説明

レース編地および編レース

【課題】 高い伸縮性を有し、モールド加工などによって立体成形することができる形態安定性に優れたレース編地および編レースを提供する。
【解決手段】 鎖編糸21によって、形成される鎖編組織を有するレース編地の鎖編組織に、鎖編糸21よりも低い溶融温度を有する挿入糸22が編込まれる部分を形成し、さらに前記鎖編組織を、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが交互に連なって予め定めるコース方向に複数段並び、注目する第2ループ状部分25が、その第2ループ状部分25のコース方向前段の第1ループ状部分24を挿通してコース方向後段に向かって延び、かつ前記第2ループ状部分25のコース方向同段の第1ループ状部分24を挿通して、コース方向後段の第1ループ状部分24に連なることによって連鎖状に形成されてコース方向に延びるように形成し、前記挿入糸22には、伸縮性を有する糸を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエール方向およびコース方向の少なくともいずれか一方に高い伸縮性を有するレース編地およびレース編地を用いた編レースに関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術のレース編地がたとえば特許文献1に開示される。このレース編地は、熱溶解性の熱接着糸が、スカラップ部分に編込まれる。編成後にレース編地を加熱することで、熱接着糸が溶融する。熱接着糸は、ピコット糸の基部と他の糸との重なり部分を接着し、重なり部分以外で熱接着糸が露出した部分を溶解除去する。これによって、この従来技術では、編レースのうちで、スカラップ部分におけるほつれを防ぐことができるように構成されている。
【0003】
第2の従来技術のレース編地がたとえば特許文献2に開示される。このレース編地は、カバーリング糸が、スカラップ部分に編込まれる。カバーリング糸は、熱溶融性を有する芯糸と、熱可塑性合成繊維糸である被覆糸から成る。編成後にレース編地を加熱することで、カバーリング糸のうちの、芯糸の一部が溶融し、溶融物が被覆糸の間から染み出してくる。そしてこの溶融物が、隣接する他の糸を接着しあうようにして固化する。これによって、この従来技術では、編レースのうちで、スカラップ部分におけるほつれを防ぐことができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−52142号公報
【特許文献2】特開平11−81073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記第1および第2の従来技術では、挿入糸をコース間に横渡りさせているので、形態安定性が低く、特に挿入糸としてスパンデックスを単独で用いた場合には、コース間の幅が狭くなってしまい、染色しにくくなってしまうという問題がある。
【0006】
したがって本発明は、ウエール方向およびコース方向のいずれの方向にも高い伸縮性と形態安定性とを有し、モールド加工などによって立体成形することができるレース編地および編レースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鎖編糸によって、複数のループ状部分が形成される鎖編組織を有するレース編地であって、
鎖編組織は、鎖編糸よりも低い溶融温度を有する挿入糸が編込まれる部分を有し、
前記鎖編組織は、第1ループ状部分と第2ループ状部分とが交互に連なって予め定めるコース方向に複数段並び、注目する第2ループ状部分が、その第2ループ状部分のコース方向前段の第1ループ状部分を挿通してコース方向後段に向かって延び、かつ前記第2ループ状部分のコース方向同段の第1ループ状部分を挿通して、コース方向後段の第1ループ状部分に連なることによって連鎖状に形成されてコース方向に延び、
前記挿入糸は、伸縮性を有することを特徴とするレース編地である。
【0008】
また本発明は、前記挿入糸は、複数のループ状部分が連なって形成されるウエールに沿って延びて、鎖編組織に編込まれることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記挿入糸は、カバーリング糸から成り、芯糸が熱溶融性を有することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記鎖編組織に、熱接着糸と、挿入糸とが編込まれる部分を有し、熱接着糸および挿入糸がともに編込まれる部分では、第1ループ状部分と第2ループ状部分との間を挿入糸が挿通し、挿入糸と第1ループ状部分との間を熱接着糸が挿通されることを特徴とする。
また本発明は、前記レース編地によって製造される編レースである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レース編地を、鎖編糸の溶融温度未満でかつ挿入糸の溶融温度以上の温度に加熱することで、挿入糸の一部が部分的に溶解する。溶解部分の一部は、鎖編糸に付着する。この状態で固化することで、レース編地を用いて製造した編レースについて、挿入糸に接する鎖編糸が、挿入糸から遊離することを防ぐことができる。また挿入糸に接する鎖編糸を、挿入糸によって互いに接着させることができる。これによって鎖編糸の連結状態が維持され、糸のほつれを防ぐことができる。
【0012】
このように本発明では、挿入糸が他の糸と付着した付着部分で鎖編組織の結束が強化される。これによって鎖編組織を構成する鎖編糸の一部が分断されたとしても、鎖編組織のほどけが付着部分で阻止され、付着部分を超えて鎖編組織がほどけることを抑制することができる。
【0013】
また挿入糸と鎖編糸とが交わる部分に挿入糸の一部が付着することで、鎖編組織から挿入糸がずれたり、離反したりすることを防ぐことができる。また隣接する2つの鎖編糸にわたって挿入糸が延びる場合、挿入糸がそれぞれの鎖編糸に接着することで、隣接する2つの鎖編糸が互いに離反することが防がれる。
【0014】
このように本発明によれば、レース編地が加熱されて製造される編レースについて、鎖編糸のほつれを防ぐことができる。たとえば編レースの縫製または裁断などの製造状態に起因する糸のほつれ、着用または洗濯などの使用状態に起因する糸のほつれを防ぐことができ、品質を向上することができる。また鎖編組織が挿入糸以外の糸で達成されるので、耐熱性を有する糸を鎖編糸として用いることで、編レース全体の形態を安定させることができる。
【0015】
また挿入糸の溶融量を少なくすることができ、溶融部分が編レース全体に与える影響を小さくして、柄模様を損ねることを防ぐことができる。さらに鎖編糸を細くすることができるので、編レースを軟らかく、言い換えると変形しやすくすることができる。これによってたとえば編レースを肌着などの布地として好適に用いることができる。
【0016】
また本発明によれば、ウエールに沿って延びて挿入糸が鎖編組織に編込まれるので、鎖編組織について、編立て方向の結束を高くすることができる。これによって鎖編組織のほつれを防止するために形成する鎖編糸の横振り部分、すなわちラン止め部分を減らし、または無くすことができる。このように本発明によれば、レース編地が加熱された編レースに形成されるラン止め部分を減らすことができるので、隣接するウエールの間にわたって不所望に糸が延びることを防ぐことができ、美観をさらに向上することができる。
【0017】
また本発明によれば、挿入糸は、芯糸が熱溶融性を有するので、レース編地が加熱されると、挿入糸のうちで鎖編糸に接触する部分が溶けて、鎖編糸に付着する。
【0018】
このように本発明によれば、挿入糸のうちで、他の糸と接触する露出部分が、他の糸と付着する部分となるので、挿入糸が他の糸に付着する付着量を増やすことができ、接着力を向上することができる。したがって、各糸のほつれをさらに確実に防ぐことができる。
【0019】
また本発明によれば、熱接着糸および挿入糸がともに編込まれる部分では、第1ループ状部分と第2ループ状部分との間を挿入糸が挿通し、挿入糸と第1ループ状部分との間を熱接着糸が挿通されるので、挿入糸および熱接着糸は、第1ループ状部分と第2ループ状部分との間を挿通することで、鎖編組織に編込まれる。レース編地は、鎖編組織に編込まれる伸縮性を有する挿入糸に対して、第1ループ状部分が配置される側の面が裏の面となり、その反対側の面が表の面となる。本発明では、熱接着糸と挿入糸とが共通して編込まれる部分には、挿入糸は、熱接着糸よりも表側に配置される。したがって、レース編地を表の面から見ると、挿入糸によって、熱接着糸および第1ループ状部分が隠れる。
【0020】
このように挿入糸によって熱接着糸を隠すことができ、熱接着糸を表の面から見え難くすることができる。これによって、レース編地を加熱して形成される編レースについて、形成される模様を明確にすることができる。また熱接着糸が溶けたとしても、表の面から見た柄模様に与える影響を少なくすることができる。また熱接着糸が、第1ループ状部分と挿入糸との間を通過することによって、第1ループ状部分と挿入糸とを接着させることができ、挿入糸が鎖編組織から離脱することを防ぐことができる。
