説明

レーダ反射装置

【課題】 人と同様の電磁波の反射状況を作ることができ、人との衝突試験に好適に用いることができるレーダ反射装置を提供する。
【解決手段】 レーダ反射装置1は、回転軸部材2を備えており、回転軸部材2の周囲には複数のコーナリフレクタ3が取り付けられている。これらのリフレクタ3は、回転軸C方向に互いに等間隔で設定された第一交差線L1〜第四交差線L4上にそれぞれ3つずつ配置されており、互いに120度の間隔をおいて等間隔で配置されている。また、隣接する交差線同士の間で、各リフレクタは30度の位相差をもった位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダに用いられるレーダ反射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両と人との衝突を模擬した試験である衝突試験などにおいては、マイクロ波やミリ波などの電磁波を反射させるレーダ反射装置が用いられる。この衝突試験では、車両に取り付けられた電磁波発信機から電磁波を発生させ、人に模したレーダ反射装置に電磁波を反射させるという試験である。この種の衝突試験で用いられるレーダ反射装置では、電磁波を反射させることが要求される。
【0003】
これに対して、特開2003−147732号公報(特許文献1)に開示された報知器がある。この報知器は、芯体の外周面に120度の角度をあけて3枚の羽根を取り付けた回転体を有し、この羽根に光を反射させて、報知器の設置場所の状況等を報知するというものである。
【特許文献1】特開2003−147732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された報知器は、その構造から車両と人との衝突試験におけるレーダ反射装置に用いることが考えられる。ところが、上記特許文献1に開示された報知器では、3枚の羽根が120度の角度をあけて配置されているのみである。このため、人を模した衝突試験に用いる際、人と同等の電磁波の反射状況を作るのが困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、人と同様の電磁波の反射状況を作ることができ、人との衝突試験に好適に用いることができるレーダ反射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明に係るレーダ反射装置は、回転部材に取り付けられる回転軸部材と、回転軸部材に取り付けられた複数のリフレクタとを有する反射装置であって、複数のリフレクタは、回転軸部材の回転軸に沿った方向に見て、回転軸周りに互いに30度の間隔をおいて配置されているものである。
【0007】
本発明に係るレーダ反射装置では、複数のリフレクタは、回転軸部材の回転軸方向に見て、回転軸周りに互いに30度の間隔をおいて配置されている。このように複数のリフレクタを配置すると、後の実施形態で説明するように、人と同様の電磁波の反射状況を作ることができる。したがって、人との衝突試験に好適に用いることができる。
【0008】
なお、本発明にいう「30度」とは厳密に30度の角度を要求されるものではなく、30度に対する誤差が±1度以下、または±2度以下程度に収まる範囲での角度を含むものである。
【0009】
ここで、複数のリフレクタの配置位置は、回転軸に直交する仮想第一面上に互いに120度の間隔をおいた位置と、仮想第一面に対して回転軸に沿って離間する仮想第二面に互いに120度の間隔をおき、仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、30度の位相差を持った位置と、仮想第一面に対して回転軸に沿って離間し、仮想第二面と異なる位置にある仮想第三面に互いに120度の間隔をおき、仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、60度の位相差をもった位置と、仮想第一面に対して回転軸に沿って離間し、仮想第二面および仮想第三面と異なる位置にある仮想第四面に互いに120度の間隔をおき、仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、90度の位相差をもった位置と、されている態様とすることができる。
【0010】
