説明

ロータリダンパ

【目的】 サイドケースの構成を変えるという簡単な手段を用いることで、シャフトからのスラスト力によりベーンの側面が摩耗されるのを防止する。
【構成】 シャフトとベーンをそれぞれ別体に構成して当該シャフトの外周に一体的にベーンを結合し、これらシャフトとベーンの結合部の両側面を左右のサイドケースに設けたベアリングで挟んでシャフトに加わるスラスト荷重をこれらサイドケースのベアリングで受け止める構造のロータリダンパにおいて、両サイドケース3,4のベアリング3a,4aを厚肉円板にしてジャーナル兼スラスト用のベアリングとして構成すると共に、当該ベアリング3a,4aをシャフト5とベーン15,16の結合部側面からベーン15,16の側面に亙って配設し、かつ、ベーン15,16との結合部であるシャフト5の太径部5aの幅寸法を当該ベーン15,16の幅寸法よりも大きく構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、往復回動運動を利用して車両やその他の機器の外部振動を減衰する油圧式のロータリダンパの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の油圧式のロータリダンパとしては、例えば、平成6年特許出願公開第129467号公報において開示された図5に示すものが既に知られている。
【0003】すなわち、このものは、内周面に二つのセパレートブロックbを対向して設けた円筒状のケーシングaの両端開口部にそれぞれ耐圧壁面を構成するサイドケースc,dを当て、これらサイドケースc,dをケーシングaにボルトeで固定して当該ケーシングaの両端開口部を塞いでいる。
【0004】左右のサイドケースc,d間には、軸受f,gを介してシャフトhを回動自在に挿通し、かつ、ケーシングa内に位置して当該シャフトhの外周に二枚のベーンiをもつベーン体jをスプラインkで結合している。
【0005】ベーンiおよびセパレートブロックbの先端は、それぞれケーシングaの内周面とベーン体jの外周面との間に所定のクリアランスを保って対向し、これらセパレートブロックbとベーンiとでケーシングaの内部を複数の油室に区画している。
【0006】また、サイドケースc,dの内周端部分には、当該サイドケースc,dの内面から表面を僅かに突出させてスラスト受け用のベアリングn,qを嵌着し、これらベアリングn,qでシャフトhに加わるスラスト荷重を受け止めつつ、かつ、サイドケースc,dの内面とベーンiの側面との間に所定のクリアランスを確保している。
【0007】これにより、ケーシングaとシャフトhとの間に相対的な回動運動が生じたとすると、両セパレートブロックbの間にベーンiを挟んで両側に位置する油室の一方が収縮されると同時に他方が拡張される。
【0008】そのために、収縮側の油室内にある作動油が、上記したベーンiとセパレートブロックbの先端およびベーンiの両側面にあるクリアランスを通して拡張側の油室に押し出される。
【0009】かくして、収縮側の油室から拡張側の油室に向って押し出される作動油に対してこれらクリアランスにより流動抵抗が加えられ、当該流動抵抗によってケーシングaとシャフトhとの間の相対的な回動運動に際して減衰力を発生することになる。
【0010】しかし、これとても、作動油温度が変わって粘度に変化をきたすと上記クリアランスを通る作動油の流動抵抗が変わることから、ケーシングaとシャフトh間の相対的な回動運動に際して発生する減衰力特性にバラツキが生じる。
【0011】そこで、これを防ぐために、ケーシングaやサイドプレートc,d等を鉄系の材料で構成すると共に、ベーンiおよびベーン体jを鉄系の材料に比べて熱膨張係数の大きいアルミ材等で構成し、温度変化に伴う作動油粘度の変化に合わせて上記のクリアランスを変えることにより発生減衰力のバラツキを補正するようにしている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】したがって、先に述べたサイドケースc,dの内面に対するスラスト受け用のベアリングn,qの突出寸法を確実に管理できれば、上記の手段によって温度変化に伴う発生減衰力のバラツキを好ましいかたちで補正することができる。
