説明

レーザ装置

【課題】 短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することが可能なレーザ装置を提供する。
【解決手段】 互いに周波数が異なる複数のレーザ光Lのそれぞれを回折格子13により合波して合波光Lを生成する際に、回折格子13の集光位置Pにおいて合波光Lの出力のピークが(同じパルス時間波形が)所定の時間間隔で繰り返し現れるように、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。これにより、集光位置Pにおいてパルスレーザ光が生成される。このように、このレーザ装置1においては、複数のレーザ光源10から発振される複数のレーザ光Lのそれぞれを合波してパルスレーザ光を生成する。このため、レーザ光源10の数(すなわち互いに異なる周波数のレーザ光Lの数)を増やすことにより、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ光を生成するレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のレーザ装置として、例えば特許文献1に記載されたモード同期レーザ装置が知られている。特許文献1に記載のモード同期レーザ装置は、共振器縦モード間隔の整数倍の周波数で変調されたレーザ光を、互いに異なる中心周波数すなわち中心波長のスペクトル領域に利得を有する複数の増幅器(光ファイバ増幅器など)で増幅することによって、複数の波長領域におけるパルスレーザ光を一度に生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−90050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パルスレーザ光は、単位時間当たりのエネルギー、すなわち平均パワーが同等である連続光に比べてピーク光強度が大きい。このため、パルスレーザ光を増幅する場合には、増幅器の損傷を防止する目的から、そのパルス幅を増大させてピーク光強度を低下させたり、或いは、増幅率を制限したりする必要がある。このため、パルスレーザ光を増幅するレーザ装置にあっては、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を生成することが困難である。
【0005】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することが可能なレーザ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ装置は、連続光であって互いに周波数が異なる複数のレーザ光のそれぞれを発振する複数の発振手段と、発振手段のそれぞれから発振されたレーザ光のそれぞれを所定の位置において合波して合波光を生成する合波手段と、所定の位置において合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようにレーザ光のそれぞれの位相を制御する位相制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このレーザ装置では、互いに周波数が異なる複数のレーザ光を所定の位置において合波して合波光を生成する際に、その所定の位置において合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように、レーザ光のそれぞれの位相を制御する。これにより、所定の位置においてパルスレーザ光が生成される。このように、このレーザ装置においては、複数のレーザ光のそれぞれを合波してパルスレーザ光を生成する。このため、発振手段の数(すなわち互いに異なる周波数のレーザ光の数)を増やすことにより、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することができる。
【0008】
また、発振手段のそれぞれは、略一定の周波数差で周波数が互いに異なる前記レーザ光のそれぞれを発振することが好ましい。この場合、発振手段から発振されるレーザ光間の周波数差が略一定であるので、合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようにレーザ光のそれぞれの位相を制御することが容易となる。したがって、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光をより一層容易に生成することができる。
【0009】
また、発振手段は、半導体レーザであることが好ましい。この場合、レーザ装置の小型軽量化及び低消費電力化を図ることができる。また、レーザ装置の機械的な安定性を向上することができる。さらには、レーザ装置の製造コストを低減することができる。
【0010】
