説明

ロータおよびモータ

【課題】筒状胴部を備えたホルダによってリング状のマグネットを保持したロータにおいて、温度変化に起因するマグネットの割れやガタつき等の発生を抑制することのできる構成、および当該ロータを備えたモータを提供すること。
【解決手段】モータのロータ1において、マグネット3は、ホルダ2の筒状胴部25に保持されているとともに、ホルダ2の支持部(径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8)によって弾性をもって支持されている。支持部(径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8)は、マグネット3に当接する当接部(径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81)と、当接部をマグネット3に対する当接方向に変位可能とする弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状のマグネットがホルダに保持されたロータ、および当該ロータを備えたモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機は、ロータと、ロータに対向配置されたステータとを有している。かかるロータのうち、リング状のマグネットがホルダの筒状胴部に保持された構成のものでは、温度が上昇した際、マグネットとホルダとの熱膨張係数の差によってマグネットに過大な力が加わると、マグネットに割れ等の不具合が発生する。そこで、マグネットの周辺に弾性変形部を設けておき、温度が上昇した際にマグネットに加わる力を弾性変形部で吸収する構成が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1では、ホルダにおいてマグネットが位置する部分の内側に、マグネットと同心状の変形吸収溝が形成された構成が提案されている。また、特許文献2では、マグネットの内側においてマグネットとホルダとの間に隙間を確保しておく構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−268243号公報
【特許文献2】特開2007−221899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の構成のように、マグネットの内側に変形吸収溝や隙間を確保しておく構成では、温度が低下してホルダが収縮すると、マグネットにガタつきが発生するという問題点がある。なお、特許文献1には、筒状胴部を備えたホルダに代えて、マグネットと回転軸との間に2つの板ばね部材を配置し、2つの板ばね部材を弾性変形部として利用した構成が提案されているが、かかる構成では、2つの部材を用いる必要があるとともに、マグネットを確実に保持することが困難である。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、筒状胴部を備えたホルダによってリング状のマグネットを保持したロータにおいて、温度変化に起因するマグネットの割れやガタつき等の発生を抑制することのできる構成、および当該ロータを備えたモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、円筒状のマグネットと、該マグネットの内周面および外周面のうちの一方の周面が露出した状態に当該マグネットを保持する筒状胴部を備えたホルダと、を有するロータにおいて、前記ホルダは、前記マグネットを径方向、周方向および軸方向のうちのいずれかの方向から弾性をもって支持する支持部を有し、前記支持部は、前記マグネットに当接する当接部と、該当接部を前記マグネットに対する当接方向に変位可能とする弾性腕部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明において、マグネットは、ホルダの筒状胴部に保持されているとともに、ホルダの支持部によって弾性をもって支持されている。ここで、支持部は、マグネットに当接する当接部と、当接部をマグネットに対する当接方向に変位可能とする弾性腕部とを備えているため、温度変化が生じた際、マグネットとホルダとの間に熱膨張係数の差があっても、マグネットに加わる力は、当接部の変位によって吸収される。このため、マグネットに過大な力が加わらないので、マグネットの割れ等の不具合の発生を抑制することができる。また、マグネットとホルダとの熱膨張係数の差によって、マグネットと当接部との間に隙間が発生しようとした場合でも、かかる隙間の発生は、当接部の変位によって阻止される。このため、マグネットのガタつき等の不具合の発生を抑制することができる。
【0009】
