説明

レーザー書込み可能な組成物

マトリックスポリマー中に分散された高分子レーザー光吸収剤を含み、さらに反射剤を含み、前記吸収剤が、コアとシェルとを含む炭化性粒子を含み、前記コアが、第1の官能基を有する炭化性ポリマーを含み、前記シェルが、前記炭化性ポリマーの前記第1の官能基と反応できる第2の官能基を有する相溶化ポリマーを含む、レーザー書込み可能な組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、マトリックスポリマー中に分散された高分子レーザー光吸収剤を含むレーザー書込み可能な組成物に関する。
【0002】
ある種の化合物は、レーザー光を照射するとレーザー光からエネルギーを吸収して、そのエネルギーを例えばこの化合物が混ぜられているマトリックスポリマーに伝達することにより、このポリマーの局部的な熱劣化を引き起こすことができることが一般に知られている。この劣化は炭化をまねく可能性さえある。ここで炭化とは、エネルギー吸収によって炭素を後に残してポリマーが分解するプロセスである。後に残る炭素の量はポリマーに左右される。多くのポリマーは、それ自体でもレーザー吸収化合物を混ぜたときも、レーザー照射で許容しうるコントラストを発生しないと思われる。国際公開第01/0719号パンフレットから、粒径が少なくとも0.5μmの三酸化アンチモンを吸収剤として用いることは公知である。吸収剤は、高分子組成物の明るい背景に対して濃いマーキングを施すことができるように、この組成物が少なくとも0.1重量%の吸収剤を含有するような含有量で高分子組成物に用いられる。さらに真珠光沢顔料を添加してコントラストを改良することが好ましい。
【0003】
また、この公知の組成物は、多くの場合、特にそれ自体弱炭化性でしかないポリマーを用いた組成物の場合、レーザー照射によってわずかなコントラストしか得ることができないという欠点を有する。さらに、三酸化アンチモンは有毒であるという疑いがあり、必ずしもこの化合物を含有していないレーザー書込み可能な組成物が求められている。
【0004】
本発明の目的は、マトリックスポリマーが弱炭化性であるか他の理由で容易に書込みできない場合でも、優れたコントラストを有する濃いマーキングをレーザー光で書込みでき、酸化アンチモンなしにできる組成物を提供することである。
【0005】
この目的は、この組成物が炭化性粒子を含む高分子吸収剤を含むことにより、またこの組成物が反射剤をさらに含むことにより実現できることが見出された。上記の炭化性粒子は、コアとシェルとを含み、コアは第1の官能基を有する炭化性ポリマーを含み、シェルは炭化性ポリマーの第1の官能基と反応できる第2の官能基を有する相溶化ポリマーを含むものである。
【0006】
驚くべきことに、上記吸収剤及び反射剤の両方が存在すると、その組成物は優れたコントラストでレーザー書込み可能になる。レーザー光で照射すると、本発明の組成物では、照射部分と非照射部分との間に予想外に高いコントラストが発生することが分かる。このコントラストは、コアポリマーそれ自体が許容しうるコントラストでレーザー書込み可能でない場合でも、公知の吸収剤を含む組成物を用いた場合より著しく高い。これにより、この組成物からなる物体上に、この物体をレーザー光で照射することによって、濃いパターンを書込むことができる。
【0007】
高分子レーザー光吸収剤は、炭化性粒子、即ちレーザー光を照射するとその直近の領域に炭化を起こす粒子を含む。
【0008】
これを実現するために、炭化性粒子は、炭化性ポリマーを含むコアを含む。好適な炭化性ポリマーは、半結晶性または非晶質ポリマーである。半結晶性および非晶質ポリマーそれぞれの融点およびガラス転移点は、それぞれ120℃超および100℃超であることが好ましく、それぞれ150℃超および120℃超であることがより好ましい。
【0009】
炭化性ポリマーは、窒素雰囲気でポリマーを熱分解した後に残る炭素の相対量として定義した炭化度が、少なくとも5%であることが好ましい。炭化度が低いと、レーザー照射で得られるコントラストが低下し、炭化度が高いと、コントラストは飽和が起こるまで上昇する。コア−シェル型吸収剤中に、それ自体では認め得るほどのコントラストをほとんど生じない、こうした低い炭化度のポリマーがレーザー照射中に存在することによって、高いコントラストを得ることができることは驚くべきことである。ポリアミドとポリエステルは、広い融点範囲でこれらを利用できるために非常に好適であり、それぞれ約6%および12%の炭化度を有する。ポリカーボネートは、その炭化度が25%とさらに高いという部分では非常に好適である。
【0010】
