説明

ロックボルト用ナット

【課題】 ロックボルトの突出長を短くし、かつ、定着材硬化後でもナットの脱着、締付けを可能にする。
【解決手段】 頭部11とシャフト部12とでナット10を一体に形成すると共に、ロックボルトの外周ネジ部と螺合するネジ部14を該頭部からシャフト部まで貫通して形成し、更に、シャフト部の外周に嵌め付けられ、シャフト部より突出する先端の穴径をロックボルト径と略等しくした中空状のキャップ13を設ける。キャップ13を設けることにより、シャフト部及びロックボルトの頭部は、硬化した定着材から縁切りされた形となるため、必要に応じてナット本体をロックボルトから取り外すことが可能である。さらに、ナット本体はロックボルト26に対して軸方向に移動できるので、定着材硬化後にナットを再締め付け(増締め)することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トンネルの支保工や法面の地盤補強用ロックボルトに適用するナットに係わり、特に、FRPロックボルトや異型ねじ節鉄筋製のロックボルトなど、単位長さあたりのねじ強度(ねじ山の引張強度)が低いロックボルトに適用して好適なロックボルト用ナットに関する。
【0002】
【従来の技術】山岳等のトンネル工事で一般的なナトム工法(NATM工法)では、地山を掘削したあと(必要な場合は壁をセメントで固めた後)、壁から岩盤内部へ垂直に多数のロックボルトを打ち込み、セメント系或いは樹脂系等の所定の定着材で定着させるなどして、トンネルの壁近くの地盤を強固にするとともに岩盤内部の地盤で支持することで内壁周辺の崩落を防ぐようにしている(支保工)。ロックボルトには工事トンネルの側壁等に垂直に打ち込み定着させたあとそのまま地盤中に残して長期間、地盤の補強を行う支保工用と、工事トンネル先端の切羽鏡やサイロット等に打ち込み、定着させるが、一時的な補強を行うだけで後にトンネル掘進とともに切断される仮支保工用とが有る。
【0003】前者の支保工用の場合、構造部材としてなるべく高強度のものが望ましく鋼製ロックボルトが利用される。そして、打設後はプレート、ワッシャー等の座板とナットを用いて地盤への締め付けが行われ、長期間、強固に定着するようにしている。種類としては例えば、異型棒鋼、ツイスト棒鋼、異型ねじ筋鉄筋(表面の筋がネジ状になっている)等が用いられている。又、後者の仮支保工の場合、後に切断可能なように、FRPロックボルト(ガラス繊維等の強化繊維束を熱硬化性樹脂で固めたボルト)が利用される。FRPロックボルトや異型ねじ節鉄筋製ロックボルトは、単位長さ当たりのネジ強度(ネジ山の引張強度)が、ねじ山を別途加工した通常の鋼製ロックボルトに比べて小さい。このため、打設後のFRPロックボルトや異型ねじ節鉄筋製ロックボルトに座板と組み合わせたナットを嵌め込んで定着させる場合、嵌め合わせ部分のねじ山にかかる引っ張り荷重を小さくする必要がある。
【0004】そこで、図6に示す如く、ロックボルト(FRPロックボルト)1とナット5との嵌め合わせ長さLをかなり長くし、ナット5を長尺にして雌ねじ部に十分な長さを確保する。しかし、かかる構造にすると、鋼製ロックボルトの場合に比べて数倍の嵌め合わせ長さLが必要となり、座板4、ナット5を含めたロックボルト1の端部がトンネル空間内に大きく突出してしまう。この結果、トンネル施工の途中において他の作業の邪魔になったり、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類7を敷設する場合、突出したロックボルト頭部に阻害されてシート類7に凸凹が生じ、所期のシート性能を発揮できなくなり、しかも、その後の二次覆工コンクリート打設時にシートの破損の原因になるなどの問題が生じる。
【0005】上記の問題を解決するために、特殊な形状を有するナットを使用してロックボルトの突出長を短くするロックボルトが提案されている(特開平9-13898号明細書及び特開平9-49399号明細書参照)。図7は特開平9-13898号明細書において提案されているFRPロックボルトの斜視図であり、FRPロックボルト1の外周には雄ねじ部(ロープネジ)1aが形成され、該ロックボルト1に所定長の雌ねじ部を有する特殊形状のナット5が螺合可能になっている。ナット5は、座板4の丸穴4aに遊挿可能なシャフト部5aと、シャフト部の手元側に固着され、座板の穴4aより大きい頭部5bを備え、内面に頭部からシャフト部まで連続するように所定長の雌ねじ部5cが形成されている。
