説明

ロドコッカスからの新しい発現系

本発明は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からのkstDプロモーターを含む単離ポリヌクレオチドを提供する。前記ポリヌクレオチドは、制御可能な転写活性化因子として非常に好都合に使用することができる。前記制御機能は、前記単離ポリヌクレオチドに、前記プロモーターの転写調節因子をコードするヌクレオチド配列を与えることによって提供することができる。本発明では、このような転写調節因子を、ステロイド化合物の導入などによって外的に誘導し得る。本発明の選択的実施形態では、前記単離ポリヌクレオチドは、kstDプロモーターの転写調節因子としてkstR遺伝子又はそのホモログ又は機能性部分を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロドコッカス(Rhodococcus)、特にロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からのプロモーター、その調節及び異種適用における発現系としてのこのプロモーターの使用とその調節に関する。
【背景技術】
【0002】
放線菌類、特にロドコッカス属の細菌は、複雑な分子を代謝する能力で知られている。ロドコッカス属の幾つかの種は、燃料、ベンゼン、さらにはTNTを分解することができ、従って、これらは、生化学的経路及び細胞工場(セルファクトリー)に関する微生物学の分野で広く検討されている。天然及び人類起源の炭化水素を酸化し、及び生物圏の生物地質化学的過程への積極的関与体である、例えば地球のために無炭化水素大気を生産することに寄与する微生物の中で、ロドコッカス属は主要な位置を占める。
【0003】
幾つかのロドコッカス属菌種は天然フィトステロールも分解し、これは経路中間体としてのステロイドの形成によって進行する。これらのステロイドは、次に、医薬的に活性な化合物の生産における前駆体として使用し得る。
【0004】
微生物の経路中間体としての医薬前駆体化合物を高い量で生産するために、生産株は、常套的に、対象遺伝子の発現を最適化するように及び/又は中間体の蓄積を達成するためにある種の代謝経路を遮断するように形質転換される。このような形質転換は、しばしばタンパク質の異種発現を含む。異種タンパク質の発現のためにロドコッカス及び他のアクチノマイセテス菌(ミコバクテリウム(Mycobacterium)、アルトロバクター(Arthrobacter)、ノカルジア(Nocardia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)菌種など)の使用が増加すると共に、このような発現の改善された調節及び分子ツールに対する需要が増大しつつある。
【0005】
現在、所望特性を有する突然変異株は紫外線照射などの古典的突然変異誘発によって単離されるが、これらの株は、遺伝的不安定性及び/又は低い生物変換効率の故に工業的工程においてはしばしば不適切である。分子学的に定義された(構築された)突然変異株は、古典的突然変異誘発によって生成された突然変異株に比べて重要な利点を備える。構築突然変異株は遺伝的により安定であり、導入される突然変異は十分に定義された遺伝的修飾である。形質転換によって遺伝子操作された菌株の構築はまた、ある種の不用経路を遮断するために化学物質を利用し得る。主として酵素活性を遮断するために使用される化学物質は、しばしば反応特異的ではなく、他の重要な酵素反応を阻害することがあり、これは生物変換効率にマイナスの作用を及ぼし得る。遺伝子工学による定義された突然変異株の使用はこのような問題を克服する。
【0006】
例えばロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)に認めることができる、ステロイド代謝における重要な酵素は、その遺伝子がいわゆるkstD1遺伝子座に位置する3−ケトステロイド△−デヒドロゲナーゼ(KSTD1、EC1.3.99.4)である(van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environm.Microbiol.66:2029−2036)。ステロイド異化遺伝子の分子機構は種々のロドコッカス菌種の間で異なり得ることが知られているが、この遺伝子のホモログが、アルトロバクター・シンプレクス(Arthrobacter simplex)、シュードモナス菌種(Pseudomonas spp)、ノカルジア・レストリクタス(Nocardia restrictus)、ノカルジア・コラリナ(Nocardia corallina)、ノカルジア・オパカ(Nocardia opaca)及びミコバクテリウム・ホルツイタム(Mycobacterium fortuitum)などの幾つかの他の細菌において認められた。ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)菌株SQ1のkstD遺伝子の配列が、Van der Geizeらによって国際公開広報第WO01/31050号に開示され、配列番号1に記述されている。
【0007】
同じ細菌株のイソ酵素KSTD2が対応する遺伝子kstD2と共に知られている。kstD1遺伝子を破壊しても3−ケトステロイド△―デヒドロゲナーゼ(KSTD)活性は完全に排除されないことが示されており、イソ酵素の存在により活性は存続する(Van der Geizeら、2002、Microbiology 148:3285−3292;国際公開広報第WO01/31050号)。
【0008】
KSTD活性はステロイド核分解のために必須であり、ステロイド中間体を蓄積するためにはkstD遺伝子の不活性化が必要である。遺伝子の不活性化は、遺伝子機能を分析するため及び代謝ブロックを導入するための強力なツールである。選択マーカーを担持する非複製ベクターによる遺伝子破壊は、遺伝子不活性化のために一般的に使用される方法である。
【0009】
遺伝子破壊突然変異株R.エリスロポリス(R.erythropolis) SDH420における野生型KSTD活性は、4−アンドロステン−3,17−ジオンなどの3−ケト−△−ステロイドの適用によって誘導できることが認められ、ステロイド依存性調節機構の存在を示唆した。kstD遺伝子座の上流で、その機能はこれまでのところ未知であるが、TetRファミリーのリプレッサータンパク質のコンセンサス配列を担う推定上の調節遺伝子と記述された遺伝子(ORF2)が特定された(van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environm.Microbiol.66:2029−2036)。
【発明の開示】
【0010】