このように、回転軸に直交する仮想第一面から仮想第四面を設定し、これらの仮想面に位相差を持たせて複数のリフレクタを配置することにより、リフレクタが大きい場合でも、上記の30度の間隔をおいて複数のリフレクタを配置することができる。また、本発明にいう「60度」、「90度」「120度」といった角度についても、厳密な角度を要求されるものではなく、誤差が±1度以下、または±2度以下程度に収まる範囲での角度を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るレーダ反射装置によれば、人と同様の電磁波の反射状況を作ることができ、人との衝突試験に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。図1(a)は本発明の実施形態に係るレーダ反射装置の斜視図、(b)はリフレクタの斜視図、図2は回転軸部材の斜視図、図3(a)は仮想第一面における断面図、(b)は仮想第二面における断面図、(c)は仮想第三面における断面図、(d)は仮想第四面における断面図である。
【0013】
図1(a)に示すように、本実施形態に係るレーダ反射装置1は、回転軸部材2を備えている。回転軸部材2は、円筒状をなしており、下端部には、回転軸部材2を回転させる回転装置が取り付け可能となっている。この回転装置によって回転軸部材2を回転させることにより、回転軸部材2は、その中心線と重なる回転軸Cを中心として回転(自転)する。
【0014】
また、回転軸部材2の周囲には、複数、本実施形態では12個のコーナリフレクタ(以下「リフレクタ」という)3が取り付けられている。これらの12個のリフレクタ3は、いずれも同一の構造をなしている。リフレクタ3は、図1(b)に示すように、正三角形を4つ集めてなる正三角錐形状からその一面を開放させた形状の基部10と、この基部10の内側に設けられた反射部11とを有している。基部10は、非金属であるウレタン製であり、反射部11は、金属であるアルミ製である。反射部11は、基部10の内側に貼り付けられており、基部10における開口部を介して反射部11が視認できるようになっている。また、レーダ反射装置1に向けられたミリ波などの電磁波は、リフレクタ3の基部10における開口部から基部10の内側に入り込み、反射部11に到達し、反射部11によって反射される。
【0015】
次に、複数のリフレクタ3の配置について説明する。リフレクタ3の配置を説明するにあたり、回転軸部材2における回転軸C(図1)に直交する仮想面を設定する。仮想面は、仮想第一面から仮想第四面まで設定されており、図2に示すように、これらの仮想面は、面と回転軸部材2の外周面における第一交差線L1〜第四交差線L4とそれぞれ交わっている。また、第一交差線L1と第二交差線L2との離間距離、第二交差線L2と第三交差線L3との離間距離、および第三交差線L3と第四交差線L4との離間距離は、いずれも同一に設定されている。
【0016】
リフレクタ3は、第一交差線L1〜第四交差線L4上にそれぞれ3つずつ配置されており、互いに120度の間隔をおいて等間隔で配置されている。ここで、図3(a)に示すように、第一交差線L1上におけるリフレクタ3の配置位置を基準位置Bとすると、第二交差線L2上のリフレクタ3は、図3(b)に示すように、基準位置Bから30度の位相差をもった位置に配置されている。また、第三交差線L3上のリフレクタ3は、図3(c)に示すように、基準位置Bから60度の位相差をもった位置に配置されており、第四交差線L4上のリフレクタ3は、図3(d)に示すように、基準位置Bから90度の位相差をもった位置に配置されている。
【0017】
このように、回転軸Cに沿った方向に見て、リフレクタ3を前記回転軸周りに互いに30度の間隔をおいて配置することにより、人と同等の電磁波の反射状況を作ることができる。以下、人の電磁波の反射状況について説明する。
【0018】
図4は、人体からの電磁波の典型的な反射状況を示すグラフである。図4から見て取れるように、人体から反射された電磁波は、以下の傾向がある。1つ目の傾向として、低周波数成分の変化が連続的となっている。2つ目の傾向として、連続的に変化する低周波数よりも高周波成分がランダムに変化している。3つ目の傾向として、低周波成分の変化を示す山の幅が時間的に変動している。
【0019】
これらの傾向から考えられることとして、人体の低周波数変化における山同士の間で、山から谷のレベル差を15dB程度は確保する必要がある。したがって回転した状態で使用される本実施形態に係るレーダ反射装置に対して、円周方向にリフレクタを連続的に設置することで、低周波の山の変化を表現することができる。
【0020】
以上の考察に基づいて、本発明者らは、リフレクタ3の配置を変えてレーダ反射装置からの反射状況を確認する試験を行った。まず、試験1では、1個のリフレクタを用いたレーダ反射装置における電磁波の受信レベルを測定した。また、試験2では、3個のリフレクタを用いたレーダ反射装置における電磁波の受信レベルを測定した。3個のリフレクタの配置位置は、それぞれ基準位置(0度)、基準位置との間の角度がそれぞれ30度、−30度となる位置とした。さらに、試験3では、5個のリフレクタを用いたレーダ反射装置における電磁波の受信レベルを測定した。5個のリフレクタの配置位置は、それぞれ基準位置(0度)、基準位置との間の角度が30度、60度、−30度、−60度となる位置とした。