【0006】図8に示すように地山6に打ち込まれたロックボルト1にナット5を座板4と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルト1を地盤に固定する。すなわち、地山6にボアホール8を穿設し、定着材であるモルタル3をボアホール8に注入し、ついで、ロックボルト1を打設する。しかる後、座板4の穴4aにナット5のシャフト部5aを遊挿した状態で、ロックボルト1の頭部雄ねじ部にナット5の雌ねじ部を嵌め込む。嵌め込みの進行と共にナット5のシャフト部5aはボアホール8内に入り込み、座板4はナット5の頭部5bによって地盤に押し当てられ、ロックボルト1が地盤に強固に定着される。ナット5の大部分はボアホール内に入り込み、ほぼナットの頭部5と座板4を合わせた厚み分が外に出るだけなので、ロックボルトの突出長さL′を短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期のシート性能を発揮させることができる。
【0007】図9は特開平9-49399号明細書において提案されているロックボルト用ナットの説明図であり、予め、基端5a′に対して先端が小径のテーパー鍔5b′が一体に形成されたナット5′及び該ナットの基端5a′が挿通されるベアリングプレート4′を用意する。施工に際して、地山6にボアホール8を穿設し、定着材であるモルタル3をボアホール8に注入し、ついで、ロックボルト1を打設する。しかる後、ナット5′の基端5a′をベアリングプレート4′の孔に挿通し、ボアホール8に挿入したロックボルト1の頭部側にナット5′を基端側から螺合する。ベアリングプレート4′はナット5′のテーパー鍔5b′により地盤に押し当てられ、ロックボルト1が地盤に強固に定着される。ナット5′の基端5a′はボアホール内に入り込み、ほぼテーパー鍔5b′とベアリングプレート4′を合わせた厚み分が外に出るだけとなり、ロックボルトの突出長さを短くできる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上より、特殊形状ナットを使用すればロックボルトの突出長を短くできる利点がある。しかし、特殊形状ナットは、雌ねじが形成されたシャフト部あるいは基端部をボアホール中に入れ込むことにより、ねじ嵌め合い長を確保するものである。このため、ボアホールに定着材を充填する場合、図8及び図9に示すようにナットのシャフト部5aや基端5a′が定着材の中に入ってしまい、その硬化後はナットを動かすことが出来なくなる。ロックボルトは実際に施工されたとき、軸力試験で地山に対して十分に定着しているかの確認をする必要が生じることがあり(施工管理)、かかる軸力試験を行うにはロックボルトよりナットを外し、試験機のエクステーションバーをロックボルトに取り付ける必要がある。しかし、従来のロックボルト用ナットは、定着材硬化後に取り外すことができず施工管理上問題があった。又、定着後にナットの再締め付け(増締め)が必要になった場合、従来のロックボルト用ナットは、定着材硬化後にナットの再締め付けが全くできない問題があった。以上から本発明の目的は、ロックボルトの突出長を短くでき、しかも、定着材硬化後でもナットの脱着、締付けが可能なロックボルト用ナットを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題は、本発明によれば、頭部とシャフト部を備えると共に、ロックボルトの外周に形成したネジ部と螺合するネジ部を頭部からシャフト部まで貫通して備え、更に、シャフト部の外周に嵌め付けられ、シャフト部より突出する先端の穴径をロックボルト径と略等しくした中空状のキャップを備えてなる、ロックボルト用ナットにより達成される。シャフト部の外周に該シャフトより突出する先端の穴径がロックボルト径と略等しくした中空状のキャップを嵌め付けることにより、ロックボルト打設時、ナットのシャフト部は定着材(定着部)から縁切りされた形となる。このため、必要に応じてナット本体(頭部及びシャフト部)をロックボルトから取り外すことができ、しかも、ナット本体をロックボルトに対して軸方向に移動でき、定着材硬化後に再締め付け(増締め)することが出来る。
【0010】
【発明の実施の形態】