炭化性ポリマーは第1の官能基を有し、後述する相溶化ポリマーは第1の官能基と反応できる第2の官能基を有する。第1および第2の官能基としては、ポリマー中に存在することができ、互いに反応することができる任意の官能基を考慮に入れることができる。好適な官能基の例としては、カルボン酸基およびエステル基とこれらの無水物および塩の形、エポキシ環、アミン基、アルコキシシラン基、またはアルコール基が挙げられる。こうした官能基の組み合わせが互いに反応できることは、当業者に公知である。官能基は、ポリアミドの末端カルボン酸基のように、もともと炭化性および相溶化ポリマー中に存在してもよいが、例えばポリオレフィンに官能基を付与して、例えば周知のマレイン酸グラフトポリエチレンとするために通常用いられるように、例えばグラフトによってこれらポリマーに官能基を付けてもよい。
【0011】
この点で、好適な第1の官能基は、例えば、ヒドロキシ、フェノール、(カルボン)酸(無水物)、アミン、エポキシおよびイソシアネートの各基である。好適な炭化性ポリマーの例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、半結晶性ポリアミド、例えばポリアミド−6、ポリアミド−66、ポリアミド−46、および非晶質ポリアミド、例えばポリアミド−6Iまたはポリアミド−6Tを含めたアミン官能化ポリマー、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ官能化ポリメチル(メタ)アクリレート、エポキシまたは上記の他の官能基で官能化されたスチレンアクリロニトリルが挙げられる。好適な炭化性ポリマーは、通常の固有粘度と分子量を有するものである。ポリエステルについては、固有粘度は、m−クレゾール中25℃で測定して、例えば1.8〜2.5dl/gである。ポリアミドについては、分子量は、例えば5,000〜50,000である。
【0012】
炭化性ポリマーは、ある波長のレーザー光を吸収できることが好ましい。実際この波長は、レーザーの通常の波長範囲である157nm〜10.6μmにある。より長波長または短波長のレーザーが使用できる場合は、本発明の組成物に他の炭化性ポリマーを使用することも考慮に入れることができる。前記波長範囲で作用するレーザーの例としては、COレーザー(10.6μm)、Nd:YAGレーザー(1064、532、355、266nm)、および以下の波長のエキシマーレーザー:F(157nm)、ArF(193nm)、KrCl(222nm)、KrF(248nm)、XeCl(308nm)およびXeF(351nm)が挙げられる。マーキングの目的で用いられる熱プロセスの誘導に非常に適した波長範囲で作用するので、Nd:YAGレーザーおよびCOレーザーを使用することが好ましい。
【0013】
炭化性粒子はさらにシェルを含む。このシェルは、炭化性ポリマーの第1の官能基と反応できる第2の官能基を有する相溶化ポリマーを含むものである。シェルは、少なくとも部分的にコアを取囲んでいることが好ましい。
【0014】
相溶化ポリマーとして好適なのは、使用される組成物中の炭化性ポリマーの第1の官能性基と反応できる、第2の官能基として表される官能基を有する熱可塑性ポリマーである。相溶化ポリマーとして特に好適なのは、官能化エチレン性不飽和化合物をグラフトしたポリオレフィンポリマーである。ポリオレフィンポリマーにグラフトされた官能化エチレン性不飽和化合物は、炭化性ポリマーの第1の官能基、例えばポリアミドの末端基と反応することができる。本発明の組成物で使用することが考えられるポリオレフィンポリマーは、官能化エチレン性不飽和化合物をグラフトすることができる、または重合プロセス時に官能化エチレン性不飽和化合物をポリマー鎖に組み込むことができる、1種または複数種のオレフィンモノマーのホモポリマーおよびコポリマーである。好適なポリオレフィンポリマーの例は、エチレンポリマーとプロピレンポリマーである。好適なエチレンポリマーの例としては、例えばチーグラー・ナッタ触媒、フィリップス触媒およびメタロセン触媒などの公知の触媒を用いて製造することができる、エチレンのすべての熱可塑性ホモポリマーと、3〜10個の炭素原子を有する1種または複数種のα−オレフィン、特にプロピレン、イソブテン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテンをコモノマーとするエチレンのコポリマーとが挙げられる。一般に、コモノマーの量は、0〜50重量%であり、好ましくは5〜35重量%である。こうしたポリエチレンは、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VL(L)DPE)などの名前で知られている。密度が860〜970kg/mのポリエチレンが適している。好適なプロピレンポリマーの例は、プロピレンのホモポリマーおよびプロピレンとエチレンとのコポリマーである。コポリマー中のエチレンの比率は、30重量%以下、好ましくは25重量%以下である。これらのメルトフローインデックス(230℃、2.16kg)は、0.5〜25g/10分、より好ましくは1.0〜10g/10分である。好適な官能化エチレン性不飽和化合物は、上記の好適なポリオレフィンポリマーの少なくとも1種にグラフトできるものである。これらの化合物は、炭素−炭素二重結合を有し、ポリオレフィンポリマーにグラフトされてそこに側鎖を形成することができる。公知の方法で、これらの化合物に上記の好適な官能基の1つを形成することができる。
