説明

レーザ装置

【課題】少なくともモード周波数とオフセット周波数のいずれかを可変とすることで、光出力される光周波数コムの周波数を連続的かつ動的に可変制御可能とする。
【解決手段】周波数軸上で櫛状に並んだ複数のスペクトル成分を発生させる第1、第2光周波数コム発生器102、106を有するレーザ装置100において、第1光周波数コム発生器102は、周波数基準に基づき基準となる光出力を行い、第2光周波数コム発生器106は、複数のスペクトル成分のスペクトル間隔を示すモード周波数fvmと複数のスペクトル成分の並びを周波数ゼロ点まで延長したときのゼロ点との間に生じるオフセット周波数fvceoとが変更可能とされるとともに第1光周波数コム発生器102の光出力に基づき安定化された自身の光出力を、レーザ装置100の光出力として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置に係り、少なくともモード周波数とオフセット周波数のいずれかを可変とすることで、光出力される光周波数コムの周波数を連続的かつ動的に可変制御可能なレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周波数軸上で櫛状に並んだ複数のスペクトル成分(光周波数コム)を発生させる光周波数コム発生器を有するレーザ装置が存在する。光周波数コムは、光の物差しと呼ばれ、周波数軸上で櫛状に並んだ複数のスペクトル成分のスペクトル間隔を示すモード周波数と当該複数のスペクトル成分の並びを周波数ゼロ点まで延長したときのゼロ点との間に生じるオフセット周波数とを一度キャリブレーションすれば、それを以って被測定光に対する周波数の基準器とすることができる。このため、光周波数コムを光の物差しとして使用するための様々な構成が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、第1光周波数コム発生器と第2光周波数コム発生器とを直列に接続し、第1光周波数コム発生器の出力を更に第2光周波数コム発生器で変調している。このような構成により、第1光周波数コム発生器の後段の第2光周波数コム発生器から光出力される光周波数コムの発生範囲を広くしながら、そのモード周波数を小さくすることが可能とされている。このため、特許文献1では、例えば被測定光の高精度な周波数測定のために光出力される光周波数コムと被測定光とによるビート信号の周波数を低くすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−293247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、第2光周波数コム発生器から光出力される光周波数コムのモード周波数を小さくできても、周波数軸上での各モードの位置を連続的に変化させることができない。このため、例えば被測定光の高精度な周波数測定をする場合に、第2光周波数コム発生器から光出力される光周波数コムと被測定光とによるビート信号の周波数を低くすることが十分にはできないおそれが残る。
【0006】
本発明は、前記問題点を解消するべくなされたもので、少なくともモード周波数とオフセット周波数のいずれかを可変とすることで、光出力される光周波数コムの周波数を連続的かつ動的に可変制御可能なレーザ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、周波数軸上で櫛状に並んだ複数のスペクトル成分を発生させる第1、第2光周波数コム発生器を有するレーザ装置において、前記第1光周波数コム発生器が周波数基準に基づき基準となる光出力を行い、前記第2光周波数コム発生器が少なくとも前記複数のスペクトル成分のスペクトル間隔を示すモード周波数と該複数のスペクトル成分の並びを周波数ゼロ点まで延長したときのゼロ点との間に生じるオフセット周波数のいずれかが変更可能とされるとともに前記第1光周波数コム発生器の光出力に基づき安定化された自身の光出力を、当該レーザ装置の光出力として出力したことにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
本願の請求項2に係る発明は、前記周波数基準に原子時計を用いるようにしたものである。
【0009】
本願の請求項3に係る発明は、前記第1光周波数コム発生器の光出力と前記第2光周波数コム発生器の光出力とが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出する第1光電変換器と、該第1光電変換器から出力されるビート信号の周波数が一定値となるように前記第2光周波数コム発生器を制御する第1処理制御部と、を備え、該第1処理制御部により前記第2光周波数コム発生器の光出力を安定化させたものである。
【0010】
本願の請求項4に係る発明は、前記第1処理制御部が前記ビート信号の周波数を計測するカウンタを備え、該カウンタの周波数基準を原子時計の出力信号に同期させたものである。
【0011】
