅率が1以上になればレーザー光を増幅することができる。そこで、この実験でデータをもとに増幅率の推定値を計算により求めた。計算条件として、口径50cmのフレネルレンズ(焦点距離50cm)を用いて、太陽光を1cm2に集光した場合を想定した計算結果を図8に示す。計算上では、太陽光強度が1Wh/m2で増幅率は1となり、晴天の1kWh/m2では110倍の増幅率が見込めることとなった。実際には、レーザーでは強度が増加すると飽和の傾向が現れるため増幅率は7割程度しか見込めない。しかしながら、増幅率の飽和現象を利用すると出力の安定したレーザー光を取り出すことができる。図8は、実験結果から推定した増幅率とゲインを、フレネルレンズ表面での太陽光強度との関係で示したものである。
【実施例2】
【0036】
実施例2では、太陽光集光型のレーザー増幅装置による光増幅試験を行なった。
この装置では、太陽光は、レンズA21〜C23により集光され、赤外線吸収フィルター11を透過した後、レーザーセル4に照射される。他方、YAGレーザー発振器5から照射されたレーザー光は、PBS6、赤外線透過フィルター7およびYAGレーザー減衰フィルター12を介してレーザーセル4中の金属塩水溶液中を透過し、干渉フィルター8を介して受光素子9に入射され、そこで発生した電気信号がオシロスコープ10により観察される。
【0037】
本実施例のレーザー増幅器の構成は図9および図10に示すとおりである。(なお、図9中、レンズB22とレンズC23は図示省略している。)
レンズA21は、有効径500mmφ、焦点距離500mmのフレネル凸レンズであり、レンズB22は有効径170mmφ、焦点距離−76mmのフレネル凹レンズであり、レンズC23は83×102mm、焦点距離76mmのフレネル円柱レンズである。
赤外線吸収フィルター11は、保谷硝子社の熱線吸収フィルターHA−50であり、300nmから900nmの光を透過し、900nm以上の熱線を吸収遮断する。フレネル円柱レンズC23とレーザーセル4の間に配置した。
レーザーセル4の位置における太陽光の集光面積は横方向約7cm、縦方向約3cmである。なお、この装置は太陽追尾装置を設けていないため、集光面積を広くして実験時間を長くした。
【0038】
YAGレーザー発振器5は、カンテル社のウルトラを使用し、PBS6はニューポート社の05BC15PH.9を使用した。
赤外線透過フィルター7はシグマ光機社のITF−50S−85IRを使用し、YAGレーザー減衰フィルター12はシグマ光機社のANDY−50S−50を使用した。
干渉フィルター8はアンドーバー社の105FS10−50を使用し、受光素子9は浜松ホトニクス社のピンホトダイオードS1722−01を使用した。オシロスコープ10はテクトロニクス社のTDS3054Bを使用した。
【0039】
レーザーセル4は、内径19mm、外径22mm、長さ26mmの石英セルである。レーザーセル4には、水溶液の流入口と流出口が設けられている。但し、後述する図12から図15のデータの収集については、実施例1で使用した光路長1cmの分析用セルを用いた。理由は、実施例1に係る人工太陽灯のデータと比較するためである。
【0040】
図11は、上記のレーザー増幅器を搭載したレーザー増幅装置の概要全体図である。(なお、図11中、レンズB22、レンズC23、PBS6およびフィルター7,12は図示省略している。)
このレーザー増幅装置は、全ての電力を太陽エネルギーから得られるように構築している。必要とする電力は太陽電池により発電した電力を蓄電池に蓄え、冷却機、装液ポンプ、脱気ポンプ、レーザー発振器に使用し、レーザー光を増幅するに必要な光エネルギーはフレネルレンズ21により集光した太陽光により得る。このレーザー増幅装置は太陽エネルギーのみで作動可能である。
【0041】
上記レーザー増幅装置による増幅試験は夏の晴天の日に行った。
レーザー媒質は、Nd3+の2.0重量%のネオジウム塩水溶液である。このネオジウム塩水溶液は、Nd2(SO4)3・8H2Oの試薬(分子量:720、内Ndは288)を取得し、10gの純水に0.53gの試薬を入れることにより作製した。(参考:0.53*(288/720)/(10+0.53)*100=2%)
光路長1cmのNd3+の2.0重量%の金属塩水溶液による増幅試験の結果を図12に示す。日射量はレンズA表面で0.72kWh/m2、セル表面で32kWh/m2であった。図12の結果から分かるように、太陽光を照射した場合の増幅率は1.47倍であった。
【実施例3】
【0042】
実施例2と同じレーザー増幅装置により光増幅試験を行なった。
レーザー媒質は、Nd3+を1.0重量%とCr3+を0.25重量%含む金属塩水溶液である。この金属塩水溶液のうち、ネオジウム塩水溶液は実施例2の方法で作製し、クロミウム塩水溶液は、Cr2(SO4)3(分子量:392、内Crは104)の試薬を取得し、10gの純水に0.095gの試薬を入れることにより作製した。(参考:0.095*(104/392)/(10+0.095)*100=0.25%)