(A)第1実施例(a)ナットの構成図1は第1実施例のロックボルト用ナットの説明図であり、(a)は平面図、(b)は切欠断側面図である。第1実施例のロックボルト用ナット10は、一体に形成された略六角形の頭部11とシャフト部12を備え、シャフト部12の外周には樹脂製(柔軟なものがよい)例えばEVA製の中空キャップ13が嵌め付けられている。ナットの頭部11からシャフト部12まではロックボルト(図示せず)の外周に形成したネジ部と螺合する雌ねじ部14が貫通して形成されている。中空キャップ13はシャフト部12より長くなっており、先端部以外の円筒部13aの内径はシャフト部12の外径と略等しく(僅かに大きめに)形成されている。この結果、キャップ13はシャフト部12に着脱可能となり、しかも、キャップ13をシャフト部12に嵌め込んだ状態においてキャップ内にナットが移動できる空間15を形成できる。また、先端部13bの内径はロックボルトの外径と略等しく(僅かに大きめに)形成されている。これにより、ナット10をロックボルトの頭部に嵌め込むことができ、キャップ内のシャフト部12やロックボルト頭部を全面定着式ロックボルト施工においてボアホール内に装填されている定着材(定着部)から隔離(縁切り)することが可能になる。
【0011】(b)施工方法図2はロックボルトの施工方法説明図である。予め、異型ネジ節鉄筋製のロックボルト本体26の先端に円錐キャップ25を装着し、又、ロックボルト本体26の後端に、角ワッシャー20及びキャップ13を嵌めたナット10をセットする。ただし、このセット状態では、ボルト端部がナットから突出しないように、すなわち、ボルト端部がネジ部内に若干(1〜2mm程度)引っ込んだ状態にする。これは、定着材硬化後の再締め付けによる軸方向に移動する距離が1〜2mm程度であるためである。角ワッシャー20は4角形の中央部に、シャフト12の径より大きく、頭部11の径より小さい貫通穴を有するものである。又、異型ネジ節鉄筋は図3に示すように全長にわたってネジ節が形成されたもので、Pは節のピッチ、Hは節の高さ、Tは節の隙間である。全面接着式ロックボルトの場合と同様に、掘削したトンネルの内壁22から穿孔機械によって地山21の岩盤内部へ所定深さのボアホール23を穿孔し、ボアホール23内に注入ホース等を用いて定着材、例えばモルタル24を注入する。その後、角ワッシャー及びナットがセットされたロックボルト本体を挿入打設する。すなわち、角ワッシャー20が地山の内壁に押し当たるまでロックボルト本体を挿入打設する。
【0012】かかる状態で、定着材24が硬化する。定着材が硬化しても図4(a)に示すように、キャップ内のロックボルト26の頭部26a及びシャフト部12は、キャップ13の作用で硬化した定着材24から縁切りされた形となり、定着されない。このため、必要に応じてナット本体(頭部11及びシャフト部12)をロックボルト本体26から取り外すことが可能となる。又、ナット本体はキャップ内に形成された空間(ギャップ)15の長さdだけロックボルト本体26に対して軸方向に移動できるので、定着材硬化後であってもナットを再締め付け(増締め)することが出来る。図4(b)は増締めした状態を示しており、ナット本体がキャップ15に対して右側にスライドし(キャップ13の左端側は若干潰れて変形する形となる)、ナットにより角ワッシャ20が地山坑壁22に押し付けられ、適正なロックボルト打設状態(ロックボルトの軸力で地山を拘束する状態)となる。したがって、定着材硬化後、必要に応じてナットを再締め付け(増締め)すれば、ロックボルト本体26とボアホール23の孔壁周辺が一体的に固着し、ロックボルト先端部が打ち込まれた固い内部岩盤に支えられることで、坑壁周辺の崩落が防止される。又、定着材硬化後に、地盤の緩みLS(図4(a)参照)が発生した場合には、適宜、ナット10を再締め付け(増締め)することによりロックボルトの地盤補強効果を向上することができる。
【0013】(B)第2実施例(a)ナットの構成図5は第2実施例のロックボルト用ナットの説明図で、(a)は平面図、(b)は切欠断側面図であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第2実施例のロックボルト用ナット10は、一体に形成された略六角形の頭部11とシャフト部12を備え、シャフト部12の外周には非浸透性の弾性材料、例えば独立気泡スポンジで形成された中空キャップ13′が嵌め付けられている。ナットの頭部11からシャフト部12まではロックボルトの外周に形成したネジ部と螺合する雌ねじ部14が貫通して形成されている。