本願の請求項5に係る発明は、前記原子時計を協定世界時により校正するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくともモード周波数とオフセット周波数のいずれかを可変とすることで、光出力される光周波数コムの周波数が連続的かつ動的に可変制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ装置の概略的な構成を示す模式図
【図2】図1に示したレーザ装置を具体的に示す模式図
【図3】第1、第2光周波数コム発生器で発生する第1、第2光周波数コムを示す模式図(A)、(B)
【図4】図2で示したレーザ装置を適用した光周波数測定装置を示す模式図
【図5】図4で示した光周波数測定装置における第1、第2光周波数コムと被測定光との関係を示す模式図
【図6】本発明の第2実施形態に係る第2光周波数コムを示す模式図
【図7】図6で示した第2光周波数コムを用いた際の第1光周波数コムと被測定光との関係を示す模式図
【図8】本発明の第3実施形態に係る第2光周波数コムを示す模式図
【図9】図8で示した第2光周波数コムを用いた際の第1光周波数コムと被測定光との関係を示す模式図
【図10】図2で示したレーザ装置を適用した別の光周波数測定装置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0015】
本発明の第1実施形態に係るレーザ装置について図1〜図3を用いて以下に説明する。
【0016】
なお、図1は本発明の第1実施形態に係るレーザ装置の概略的な構成を示す模式図、図2は図1に示したレーザ装置を具体的に示す模式図、図3は第1、第2光周波数コム発生器で発生する第1、第2光周波数コムを示す模式図(A)、(B)、を示す。
【0017】
図1、図2に示す如く、本実施形態のレーザ装置100は、概略的には、第1、第2光周波数コム発生器102、106と、ビームコンバイナ(BC)108と、ビームスプリッタ(BS)110と、第1光電変換器112と、第1処理制御部114と、を備える。
【0018】
前記第1、第2光周波数コム発生器102、106はそれぞれ、時間軸上においては、超短光パルスを一定の時間間隔で発生させる。その隣接する光パルス間における光電界振動位相のずれる量はキャリアエンベロープ位相オフセット(CEO)と呼ばれている。また、周波数軸上においては、第1、第2光周波数コム発生器102、106はそれぞれ、図3(A)、(B)に示す如く、1オクターブに亘り櫛状に等間隔に並んだ複数のスペクトル成分(モード)を発生させる。なお、図3(A)、(B)で、縦軸が信号強度Iで横軸が周波数fで示される。これらはそれぞれ、第1、第2光周波数コムと称される。図3(A)、(B)に示す如く、それらのスペクトル成分のスペクトル間隔(モード周波数fsm、fvm)のままその並びを周波数ゼロ点まで延長したときにゼロ点との間でオフセット周波数fsceo、fvceoが求められる。オフセット周波数fsceo、fvceoはそれぞれ、キャリア・エンベロープ・オフセット周波数fsceo、fvceoと称され、これが周波数領域でのキャリアエンベロープ位相(CEP)に相当する。なお、第1、第2光周波数コムの各スペクトル成分(各モード)の周波数軸上の位置は、モード周波数fsm、fvmをそれぞれΔfだけ変化させ、その変化前後に基準となるレーザ光との間で生じるビートの周波数差を用いることで特定することができる(基準となるレーザ光は本実施形態では図示しないが、第1、第2光周波数コム発生器102、106に予め設けてもよいし、適宜外部から導入してもよい)。
【0019】
第1光周波数コム発生器102は、図1、図2に示す如く、周波数基準に基づき(第2光周波数コム発生器106に対して)基準となる光出力を行う。即ち、第1光周波数コム発生器102には周波数の可変性を持たせる必要がなく高精度化されており、モード周波数fsmとオフセット周波数fsceoとが固定されている。第1光周波数コム発生器102には、例えばモードロック(同期)レーザ(光ファイバにエルビウムをドープしたエルビウム添加光ファイバ増幅器)と帯域拡大ファイバ(高非線形ファイバ)の構成によるものなどを使用することができる。なお、第1光周波数コム発生器102の周波数基準には原子時計104が用いられている。言い換えるならば、第1光周波数コム発生器102の周波数基準は原子時計104の出力信号に同期している。
【0020】
原子時計104は、図2に示す如く、例えばセシウム(133)などの特定の原子や分子のスペクトルにおける吸収線あるいは輝線を用いた時計であり、周波数基準となる周波数を出力する。原子時計104は、国際原子時(TAI)に同期している協定世界時(UTC)により校正されている。このため、原子時計104は、単体の原子時計の精度(1*10−12〜1*10−13)に比べて、極めて高精度(1*10−15レベル)とされている。原子時計104としては、より精度の高い(1*10−15〜1*10−18)光格子時計などを用いてもよい。なお、協定世界時(UTC)とは、世界各国の原子時計約300台の相互比較結果ならびに数機関の一次周波数標準器の評価結果を元に計算される国際原子時(TAI)に対してうるう秒調節を実施して、世界時(UT1、地球の自転の観測から決められる)との差が0.9秒以内に維持されている時系である(出典;産総研 光周波数コム 2009年7月16日発表 「長さの国家標準」が新方式に −光周波数コム装置を利用し「波長」を高精度化−)。このため、第1光周波数コム発生器102は、協定世界時(UTC)により校正された原子時計104と同じ精度とされ、極めて正確である。
