説明

レーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置及び供給方法

【課題】複数の金属部材の被溶接部位にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接する場合に、溶接開始時からフィラーワイヤの溶融を良好に行うことを可能とし、もってレーザー溶接状態を安定させることが可能なフィラーワイヤ供給装置及び供給方法を提供する。
【解決手段】フィラーワイヤ供給装置は、フィラーワイヤXを通電することにより加熱する加熱装置を有する。加熱装置は、フィラーワイヤXの端部近傍部分に接触する第1ローラ51A,51Bと、離間した位置に設けられた第2ローラ61A、62Bと、金属板W1,W2に接触するクランプと、フィラーワイヤXの供給開始時に、第1ローラ51A,51Bと第2ローラ61A,61Bとの間にフィラーワイヤXを介して通電し、供給開始後の所定のとき以後、第1ローラ51A,51Bとクランプ5との間にフィラーワイヤX及び金属板W1,W2を介して通電する電源装置31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属部材をレーザー溶接する際、レーザー光による被溶接部位にフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置及び供給方法に関し、レーザー溶接の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の金属部材の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、金属部材表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら金属部材に対して移動させることにより、複数の金属部材のレーザー光被照射部位を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
ここで、金属部材間には隙間が生じている場合があり、この場合、溶融金属の不足により、金属部材同士が接合されないことがあった。この問題を解決する方法として、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して該ワイヤを溶融させ、溶融金属を増加させる方法が知られている。
【0004】
溶接時におけるフィラーワイヤの溶融性を向上させるため、フィラーワイヤを加熱することが行われている。具体的には、特許文献1に開示されているように、溶接中、フィラーワイヤの端部近傍部分に通電することによりジュール熱を発生させて加熱する。さらに、詳しく説明すると、溶接時にはフィラーワイヤの端部が金属部材における被溶接部位に接触する。そこで、フィラーワイヤにおける端部近傍部分にプラス電極を接触させ、金属部材にマイナス電極を接触させ、この状態で両電極間に電圧を加える。これにより、金属部材を介してフィラーワイヤにおける端部側部分が通電される。
【0005】
ところで、溶接開始前には、例えば金属部材の設置等のため、フィラーワイヤの端部は、溶接対象の金属部材に対して離間した状態とされる。その結果、溶接が開始してフィラーワイヤの供給が始まった後、金属部材における被溶接部位にフィラーワイヤの端部が接触して通電が開始するまでは、フィラーワイヤが加熱されない。したがって、被溶接部位においてフィラーワイヤが十分に溶融せず、フィラーワイヤの溶け残りが被溶接部位に残存する虞がある。また、それをきっかけとして、以後の溶接状態が不安定となる虞がある。この問題に対しては、溶接開始前にフィラーワイヤが金属板に接触した状態となるように予め供給する等の対策が考えられるが、フィワーワイヤの供給制御が複雑化する等の問題がある。また、溶接開始前にそのような制御を別途行うことは、溶接時間が余計にかかる等の問題がある。
【0006】
この問題に対して、特許文献1に係る溶接装置では、溶接開始時においてフィラーワイヤの端部が金属部材に接触するまでの間は、フィラーワイヤの端部とアーク電極または金属材との間に、アークを発生させることにより通電して加熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−103040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に係る溶接装置は、TIG溶接装置であるのでアークを発生させることができるが、レーザー溶接装置の場合は、アークを発生させることができないので、溶接開始時においてフィラーワイヤの端部が金属部材に接触するまでの間における前述の問題に如何に対応するかという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、複数の金属部材の被溶接部位にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接する場合に、溶接開始時からフィラーワイヤの溶融を良好に行うことを可能とし、もってレーザー溶接状態を安定させることが可能なフィラーワイヤ供給装置及び供給方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、複数の金属部材に対して所定の溶接経路に沿って相対的に移動するレーザー光による被溶接部位に端部が接触した状態で追随するようにフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置であって、前記フィラーワイヤを通電することにより加熱する加熱手段を有し、前記加熱手段は、前記フィラーワイヤの端部近傍部分に接触する第1電極と、前記フィラーワイヤにおける前記第1電極に対して離間した位置に接触する第2電極と、前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触する第3電極と、前記フィラーワイヤの供給開始時に、前記第1電極と第2電極との間にフィラーワイヤを介して通電し、供給開始後の所定のとき以後、前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極と第3電極との間にフィラーワイヤ及び金属部材を介して通電する通電手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、前記フィラーワイヤの供給開始後、該ワイヤの端部が前記被溶接部位に接触したことを検出する接触検出手段を備え、前記供給開始後の所定のときとは、前記接触検出手段により前記端部の接触が検出されたときであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、前記フィラーワイヤの供給を開始してからの経過時間を計測する時間計測手段を備え、前記供給開始後の所定のときとは、前記時間計測手段により計測された時間が所定の時間に達したときであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、前記フィラーワイヤ供給手段は、前記フィラーワイヤを、前記レーザー光による被溶接部位に形成されて溶融金属が貯留されてなる溶融池に、その端部が接触するようにレーザー光被照射部位よりも後方の位置で供給するものであり、前記加熱手段は、前記フィラーワイヤを、溶融池に接触したときに該溶融池の熱とで溶融するように加熱することを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、前記第1電極及び第2電極はそれぞれ、前記フィラーワイヤを移動可能に支持するローラにより構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、前記第1電極及び第2電極を構成するローラはそれぞれ、上下一対のローラで構成されると共に、駆動手段で駆動されることにより、上流側から供給されるフィラーワイヤの移送を補助可能に構成されており、かつ、前記第1電極を構成するローラは、前記第2電極を構成するローラよりも速い供給速度となるように駆動されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、複数の金属部材に対して所定の溶接経路に沿って相対的に移動するレーザー光による被溶接部位に端部が接触した状態で追随するようにフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給方法であって、前記フィラーワイヤを通電することにより加熱する加熱工程を有し、前記加熱工程は、前記フィラーワイヤの供給開始時に、前記フィラーワイヤの端部近傍部分に接触する第1電極と前記フィラーワイヤにおける前記第1電極に対して離間した位置に接触する第2電極との間にフィラーワイヤを介して通電し、供給開始後の所定のとき以後、前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極と前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触する第3電極との間にフィラーワイヤ及び金属部材を介して通電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
次に、本発明の効果について説明する。
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、レーザー溶接の際、複数の金属部材に対して所定の溶接経路に沿って相対的に移動するレーザー光による被溶接部位に接触した状態で追随するようにフィラーワイヤが供給される。
【0020】
その場合に、本発明によれば、前記フィラーワイヤが加熱手段により通電され、加熱される。詳しく説明すると、加熱手段は、前記フィラーワイヤの端部近傍部分に接触する第1電極と、前記フィラーワイヤにおける前記第1電極に対して離間した位置に接触する第2電極と、前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触する第3電極とを備える。そして、溶接開始時における前記フィラーワイヤの供給開始時には、フィラーワイヤにおける前記第1電極と第2電極との間の部分(以下、説明の便宜上、所定部分という)に通電される。これにより、フィラーワイヤにおける前記所定部分にジュール熱が発生し、当該部分が加熱される。また、第1電極はフィラーワイヤの端部近傍部分に接触しているので、前記所定部分が加熱されると、熱伝達により該所定部分よりも端部側の部分も加熱される。すなわち、フィラーワイヤの端部が金属部材における被溶接部位に接触する前からフィラーワイヤが加熱される。したがって、被溶接部位に供給されたときにおけるフィラーワイヤの溶融が促進されることとなる。
【0021】
これに対し、供給開始後の所定のとき以後においては、フィラーワイヤにおける前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極よりも端部側の部分に、第3電極が接触する金属板を介して通電される。これにより、フィラーワイヤの端部側部分にジュール熱が発生し、当該部分が加熱される。したがって、被溶接部位におけるフィラーワイヤの溶融が促進されることとなる。
【0022】
なお、被溶接部位においてフィラーワイヤを溶融させる方法としては、フィラーワイヤの端部へのレーザー光の照射、フィラーワイヤの端部の溶融池への接触によるものが考えられるが、本発明は、いずれの場合にも適用可能、かつ有効である。
【0023】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記フィラーワイヤの供給開始後、その端部が前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触したことが検出されたとき以後、フィラーワイヤにおける前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極よりも端部側の部分に、第3電極が接触する金属板を介して通電されることとなる。したがって、予備的な加熱状態から、接触後に要求される本来の加熱状態に正確なタイミングで移行させることができる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記フィラーワイヤの供給開始後、時間計測手段により計測された時間が所定の時間に達したとき以後、フィラーワイヤにおける前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極よりも端部側の部分に、第3電極が接触する金属板を介して通電されることとなる。この所定の時間は、例えばフィラーワイヤの端部の供給開始前における位置と金属部材との接触予定位置との間の距離と、フィラーワイヤの供給速度とに基づいて、フィラーワイヤの端部が被溶接部位に接触することとなる時間またはその近傍の時間に設定される。したがって、予備的な加熱状態から、接触後に要求される本来の加熱状態にほぼ正確なタイミングで移行させることができる。時間計測手段としては、一般的なタイマー等が利用可能であり、この場合、簡単な構成で前述の効果を得ることができる。