【0021】
これらの位置にそれぞれリフレクタを配置したレーダ反射装置を回転させながらミリ波を送り、その反射波の受信レベル(dBm)を計測した。このようにして行った試験によって得られたデータを試験1について図5(a)に、試験2について図5(b)に、試験3について図5(c)にそれぞれ示す。なお、各データにおいて、横軸に設定される角度は、レーダ反射装置におけるリフレクタの配置角度を示している。ここで、レーダ反射装置を使用する際にはレーダ反射装置を回転させて使用するので、横軸の角度変化は、実際の人体からの反射電力の時間変化と等価と考えることができる。
【0022】
図5(a)に示すように、試験1の結果から、1個のリフレクタについて、±45度程度の範囲までは、リフレクタからの反射を検出することができることが確認できた。また、図5(b)に示すように、試験2の結果から、リフレクタの間隔が±30度の範囲では、基準位置に配置されたリフレクタの受信信号にランダムな高周波成分が重畳していることが確認できた。さらに、図5(c)に示すように、試験3の結果から、リフレクタの受信信号が、基準位置に配置されたリフレクタの受信信号の脇に重畳した状態となった。この重畳した位置における山と谷との受信レベルの差は15dB程度であった。
【0023】
これらの試験1〜試験3の結果と典型的な人体からの反射の傾向とを比較すると、試験1におけるレーダ反射装置の場合、±45度を超える範囲では、ノイズ相当となるとみなせるので、レーダ反射装置の正面から±45度程度の範囲でしか検出を行うことができないものとなる。このことから、レーダ反射装置を回転させながら使用することを考慮すると、±45度内の波形である低周波の山を時間的に連続的に得るためには、リフレクタの間隔を±45度以内とすればよいことになる。また、試験3の結果から、リフレクタの間隔を±60度以内とすることにより、山同士の間の山〜谷で15dBを実現できることが分かる。
【0024】
この結果から、±45度の範囲の反射信号に高周波数の成分を与えるためには、±45度以内の位置にリフレクタを配置する必要があることが分かった。また、試験2の結果により、リフレクタを±30度の範囲に配置することにより、受信レベルにランダムな高周波成分を与えることができることが分かった。以上の考察により、高周波成分と低周波成分との変動を同時に模擬するためには、リフレクタの間隔が±30度の間隔となるように配置することが好適となるという結論に達した。
【0025】
また、リフレクタを同一断面上に30度の間隔で配置することもできるが、この場合、回転軸部材に対するリフレクタの大きさに制約が生じることになる。具体的に、大きなリフレクタを用いたい場合には、その分回転軸部材を大きくしなければならず、レーダ反射装置全体として大型化せざるを得ないことになってしまう。これに対して、本実施形態のように、回転軸部材の回転軸に沿って離間する方向にリフレクタをシフトさせて配置することにより、回転軸に沿って見て30度の間隔を維持しながら、回転軸部材を大型化させることなく、リフレクタを配置することができる。
【0026】
続いて、本実施形態に係るレーダ反射装置を用いた衝突実験の例について説明する。図6は、衝突実験に用いるレーダ反射装置を回転部材であるモータに取り付ける状態の分解斜視図である。図6に示すように、本実施形態に係るレーダ反射装置1は、円筒形状をなす回転軸部材2を有しており、回転軸部材2の下端部には、開口部が形成されている。この回転軸部材2の下端部に形成された開口部には、モータ20が取り付け可能とされている。モータ20は、モータ基部21と、モータ基部21に設けられた回転部22とを有している。モータ基部21は、このモータ基部21に対して相対的に回転部22を回転させる。また、回転部22は、円柱形状をなしており、その径は、レーダ反射装置1における回転軸部材2の内径とほぼ同一とされている。こうして、レーダ反射装置1における回転軸部材2がモータ20の回転部22に取り付け可能とされており、回転軸部材2が回転部22に取り付けられることにより、レーダ反射装置1がモータ20に取り付けられる。
【0027】
また、レーダ反射装置1は、モータ20に取り付けられた状態で起立した状態で用いられる。ここで、モータ20における回転部22の高さはレーダ反射装置1における回転軸部材2よりも十分に低く設定されており、起立した状態にあるレーダ反射装置1が転倒した際には、回転軸部材2が回転部22から容易に引き抜かれ、レーダ反射装置1は容易にモータ20から離れるようになっている。