【0021】
第2光周波数コム発生器106は、図1、図2に示す如く、モード周波数設定機能とオフセット周波数設定機能とを備え、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとが変更可能とされている。そして、第2光周波数コム発生器106は、第1光周波数コム発生器102の光出力に基づき安定化された光出力を行う。即ち、第2光周波数コム発生器106は単体での精度・安定性を過剰に要求するものではなく、それらを第1光周波数コム発生器102に依存するという思想に基づいている。第2光周波数コム発生器106には、例えば安定化レーザ光源とそのレーザ光を入射する共振器の中にEOMなどの変調器を組み込んだものなどを使用することができる。
【0022】
前記ビームスプリッタ110は、図1、図2に示す如く、第2光周波数コム発生器106の出力光(第2光周波数コム)を透過した光と反射した光の2つに分岐する。ビームスプリッタ110を透過した光は、レーザ装置100の出力光として外部に導かれる。即ち、第2光周波数コム発生器106の光出力は、レーザ装置100の光出力として出力される(必要に応じて、第1光周波数コム発生器102の光出力もレーザ装置100の光出力として出力してもよい)。一方、ビームスプリッタ110で反射した光は、ビームコンバイナ108に向かう。
【0023】
前記ビームコンバイナ108は、図1、図2に示す如く、ビームスプリッタ110で反射分岐された第2光周波数コムと第1光周波数コム発生器102で発生した第1光周波数コムとを重ね合わせる(混合する)。すると、光ヘテロダインにより、第2光周波数コムと第1光周波数コムとでビートが生じる。ビートは第1光電変換器112に入射する。なお、混合されるのは第1、第2光周波数コムなので多くのビートが生じることとなる。
【0024】
前記第1光電変換器112は、図1、図2に示す如く、ビートを電気信号(ビート信号)に変換する。即ち、第1光電変換器112は、第1光周波数コム発生器102の光出力と第2光周波数コム発生器106の光出力とが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出することとなる。ここで、第1光電変換器112の感度は、(一般の光電変換器と同様に)ビートが低周波であるほど高感度とされている。このため、第1光電変換器112では、多くのビートのうちで最も低い周波数のビート(周波数fBmin(主に後述される図5を参照))を相応の信号強度で検出することができる(なお、周波数fBmin自体は、周波数軸上では周波数0Hzから周波数fBminの位置で観測される)。即ち、図5からも明らかなように、検出されるビート(周波数fBminやそれに近い周波数)がモード周波数fvmの半分よりもはるかに低い周波数となる。このため、逆に言うならば、第1光電変換器112としては(高速動作が不要な)感度帯域が低周波領域に限られた周波数帯域の狭いものを使用することができる。
【0025】
前記第1処理制御部114は、図2に示す如く、信号変換部116と信号処理部118と制御部120とを備える。信号変換部116は、例えば第1光電変換器112から出力されるビート信号(周波数fBmin)からノイズを除去・増幅し出力する。信号処理部118は、例えば図示せぬカウンタを備えている。なお、カウンタの周波数基準にも原子時計104が用いられている。つまり、カウンタの周波数基準が原子時計104の出力信号に同期している。信号処理部118は、信号変換部116からの出力信号(ビート信号)の周波数fBminをカウンタで計測し、その計数値を出力する。制御部120は、例えば信号処理部118から出力された計数値に基づき、当該計数値が一定となるように第2光周波数コム発生器106を電気的・機械的にフィードバック制御する。そして、制御部120は、第2光周波数コム発生器106の出力光を安定化させる。なお、第1光周波数コム発生器102の周波数基準は、原子時計104の出力信号に同期している。同時にカウンタの周波数基準も原子時計104の出力信号に同期している。このため、第2光周波数コム発生器106の出力光(の周波数)が第1光周波数コムに従い安定化(ロック)された時点で、ビート信号のカウンタでの計測値(計測結果)が原子時計104の出力信号に同期している状態となる。
【0026】
即ち、第1処理制御部114は、第1光電変換器112から出力されるビート信号の周波数fBminが一定値となるように第2光周波数コム発生器106を制御する。そして、第1処理制御部114により第2光周波数コム発生器106の光出力が安定化されている。
【0027】