【0025】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記フィラーワイヤを、前記レーザー光の被照射部位に形成されて溶融金属が貯留されてなる溶融池に、その端部が接触するように前記レーザー光被照射部位よりも後方の位置から供給し、前記フィラーワイヤを、溶融池に接触したときに該溶融池の熱とで溶融するように加熱する場合に、前記各請求項の作用、効果が得られる。すなわち、前記フィラーワイヤを、レーザー光でなく、溶融池の熱とで溶融させる場合においては、フィラーワイヤが十分に加熱されていないと、フィラーワイヤが良好に溶融されない虞がある。しかし、前記各請求項に記載の発明を適用することにより、この虞を良好に解消することができる。
【0026】
また、請求項5に記載の発明によれば、前記第1電極及び第2電極はそれぞれ、前記フィラーワイヤを移動可能に支持するローラにより構成されているから、フィラーワイヤの移動を支持しつつ、フィラーワイヤに電流を流すことができる。すなわち、一つの部材で電極と支持体とを共用することができ、フィラーワイヤ供給装置を構成する部品を削減することができる。
【0027】
また、請求項6に記載の発明によれば、前記第1電極及び第2電極を構成するローラはそれぞれ、上下一対のローラで構成されると共に、駆動手段で駆動されることにより、上流側から供給されるフィラーワイヤの移送を補助可能に構成されており、かつ、前記第1電極を構成するローラは、前記第2電極を構成するローラよりも速い供給速度となるように駆動されるから、第1電極を構成するローラと前記第2電極を構成するローラとの間でフィラーワイヤが弛んだりするのが防止される。なお、第1電極を構成する上下のローラ間の挟持力をフィラーワイヤとローラとの間でのすべり発生が可能な力に設定しておくことにより、第1電極を構成するローラと第2電極を構成するローラとの間の速度差を吸収することができる。
【0028】
また、請求項7に記載の方法発明によれば、請求項1に記載の装置発明において説明した作用、効果が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーザー溶接装置の外観斜視図である。
【図2】二枚の金属板の溶接部の断面写真である。
【図3】レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す斜視図である。
【図4】(a):レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図である。(b):(a)図のA−A断面図である。
【図5】(a):図4(b)のB−B断面図、(b):図4(b)のC−C断面図、(c):図4(b)のD−D断面図、(d):図4(b)のE−E断面図、(e):図4(b)のF−F断面図、(f):図4(b)のG−G断面図である。
【図6】溶接開始時にフィラーワイヤの溶融に不具合が生じた場合の一例を説説明するための図4(b)と同断面による説明図である。
【図7】ワイヤ加熱ヘッドの前後方向断面図である。
【図8】ワイヤ加熱ヘッドの横方向断面図(図7のH−H断面図)である。
【図9】レーザー溶接装置の制御ブロック図である。
【図10】溶接開始時における作用の説明図である。
【図11】溶接開始後の所定のときにおける作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザー溶接方法、及びレーザー溶接装置について説明する。
【0031】
図1は、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1の外観斜視図である。このレーザー溶接装置1は、レーザー光LB(レーザービーム)を発生するレーザーヘッド2と、該レーザーヘッド2からのレーザー光被照射位Lの後方にフィラーワイヤXを供給するフィラーワイヤ供給装置3と、レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3を支持すると共にワークWに対して移動させる移動装置4とを有している。なお、ワークWとしては、互いに逆方向に膨らんでフランジ同士が上下に重ね合わされた断面ハット状の金属板W1,W2を一例として示している。金属板W1,W2のフランジは複数のクランプ5…5により把持されているが、金属板W1,W2の精度上、対向する面の間に隙間Zが生じている。
【0032】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー出力が可変とされている。レーザー光の焦点位置は可変であるが、本実施の形態においては上側金属板W1の上面に設定されている。
【0033】
フィラーワイヤ供給装置3は、フィラーワイヤXが巻回されたワイヤロール12と、モータ(図示せず)により駆動され、該ワイヤロール12からフィラーワイヤXを繰り出す繰り出しローラ13と、レーザー光LBの被照射部位Lの近傍に配置されたワイヤ供給ノズル11と、該ノズル11の後部に設けられ、フィラーワイヤXを加熱するフィラーワイヤ加熱ヘッド40と、前記繰り出しローラ13とフィラーワイヤ加熱ヘッド40との間に設けられ、前記繰り出しローラ13により繰り出されたフィラーワイヤXを前記加熱ヘッド40まで誘導するチューブ14とを有している。モータは、回転速度の制御が可能なサーボモータにより構成され、これにより、被溶接部位(本実施の形態においては後述する溶融池WYが相当する)へのワイヤXの供給量が調整可能になっている。