【0014】キャップ13′はシャフト部12より長くなっており、中空部には径の異なる2つの円筒部(段付き円筒部)13a′、13b′が形成されている。一方の円筒部13a′の内径はシャフト部12の外径と略等しく(僅かに大きめに)形成されており、キャップ13′をシャフト部12に着脱できるようになっている。また、他方の円筒部13b′の内径はロックボルトの外径と略等しく(僅かに小さめに)形成されており、ロックボルトが該円筒部13b′に押し込まれ、互いに密着するようになっている。以上より、キャップ付きナットをロックボルトに嵌め込んだ状態では、非浸透性の弾性材料からなるキャップ13′がシャフト部12やロックボルト頭部を包み込んだ形となる。この結果、ロックボルト打設時にボアホール内に装填されている定着材からナットのシャフト部12やロックボルト頭部を隔離(縁切り)することが可能になる。
【0015】この第2実施例のナットを使用するロックボルトの施工方法は第1実施例の施行方法とほぼ同様に行うことができる。ロックボルト打設後、ボアホール内の定着材が硬化しても、キャップ13′に覆われたシャフト部は定着材から縁切りされた形となっているため、定着されない。このため、必要に応じてナット本体(頭部及びシャフト部)をロックボルトから取り外すことが可能となる。又、ナット本体は弾性材料からなるキャップ13′の円筒部13b′を押し潰すことによりロックボルトに対して軸方向に移動できるので、定着材硬化後であってもナットを再締め付け(増締め)することが出来る。以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は請求の範囲に記載した本発明の主旨に従い種々の変形が可能であり、本発明はこれらを排除するものではない。
【0016】
【発明の効果】以上本発明によれば、シャフト部の外周に嵌め付けられ、該シャフト部より突出する先端の穴径がロックボルト径と略等しくしたキャップを使用することにより、該キャップに覆われたシャフト部を定着材から完全に縁切りすることができる。このため、必要に応じてナットをロックボルトから取り外すことができ、しかも、ナットをロックボルトに対して軸方向に移動でき、定着材硬化後に再締め付け(増締め)することが出来る。また、キャップはナット本体に対して着脱可能であるため、現場で必要に応じて取り付けることができ、作業性を向上できる。又、本発明によれば、地山からの突出量を小さくできるため、シート施工の際ボルト頭部に被せる防水シート保護キャップやマットが必要でなくなる。この結果、防水シート保護キャップの取り付け手間費用を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のロックボルト用ナットの構成図である。
【図2】ロックボルトの施工方法説明図である。
【図3】異形ネジ節鉄筋の説明図である。
【図4】キャップの作用説明図である。
【図5】第2実施例のロックボルト用ナットの構成図である。
【図6】従来のFRPロックボルトの問題点説明図である。
【図7】特殊形状ナットを備えたFRPロックボルトの斜視図である。
【図8】FRPロックボルトの施工法説明図である。
【図9】特殊形状ナットを備えたFRPロックボルトの別の説明図である。
【符号の説明】
10・・ロックボルト用ナット
11・・略六角形の頭部
12・・シャフト部
13,13′・・キャップ
13a・・円筒部
13b・・先端部
14・・雌ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 頭部とシャフト部を備えると共に、ロックボルトの外周に形成したネジ部と螺合するネジ部を頭部からシャフト部まで貫通して備え、更に、シャフト部の外周に嵌め付けられ、シャフト部より突出する先端の穴径をロックボルト径と略等しくした中空状のキャップを備えてなることを特徴とするロックボルト用ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2001−90493(P2001−90493A)
【公開日】平成13年4月3日(2001.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−269967
【出願日】平成11年9月24日(1999.9.24)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】