このように、本実施形態においては、第1、第2光周波数コム発生器102、106を有する。しかし、本実施形態においては、これらを相互に合成させたり、干渉させたり、或いは変調させるようにしたものではなく、第1光周波数コム発生器102を基準にして、第2光周波数コム発生器106の光出力を安定化させている。このため、第2光周波数コムを第1光周波数コムと同程度に高精度化し且つ高安定化することができる。しかも、第2光周波数コム発生器106は、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとをそれぞれ設定できることから、レーザ装置100はその光出力である第2光周波数コムの周波数を連続的且つ動的に可変制御することが可能である。即ち、本実施形態においては、第2光周波数コムの各モードの位置を周波数軸上で連続的に変えることができる。つまり、本実施形態は、従来技術のようなモード周波数とオフセット周波数とを固定的に決めて使用するという思想に基づくレーザ装置(光周波数コム発生器)を、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとを設定可能(可変)にすることで連続的且つ動的に周波数を可変制御可能なレーザ装置(可変周波数光周波数コム発生器)に革新した(進歩させた)ものといえる。
【0028】
同時に、通常のレーザ光だと波長で数十nm程度まで周波数を変化させるとスペクトル線幅の劣化が大きいのに比べ、本実施形態においては、周波数が連続的に変化してもスペクトル線幅の劣化を招くこともない。
【0029】
また、本実施形態においては、第1光周波数コムと第2光周波数コムとが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出する第1光電変換器112と、第1光電変換器112から出力されるビート信号の周波数fBminが一定値となるように第2光周波数コム発生器106を制御する第1処理制御部114と、を備え、第1処理制御部114により第2光周波数コム発生器106の光出力が安定化される。このため、第2光周波数コム発生器106の光出力の安定化を簡易的な構成でありながら容易に且つ第1光周波数コム発生器102と同程度の精度で行うことができる。
【0030】
また、本実施形態においては、第1光周波数コム発生器102の周波数基準には原子時計104が用いられ、且つ信号処理部118のカウンタの周波数基準は原子時計104の出力信号に同期し、更に原子時計104は協定世界時により校正されている。このため、単体の原子時計の精度に比べても、本実施形態の原子時計では更に高精度で、安定した周波数とすることができる。つまり、第1光周波数コム発生器102からの光出力も極めて高精度であり、且つビート信号は高精度に計測することができる。即ち、第2光周波数コム発生器106の光出力も極めて高精度にすることができる。
【0031】
また、本実施形態においては、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとをそれぞれ変更できることから、第1光電変換器112から出力されるビート信号の周波数fBminを低く抑えることができる。即ち、第1光電変換器112のビートに対する周波数感度帯域は、通常であればモード周波数fvmの少なくとも半分を必要とするのに対し、本実施形態においては、モード周波数fvmの半分さえ必要としない。このため、第1光電変換器112は低域の周波数に存在するビートに対して感度を備えるだけでよいので高速動作が必要とならない。つまり、第1光電変換器112を低コストに抑えることができる。
【0032】
即ち、本実施形態においては、モード周波数とオフセット周波数とを可変とすることで、第2光周波数コム発生器106から光出力される第2光周波数コムの周波数を連続的かつ動的に可変制御可能となる。
【0033】
なお、本実施形態のレーザ装置100で光周波数測定装置130を構成した場合の一例について図4を用いて説明する。
【0034】
光周波数測定装置130は、前述したレーザ装置100に加え、図4に示す如く、ビームコンバイナ132と第2光電変換器134と第2処理制御部135とを備える。
【0035】
前記ビームコンバイナ132は、図4に示す如く、第2光周波数コム発生器106の出力光(第2光周波数コム)と被測定レーザ光源OJからの被測定光(周波数fsub)とを混合する。すると、光ヘテロダインにより、第2光周波数コムと被測定光(周波数fsub)とでビート(周波数fBsub)が生じる(図5)。ビート(周波数fBsub)は第2光電変換器134に入射する。
【0036】
前記第2光電変換器134は、図4に示す如く、ビートを電気信号(ビート信号)に変換する。即ち、第2光電変換器134は、被測定光(周波数fsub)と第2光周波数コム発生器106の光出力とが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出することとなる。
【0037】
前記第2処理制御部135は、図4に示す如く、信号解析部136と自動調整値解析部138とfvm設定演算部140とfvceo設定演算部142とfvm制御部144とfvceo制御部146とを備える。
【0038】