【0034】
移動装置4は、前記レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3が取り付けられた支持部材21と、該支持部材21の下端部に取り付けられた台状部材22と、工場床等に配設され、前記台状部材22を摺動可能に支持するレール部材23と、前記台状部材22をレール部材23に沿って移動させる移動機構(図示せず)とを有している。このように移動させる移動機構は公知のものにより種々構成可能であり説明は省略するが、駆動源は回転速度の制御が可能なサーボモータ(図示せず)により構成され、これによりレーザーヘッド11及びフィラーワイヤ供給装置3のワークWに対する移動速度が調整可能になっている。
【0035】
また、レーザー溶接装置1は、フィラーワイヤXを所定温度に加熱するフィラーワイヤ加熱装置6を有している。このフィラーワイヤ加熱装置6は、フィラーワイヤXの端部側に通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤXを加熱するものであり、加熱電源装置31と、前述の加熱ヘッド40と、加熱電源装置31と加熱ヘッド40とを接続する加熱ヘッド接続ケーブル32A,32Bと、該加熱電源装置31と前記複数のクランプ5…5の一つとを接続するクランプ接続ケーブル33とを有し、加熱電源装置31から流れる電流が、加熱ヘッド接続ケーブル32A,32B、加熱ヘッド40、フィラーワイヤX、金属板W1,W2、クランプ5、クランプ接続ケーブル33を介して加熱電源装置31に戻るようになっている。ここで、前記所定温度は、フィラーワイヤXの端部が後述する溶融池WYに接触したときに該溶融池WY(溶融金属Wy)の熱とで溶融する温度に設定されている。フィラーワイヤXを所定温度に加熱するための電流値については実験等を行って導けばよい。なお、フィラーワイヤ加熱装置6の具体的構成については後述する。
【0036】
図2は、隙間Zが生じた二枚の金属板W1,W2をフィラーワイヤXを供給しながら溶接した場合に、良好な溶接強度が得られたワークについての幅方向断面写真(一例)である。この写真からわかるように、二枚の金属板W1,W2は溶融金属Wyが固化して形成されたビードWBを介して連結される。また、このビードWBの幅方向左右には、上下の金属板W1,W2のそれぞれに金属組織変化が生じた熱影響部WC1,WC2(ビードWBの左右において白っぽく変色している間の部分)が存在している。なお、図3は、一例であり、上下の金属板W1,W2の板厚がそれぞれ1.6mm、隙間Zが1.3mmのものである。
【0037】
ここで、このような構造は、レーザー光LBにより溶融された上側の金属板W1及びフィラーワイヤXの溶融金属が、下側金属板W2まで垂下して上下の金属板W1,W2を連結し、この溶融金属が冷却、固化してビードWBを形成することにより形成される。また、熱影響部WC1,WC2は、溶融金属の熱が金属板W1,W2の幅方向に伝達されることにより形成される。
【0038】
ところで、本願発明者の知見によれば、フィラーワイヤをレーザー光で溶融させるように構成した場合、フィラーワイヤの溶融にレーザーのエネルギーが消費されて例えば上側の金属板の溶融が不十分になり、その結果、フィラーワイヤの溶融金属も下方へ垂下できず、上下の金属板が溶融金属により良好に連結されないことがある。そこで、本実施の形態においては、フィラーワイヤをレーザー光で溶融させるのでなく、以下のような方法により溶融させるようにしている。
【0039】
まず、図3により溶接方法の概要について説明すると、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間Zが生じた平板状の二枚の金属板W1,W2のうちの上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを溶接経路Rに沿ってこれら二枚の金属W1,W2板に対して相対的に移動させ、これにより、上側の金属板W1のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下に貫通する溶融穴部WKを形成すると共に、これらの溶融金属が先に形成された溶融穴部に貯留されてなる溶融池WYを溶接経路R後方に形成させる。そして、溶融池WYの熱とで溶融するように加熱されたフィラーワイヤXを、端部が前記溶融池WYにおける溶融穴部WKの後方近傍部位(該部位の具体的な位置については後述する)に接触するように該溶融池WYの後方から供給し、これにより、フィラーワイヤXの端部を溶融させて溶融池WYに溶融金属を追加供給する。
【0040】
図4、図5を参照しつつ詳しく説明すると、まず、図4(a),(b)、図5(a)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。また、溶融金属Wyの周囲には、該溶融金属Wyから伝達される熱により金属組織変化が生じた熱影響部WC1が生じている。WKは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやって形成された溶融穴部(キーホール)であり、この図にはその前部があらわれている。
【0041】
図4(b)、図5(b)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置においては、溶融穴部WKは上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。上側の金属板W1の溶融金属Wyは重力により下側金属板W2側へ垂下し始めている。下側金属板W2の溶融金属Wyの周囲に熱影響部WC2が生じている。
【0042】
図4(b)、図5(c)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcの後方近傍では、上側金属板W1の溶融金属Wyが重力によりさらに下方へ垂下しているものの、溶融金属Wyには表面張力により塊化作用が生じているので、上側金属板W1と下側金属板W2とが連結されるに至っていない。
【0043】
図4(b)、図5(d)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていた溶融穴部に貯留されることにより溶融池WYが形成されている。