【0021】
また本発明によれば、伸縮性を有する挿入糸が鎖編組織に伸張状態で編込まれることで、編レースに伸縮性を与えることができる。またこのような編レースを編成後に加熱することで、挿入糸と鎖編糸とが接する部分では、挿入糸の一部が鎖編糸に付着する。これによって鎖編糸が鎖編組織から抜け出すことを防ぐことができる。これによってたとえば、縫製部分から鎖編糸が抜け出すことを防ぐことができる。
【0022】
このように本発明によれば、挿入糸を鎖編組織に編込むことで、伸縮性を有する編レースについても、糸のほつれを防ぐことができる。また編成後に編レースが伸縮を繰返しても、挿入糸によって各糸がずれることが防がれる。これによって伸縮時の編レースの柄模様が、伸縮前の編レースの柄模様に対して大きく異なることを防ぐことができ、編レースの美感を長期にわたって維持することができる。
【0023】
また、上述したレース編地を加熱することによって、レース編地に含まれる挿入糸の一部が溶融して、各糸の結束が強化される。したがってレース編地を用いて形成される編レースについてのほつれを防ぐことができる。また本発明では、挿入糸とは異なる鎖編糸を用いて鎖編組織を形成することで、鎖編組織を残すために挿入糸を太くする必要がなく、挿入糸および鎖編糸を細くすることができるので、下地部を構成する糸の単位体積あたりの量を減らして、下地部と柄部との糸の疎密差を大きくすることができる。
【0024】
このように本発明によれば、上述したレース編地を用いて編レースを製造することで、糸のほつれを防ぐことができるとともに、下地部と柄部との糸の疎密差を大きくすることができ、編レースの透け感を向上することができ、柄模様をはっきりとさせて、美観の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態であるレース編地20の一部を模式的に示す編成組織図である。
【図2】鎖編糸21および熱接着糸23以外の糸を省略してレース編地20を模式的に示す編成組織図である。
【図3】編成前のカバーリング糸22の一部を示す正面図である。
【図4】レース編地20を編成しているカバーリング糸22の一部を示す正面図である。
【図5】本実施の形態の編レース20Aのほどけ防止を説明するための編成図である。
【図6】比較例の編レース10Aを示す編成図である。
【図7】本実施の形態の編レース20Aのほつれを説明するための編成図である。
【図8】比較例の編レース10Aを示す編成図である。
【図9】第1実施形態のレース編地20を編成するためのバックジャカードラッシェル編機60の編成部を示す側面図である。
【図10】鎖編部分26の編み針72と地筬67との動きを説明するために模式的に示す断面図である。
【図11】ジャカードバー62,63および熱接着糸用筬61の動きを説明するために模式的に示す断面図である。
【図12】図2におけるS領域を模式的に示す組織図である。
【図13】編レース製品の製造手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態であるレース編地20Bの一部を模式的に示す編成組織図である。
【図15】本発明の第3実施形態であるレース編地20Cの一部を模式的に示す編成組織図である。
【図16】鎖編糸21、熱接着糸23および伸縮糸27以外の糸を省略してレース編地20Cを模式的に示す編成組織図である。
【図17】本発明の第4実施形態であるレース編地20Dの一部を模式的に示す編成組織図である。
【図18】鎖編糸21、熱接着糸23および伸縮糸27以外の糸を省略してレース編地20Dを模式的に示す編成組織図である。
【図19】本発明の第5実施形態であるレース編地20Eの一部を模式的に示す編成組織図である。
【図20】第3〜5実施形態のレース編地20C〜20Eを編成するためのバックジャカードラッシェル編機60Cの編成部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の第1実施形態であるレース編地20の一部を模式的に示す編成組織図である。図2は、鎖編糸21および熱接着糸23以外の糸を省略してレース編地20を模式的に示す編成組織図である。図1および図2に示す編成組織図は、理解を容易にするために模式的に示したものである。実際のレース編地は、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25の曲率が小さく、各糸21,22,23が極めて近接または接触した状態となる。また本発明において、各糸によって編成された編地をレース編地20と称し、レース編地が加熱されたものを編レースと称する。
【0027】
レース編地20は、複数の透孔が形成され、それらの透孔の形状および配置によってレース模様が形成される。またレース編地20は、単位面積あたりに配置される糸の量が密な柄部と、単位面積あたりに配置される糸の量が疎な下地部とが形成され、これらの柄部と下地部の形状および配置によって柄模様が形成される。このような柄模様入りのレース編地は、たとえば女性用肌着などに用いられる。
【0028】
図1に示すようにレース編地20は、鎖編糸21と、熱接着糸23と、挿入糸であるカバーリング糸22とを含んで構成される。鎖編糸21は、経糸または地編編成糸と称される場合もある。前記熱接着糸23は、スパンデックスとも呼ばれる糸であり、レース編地20として用いられる他の糸よりも低い溶融温度を有する糸であって、熱可塑性を有する。前記熱接着糸23としては、鎖編糸21よりも溶融温度が低い、たとえばポリエステル系ポリウレタンから成る。
【0029】
図3は、編成前のカバーリング糸22の一部を示す正面図である。図4は、レース編地20を編成しているカバーリング糸22の一部を示す正面図である。カバーリング糸22は、レース編地20を編成している状態では、図1、図2に示すような形状であるが、図4には、理解を容易にするために直線状に延ばした状態で示す。
【0030】
カバーリング糸22は、伸縮性を有する芯糸30に、被覆糸31をらせん状に巻付けた糸である。芯糸30は、熱可塑性合成樹脂から成る単繊維糸(フィラメント糸)であり、たとえばポリエステル系ポリウレタンから成る。被覆糸31は、合成樹脂から成る複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)であり、たとえばポリアミド(商標名:ナイロンから成る。
【0031】
カバーリング糸22は、編成前の状態では、図3に示すように、芯糸30が露出しないように、被覆糸31によって覆われている。カバーリング糸22は、芯糸30の伸縮性を利用し、図4に示すように伸張させた状態で編成されている。カバーリング糸22は、伸張された状態では、被覆糸31間にらせん状の隙間が形成され、この隙間から芯糸30が露出する状態となる。
【0032】
カバーリング糸22は、合成樹脂から成る複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)であり、たとえばポリアミド(商標名:ナイロン、レーヨン、ポリエステルなどから成る。
【0033】
図2に示すように、鎖編糸21は、鎖編みされることによって、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが形成される。第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とは、交互に連なってコース方向Cに複数段並んで形成される。ここで、第1ループ状部分24は、ニードルループと称され、第2ループ状部分25は、シンカーループと称される場合がある。第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが交互に連なってコース方向Cに延びることで、ウエール26が形成される。ウエール26は、ウエール方向Wに並んで複数形成され、それらが互いに連結されることで、鎖編組織、言い換えるとチェーンステッチ組織を形成する。また鎖編糸21が適宜横振りして、ウエール方向Wに隣接するウエール26を連結することで、ほつれ防止機能を有する鎖編組織を形成する。鎖糸21が横振りする部分をラン止め部分42と称する。
【0034】
各第1ループ状部分24は、大略的にU字状に形成されて、予め定めるコース方向Cおよびコース方向Cに直交するウエール方向Wに大略的に並んで配置される。また各第1ループ状部分24は、コース方向一方となるコース方向前段C1に開く。第1ループ状部分24がウエール方向Wに一列に並んでコースを形成し、第1ループ状部分24がコース方向Cに一列に並んでウエールを形成する。
【0035】