【0013】しかしながら、そのためにはベアリングn,qの厚さとサイドケースc,d側の嵌着部の深さを部品レベルで所定の寸法差に作ってやる必要があり、しかも、上記ベアリングn,qの突出寸法が極めて僅かであることから、これらを部品レベルで所定の寸法差に正確に作ることは加工技術上の点で極めて困難である。
【0014】その結果、上記寸法差の加工誤差によっては、ベアリングn,qの表面がサイドケースc,dの内面から逆に引っ込んでしまう場合が生じる。
【0015】そして、このような事態が生じると、シャフトhに加わるスラスト荷重によってベーンiおよびベーン体jがサイドプレートc,dに押し付けられて摺動し、硬度の低いアルミ材製のベーンiとベーン体jが摩耗を起してクリアランスが拡大し、ロータリダンパとしての発生減衰力特性が低下してしまうことになる。
【0016】そのために、これまでは、サイドケースc,dにベアリングn,qを確実に嵌着した状態でそれらの表面に機械加工を施し、サイドケースc,dの内面からベアリングn,qの表面が所定寸法だけ突出するように仕上げている。
【0017】このことから、サイドケースc,dに対するベアリングn,qの組み付けおよびその後の加工に多大の手数と高度の技術とを要し、かつ、製作コストも嵩むという不都合を有する。
【0018】したがって、この発明の目的は、サイドケースの構成を変えるという簡単な手段を用いることで、シャフトからのスラスト荷重によりベーンの側面が摩耗されるのを防止することのできるこの種のロータリダンパを提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】上記した目的は、この発明において、両サイドケースのベアリングを厚肉円板にしてジャーナル兼スラスト用のベアリングとして構成すると共に、当該ベアリングをシャフトとベーンの結合部側面からベーンの側面に亙って配設し、かつ、ベーンとの結合部であるシャフトの太径部の幅寸法を当該ベーンの幅寸法よりも大きく構成することによって達成される。
【0020】
【作用】すなわち、このものによれば、サイドケースの内面は、ジャーナル兼スラスト用のベアリングによりシャフトとベーンの結合部側面からベーンの側面に亙って容易に同一平面に保たれる。
【0021】したがって、シャフトに加わるスラスト荷重は、常にこれらベアリングによって受け止められ、ベーンの側面がサイドケースの内面に押し付けられて摺動することがなくなるので、当該ベーンの側面がサイドケース側のベアリングによって摩耗されることはない。
【0022】その結果、長年の使用によっても、サイドケースの内面とベーンの側面との間のクリアランスは初期の状態に保たれ、常に安定した減衰力特性を発揮することになる。
【0023】
【実施例】以下、図面に基づいてこの発明の実施の一例を説明する。
【0024】図1は、図2のA−A線に沿う切断展開図を示すものであって、ロータリダンパ1は、円筒状をしたケーシング2と、当該ケーシング2の両端開口部に嵌着したサイドケース3,4と、これらサイドケース3,4によって回動自在に支持したシャフト5と、ケーシング2およびサイドケース3,4並びにシャフト5とによって画成された作動室6(図2参照)とを備えている。
【0025】ケーシング2は、作動室6の外周耐圧壁面を構成しており、かつ、両端内周面を切り欠くことにより、中央部分に所定の長さ寸法を残して両端部分をそれぞれ薄肉部2a,2bに構成している。
【0026】また、内周面には、図2にみられるように、180度の位相差をもって軸方向に向う二つ(一つ或いは三つ以上であってもよい)の溝7a,7bを穿ち、これら溝7a,7b内にセパレートブロック8,9をそれぞれの基端側を嵌着して設けてある。
【0027】セパレートブロック8,9は、それぞれの幅方向の長さ寸法を上記ケーシング2における中央部分の所定の長さ寸法に適合して構成(図1参照)し、かつ、基端側の厚さ寸法を先端側の厚さ寸法よりも大きく作ってある。
【0028】図1に戻って、サイドケース3,4は、作動室6の両側耐圧壁面を構成すると共に、シャフト5を回動自在に支持するためのものである。
【0029】この実施例の場合、サイドケース3は、シャフト5に対するジャナール軸受としての役目の他にスラスト荷重を支持するスラストブッシュとしての役目をも併せもつ厚肉円板からなるベアリング3aと、密封用のシール10を嵌装した薄肉キャップ3bとの二つの部材に分けて構成してある。