【0044】
また、この図4(b)、図5(d)に示すように、本実施の形態においては、前述のように溶融池WYの熱とで溶融するように加熱されたフィラーワイヤXが、溶融池WYの後方からその端部が該溶融池WYにおける溶融穴部WKの後方近傍部位に接触するように供給され、該ワイヤXの端部が溶融して溶融金属Wy′が生成される。そして、この新たに生成された溶融金属Wy′が溶融池WY内に供給されることにより、もとから存在していた溶融池WY内の溶融金属Wyが下方に押しやられて、該溶融金属Wyの隙間Zを越えた下方への垂下が促進され、上側の金属板W1と下側の金属板W2とが溶融金属Wy,Wy′により連結されることとなる。そして、図4(b)、図5(e)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wyが下側から固化し始め、図5(f)に示すように、さらに後方においては、溶融池WYの溶融金属が上から下まで全て固化し、図2に示すような断面の溶接部が形成されることとなる。
【0045】
ここで、フィラーワイヤXの供給条件等について詳しく説明すると、図3、図4(a),(b)に示すように、該フィラーワイヤXは、矢印β(図4(b)に記載)で示すように、端部側が溶接経路Rに沿いかつ前下がりに傾斜した状態で溶融池WYに接触するように供給される。より詳しくは、フィラーワイヤXにおける上側金属板W1の上面と交差する部位の前端位置が、レーザー光中心LBcから溶接経路R後方の距離Dxの位置となるように供給される。この距離Dxは、(1)フィラーワイヤXの端部側が上側金属板W1の上面位置においてレーザー光LBの照射を受けず、かつ(2)溶融穴部WKの後端位置が溶接中に多少変動した場合でも溶融池WY内にフィラーワイヤXの端部が接触し、さらに(3)レーザー光中心LBcからできるだけ近いという3条件を満たす距離に設定される。なお、この位置が、溶融池WYにおける溶融穴部WKの後方近傍部位を規定する位置である。本実施の形態においては、距離Dxは、例えばレーザー光LBのビーム径の2倍の距離に設定されている。
【0046】
以上のように本実施の形態によれば、フィラーワイヤXは、溶融池WYの熱とで溶融するように加熱された状態でレーザー光被照射部位Lの後方から端部が前記溶融池WYに接触するように供給されることにより、レーザー光LBでなく溶融池WYとの接触により溶融することとなる。したがって、レーザー光LBのエネルギーが、フィラーワイヤXの溶融に消費されずに専ら金属板の溶融に利用されることとなって、上側の金属板W1の溶融穴部WKの形成が安定することとなる。つまり、上側の金属板W1及びフィラーワイヤXの溶融金属Wy(Wy′)を下側金属板W2側へ垂下可能とさせるための構造が安定して形成されることとなる。しかも、溶融池WYとの接触により生成されたフィラーワイヤXの溶融金属Wy′により、もともと溶融池WY内に存在していた溶融金属Wyが下方に押しやられることとなるので、溶融池WYの溶融金属Wyの隙間Zを越えた下方への垂下が促進され、もって上下の金属板W1,W2が安定して良好に連結されることとなる。この溶融金属Wyの下方への垂下の促進の現象は、溶融金属Wyがコーキング材のように隙間Zに注入されてこれを満たすように移動するというように理解することもできる。
【0047】
また、本実施の形態においては、フィラーワイヤXを端部が前記溶融池WYにおける前記溶融穴部WKの後方近傍部位に接触するように供給するから、フィラーワイヤXが溶融池WYの中でも特に高温な溶融金属Wyに接触することとなる。したがって、該ワイヤXの端部が良好に溶融することとなる。
【0048】
ここで、距離Dxを前述のように規定した場合、溶融穴部WKの後端が大きく後退した場合、溶融池WYにフィラーワイヤXの端部が接触しなくなって、溶融池WYとの熱での該ワイヤXの端部の溶融が不可能となるが、本実施の形態においては、フィラーワイヤXは、端部側が溶接経路Rに沿いかつ前下がりに傾斜した状態で溶融池WYに接触するように供給されるから、ワイヤXの端部が溶融池WYにおいて溶融されなかった場合には、端部はレーザー光LBの被照射部位Lに達し、レーザー光LBの照射により溶融されることとなる。すなわち、万一フィラーワイヤXの端部が溶融池WYにおいて溶融しなかった場合でも、フィラーワイヤXが溶融しないのが防止されることとなる。なお、図4(b)に示すように、レーザー光中心LBcとフィラーワイヤXの中心線Xcとの交差位置を、上側の金属板W1よりも下方となるように設定しておけば、レーザー光LBにより、上側の金属板W1の溶融を良好に行いつつフィラーワイヤXの溶融を行うことができる。
【0049】
ところで、解決しようとする課題の欄において説明したように、フィラーワイヤの端部近傍部分に通電するためには、フィラーワイヤの端部を金属部材に接触させる必要があるが、種々の理由により溶接開始前にフィラーワイヤの端部を金属部材に対して離間させなければならない場合があり、この場合、以後の溶接状態が不安定となる虞がある。
【0050】
そこで、本実施の形態のフィラーワイヤ供給装置では、複数の金属部材の被溶接部位にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接する場合に、フィラーワイヤの溶融を溶接開始時から良好に行い、もってレーザー溶接状態を安定させることが可能なように構成している。
【0051】
詳しく説明すると、図7、図8に示すように、本実施の形態のフィラーワイヤ供給装置3では、フィラーワイヤ加熱装置6のワイヤ加熱ヘッド40が、箱状の筐体41と、筐体41内に収容され、フィラーワイヤXの端部近傍部分に接触する上下一対の第1ローラ51A,51Bと、同じく筐体41内に収容され、第1ローラ51A,51Bに対して後方に離間した位置でフィラーワイヤXに接触する上下一対の第2ローラ61A,61Bとを有している。
【0052】
第1ローラ51A,51Bは、その側方において筐体41内の上下壁間に架け渡された一対の支持部材52,52に、支持軸53A,53Bを介して回動可能に支持されている。筐体41の上壁内面には、第1ローラ51A,51Bの上方において絶縁材54を介して電極55が取り付けられ、電極55は上側の第1ローラ51Aに接触している。電極55には、加熱ヘッド接続ケーブル32のうちの第1ケーブル32Aが接続されている。電極55は、例えば炭素材等により構成されている。