Nd3+を1.0重量%とCr3+を0.25重量%含む金属塩水溶液による試験では、日射量はレンズA表面で0.77kWh/m2(セル表面で34kWh/m2)の太陽光をセルに照射することにより遮光した場合と比べ光増幅率が1.69倍の値を得た。その結果を図13に示す。
【実施例4】
【0043】
実施例2と同じレーザー増幅装置により光増幅試験を行なった。実施例3と同様にして作製したNd3+を2.0重量%とCr3+を1.0重量%含む混合水溶液による試験では、日射量はレンズA表面で0.77kWh/m2(セル表面で34kWh/m2)の太陽光をセルに照射することにより遮光した場合と比べ光増幅率が2.42倍の値を得た。その結果を図14に示す。
【実施例5】
【0044】
入力レーザー光強度(Input)に対する出力強度(Output)の関係を図15(Nd3+2.0重量%水溶液)および図16(Nd3+1.0重量%とCr3+0.25重量%)に示す。レーザー強度を大きくすると増幅率(Amp)が飽和に達する傾向が観察されるところから、増幅によるレーザー光出力が安定するものと考えられる。Nd3+2.0重量%とCr3+1.0重量%の混合水溶液では短時間で温度が上昇し、沸騰してしまうため増幅率は測定できなかった。経時的な信号波形の例を図17に示す。上から照射直後、冷却・再照射、連続照射(沸騰)、遮光の順で図示してある。連続的に太陽光を照射すると増幅率は低下し、遮光して冷却した後に再照射すると増幅率が回復するが、もとの状態には復帰しなかった。これらの原因は不明である。
【実施例6】
【0045】
NdとCr混合水溶液の温度に対する波長200〜900nmの透過率を測定したところ、25〜75℃の温度範囲内で、この波長領域では吸収は温度によって変化することはなかった。
【実施例7】
【0046】
混合水溶液の温度と1064nmのレーザー光の透過率を測定した。光路長1cmの混合水溶液を、湯煎によって温度を調整して1064nmのレーザー光を通過させた場合の受光信号強度を図18および図19に示す。温度の変化による信号強度の顕著な違いは観測できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るレーザー増幅装置は、レーザーセルの大型化には制限されることがなく、また、集光装置は大型化や多数の装置の連続化などの採用に技術的な制約が少ないためレーザー増幅装置の大型化が容易である。したがって、大出力レーザー装置の構築に大いに利用され、高ピークパワーレーザー装置、高平均パワーレーザー装置、超短パルスレーザー装置にも適しており、廃棄物処理その他の高温処理、高密度プラズマ源、レーザー核融合などへの広範な応用が期待できる。また、本発明のレーザー増幅器は太陽光線をエネルギー源としたレーザーシステムの構築を可能とする。
【符号の説明】
【0048】
1 光源
2 凸レンズ
3 NDフィルター
4 レーザーセル(水溶液セル)
5 レーザー発振器
6 偏光ビ−ムスプリッター(PBS)
7 赤外透過フィルター
8 干渉フィルター
9 受光器(受光素子)
10 オシロスコープ
11 赤外線吸収フィルター
12 YAG用吸収型固定式NDフィルター
13 送液ポンプ
14 脱気ポンプ
15 冷却機
16 蓄電池
17 太陽電池
21 レンズA
22 レンズB
23 レンズC
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質。
【請求項2】
ネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%である請求項1に記載のレーザー媒質。
【請求項3】
さらに、クロム(Cr)イオンを含む請求項1または2に記載のレーザー媒質。
【請求項4】
クロムイオン濃度が、0.01〜9重量%である請求項3に記載のレーザー媒質。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器。
【請求項6】
レーザー媒質がレーザーセルに封入または循環供給されるようになっている請求項5に記載のレーザー増幅器。
【請求項7】
さらに、励起光線源からの励起光を所定方向からレーザーセル中に照射する光学系と、を備えることを特徴とする請求項6に記載のレーザー増幅器。
【請求項8】
レーザー媒質が循環供給されるレーザーセルと、励起光線源からの励起光を所定方向から該セル中に入射する光学系と、レーザー媒質を該セルに循環供給する循環装置を備えることを特徴とする請求項7に記載のレーザー増幅器。
【請求項9】
前記循環装置が、脱気ポンプを有する溶液タンクと、レーザーセル内のレーザー媒質を吸引して容器タンクに送出するポンプと、を含んで構成される請求項8に記載のレーザー増幅器。
【請求項10】
前記レーザーセルが、励起光が入射する部分は300〜900nmの光が透過する材料より構成され、レーザー光が通過する部分が1000〜1100nmの光が透過する材料により構成される請求項6ないし9のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【請求項11】