信号解析部136は、図4に示す如く、第2光電変換器134から出力されるビート信号(周波数fBsub)をノイズ除去・増幅し、図示せぬカウンタで計数値を求める(このカウンタに対しても原子時計104を用いてもよい)。そして、信号解析部136では、その計数値からビート信号の周波数fBsubが求められる。そして、被測定光(周波数fsub)と混合された第2光周波数コムのモードの周波数軸上の位置に基づき、被測定光の周波数fsubが求められる。
【0039】
自動調整値解析部138は、図4に示す如く、信号解析部136で求められた被測定光の周波数fsubに対して最適なビート信号(周波数fBsub)が第2光電変換器134で得られるような第2光周波数コムを定める。即ち、自動調整値解析部138は、最適なビート信号(周波数fBsub)が得られるように、被測定光(周波数fsub)と混合される第2光周波数コムのモードの周波数軸上の位置を自動的に決定する。なお、ここでの最適なビート信号(周波数fBsub)は、新たに定められるものであり、信号解析部136に入力するビート信号(周波数fBsub)とは基本的に異なってくる。また、最適なビート信号とは、第2光電変換器134から出力される信号として強度が強く、且つS/N比が高いものを指し、具体的にはその周波数fBsubが可能な限り低いものが望ましい。なお、周波数fBsubがあまりに0Hzに近づくと、短い計測時間では長周期の揺れが生じる。このため、第2光電変換器134では例えば、その増幅部に相応のハイパスフィルタや直流カット回路などを設けることで、ビート信号の周波数fBsubがあまりに0Hzに近くならないようにされている。
【0040】
fvm設定演算部140及びfvceo設定演算部142はそれぞれ、図4に示す如く、自動調整値解析部138で求められた第2光周波数コムのモードの周波数軸上の位置からそれぞれ、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとを求める。この時、第1光周波数コムと第2光周波数コムとの間に生じるビート信号の周波数fBminが最適なビート信号となるように、fvm設定演算部140とfvceo設定演算部142との間で、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoの調整が自動的に行われてもよい。なお、ここでの最適なビート信号とは、第1光電変換器112から出力される信号として強度が強く、且つS/N比が高いものを指し、具体的にはその周波数fBminが可能な限り低いものが望ましい。つまり、第1光電変換器112も第2光電変換器134と同様の構成であり、ビート信号の周波数fBminもあまりに0Hzに近くならないようにされている。
【0041】
fvm制御部144及びfvceo制御部146はそれぞれ、図4に示す如く、fvm設定演算部140及びfvceo設定演算部142で求められたモード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとを自動的に第2光周波数コム発生器106に設定する。
【0042】
このように、第2処理制御部135が第2光周波数コムのモード周波数fvmとオフセット周波数fvceoを自動的に調整することで、第2光周波数コム(のモード)と被測定光(のスペクトル)とによって最適なビート信号(周波数fBsub)が得られるようになる。しかし、これにより第2光周波数コムが(必ずではないが)変化させられるので、第1処理制御部114により、第1光周波数コムを基準に第2光周波数コムを安定化させるようにフィードバック制御を行う。
【0043】
ここで、第1光周波数コムを基準に第2光周波数コムを安定化する制御を行うときには、第1光周波数コムのいずれかのモードを基準にする。その基準とした第1光周波数コムのモードに最も近い第2光周波数コムのモードとのビートを用いて安定化する制御を行なう。第1光周波数コムと第2光周波数コムとで生じるビートのうち、ビートの周波数が最低なもの、即ち最適なビート信号が得られるように、前回と同じとは限らずに選択される。つまり、今回の基準となる第1光周波数コムのモードは、基本的に前回基準となった第1光周波数コムのモードから変更される。そして、今回の基準となる第1光周波数コムのモードに最も近い第2光周波数コムのモードにより、最適なビート信号(周波数fBmin)が得られるようになる。なお、第1、第2光周波数コムではどのモードを基準にしてもその精度は全く等価とされている。これによって、第2光周波数コムのフィードバック制御が外れることなく、安定したフィードバック制御が続けられる。なお、第2光周波数コムのモードも、必ずしも前回と同じとは限らない(同じ場合もある。)。
【0044】
したがって、光周波数測定装置130では、第1光周波数コムを基準に第2光周波数コムを安定化する制御を行いながら、同時に、第2光周波数コムと被測定光とのビート信号(周波数fBsub)が最適になる制御を行うことが可能である。
【0045】
そして、被測定光が如何なる周波数であってもビート信号の周波数fBsubを安定した一定の値(一定の周波数或いは一定の周波数で且つ低い周波数)とすることができ、周波数測定を容易且つ高精度に行うことができる。
【0046】