今や、kstD1遺伝子についてのプロモーターはロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)のkstD遺伝子座に存在すること及びこのプロモーターは、以下kstRと称する、この細菌のORF2の遺伝子産物による抑制を通して調節されることが認められた。また、kstR遺伝子産物によるkstDプロモーターの抑制は、ステロイド化合物による発現の誘導によって克服されることも認められている。kstD遺伝子−kstRリプレッサー系の組合せのこの特性は、前記組合せを、放線菌属ファミリーなどの細菌における異種タンパク質の発現に特に適するものとする。
【0011】
1つの側面では、本発明は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からのプロモーターを含み、前記プロモーターがkstDプロモーターであることを特徴とする、単離ポリヌクレオチドに関する。
【0012】
前記ポリヌクレオチドは、制御可能な転写活性化因子として非常に好都合に使用できる。このような制御機能は、前記単離ポリヌクレオチドに前記プロモーターの転写調節因子をコードするヌクレオチド配列を与えることによって提供され得る。本発明では、このような転写調節因子を、ステロイド化合物の導入などによって外的に誘導し得る。
【0013】
本発明の選択的実施形態では、前記単離ポリヌクレオチドは、kstDプロモーターの転写調節因子としてkstR遺伝子又はそのホモログ又は機能性部分を含み得る。
【0014】
本発明の単離ポリヌクレオチドは異種発現系として非常に好都合に使用できるので、本発明のポリヌクレオチドは、前記プロモーターに作動可能に連結されたポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。
【0015】
発現系を導入する細菌に選択可能な形質を与えるために、前記ポリヌクレオチドは、選択マーカー、逆選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子をコードする配列をさらに含み得る。
【0016】
もう1つの側面では、本発明は、本発明の単離ポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。このような組換えベクターは、適切には、マルチクローニングサイトであるヌクレオチド配列を含む。
【0017】
本発明はまた、本発明に従ったポリヌクレオチドを生産すること及び当該菌株を前記ポリヌクレオチドで形質転換することを含む、ステロイド核を分解する能力を持たない微生物の遺伝的に修飾された菌株を構築するための方法に関する。
【0018】
もう1つの側面では、本発明は、本発明の組換えベクターで形質転換された宿主細胞に関する。前記宿主細胞は、好ましくはアクチノマイセテス目(Actinomycetales)からの細菌である。非常に適切な宿主細胞は、アクチノマイセテス科(Actinomycetaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacterineae)、ミコバクテリウム科(Mycobacteriaceae)、ノカルジア科(Nocardiaceae)、ブレビバクテリウム科(Brevibacteriaceae)又はミクロコッカス科(Micrococcaceae)に属する細菌、特にロドコッカス属の細菌である。
【0019】
もう1つの側面では、本発明は、宿主細胞を本発明の組換えベクターで形質転換することを含む、宿主細胞において所望タンパク質を生産するための方法に関する。
【0020】
もう1つの側面では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む微生物発現系に関する。
【0021】
さらにもう1つの側面では、本発明は、宿主細胞をポリヌクレオチド構築物で形質転換することを含み、対象タンパク質のコード領域の発現がkstDプロモーターの制御下にある、前記対象タンパク質の構成的発現のための方法に関する。
【0022】
もう1つの側面では、異種タンパク質の発現の誘導のためのステロイドの使用であって、前記発現はkstDプロモーターの制御下にあり、前記ステロイドはkrtR遺伝子産物によって及ぼされるリプレッサー機能を取り除くものである、前記使用に関する。


【0023】
ここで使用する「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかである、あらゆる長さの重合体形態のヌクレオチドを指す。従って、この用語は、二本鎖及び一本鎖DNA及びRNAを包含する。
【0024】
ここで使用する「組換えポリヌクレオチド」という用語は、その起源又は操作によって、(1)天然で結合しているポリヌクレオチドの全部又は一部に結合していない;又は(2)天然で結合しているもの以外のポリヌクレオチドに結合している;又は(3)天然では生じない、ゲノム、cDNA、半合成又は合成起源のポリヌクレオチドを意図する。
【0025】
「形質転換」及び「形質転換すること」は、ここで使用するとき、挿入のために使用する方法、例えば直接取込み、形質導入、f−接合又は電気穿孔、に関わりなく、宿主細胞への外来性ポリヌクレオチドの挿入を指す。外来性ポリヌクレオチドは、非組込みベクター、例えばプラスミド、として維持され得るか、あるいは、宿主細胞のゲノム内に組み込まれ得る。
【0026】
「宿主細胞」とは、ベクターを含み、そのベクターの複製及び/又は発現を支持する細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌などの原核細胞、又は酵母、昆虫、両生動物又は哺乳動物細胞などの真核細胞であり得る。好ましくは、宿主細胞はアクチノマイセテス目の細菌細胞である。
【0027】
ここで使用する「作動可能に連結された」という用語は、そのように表わされる成分が意図されるように機能し得る関係にある、近位を指す。もう1つ別の制御配列及び/又はコード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、その制御配列と適合する条件下でコード配列の転写及び/又は発現が達成されるように連結されている。一般に、作動可能に連結された、とは、連結されている核酸配列が隣接していること及び2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合、隣接し且つ同じ読み枠内にあることを意味する。
【0028】
ここで使用する「プロモーター」は、(構造)遺伝子の転写を指令するDNA配列である。典型的には、プロモーターは、(構造)遺伝子の転写開始部位に近位の、遺伝子の5’領域に位置する。プロモーターが誘導的プロモーターである場合は、転写の速度は誘導物質に応答して上昇する。これに対し、プロモーターが構成的プロモーターである場合は、転写の速度は誘導物質によって調節されない。
【0029】