さらに、発振手段のそれぞれには、レーザ光のそれぞれが伝播する光ファイバが接続されており、位相制御手段は、光ファイバのそれぞれの温度を制御することにより、レーザ光のそれぞれの位相を制御することが好ましい。この場合、光ファイバの温度を制御することで、レーザ光のそれぞれの位相を容易に制御することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することが可能なレーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光周波数コムを説明するためのグラフである。
【図2】本発明の一実施形態のレーザ装置の構成図である。
【図3】図2に示された位相制御装置の構成図である。
【図4】図3に示された位相制御部のヒータを示す部分拡大図である。
【図5】図2に示された合波光の出力時間波形を示すグラフである。
【図6】図2に示されたレーザ装置の変形例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
本実施形態に係るレーザ装置は、光周波数コムを実現するモード同期レーザから発振されるレーザ光と等価なパルスレーザ光を生成するものである。そこで、光周波数コム及びモード同期発振について説明する。
【0015】
例えばファブリペロー共振器内においては、複数の縦モードのレーザ光が存在する。各縦モードのレーザ光の周波数は、共振器長をLとしたとき、図1に示されるように、△ν=c/2Lの間隔で周波数軸上に配列されている(cは光速)。このように各レーザ光の周波数が等間隔で配列された状態を光周波数コムという。このような共振器を備えるレーザ光源において、各レーザ光に対して位相変調を行なわなければ、レーザ光同士の位相の関係がランダムであるため、それらの合波光であるレーザ光源の出力光の出力時間波形もランダムとなる。一方で、そのようなレーザ光源において、過飽和吸収素子や光変調器を用いて、各レーザ光同士の位相がそろうように各レーザ光の位相変調を行うことにより、出力光の出力時間波形が、繰り返し周期T(T=1/△ν)のパルス状となり、モード同期発振が得られる。
【0016】
図2に示されるように、本実施形態に係るレーザ装置1は、連続光であって上述した光周波数コムのように一定の周波数差で周波数が互いに異なる複数のレーザ光Lのそれぞれを発振する複数(ここでは3つ)のレーザ光源(発振手段)10を備えている。レーザ光源10のそれぞれは、例えば、発振波長が互いに0.1nmだけ異なる分布帰還型半導体レーザ(DFB半導体レーザ)とすることができる。なお、本実施形態において、連続光とは、その出力が時間に対して略一定であるようなレーザ光であり、パルスレーザ光とは、その出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようなレーザ光である。
【0017】
レーザ装置1は、レーザ光源10のそれぞれに接続され、レーザ光源10から発振されたレーザ光Lのそれぞれが伝播する光ファイバ11と、光ファイバ11から出射されたレーザ光Lの光路上に配置されたレンズ(合波手段)12と、レンズ12を通過したレーザ光Lのそれぞれが入射する回折格子(合波手段)13とをさらに備えている。
【0018】
レンズ12は、その焦点距離だけ光ファイバ11の出射端から離れた位置に配置されている。回折格子13は、レンズ12の焦点距離だけレンズ12から離れた位置に配置されている。したがって、光ファイバ11から出射されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ12を通過することにより平行ビームとなり、回折格子13の集光位置Pに集光される。回折格子13は、その集光位置Pにおいてレーザ光Lを合波して合波光Lを生成する。
【0019】
ここで、レーザ装置1は、位相制御装置(位相制御手段)20をさらに備えている。位相制御装置20は、回折格子13の集光位置Pにおいて、合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように(同じパルス時間波形が所定の時間間隔で繰り返し現れるように)レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。この位相の制御について具体的に説明する。
【0020】
図3に示されるように、位相制御装置20は、位相差検出部21と信号制御部22と位相制御部23とを有している。位相差検出部21は、光ヘテロダイン干渉法を利用して、レーザ光源10から出射されたレーザ光Lのうちの、周波数軸上において互いに隣り合う周波数をそれぞれ有するレーザ光(以下、単に「隣り合うレーザ光」という)L同士の位相差を検出し、検出結果を示す情報を信号制御部22に送信する。
【0021】
より具体的には、位相差検出部21では、レーザ光Lのうちの互いに隣り合うレーザ光L11及びレーザ光L12のそれぞれを光カプラ21aで分岐した後に、分岐されたレーザ光同士を光カプラ21bで結合する。続いて、光カプラ21bで結合されたレーザ光Lc2を、例えばホトダイオード等の光検出器21cにより電気信号Vに変換する。レーザ光L11は、角周波数ω及び位相φを用いて、
【数1】