【0015】
好適な官能化エチレン性不飽和化合物の例としては、不飽和カルボン酸と、そのエステル、無水物、金属塩または非金属塩が挙げられる。この化合物のエチレン性不飽和はカルボニル基と共役していることが好ましい。例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルクロトン酸およびケイ皮酸と、そのエステル、無水物、可能な塩が挙げられる。少なくとも1個のカルボニル基を有する化合物の中では、無水マレイン酸が好ましい。
【0016】
少なくとも1個のエポキシ環を有する好適な官能化エチレン性不飽和化合物の例としては、例えば、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、不飽和アルコールおよびアルキルフェノールのグリシジルエステル、ならびにエポキシカルボン酸のビニルおよびアリルエステルが挙げられる。グリシジルメタクリレートが特に適している。
【0017】
少なくとも1個のアミン官能基を有する好適な官能化エチレン性不飽和化合物の例としては、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を有するアミン化合物、例えばアリルアミン、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルアミン、アミンエーテル、例えばイソプロペニルフェニルエチルアミンエーテルが挙げられる。アミン基と不飽和は、これらがグラフト反応に望ましくない影響を及ぼさないような相互位置関係にあることが望ましい。アミンは、置換されていなくても、例えばアルキルおよびアリール基、ハロゲン基、エーテル基、ならびにチオエーテル基などで置換されていてもよい。
【0018】
少なくとも1個のアルコール官能基を有する好適な官能化エチレン性不飽和化合物の例としては、エーテル化もしくはエステル化することができるか、またはできない水酸基とエチレン性不飽和とを有するすべての化合物、例えば、エチルアルコールや分岐もしくは非分岐の高級アルキルアルコールなどのアルコールのアリルおよびビニルエーテル、ならびにアルコール置換の酸、好ましくはカルボン酸とC〜Cアルケニルアルコールのアリルおよびビニルエステルが挙げられる。さらに、これらのアルコールは、グラフト反応に何らの望ましくない影響も及ぼさない基、例えばアルキルおよびアリール基、ハロゲン基、エーテル基ならびにチオエーテル基で置換することができる。
【0019】
本発明の枠組み内の官能化エチレン性不飽和化合物として好適なオキサゾリン化合物の例としては、例えば、以下の一般式
【化1】



(式中、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C〜C10のアルキル基またはC〜C14のアリール基である)
を有するものが挙げられる。
【0020】
グラフトによって官能化されたポリオレフィンポリマーにおける官能化エチレン性不飽和化合物の量は、ポリオレフィンポリマー1グラム当り0.05〜1mg当量である。
【0021】
炭化性ポリマーおよび相溶化ポリマーは両方とも熱可塑性ポリマーであることが好ましい。これにより、相溶化された炭化性粒子のマトリックスポリマー中への混合が促進され、レーザー書込みに適したものになるからである。この点で、希釈ポリマーとも呼ばれる第3のポリマーの存在は、この混合をさらに促進させ、また後述するプロセスによる高分子吸収剤自体の形成を促進させる可能性がある。希釈ポリマーとしては、その官能化されていない形ではあるが、相溶化ポリマーについて上に述べたものと同じポリマーを考慮に入れることができる。この結果、組成物は希釈ポリマーも含むことができる。
【0022】