「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸の重合体を指し、その生成物の特定の長さには言及しない。従って、ペプチド、オリゴペプチド及びタンパク質はポリペプチドの定義に包含される。この用語はまた、ポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化等、には言及しない又は発現後修飾を排除しない。例えば天然に生じる及び非天然に生じる、アミノ酸の1又はそれ以上の類似体(例えば非天然アミノ酸等を含む)を含むポリペプチド、置換結合並びに当技術分野において公知の修飾を有するポリペプチドは、前記の定義に包含される。
【0030】
ここで使用するとき、核酸に関する「異種」は、外来種から生じる、又は同じ種からである場合は、意図的な人為介入措置によって天然の状態とは異なる天然ゲノム遺伝子座にある核酸である。例えば異種構造遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターは、その構造遺伝子が由来するものとは異なる種からであるか、又は同じ種からである場合は、そのプロモーターと遺伝子は天然では作動可能に連結されていない。異種タンパク質は、外来種から生じ得るか、又は同じ種からである場合は、異種核酸からの発現を通して生産される。
【0031】
「リプレッサータンパク質」又は「リプレッサー」は、構造遺伝子の5’側に位置するDNA配列(オペレーター)に含まれるヌクレオチド配列を認識する又は前記ヌクレオチド配列に結合することができるタンパク質である。リプレッサータンパク質とそのコグネイトオペレーターとの結合は、構造遺伝子の転写の阻害を生じさせる。
【0032】
「エンハンサー」は、転写開始部位に対するエンハンサーの距離又は方向に関わりなく、転写の効率を高めることができるDNA調節エレメントである。
【0033】
「単離」という用語は、その天然に生じる環境において認められるように通常それに付随する又はそれと相互作用する成分を実質的に又は基本的に含まない、核酸などの物質を指す。単離DNA分子は、分離されており、及びもはやそれが由来する生物のゲノムDNAには組み込まれていないDNAの断片である。
【0034】
「発現」という用語は、遺伝子産物の生合成を指す。
【0035】
「発現ベクター」は、宿主細胞において発現される遺伝子を含むDNA分子である。典型的には、遺伝子発現は、構成的又は誘導的プロモーター、調節エレメント及び/又はエンハンサーを含む、ある種の調節エレメントの制御下に置かれる。このような遺伝子は、調節エレメントに「作動可能に連結されて」いると言い、及びその発現は、調節エレメントの「制御下に」あると言う。
【0036】
「選択マーカー」という用語は、トランスジェニック生物と非トランスジェニック生物の分離を可能にする代謝形質をコードするポリヌクレオチド配列を指し、主として抗生物質耐性の付与を指示する。選択マーカーは、例えばaphIIによってコードされるカナマイシン耐性マーカーである。
【0037】
「逆選択マーカー」という用語は、その発現が、しばしば選択マーカーの場合のように耐性を生じさせる代わりに、致死的であるポリヌクレオチド配列を指す。逆選択マーカーは、例えばその発現がスクロースの存在下で致死的である、枯草菌(B.subtilis)レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子である。
【0038】
ここで使用する「レポーター遺伝子」という用語は、同定することができる遺伝子産物をコードする遺伝子を意味する。レポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、[β]−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ及びグリーン蛍光タンパク質を含むが、これらに限定されない。レポーター遺伝子の産物についての同定方法は、酵素アッセイ及び蛍光アッセイを含むが、これらに限定されない。レポーター遺伝子及びこれらの産物を検出するためのアッセイはこの分野において周知であり、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience:New York(1987)及び定期的最新版に述べられている。
【0039】
配列番号4に示されている、ロドコッカスのORF2と称される配列は、TetR型のリプレッサータンパク質(kstRと称される)をコードすると言われている、kstD1遺伝子を保有する染色体遺伝子クラスターの部分であるとみなされてきた(Van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environ.Microbiol.66:2029−2036)。しかし、リプレッサー機能が行使される又は取り除かされる状況はこれまで開示されていなかった。また、kstRのリプレッサー機能とkstD1遺伝子のプロモーターとの関係はこれまで確立されていなかった。
【0040】
アルスロバクター・シンプレックス(Arthrobacter simplex)において、kstD遺伝子及び推定上のリプレッサーをコードするORF(kdsRと称される)の類似ゲノム組成物が記述されている(Molnar,I.ら、1995、Mol.Microbiol.15:895−905)。この場合、リプレッサータンパク質とステロイド酵素の発現との関係は確認されていない。
【0041】
kstD1遺伝子のプロモーター領域は正確には決定されていない。kstD1遺伝子の開始コドンとkstR遺伝子の開始コドン(kstD1遺伝子と比較して逆の順序で存在する)との間の領域は、kstD1遺伝子についてのプロモーターを含み、おそらくkstRについてのプロモーターも含む、約158塩基対の配列である。このプロモーターが二方向的に働く場合、リプレッサータンパク質をコードする遺伝子の発現はkstD1プロモーターによっても駆動され得る。
【0042】
本発明に従ったプロモーターは、ロドコッカスにおいてkstD遺伝子の発現を駆動するプロモーターであり、好ましくは、配列番号3に記載の158塩基対のヌクレオチド配列又はプロモーターの機能的能力、すなわちその発現を制御するタンパク質の発現を駆動する能力をまだ保持するその短縮形態(例えば5’末端で欠失している)を含む。いかにしてプロモーター欠失突然変異株に到達するかはこの分野において周知であり、またこのような欠失突然変異株についてのプロモーター活性を特定するために必要な実験は、過度の負担を伴わず、及び当業者に周知である。本発明の実施のために有用なポリヌクレオチド操作のための手法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、第1−3巻、Sambrookら編集、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)又はCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience:New York(1987)及びその定期的最新版などの、様々な参考文献に述べられている。
【0043】