と表され、レーザ光L12は、角周波数ω及び位相φを用いて、
【数2】


と表される。ここで、レーザ光L11とレーザ光L12との角周波数差△ωをω−ωとし、位相差△θ12をφ−φとすると、上記のE(t)は、
【数3】


と表すことができる。よって、光検出器21cで生成される電気信号V(t)は、
【数4】


といったように、角周波数差△ωと位相差△θ12とを有するビート信号となる。そして、位相計21dによって電気信号V(t)と角周波数△ωを有するクロック信号Sとの排他的論理和をとることにより、レーザ光L11とレーザ光L12との位相差△θ12を求めることができる。同様に、レーザ光L1Nは、
【数5】


と表されるから、隣り合うレーザ光L1(N−1)とレーザ光L1Nとから生成される電気信号V(t)は、
【数6】


となる。ここで、NはN番目のレーザ光L1Nを表す。したがって、電気信号V(t)とクロック信号Sとの排他的論理和をとることにより、レーザ光L1(N−1)とレーザ光L1Nとの位相差△θ(N−1)Nを求めることができる。このようにレーザ光Lの全てに対して上記の処理を行うことにより、全ての隣り合うレーザ光L同士の位相差を求めることができる。
【0022】
信号制御部22は、上記のようにして求められた隣り合うレーザ光L同士の位相差を示す情報に基づいて、レーザ光Lのそれぞれの位相が同一になるような各レーザ光Lの位相の制御量を求め、求めた制御量を示す情報を位相制御部23のそれぞれに送信する。位相制御部23のそれぞれは、信号制御部22から送信された制御量を示す情報に基づいて、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。
【0023】
位相制御部23は、光ファイバ11のそれぞれに設けられている。位相制御部23は、例えば、図4(a)に示されるように、ヒータHが内蔵されたボビンBBを有している。この場合には、そのボビンBBに光ファイバ11のそれぞれが巻きつけられる。或いは、位相制御部23は、例えば、図4(b)に示されるように、ヒータHが設置された板部材PLを有している。この場合には、その板部材PLとヒータHとの間に光ファイバ11のそれぞれが配置される。各位相制御部23は、信号制御部22から送信された制御量を示す情報に基づいて、各ヒータHの発熱量を制御し、各光ファイバ11の温度を調節して、各光ファイバ11を伝播するレーザ光Lの光路長を調節する。
【0024】
実際に、例えば光ファイバ11が石英ファイバである場合には、その光路長の温度係数は28.8μm/(mK)であるので((Opt. Laser Technol. 37, 29-32(2004))参照)、所定のレーザ光Lの中心波長を1.064μmとすると温度係数は27λ/(mK)となる。したがって、光ファイバ11の温度を調節する部分の長さと、温度の調節量とを適当に選択することによって、λ/100程度の光路長の調節が可能となる。
【0025】
このように位相制御装置20がレーザ光Lの位相を制御することによって、回折格子13で生成される合波光Lが、図5に示されるように、モード同期発振された光周波数コムのレーザ光と等価なパルスレーザ光となる。なお、回折格子13で生成された合波光Lは、レンズ14により所定の位置に集光される。
【0026】
以上のように構成されたレーザ装置1においては、まず、レーザ光源10のそれぞれから連続光であるレーザ光Lが発振される。レーザ光源10から発振されたレーザ光Lのそれぞれは、光ファイバ11のそれぞれを伝播する。光ファイバ11のそれぞれを伝播するレーザ光Lのそれぞれは、位相制御装置20によって合波位置Pにおいて互いに位相が同一とされる。位相が同一とされたレーザ光Lのそれぞれは、光ファイバ11から出射された後に、レンズ12を通過することにより回折格子13上に集光される。そして、回折格子13上に集光されたレーザ光Lのそれぞれは、回折格子13により互いに合波されて、パルスレーザ光である合波光Lとしてレンズ14を通過した後にレーザ装置1から出力される。このとき、合波光Lが平行ビームとなるように、レンズ12の焦点距離、回折格子13の溝密度、及び回折格子13への入射角度を調整することができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ装置1では、レーザ光Lのそれぞれを合波して合波光Lを生成する際に、回折格子13の集光位置Pにおいて合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。これにより、集光位置Pにおいてパルスレーザ光が生成される。このように、このレーザ装置1においては、複数のレーザ光Lを合波してパルスレーザ光を生成する。このため、レーザ光源10の数(すなわち互いに異なる周波数のレーザ光Lの数)を増やすことにより、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光を容易に生成することができる。