第2ループ状部分25は、コース方向Cに並ぶ第1ループ状部分24を連結する。たとえば1つの第2ループ状部分25aに注目する。注目する第2ループ状部分25aは、その一端部が、注目する第2ループ状部分25aと同一段の第1ループ状部分24aの端部に連なる。注目する第2ループ状部分25aは、一端部から他端部に向かうにつれて、注目する第2ループ状部分25aのコース方向前段C1の第1ループ状部分24bを一方側から他方側に挿通してコース方向後段C2に延びて、注目する第2ループ状部分25aと同一段の第1ループ状部分24aを他方側から一方側に挿通してコース方向後段C2に延びて、注目する第2ループ状部分25aのコース方向後段C2の第1ループ状部分24cの端部に連なる。このようにして各ループ状部分24,25が連鎖状に連結されて、コース方向Cに延びるウエール26が形成される。カバーリング糸22および熱接着糸23などの各挿入糸は、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間に挟まれることによって、ウエール26に編込まれる。
【0036】
本発明において、コース方向Cは、編地のたて方向であり、レース編み立て方向を意味する。またウエール方向Wは、編地の横方向であり、レース編立て方向に対して、交差する方向を意味する。第1ループ状部分24は、コース方向Cおよびウエール方向Wに複数並んで配置される。またコース方向Cおよびウエール方向Wに並ぶ複数の第1ループ状部分24は、予め定める仮想平面に大略的に接して並ぶ。この場合、カバーリング糸22および熱接着糸23などの鎖編組織に編込まれる各編込糸は、その仮想平面に対して一方に配置される。
【0037】
本発明では、前記第1ループ状部分24に沿って延びる仮想平面に対して各挿入糸22,23が配置される方向を表方向Z1と称し、各挿入糸22,23に対して前記仮想平面が配置される方向を裏方向Z2と称する。図1および図2では、紙面に垂直な厚み方向Zのうち紙面から手前に遠ざかる方向を表方向Z1とし、紙面に垂直な方向のうち紙面から奥に遠ざかる方向を裏方向Z2とする。
【0038】
レース編地20の表方向Z1の面は、カバーリング糸22および熱接着糸23などの編込糸によって、第1ループ状部分24が隠れる。したがってレース編地20の表方向Z1の面は、裏方向Z1の面に比べて、レース編地20に形成される柄模様およびレース模様が明確となる。
【0039】
たとえば注目する第2ループ状部分25aは、その第2ループ状部分25aのコース方向前段C1の第1ループ状部分24bを表方向Z1に挿通して、その第2ループ状部分25aのコース方向同段の第1ループ状部分24aを裏方向Z2に挿通して、コース方向後段C2の第1ループ状部分24cに連なる。
【0040】
カバーリング糸22は、鎖編組織にレース模様を形成するための糸である。カバーリング糸22は、ウエール方向Wに隣接するウエール26にそれぞれ編込まれることで、ウエール方向Wに隣接する2つのウエール26を連結する。図1に示すように、カバーリング糸22は、ウエール方向Wに隣接する一方のウエール26から他方のウエール26にわたって延びる横振り部分と、ウエール26に編込まれるカバーリング糸編込部分とを有する。
【0041】
コース方向Cに並ぶ2つの横振り部分と、横振り部分が連結するウエール26とによって囲まれる空間には、編地の厚み方向に挿通する透孔が形成される。カバーリング糸22の横振り部分が選択的に配置されることで、透孔の形状および配置が調整される。これによってレース編地20には、透孔の配置および形状によって表わされるレース模様を形成することができる。ここで横振り部分とウエール26とによって囲まれる透孔は、後述する柄糸によって埋められて、柄模様を形成する場合もある。
【0042】
カバーリング糸22は、第1ループ状部分24よりも表方向Z1の領域を延びる。カバーリング糸22は、予め設定される第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間を挿通して、ウエール方向Wに延びる。また本実施形態では、鎖編組織には、複数のカバーリング糸22が編込まれ、各カバーリング糸22は、ウエール方向Wに並んで編込まれる。各カバーリング糸22が編込まれる位置は、レース編地20に形成されるレース模様によって適宜選択される。
【0043】
熱接着糸23は、鎖編糸21およびカバーリング糸22よりも低い融点温度を有する糸によって実現される。本実施の形態では、レース編地編成後に行われる加熱工程での加熱状態で、部分的に溶融する糸が用いられる。熱接着糸23は、レース編地20を構成する鎖編糸21およびカバーリング糸22のほつれを防止するために用いられる。本実施形態では、熱接着糸23は、非被覆糸、すなわち被覆糸によって被覆されていない裸糸、いわゆるベアヤーンによって実現され、その溶融温度が約140℃以上190℃以下のポリウレタン弾性糸によって実現される。熱接着糸23は、自然状態に対して伸張した状態で、鎖編組織に編込まれる。
【0044】
熱接着糸は、ウエール26に沿って延び、ウエール26を構成する全てのループ状部分に編込まれる。したがって鎖編組織のうちで、単位面積あたりの糸の量が疎な下地部分と、単位面積あたりの糸の量が、下地部分よりも密な柄部分との両方に、熱接着糸23が編込まれる。また本実施の形態では、レース編地20は、複数の熱接着糸23を有し、各熱接着糸23は、ウエール26毎にそれぞれ編込まれる。このように鎖編組織の全領域にわたって、熱接着糸23が編込まれる。
【0045】
熱接着糸23は、第1ループ状部分24よりも表方向Z1の領域を延び、第2ループ状部分25よりも裏方向Z2の領域を延びる。熱接着糸23は、対応するウエール26に沿ってコース方向Cに進むにつれてジグザクに進む。たとえば熱接着糸23は、注目する第1ループ状部分24aと第2ループ状部分25aとの間を、ウエール方向一方W1からウエール他方W2に通過すると、注目する第1ループ状部分24cのコース方向後段C2の第1ループ状部分24cと第2ループ状部分25cとの間を、ウエール方向他方W2からウエール方向一方W1に通過する。
【0046】
編成直後には、熱接着糸23は、第1ループ状部分24よりも表方向Z1の領域を延び、カバーリング糸22よりもレース編地20の裏方向Z2の領域を延びる。したがって熱接着糸23とカバーリング糸22とが同じ第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間を挿通する領域では、熱接着糸23は、第1ループ状部分24とカバーリング糸22との間を挿通する。またカバーリング糸22は、熱接着糸23と第2ループ状部分25との間を挿通する。この場合、鎖編糸21がコース方向Cに張られることによって、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との曲率半径が小さくなり、熱接着糸23は、カバーリング糸22と第1ループ状部分24との間に配置されて、カバーリング糸22および第1ループ状部分24に接触する。
【0047】
本実施の形態では、熱接着糸23とカバーリング糸22とが同じ第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間を挿通する領域では、熱接着糸23とカバーリング糸22とは、互いに交差して、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とを通過する。具体的には、熱接着糸23は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。
【0048】
これに対して、カバーリング糸22は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。この場合、レース編地20がコース方向Cに張られることによって、第2ループ状部分25をともに通過する部分31で、熱接着糸23とカバーリング糸22とが近接する。
【0049】
また編成直後では、鎖編組織に編込まれるカバーリング糸22および熱接着糸23は、鎖編組織に完全に拘束されてはいないので、カバーリング糸22と熱接着糸23とが接触する複数部分のうちのいくらかは、熱接着糸23がカバーリング糸22よりも表方向Z1に配置されない部分が存在する場合がある。この場合であっても、カバーリング糸22と熱接着糸23とが接触する複数部分のうちのほとんどは、熱接着糸23がカバーリング糸22よりも裏方向Z2に配置されることになる。
【0050】
また鎖編糸21およびカバーリング糸22の繊度は、50デニール以下、特に40デニール以下のマルチフィラメントが用いられる。鎖編糸21の繊度は、編レース製品として用いられるときに切断しない太さで、可及的に細いものが用いられる。たとえばナイロン(ポリアミド系合成繊維)、レーヨン、ポリエステルおよびポリプロピレン等の各種の繊維によって実現可能である。また、このような本実施形態で用いた各種糸は例示に過ぎず、他の種類の糸を用いてもよい。
【0051】
また熱接着糸23の繊度は、10デニール以上、300デニール以下のポリウレタン弾性糸が用いられる。またポリウレタン弾性糸のほか、溶融温度が比較的低くて、熱可塑性を有する材料であればよく、ポリアミド系合成繊維などによって実現されてもよい。また非伸縮性の糸を用いて、熱接着糸23としてもよい。
【0052】