炭化性ポリマーは第1の官能基を含み、好ましくはこの基で第2の官能基と結合している。第2の官能基は相溶化ポリマーと結合している。したがって、炭化性粒子のコアの周りに、それぞれの官能基で炭化性ポリマーと結合した相溶化ポリマーの層がシェルとして存在している。このシェルは、相溶化粒子周囲の環境から粒子内の炭化性ポリマーを少なくとも部分的に遮っている。相溶化ポリマー層の厚みは重要ではなく、一般に粒径に対して無視でき、例えばその1〜10%である。例えばMAを1重量%グラフトした相溶化ポリマーでは、炭化性ポリマーに対する相溶化ポリマーの量は、例えば2〜50重量%であり好ましくは30重量%より少ない。他の官能基および/または第2の官能基の別の百分率では、相溶化ポリマーの量は、示した実施例に相当する第2の官能基の量が存在するように選択することが望ましい。第2の官能基の数が増大するにつれて、好ましくは溶融混合でポリマーを混ぜたときに形成される相溶化粒子の粒径は小さくなることが分かる。組成物において所望のモルフォロジーを得るには、希釈ポリマーに相溶化ポリマーを加えた量が炭化性ポリマーの量より多いことが望ましい。したがって、これらの量の比は、少なくとも50:50、好ましくは少なくとも60:40の重量%である。
【0023】
実際は、炭化性粒子のコアの粒径は0.2〜50μmである。レーザー光を効果的に吸収させるためには、このコアの粒径は、パターンを書込むために後で使用するレーザー光の波長の少なくとも約2倍に等しいことが好ましい。コアの粒径とは、任意の方向の最大寸法、したがって、例えば球状コアでは直径、楕円形粒子では最大長さを意味する。レーザー光波長の2倍を超えるコア径では、明らかにレーザー光の吸収効果が低下するが、吸収剤粒子の存在による透明性低下への影響も少なくなる。この理由で、コアの粒径は100nm〜10μmであることが好ましく、500nm〜2.5μmであることがより好ましい。
【0024】
吸収剤はマトリックスポリマーに分散する。マトリックスポリマーとしては、人が濃いパターンを付けたいと望むような物品に加工することができるポリマーであれば実際上どんなポリマーでもよい。これを満足するポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、熱可塑性加硫ゴム(SARLINK(登録商標)がその一例)、熱可塑性エラストマー(Arnitel(登録商標)がその一例)、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるポリマーが挙げられる。
【0025】
マトリックスポリマー中での高分子吸収剤の量は、レーザー照射した際に望む最大濃度に左右される。通常、吸収剤の量は、吸収剤とマトリックスポリマーと任意の希釈ポリマーの合計の0.1〜10重量%であり、好ましくは0.4〜4重量%、より好ましくは0.8〜1.6重量%である。これは、マトリックスポリマーの特性に実質的に影響を及ぼすことなく、大部分の用途に十分なコントラストを与える。
【0026】
さらなる成分として、反射剤が本発明の組成物に存在する。この好ましくは微粒子状の反射剤は、ある波長のレーザー光、特に上記の特定のレーザー光を反射することができる。
【0027】
適切な反射剤の例としては、銅、ビスマス、スズ、亜鉛、銀、チタン、マンガン、鉄、ニッケルおよびクロムなどの金属の酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩およびリン酸塩、ならびにレーザー光吸収性の有機(無機)染料が挙げられる。特に好適なのは、二酸化スズ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、チタン酸バリウムおよび二酸化チタンである。レーザー光への屈折率が高いことは有利であり、この屈折率が少なくとも1.7であることが好ましく、1.75より高いことがより好ましい。
【0028】
三酸化アンチモンは好ましい反射剤ではないが、レーザー光吸収に最適化されていない粒径であっても、この物質が存在すると本発明の組成物に有利な効果がもたらされる。
【0029】
反射剤粒子の粒径は特に重要ではないことが分かった。好適であると例示された化合物のいくつかは、レーザー光で照射した際にポリマー組成物にどんな作用を与えるのか知られていない。他の化合物は、レーザー光の吸収剤として知られているが、粒径が照射レーザー光の波長に適合した場合だけである。しかし、本発明の組成物では、これら反射剤粒子を存在させるだけで、高分子吸収剤粒子と組み合わせると、ポリマー組成物にレーザー書込み性をもたらすことが分かった。したがって、反射剤粒子の粒径が照射レーザー光の波長に適合していなくても、高分子吸収剤粒子の存在との著しいシナジー効果が明らかである。本発明の組成物に適用できる任意の材料のレーザー吸収剤としての使用が公知であっても、さらに高分子レーザー光吸収剤が存在するとより効果的であることが分かった。
【0030】
好ましくは、反射剤粒子は、マトリックスポリマー、希釈ポリマーまたは両者に分散することができる。反射剤粒子は、マトリックスポリマーおよび高分子吸収剤の合計に対して0.5〜5重量%存在させることができる。