kstDプロモーターの活性断片を特定するための方法は当業者に公知であり、このような方法は、例えばmRNAの転写の測定又はレポーター遺伝子からのポリペプチドの発現(機能性プロモーターの添加を必要とする)を含み得る。作動可能に連結されたコード配列の転写及び/又は発現を制御することができる活性kstDプロモーター断片の存在を判定するために、当業者は、プロモーターの機能性試験が実施できることを容易に理解する。このような試験は、例えばベクター内で本発明のプロモーターとレポーター遺伝子を作動可能に連結し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して、前記宿主を発現のための適切な条件に供し、プロモーターの機能性を判定するために前記レポーター遺伝子産物の存在を判定することを含み得る。
【0044】
前記プロモーター(プロモーターエレメントを含む)のヌクレオチド配列が配列番号3に示されているが、プロモーター又はプロモーターエレメントの機能に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を施し得ることは認識される。
【0045】
当業者は、ここで開示するkstDプロモーター配列に、転写を活性化する配列の能力を変化させずに、点突然変異及び欠失を施し得ることを認識する。それに加えて、kstDプロモーターの活性断片を得ることができる。同様の方法が、kstDプロモーターの他の活性断片を特定するために使用できる。kstDプロモーターの活性断片を特定するための他の方法は、当技術分野において常套的であり、周知である。例えばkstDプロモーターの重複断片を合成し、適切な発現ベクターにクローニングして、活性kstDプロモーター断片を判定することができる。同様に、例えば部位指定突然変異誘発を使用して又は1又はそれ以上のあらかじめ定められた位置にランダムなヌクレオチドを有する配列を合成することによって、開示されているkstDプロモーター配列に点突然変異を導入することができる。
【0046】
本発明は、1つの実施形態として、kstDプロモーター又はその活性断片を含む単離ポリヌクレオチドを包含する。これらの単離ポリヌクレオチドは、kstDプロモーターが通常天然で結合している染色体遺伝物質の約50%未満、好ましくは約70%未満、より好ましくは約90%未満を含む。kstDプロモーターで「基本的に構成される」単離ポリヌクレオチドは、kstDが位置する染色体に由来する他のプロモーターを含まない。この「単離」及び「基本的に構成される」という用語は、kstRリプレッサーエレメントにも同様に適用される。例えばkstRリプレッサーで基本的に構成される単離ポリヌクレオチドは、それぞれkstRが位置する染色体上に存在するエンハンサー又はプロモーターなどのポリヌクレオチド物質を含まない。
【0047】
kstDプロモーターを含み又はkstDプロモーターで基本的に構成され、及びkstRリプレッサー又はその活性断片をコードする単離ポリヌクレオチドは、この分野において公知の手法によって作製し得る(例えばSambrookら)。これらの手法は、例えばここで提供する配列情報を使用してプライマー及びプローブを入手し、kstDゲノムクローンのPCR特異的領域によって増幅することあるいは化学合成又は組換え手段によることを含む。
【0048】
kstDプロモーター又はその活性断片を含む組換えポリヌクレオチド並びにここで述べる他のkstD転写調節エレメントを含み得る組換えポリヌクレオチドは、ここで提供する配列情報を使用して当業者の何らかの手法によって作製し得る。
【0049】
実験の章において、前記プロモーターが、おそらくプロモーターに結合し、及びそれによって制御するタンパク質の発現を阻害すると考えられる、リプレッサータンパク質によって調節されることを明らかにする。kstDプロモーターを含む組換えポリヌクレオチドはまた、kstDが促進する遺伝子転写の抑制を引き起こし、及び細胞を以下に述べるような誘導物質に接触させることによって取り除かれ得る調節機構を提供するkstRリプレッサーについてのコード配列(配列番号4に示すような)を含み得る。
【0050】
kstDプロモーターを含む組換えポリヌクレオチドはまた、前記プロモーターの制御下でコード配列の転写を生じさせる、前記プロモーターが作動可能に連結されたコード配列を含み得る。コード配列は、相同又は異種ポリペプチドのいずれかをコードし得る。しかし、これらはまた、これらの転写形態において望ましい他の成分もコードし得る。例えばコード配列は、中でも特に、転写因子に結合するおとりポリヌクレオチド、アンチセンスRNA及び関心対象の様々なポリペプチド(例えば細胞内ワクチンとして役立つウイルスタンパク質、マーカーとして使用できるタンパク質等)、kstDタンパク質を発現する細胞において発現させるという商業目的のためのポリペプチド、及び特に細胞代謝の調節及び医薬前駆体の生産において有用なタンパク質をコードし得る。
【0051】
プロモーターの制御下でのタンパク質の細胞発現のために、プロモーターと対象遺伝子をコードするDNAの間にシグナル配列を挿入することができる。このようなシグナル配列は、タンパク質を特定細胞画分に標的するために提供される。好ましくは、このシグナル配列は、R.equi内に存在し、アクセッション番号AJ242746の下にGenbankに寄託されているコレステロールオキシダーゼをコードする遺伝子のシグナル配列である(Navas,J.ら、2001、J.Bacteriol.183:4796−4805も参照のこと)。
【0052】
プロモーターはいかなる宿主細胞においても使用できるが、好ましくは原核生物宿主細胞、より好ましくはアクチノマイセテス科(Actinomycetaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacterineae)、ミコバクテリウム科(Mycobacteriaceae)、ノカルジア科(Nocardiaceae)、ブレビバクテリウム科(Brevibacteriaceae)、ミクロコッカス科(Micrococcaceae)等のような科に属する細菌などの、アクチノマイセテス目からの細菌において使用できる。より好ましくは、宿主細胞は、ミコバクテリウム(Mycobacterium)、アルトロバクター(Arthrobacter)、ノカルジア(Nocardia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)又はブレビバクテリウム(Brevibacterium)属の細菌である。