本実施形態のレース編地20は、編成後に熱接着糸23の溶融温度以上であって、残余の糸21,22の融点温度未満で加熱される。これによって熱接着糸23の一部が部分的に溶解する。溶解部分の一部は、隣接する鎖編糸21およびカバーリング糸22に付着する。この状態で固化することで、熱接着糸23に接する鎖編糸21およびカバーリング糸22が、熱接着糸23から遊離することを防ぐことができる。また熱接着糸23に接する各糸21,22を、熱接着糸23によって互いに接着させることができる。これによって各糸の連結状態が維持され、糸のほつれを防ぐことができる。
【0053】
このように熱接着糸23が他の糸と付着した付着部分で鎖編組織の結束が強化される。具体的には、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが熱接着糸23を介して接着される。これによって鎖編糸21の一部が分断されたとしても、第1ループ状部分24から第2ループ状部分25が遊離することを防ぐことができる。これによって鎖編糸21のほどけが第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との接着部分で阻止され、接着部分を超えて鎖編糸21がほどけることを防ぐことができる。
【0054】
また他の実施形態として、熱接着糸23を用いずに、カバーリング糸22の芯糸30に鎖編糸よりも低い溶融温度を有する糸を用い、カバーリング糸22の芯糸30を溶融させて、各糸の連結状態を維持し、糸のほつれを防ぐようにしてもよい。
【0055】
図5は、本実施の形態の編レース20Aのほどけ防止を説明するための編成図であり、図6は、比較例の編レース10Aを示す編成図である。図5に示す本実施の形態の編レース20Aは、上述した熱接着糸23が編込まれたレース編地20を加熱したものである。また図6に示す比較例の編レース10Aは、熱接着糸23が編込まれていないレース編地20Aを加熱したものである。
【0056】
図6に示すように比較例のレース編地10では、コース方向Cに並ぶ2つの第2ループ状部分25が分断部分40,41で断ち切れた場合、コース方向後段C2の分断部分40が表方向Z1に引っ張られることで、鎖編糸21が係止される部分が断たれて、分断部分40よりもコース方向後段C2に沿って鎖編組織がほどけてしまう。比較例の編レース10Aでは、鎖編組織のほどけは、コース方向後段C2に沿って進行し、ラン止め部分42に達して、ラン止め部分42でほどけが抑制される。したがってほどけの進行を短くするためには、ラン止め部分42を増やす必要がある。ラン止め部分42が増えると、ウエール方向Wに延びる糸が増えてしまい、編レース10Aの透け感が損なわれる。またこの場合、ウエール26がコース方向Cに分断されてしまう。
【0057】
これに対して図5に示すように、本実施の形態の編レース20Aでは、熱接着糸23がコース方向Cに延びるので、コース毎に、コース方向同段の第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが接着される。
【0058】
本実施の形態のレース編地20では、コース方向Cに並ぶ2つの第2ループ状部分25が分断部分40,41で断ち切れた場合、コース方向後段C2の分断部分40が表方向Z1に引っ張られたとしても、コース方向後段C2の分断部分40よりもコース方向後段C2で第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが接着された接着部分44が存在するので、この接着部分44で鎖編組織のほどけが阻止され、さらなるほどけの進行が防がれる。したがって比較例の編レース10Aに比べて鎖編組織がほどけることを防ぐことができる。また接着部分43,44でほどけが抑制されるので、ラン止め部分42を減らすまたは無くすことができ、比較例に比べて編レース20Aの透け感を向上することができる。また本実施形態では、各コース方向C毎に、コース方向同段の第1ループ状部分24と第2ループ状部分25とが接着されるので、第2ループ状部分25の一部が分断されたとしても、ウエール26がコース方向Cに分断されることを防ぐことができる。このように本実施の形態では、ウエール26に沿って延びて熱接着糸23が編成されるので、鎖編組織について、コース方向Cの結束を高くすることができ、耐久性を向上することができる。
【0059】
図7は、本実施の形態の編レース20Aのほつれを説明するための編成図であり、図8は、比較例の編レース10Aを示す編成図である。図7に示す本実施の形態の編レース20Aは、上述した熱接着糸23が編込まれたレース編地20を加熱したものである。また図8に示す比較例の編レース10Aは、熱接着糸23が編込まれていないレース編地20Aを加熱したものである。図7および図8には、複数のウエール26にわたってカバーリング糸22が編込まれる。
【0060】
図8に示すように比較例の編レース10Aでは、カバーリング糸22が、分断部分45で断ち切れた場合、カバーリング糸22のうちで分断部分45よりも、1または複数のウエール26を超えたウエール方向一方W1の部分46が、ウエール方向一方W1に引っ張られることで、分断部分45がウエール26を抜けてカバーリング糸22が編レース10Aから抜けてしまう。たとえばカバーリング糸22は、鎖編糸21との摩擦力によって移動することが阻止される程度であるので、大きな力が与えられることで、カバーリング糸22が編込部分からずれたり、抜け落ちたりしてしまうことがある。
【0061】
これに対して図7に示すように、本実施の形態の編レース20Aでは、熱接着糸23が各ウエール26に編込まれるので、ウエール毎にカバーリング糸22が、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25に接着される。
【0062】
本実施の形態の編レース20Aでは、カバーリング糸22が、分断部分45で断ち切れた場合、カバーリング糸22のうちで分断部分45よりも、1または複数のウエール26を超えたウエール方向一方W1の部分46が、ウエール方向一方W1に引っ張られたとしても、カバーリング糸22とウエール26との接着部分47,48とが接着されることで、分断部分45がウエール26を抜けることが防がれ、カバーリング糸22のずれが進行することが防がれる。このように本実施の形態では、カバーリング糸22は、熱接着糸23による接着力によって鎖編組織に固定されるので、カバーリング糸22のずれおよび抜け落ちを防ぐことができる。
【0063】
またウエール方向Wに隣接するウエール26は、カバーリング糸22を介して、互いに接着されることで、隣接するウエール26の間のウエール方向W間隔が、広がったり狭まったりすることが防がれ、編レース20Aのレース模様が乱れることを防ぐことができる。
【0064】
このように本実施の形態によれば、編レース20Aを構成する各糸のほつれを防ぐことができる。たとえば編レース20Aの縫製または裁断などの製造状態に起因する糸のほつれ、着用または洗濯などの使用状態に起因する糸のほつれを防ぐことができ、品質を向上することができる。
【0065】
また熱接着糸23を用いて鎖編組織を形成する場合、レース編地の加熱後にも鎖編組織を残すために、熱接着糸23を太くしなければならず、下地部を構成する単位体積あたりの糸の量が増えてしまい、下地部と柄部との糸の疎密差が小さくなってしまう。またレース編地20自体が硬くなって、変形しずらくなってしまう。
【0066】
これに対して本実施形態では、熱接着糸23とは異なる鎖編糸21を用いて鎖編組織を形成することで、耐熱性を有する糸を鎖編糸21として用いることで、レース編地20の全体の形態を安定させることができる。また鎖編糸21および熱接着糸23を細くすることができる。これによって下地部を構成する糸を減らして、下地部と柄部との糸の疎密差を大きくすることができる。これによってレース編地20およびレース編地20を加熱した編レース20Aについて、透け感を向上することができ、柄模様をはっきりとさせることができる。また熱接着糸23の溶融量を少なくすることができ、溶融部分がレース編地20の全体に与える影響を小さくして、柄模様を損ねることを防ぐことができる。さらに鎖編糸21を細くすることができるので、編レース20Aを軟らかく、言い換えると変形しやすくすることができる。これによってたとえば編レース20Aを肌着などの布地として好適に用いることができる。
【0067】
また本実施の形態によれば、熱接着糸23は、表面部分が熱溶融性を有する裸糸である。したがってレース編地20が加熱されると、熱接着糸23のうちで鎖編糸21に接触する部分が溶けて、鎖編糸21に付着する。また熱接着糸23のうちでカバーリング糸22に接触する部分が溶けて、カバーリング糸22に付着する。このように本実施の形態によれば、熱接着糸23のうちで、他の糸と直接接触する露出部分が、他の糸と付着する部分となるので、熱接着糸23が他の糸に付着する付着量を増やすことができ、接着力を向上することができる。したがって、各糸のほつれをさらに確実に防ぐことができる。
【0068】
また非被覆糸、すなわち被覆糸によって被覆されていない裸糸で熱接着糸23を実現することで、下地部の糸の量をさらに減らすことができ、下地部と柄部との糸の疎密差を大きくして、レース編地20の透け感を向上することができ、柄模様をはっきりとさせることができる。