【0031】
反射剤と高分子吸収剤を組み合わせることにより、これらの一方または両方ともが単独でこの性質を持っていない場合でも、マトリックスポリマーに優れたレーザー書込み性がもたらされることが分かる。
【0032】
本発明のレーザー書込み可能な組成物は、マトリックスポリマーの特定の特性を向上させる、またはそれに特性を追加する他の添加剤も含有することができる。
【0033】
この目的のための適切な添加剤の例としては、補強材(例えばガラス繊維および炭素繊維、珪灰石を含めた粘土などのナノフィラー、ならびに雲母)、顔料、染料および着色剤、充填剤(例えば炭酸カルシウムおよび滑石)、加工助剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤、離型剤、発泡剤が挙げられる。
【0034】
これらの他の添加剤の量は、形成するコンパウンドの容積に対して、1もしくは2容量%などの極少量から70もしくは80容量%以上まで変えることができる。添加剤が通常使用される量は、この組成物を照射して得られるレーザーマーキングのコントラストに対して、いかなる否定的な影響も許容限度内になる程度の量である。非常に優れたレーザー書込み性を示す充填組成物は、ポリアミド、特にポリアミド−6、ポリアミド−46またはポリアミド−66と、充填剤として滑石とを含む組成物である。
【0035】
これらの添加剤に屈折率が1.7を超えるものがあっても、その存在量は組成物中に存在する反射剤の合計量に含まれるものとする。
【0036】
別の態様では、本発明は、少なくとも部分的に本発明の組成物からなる物体に関する。この組成物からなるこれらの物体の部分は、優れたコントラストでレーザー書込みが可能である。レーザー書込み可能な表面を有する物体を得るために、本発明の組成物を少なくとも含有する層を、表面の一部または全体に形成することができる。一例として、この表面が実質的に紙からなる場合、レーザー書込み可能な紙を得ることができる。
【0037】
マトリックスポリマーの特性がほとんどまたはまったく悪影響を受けない程度の少量で、高分子レーザー吸収剤および反射剤を組成物中に存在させなければならないので、実際は、物体の全体が本発明の組成物からなることがある。
【0038】
本発明の高分子レーザー光吸収剤は以下のようにして製造することができる。
【0039】
第1工程として、第1の官能基を有する炭化性ポリマーを、第1の官能基と反応する第2の官能基を有する相溶化ポリマーと混ぜる。
【0040】
その表面の少なくとも一部に相溶化ポリマーの層が設けられた炭化性ポリマーのコアからなる粒子がこのようにして形成され、これらの粒子をマトリックスポリマーに混ぜた後レーザー照射すると、そこに最適のコントラストが得られることが見出された。
【0041】
混合は、炭化性ポリマーおよび相溶化ポリマー両者の融点より上で、好ましくは多量の官能化されていない希釈ポリマーの存在下行われる。考慮に入れることができる希釈ポリマーは、特に、相溶化ポリマーとして上述したものであるが、ここではその非官能化型のものである。この希釈ポリマーは、官能化された相溶化ポリマーと同一である必要はないが、このポリマーと少なくとも相溶性、特に混和性がなければならない。これをマトリックスポリマーと同じものとすることもできる。官能化されていない希釈ポリマーの存在により、混合物全体の十分な溶融加工性が確実に得られる。その結果、希釈ポリマー中に炭化性粒子を含んで、炭化性粒子が望ましく均質に分散したマスターバッチが得られる。こうしたマスターバッチにおいて、官能化された相溶化ポリマーに官能化されていない希釈ポリマーを加えた比率は、マトリックスポリマー以外の3種のポリマーの合計の20〜60重量%であることが好ましい。より好ましくは、この比率は25〜50重量%である。前記限界内で、溶融プロセスにおいて好適に混ぜることができるマスターバッチが得られる。前記60%より高い比率も可能であるが、この場合はマスターバッチにおける適正な炭化性ポリマーの量が相対的に少なくなる。
【0042】
溶融物中で官能基は互いに反応し、コアの表面の少なくとも一部に相溶化ポリマーの相溶化遮蔽層が形成される。ある点で相溶化ポリマーの遮蔽作用が支配的になり、吸収剤粒子に存在する未反応の炭化性ポリマーはもはや周囲の溶融物を通ることができない。この相溶化作用は、炭化性ポリマーと相溶化ポリマーとの極性の差が大きくなるに連れてより効果的になる。炭化性ポリマーが極性を持つことが好ましいことは既に上記した。さらに、相溶化および希釈ポリマーが炭化性ポリマーより低い極性を持つことが好ましく、相溶化および希釈ポリマーが完全またはほぼ完全に無極性であることがより好ましい。
【0043】