【0030】同様に、サイドケース4もまた、ジャーナル軸受としての役目の他にスラスト荷重を支持するスラストブッシュとしての役目をも併せもつ厚肉円板のベアリング4aと、密閉用の薄肉キャップ4bの二つの部材にそれぞれ分けて構成している。
【0031】なお、上記薄肉キャップ4bには作動油の注入孔4cが設けてあり、当該注入孔4cは、ロータリダンパ1への作動油注入後にスチールボール4dによって密封される。
【0032】このように、両サイドケース3,4を、単純な形をした円板形状のベアリング3a,4aと密封用の薄肉キャップ3b,4bとの二つの部材に分けて構成することにより、サイドケースとしての本来の役目を確保しつつ加工の容易化と軽量化とを図ることができる。
【0033】ベアリング3a,4aにおける背面側の外周部分には、それぞれ面取りが施されており、これら面取りによって薄肉キャップ3b,4bとの間に環状溝11a,11bを形成し、これら環状溝11a,11b内にシール12a,12bを嵌装してある。
【0034】上記したサイドケース3,4は、ベアリング3a,4aを内側にしてケーシング2における両端薄肉部2a,2b内の突き当たりまで挿入される。
【0035】そして、しかる後に、これら両端薄肉部2a,2bを薄肉キャップ3b,4bに沿って折り曲げ、この折り曲げによる加締め13a,13bによってケーシング2に対し一体的に取り付けられる。
【0036】かくして、ケーシング2と各サイドケース3,4のベアリング3a,4aは、シャフト5と協同して密閉された作動室6を画成することになる。
【0037】シャフト5は、その外周に上記したケーシング2の中央部分における所定の長さ寸法に適合する長さの太径部5aを有し、この太径部5aの外周面に前記ケーシング2側の溝7a,7bと同じように180度の位相差をもつ軸方向の二つの溝14a,14b(図2参照)を穿ち、これら溝14a,14b内に基端側を嵌着してそれぞれベーン15,16を設けている。
【0038】これらベーン15,16もまた、セパレートブロック8,9と同様にケーシング2における中央部分の所定の長さ寸法に適合して構成すると共に、基端側の厚さ寸法を先端側の厚さ寸法よりも大きく構成してある。
【0039】また、セパレートブロック8,9とベーン15,16の高さは、それぞれの先端がシャフト5における太径部5aの外周面とケーシング2の内周面との間に所定のクリアランスを保って対向する寸法に作ってある。
【0040】これにより、セパレートブロック8,9とベーン15,16は、図2にみられるように、互いに協同して作動室6内を四つの油室17,18,19,20に区画すると共に、ケーシング2とシャフト5の相対的な回動運動に伴い上記クリアランスを通して作動油のやり取りを行いつつ油室17,19と油室18,20を交互に収縮・膨張させることになる。
【0041】再び図1に戻って、シャフト5は、パイプ状の中空構造として構成してあり、かつ、サイドケース3,4のベアリング3a,4aによって回動自在に支持されている。
【0042】シャフト5の一方の端部は、外方に向かって先細りとなるテーパ21状に形成してあり、かつ、サイドケース3の薄肉キャップ3bを貫通して外部に延び、その突出部分をシール10で油密に封じている。
【0043】また、シャフト5の他方の端部は、サイドケース4の薄肉キャップ4bの近くまで延びて当該薄肉キャップ4b内に開口している。
【0044】上記シャフト5の外部への開口端となる突出端は、他端から穴加工を施すことによって閉じてもよいが、この実施例にあっては、上記テーパ21の部分にシール22をもつブロック23を嵌着している。
【0045】ブロック23は、上記シール22によりシャフト5内の中空部24を外部に対して油密に保つと共に、シャフト5の連結部25を内面側からバックアップして当該部分の変形を阻止する役目をも果たす。
【0046】しかも、上記と併せて、ブロック23の外側面にはねじ孔26を穿設し、外部振動体への連結部25の結合時にこのねじ孔26を利用して当該ブロック23を外方に引っ張ることができるようにしてある。
【0047】その結果、外方へと引っ張られたブロック23は、テーパ21と協同して中空部24の密閉作用を確保しつつ、かつ、連結部25を拡径して外周面に形成したスプライン27のガタを排除する役目をも果たすことになる。