【0069】
また本実施の形態に従えば、鎖編組織の全領域にわたって熱接着糸23が編込まれるので、編レース20Aの全体における糸のほつれを防ぐことができる。たとえば編レース20Aが任意の位置で縫製されたり裁断されたりしたとしても、縫製部分および裁断部分から糸がほつれることを防ぐことができる。
【0070】
また編レース20全体にわたる糸のほつれを防ぐことができるので、編レース20Aを任意の位置でカットするモチーフカットについても、そのカット部分のほつれを防止することができ、幅広レースなどにも応用が可能となる。またレース編地20全体にわたるほつれを防ぐことができるので、耐久性が要求される上着の一部にもレース編地を用いることができる。このように本実施の形態によれば、編レース全体にわたって糸のほつれを防ぐことができるので、使用用途を広げることができる。
【0071】
また本実施の形態に従えば、熱接着糸23およびカバーリング糸22は、第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間を挿通することで、鎖編組織に編込まれる。レース編地20は、鎖編組織に編込まれるカバーリング糸22に対して、第1ループ状部分24が配置される側の面が裏の面となり、その反対側の面が表の面となる。本実施の形態では、熱接着糸23とカバーリング糸22とが共通して編込まれる部分には、カバーリング糸22は、熱接着糸23よりも表方向Z1に配置される。したがって編レース20Aを表の面から見ると、カバーリング糸22によって、熱接着糸23および第1ループ状部分24が隠れる。
【0072】
このようにカバーリング糸22によって熱接着糸23を隠すことができ、熱接着糸23を表の面から見え難くすることができる。これによって編レース20Aに形成される模様を明確にすることができる。また熱接着糸23が溶けたとしても、表の面から見た柄模様に与える影響を少なくすることができる。また熱接着糸23が、第1ループ状部分24とカバーリング糸22との間を通過することによって、第1ループ状部分24とカバーリング糸22とを接着させることができ、カバーリング糸22が鎖編組織から離脱することを防ぐことができる。
【0073】
また本実施の形態では、熱接着糸23とカバーリング糸22とが同じ第1ループ状部分24と第2ループ状部分25との間を挿通する領域では、熱接着糸23とカバーリング糸22とは、互いに異なる方向にループ状部分25を通過する。この場合、レース編地20をウエール方向Wに引っ張ることで、熱接着糸23とカバーリング糸22とで囲まれた領域が互いにウエール方向Wに近接して、熱接着糸23、カバーリング糸22、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25が互いに接近する接近部分34が生じる。このようにウエール方向Wに引っ張った状態でレース編地20を加熱することで、接近部分34で熱接着糸23の一部を溶かすことができ、熱接着糸23、カバーリング糸22、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25を接着する接着力を高めることができる。
【0074】
また本実施の形態では、熱接着糸23の繊度は、10デニール以上300デニール以下に設定され、鎖編糸は、20デニール以上70デニール以下に設定される。熱接着糸が10デニール未満であると、編レースの熱接着糸のすべてが溶けるおそれがあり、また熱接着糸の一部が溶けるようにしても、他の糸と熱接着糸との接着量が不足するおそれがある。この場合、糸のほつれが生じてしまう場合がある。また熱接着糸が300デニールを超えると、熱接着糸によって下地部と柄部との糸の疎密差が少なくなることに起因して、編レースのすけ感が低下し、美感が低下してしまう。また編レースが硬くなってしまう。これに対して、本発明では、熱接着糸を10デニール以上でかつ300デニール以下とすることで、糸のほつれを解消するとともに、美感の低下を抑えることができる。また熱接着糸は、70デニール以下であることによって、美感の低下をさらに抑えることができる。
【0075】
図9は、第1実施形態のレース編地20を編成するためのバックジャカードラッシェル編機60の編成部を示す側面図である。レース編地20は、たとえばバックジャカードラッシェル編機によって編成することができる。バックジャカードラッシェル編機60(以下単に編機60と称する)は、鎖編糸21、カバーリング糸22、熱接着糸23を編み針72近傍に設けられる編成位置73に向けて導糸する導糸手段を有する。本実施形態では、熱接着糸23を編成位置73に向けて導糸する導糸手段が、カバーリング糸22を編成位置73に向けて導糸する導糸手段よりも、編機後方に配置される。ここで編機後方とは、編み針72の背面からフック部へ向かう方向である。
【0076】
具体的には、編機が有する導糸手段は、熱接着糸用筬61、ジャカードバー62,63、複数の柄筬64、および地筬65によって実現される。鎖編糸21は地筬65に通糸され、カバーリング糸22はジャカードバー62,63に通糸され、熱接着糸23は熱接着糸用筬61に通糸される。また柄模様を形成するための糸である柄糸がウエール26に編込まれる場合には、それらの柄糸は、複数の柄筬64に通糸される。以下、熱接着糸23およびカバーリング糸22のほかに、柄糸が編込まれる場合について説明する。
【0077】
このような各導糸手段61〜65は、編み針72が鎖編糸21を捕捉する編成位置73に向かって、放射状に並び、編み針72が鎖編糸21を捕捉する方向となる編機後方に向かうにつれて、地筬65、複数の柄筬64、ジャカードバー62,63、熱接着糸用筬61の順に配置される。したがって各糸は、鎖編糸21、複数の柄糸、カバーリング糸22および熱接着糸23の順で、予め定める編成位置から編機後方に並ぶ。
【0078】
編み針72は、編機前後方向に直交する方向に複数並んで形成され、各編み針72を保持する保持手段となるニードルバー69に固定される。ニードルバー69は、各編み針72を昇降運動する。またニードルバー69が動作して、各導糸手段61〜65に導糸される各糸が予め定める編成位置に導かれる。
【0079】
それぞれの導糸手段61〜65は、対応する各糸を、編み針72の昇降運動に同期して、編み針72に対して編機後方の空間で対応する各糸を、編み針72が並ぶ方向に移動させるオーバーラップ(編目編成運動)と、編み針72に対して編機前方の空間で対応する各糸を、編み針72が並ぶ方向に移動させるアンダーラップ(挿入運動)とを行う。またこれらのラップ運動に加えて編み針72が並ぶ方向に直交する方向に移動するいわゆるスイング(揺動運動)がなされる。具体的には、2つのスイング動作がある。
【0080】
第1のスイング動作であるスイングイン(バックスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機後方の空間から編機前方の空間に対応する各糸を移動させる。また第2スイング動作であるスイングアウト(フロントスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機前方の空間から編機後方の空間に対応する各糸を移動させる。各導糸手段61〜65に取付けられたガイドが動作することによって、対応する各糸が編み針72のまわりを予め定められる経路に従って通過し、対応する各糸を含む編地が形成される。
【0081】
また編成部73は、ステッチコームバー71、トリックプレートバー68およびトングバー70を備える。トングバー70は、先端部に各編み針に対応した複数のトングが形成される。編機60は、導糸手段61〜65およびニードルバー69の動作によって、上述したレース編地20を編成する。そしてステッチコームバー71の編成補助作用によって編成されたレース編地20を補助編成し、トリックプレートバー68を通過させて、編成部の近傍に設けられる巻き取り部によって、レース編地20を巻き取る。
【0082】
図10は、鎖編部分26の編み針72と地筬66との動きを説明するために模式的に示す断面図であり、図10(1)〜図10(5)の順に鎖編糸21の鎖編部分26の編成作業が進む。編み針72は、先端部に鎖編糸21を係止するフック部50が形成され、基端部に編み針幹51が形成される。またトングバー70の先端部には、フック部50によって形成される開口を開閉するためのトング52が形成される。編み針72およびトング52は、地筬65に対して個別に昇降可能に形成される。図10を用いて、まずウエール26の編成についてのみ説明し、ウエール26に編込まれるカバーリング糸22および熱接着糸23については後述する。
【0083】
図10(1)に示すように、地筬65が編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が、鎖編糸21によって形成される新たな第1ループ状部分24jを引っ掛け、トング52がフック部50の開口を塞ぐ。次に図10(2)に示すように、編み針72がトング52に対して地筬65に向かって上昇する。これによってフック部50の開口が開放されて、フック部50が引っ掛けた鎖編糸21の第1ループ状部分24jがフック部50から抜け出て、編み針幹51に移動する。
【0084】
次に図10(3)に示すように、地筬65が編み針72に対してバックスイングする。次に、地筬65がオーバーラップし、さらにフロントスイングする。これによって地筬65に導糸される鎖編糸21が、編み針72を巻き込むように移動して、新しい第1ループ状部分24kを形成する。この新しい第1ループ状部分24kは、フック部50によって引っ掛けられる。次に図10(4)に示すように、トング52がフック部50に向かって上昇し、フック部50の開口を塞ぐ。このとき編み針72には、編み針幹51に形成される古い第1ループ状部分24jとフック部50が係止する新しい第1ループ状部分24kとが形成される。
【0085】
次に図10(5)に示すように、編み針72とトング52とがともに降下することによって、古い第1ループ状部分24jが編み針72を抜出て、トリックプレート53側に移動する。そして地筬65が編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が鎖編糸21によって形成される新たな第1ループ状部分24kを引っ掛け、図10(1)とほぼ同じ状態となる。そして図10(1)〜図10(5)を用いて示した動作サイクルを繰返すことによって、第1ループ状部分24が順次形成されるとともに、各第1ループ状部分24j,24kを連結する第2ループ状部分25jが順次形成されるウエール26が形成される。本実施例では、地筬65が適宜アンダーラップすることによって、複数のウエール26がウエール方向Wに連結される。このようなウエール26の編成作業を行いながら、カバーリング糸22および熱接着糸23などの挿入糸をウエール26に編込むことによって、本実施の形態のレース編地20を編成することができる。
【0086】
図11は、ジャカードバー62および熱接着糸用筬61の動きを説明するために模式的に示す断面図であり、図11(1)〜図11(3)の順に動作が進む。図11(1)は図10(3)に、図11(2)は図10(4)に、図11(3)は図10(5)にそれぞれ対応し、それぞれジャカードバー62および熱接着糸用筬61を加えて示す図である。上述したように編機60は、鎖編糸を導糸する地筬65よりも、ジャカードバー62,63のほうが編機後方に配置される。またジャカードバー62,63よりも、熱接着糸用筬となる熱接着糸用筬61のほうが編機後方に配置される。
【0087】
図11(1)および図11(3)に示すように、地筬66が編み針72に対して編機後方に配置される状態では、ジャカードバー62および熱接着糸用筬61もまた編み針72に対して編機後方に配置される。また図11(2)に示すように、地筬66が編み針72に対して編機前方に配置される状態では、ジャカードバー62および熱接着糸用筬61もまた編み針72の前方に配置される。
【0088】
またジャカードバー62および熱接着糸用筬61は、図11(2)に示すように、地筬66がバックスイングした状態で、アンダーラッピングすることで、導糸される熱接着糸23およびカバーリング糸22が鎖編糸21を跨ぐ。この状態で、鎖編糸21によって新たにループを形成すると、そのループに熱接着糸23およびカバーリング糸22が編込まれることになる。このように熱接着糸用筬61およびジャカードバー62は、地筬66のスイング動作に同期して動作する。
【0089】
ジャカードバー62が熱接着糸用筬61よりも編機前方に配置される。これによって、地筬66によって形成される鎖編部分26に熱接着糸23およびカバーリング糸22が編込まれる場合、編成位置に導糸される熱接着糸23のほうが、編成位置に導糸されるカバーリング糸22よりも編機後方に配置され、カバーリング糸22のほうが熱接着糸23よりもレース編地20の表面側に位置することになる。
【0090】
図12は、図2におけるS領域を模式的に示す組織図であり、図12(1)に鎖編糸21の組織図を示し、図12(2)に熱接着糸23の組織図を示す。
【0091】
たとえば任意の位置にある編み針72を第1編み針72aとし、第1編み針72aに対してウエール方向一方W1に隣接する編み針72を第2編み針72bとし、第2編み針72bに対してウエール方向一方W1に隣接する編み針72を第3編み針72cとする。第1編み針72aと第1編み針72aに対してウエール方向他方W2に配置される編み針72との間の間隔を第1編み針間L1とし、第1編み針72aと第2編み針72bとの間の間隔を第2編み針間L2とし、第2編み針72bと第3編み針72cとの間の間隔を第3編み針間L3とし、第3編み針72cと第3編み針72cに対してウエール方向一方W1に配置される編み針72との間の間隔を第4編み針間L4とする。
【0092】
各鎖編糸21を導糸する地筬65は、各鎖編糸21について同様の編成動作を行う。第1コースC1において、第2編み針72bに鎖編糸21を引っ掛ける鎖編糸ガイドに注目して説明し、残余の鎖編糸ガイドについての説明を省略する。
【0093】
図12(1)に示すように、第1コースC1では、注目する鎖編糸ガイドは、第3編み針間L3をバックスイングし、オーバーラップして第2編み針間L2を通ってフロントスイングする。第2コースC2では、注目する鎖編糸ガイドは、第2編み針間L2をバックスイングし、オーバーラップして第2編み針間L2を通ってフロントスイングする。
【0094】
第3コースC3では、注目する鎖編糸ガイドは、第4編み針間L4にアンダーラップし、第4編み針間L4をバックスイングし、オーバーラップして第3編み針間L3を通ってフロントスイングする。第4コースC4では、注目する鎖編糸ガイドは、第3編み針間L3をバックスイングし、オーバーラップして第4編み針間L4を通ってフロントスイングする。第5コースC5では、注目する鎖編糸ガイドは、第4編み針間L4をバックスイングし、オーバーラップして第3編み針間L3を通ってフロントスイングする。
【0095】
第6コースC6では、第4コースC4と同様の動作を行い、第7コースC7では、第5コースC5と同様の動作を行う。第8コースC8では、注目する鎖編糸ガイドは、第4編み針間L4にアンダーラップし、第4編み針間L4をバックスイングし、オーバーラップして第3編み針間L3を通ってフロントスイングする。第9コースC9では、注目する鎖編糸ガイドは、第2編み針間L2にアンダーラップし、第2編み針間L2をバックスイングし、オーバーラップして第3編み針間L3を通ってフロントスイングする。
【0096】
このように地筬65は、鎖編糸21ごとに設けられるガイドを用いて、各コースで各編み針72に、所定の鎖編糸21を引っ掛ける動作を繰返し行う。これによって、連鎖状に延びる鎖編部分26を形成することができる。また本実施の形態では、編機60は、各コースで編み針72に鎖編糸21を引っ掛ける過程で、適宜アンダーラップさせる。これによって第2ループ状部分25をウエール方向一方W1およびウエール方向他方W2に横振りさせることができ、ウエール方向Wに隣接するウエール26を連結して、ほつれ防止機能を有する鎖編組織を形成することができる。
【0097】
熱接着糸用筬61によって熱接着糸23は、地筬65に同期してスイング動作を行う。各熱接着糸23を導糸する熱接着糸用筬61は、各熱接着糸23について同様の編成動作を行う。第1コースC1において、第2編み針間L3に熱接着糸23を位置させる熱接着糸ガイドについて注目して説明し、残余の熱接着糸ガイドについての説明を省略する。
【0098】
図12(2)に示すように、第1コースC1では、注目する熱接着糸ガイドは、第2編み針間L2をアンダーラップして、第3編み針間L3に達する。また第2コースC2では、第3編み針間L3をアンダーラップして、第2編み針間L2に達する。注目する熱接着糸ガイドは、第2コースC2以降、第1コースC1および第2コースの動作を順に繰返す。このように熱接着糸23は、熱接着糸用筬61によって、地筬65のスイング動作と同期して、隣接する2つの編み針間の間をアンダーラップして往復する。
【0099】
また熱接着糸以外の挿入糸、たとえばカバーリング糸22についても、ジャカードバー62が地筬65のスイング動作と同期して、予め定める位置で予め定める距離と方向とについてアンダーラップを繰返す。同様に柄糸についても、柄筬64が地筬65のスイング動作と同期して、予め定める位置で予め定める距離と方向とについてアンダーラップを繰返す。
【0100】
このように熱接着糸用筬61、ジャカードバー62,63、複数の柄筬64、地筬65および編み針72が編成動作を行うことで、S領域に形成するレース編地部分を形成することができる。編機60は、編機後方に向かうにつれて、地筬65、カバーリング糸用筬62,63および熱接着糸用筬61の順に配置されることによって、カバーリング糸22を熱接着糸23よりも、レース編地20の表側に配置することができ、図1および図2に示す本実施の形態のレース編地20を形成することができる。
【0101】