【0028】
また、レーザ装置1では、連続光であるレーザ光Lのそれぞれを合波してレーザパルス列に変換する。したがって、パルスレーザ光を増幅する際の非線形光学効果(例えば、自己位相変調やビームブレークアップ等)や狭帯域化(パルス幅の増大)が生じない。よって、レーザ装置1によれば、パルスレーザ光を増幅するレーザ装置に比べて、高ビーム品質であると共に高繰返し且つ短パルスであるパルスレーザ光を生成することができる。
【0029】
また、レーザ装置1では、レーザ光源10から発振されるレーザ光L間の周波数差が一定であるので、合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようにレーザ光Lのそれぞれの位相を制御することが容易である。したがって、短パルス且つ高出力のパルスレーザ光をより一層容易に生成することができる。
【0030】
また、レーザ装置1では、レーザ光源10のそれぞれが半導体レーザであるので、レーザ装置の小型軽量化及び低消費電力化を図ることができる。また、レーザ装置の機械的な安定性を向上することができる。さらには、レーザ装置の製造コストを低減することができる。
【0031】
さらに、レーザ装置1では、位相制御装置20は、光ファイバ11のそれぞれの温度を制御することにより、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御するので、レーザ光Lのそれぞれの位相を容易に制御することができる。
【0032】
なお、レーザ装置1は、レーザ光Lのそれぞれを回折格子16により合波して合波光Lを生成する構成としたが、合波光Lを伝送する必要がない場合には、例えば図6に示されるように、回折格子13を用いずに、レンズ12の焦点位置Pにおいてレーザ光Lを合波して合波光Lを生成する構成としてもよい。
【0033】
また、レーザ装置1において、レーザ光源10は、DFB半導体レーザが1次元的に配列されたDFB半導体レーザアレイであってもよいし、ファイバーブラッグ回折格子を用いたファイバーレーザアレイであってもよい。とくに、レーザ光源10をDFB半導体レーザアレイとした場合には、このDFB半導体レーザアレイを積層し、レーザ光Lの発振源を2次元的に配列することにより、レーザ光Lの数を容易に増大させることができるので、レーザ装置1の小型化が図られる。
【0034】
また、レーザ装置1は、レーザ光源10のそれぞれから発振されたレーザ光Lのそれぞれを増幅する増幅器を備えてもよい。すなわち、レーザ装置1においては、光ファイバ11のそれぞれを、レーザ光Lのそれぞれを伝播しつつ増幅する光ファイバ増幅器に置き換えてもよい。その場合には、位相制御装置20は、光ファイバ増幅器における光ファイバのそれぞれの温度を制御することによって、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御することとなる。
【符号の説明】
【0035】
1…レーザ装置、10…レーザ光源(発振手段)、11…光ファイバ、12…レンズ(合波手段)、13…回折格子(合波手段)、20…位相制御装置(位相制御手段)、L…レーザ光、L…合波光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続光であって互いに周波数が異なる複数のレーザ光のそれぞれを発振する複数の発振手段と、
前記発振手段のそれぞれから発振された前記レーザ光のそれぞれを所定の位置において合波して合波光を生成する合波手段と、
前記所定の位置において前記合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように前記レーザ光のそれぞれの位相を制御する位相制御手段と、を備えることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記発振手段のそれぞれは、略一定の周波数差で周波数が互いに異なる前記レーザ光のそれぞれを発振することを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記発振手段は、半導体レーザであることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記発振手段のそれぞれには、前記レーザ光のそれぞれを伝播する光ファイバが接続されており、
前記位相制御手段は、前記光ファイバのそれぞれの温度を制御することにより、前記レーザ光のそれぞれの位相を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−78812(P2012−78812A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192951(P2011−192951)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】