最も好ましくは、ロドコッカス・アエテロボランズ(Rhodococcus aetherovorans)、ロドコッカス・コプロフィラス(Rhodococcus coprophilus)、ロドコッカス・エキ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・エリスロス(Rhodococcus erythreus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ファシアンス(Rhodococcus fascians)、ロドコッカス・グロベルラス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカスジョスティイ(Rhodococcus jostii)、ロドコッカス・コレエンシス(Rhodococcus koreensis)、ロドコッカス・マンシャネシス(Rhodococcus maanshanensis)、ロドコッカス・マリノナセンス(Rhodococcus marinonascens)、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)、ロドコッカス・ペルコラタス(Rhodococcus percolatus)、ロドコッカス・ピリジニボランズ(Rhodococcus pyridinivorans)、ロドコッカス・ロドニ(Rhodococcus rhodnii)、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodchrous)、ロドコッカス・ラバー(Rhodococcus rubber)、ロドコッカス・ツキサムエンシス(Rhodococcus tukisamuensis)、ロドコッカス・ラチスラヴィエンシス(Rhodococcus wratislaviensis)、ロドコッカス・ゾフィイ(Rhodococcus zopfii)種等の細菌株のようなロドコッカス属の細菌である。
【0053】
また本発明の一部は、リプレッサータンパク質についての遺伝子を持たない、プロモーターを備えた細菌宿主細胞である。好ましくはこの宿主細胞は、No.DSM 15231の下に2002年10月9日にDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたロドコッカスエリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) RG10細菌である。この細菌では、実施例1で示すように、サプレッサータンパク質をコードする遺伝子が欠失している。
【0054】
サプレッサー遺伝子が欠失したこのような宿主細胞は、タンパク質の発現のために使用することができる。好ましくは(前記宿主細胞はまだその内因性kstDプロモーターを有していてもよいが)、本発明のkstDプロモーター(対象タンパク質の発現を制御する)を保有するベクターを前記細胞に導入すべきである。このようなベクターを構築すること及びこのようなベクターの宿主細胞への形質転換又はトランスフェクションは、当業者には一般的に実施される作業である。このようにして、実施例1に示すように、kstDプロモーターは抑制されず、構成的プロモーターとして働く。
【0055】
単離kstDプロモーター又はその活性断片を含む本発明に従った宿主細胞が、形質転換された原細胞(original cell)の子孫を包含することは理解される。単一親細胞の子孫は、天然、偶発的又は意図的突然変異のために、形態においてあるいはゲノム又は全DNA相補物において必ずしももとの親と完全に同一でない場合があることは理解される。
【0056】
kstR以外の、kstDプロモーターエレメント内の特定ヌクレオチド又は領域を、調節のために必要ならば特定し得ることは認識される。これらのヌクレオチドの領域は、多数のプロモーター突然変異株の機能的能力を分析することにより、エレメントの微細構造精査によって位置づけ得る。単一塩基対突然変異は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)テクノロジーを利用して作成できる。米国特許第4,683,202号。突然変異したプロモーター領域を、標準手法を用いて再びレポーター構築物内にもどし、適切な細胞へのトランスフェクションによって評価して、レポーター遺伝子機能に関して検定することができる。この分析はまた、プロモーター機能に影響を及ぼさないヌクレオチド変化も特定する。
【0057】
本発明のさらなる側面は、リプレッサータンパク質をコードする配列、及び、その配列がkstDプロモーターに作動可能に連結された場合、制御可能に発現される必要のあるタンパク質をコードする配列を細胞に与えることにより、制御された発現のためにリプレッサー及びその誘導性を使用することである。kstRリプレッサータンパク質についての配列は、kstDプロモーター−対象遺伝子構築物と同じ発現構築物上に含まれ得るが、別の構築物上であってもよい。また、宿主細胞が、プラスミド上又は染色体上のいずれかに位置するリプレッサー遺伝子を既に含むことが考慮される。この場合、kstDプロモーターを保有する構築物でこのような宿主細胞を形質転換することによって発現系が確立される。同様に、宿主細胞は、対象遺伝子の発現を制御するプロモーターを既に含むことがある。リプレッサータンパク質をコードする遺伝子の付加は、リプレッサータンパク質が産生されたとき対象遺伝子の発現を停止させ、リプレッサー機能を取り除くことによって再び発現を誘導することができる。また、kstRリプレッサー配列の発現は構成的プロモーターの制御下であってもよい。
【0058】
kstD−kstR系によって対象遺伝子の発現を制御するためのさらなる方法は、kstDプロモーターのあとにインサイチュで対象遺伝子のコード配列を挿入することによって、通常はkstDプロモーターの制御下にあるkstD遺伝子を置換することである。これは、相同的組換え及び/又は組換え酵素とcre−lox系のようなこれらの認識部位の使用などの、当技術分野で一般的に公知の手法によって実施できる。
【0059】
kstR遺伝子産物によって及ぼされるkstDプロモーターの抑制は、3−ケト−△−官能性を有するステロイド化合物の添加によって取り除かれうる。特に、4−アンドロステン−3,17−ジオン(AD)、1,4−アンドロスタジエン−3,17−ジオン(ADD)、エストロ−4−エン−3,17−ジオン(estr−4−ene−3,17−dione)、テストステロン、プロゲステロン、ノルジオン、7α−メチル−ノルジオン、11−メチレン−ノルジオンのような化合物だけでなく、プレグネノロン及びスタノロン(17β−OH−5α−アンドロスタン−3−オン)、19−OH−7−デヒドロ−アンドロステン−3,17−ジオン及び9α−ヒドロキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン(9OHAD)のような化合物も、kstDプロモーターの抑制を取り除くことができる。
【0060】
選択的調節化合物も特定し得る。例えばkstDプロモーターの制御下でレポーター遺伝子の産物を発現する細胞は、kstDプロモーターの活性を調節する物質を特定するために有用である。従って、kstDプロモーターの制御下でレポーター遺伝子産物を発現する宿主細胞はスクリーニングのために有用であり、kstDプロモーターの活性を調節する化合物を特定するための方法を提供することは本発明のさらなる目的である。前記方法は、kstDプロモーターの活性を調節する能力を測定しようとする少なくとも1つの化合物に、kstDプロモーターを含む細胞を接触させることを含む。これらの細胞を、次に、調節によって引き起こされる変化に関して観測する。