得られるマスターバッチ中の炭化性粒子の粒径は、第2の官能基の量に左右されることが分かった。適切な粒径の炭化性粒子が得られる下限および上限は、炭化性ポリマーに左右されることが分かった。第2の官能基の量が増大するにつれて粒径が小さくなる。その逆も起こる。第2の官能基の量が多すぎると、粒子は小さくなり過ぎる。このために、組成物をマスターバッチの形で混ぜて得られる物体に照射を施すと、コントラストが低下することになる。第2の官能基の量が少なすぎると、炭化性粒子が大きくなり、この炭化性粒子をマスターバッチの形で混ぜて得られる物体に照射を施すと、望ましくない粗いスペックルを有する不均質なパターンが形成される。さらに、希釈ポリマーの溶融粘度が、形成されたマスターバッチ中の炭化性粒子の粒径に影響を及ぼす。溶融粘度が高くなるほど、粒径は小さくなる。上記の洞察を用いれば、当業者は、単純な実験で、既に上記した限界内の第2の官能基の適切な量を決めることができるであろう。
【0044】
レーザー書込み可能ポリマー組成物を得るために、本発明の高分子吸収剤粒子を、所望により、任意選択で希釈ポリマーも含むマスターバッチの形で、マトリックスポリマーに混ぜる。マトリックスポリマーと本発明の高分子吸収剤粒子との組成物は、特にマトリックスポリマー自体のレーザー書込み性が悪い場合でも、公知の組成物より優れたコントラストで、レーザー光による書込みができることが見出されている。
【0045】
この混合を促進するためには、マスターバッチ中で坦体としての役割を果たす官能化されていない希釈ポリマーが存在する場合、その融点は、マトリックスポリマーの融点以下であることが好ましい。炭化性ポリマーの融点は、少なくともマトリックスポリマーの融点以上であることが好ましい。官能化されていないポリマーは、マトリックスポリマーと同じものでも、またはこれと異なるものでもよい。後者は炭化性ポリマーにも適用される。したがって、相溶化ポリマーとして無水マレイン酸グラフトポリエチレンの層を設けたポリアミドコア粒子は、ポリアミドマトリックスに混ぜた場合、およびポリエチレンマトリックスに混ぜた場合の何れでも、高いコントラストでレーザー書込み可能な組成物を形成することが見出された。この好都合な効果は、炭化性ポリマーが例えばポリカーボネートの場合でも、ポリアミドおよびポリエチレンの両方で得られる。
【0046】
上に定義した反射剤粒子も組成物に混ぜる。反射剤粒子は、これを高分子吸収剤と混ぜる前にマトリックスポリマーに混ぜることができる。反射剤粒子は、吸収剤と一緒に、または後で別に、マトリックスポリマーと混ぜることもできる。高分子吸収剤を、希釈ポリマーを含むマスターバッチの形で用いる場合は、このマスターバッチに反射剤粒子を予め混ぜておくことができる。
【0047】
高分子吸収剤をマトリックスポリマー中に混ぜる場合、炭化性粒子の形状は発生する剪断力によって変化する可能性がある。具体的には、炭化性粒子の形状は細長くなり、その結果粒径が増大する。この増大は一般に2倍以下であり、マトリックスポリマー中に混ぜるために粒径を選ぶ場合は、必要に応じてこれを考慮に入れることができる。
【0048】
高分子吸収剤含有マトリックスポリマーは、発泡を含めて熱可塑性樹脂加工として知られている技術を用いて加工および成形することができる。レーザー書込み可能な高分子吸収剤の存在は、通常、マトリックスポリマーの加工特性に著しい影響を及ぼすことはない。このようにして、こうしたプラスチックから製造できるほとんどどんな物体も、レーザー書込み可能な形にすることができる。こうした物体には、例えば機能的データ、バーコード、ロゴおよび識別コードを設けることができ、医療分野(注射器、ポット、カバー)で、自動車業界(ケーブル、部品)で、電気通信および電気電子分野(GSM前面、キーボード)で、セキュリティおよび識別用途(クレジットカード、識別プレート、ラベル)で、広告用途(ロゴ、コルクの装飾、ゴルフボール、販促物)で、さらに実際のところ、実質的にマトリックスポリマーからなる物体にある種のパターンを形成することが有用であるか、さもなければ望ましい若しくは効果的なその他任意の用途で、これを使用することができる。
【0049】
別の態様では、本発明は、本発明の組成物を含有するラテックスに関する。こうしたラテックスは、本明細書で定義される高分子レーザー吸収剤、好ましくは少なくとも30重量%の希釈ポリマーを含有するものを押出機で溶融し、押出機内の溶融物に界面活性剤と水を添加し、これらの成分を押出機内で混練して分散物を得て、この分散物にバインダー、例えばスチレンブタジエンゴムまたはラテックスのバインダーとしてそれ自体公知の他のポリマーの分散物を添加することによって製造することができる。バインダーの分散物は所望の量で反射剤も含有することができるが、反射剤は別個に添加することもできる。得られたラテックスは、マトリックス材料としてのバインダーを含めて、本発明のレーザー書込み可能な組成物すべての成分を含有している。このラテックスは、物体、例えば紙に塗布するために使用することができる。分散媒体、好ましくは水を除去した後、レーザー書込み層が物体の上に残る。マトリックスポリマー、反射剤および高分子レーザー吸収剤の量は、本明細書で上に定義した通りである。ラテックスを塗布する物体の材料に対する接着を促進するようにバインダーを選ぶことが有利である。