【0028】
このレーダ反射装置を用いた衝突実験では、図7(a)に示すように、走行する車両Mが、レーダ反射装置1に接触し、レーダ反射装置1を転倒させることを想定して行われている。ここで、レーダ反射装置1が取り付けられるモータ20は、通常、重量が大きいものであるため、車両Mと接触したレーダ反射装置1が転倒した際、モータ20が取り付けられたままの状態では、レーダ反射装置1がその場で転倒したままとなる。この状態では、車両Mにレーダ反射装置1が踏み付けられ、損傷する可能性が高くなってしまう。
【0029】
この点、本実施形態に係るレーダ反射装置1は、回転軸部材2が回転部22から容易に引き抜かれ、レーダ反射装置1は容易にモータ20から離れるようになっている。このため、図7(b)に示すように、車両Mに転倒した後、レーダ反射装置1がモータ20から外れる。モータ20から外れたレーダ反射装置1は、そのまま転がるので、車両Mに踏み付けられる可能性を低くすることができる。したがって、レーダ反射装置1の破損を防止することができる。
【0030】
また、レーダ反射装置1は、モータ20に取り付けられた状態で載置して用いるほか、図8に示すように、自走式の台車30に搭載された状態で用いることもできる。こうして、人に模したレーダ反射装置1として好適に用いることができる。
【0031】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では複数のリフレクタを複数層(4層)に分けて設置したが、同一仮想面上にすべて並べる態様とすることもできる。また、4層ではなく、2層、3層…等、適宜の層数とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るレーダ反射装置の斜視図、(b)はリフレクタの斜視図である。
【図2】回転軸部材の斜視図である。
【図3】(a)は仮想第一面における断面図、(b)は仮想第二面における断面図、(c)は仮想第三面における断面図、(d)は仮想第四面における断面図である。
【図4】人体からの電磁波の典型的な反射状況を示すグラフである。
【図5】(a)〜(c)とも試験によって得られた反射波の受信レベルの経時変化を示すグラフである。
【図6】衝突実験に用いるレーダ反射装置をモータに取り付ける状態の分解斜視図である。
【図7】(a)は走行する車両Mがレーダ反射装置1を転倒させる状態の側面図、(b)はその後の側面図である。
【図8】レーダ反射装置の他の用い方を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1…レーダ反射装置、2…回転軸部材、3…リフレクタ、10…基部、11…反射部、20…モータ、21…モータ基部、22…回転部、30…台車、B…基準位置、C…回転軸、M…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に取り付けられる回転軸部材と、
前記回転軸部材に取り付けられた複数のリフレクタとを有する反射装置であって、
前記複数のリフレクタは、前記回転軸部材の回転軸に沿った方向に見て、前記回転軸周りに互いに30度の間隔をおいて配置されていることを特徴とするレーダ反射装置。
【請求項2】
前記複数のリフレクタの配置位置は、前記回転軸に直交する仮想第一面上に互いに120度の間隔をおいた位置と、
前記仮想第一面に対して前記回転軸に沿って離間する仮想第二面に互いに120度の間隔をおき、前記仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、30度の位相差を持った位置と、
前記仮想第一面に対して前記回転軸に沿って離間し、前記仮想第二面と異なる位置にある仮想第三面に互いに120度の間隔をおき、前記仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、60度の位相差をもった位置と、
前記仮想第一面に対して前記回転軸に沿って離間し、前記仮想第二面および前記仮想第三面と異なる位置にある仮想第四面に互いに120度の間隔をおき、前記仮想第一面におけるリフレクタの配置位置に対して、90度の位相差をもった位置と、
されている請求項1に記載のレーダ反射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−349476(P2006−349476A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175373(P2005−175373)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】