【0061】
(実施例)
【実施例1】
【0062】
kstR非標識(unmarked)遺伝子欠失後のkstDの構成的発現
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) SQ1におけるkstD遺伝子(3−ケトステロイド△−デヒドロゲナーゼKSTD1をコードする)の転写調節因子をコードする遺伝子、kstRの非標識遺伝子欠失のために突然変異誘発性プラスミドpREG104を構築した(図1)。簡単に述べると、pSDH205(Van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environ.Microbiol.66:2029−2036)を制限酵素NruI及びBalIで消化し、次に自己連結させて、プラスミドpREG103を作成する。kstR遺伝子欠失を含む、pREG103のEcoRI DNA断片を、その後、EcoRI消化したpK18mobsacBベクターにクローニングして、pREG104を作成する。記述されているsacB対立選択法(Van der Geize R.ら、2001、FEMS Microbiol.Lett.205:197−202)により、pREG104を使用して、非標識kstR遺伝子欠失突然変異R.エリスロポリス(R.erythropolis) RG10をR.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1から単離した。正プライマー(REG−FOR)5’GGCGACGTTGCCGAGAATT3’及び逆プライマー(REG−REV)5’TCAGTGTCGTGAGAGATTCA3’を使用したポリメラーゼ連鎖反応によって真正kstR遺伝子欠失を確認した。親菌株SQ1のゲノムDNA(対照)に関して618bpのPCRアンプリコンを得た。kstR遺伝子欠失突然変異株RG10のゲノムDNAに関しては、アンプリコンは393bpに低下し、kstR遺伝子欠失を確認した。
【0063】
構成的kstD1発現を、突然変異株RG10及び親菌株SQ1の細胞をグルコース(20mM)無機培地(1g・l−1NHNO、0.25g・l−1HPO、0.25g・l−1MgSO・7HO、5mg・l−1NaCl、5mg・l−1FeSO・7HO(pH7.2))中、30℃で3日間増殖させ、続いて5時間ステロイド誘導すること(0.5g/l−1、4−アンドロステン−3,17−ジオン(AD))によって確認した。対照として、ステロイド誘導なしの細胞培養物を使用した。ADをDMSO(50mg/ml−1)に溶解し、高圧滅菌した培地に加えた。細胞ペレット(30分間、7,300×g、4℃)をリン酸緩衝液200ml(KHPO2.72gl−1;KHPO3.48g−l−1;MgSO−7HO 2.46g・l;pH7.2)で洗浄した。洗浄した細胞懸濁液(5ml)をフレンチプレス細胞(140Mpa)に2回通して破壊した。細胞抽出物を25,000×gで20分間遠心分離して、細胞デブリを除去した。KSTD活性に関して染色した未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によってkstDの発現を確認した(Van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environ.Microbiol.66:2029−2036)(表1)。菌株RG10の非誘導細胞から調製した無細胞抽出物に関してKSTD1活性のバンドを認め、kstR遺伝子欠失がkstD遺伝子の構成的発現をもたらすことを示唆した(表1)。
【0064】
【表1】

【実施例2】
【0065】
微生物ステロイド△−脱水素反応のためのkstD2の構成的発現
pREG104(図1、実施例1参照)を使用して、R.エリスロポリス(R.erythropolis) RG9(Van der Geize R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)のkstR遺伝子欠失突然変異株を構築し、R.エリスロポリス(R.erythropolis) RG17と称した。従って、菌株RG17は、kstDプロモーターの転写調節因子に加えて、3−ケトステロイド△−デヒドロゲナーゼ(KSTD1及びKSTD2)及び3−ケトステロイド9α−ヒドロキシラーゼ(KSH)活性を持たない、kstD kstD2 kshA1 kstRの四遺伝子欠失突然変異株である。この突然変異株のkstD kstD2 kshA表現型の故に、菌株RG17は、4−アンドロステン−3,17−ジオン(AD)、1,4−アンドロスタジエン−3,17−ジオン(ADD)及び9α−ヒドロキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン(9OHAD)の代謝が完全にブロックされる。
【0066】
R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1(Van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environ.Microbiol.66:2029−2036)のkstDプロモーターの制御下での遺伝子発現のためにロドコッカス発現ベクターを構築した。kstDプロモーターを使用すると、kstR遺伝子欠失を有するR.エリスロポリス(R.erythropolis)突然変異株における遺伝子の発現は、kstD発現のリプレッサーが存在しないため構成的である。kstDプロモーター領域(158bp)を、正プライマー
【0067】
【化1】

及び逆プライマー
【0068】
【化2】

を使用したPCR増幅(Taqポリメラーゼを使用して、25サイクル:30秒間、95℃、30秒間、64℃、30秒間、72℃)によってR.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1染色体DNAから単離した。kstD遺伝子のATG開始コドンに対象遺伝子を正確にクローニングできるようにNdeI部位(下線部)をアンプリコンに組み込んだ。そのアンプリコン(175bp)を、シャトルベクターpRESQ(Van der Geize R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)のユニークSnaBI制限部位に平滑末端連結し、生じたロドコッカス発現ベクターをpRESXと称した(図2)。
【0069】
R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1におけるKSTD2イソ酵素をコードするkstD2遺伝子を、正プライマー