石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂からなり、レーザー媒質を所定の温度範囲に冷却する冷却装置を備える請求項10に記載のレーザー増幅器。
【請求項12】
励起光線源が、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれる請求項7ないし11のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【請求項13】
請求項5から12のいずれかに記載のレーザー増幅器が配設されたレーザー装置。
【請求項14】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、
前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながら石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂製のレーザーセルに循環させ、レーザーセルを通過するレーザー種光とほぼ直交する方向からレーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射することを特徴とするレーザー増幅方法。
【請求項15】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整することを特徴とするレーザー増幅方法。
【請求項1】
ネオジウム(Nd)イオンを含有するネオジウム塩水溶液からなるレーザー媒質。
【請求項2】
ネオジウムイオン濃度が、0.2〜28重量%である請求項1に記載のレーザー媒質。
【請求項3】
さらに、クロム(Cr)イオンを含む請求項1または2に記載のレーザー媒質。
【請求項4】
クロムイオン濃度が、0.01〜9重量%である請求項3に記載のレーザー媒質。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を使用したレーザー増幅器。
【請求項6】
レーザー媒質がレーザーセルに封入または循環供給されるようになっている請求項5に記載のレーザー増幅器。
【請求項7】
さらに、励起光線源からの励起光を所定方向からレーザーセル中に照射する光学系と、を備えることを特徴とする請求項6に記載のレーザー増幅器。
【請求項8】
レーザー媒質が循環供給されるレーザーセルと、励起光線源からの励起光を所定方向から該セル中に入射する光学系と、レーザー媒質を該セルに循環供給する循環装置を備えることを特徴とする請求項7に記載のレーザー増幅器。
【請求項9】
前記循環装置が、脱気ポンプを有する溶液タンクと、レーザーセル内のレーザー媒質を吸引して容器タンクに送出するポンプと、を含んで構成される請求項8に記載のレーザー増幅器。
【請求項10】
前記レーザーセルが、励起光が入射する部分は300〜900nmの光が透過する材料より構成され、レーザー光が通過する部分が1000〜1100nmの光が透過する材料により構成される請求項6ないし9のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【請求項11】
石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂からなり、レーザー媒質を所定の温度範囲に冷却する冷却装置を備える請求項10に記載のレーザー増幅器。
【請求項12】
励起光線源が、自然太陽光線、人工光線、およびこれらの光線から900nm以上の波長の光を除去した光線から選ばれる請求項7ないし11のいずれかに記載のレーザー増幅器。
【請求項13】
請求項5から12のいずれかに記載のレーザー増幅器が配設されたレーザー装置。
【請求項14】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を用いた、励起光線源を自然太陽光線とするレーザー増幅方法であって、
前記レーザー媒質を冷却装置により所定の温度範囲に冷却しながら石英もしくはガラスまたはプラスチック樹脂製のレーザーセルに循環させ、レーザーセルを通過するレーザー種光とほぼ直交する方向からレーザーセルに自然太陽光線からの励起光を照射することを特徴とするレーザー増幅方法。
【請求項15】
請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザー媒質を用いたレーザー増幅方法であって、前記レーザー媒質が封入または循環供給されるレーザーセルの大きさに応じて液体レーザー媒質の濃度調整を行うことにより増幅率を調整することを特徴とするレーザー増幅方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−129778(P2011−129778A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288298(P2009−288298)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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