【0053】
第1ローラの上側のローラ51Aは、金属材により形成され、下側のローラ51Bはセラミックスにより形成されている。上側のローラ51Aは、支持軸53Aに対して絶縁材56を介して固定されている。
【0054】
上側の支持軸53Aは、回転駆動可能に構成されている。詳しく説明すると、上側の支持軸53Aの一端に、ギヤ57が固設されると共に、一方の支持部材52に、このギヤ57に噛み合うギヤ58を駆動軸59aの端部に備えたモータ59が取り付けられている。モータ59の回転は、後述するコントロールユニット100により制御される。
【0055】
下側のローラ51Bの支持軸53Bは、支持部材52に対して所定範囲で上下に移動可能に支持されると共に、図示しない付勢手段を介して上側のローラ51A方向に付勢されている。これにより、上側のローラ51Aと下側のローラ51BとでフィラーワイヤXが上下から挟持される。
【0056】
第2ローラ61A,61B及びその支持構造は、第1ローラ51A,51Bと同構造とされている。そのため、説明は省略する。なお、図面には対応するものに60番台で符号を付している。
【0057】
なお、第1ローラ51A,51Bと第2ローラ61A,61Bとのワイヤ長手方向の間隔の設定については、後述の作用の説明において説明する。
【0058】
図9に示すように、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1は、溶接制御を行うコントロールユニット100と、前記移動装置4の支持部材21に固定され、前記ワークWの被レーザー光照射部位L及びその近傍を上方から撮像する撮像装置110とを備えている。
【0059】
撮像装置110は、例えば所定周期毎に画像を取得可能な(動画を取得可能な)CCDカメラにより構成され、取得された画像はその都度コントロールユニット100に出力される。なお、移動装置4の支持部材21には、上側の金属板W1におけるレーザー光被照射部位L及びその近傍を照明するランプ9が設けられている。このランプ9は、溶接経路Rを挟んで撮像装置110とは反対側に配設され、前記金属板W1におけるレーザー光被照射部位L及びその近傍を斜め上方から照明している。また、このランプ9としては例えばキセノンランプが使用可能である。
【0060】
フィラーワイヤ加熱電源装置31は、コントロールユニット100から入力される信号に基づいて切替制御される切替スイッチ31aを有している。具体的には、フィラーワイヤ加熱電源装置31は、コントロールユニット100から溶接開始信号が入力されると、切替スイッチ31aが、電源31bのマイナス端子と加熱ヘッド接続ケーブル32B側とを接続するように切り替えられる。一方、コントロールユニット100からスイッチ切替制御信号が入力されると、切替スイッチ31aが、電源31bのマイナス端子とクランプ接続ケーブル32B側とを接続するように切り替えられる。なお、切替スイッチ31aとしては、機械スイッチ、半導体スイッチ等、種々のスイッチが利用可能である。
【0061】
コントロールユニット100は、レーザーヘッド2(レーザー光)が両金属板W1,W2に対して所定速度で移動するように、移動装置4のモータ24に回転速度制御信号を出力する。
【0062】
また、コントロールユニット100は、フィラーワイヤ供給装置10のモータ15に、フィラーワイヤXを所定速度で供給するように、回転速度制御信号を出力する。
【0063】
また、コントロールユニット100は、溶接実行時、ワイヤ加熱ヘッド40の第1ローラ51A,51B用のローラ駆動用モータ59に、フィラーワイヤXを前記ワイヤ供給用のモータ15による供給と同じ速度で供給するように、回転速度制御信号を出力する。
【0064】
また、コントロールユニット100は、溶接実行時、ワイヤ加熱ヘッド40の第2ローラ61A,61B用の駆動モータ69に、フィラーワイヤXを前記ワイヤ供給用のモータ15による供給よりも微少量早い速度で供給するように、回転速度制御信号を出力する。微少量早い速度とするのは、第1ローラ51A,51Bと第2ローラ61A,61Bとの間でフィラーワイヤXに弛みが生じるのを防止するためである。なお、この速度差によりフィラーワイヤXに生じる供給量の差は、第1ローラ51A,51BとフィラーワイヤXとの間で時々すべりが生じることにより解消される。
【0065】
また、コントロールユニット100は、溶接開始時、溶接開始信号をフィラーワイヤ加熱電源装置31に出力する。また、コントロールユニット100は、撮像装置110から入力される画像を解析して、フィラーワイヤXの端部が金属板W1に接触したか否かを判定する。そして、フィラーワイヤXの端部が金属板W1に接触したと判定したときに、フィラーワイヤ加熱電源装置31にスイッチ切替制御信号を出力する。
【0066】
次に、本実施の形態のフィラーワイヤ供給装置の作用について説明する。
【0067】
コントロールユニット100に対して例えば溶接開始操作スイッチ等を介して溶接開始指示が入力されると、コントロールユニット100は、レーザーヘッド2、移動装置用モータ24、フィラーワイヤ供給装置用モータ15、第1ローラ駆動用モータ59、第2ローラ駆動用モータ69をそれぞれ所定の条件で同時に作動させると共に、フィラーワイヤ加熱電源装置31に対して溶接開始信号を出力する。前記所定の条件は各装置毎に予め設定され、あるいは溶接開始前に設定される。
【0068】