【0070】
【化3】

(NdeI部位に下線を付している)及び逆プライマー
【0071】
【化4】

(BamHI部位に下線を付している)
を使用したPCR(条件:前記参照)によって親菌株SQ1の染色体DNAから単離した。導入したNdeI及びBamHI部位を使用して、kstD2アンプリコンをNdeI/BglII消化したpRESXベクターに連結した。生じたプラスミドをpRESX−KSTD2と称した。
【0072】
プラスミドpRESX−KSTD2を電気的形質転換(Van der Geize,R.ら、2000、Appl.Environ.Microbiol.66:2029−2036)によってR.エリスロポリス(R.erythropolis)菌株RG17に導入し、1つの形質転換体をADバイオトランスフォーメーションのために使用した。KSTD2によるADのADDへのバイオトランスフォーメーションを、カナマイシン(200μg/ml−1)の存在下にYG15 100ml(15g/l−1酵母抽出物、15g/l−1グルコース)培地中28℃(200rpm)で増殖させた細胞に関して実施した。後期対数増殖期まで(5−9のOD600)増殖させた後、AD(0.1%[vol/vol]Tween 80中1g/l)を加えて、ADDへのADバイオトランスフォーメーションを数日間進行させた。HPLC分析のために、培養試料をメタノール/水(70:30)で5倍希釈し、ろ過した(0.45m)。ステロイドをHPLC(250×3mmの逆相Lichrosorb 10RP18カラム[Varian Chrompack International,Middelburg,The Netherlands]、254nmでの紫外吸収検出、及び35℃のメタノール/水[60:40]の液相を用いる)によって分析した。
【0073】
pRESX−KSTD2を保有する、R.エリスロポリス(R.erythropolis)菌株RG17の細胞に関するバイオトランスフォーメーション実験は、ADのADDへのバイオトランスフォーメーションをほぼ完了まで生じさせる、KSTD2ステロイド△−デヒドロゲナーゼ活性の存在を示した。これに対し、野生型KSTD1及びKSTD2イソ酵素を有するが、KSH反応が遮断されているロドコッカス属菌突然変異株は、おそらく調節機構のために(Van der Geize R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)、通常は50%を越えない収率でADをADDに変換する。
【実施例3】
【0074】
kshAイソ遺伝子、kshA2の発現はkshA突然変異株表現型を相補する
R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1(Van der Geize R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)のkshA遺伝子のホモログを、紫外線誘導ロドコッカス菌突然変異株の相補性実験によって単離したDNA断片のヌクレオチド配列決定に従って同定した。R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1は少なくとも2個のkshAイソ遺伝子を含み、これらをkshA及びkshA2と称した。
【0075】
R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1のkshA遺伝子欠失突然変異株、R.エリスロポリス(R.erythropolis) RG2(Van der Geize R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)は、唯一の炭素及びエネルギー源としてAD(0.25g/l−1)を添加した無機塩寒天平板(1g・l−1NHNO、0.25g・l−1HPO、0.25g・l−1MgSO−7HO、5mg・l−1NaCl、5mg・l−1FeSO7HO(pH7.2)、1.5%寒天)で増殖を示さない。従って、kshA2は、これらの増殖条件下でR.エリスロポリス(R.erythropolis) RG2において発現されない。
【0076】
kshA2遺伝子をpRESXにおいてkstDプロモーターの制御下においた。これを実現するため、kshA2遺伝子を、正プライマー
【0077】
【化5】

(NdeI部位に下線を付している)及び逆プライマー
【0078】
【化6】

(SpeI部位に下線を付している)
を使用したPCRによってR.エリスロポリス(R.erythropolis)染色体DNAから鋳型として増幅した。得られたkshA2アンプリコンを、最初にEcoRV消化したpBlueScript(II)KS(pKSH311)に連結し、その後NdeI/SpeI断片としてNdeI/SpeI消化したpRESXにサブクローニングして、pKSH312を生成した。
【0079】
プラスミドpKSH312を電気的形質転換によってR.エリスロポリス(R.erythropolis) RG2に導入し、生じた形質転換体を、0.25g/lのADを唯一の炭素及びエネルギー源として含む無機塩寒天培地でレプリカ平板法を実施した。全ての形質転換体がAD無機塩培地で増殖することができ、kstDプロモーターの制御下でのkshA2の機能的発現及びkshA突然変異表現型の相補性を示唆した。
【実施例4】
【0080】
ステロイド及び構成的発現の誘導
ステロイドがKstD遺伝子のリプレッサー−プロモーター系を誘導することができるかどうかを評価するため、前述したR.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1(野生型)及びR.エリスロポリス(R.erythropolis) RG10(kstR突然変異型)の両方の細胞培養を、1,4−アンドロスタジエン−3,17−ジオン(ADD)、テストステロン、プロゲステロン、ノルジオン、エストロン、7α−メチル−ノルジオン、11−メチレン−ノルジオン、スタノロン(17βOH−5α−アンドロスタン−3−オン)、19OH−7−デヒドロ−アンドロステン−3,17−ジオン及びプレグネノロンによる誘導条件下で試験した。4−アンドロステン−3,17−ジオン(AD)誘導を陽性対照として用いた。
【0081】
誘導した培養から、前述したように無細胞抽出物を調製し、DCPIPを電子受容体とし、ADを基質として使用してKSTD活性に関して試験した。エストロンを除いて、試験した全てのステロイドがR.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1においてKSTD活性を誘導できることを認めた。活性のレベルは、試験した全てのステロイドについて同じではなかった。未変性ゲルの対照は、全ての陽性ケースで実際にKSTD1活性が誘導されたことを確認した。
【0082】
さらに、KSTD1がR.エリスロポリス(R.erythropolis) RG10において構成的に発現されるかどうかを検討した。AD誘導細胞培養から及び非誘導細胞培養から無細胞抽出物を調製した。これらの抽出物を、DCPIPを電子受容体とし、ADを基質として使用してKSTD活性に関して試験した。比較のために、R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1に関して同じ手順を実施した。
【0083】
R.エリスロポリス(R.erythropolis) RG10の誘導並びに非誘導培養の両方において、KSTD活性が存在することを認めた。R.エリスロポリス(R.erythropolis) SQ1では、他方で、KSTD活性はAD誘導培養においてのみ検出された。未変性ゲルの対照は、全ての陽性ケースで実際にKSTD1活性が誘導されたことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、kstR非標識(unmarked)遺伝子欠失のための突然変異誘発性プラスミドpREG104の構築の概略図である。
【図2】図2は、pRESQに由来するロドコッカス発現ベクターpRESX(Van der Geize,R.ら、2002、Mol.Microbiol.45:1007−1018)の概略図である。黒色の湾曲したバーはkstDプロモーター領域を示す。白色の湾曲したバーは、自律複製をコードするロドコッカス属菌遺伝子を示す。aphIIはカナマイシン耐性をコードする。
【配列表】









【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロドコッカス属からのプロモーターを含み、前記プロモーターがkstDプロモーターであることを特徴とする、単離ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ロドコッカス属がロドコッカスエリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号3の配列からのヌクレオチド1−158又はその機能性部分を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記プロモーターの転写調節因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1から3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ヌクレオチド配列の発現がステロイド化合物によって制御される、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記調節因子が、kstR遺伝子又はそのホモログ又は機能性部分を含む、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記プロモーターに作動可能に連結されたポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
選択マーカー、逆選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
シグナル配列をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項11】
マルチクローニングサイトを有するヌクレオチド配列をさらに含む、請求項10に記載の組換えベクター。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項13】
前記宿主細胞がアクチノマイセテス目(Actinomycetales)からの細菌である、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
前記宿主細胞が、アクチノマイセス科(Actinomycetaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacterineae)、ミコバクテリウム科(Mycobacteriaceae)、ノカルジア科(Nocardiaceae)、ブレビバクテリウム科(Brevibacteriaceae)又はミクロコッカス科(Micrococcaceae)に属する細菌から選択される、請求項13に記載の細菌宿主細胞。
【請求項15】
前記宿主細胞が、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌から選択される、請求項13に記載の細菌宿主細胞。
【請求項16】
前記宿主細胞が、No.DSM 15231の下にDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されている細菌、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) RG10である、請求項13に記載の細菌宿主細胞。
【請求項17】
機能性kstR遺伝子又はそのホモログ又は機能性部分を含まない、請求項12から16のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項18】
宿主細胞を請求項10又は11に記載の組換えベクターで形質転換することを含む、宿主細胞において所望タンパク質を生産するための方法。
【請求項19】
請求項1から9のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む微生物発現系。
【請求項20】
請求項17に記載の宿主細胞をポリヌクレオチド構築物で形質転換することを含み、対象タンパク質のコード領域の発現がkstDプロモーターの制御下にある、前記対象タンパク質の構成的発現のための方法。
【請求項21】
異種タンパク質の発現の誘導のためのステロイドの使用であって、前記発現はkstDプロモーターの制御下にあり、前記ステロイドはkrtR遺伝子産物によって及ぼされるリプレッサー機能を取り除くものである、前記使用。
【請求項22】
請求項12から17のいずれかに記載の宿主細胞を、kstDプロモーターの活性を調節する能力を測定しようとする少なくとも1つの化合物に接触させること、及び前記細胞の調節されるkstDプロモーター活性に関して観測することを含む、kstDプロモーターの活性を調節する化合物を特定するための方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−508684(P2006−508684A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560496(P2004−560496)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050928
【国際公開番号】WO2004/055189
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(394010986)アクゾ・ノベル・エヌ・ベー (31)
【Fターム(参考)】