【0048】かくして、ロータリダンパ1は、外部振動体から連結部25を通してシャフト5に往復回動運動が伝えられると、ベーン15,16が当該シャフト5を通して軸心周りに左右に回動し、ケーシング2側のセパレートブロック8,9との間の油室17,19および18,20を交互に収縮・拡張させる。
【0049】これにより、収縮する側の油室内の作動油が、ベーン15,16の先端とケーシング2との間のクリアランス、ベーン15,16の両側面とベアリング3a,4aとの間のクリアランス、セパレートブロック8,9の先端とシャフト5の太径部5aとの間のクリアランス、およびセパレートブロック8,9の両側面とベアリング3a,4aとの間のクリアランスを通して拡張する側の油室に流れることになる。
【0050】そして、これらクリアランスを流れる作動油の流動抵抗によって減衰力が発生し、この減衰力がベーン15,16からシャフト5を通して外部の振動体に作用し、当該振動体の動きを制振する。
【0051】この場合、油室17,19と油室18,20との間には、発生減衰力に基づく作動油の圧力差が生じ、これら圧力差によってセパレートブロック8,9とベーン15,16をそれぞれ拡張する低圧側の油室に向って押す。
【0052】この圧力差に基づく押圧力は、セパレートブロック8,9とベーン15,16を拡張側の油室に向って押し倒そうとする転倒モーメントとして作用する。
【0053】そこで、図3を用いて、セパレートブロック8,9とベーン15,16に作用する上記転倒モーメントについて考えてみることにする。
【0054】ただし、この図3にあっては、セパレートブロック8とベーン15のみを示してあるが、これらと対向するセパレートブロック9とベーン16についても全く同じことが言える。
【0055】今、油室17,19が収縮側になって内部作動油圧力がPとなり、これら油室17,19に対向する拡張側の油室18,20の内部作動油圧力が仮にp=0になったとする。
【0056】ここで、セパレートブロック8,9とベーン15,16の高さ寸法をH、幅寸法をB(図1参照)とすると、これらセパレートブロック8,9とベーン15,16には、それぞれx点の周りに反時計回りの転倒モーメントMM=B×H×P×H/2=1/2×B×P×H2 ……………■が作用する。
【0057】それに対して、セパレートブロック8,9とベーン15,16は、前記したように、基端側の厚さ寸法Tが先端側の厚さ寸法tよりも大きく構成してあるために、これらの寸法差に基づく受圧面を有している。
【0058】その結果、これらの寸法差に基づく受圧面にも油室17,19の内部作動油圧力Pが作用して、セパレートブロック8,9とベーン15,16には、x点周りに逆向きの時計方向回りの復元モーメントm m=(T−t)/2×B×P×{T/2+t/2+(T−t)/4}
=1/2×B×P×(T−t)×1/4×(3T+t) ……………■が上記反時計回りの転倒モーメントMに抗して発生する。
【0059】勿論、この復元モーメントmは、上記基端側と先端側の厚さ寸法の差に基づいて発生するものである。
【0060】したがって、セパレートブロック8,9とベーン15,16の厚さ方向の断面が長方形であった場合には、上記■式において「T=t」となって復元モーメントは働かない。
【0061】そのために、この場合には、ケーシング2とセパレートブロック8,9およびシャフト5とベーン15,16との間に転倒モーメントMに抗し得るだけの結合強度を必要とする。
【0062】しかし、この実施例のロータリダンパ1にあっては、前記したようにセパレートブロック8,9とベーン15,16の基端側と先端側との厚さ寸法の差に基づく復元モーメントmが作用する。
【0063】そこで、この復元モーメントmが転倒モーメントMと等しいか、或いはそれ以上になるように、すなわち「M≦m」になるようにセパレートブロック8,9とベーン15,16の基端側および先端側の厚さ寸法T,tを選んでやる。
【0064】このようすれば、復元モーメントmが転倒モーメントMに打ち勝つことになるので、セパレートブロック8,9とベーン15,16がx点周りに反時計方向へと転倒することはない。
【0065】そして、そのための条件は、上記■式および■式において「M≦m」と置いて整理したH2≦1/4×(3T2−2Tt−t2)……………■で与えられることになる。
【0066】ただし、上記した■式において、左辺と右辺が等しくなるようににとった場合には、「M=m」となってセパレートブロック8,9とベーン15,16はバランスした状態を保つ。
【0067】それに反して、右辺を大きくとった場合には、「M<m」となってセパレートブロック8,9とベーン15,16には、復元モーメントmがx点周りに逆方向の転倒モーメントとして働くことになる。
【0068】そのために、セパレートブロック8,9とベーン15,16は、復元モーメントmと転倒モーメントMとの差によって油室17,19側へと向って転倒しようとするが、これは、ケーシング2セパレートブロック8,9およびシャフト5とベーン15,16の接合面の働きによって抑えることができる。
【0069】このことから、特に、当該実施例にあっては、上記セパレートブロック8,9とベーン15,16における基端部に厚さ方向へと向って両側から突出する鍔部8a,9a,15a,16aを構成し、当該鍔部8a,9a,15a,16aによってそれぞれの接合面の厚さ方向の寸法を大きくとっている。
【0070】かくして、セパレートブロック8,9とベーン15,16が転倒しないための条件は、上記■式からそれらの幅寸法Bと作動油圧力Pによらずに、高さ寸法Hと基端側の厚さ寸法Tおよび先端側の厚さ寸法tとの断面形状のバランスによってのみ決定されることが分かる。
【0071】したがって、上記■式を満たすように、これら高さ寸法Hと基端側の厚さ寸法Tおよび先端側の厚さ寸法tを決めてやれば、ケーシング2とセパレートブロック8,9およびシャフト5とベーン15,16の結合は、単に当該部分のシール性を確保できる程度の結合力でよいことになる。
【0072】そのための結合手段としては、溶接(蝋付けを含む)や圧入或いは接着剤等が考えられる。
【0073】しかし、溶接では、加熱による熱変形が生じるので高い寸法精度を必要とするロータリダンパ1には不向きであり、しかも、互いに結合されるケーシング2とセパレートブロック8,9、およびシャフト5とベーン15,16の材質や溶接棒或いは蝋材の選定にも制限が生じる。
【0074】また、圧入ではシール性に難点があり、接着材では厳しい使用環境が考えられるロータリダンパ1にあっては耐久性の上で問題がある。
【0075】そこで、当該実施例にあっては、確実なシール性と耐久性を有し、かつ、結合後の変形も少ない結合手段として、ケーシング2側の溝7a,7bに対するセパレートブロック8,9の嵌着部とシャフト5側の溝14a,14bに対するベーン15,16の嵌着部に、それぞれメタルフローまたはレーザ溶接を施して油密構造にしてある。
【0076】すなわち、メタルフローは、一方の金属部材に設けた溝内にもう一方の金属部材を冷間加工により充分に流入させて強固な結合を得る加圧接合手段であって、例えば、軸とプーリのように結合箇所が円または楕円でしかもエンドレスである場合に適している。
【0077】しかし、この実施例のように、シール性の確保を目的とするような場合にあっては、たとえ、上記のような条件を満たさなくても、例えば、ケーシング2の外周或いはシャフト5の太径部5aを金型で拘束し、セパレートブロック8,9とベーン15,16をそれぞれ加圧することでケーシング2およびシャフト5の変形を最小限に保って結合することができる。
【0078】また、レーザ溶接は、各種の溶接の中でも他のものとは大きく異なり、局部的に熱を加えて結合する手段であるために熱変形が極めて少なく、したがって、この実施例の場合の結合手段として適している。
【0079】なお、メタルフローやレーザ溶接によってもセパレートブロック8,9とベーン15,16の結合力をある程度確保できるので、その範囲内において先に述べた復元モーメントmを転倒モーメントMよりも小さくとってやったとしても、セパレートブロック8,9とベーン15,16が転倒を起こすことはない。
【0080】一方、この種のロータリダンパ1にあっては、作動油の温度変化やその他外部漏洩等によって油室17〜20内に封入してある作動油に過不足が生じたとすると、ロータリダンパ1としての減衰作用に直接悪影響を与える。
【0081】そこで、これを防止し、かつ、併せてロータリダンパ1の作動方向における発生減衰力に差を与えて外部振動体に生じた振動を効果的に制振するために、当該実施例のロータリダンパ1は、以下に述べるような構成を備えている。
【0082】すなわち、図1に示すように、中空構造にしたシャフト5の中空部24の内部には、シール28を介してテレスコープ状に嵌装したケース29とキャップ30とからなるカートリッジタイプの圧力ガス容器31を納めてある。
【0083】そして、この圧力ガス容器31で中空部24内をガス室32とアキュムレータ油室33とに区画している。
【0084】なお、上記したように、この実施例にあっては、カートリッジタイプの圧力ガス容器31を用いてシャフト5の中空部24内をアキュムレータとしたが、この代わりに、中空部24内にフリーピストンを挿入してガス室32とアキュムレータ油室33とに区画することにより、当該中空部24内をアキュムレータとして構成してもよい。
【0085】上記アキュムレータ油室33は、サイドケース4における薄肉キャップ4bの内部からベアリング4aの軸受面に穿った油路34b、および図2に示すベーン15,16の基端面に設けた油路35a,35bを通してベーン15,16の内部油路36a,36bに連通している。
【0086】この場合、上記のように、ベアリング4aの軸受面に油路34bを穿つ代わりにシャフト5とベアリング4aの摺接クリアランスを利用してアキュムレータ油室33を、当該摺接クリアランスから油路35a,35bを通してベーン15,16の内部油路36a,36bに連通することもできる。
【0087】そして、これら内部油路36a,36bがベーン15,16に圧入して設けたチェックバルブ37,38,39,40を通して各油室17〜20に連通すると共に、チェックバルブ37,39と並列に設けた伸圧減衰力比設定用のオリフィス41a,41bを通して油室17,19にも通じている。
【0088】各チェックバルブ37〜40は同一の構造となっており、図4にみられるように、ケース42を絞り成形で構成することにより、当該ケース42内にチェックボール43とチェックスプリング44を納めてそれぞれカートリッジ構造に構成してある。
【0089】そして、図2に示すように、これらチェックバルブ37〜40をそれぞれケース42を介してベーン15,16の両面に圧入して埋め込み、各チェックバルブ37〜40を通して内部油路36a,36bをそれぞれ油室17〜20に連通するようにしている。
【0090】かくして、作動油の温度変化や外部漏洩等によって油室17〜20内に封入した作動油に不足が生じたときには、アキュムレータ油室33内の作動油を、当該アキュムレータ油室33と各油室17〜20とを結ぶ上記の経路、すなわち、油路34bから油路35a,35bおよび内部油路36a,36bを通してチェックバルブ37〜40を開きつつ油室17〜20に吸い込むことで当該不足分を補う。
【0091】それに対して、過剰になった場合には、油室17〜20内の作動油を伸圧減衰力比設定用のオリフィス41a,41bから上記の経路を反対の方向に通して、すなわち、内部油路36a,36bから油路35a,35bおよび油路34bを通してアキュムレータ油室33に押し出すことにより当該過剰分を排除する。
【0092】また、これらオリフィス41a,41bは、ロータリダンパ1の作動に際して油室17,19が収縮側になったときにのみ、当該油室17,19内の作動油の一部を、オリフィス41a,41bから内部油路36a,36bおよび反対側のチェックバルブ38,40を開いて拡張側の油室18,20に流し、当該方向への作動時における発生減衰力の低下割合をオリフィス41a,41bの圧損で制限しつつ反対方向の作動時における発生減衰力との間に適正な差を与える。
【0093】さらに、この実施例の場合、左右のベアリング3a,4aの内面側には、セパレートブロック8,9と対向して溝45aが、また、外面側には適宜の位置に適当数の溝45bがそれぞれ半径方向に向けて穿ってある。
【0094】これらの溝45a,45bは、シール10を含めてシール12a,12bと加締め13a,13bの部分に作動油圧力が籠るのを防止するために設けられている。
【0095】そのために、ベアリング3a側の溝45a,45bは、シール12aと加締め13aの部分をシール10の背部からベアリング3aの油路34aとベーン15,16の油路35a,35bおよびベアリング3bの油路34bを通してアキュムレータ油室33に通じている。
【0096】また、ベアリング4a側の溝45a,45bは、当該ベアリング4aとシャフト5の摺接隙間を通して或いは直接アキュムレータ油室33に通じ、かくして、シール10を含めてこれらシール12a,12bおよび加締め13a,13bの部分に作動油圧力が籠るのを防止している。
【0097】一方、この実施例のロータリダンパ1にあっても、温度変化に伴う作動油の粘度の変化に合わせてセパレートブロック8,9の先端とベーン15,16周りのクリアランスを適切に変えてやらないと、ロータリダンパ1としての発生減衰力特性がバラツクことになる。
【0098】そのために、冒頭で述べた従来例のロータリダンパと同様にセパレートブロック8,9とベーン15,16を、その他の部材に比べて熱膨張係数の大きいアルミ材で構成してある。
【0099】しかし、このようにしたとしても、ベーン15,16のそれぞれの側面は、サイドケース3,4のベアリング3a,4aの内面と対面し、しかも、これらベアリング3a,4aの内面をシャフト5とベーン15,16の結合部側面からベーン15,16の側面に亙って容易に同一平面に保つことが可能である。
【0100】したがって、シャフト5にスラスト荷重が加わったとしても、当該スラスト荷重はこれらベアリング3a,4aによって直接受け止められ、ベーン15,16の側面がベアリング3a,4aの内面に押し付けられて摺動することはない。
【0101】そのために、ベーン15,16の側面がベアリング3a,4aによって摩耗されることがなくなるので、長年の使用によってもこれらベアリング3a,4aの内面とベーン15,16の側面との間のクリアランスは所期の状態に保たれ、常に安定した減衰力特性を発揮することになるのである。
【0102】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、両サイドケースのベアリングを厚肉円板としてジャーナル兼スラスト用のベアリングとして構成すると共に、当該ベアリングをシャフトとベーンの結合部側面からベーンの側面に亙って広く配設し、しかも、ベーンとの結合部であるのシャフトの太径部の幅寸法を当該ベーンの幅寸法よりも大きく構成したことにより、シャフトに加わるスラスト荷重をサイドケースのベアリングで確実に受け止めることができる。
【0103】そのために、ベーンの側面がサイドケースの内面に強く押し付けられることがないので当該部分の摩耗を防止し、長年の使用によっても、サイドケースとベーンとの間のクリアランスを所期の状態に保って、常に安定した減衰力特性を発揮することが可能になる。
【0104】また、上記と併せて、サイドケースとベーン間のフリクションも低減することになるので、ロータリダンパとしての作動性能も著しく向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるロータリダンパ1の一実施例を示す縦断正面図である。
【図2】同上、縦断側面図である。
【図3】セパレートブロックおよびベーンの取付機能説明図である。
【図4】チェックバルブの拡大断面図である。
【図5】従来のロータリダンパを示す縦断正面図である。
【符号の説明】
1 ロータリダンパ
2 ケーシング
3,4 サイドケース
3a,4a ベアリング
5 シャフト
5a シャフトの太径部
15,16 ベーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シャフトとベーンをそれぞれ別体に構成して当該シャフトの外周に一体的にベーンを結合し、これらシャフトとベーンの結合部の両側面を左右のサイドケースに設けたベアリングで挟んでシャフトに加わるスラスト荷重をこれらサイドケースのベアリングで受け止める構造のロータリダンパにおいて、両サイドケースのベアリングを厚肉円板にしてジャーナル兼スラスト用のベアリングとして構成すると共に、当該ベアリングをシャフトとベーンの結合部側面からベーンの側面に亙って配設し、かつ、ベーンとの結合部であるシャフトの太径部の幅寸法を当該ベーンの幅寸法よりも大きく構成したことを特徴とするロータリダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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