図13は、編レース製品の製造手順を示すフローチャートである。まず、ステップs0で、編成すべき編レースの模様を決定すると、ステップs1に進む。ステップs1では、鎖編糸21、カバーリング糸22、熱接着糸23および柄糸を用意し、ステップs0で決定した模様となるように、編機60の各導糸手段の動作プログラムを入力する。次に、編機60を動作させる。これによって所望の模様を有するレース編地20を編成することができる。レース編地20の編成作業が完了するとステップs2に進む。
【0102】
ステップs2では、ステップs1で編成したレース編地20を染色し、染色が完了すると、ステップs3に進む。ステップs3では、レース編地20を整えるために、レース編地20を予め定める温度に加熱する。このとき、レース編地20は、ウエール方向Wに引っ張られた状態で加熱される。これによってレース編地20が整うとともに、上述した熱接着糸23の一部が溶融し、隣接する他の糸に付着する。レース編地20の加熱を予め定める温度で予め定める時間加熱することによって、編レース20Aを形成し、ステップs4に進む。本実施の形態では、150〜160℃に保った状態で、60秒維持することによって、レース編地20を整える。編レース20Aは、レース編地20Aが加熱されているので、熱接着糸23の一部が他の糸に固着している。
【0103】
こうして製造された編レースは、女性用下着などの所要の立体形状とするため、たとえば180℃の加熱温度で金型によってモールド成型加工される。
【0104】
ステップs4では、モールド成型後の編レース20Aを裁断して個別の加工品に分割するとともに、裁断した編レース20Aの加工品を縫製することによって、編レース製品を製造し、編レース製品を製造するとステップs5に進み、作業を終了する。
【0105】
ステップs5における裁断縫製工程時には、熱接着糸23の一部が他の糸に固着しているので、鎖編組織の結束が強化されている。したがって裁断または縫製時に、各糸がほつれることが防がれ、製造される編レース製品の歩留まりを向上して、品質を向上することができる。また製造された編レース製品についても鎖編組織の結束が強化されているので、着用または洗濯などの使用に起因するほつれを抑えることができ、編レース製品の耐久性を向上することができる。またステップs3に示す加熱工程において、レース編地をウエール方向Wに引っ張った状態で加熱することによって、ループ状部分24,25にカバーリング糸22と熱接着糸23とが近接することになる。これによって熱接着糸23によって、ループ状部分24,25とカバーリング糸22とを強固に接着することができる。
【0106】
図14は、本発明の第2実施形態であるレース編地20Bの一部を模式的に示す編成組織図である。第2実施形態のレース編地20Bは、第1実施形態のレース編地20に比べて熱接着糸23が第2ループ状部分25を通過する方向が異なり、他の構成については同様である。したがって第1実施形態のレース編地20と同様の構成については、同様の参照符号を付して、説明を省略する。
【0107】
本実施形態では、熱接着糸23は、カバーリング糸22と同方向に第2ループ状部分25を通過し、第1ループ状部分24と、カバーリング糸22との間を挿通する。具体的には、熱接着糸23およびカバーリング糸22は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。
【0108】
このように熱接着糸23がカバーリング糸22と同方向に第2ループ状部分25を挿通することで、カバーリング糸22と熱接着糸23との接触部分を増やすことができ、熱接着糸23がカバーリング糸22を接着する接着力を向上することができる。これによってカバーリング糸22のほつれをさらに確実に防ぐことができる。
【0109】
また他の実施形態として、熱接着糸23およびカバーリング糸22は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する場合も本発明に含まれる。
【0110】
また熱接着糸23は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過し、カバーリング糸22は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する場合も本発明に含まれる。
【0111】
図15は、本発明の第3実施形態であるレース編地20Cの一部を模式的に示す編成組織図である。図14は、鎖編糸21、熱接着糸23および伸縮糸27以外の糸を省略してレース編地20Cを模式的に示す編成組織図である。第3実施形態のレース編地20Cは、第1実施形態のレース編地20に比べて、熱接着糸23とは別に、伸縮性を有する伸縮糸27がさらに編込まれ、他の構成については同様である。したがって第1実施形態のレース編地20と同様の構成については、同様の参照符号を付して、説明を省略する。
【0112】
第3実施形態のレース編地20Cは、熱接着糸23とは別に伸縮糸27が伸張状態で編込まれることで、編成後のレース編地20Cが収縮する。これによってレース編地20Cに伸縮性を与えることができる。たとえば伸縮糸は、ポリウレタン弾性糸、いわゆるスパンデックスが用いられる。
【0113】
伸縮糸27は、カバーリング糸22よりも第1ループ状部分24側を延びる。また伸縮糸27と熱接着糸23とは、同じ方向に第2ループ状部分25を通過して、鎖編組織に編込まれる。言換えると、熱接着糸23は、伸縮糸27と同様に延びて編込まれる。伸縮糸27は、各ウエール26に編込まれて、それぞれウエール26に沿ってコース方向Cに進みにつれてジグザグに通過する。
【0114】
本実施の形態では、伸縮糸27および熱接着糸23は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。またカバーリング糸は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。したがって伸縮糸27と熱接着糸23とカバーリング糸22とがともに同じループを通過する部分では、伸縮糸27および熱接着糸23が、カバーリング糸22に交差する。
【0115】
第3実施形態のように熱接着糸23がレース編地20Cに編込まれた場合についても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち熱接着糸23が、他の糸を接着することによって、各糸のほつれを防ぐことができる。また熱接着糸23が、カバーリング糸22と鎖編糸21とを接着することによって、熱接着糸23が鎖編組織から抜ける、いわゆるスパン抜けを防ぐことができる。
【0116】
また第3実施形態では、レース編地20をウエール方向Wに引っ張ることで、伸縮糸27とカバーリング糸22とで囲まれた領域が互いにウエール方向Wに近接して、熱接着糸23、カバーリング糸22、伸縮糸27、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25が互いに接近する接近部分34が生じる。このようにウエール方向Wに引っ張った状態でレース編地20を加熱することで、接近部分34で熱接着糸23の一部を溶かすことができ、熱接着糸23、伸縮糸27、カバーリング糸22、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25を接着する接着力を高めることができる。また第3実施形態では、伸縮糸27と熱接着糸23とが同方向に延びることによって、熱接着糸23が伸縮糸27に接触する接触部分を増やすことができ、伸縮糸27が抜けることをより確実に防ぐことができる。
【0117】
また図15に示すレース編地20Cは、伸縮糸27に比べて、熱接着糸23が第1ループ状部分24側に配置されるように見える。伸縮糸27と熱接着糸23とが同じ方向に進んでループ状部分に編込まれる場合には、伸縮糸27と熱接着糸23とが並走して進むので、熱接着糸23は、伸縮糸27に比べて第2ループ所部分25側に配置される場合がある。また熱接着糸23は、伸縮糸27と厚み方向Zに並んで配置される場合がある。このように伸縮糸27と熱接着糸23との位置関係がランダムとなることによって、熱接着糸23がカバーリング糸22と伸縮糸27との間に配置されることもある。これによって、カバーリング糸22と伸縮糸27とを接着するとともに、鎖編糸21と伸縮糸27とを接着することができる。
【0118】
図17は、本発明の第4実施形態であるレース編地20Dの一部を模式的に示す編成組織図である。図18は、鎖編糸21、熱接着糸23および伸縮糸27以外の糸を省略してレース編地20Dを模式的に示す編成組織図である。第4実施形態のレース編地20Dは、第2実施形態のレース編地20Bに比べて、熱接着糸23とは別に、伸縮性を有する伸縮糸27がさらに編込まれ、他の構成については同様である。したがって第1実施形態のレース編地と同様の構成については、同様の参照符号を付して、説明を省略する。
【0119】
第4実施形態のレース編地20Dは、熱接着糸23とは別に伸縮糸27が伸張状態で編込まれることで、編成後のレース編地20Dが収縮する。これによってレース編地20Dに伸縮性を与えることができる。たとえば伸縮糸は、ポリウレタン弾性糸、いわゆるスパンデックスが用いられる。