本発明において、前記弾性腕部は、前記筒状胴部に開口部を設けることにより前記筒状胴部の一部として形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、簡素な構成のホルダによって、温度変化に起因するマグネットの割れやガタつき等の不具合の発生を抑制することができる。
【0010】
本発明において、前記弾性腕部は、周方向に延在していることが好ましい。かかる構成によれば、弾性腕部を軸方向に延在させた場合に比して弾性腕部の長さ寸法に対する自由度が高い等の利点がある。
【0011】
本発明において、前記ホルダは、前記支持部を周方向の複数個所に有していることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを安定した状態に支持することができる。
【0012】
本発明において、前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを径方向で支持する径方向支持部を有し、前記径方向支持部は、前記当接部として、前記内周面および前記外周面のうちの他方の周面に径方向から当接する径方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記径方向当接部を径方向に変位可能とする径方向支持用弾性腕部を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを径方向で安定して支持することができる。
【0013】
本発明において、前記径方向当接部は、軸方向に延在して前記マグネットに線状に接触する突条部を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを安定した状態に支持することができる。
【0014】
本発明において、前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを周方向で支持する周方向支持部を有し、前記マグネットは、周方向に向く被当接部を備え、前記周方向支持部は、前記当接部として、前記被当接部に周方向から当接する周方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記周方向当接部を周方向に変位可能とする周方向支持用弾性腕部を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを周方向で安定して支持することができる。
【0015】
本発明において、前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを軸方向で支持する軸方向支持部を有し、前記軸方向支持部は、前記当接部として、前記マグネットにおいて軸方向の一方側に向く被当接面に軸方向から当接する軸方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記軸方向当接部を軸方向に変位可能とする軸方向支持用弾性腕部を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを軸方向で安定して支持することができる。
【0016】
本発明において、前記ホルダは、前記マグネットの軸方向の他方側に係合する係合部を有し、当該係合部は、径方向に弾性変形可能な弾性腕部と、該弾性腕部から前記マグネットに向けて突出して前記マグネットにおいて軸方向の他方側に向く被当接面に係合する係合凸部とを備えていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットの一方側端部からホルダの筒状胴部を挿入する際、係合部の弾性腕部がマグネットに押されて変位するので、マグネットの一方側端部からホルダの筒状胴部を挿入することができる。また、マグネットの一方側端部からホルダの筒状胴部を挿入し終えると、係合凸部が自動的にマグネットに係合するので、マグネットが筒状胴部から不用意に抜けることがない。
【0017】
この場合、前記係合部と前記軸方向支持部とは、周方向で互いに異なる位置に設けられていることが好ましい。かかる構成によれば、マグネットを軸方向で安定して支持することができる。
【0018】
本発明に係るロータは、モータ用ロータや発電機用ロータとして用いることができ、モータの場合、ロータに対向配置されたステータを有している。
【発明の効果】
【0019】
本発明において、マグネットは、ホルダの筒状胴部に保持されているとともに、ホルダの支持部によって弾性をもって支持されている。ここで、支持部は、マグネットに当接する当接部と、当接部をマグネットに対する当接方向に変位可能とする弾性腕部とを備えているため、温度変化が生じた際、マグネットとホルダとの間に熱膨張係数の差があっても、マグネットに加わる力は、弾性腕部による当接部の変位によって吸収される。このため、マグネットに過大な力が加わらないので、マグネットの割れ等の不具合の発生を抑制することができる。また、マグネットとホルダとの熱膨張係数の差によって、マグネットと当接部との間に隙間が発生しようとした場合でも、かかる隙間の発生は、弾性腕部による当接部の変位によって阻止される。このため、マグネットのガタつき等の不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用したモータの全体構成を示す説明図である。
【図2】本発明を適用したモータの断面図である。
【図3】本発明を適用したモータのロータを出力側からみたときの説明図である。
【図4】本発明を適用したモータのロータを反出力側からみたときの説明図である。
【図5】本発明を適用したモータのロータの説明図である。
【図6】本発明を適用したモータのロータに構成した支持部の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して、本発明を適用したモータおよびロータの一例を説明する。なお、以下の説明では、各種のモータのうち、ステッピングモータに本発明を適用した場合を例示する。また、以下の説明では、モータ軸線方向において、回転軸(モータ軸)が突出している側を「出力側L1」とし、回転軸が突出している側とは反対側を「反出力側L2」として説明する。
【0022】
(全体構成)
図1は、本発明を適用したモータの全体構成を示す説明図であり、図1(a)、(b)、(c)は、モータの斜視図、モータの分解斜視図、およびステータとロータとを分離した様子を示す斜視図である。図2は、本発明を適用したモータの断面図である。
【0023】
図1および図2に示すモータ10は、インナーロータタイプのステッピングモータであり、ホルダ2およびホルダ2の外周面に保持されたリング状のマグネット3を備えたロータ1と、ロータ1の外周側に配置された円筒状のステータ5とを有している。ロータ1は、ホルダ2に固着された回転軸4を備えており、回転軸4は、ステータ5の出力側L1の端面から突出している。かかる構成のモータ10において、マグネット3の外周面には周方向にS極とN極とが交互に形成されている。
【0024】
本形態のモータ10において、ステータ5は、2つのステータ組5A、5Bがモータ軸線L方向に2段に重ねて配置された構造を有しており、2つのステータ組5A、5Bは、略同一構成をもって逆向きに重ねて、半ピッチ周方向にずれて配置されている。ステータ組5A、5Bは各々、コイル59が巻回された絶縁性のコイルボビン50と、コイルボビン50のモータ軸線L方向の両端部に重ねて配置された2つのステータコア51、52とを備えている。ステータコア51、52のうち、ステータコア51は、モータ軸線L方向における外側に配置された外ステータコアであり、ステータコア52は、モータ軸線L方向における内側に配置された内ステータコアである。本形態において、ステータコア51は、コイル59の外周側を覆う外周側板部51aを備えており、ステータコア51の外周側板部51aによってモータケースが構成されている。かかる構成のステータ5として周知の構成を採用することができるので、詳細な説明を省略するが、ステータコア51、52では、モータ軸線L方向に直交する端板部の中央穴からはモータ軸線L方向に極歯513、523が形成されている。従って、ステータコア51、52をコイルボビン50のモータ軸線L方向の両端部に重ねると、ステータコア51の極歯513とステータコア52の極歯523とは、コイルボビン50の内周面に沿って交互に並ぶことになる。この状態で、極歯513、523は、ロータ1のマグネット3に対して径方向内側で所定の間隔を介して対向することになる。
【0025】
ステータ5のモータ軸線L方向の両端面には、端板191、192が固着されており、各々が裏面カバーおよび表面カバーとして用いられている。また、端板192の外周端部は、モータ10が搭載される機器への取り付け板として利用されている。また、端板191、192の中央には穴191a、192aが形成されており、かかる穴191a、192aを利用して、回転軸4を回転可能に支持する軸受193、194が保持されている。なお、回転軸4には、ホルダ2の出力側L1の端部と軸受194との間にワッシャー195、板状バネ196およびワッシャー197がこの順に取り付けられている。また、回転軸4には、ホルダ2の反出力側L2の端部と軸受193との間にワッシャー198が取り付けられている。
【0026】
(ロータ1の詳細構成)
図3は、本発明を適用したモータ10のロータ1を出力側からみたときの説明図であり、図3(a)、(b)は、ロータ1の斜視図および分解斜視図である。図4は、本発明を適用したモータ10のロータ1を反出力側からみたときの説明図であり、図4(a)、(b)は、ロータ1の斜視図および分解斜視図である。図5は、本発明を適用したモータ10のロータ1の説明図であり、図5(a1)、(a2)、(a3)は、ホルダ2の平面図、側面図および底面図であり、図5(b1)、(b2)、(b3)は、マグネット3の平面図、側面図および底面図である。
【0027】
図3、図4および図5に示すように、ロータ1において、マグネット3は、円筒状の焼結磁石、ボンド磁石やプラスチック磁石等であり、モータ軸線L方向における出力側L1の端部34(一方側端部)には、軸方向Gに凹む矩形形状の凹部36が形成されている。これに対して、マグネット3のモータ軸線L方向における反出力側L2の端部33(他方側端部)には凹部等が形成されていない。本形態において、凹部36は、等角度間隔の3個所に形成されている。かかる凹部36の内側において、周方向Fの両側位置で軸方向に起立して周方向に向く部分361、362は、後述する周方向支持部7で支持される被当接部である。
【0028】
ホルダ2は、樹脂成形品であり、モータ軸線L方向の反出力側L2に位置する底板部21と、底板部21の中央から出力側L1に向けて突出した筒部23と、底板部21の外周縁から出力側L1に向けて突出した筒状胴部25とを備えたカップ形状を有している。また、ホルダ2は、筒部23、筒状胴部25および底板部21に繋がった板状リブ28を備えており、本形態において、板状リブ28は等角度間隔に6枚形成されている。
【0029】
本形態において、底板部21は円盤状であり、筒部23および筒状胴部25は互いに同心状の円筒状である。筒部23には回転軸4が嵌る軸穴230が形成されている。かかるホルダ2において、筒状胴部25の出力側L1の端部は、径方向Eにおける肉厚が他の部分よりわずかに厚いフランジ部26になっている。
【0030】
ここで、筒状胴部25にはマグネット3が保持されている。本形態において、図1に示すモータ10は、インナーロータタイプのステッピングモータであるため、マグネット3は、筒状胴部25の外周面251および内周面252のうち、外周面251の側に保持されている。従って、マグネット3は、内周面31および外周面32のうち、外周面32が露出した状態にあり、ステータ5と対向している。
【0031】
本形態のロータ1において、ホルダ2は、以下に説明するように、マグネット3を径方向、周方向および軸方向のうちのいずれかの方向から弾性をもって支持する支持部を有しており、かかる支持部は、マグネット3に当接する当接部と、当接部をマグネット3に対する当接方向に変位可能とする弾性腕部とを備えている。
【0032】
(ホルダ2の径方向支持部の構成)
本形態のモータ10およびロータ1において、ホルダ2は、まず、上記の支持部として、マグネット3を径方向Eで支持する径方向支持部6を有しており、本形態において、径方向支持部6は、等角度間隔の3個所に同一の構造をもって形成されている。かかる径方向支持部6を構成するにあたって、本形態では、マグネット3の内周面31に径方向Eから当接する径方向当接部61(当接部)と、径方向当接部61を径方向Eに変位可能とする径方向支持用弾性腕部62(弾性腕部)とが用いられ、マグネット3は、径方向支持部6によってホルダ2に弾性をもって径方向Eで支持されている。
【0033】
より具体的には、ホルダ2の筒状胴部25には、モータ軸線L方向における略中央位置に、周方向Fに延在する2本の溝状の開口部256a、256bが平行して所定の角度範囲にわたって形成されており、開口部256a、256bの間には径方向支持用弾性腕部62が形成されている。かかる径方向支持用弾性腕部62において、両端の根元部分は筒状胴部25に繋がっているため、変形不能であるが、根元部分から離間する中央部分は、径方向Eに弾性変形可能である。ここで、径方向支持用弾性腕部62の周方向の略中央位置には、径方向外側に突出してマグネット3の内周面31に径方向Eから当接する径方向当接部61が形成されており、かかる径方向当接部61は、径方向支持用弾性腕部62によって両持ち状態で支持されているので、径方向支持用弾性腕部62の弾性変形によって径方向Eに変位可能である。
【0034】
本形態において、径方向当接部61は、径方向支持用弾性腕部62から軸方向Gに延在する断面半円形状の突条部として形成されており、マグネット3の内周面31に線接触状態で当接する。
【0035】
(ホルダ2の周方向支持部の構成)
本形態のモータ10およびロータ1において、ホルダ2は、上記の支持部として、さらに、マグネット3を周方向Fで支持する周方向支持部7を有しており、本形態において、周方向支持部7は、等角度間隔の3個所に同一の構造をもって形成されている。本形態において、周方向支持部7は、径方向支持部6に対して60°ずれた位置に設けられている。かかる周方向支持部7を構成するにあたって、本形態では、マグネット3の凹部36において周方向に向く部分361、362(被当接部)に周方向Fから当接する周方向当接部71(当接部)と、周方向当接部71を周方向Fに変位可能とする周方向支持用弾性腕部72(弾性腕部)とが用いられ、マグネット3は、周方向支持部7によってホルダ2に弾性をもって周方向Fで支持されている。
【0036】
より具体的には、ホルダ2の筒状胴部25において、出力側L1の端部付近には、フランジ部26を部分的に残すように開口部257aが所定の角度範囲にわたって形成されており、筒状胴部25の出力側L1の端部には、周方向Fに延在した後、軸方向Gに折れ曲がったL字形状の周方向支持用弾性腕部72が形成されている。本形態において、周方向支持用弾性腕部72は、周方向Fの時計回りCWの方向に向けて延在した後、軸方向Gに折れ曲がったL字形状の周方向支持用弾性腕部72aと、周方向Fの反時計回りCCWの方向に向けて延在した後、軸方向Gに折れ曲がったL字形状の周方向支持用弾性腕部72bとが形成されている。また、筒状胴部25の内周面252において周方向支持用弾性腕部72が形成されている部分は、開口部257aに繋がった窪み257bになっており、周方向支持用弾性腕部72は、筒状胴部25の他の部分に比して肉薄になっている。
【0037】
かかる周方向支持用弾性腕部72において、根元部分は筒状胴部25に繋がっているため、変形不能であるが、根元部分から離間する先端部分は、軸方向Gに弾性変形可能である。従って、周方向支持用弾性腕部72の先端部は、周方向支持用弾性腕部72の先端部の軸方向Gでの変形に伴って、周方向Fに変位可能である。しかも、周方向支持用弾性腕部72は、筒状胴部25の他の部分に比して肉薄になっているため、変形しやすくなっている。ここで、2つの周方向支持用弾性腕部72(周方向支持用弾性腕部72a、72b)の先端部には、周方向Fに突出してマグネット3の凹部36において周方向に向く部分361、362(被当接部)に周方向Fから当接する周方向当接部71が形成されている。従って、周方向当接部71は、周方向支持用弾性腕部72の弾性変形によって周方向Fに変位可能である。
【0038】
本形態において、周方向当接部71は、周方向支持用弾性腕部72の先端部において、径方向Eに延在する断面半円形状の突条部として形成されており、マグネット3の凹部36において周方向に向く部分361、362(被当接部)に線接触状態で当接する。
【0039】
(ホルダ2の軸方向支持部の構成)
本形態のモータ10およびロータ1において、ホルダ2は、上記の支持部として、さらに、マグネット3を軸方向Gで支持する軸方向支持部8を有しており、本形態において、軸方向支持部8は、等角度間隔の3個所に同一の構造をもって形成されている。本形態において、軸方向支持部8は、径方向支持部6と同一の角度位置に設けられている。かかる軸方向支持部8を構成するにあたって、本形態では、マグネット3において出力側L1に向く端部34(被当接部)に軸方向Gから当接する軸方向当接部81(当接部)と、軸方向当接部81を軸方向Gに変位可能とする軸方向支持用弾性腕部82(弾性腕部)とが用いられ、マグネット3は、軸方向支持部8によってホルダ2に弾性をもって軸方向Gで支持されている。
【0040】
より具体的には、ホルダ2の筒状胴部25において、出力側L1の端部付近には、フランジ部26を残すように周方向に延在する開口部258aが所定の角度範囲にわたって形成されており、筒状胴部25の出力側L1の端部には、周方向Fに延在した軸方向支持用弾性腕部82が形成されている。また、筒状胴部25の内周面252において軸方向支持用弾性腕部82が形成されている部分は、開口部258aに繋がった窪み258bになっており、軸方向支持用弾性腕部82は、筒状胴部25の他の部分に比して肉薄になっている。
【0041】
かかる軸方向支持用弾性腕部82において、両端の根元部分は筒状胴部25に繋がっているため、変形不能であるが、根元部分から離間する中央部分は、軸方向Gに弾性変形可能である。しかも、軸方向支持用弾性腕部82は、筒状胴部25の他の部分に比して肉薄になっているため、変形しやすくなっている。ここで、軸方向支持用弾性腕部82の周方向の略中央位置には、軸方向Gの反出力側に突出してマグネット3の出力側L1の端部34に軸方向Gから当接する軸方向当接部81が形成されており、かかる軸方向当接部81は、軸方向支持用弾性腕部82によって両持ち状態で支持されているので、軸方向支持用弾性腕部82の弾性変形によって軸方向Gに変位可能である。
【0042】
本形態において、軸方向当接部81は、軸方向支持用弾性腕部82の中央部分において、径方向Eに延在する断面半円形状の突条部として形成されており、マグネット3の出力側L1の端部34に線接触状態で当接する。
【0043】
(係合部の構成)
このように構成したロータ1において、ホルダ2の反出力側L2の端部には、マグネット3において反出力側L2に向く端部33(被当接部)に係合する係合部9が形成されており、係合部9は、軸方向支持部8との間にマグネット3を保持する。本形態において、係合部9は等角度間隔の3個所に同一の構造をもって形成されている。本形態において、係合部9は、軸方向支持部8に対して周方向で60°ずれた位置に設けられ、周方向支持部7と同一の角度位置に設けられている。かかる係合部9を構成するにあたって、本形態では、径方向に弾性変形可能な弾性腕部92と、弾性腕部92からマグネット3に向けて突出してマグネット3の反出力側L2の端部33に係合する係合凸部91とが用いられている。
【0044】
より具体的には、ホルダ2の筒状胴部25には、モータ軸線L方向における反出力側L2の端部に、軸方向Gに延在する2本のスリット状の開口部259a、259bが形成されており、開口部259a、259bの間には弾性腕部92が形成されている。かかる弾性腕部92において、根元部分は筒状胴部25に繋がっているため、変形不能であるが、根元部分から離間する先端部分は、径方向Eに弾性変形可能である、ここで、弾性腕部92の反出力側L2の端部(先端部)の外面には、係合凸部91が形成されており、かかる係合凸部91は、弾性腕部92の弾性変形によって径方向に変位可能である。また、係合凸部91において、径方向Eの外側に向く面は、反出力側L2に斜めに傾いたテーパ面になっている。
【0045】
(マグネット3およびホルダ2の径方向の寸法関係)
本形態のモータ10のロータ1において、一般的にはマグネット3の線膨張率と、ホルダ2を構成する樹脂の線膨張率には、以下の関係
マグネット3の線膨張率<ホルダ樹脂の線膨張率
がある。本形態では、かかる関係に対応して、マグネット3およびホルダ2の径方向Eの寸法は、以下のように設定してある。まず、高温下においては、ホルダ2の外周面251がマグネット3の内周面31に当接しないようにマグネット3およびホルダ2の径方向Eの寸法を設定してある。また、低温下においては、ホルダ2の径方向当接部61がマグネット3の内周面31に当接して押圧力を発揮するようにマグネット3およびホルダ2の径方向Eの寸法を設定してある。なお、マグネット3およびホルダ2の軸方向Gの寸法、および周方向Fの寸法についても、径方向Eの寸法と同様な条件を満たす設定にしてある。
【0046】
それ故、本形態のモータ10の使用、保存温度範囲において、マグネット3は径方向E、周方向F、軸方向Gのいずれにおいてもホルダ2の弾性力で保持され、モータ10の動作時の反力にも充分耐え得るとともに、振動、落下性能なども満たすことになる。
【0047】
(本形態の効果)
以上説明したように、本形態のモータ10において、マグネット3は、ホルダ2の筒状胴部25に保持されているとともに、ホルダ2の支持部(径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8)によって弾性をもって支持されている。ここで、支持部(径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8)は、マグネット3に当接する当接部(径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81)と、当接部をマグネット3に対する当接方向に変位可能とする弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)とを備えているため、温度上昇が生じた際、マグネット3とホルダ2との間に熱膨張係数の差があっても、マグネットに加わる力は、当接部(径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81)の変位によって吸収される。このため、マグネット3に過大な力が加わらないので、マグネット3の割れ等の不具合の発生を抑制することができる。また、温度低下が生じた際、マグネット3とホルダ2との熱膨張係数の差によって、マグネット3と当接部(径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81)との間に隙間が発生しようとした場合でも、かかる隙間の発生は、当接部(径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81)の変位によって吸収される。このため、マグネット3のガタつき等の不具合の発生を抑制することができる。
【0048】
また、ホルダ2には、支持部(径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8)が周方向の複数個所に等角度間隔で配置されているため、マグネット3には、ホルダ2からの力が等角度間隔の方向から均等に加わる。それ故、マグネット3は、安定した状態に支持され、傾きにくい。
【0049】
また、弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)は、筒状胴部25に開口部(開口部256a、256b、257a、258a)を設けることにより筒状胴部25の一部として形成されている。このため、簡素な構成のホルダ2によって、温度変化に起因するマグネット3の割れやガタつき等の不具合の発生を抑制することができる。しかも、弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)は、独立して周方向Fに延在しているため、弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)を軸方向に延在させた場合に比して弾性腕部(径方向支持用弾性腕部62、周方向支持用弾性腕部72および軸方向支持用弾性腕部82)の長さ寸法に対する自由度が高い等の利点がある。
【0050】
また、径方向当接部61は、モータ軸線Lに対して平行に軸方向Gに向けて延在してマグネット3に線状に接触する突条部からなる。このため、径方向当接部61がマグネット3に点接触する場合に比して安定した状態に支持することができ、マグネット3がモータ軸線Lに対して傾きにくい。
【0051】
また、ホルダ2は、マグネット3の軸方向Gの端部33に係合する係合部9を有し、かかる係合部9は、径方向Eに弾性変形可能な弾性腕部92と、弾性腕部92からマグネット3に向けて突出してマグネット3の端部33(被当接面)に係合する係合凸部91とを備えている。また、係合凸部91において、径方向Eの外側に向く面は、反出力側L2に斜めに傾いたテーパ面になっている。このため、マグネット3の端部34からホルダ2の筒状胴部25を挿入する際、係合部9の弾性腕部92がマグネット3に押されて変位するので、マグネット3の端部34からホルダ2の筒状胴部25を挿入することができる。また、マグネット3にホルダ2の筒状胴部25を挿入し終えると、係合凸部91が自動的にマグネット3に係合するので、マグネット3が筒状胴部25から抜けることがない。しかも、係合部9と軸方向支持部8とは、周方向で互いに異なる位置に設けられているため、マグネット3を軸方向で安定して支持することができる。
【0052】
[支持部の他の構成]
図6は、本発明を適用したモータ10のロータ1に構成した支持部の変形例を示す説明図であり、図6(a)、(b)は、別の径方向支持部6の説明図、および別の軸方向支持部8の説明図である。上記実施の形態の径方向支持部6および軸方向支持部8では、径方向支持用弾性腕部62や軸方向支持用弾性腕部82の周方向の略中央位置に径方向当接部61や軸方向当接部81が形成されているため、径方向当接部61および軸方向当接部81は、径方向支持用弾性腕部62および軸方向支持用弾性腕部82によって両持ち状態で支持されていた。これに対して、図6(a)に示す径方向支持部6では、径方向支持用弾性腕部62の先端部に径方向当接部61が形成されているため、径方向当接部61は、径方向支持用弾性腕部62によって片持ち状態で支持されている。また、図6(b)に示す軸方向支持部8では、軸方向支持用弾性腕部82の先端部に軸方向当接部81が形成されているため、軸方向当接部81は、軸方向支持用弾性腕部82によって片持ち状態で支持されている。
【0053】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8のいずれにも本発明を適用したが、径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8のうちの1つに本発明を適用してもよい。また、上記実施の形態では、マグネット3に周方向を向く被当接部を構成するにあたって、軸方向Gに凹む凹部36を形成したが、軸方向Gに突出した凸部を設けることによって、周方向を向く被当接部を構成してもよい。また、ホルダ2に着磁後のマグネット3を搭載する際、あるいは、ホルダ2にマグネット3を搭載した状態で着磁を行う際、径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8のいずれかを着磁位置を示す指標として利用してもよい。また、ホルダ2にマグネット3を搭載するにあたって、マグネット3を径方向支持部6、周方向支持部7および軸方向支持部8のみで、ホルダ2上に保持した構成としてもよいし、さらに、弾性を有する接着剤を併用して、ホルダ2がマグネット3を保持した構造としてもよい。
【0054】
上記実施の形態では、インナーロータ型のモータ10に用いられるロータ1に本発明を適用したが、アウターロータ型のモータ10に用いられるロータ1に本発明を適用してもよい。この場合、マグネット3は、ホルダ2の筒状胴部25の内側に保持された構成となる。
【0055】
また、上記実施の形態では、ホルダ2を樹脂製としたが、ホルダ2については金属製としてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態では、径方向当接部61、周方向当接部71および軸方向当接部81はいずれも、マグネット3に線状に接触する突条部であったが、周方向当接部71および軸方向当接部81については、マグネット3に点状に接触する突部としてもよい。かかる突部であれば、寸法を管理すべき個所が限定されるので、ホルダ2とマグネット3との組立精度を高めることができる。
【0057】
上記実施の形態では、モータ10のロータ1に本発明を適用したが、発電機用のロータに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1・・ロータ
2・・ホルダ
3・・マグネット
6・・径方向支持部
7・・周方向支持部
8・・軸方向支持部
9・・係合部
10・・モータ
25・・筒状胴部
61・・径方向当接部
62・・径方向支持用弾性腕部
71・・周方向当接部
72・・周方向支持用弾性腕部
81・・軸方向当接部
82・・軸方向支持用弾性腕部
91・・係合凸部
92・・弾性腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のマグネットと、該マグネットの内周面および外周面のうちの一方の周面が露出した状態に当該マグネットを保持する筒状胴部を備えたホルダと、を有するロータにおいて、
前記ホルダは、前記マグネットを径方向、周方向および軸方向のうちのいずれかの方向から弾性をもって支持する支持部を有し、
前記支持部は、前記マグネットに当接する当接部と、該当接部を前記マグネットに対する当接方向で変位可能とする弾性腕部と、を備えていることを特徴とするロータ。
【請求項2】
前記弾性腕部は、前記筒状胴部に開口部を設けることにより前記筒状胴部の一部として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記弾性腕部は、周方向に延在していることを特徴とする請求項1または2に記載のロータ。
【請求項4】
前記ホルダは、前記支持部を周方向の複数個所に有していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のロータ。
【請求項5】
前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを径方向で支持する径方向支持部を有し、
前記径方向支持部は、前記当接部として、前記内周面および前記外周面のうちの他方の周面に径方向から当接する径方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記径方向当接部を径方向に変位可能とする径方向支持用弾性腕部を備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のロータ。
【請求項6】
前記径方向当接部は、軸方向に延在して前記マグネットに線状に接触する突条部を備えていることを特徴とする請求項5に記載のロータ。
【請求項7】
前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを周方向で支持する周方向支持部を有し、
前記マグネットは、周方向に向く被当接部を備え、
前記周方向支持部は、前記当接部として、前記被当接部に周方向から当接する周方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記周方向当接部を周方向に変位可能とする周方向支持用弾性腕部を備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のロータ。
【請求項8】
前記ホルダは、前記支持部として、前記マグネットを軸方向で支持する軸方向支持部を有し、
前記軸方向支持部は、前記当接部として、前記マグネットの軸方向の一方側端部に軸方向から当接する軸方向当接部を備え、前記弾性腕部として、前記軸方向当接部を軸方向に変位可能とする軸方向支持用弾性腕部を備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載のロータ。
【請求項9】
前記ホルダは、前記マグネットの軸方向の他方側に係合する係合部を有し、
当該係合部は、径方向に弾性変形可能な弾性腕部と、該弾性腕部から前記マグネットに向けて突出して前記マグネットにおいて軸方向の他方側に向く被当接面に係合する係合凸部と、を備えていることを特徴とする請求項8に記載のロータ。
【請求項10】
前記係合部と前記軸方向支持部とは、周方向で互いに異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項9に記載のロータ。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載のロータと、該ロータに対向配置されたステータと、を有していることを特徴とするモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−244760(P2012−244760A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112297(P2011−112297)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】