【0050】
本発明の高分子吸収剤を適用することができる他の好適な形は、本発明の吸収剤を希釈ポリマーに入れたマスターバッチを、例えば極低温で、粒径が100μm〜1mmの粒子、好ましくは150〜500μmの粒径に粉砕することによって得られる。この形で、本発明の高分子吸収剤を、架橋ポリマー、あるいは融点付近で分解するマトリックスポリマー、または非常に高い結晶化度を有するマトリックスポリマーなどの、溶融加工できないポリマーに混ぜることができる。こうしたマトリックスポリマーの例としては、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、フルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標))、および熱硬化性プラスチックが挙げられる。
【0051】
以下の実施例で本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0052】
実施例および比較例では、以下の材料を使用した。
【0053】
炭化性ポリマーとして:
P1−1.ポリカーボネートXantar(登録商標)R19(DSM)
【0054】
相溶化ポリマーとして:
P2−1.MA0.9重量%をグラフトしたFusabond(登録商標)MO525Dポリエチレン(Dupont)
P2−2.MA1重量%をグラフトしたExcolor PO1020 ポリプロピレン(Exxon)
【0055】
希釈ポリマーとして:
P3−1.Exact 0230(登録商標)ポリエチレン(DEX Plastomers)
P3−2.Stamylan 112MN40 プロピレン(DSM)
【0056】
マトリックスポリマー+反射剤として:
M−1.ポリブチレンテレフタレート T06 200(DSM)+TiO2重量%
M−2.ポリブチレンテレフタレート TV4 240(DSM)、ガラス20%+ZnS0.5重量%
【0057】
実施例I〜II
2軸押出機(Werner&PfleidererのZSK30)を使用して、炭化性ポリマー、相溶化ポリマーおよび希釈ポリマーの2つのマスターバッチMB1およびMB2を作製した。使用されたポリマー、およびポリマーそれぞれの比率を重量%で表1に示した。さらにマスターバッチ中の生成した高分子レーザー光吸収粒子の粒径も示した。
【0058】
マスターバッチは、押出速度350〜400rpmで押出量35kg/時間で作製された。押出機のフィードゾーン、バレル、ダイの温度、および材料の出口温度は、炭化性ポリマーとしてポリカーボネートを使用した場合は、それぞれ180、240、260、および260℃である。
【0059】
【表1】



【0060】
実施例III〜VIIIおよび比較例A+B
上記実施例からのマスターバッチを用いて、異なる量のマスターバッチを異なるマトリックスポリマーとドライブレンドで混ぜることによって、いくつかのレーザー書込み可能な組成物LP1〜LP6を調製した。混ぜた材料を射出成形して、厚み2mmのプレートを形成した。図1および2は、それぞれMB1およびMB2のTEM写真を示す。写真におけるバーの長さは2μmである。
【0061】
表2に、様々な成分の比率を重量%で示した。
【0062】
これらのプレートに、Lasertecのダイオード励起Nd:YAG紫外線レーザー、波長355nm、およびTrumpfのVectormark compact型ダイオード励起Nd:YAG赤外線レーザー、波長1064nmを用いて、パターンの書込みを行った。
【0063】
比較の目的で、同様のプレートを作製し書込みを行った。これらのプレートは、M−1およびM−2のみの組成物から製造されたものである(組成物AおよびB)。
【0064】
定性的なコントラスト値で表した、様々な材料のレーザー書込み可能度を表2に示した。コントラストの測定は、Minolta3700D分光光度計を用いて、以下の設定で行った:CIELAB、光源6500Kelvin(D65)、正反射光込み(SCI)、および測定角度10°。レーザーの設定は、用いた波長355nmおよび1064nmで実現可能な最大コントラストに連続的に最適化した。
【0065】
【表2】



【0066】