【0120】
伸縮糸27は、カバーリング糸22よりも第1ループ状部分24側を延びる。また伸縮糸27と熱接着糸23とは、交差する方向に第2ループ状部分25を通過して、鎖編組織に編込まれる。言換えると、熱接着糸23は、伸縮糸27とは異なる方向に延びて編込まれる。伸縮糸27は、各ウエール26に編込まれて、それぞれウエール26に沿ってコース方向Cに進みにつれてジグザグに通過する。
【0121】
本実施の形態では、伸縮糸27は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。またカバーリング糸22および熱接着糸23は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。したがって伸縮糸27と熱接着糸23とカバーリング糸22とがともに同じループを通過する部分では、伸縮糸27が、熱接着糸23およびカバーリング糸22に交差する。
【0122】
第4実施形態のように熱接着糸23がレース編地20Dに編込まれた場合についても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち熱接着糸23が、他の糸を接着することによって、各糸のほつれを防ぐことができる。また熱接着糸23が、カバーリング糸22と鎖編糸21とを接着することによって、熱接着糸23が鎖編組織から抜ける、いわゆるスパン抜けを防ぐことができる。
【0123】
また第4実施形態では、レース編地20をウエール方向Wに引っ張ることで、伸縮糸27とカバーリング糸22とで囲まれた領域が互いにウエール方向Wに近接して、熱接着糸23、カバーリング糸22、伸縮糸27、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25が互いに接近する接近部分34が生じる。このようにウエール方向Wに引っ張った状態でレース編地20を加熱することで、接近部分34で熱接着糸23の一部を溶かすことができ、熱接着糸23、伸縮糸27、カバーリング糸22、第1ループ状部分24および第2ループ状部分25を接着する接着力を高めることができる。
【0124】
本実施の形態では、カバーリング糸22と熱接着糸23とが同方向に延びることによって、熱接着糸23がカバーリング糸22に接触する接触部分を増やすことができ、カバーリング糸22が抜けることをより確実に防ぐことができる。また熱接着糸23と伸縮糸27とが交差することによって、熱接着糸23が伸縮糸27に接着して、伸縮糸27を拘束する拘束部分を少なくすることができる。これによってレース編地の伸縮性の低下を抑えつつ、スパン抜けを防ぐことができる。
【0125】
図19は、本発明の第5実施形態であるレース編地20Eの一部を模式的に示す編成組織図である。第5実施形態のレース編地20Dは、第4実施形態のレース編地20Bに比べて、伸縮糸27の延びる方向が異なり、他の構成については同様である。本実施の形態では、伸縮糸27は、注目する第1ループ状部分24aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分24aとコース方向同段の第2ループ状部分25aを通過する。したがって伸縮糸27、カバーリング糸22および熱接着糸23がともに同じ第2ループ状部分25を通過する場合には、同方向に通過する。伸縮糸27、カバーリング糸22および接接着糸23がともに同じ第2ループ状部分を通過する部分では、それらの各糸22,23,27が近接した位置に位置する。したがって熱接着糸23が溶融した場合には、カバーリング糸22と伸縮糸27との接着力を高めることができる。
【0126】
図20は、第3〜5実施形態のレース編地20C〜20Eを編成するためのバックジャカードラッシェル編機60Cの編成部を示す側面図である。編機60は、ジャカードバー62と、熱接着糸用筬61との間に、伸縮糸27を編成位置73に向けて導糸する導糸手段となる伸縮糸用筬66が配置される。その他の構成については、図9に示す編機と同様であるので説明を省略する。
【0127】
このように伸縮糸用筬66および熱接着糸用筬61が配置されることで、カバーリング糸22よりも裏側に伸縮糸用筬66および熱接着糸用筬61が配置されることなる。これによって、レース編地20Cを表側から見た場合に、カバーリング糸22によって伸縮糸27および熱接着糸23が隠れることになる。これによってレース編地の模様を明確にすることができる。またジャカードバー62,63、伸縮糸用筬66および熱接着糸用筬61の動作を異ならせることによって、第3〜第5実施形態に示すレース編地20C〜20Dを編成することができる。また伸縮糸用筬と熱接着糸用筬とは、前後が逆に配置されてもよい。この場合、第3〜第5実施形態のレース編地のうちで、伸縮糸と熱接着糸との上下が逆となる。このような伸縮糸と熱接着糸との糸の上下が入れ替わる場合であっても、本発明に含まれる。また上述したバックジャカード編機のほか、ジャカードバー62,63が、柄糸よりも編機前方に配置されるフロントジャカード編機で編成されたレース編地も、熱接着糸が編込まれる場合には、本発明に含まれる。
【0128】
以上のように第2〜第5実施形態のレース編地であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また上述する本発明の実施の一形態は、発明の例示に過ぎず、発明の範囲内で構成を変更することができる。たとえば本実施の形態では、ほつれ防止機能を有する鎖編組織に、熱接着糸23およびカバーリング糸22が編込まれたが、基となる編地は、鎖編に形成されていればよく、上述する鎖編組織に限定されない。たとえば鎖編糸21の第2ループ状部分が横振りしない鎖編組織、すなわちほつれ止め効果を有しない鎖編組織であっても同様の効果を得ることができる。また基礎となる編地は、基本的なチェーンステッチ組織のほか、チュール編地であってもよく、パワーネット組織に形成されていてもよい。パワーネット組織に形成されることで、多方向に伸縮性を有して、はっきりとした柄模様を形成することができる。また基礎となる編地は、広巾レース(オールオーバレース)および細巾レースであってもよい。
【0129】
また本実施の形態では、挿入糸をカバーリング糸としたがこれに限定されない。また挿入糸を柄糸としてもよく、浮かし糸としてもよい。また熱接着糸23は、すべての鎖編部分に編込まれる必要はなく、ウエール方向Wに間隔をあけて鎖編部分に編込まれてもよい。このように上述する実施形態に示すレース編地組織は、一例示に過ぎず、基礎となる編地の組織、各挿入糸の編込みかた、鎖編糸および各挿入糸の種類について、適宜変更することが可能である。また熱接着糸23は、非被覆糸であるとしたが、芯糸と被覆糸とによって構成されるカバーリング糸によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0130】
20 レース編地
21 鎖編糸
22 カバーリング糸
23 熱接着糸
24 第1ループ状部分
25 第2ループ状部分
26 鎖編部分
C コース方向
W ウエール方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖編糸によって、複数のループ状部分が形成される鎖編組織を有するレース編地であって、
鎖編組織は、鎖編糸よりも低い溶融温度を有する挿入糸が編込まれる部分を有し、
前記鎖編組織は、第1ループ状部分と第2ループ状部分とが交互に連なって予め定めるコース方向に複数段並び、注目する第2ループ状部分が、その第2ループ状部分のコース方向前段の第1ループ状部分を挿通してコース方向後段に向かって延び、かつ前記第2ループ状部分のコース方向同段の第1ループ状部分を挿通して、コース方向後段の第1ループ状部分に連なることによって連鎖状に形成されてコース方向に延び、
前記挿入糸は、伸縮性を有することを特徴とするレース編地。
【請求項2】
前記挿入糸は、複数のループ状部分が連なって形成されるウエールに沿って延びて、鎖編組織に編込まれることを特徴とする請求項1記載のレース編地。
【請求項3】
前記挿入糸は、カバーリング糸から成り、芯糸が熱溶融性を有することを特徴とする請求項1または2記載のレース編地。
【請求項4】
前記鎖編組織は、熱接着糸と、挿入糸とが編込まれる部分を有し、熱接着糸および挿入糸がともに編込まれる部分では、第1ループ状部分と第2ループ状部分との間を挿入糸が挿通し、挿入糸と第1ループ状部分との間を熱接着糸が挿通されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のレース編地。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のレース編地によって製造される編レース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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