そして、これにより、レーザー光による被溶接部位にフィラーワイヤXの供給が開始すると同時に、フィラーワイヤ加熱電源装置31による通電が開始する。その場合に、通電開始時においては、フィラーワイヤ電源装置31の切替スイッチ31aが、電源31bのマイナス端子と加熱ヘッド接続ケーブル32B側とを接続する位置となっている。したがって、図10に矢印δで示すように、加熱電源装置31のプラス端子から、加熱ヘッド接続ケーブル32A、電極55、第1ローラの上側のローラ51A(特許請求の範囲における第1電極と第2電極との一方に相当する),フィラーワイヤX、第2ローラの上側のローラ61A(特許請求の範囲における第1電極と第2電極との他方に相当する)、電極65、加熱ヘッド接続ケーブル32Bを介してマイナス端子に戻る電流ルートが形成されることとなる。これにより、フィラーワイヤXにおける第1ローラ51A,51Bと第2ローラ61A,61Bとの間の部分にジュール熱が発生し、当該部分が加熱されると共に、その熱がワイヤXの端部側にも伝達されることとなる。その場合に第1ローラ51A,51Bは、通電開始時、フィラーワイヤXの端部近傍部分に接触しているので、端部側の部分も良好に加熱されることとなる。つまり、本実施の形態においては、フィラーワイヤXが、その端部が金属板W1,W2における溶融池WYに接触する前から加熱される。したがって、溶融池WYにフィラーワイヤXが供給されたときにおけるフィラーワイヤXの溶融が促進されることとなる。なお、第1ローラ51A,51Bと第2ローラ61A,61Bとのワイヤ長手方向の間隔は、フィラーワイヤXの材質が例えば鉄である場合は、フィラーワイヤXの端部が溶融池WYに接触する状態まで移動した時点において、ワイヤXの先端温度が例えば1100度程度まで上昇することとなる間隔に設定されている。間隔を大きくすれば、フィラーワイヤXの端部が溶融池WYに接触するまでの間における通電電力量が大きくなるので、ワイヤXの端部に伝達される熱量が増加し、先端温度が上昇する。なお、鉄の融点は約1400度であり、先端温度を1100度まで上昇させれば、溶融池WYにフィラーワイヤXの端部が接触したときにおける良好な溶融性を確保することができる。
【0069】
また、フィラーワイヤXの供給が開始される前には、フィラーワイヤXの端部は、図10に示すように、スリーブ11の後部のLrの位置に退避させている。これは、フィラーワイヤXへの通電開始時(図10の状態のとき)に、該ワイヤXの端部側までできるだけ早く加熱するためである。したがって、前記効果がより確実なものとなる。なお、退避させた状態においてスリーブ11とフィラーワイヤXの端部側とは、所定量Ls重なるようにしている。
【0070】
一方、撮像装置110で撮像された画像に基づいて、コントロールユニット100が、フィラーワイヤXの端部が金属板W1の溶融池WY(被溶接部位)に接触したと判定したとき(特許請求の範囲における供給開始後の所定のときに相当する)は、図11に矢印εで示すように、コントロールユニット100からフィラーワイヤ加熱電源装置31にスイッチ切替制御信号が入力される。これにより、切替スイッチ31aが、電源31bのマイナス端子とクランプ接続ケーブル32B側とを接続するように切り替えられる。そして、加熱電源装置31のプラス端子から、加熱ヘッド接続ケーブル32A,電極55、第1ローラの上側のローラ51A(特許請求の範囲における第1電極と第2電極との一方に相当する),フィラーワイヤX、金属板W1,W2、クランプ5(特許請求の範囲における第3電極に相当する)、クランプ接続ケーブル33を介してマイナス端子に戻る電流ルートが形成される(つまり通電される)。したがって、フィラーワイヤXにおける上側のローラ51Aと接触した部分よりも端部側の部分にジュール熱が発生し、当該部分が加熱される。したがって、溶融池WYに供給されたときにおけるフィラーワイヤXの溶融が促進されることとなる。
【0071】
また、フィラーワイヤXの端部が金属板W1の溶融池WY(被溶接部位)に接触したと判定したときに前述のように通電状態を切り替えることにより、予備的な加熱状態から、接触後に要求される本来の加熱状態に正確なタイミングで移行させることができる。
【0072】
また、本実施の形態においては、フィラーワイヤXを、レーザー光LBの被照射部位Lに形成されて溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYに、その端部が接触するように前記レーザー光被照射部位Lよりも後方の位置から供給し、前記フィラーワイヤXを、溶融池WYに接触したときに該溶融池WYの熱とで溶融するように通電、加熱している。つまり、レーザー光LBでフィラーワイヤXを照射せずに溶融させるように構成しているが、この場合、フィラーワイヤXの温度が低いと、フィラーワイヤXが良好に溶融されない虞がある。しかし、本実施の形態のように、溶融池WYにフィラーワイヤXが接触する前から通電することにより、この問題を良好に解消することができる。
【0073】
(その他の実施の形態)
以上説明した実施形態は、本発明を実施するための一態様であり、これ以外にも種々の態様で実現可能である。
【0074】
例えば、前記実施形態では、撮像装置110に検出された画像に基づいてコントロールユニット100によりフィラーワイヤXの端部の溶融池WYへの接触が検出されたときに、通電状態を切り替えるように構成したが、以下のように構成してもよい。すなわち、コントロールユニット100に溶接開始信号を出力してからの時間を計測するタイマ(時間計測手段)を設け、タイマにより計測された時間が所定の時間に達したとき(特許請求の範囲における供給開始後の所定のときに相当する)に、フィラー加熱電源装置31に対してスイッチ切替制御信号を出力するようにしてもよい。この所定の時間は、例えばフィラーワイヤXの端部の供給開始前における位置と金属板W1の溶融池W1との接触予定位置との間の距離と、フィラーワイヤXの供給速度とに基づいて設定可能である。これによっても、予備的な加熱状態から、接触後に要求される本来の加熱状態にほぼ正確なタイミングで移行させることができる。また、撮像装置110等を設けることなく、簡単な構成で前記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、前記実施形態では、フィラーワイヤXを、レーザー光LBによる被溶接部位に形成されて溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYに、その端部が接触するようにレーザー光被照射部位よりも後方の位置に供給し、フィラーワイヤXを、溶融池に接触したときに該溶融池の熱とで溶融させる場合について説明したが、本発明は、レーザー光被照射部位よりも後方に限らず、他の方向からフィラーワイヤを供給し、このフィラーワイヤの端部にレーザー光を照射することにより、該フィラーワイヤを溶融する場合にも適用可能である。すなわち、予めフィラーワイヤを加熱しておくことによりレーザー光による溶融負荷が減少すると共に、フィラーワイヤの溶融性が向上するという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、複数の金属部材の被溶接部位にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接する場合に、溶接開始時からフィラーワイヤの溶融を良好に行うことを可能とし、もってレーザー溶接状態を安定させることが可能なフィラーワイヤ供給装置及び供給方法を提供する。したがって、自動車産業の他、金属部材の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0077】
1 レーザー溶接装置
3 フィラーワイヤ供給装置
5 クランプ(第3電極)
6 フィラーワイヤ加熱装置(加熱手段)
11 ノズル
31 フィラーワイヤ加熱電源装置(通電手段)
40 フィラーワイヤ加熱ヘッド
51A 第1ローラ(第1電極)
51B 第2ローラ(第2電極)
100 コントロールユニット(接触検出手段)
110 撮像装置(接触検出手段)
L レーザー光被照射部位
LB レーザー光
R 溶接経路
X フィラーワイヤ
W1 上側の金属板
W2 下側の金属板
WK 溶融穴部
WY 溶融池
Wy 溶融金属
Z 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属部材に対して所定の溶接経路に沿って相対的に移動するレーザー光による被溶接部位に端部が接触した状態で追随するようにフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置であって、
前記フィラーワイヤを通電することにより加熱する加熱手段を有し、
前記加熱手段は、前記フィラーワイヤの端部近傍部分に接触する第1電極と、前記フィラーワイヤにおける前記第1電極に対して離間した位置に接触する第2電極と、前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触する第3電極と、前記フィラーワイヤの供給開始時に、前記第1電極と第2電極との間にフィラーワイヤを介して通電し、供給開始後の所定のとき以後、前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極と第3電極との間にフィラーワイヤ及び金属部材を介して通電する通電手段とを備えることを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、
前記フィラーワイヤの供給開始後、該ワイヤの端部が前記被溶接部位に接触したことを検出する接触検出手段を備え、
前記供給開始後の所定のときとは、前記接触検出手段により前記端部の接触が検出されたときであることを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、
前記フィラーワイヤの供給を開始してからの経過時間を計測する時間計測手段を備え、
前記供給開始後の所定のときとは、前記時間計測手段により計測された時間が所定の時間に達したときであることを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、
前記フィラーワイヤ供給手段は、前記フィラーワイヤを、前記レーザー光による被溶接部位に形成されて溶融金属が貯留されてなる溶融池に、その端部が接触するようにレーザー光被照射部位よりも後方の位置で供給するものであり、
前記加熱手段は、前記フィラーワイヤを、溶融池に接触したときに該溶融池の熱とで溶融するように加熱することを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項5】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、
前記第1電極及び第2電極はそれぞれ、前記フィラーワイヤを移動可能に支持するローラにより構成されていることを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項6】
前記請求項5に記載のレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置において、
前記第1電極及び第2電極を構成するローラはそれぞれ、上下一対のローラで構成されると共に、駆動手段で駆動されることにより、上流側から供給されるフィラーワイヤの移送を補助可能に構成されており、
かつ、前記第1電極を構成するローラは、前記第2電極を構成するローラよりも速い供給速度となるように駆動されることを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。
【請求項7】
複数の金属部材に対して所定の溶接経路に沿って相対的に移動するレーザー光による被溶接部位に端部が接触した状態で追随するようにフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給方法であって、
前記フィラーワイヤを通電することにより加熱する加熱工程を有し、
前記加熱工程は、前記フィラーワイヤの供給開始時に、前記フィラーワイヤの端部近傍部分に接触する第1電極と前記フィラーワイヤにおける前記第1電極に対して離間した位置に接触する第2電極との間にフィラーワイヤを介して通電し、供給開始後の所定のとき以後、前記第1電極と第2電極とのうちの一方の電極と前記金属部材のうちの少なくとも一つに接触する第3電極との間にフィラーワイヤ及び金属部材を介して通電することを特徴とするレーザー溶接におけるフィラーワイヤ供給装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31256(P2011−31256A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177758(P2009−177758)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】