また、光周波数測定装置130では、第2光電変換器134で検出されるビート信号の周波数fBsubも低く抑えることができる。即ち、第2光電変換器134の周波数感度帯域は、通常であればモード周波数fvmの少なくとも半分を必要とするのに対し、ここでは、モード周波数fvmの半分さえ必要としない。このため、第2光電変換器134は低域の周波数に存在するビートに対して感度を備えるだけでよいので高速動作が必要とならない。即ち、第2光電変換器134も低コストに抑えることができる。
【0047】
また、光周波数測定装置130では、第1光周波数コムをノギスの本尺に見立て、第2光周波数コムをノギスの副尺に見立てて、第1、第2光周波数コムのモードの数を互いにわずかに変えた場合には、被測定光の周波数fsubを極めて高精度に測定することができる。具体的に説明するならば、周波数軸上の同じ特定の周波数範囲において、第1、第2光周波数コムのモードの数を互いにわずかに変えた場合(例えば「わずかに変えた」の一例としては、第1光周波数コムのモードの数を699本とし、第2光周波数コムのモードの数を700本とするなどである)であり、第1、第2光周波数コムがノギスのバーニヤ機能と同様に微細な周波数まで測定可能とすることができる。なお、特定の周波数範囲は、光周波数コムの端に位置するモードが含まれずに、確実にモードを認識できる最大の範囲とすることが望ましい。
【0048】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことはいうまでもない。
【0049】
第1実施形態においては、モード周波数fvmとオフセット周波数fvceoとをそれぞれ変更可能としていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6、図7で示す第2実施形態の如くであってもよい。なお、第2実施形態の概略構成は、第1実施形態においてオフセット周波数fvceoをオフセット周波数fsceoと同じく固定しただけなので、他の構成要素についての符号は第1実施形態で使用した符号を用いる。また、図7の周波数fsub、fBsubはそれぞれ、光周波数測定装置が図4の如く構成された際の被測定光の周波数、ビート信号の周波数を示している。
【0050】
第2実施形態においては、オフセット周波数fsceoとオフセット周波数fvceoとが等しくされているが、第2光周波数コム発生器106のモード周波数fvmが第1光周波数コム発生器102のモード周波数fsmと異なる。このため、図7に示す如く、必ず低い周波数のビート(fBminなど)が生じて第1光電変換器112に検出されることから、第1光電変換器112の周波数感度帯域は、モード周波数fvmの半分を必要としない。即ち、第1実施形態に比べてオフセット周波数fvceoの設定に関わる構成要素を省略できるとともに、第1光電変換器112を低コストに抑えることができる。
【0051】
或いは、図8、図9で示す第3実施形態の如くであってもよい。なお、第3実施形態の概略構成は、第1実施形態においてモード周波数fvmをモード周波数fsmと同じく固定しただけなので、他の構成要素についての符号は第1実施形態で使用した符号を用いる。
【0052】
第3実施形態においては、モード周波数fsmとモード周波数fvmとが等しくされているが、第2光周波数コム発生器106のオフセット周波数fvceoと第1光周波数コム発生器102のオフセット周波数fsceoとが異なる。このため、図9に示す如く、必ず低い周波数のビート(fBminなど)が生じて第1光電変換器112に検出されることから、第1光電変換器112の周波数感度帯域は、モード周波数fvmの半分を必要としない。即ち、第1実施形態に比べてモード周波数fvmの設定に関わる構成要素を省略できるとともに第1光電変換器112を低コストに抑えることができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、第1光周波数コムと第2光周波数コムとが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出する第1光電変換器112と、第1光電変換器112から出力されるビート信号の周波数が一定値となるように第2光周波数コム発生器106を制御する第1処理制御部114と、を備え、第1処理制御部114により第2光周波数コムが安定化されていたが、本発明はこれに必ずしも限定されない。たとえば、モード周波数若しくはオフセット周波数が変更可能であることを条件に、第1光周波数コムを直接的に第2光周波数コム発生器に入力させて安定化するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、第1光周波数コム発生器102の周波数基準には原子時計104が用いられ、且つ信号処理部118のカウンタの周波数基準は原子時計104の出力信号に同期し、更に原子時計104は協定世界時により校正されていたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、上記2つの周波数基準のうちのいずれかだけに原子時計を用いてもよいし、第1光周波数コム発生器の周波数基準に原子時計を用いない場合にはいずれにも原子時計を用いなくてもよい。また、原子時計は協定世界時により校正されていなくてもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、第1光周波数コム発生器102に直接的に原子時計104が接続されることで高精度化がなされていたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、原子時計を(GPS衛星などの)レーザ装置の外部に設け、原子時計からの出力をレーザ装置に設けたGPS受信機を介して得るようにしてもよい。この場合には、原子時計を直接的にレーザ装置に設けないので、レーザ装置の小型化はもちろん、なによりも低コスト化が可能である。