これらの結果から、組成物中に三酸化アンチモンが存在しなくても、本発明の組成物から製造されたプレートにレーザー書込みを行って、高いコントラスト〜優れたコントラストを得ることができることが明らかである。
【0067】
コントラストの判定:
非常に低いコントラスト、目が粗い −
低いコントラスト ●
中程度のコントラスト ●●
高いコントラスト ●●●
非常に高いコントラスト ●●●●
優れたコントラスト ●●●●●
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】MB1のTEM写真を示す。
【図2】MB2のTEM写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスポリマー中に分散された高分子レーザー光吸収剤を含み、さらに反射剤を含み、
前記吸収剤が、コアとシェルとを含む炭化性粒子を含み、
前記コアが、第1の官能基を有する炭化性ポリマーを含み、
前記シェルが、前記炭化性ポリマーの前記第1の官能基と反応できる第2の官能基を有する相溶化ポリマーを含む、レーザー書込み可能な組成物。
【請求項2】
希釈ポリマーをさらに含む、請求項1に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項3】
前記反射剤が前記マトリックスポリマー中に存在する、請求項1または2に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項4】
前記反射剤が前記希釈ポリマー中に存在する、請求項1または2に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項5】
前記コアのサイズが100nm〜10μmである、請求項1〜4のいずれかに記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項6】
前記コアのサイズが500nm〜2μmである、請求項5に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項7】
前記炭化性ポリマーが、ポリアミド、ポリエステルおよびポリカーボネートからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項8】
前記相溶化ポリマーが、無水マレイン酸変性ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれかに記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項9】
0.1〜10重量%の前記高分子吸収剤が存在する、請求項1〜8のいずれかに記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項10】
0.5〜5重量%の前記高分子吸収剤が存在する、請求項9に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項11】
1〜3重量%の前記高分子吸収剤が存在する、請求項10に記載のレーザー書込み可能な組成物。
【請求項12】
少なくとも部分的に、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物からなる、物体。
【請求項13】
その表面に、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物を少なくとも含有するレーザー書込み可能な層が設けられた、物体。
【請求項14】
前記物体の表面の少なくとも80%がポリマーからなる、請求項13に記載の物体。
【請求項15】
その表面が実質的に紙からなる、請求項13に記載の物体。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の組成物を分散媒体中に含有する、ラテックス。
【請求項17】
前記分散媒体が水である、請求項16に記載のラテックス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−508842(P2006−508842A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570742(P2004−570742)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/NL2003/000861
【国際公開番号】WO2004/050767
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(505220217)デーエスエム アイピー アセッツ ベー. ヴェー. (29)
【Fターム(参考)】