【0056】
また、上記実施形態においては、第1、第2光周波数コムの拡がる帯域は1オクターブ以上とされていたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、光周波数コムの拡がる帯域は1オクターブより小さくてもよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、光周波数測定装置130が自動的に被測定光の周波数fsubを測定することが可能とされていたが、例えば図10に示す別の光周波数測定装置230の如くであってもよい。
【0058】
光周波数測定装置230においては、信号解析部236以降については、手動で行うとされている。このため、光周波数測定装置230においては、光周波数測定装置130よりも装置構成を簡略化でき、低コスト化を更に促進することができる。
【0059】
なお、光周波数測定装置における被測定光は、特に光周波数(波長)基準、或いは干渉測定用の光源が対象であり、前述してきたように国際標準や国家標準に基づいて測定がなされている。即ち、被測定光は、いわば国家標準にトレーサブルに測定されている。このため、光周波数測定装置は光周波数校正装置と解することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のレーザ装置は、高精度の光周波数コムの周波数を連続的且つ動的に可変制御可能なので、長さ原器などを構成することや、長さの基準として距離や直角度などの測長用の干渉計などに広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
100…レーザ装置
102、202…第1光周波数コム発生器
104、204…原子時計
106、206…第2光周波数コム発生器
108、132、208、232…ビームコンバイナ(BC)
110、210…ビームスプリッタ(BS)
112、212…第1光電変換器
114…第1処理制御部
116、216…信号変換部
118、218…信号処理部
120、220…制御部
130、230…光周波数測定装置
134、234…第2光電変換器
135…第2処理制御部
136、236…信号解析部
138…自動調整値解析部
140…fvm設定演算部
142…fvceo設定演算部
144…fvm制御部
146…fvceo制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数軸上で櫛状に並んだ複数のスペクトル成分を発生させる第1、第2光周波数コム発生器を有するレーザ装置において、
前記第1光周波数コム発生器は、周波数基準に基づき基準となる光出力を行い、
前記第2光周波数コム発生器は、少なくとも前記複数のスペクトル成分のスペクトル間隔を示すモード周波数と該複数のスペクトル成分の並びを周波数ゼロ点まで延長したときのゼロ点との間に生じるオフセット周波数のいずれかが変更可能とされるとともに前記第1光周波数コム発生器の光出力に基づき安定化された自身の光出力を、当該レーザ装置の光出力として出力することを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記周波数基準には原子時計が用いられることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記第1光周波数コム発生器の光出力と前記第2光周波数コム発生器の光出力とが混合され光ヘテロダインにより生じるビートを検出する第1光電変換器と、該第1光電変換器から出力されるビート信号の周波数が一定値となるように前記第2光周波数コム発生器を制御する第1処理制御部と、を備え、該第1処理制御部により前記第2光周波数コム発生器の光出力が安定化されることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記第1処理制御部は前記ビート信号の周波数を計測するカウンタを備え、該カウンタの周波数基準は原子時計の出力信号に同期することを特徴とする請求項3に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記原子時計は、協定世界時により校正されていることを特徴とする請求項2または4に記載のレーザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate