説明

ロータリースクリーン印刷用版胴キャリア及びロータリースクリーン印刷機

【課題】 ロータリースクリーン印刷の技術によって高精度の印刷を行おうとする際にも、印刷機における版胴保持のための機構の簡略化を可能にし、製造やメンテナンス等の作業を簡便にする。
【解決手段】 円筒形のスクリーン版21とスクリーン版21の両端に設けられた版枠22とから成る版胴1は、版胴キャリア1に保持された状態で印刷機に搭載される。版胴キャリア1は、両端の保持枠3と、保持枠3を連結した連結体4とより成り、複数のローラ341〜345により版胴2を回転可能に保持する。片側少なくとも二つのローラ341,342は、版枠22を外側に向けて押圧することでスクリーン版21にテンションを付与する。版胴キャリア1に版胴2を装着した版胴ユニット20は、先端フック部311,321を印刷機のハンガーピン71〜74に引っ掛けることで搭載され、位置決め機構81,82により位置決めされて印刷に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、円筒状のスクリーン版を回転させながら印刷するロータリースクリーン印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクリーン印刷機の一つとして、ロータリースクリーン印刷機が知られている。ロータリースクリーン印刷機は、円筒状のスクリーン版を回転させながら対象物に接触させて印刷するタイプの印刷機である。
ロータリースクリーン印刷機は、高速での印刷が可能なため、大量の印刷物を短時間に制作する必要がある場合等にしばしば用いられている。また、スクリーン版を複数回回転させて一つの図柄を印刷することも可能であり、連続した長い図柄を印刷するのに使用される場合もある。
【0003】
図7は、このような従来のロータリースクリーン印刷機の主要部を示した概略図である。図7に示すように、ロータリースクリーン印刷機は、版胴2と圧胴9とを備えている。圧胴9は、版胴2の直下の位置に設けられている。版胴2及び圧胴9は、ともに水平な回転軸の回りに回転が可能となっている。これらの回転軸は互いに平行である。版胴2には、不図示の版胴回転機構が設けられている。圧胴9は、ベアリングを介して不図示のフレームに保持されており、印刷対象物としてのシート(以下、シート状ワークという)Wが版胴2の回転に伴って送られる際、従動回転するようになっている。尚、図7は、版胴2や圧胴9を斜め下方から見た概略図となっている。
【0004】
版胴2は、スクリーン版21が円筒状に形成されたものである。多くの場合、両端に円環状の版枠22を有しており、版枠22の間に円筒状のスクリーン版21を保持した構造となっている。尚、圧胴9も、円筒状である。
シート状ワークWは、ロールツーロール方式の搬送系で送られることが多く、送り出しローラから引き出され、水平に送られた状態で版胴2と圧胴9との間に挟み込まれるようになっている。この際、版胴2は、シート状ワークWを圧胴9に向けて若干押圧するよう設けられている。版胴2と圧胴9とは、シート状ワークWを挟み込みながら互いに逆向きに回転するようになっており、シート状ワークWは、圧胴9に押し付けられながら、一方向に送られる。
【0005】
一方、版胴2内には、不図示のインク供給ノズルが設けられているとともに、インク供給ノズルから供給されたインクをスクリーン版21の内面で薄く伸ばす不図示のスキージが設けられている。版胴2と圧胴9が回転してシート状ワークWが送られる際、シート状ワークWにスクリーン版21のパターンでインクが付着し、印刷が行われる。
多くの場合、版胴2が一回転することで一回の印刷(即ち、一つの図柄の印刷)が行われ、シート状ワークWに対しては、少し間隔を開けて同じ図柄の次の印刷が行われる。但し、前述したように、版胴2を複数回回転させ、連続した図柄の印刷を一回の印刷で行う場合もある。
【0006】
上述した従来のロータリースクリーン印刷機において、版胴2は、送られるシート状ワークWに対して所定位置に保持される必要がある。所定位置とは、版胴2がシート状ワークに接近し接触して押圧する際の位置(以下、接近方向での位置という)と、シート状ワークWの幅方向(版胴の軸方向)での位置(以下、幅方向での位置という)とがある。接近方向での位置ずれは、シート状ワークWを押圧する力の誤差となり、印刷の濃淡のエラーとなって現れる。幅方向での位置がずれると、印刷位置のエラーとなる。
従来のロータリースクリーン印刷機は、上記所定位置で版胴2を保持する不図示の版胴保持機構を備えている。版胴保持機構は、版枠22の部分で版胴2を保持するものであり、ベアリング等を介して版枠22の部分で版胴2を保持することで版胴2を回転可能に保持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−39765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロータリースクリーン印刷機は、前述したように、高速での印刷が可能なため、大量の印刷物を短時間に制作する必要がある場合等に多く用いられてきた。どちらかというと、大量の印刷物を安価に制作するのに適したものとみられてきた。即ち、平面状のスクリーンをシート状ワークに対して重ね合わせて印刷する通常のスクリーン印刷に比べると、それほど高い印刷精度が要求されないものについて用いられる印刷技術であると考えられてきた。
【0009】
しかしながら、電子部品のような高い印刷精度が要求されるものについてロータリスクリーン印刷の技術が適用できれば、性能の良い電子部品を安価に大量に作ることができ、その電子部品の普及に大きく貢献できる。このためには、より印刷精度の高いロータリースクリーン印刷の技術を提供する必要がある。
この点に関し、上記版胴の保持の点についてみると、ロータリースクリーン印刷機が備える版胴保持機構は、多くの部品で構成されている。したがって印刷精度を高めるには、それぞれを精度良く製作し、且つ精度良く組み立てる必要がある。また、版枠はスクリーン版の両側にあるから、両側で精度良く版胴を保持する必要がある。即ち、高い印刷精度を得るには、版胴保持機構の各部品の寸法や機構の組み立てに高い精度が要求される。
【0010】
特に、ロータリースクリーン印刷特有の課題として重要なのは、版枠を外側に向けて引っ張りながら保持することでスクリーン版に最適なテンションを与えながら保持しなければならない点である。テンションが足らなければスクリーン版が弛んだり歪んだりすることになり、印刷形状のエラーとなる。また、テンションが大きくなり過ぎると、スクリーン版の破損等の事故につながる。高精度の印刷は、高精細の印刷に際に要求されることが多く、高精細の印刷の場合はスクリーン版の繊維も非常に細い。したがって、スクリーン版にはデリケートな取り扱いが必要で、僅かでもテンションが大きくなると破損等につながることが多い。
【0011】
このようなことから、より高精度の印刷を行うには、版胴保持機構は、版胴を高い位置精度で保持するとともに、最適なテンションを与えながら保持することが必要になり、非常に高い機構精度が要求されることになる。このため、機構部分の部品コストが非常に高くなってしまったり、複雑な構造について微妙な調整が必要になるため、製造やメンテナンス等の作業が非常に面倒になるという課題がある。
本願の発明は、このような課題を解決するために為されたものであり、ロータリースクリーン印刷の技術によって高精度の印刷を行おうとする際にも、印刷機における版胴保持のための機構の簡略化を可能にし、製造やメンテナンス等の作業を簡便にする技術的意義を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、円筒形のスクリーン版と、スクリーン版の両端に設けられた版枠とから成り、回転しながら印刷対象のシートに接触することで印刷が行われるロータリースクリーン印刷用版胴において、ロータリスクリーン印刷機への装着及びロータリースクリーン印刷機からの取り外しの際に版胴を保持した状態で装着及び取り外しされて版胴の持ち運びに利用されるロータリースクリーン印刷用版胴キャリアであって、
両端の版枠において版胴を保持するよう両端に設けられた保持枠と、両端の保持枠を連結した連結体とより成り、
保持枠は、版枠を外側に向けて押圧しながら版枠を保持することが可能であり、
連結体は、保持枠を外側に向けて押圧することで版枠を介してスクリーン版に適切なテンションを与えることが可能なものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記版胴が回転しても前記保持枠及び前記連結体が回転しないように、前記保持枠の前記版枠を臨む面にベアリング部材を備えているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、前記版枠は前記スクリーン版と同軸の円環状であり、前記ベアリング部材は、両側の前記版枠の周方向に沿った状態となるようそれぞれ複数設けられたローラであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項3の構成において、前記それぞれ複数設けられたローラのうちの少なくとも二つは、前記版枠を外側に向けて押圧しながら前記版枠に接触するよう設けられているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項2乃至4いずれかの構成において、前記それぞれ複数設けられたローラのうちの少なくとも一つは、前記版胴が前記印刷対象のシートに接触する位置とは反対側の位置において前記版枠に接触するよう設けられているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項1乃至5いずれかの構成において、前記両端に設けられた保持枠の離間距離を調節することでスクリーン版に与えるテンションを調節するテンション調節機構を備えているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記請求項1乃至6いずれかの構成において、前記各連結体は、複数の棒状の部材であり、前記テンション調節機構は、各連結体と一方の側の保持枠との距離を伸張させる向きに作用する弾性体を備えたも機構であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項8記載の発明は、請求項1乃至7いずれかに記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリアと、この版胴キャリアによって保持された前記版胴とより成る版胴ユニットを装着し、版胴を回転させ、回転するスクリーン版に印刷対象のシートを接触させて送ることで印刷を行うロータリースクリーン印刷機であって、
版胴ユニットが取り付けられる取り付け部を有しており、
取り付け部は、前記版胴キャリアの被取付箇所が係合される部位であって、この取り付け部は、送られる前記シートに対して前記回転するスクリーン版が接触する位置である印刷位置に対して所定の位置関係となる位置に設定されており、この取り付け部に前記版胴キャリアを係合することでその版胴キャリアに保持された前記版胴のスクリーン版の所定箇所が印刷位置に位置するようになっているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項9記載の発明は、前記請求項8の構成において、版胴の径が異なる版胴ユニットについて収容することができる収容スペースを有しており、
前記取り付け部は、版胴の径が異なる版胴ユニットを取り付け可能であって、版胴の径が異なる版胴ユニットについて、被取付箇所を係合することでスクリーン版の所定箇所が前記印刷位置に位置させることができるものであるという構成を有する。
【発明の効果】
【0013】
以下に説明する通り、本願の請求項1の発明によれば、版胴を装着した版胴キャリアを取り扱いようにすることができるため、版胴の交換等の際の作業性が格段に向上する。また、版胴キャリアにおいてスクリーン版に適切なテンションを与える機能が備えられているので、印刷機においてスクリーン版にテンションを与える機構を設けることが不要になる。このため、印刷機のコストの低減や印刷精度の向上に著しい効果がある。
また、請求項8の発明によれば、版胴ユニットの取り付け部を印刷位置に対して所定位置に位置させることで位置決めができるので、位置決めのための機構が非常に簡略化でき、位置決めの作業も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の版胴キャリアの斜視概略図であり、版胴を装着した状態の図である。
【図2】実施形態の版胴キャリアの斜視概略図であり、図2は版胴の装着のために開いた状態を描いた図である。
【図3】実施形態の版胴キャリアの側面概略図である。
【図4】連結体の端部の構造を示した断面概略図である。
【図5】図1に示す版胴ユニットが搭載されるロータリースクリーン印刷機の主要部の斜視概略図である。
【図6】接近距離位置決めが行われた後の版胴ユニットの装着構造を示した側面概略図である。
【図7】従来のロータリースクリーン印刷機の主要部を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、本願発明の実施形態に係るロータリースクリーン印刷用版胴キャリア(以下、単に版胴キャリアという)について説明する。図1及び図2は、実施形態の版胴キャリアの斜視概略図である。このうち、図1は版胴を装着した状態の図であり、図2は版胴の装着のために開いた状態を描いた図である。
【0016】
まず、実施形態の版胴キャリア1によって保持される版胴2の構成について説明する。版胴2は、円筒形のスクリーン版21と、スクリーン版21の両端に設けられた版枠22とから成っている。版枠22はスクリーン版21と同軸の円環状であり、一対の版枠22の間にスクリーン版21を張った構造となっている。スクリーン版21は、極細の繊維で編み込まれたものであり、印刷すべきパターンの孔が予め形成されたものである。孔の形成は、感光性乳剤による露光製版やレーザー描画等の方法で行われる。
尚、版胴2は、後述するように、ロータリースクリーン印刷機において版胴回転機構により回転される。この回転のため、版枠22には、被駆動ギヤ23が固定されている。
【0017】
このような版胴2を保持する版胴キャリア1は、図1及び図2に示すように、両端の版枠22において版胴2を保持するよう両端に設けられた保持枠3と、両端の保持枠3を連結した連結体4とより成っている。
両端の保持枠3は、それぞれ主部31と、版胴2の着脱の際に開閉される開閉部32とから成っている。主部31は、円弧状に延びる部材である。開閉部32は、主部31の一端に回転軸33を介して連結されている。開閉部32は、円弧状に湾曲した棒状の部材であり、閉じた際には主部31と同一の円弧に沿って延びた状態となる。
【0018】
連結体4は、本実施形態では、保持する版胴2の中心軸と平行に延びるように設けられた複数の棒状の部材となっている。本実施形態では、三つの連結体4が設けられているが、二つでもよく、また四つもしくはそれ以上でも良い。
尚、図1に示すように、版胴2を装着した際、円弧状を成す保持枠3の中心は版胴2の中心軸に一致した状態となる。即ち、両端の保持枠3の中心を結んだ線(版胴キャリア1の中心軸)と版胴2の中心軸とが一致した状態となる。
【0019】
上述した版胴キャリア1は、版胴2を装着した際、版胴2の外れを防止するため、固定具5によって固定されるようになっている。固定具5は、本実施形態では、主部31の他端と、開閉部32の先端部(回転軸33に連結された端部とは逆側の端部)とを連結して固定する棒状の部材となっている。図1に示すように、本実施形態では、固定具5を通してネジ止めすることで固定が行われるようになっている。
【0020】
本実施形態の版胴キャリア1は、版胴2がその中心軸の回りに回転することが可能な状態で保持するようになっている。この点について、以下に説明する。それぞれの保持枠3には、版胴2を回転可能に保持するため、ベアリング部材が設けられている。「ベアリング部材」とは、ある物を回転可能に保持する部材という程度の意味である。本実施形態では、ベアリング部材として複数のローラ341〜345が使用されている。
本実施形態では、一つの保持枠3において五つ(両側で合計10個)のローラ341〜345が設けられている。五つのローラ341〜345は、その役割において二つのグループに分けられる。一つは、版胴2を回転可能に保持するという役割のグループである。もう一つは、スクリーン版21に適切なテンションを与えつつ版胴2を回転可能に保持するという役割のグループである。以下、最初のグループのローラ341,342を「保持ローラ」と呼び、後のグループのローラ343〜345を「テンションローラ」と呼ぶ。
【0021】
各ローラ341〜345について、図1〜図4を使用して説明する。図3は、実施形態の版胴キャリア1の側面概略図であり、図4は、連結体4の端部の構造を示した断面概略図である。
図4には、版枠22の断面構造も示されている。図4に示すように、版枠22には、凹部が形成されている。凹部の表面は各ローラ341〜345が当たる部位である。各ローラ341〜345は、版胴2が回転した際、版枠22の凹部の表面に接触しながら回転する。
【0022】
凹部の表面は、中心軸と平行に延びる面(以下、平行面)351と、中心軸に対して斜めの面(以下、テーパ面)352とを含んでいる。図3には、版枠22及びテーパ面352が二点鎖線で示されている。
五つのローラのうち、二つが保持ローラ341,452となっている。保持ローラ341,342は、中心軸と平行な方向の回転軸の回りに回転するものであり、図3に示すように、凹部の平行面351に当たるよう設けられている。
【0023】
本実施形態の版胴キャリア1は、後述するように中心軸が水平な状態で印刷機に搭載されるが、二つの保持ローラ341,342は、上下方向に並ぶよう設けられている。二つの保持ローラ341,342は、図3に示すように、中心軸(図3中、Aで示す)の高さを挟んで中心軸の高さから等距離となる位置に設けられている。尚、図3に示すように、二つの保持ローラ341,342は、固定具5で固定される側とは反対側において上下に並んでいる。
一方、三つのテンションローラ343〜345は、図4に示すように、テーパ面352に当たるよう設けられている。即ち、各テンションローラ343〜345は、版胴2が回転した際、テーパ面352に接触しながら回転する。
【0024】
図4に示すように、版枠22に対してスクリーン版21が位置する側を内側とし、これとは反対側を外側とすると、テーパ面352は外側にいくに従って徐々に中心軸からの距離が遠くなる面となっている。図4において、スクリーン版21が収縮する力が生じた場合、版枠22は内側に変位しようとする。しかしながら、テンションローラ343〜345がテーパ面352に当たっており、テーパ面352よりも外側の部位がテンションローラ343〜345に引っ掛かった構造となっているため、スクリーン版21の収縮が規制される。即ち、テンションローラ343〜345は、反作用的に版枠22を外側に向けて押すものとなっており、これによってスクリーン版21にテンションが与えられるようになっている。尚、テーパ面352は平行面351の外側に位置しているが、テーパ面352は、外側にいくに従って徐々に中心軸からの距離が遠くなる面である限り、凹部の表面でなくとも良く、どこに位置していても良い。
図4では、片側のみ示されているが、連結体4の他方の側においても同様の構造でテンションローラ343〜345が設けられている。そして、版枠22も同様の構造であって凹部の底面が平行面351であってその外側にテーパ面352を有し、テーパ面352にテンションローラ343〜345が当たることでスクリーン版21を外側に向けて反作用的に引っ張る構造となっている。
【0025】
このような構造により、版胴キャリア1は、版胴2を両端において保持しつつ外側に引っ張ってスクリーン版21にテンションを与えながら版胴2を回転可能な状態で保持するようになっている。このような版胴キャリア1に版胴2を装着する場合には、図2に示すように、保持枠3の開閉部32を開いた状態とし、版胴2を保持枠3の主部31に嵌め込む。この際、版枠22の凹部に各ローラ341〜345が当たるようにする。より正確には、凹部の平行面351に各保持ローラ341,342が当たり、テーパ面352に各テンションローラ343〜345が当たるようにする。尚、スクリーン版21は、前述したように極細繊維で編み込まれたものであり、柔らかなものであるが、装着する際には、両端の保持枠3を引っ張ってスクリーン版21を張った状態とし、この状態で保持枠3に嵌め込む。前述したように、テンションローラ343〜345がテーパ面352に引っ掛かっているため、この張った状態(テンションが与えられた状態)が維持される。
【0026】
このようにして版胴2を嵌め込んだ後、開閉部32を閉じ、固定具5で開閉部32と主部31とをつないで固定する。尚、図2から解るように、一つの連結体4は、両側の開閉部32同士を連結するものとして設けられており、この連結体4の両端にそれぞれ一つのテンションローラ343が設けられている。したがって、このテンションローラ343によるテンション付与の作用は、開閉部32を閉じた際に生じる。
【0027】
このように、本実施形態の版胴キャリア1は、スクリーン版21に対してテンションを与えつつ版胴2を保持するものとなっている。スクリーン版21に与えるテンションは、両端の保持枠3の離間距離、即ち連結体4の長さを適宜設定することで適切なものとすることができる。本実施形態の版胴キャリア1は、スクリーン版21に与えるテンションをさらに適切なものとするため、さらにテンション調節機構6を備えている。この点について、図4を参照して詳説する。
テンション調節機構6は、両側の保持枠3の互いの離間距離を調節することでテンションを調節するものである。より具体的に説明すると、テンション調節機構6は、各連結体4と一方の側の保持枠3との連結箇所にそれぞれ設けられており、各連結体4と一方の側の保持枠3との距離を伸張させる向きに作用する弾性体を備えたものである。
【0028】
本実施形態におけるテンション調節機構6は、図4に示すように、連結体4の一端が連結されたジョイント61と、保持枠3に固定されたローラ台座62と、ジョイント61とローラ台座62との間に設けられた弾性体としてコイルスプリング63等から構成されている。
連結体4は、先端の周面にねじ切りがされており、ジョイント61にはねじ切りされた凹部(以下、連結用凹部)60が設けられている。連結体4は、先端をジョイント61の連結用凹部60にねじ込むことでジョイント61に連結されている。
【0029】
一方、ローラ台座62は、保持枠3に固定されて内側に延びており、図4では下側にテンションローラ343〜345が取り付けられている。そして、ローラ台座62の内側の端面には、ジョイント61を係合させるための凹部(以下、係合用凹部)66が形成されている。そして、ジョイント61は、連結体4を連結した側との反対側において係合用凹部66に挿入された状態となっている。
ローラ台座62の係合用凹部66内には、受け具64が設けられている。受け具64は、ローラ台座62に固定されており、ジョイント61の側に突出している。一方、ジョイント61には、ローラ台座62側の端部に凹部(以下、ジョイント凹部)65を有しており、受け具64はジョイント凹部65に挿入された状態となっている。
【0030】
コイルスプリング63は、ジョイント凹部65内に位置しており、受け具64の先端とジョイント凹部65の奥壁面との間に介在している。コイルスプリング63は、多少圧縮された状態で設けられており、その弾性力により受け具64を外側に向けて押し出すよう設けられている。
コイルスプリング63が受け具64を外側に向けて押し出すと、受け具64はローラ台座62に固定されているため、ローラ台座62が外側に向けて押し出され、この結果、保持枠3も外側に向けて押し出される。このため、テンションローラ343〜345がテーパ面352を押して版枠22を外側に向けて押し出す状態となり、スクリーン版21に対してさらにテンションを与える状態となる。
上記説明から解るように、コイルスプリング63の弾性力を適宜選定することで、テンションローラ343〜345が版枠22を押し出す力を適切に調節することができる。このため、スクリーン版21により適切なテンションを与えることができる。
【0031】
本実施形態では、これに加え、連結体4の実質的長さを調節することでテンションを調節する機構も採用している。即ち、上記構造において、連結体4を回してジョイント61へのねじ込み深さを調節すると、ジョイント61にねじ込まれていない部分の連結体4の長さ(実質的な長さ)が変更される。連結体4の長さが変わると、両端の保持枠3の離間距離が変わることになり、したがってスクリーン版21に与えられるテンションが変わることになる。即ち、連結体4のねじ込み深さの調節によりテンションが調節される。上記コイルスプリング63も、連結体4と保持枠3との距離を調節することでテンションを調節するものであるが、コイルスプリング63の場合には、動的に(能動的に力を作用させつつ)調節するものであるのに対し、上記ねじ込み構造は静的に調節するものであるということができる。
【0032】
尚、連結体4は、一方の端部において上記のようにねじ込み構造になっているが、他方の端部では、連結体4の回転は許容しつつ位置が変化しない連結構造となっている。両端においてねじ込み構造としてしまうと、連結体4を回転させても実質的長さが変わらないことになってしまうからである。ただし、他端において逆向きのねじ切りにおき、一方の向きに連結体4を回すと両側においてねじ込み深さが深くなり、逆に回すと両端においてねじ込み深さが浅くなる構造を採用することもできる。尚、ねじ込み以外の構成で連結体4の実質的長さを調節することも可能であり、連結体4の先端をジョイント61の連結用凹部に嵌入させつつ連結用凹部の手前の箇所で連結体4をクランプして(挟み込んで)固定する構造を採用し、クランプ位置を調節する(嵌入深さを調節する)ことで実質的長さを調節することができる。
このように、本実施形態では、テンション調節機構6が設けられているので、より適切なテンションを与えつつ版胴2を保持することができる。実用的な使い方としては、基本的な(ラフな)大きさのテンションをコイルスプリング63により与えておき、微調節として上記ねじ込み深さの調節を行うことが考えられる。
【0033】
また、上述したように本実施形態では三つの連結体4が設けられているが、上記テンション調節機構6は、各連結体4にそれぞれ設けられている。三つの連結体4において保持枠3からの距離を調節し、テンションの付与をバランス良く行う必要があるためである。もしテンションの付与のバランスが悪くなると、スクリーン版21の歪みや変形を生じることになり、印刷品質の低下につながる。最悪の場合には、スクリーン版21の破損にもつながる。よって、それぞれのテンション調節機構6によりバランス良くテンションを与える必要がある。上記ねじ込み構造による微調節は、三つの連結体4において生じるテンション付与作用をよりバランス化させるのに好適に利用することができる。
【0034】
次に、このような版胴キャリア1により保持された版胴2を使用して印刷を行うロータリースクリーン印刷機の発明の実施形態について説明する。以下、説明の都合上、版胴キャリア1とそれに装着された版胴2とから成るものを版胴ユニットと呼ぶ。図5は、図1に示す版胴ユニットが搭載されるロータリースクリーン印刷機の主要部の斜視概略図である。
図5は、回転する版胴2にシート状ワークWを送りながら接触させることで印刷が行われる箇所の概略構造を示したものである。以下、回転する版胴2に対するシート状ワークWの接触位置を印刷位置と呼ぶ。
【0035】
ロータリースクリーン印刷機は、印刷位置に対して所定の位置関係で版胴ユニット20を装着するため、取り付け部を有している。取り付け部としては、本実施形態では、短い丸棒状の部材(以下、ハンガーピンと呼ぶ)71〜74が採用されている。ハンガーピン71〜74は、長さが方向が水平方向となる姿勢で設けられている。ハンガーピン71〜74は、印刷位置を挟んで両側に設けられており、片側に二つずつ計四つ設けられている。片側二つのハンガーピン71,72及び73,74は、上下に並んでいる。上側のハンガーピン71,73は、右側と左側において同じ高さの位置に設けられており、下側のハンガーピン72,74も同様である。上側の左右のハンガーピン71,73の離間距離と下側の左右のハンガーピン72,74の離間距離は、等しい。尚、上側の左右のハンガーピン71,73を結ぶ水平な直線は、下側の左右のハンガーピン72,74を結ぶ水平な直線と平行である。
【0036】
一方、版胴キャリア1には、ハンガーピン71〜74に係合する被取り付け箇所が設けられている。被取り付け箇所は、本実施形態では保持枠3に設けられている。より具体的に説明すると、図3に示すように保持枠3の主部31の先端と開閉部32の先端は、それぞれフック状に形成された部位(以下、先端フック部と呼ぶ)311,321となっている。版胴ユニット20を搭載する場合は、各先端フック部311,321をそれぞれのハンガーピン71〜74に引っ掛けることで行う。即ち、図5において左側の保持枠3の先端フック部311,321を左側のハンガーピン71,72に引っ掛け、右側の保持枠3の先端フック部311,321を右側のハンガーピン73,74に引っ掛ける。上下のハンガーピン71〜74の離間距離は、上下の先端フック部311,321の離間距離に適合したものとなっている。また、左右のハンガーピン71〜74の離間距離は、両端の保持枠3の離間距離に適合したものとなっている。
【0037】
尚、本実施形態では、版胴ユニット20は、先端フック部311,321をハンガーピン71〜74に引っ掛けることのみで保持される(搭載位置が維持される)ようになっており、印刷機は、特に別途支持する部材を有していない。版胴キャリア1や版胴2は十分に軽量なものとすることができるので、ハンガーピン71〜74に対する引っ掛けのみで問題なく保持することができる。
版胴ユニット20は、このようにして印刷機に搭載されるが、印刷位置に対する位置関係が所定の位置となるよう版胴ユニット20を位置決めする機構(以下、位置決め機構)が設けられている。以下、この位置決め機構について説明する。
【0038】
版胴ユニット20は、上記のようにハンガーピン71〜74に引っ掛けられた後、印刷位置に近づくよう移動して位置決めが行われる。位置決め機構が行う位置決めには、版胴ユニット20を印刷位置に対してどの程度まで近づけるかという位置決め(以下、接近距離位置決め)と、印刷位置で送られるシート状ワークWの幅方向における位置決め(以下、幅方向位置決め)とが含まれる。即ち、位置決め機構は、具体的には、図5に示すように、接近距離位置決め機構81と、幅方向位置決め機構82となっている。尚、図5に示すように、シート状ワークWの幅方向は水平方向であり、この方向は、左右のハンガーピン71〜74を結ぶ水平線の方向に等しい。したがって、版胴ユニット20は、ハンガーピン71〜74に引っ掛けられて搭載された際、中心軸がシート状ワークWの幅方向に一致した状態となる。
【0039】
まず、幅方向位置決め機構82について説明する。幅方向位置決め機構82は、左右どちらかの側のハンガーピン71,72又は73,74を移動させて位置決めを行う機構となっている。本実施形態では、右側のハンガーピン73,74を移動させる機構となっているが、左側でも良い。
幅方向位置決め機構82は、右側の上下のハンガーピン73,74をそれぞれ保持したベースプレート701と、ベースプレート701とともに保持枠3を挟み込む挟み込みプレート702と、ベースプレート701を幅方向に移動させる移動ユニット等から構成されている。
【0040】
図5に示すように、右側の上下のハンガーピン73,74は、それぞれベースプレート701から外側に突出するよう設けられている。尚、ハンガーピン73,74はベースプレート701に固定されており、ベースプレート701を移動させるとハンガーピン733,74も一緒に移動するようになっている。
挟み込みプレート702は、ベースプレート701の外側に設けられている。挟み込みプレート702には、ハンガーピン73,74を挿通させた貫通孔が形成されている。挟み込みプレート702は、ハンガーピン73,74を挿通させつつ幅方向に移動可能となっている。
【0041】
この挟み込みプレート702には、不図示の挟み込み用駆動源が付設されている。挟み込み用駆動源は、挟み込みプレート702を幅方向に移動させる機構である。尚、挟み込み用駆動源は、ベースプレート701に固定された不図示の支持板上に設けられており、ベースプレート701が移動する際には一緒に移動するようになっている。
尚、ベースプレート701、挟み込みプレート702、不図示の挟み込み駆動源、不図示の支持板等からなる構造は、右側の上下のハンガーピン73,74において同様の構造となっている。以下、これらの要素から成る構成を、ピンユニットと呼ぶ。
移動ユニットは、上下のベースプレート701を一体に幅方向に移動させて位置決めするものである。詳細な説明は省略するが、上下のベースプレート701を連結したフレームに対してサーボモータ等からなる駆動源を設け、上下のピンユニットを幅方向に一体に移動できるようにする。
【0042】
幅方向の位置決めを行う場合、まず、不図示の挟み込み用駆動源を動作させ、挟み込みプレート702をベースプレート701に向けて移動させる。この結果、ベースプレート701と挟み込みプレート702との間に、保持枠3の先端フック部311,321が挟み込まれた状態となる。この状態で、移動ユニットを動作させ、上下のピンユニットを幅方向に移動させ、最適な位置で停止させる。これにより、幅方向の位置決めが行われる。
図5に示すように、左側のハンガーピン71,72もベースプレート701に固定されており、ベースプレート701から外側に突出した状態となっている。上記幅方向位置決めの際、左側の保持枠3の先端フック部311,321は、左側のハンガーピン71,72上を滑動することになる。また、左側のベースプレート701の外側には、不図示のストッパプレートが設けられており、左側のハンガーピン71,72の外側の端部は、ストッパプレートに固定されている。したがって、上記幅方向の位置決めは、左側のハンガーピン71,72の長さの範囲において行われることになる。
尚、幅方向位置決め機構82の構成としては、前述したように、左側のベースプレート701に対して挟み込みプレート702と挟み込み用駆動源とを設け、版胴ユニット20を左側で幅方向に駆動して位置調節する機構であっても良いことは、勿論である。
【0043】
次に、接近距離位置決め機構81について説明する。
接近距離位置決め機構81は、四つのハンガーピン71〜74を一体に移動させ、版胴ユニット20が印刷位置に対して所定の位置関係になるようにする機構である。説明の都合上、この所定の位置関係となる位置(最終的に版胴ユニット20を位置させるべき位置)を、セット位置と呼び、接近方向位置決めを始める前の位置(各ハンガーピン71〜74に先端フック部311,321を引っ掛けた際の位置)を、初期位置と呼ぶ。接近距離位置決めは、初期位置からセット位置に版胴ユニット20を直線移動させる動作である。以下、初期位置からセット位置への直線移動の方向を接近方向という。
【0044】
尚、印刷は、回転する版胴2にシート状ワークWを送りながら接触させるとともに、反対側から圧胴を圧接することで行われる。したがって、印刷位置の付近には、圧胴9が設けられている。また、印刷位置の付近には、版胴2の回転のための駆動ギヤ200が設けられている。セット位置に版胴ユニット20が位置すると、版枠22の被駆動ギヤ23が駆動ギヤ200に噛み合った状態となり、版胴2が圧胴9とともにシート状ワークWを挟み込んだ状態となる。
接近距離位置決め機構81は、四つのハンガーピン71〜74をそれぞれ固定したベースプレート701を一体に保持した不図示の主フレームと、主フレームを所定の接近方向に移動させて接近方向位置決めを行う位置決めユニット等とから成っている。位置決めユニットは、主フレームに連結したサーボモータ等の駆動源や、所定の接近方向に方向性及び直線性良く主フレームを移動させるためのリニアガイド等から成っている。
【0045】
接近距離位置決めは、上記のように幅方向位置決めを行った後、位置決めユニットを動作させることで行われる。即ち、位置決めユニットにより主フレームが所定の接近方向に所定距離移動する。主フレームに固定された四つのハンガーピン71〜74も一体に所定の接近方向に所定距離移動する。この結果、ハンガーピン71〜74に保持された版胴ユニット20も所定の接近方向に所定距離移動し、セット位置に位置した状態となる。尚、右側のハンガーピン71〜74においては、各ピンユニットや幅方向位置決め機構82も主フレームに取り付けられており、ハンガーピン71〜74と一体に移動するようになっている。
【0046】
図6は、このように接近距離位置決めが行われた後の版胴ユニット20の装着構造を示した側面概略図である。図6に示すように、版胴ユニット20がセット位置に位置すると、版胴2が圧胴9とともにシート状ワークWを挟み込んだ状態となり、駆動ギヤ200に保持枠3の被駆動ギヤ23が噛み合った状態となる。
尚、ロータリースクリーン印刷機は、この他、スクリーン版21に対して内部側からインクを供給するインク供給ノズルや、供給されたインクをスクリーン版21の裏面において薄く伸ばすスキージ等が設けられている。インク供給ノズルやスキージは、版胴ユニット20をセット位置に位置させた後、版胴ユニット20内の所定位置に配置されるようになっており、インク供給ノズルやスキージの進退機構が備えられている。
【0047】
このようなロータリースクリーン印刷機を使用して印刷を行う場合、図6の状態とした後、進退機構を動作させて版胴2内に所定位置に不図示のインク供給ノズルやスキージを配置する。そして、版胴回転機構を動作させるとともにシート状ワークWを回転に同期した速度で送る。この状態で、インク供給ノズルからインクを吐出させてスクリーン版21の裏面に供給し、版胴2の回転を利用しながらスキージによって薄く伸ばすようにする。この結果、スクリーン版21を通してインクが染み出し、シート状ワークWに付着することで印刷が行われる。この際、版胴2はシート状ワークWを少し押す状態となり、圧胴9は、この押圧を受けて反作用的にシート状ワークWを圧接しながら従動回転する。この例では、図6において版胴2は反時計回りに回転し、圧胴9は時計回りに回転する。そして、シート状ワークWは下から上に送られる。尚、シート状ワークWは、多くの場合、ロールツーロールの移送機構により送られ、印刷位置において上記のように印刷が行われる。
【0048】
上記印刷の際、保持ローラ341,342は、圧胴9の反作用的な押圧を受けるよう作用する。即ち、保持ローラ341、342は、印刷位置とは反対側の位置において版枠22に接触しており、反対側から版胴2を押圧する。このため、シート状ワークWに対するスクリーン版31を最適な力で圧接させつつ版胴2を回転させることができるようになっている。尚、この圧接の力は、接近距離位置決め機構81の駆動源の出力によって調節される。
【0049】
このような本実施形態のロータリースクリーン印刷機において、版胴2は適宜交換される。版胴2の交換の必要性は、異なる図柄の印刷を行う場合に典型的に生じる。版胴2を交換する場合、上記動作とは逆の動作で版胴2を取り外す。即ち、接近距離位置決め機構81を逆向きに動作させて版胴ユニット20をセット位置から初期位置に戻した後、不図示の挟み込み用駆動源を逆向きに動作させ、挟み込みプレート702による挟み込みを解消する。そして、ハンガーピン71〜74から版胴ユニット20を持ち上げて取り外す。その後、版胴キャリア1の固定棒5を取り外し、保持枠3の開閉部32を開いて版胴2を交換する。新しい版胴2を版胴キャリア1に装着した後は、前述したのと同様の動作で印刷を行う。
【0050】
また、本実施形態のロータリースクリーン印刷機は、径の異なる版胴2を搭載して印刷することが可能となっている。径の異なる版胴2については、版胴キャリア1もその径に適合した大きさのものが使用される。即ち、保持枠3の部分の大きさが版胴2の径に応じて異なる版胴キャリア1が用意され、それに版胴2が装着される。尚、保持枠3の部分の大きさは異なるが、被取り付け部である先端フック部311,321の位置は、同じ位置とされる。即ち、保持枠3の大きさは異なるが、先端フック部311,321の位置がすべて同じ位置である版胴キャリア1がシリーズ化されて用意される。
【0051】
一方、ロータリースクリーン印刷機においては、ハンガーピン71〜74その他の版胴ユニット20の保持のための機構はそのまま使用される。但し、版胴ユニット20の径が大きくなっても収容できるよう、版胴ユニット20の収容スペースとして十分なスペースが確保される。
径の異なる版胴ユニット20についても、版胴ユニット20の搭載や印刷動作は全く同じであり、ハンガーピン71〜74に引っ掛けて版胴ユニット20を搭載した後、幅方向位置決め機構82及び接近距離位置決め機構81を動作させて版胴ユニット20をセット位置に位置させて印刷を行う。
【0052】
本実施形態の版胴キャリア1によれば、上記説明から解るように、版胴2自体を取り扱うのではなく、版胴2を装着した版胴キャリア1を取り扱うようにする。このため、版胴2自体を取り扱う従来の方法に比べ、作業性が格段に向上する。即ち、従来の方法において版胴2を取り外したり搭載したりする場合、版枠22の部分で版胴2を持って作業することになるが、両端の版枠22がスクリーン版21でつながれたのみの構造であるので、スクリーン版21が無理に引っ張られたり歪んだりしないよう、両側の版枠22を慎重に保持して行う必要がある。つまり、両側の版枠22の位置関係や距離を一定にしながら取り扱う必要がある。一方、本実施形態の版胴キャリア1によれば、版胴2を装着した後は、版胴キャリア1を持って作業をすれば良いので、慎重な取り扱いは特段不要であり、作業性が格段に向上する。版胴キャリア1のうち、保持枠3の部分を持って作業をしても良いし、連結体4の部分を持って作業をしても良い。
【0053】
加えて、本実施形態では、版胴キャリア1においてスクリーン版21に適切なテンションを与える機能が備えられているので、印刷機においてスクリーン版21にテンションを与える機構を設けることは不要である。この効果は非常に著しいものであり、印刷機における版胴2保持のための機構を非常に簡略化され、部品コストや組み立てコスト、メンテナンスコスト等を大きな削減を可能にする。従来の印刷機では、版胴のうち片側の版枠を固定位置で保持しておき、他方の版枠を引っ張りながら保持することでテンションを与えるが、固定保持の機構であれ、引っ張り保持の機構であれ、それぞれに高い部品寸法精度、取り付け精度等が必要で、且つそれらの部材は他の部材に対して取り付けられているので、当該他の部材の精度も影響してくる。本実施形態では、版胴キャリア1の側でテンション付与を行っているので、版胴キャリア1の各部の寸法精度やテンション調節機構6の精度を確保しておけば良く、印刷機側においてテンション付与のための複雑な機構は不要である。
【0054】
さらに、このような版胴キャリア1は、版胴2のメンテナンスにも利用することができる。即ち、版胴2のスクリーン版21が何からの理由で歪んでしまったような場合、その版胴2を版胴キャリア1に装着し、ある程度の時間放置しておく。このようにすると、テンションが付与された状態が保持されるのでスクリーン版21の歪みが矯正され、正常に印刷に利用することができる場合がある。本実施形態の版胴キャリア1は、このような目的にも利用することができる。
【0055】
また、印刷機における版胴2の位置決めという点においても、本実施形態の版胴キャリア1は顕著な効果を有する。即ち、版胴キャリア1とそれに装着された版胴2から成る版胴ユニット20として一体化されたユニットを印刷機内の所定位置に搭載すれば良いので、位置決めの点でも非常に簡略化される。従来の印刷機では、版胴2をそのまま搭載しているため、両側の版枠22それぞれについて位置精度良く保持する必要があり、非常に機構的に複雑になり易い。そして、位置決めのために版枠22の位置を変更すると、与えるテンションが変わってしまうことがあり、位置決めを行いつつテンション調節も行わなければならない煩雑さがある。本実施形態の版胴キャリア1によれば、このような煩雑さは無い。本実施形態においても、幅方向位置決め機構82や接近距離位置決め機構81により位置決めを行っているが、一体化された版胴ユニット20を移動させて位置決めを行っているため、従来のように両側の版枠22をそれぞれ保持して移動させる機構に比べると、機構的には著しく簡略化される。
さらに、本実施形態の版胴キャリア1及びロータリースクリーン印刷機によれば、径の異なる版胴2についても全く同様にテンション付与や位置決めを行って印刷することができる。このため、多品種少量生産に適した極めて好適な印刷機が提供される。
【0056】
尚、版胴2が回転しても版胴キャリア1が回転しないようになっている構成も、印刷機の構造を簡略化するのに貢献している。版胴キャリア1が版胴2と一緒に回転する構造であっても印刷は可能であるが、版胴キャリア1を回転可能に精度良く保持する機構を設ける必要がある。版胴2だけを回転させる場合に比べ、版胴2と版胴キャリア1とを回転させる場合は、より重量やサイズが大きなものを回転させることになるので、精度良く回転可能に保持する機構は複雑になる。本実施形態では、このような複雑化はない。
【0057】
尚、上記説明では、径の異なる版胴2については異なる版胴キャリア1が用意されると説明したが、径の異なる版胴2を同じ版胴キャリア1で保持できるようにすることも可能であり、このようにすれば、用意する版胴キャリア1の数を少なくすることができる。
上記実施形態の版胴キャリアは、片側五つ計10個のローラ341〜345を備えたものであったが、ベアリング部材としてのローラは、片側に少なくとも二つあれば足りる。二つあれば、原理的には版胴2を回転可能に保持できるし、その二つのローラを前述したようなテンションローラとして一方の版枠22を外側に押し出すよう設ければ、テンション付与の機能も付加できる。但し、三つ以上のローラを設けた方がバランス良く版胴2を保持したり、スクリーン版21に対してバランス良くテンションを付与したりすることが容易にできるという効果はある。
【0058】
また、ベアリング部材としては、上記のようなローラ341〜345によるものの他、鋼球を使用した軸受け(ボール軸受け)等を採用することもできる。尚、ローラを使用する場合も、前述した実施形態のように連結体にローラが取り付けられていることは必須の条件ではない。即ち、連結体4が両側の保持枠3を連結している箇所とは異なる周方向の箇所にローラを設けて版胴2を回転可能に保持したり、スクリーン版21にテンションを付与したりしても良い。
【0059】
さらに、上記実施形態では、版胴を回転可能に保持することと版胴に対するテンション付与とを両方を行う部材(テンションローラ)を採用したが、別々の部材でこれらを行うことも可能である。例えば、版胴2を回転可能に保持するという目的で上記ローラ(保持ローラ)又はボール軸受けを設け、これとは別に弾性体等を使用してテンションを付与する構成が考えられる。具体的には、ボール軸受けで版胴2を回転可能の保持しつつ、保持枠を連結した棒状の連結体に弾性体を設けて伸張する方向に力が生ずるようにすることが考えられる。
尚、テンションローラ343〜345によってテンションを与える場合、テンションローラ343〜345が当接する面は前述したようなテーパ面352ではなく、中心軸に対して垂直な面にローラが当接する構造であっても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、連結体4は棒状のものであったが、両側の保持枠3を連結できるものであれば、棒状のものには限られない。例えば、半円筒状の部材を連結体として用いることも可能である。
また、上記実施形態では、テンション調節機構は弾性体としてのコイルスプリングによってテンションを付与しつつテンションの大きさを調節したが、空圧サスペンション又は油圧サスペンション等を使用しても同様のことが行える。
尚、上記実施形態は、テンションローラが反作用的にテンションを付与しつつテンション調節機構がさらに能動的にテンションを付与しつつ調節する構成であったが、当初から能動的にテンションを付与して調節する構成も考えられる。即ち、連結体に自動伸張機構を設け、版胴キャリアに版胴2を装着する場合、当初はスクリーン版21にテンションが全く付与されない状態で装着し、自動伸張機構によって連結体を伸張させてテンションを付与してテンションの大きさを調節するようにことが考えられる。自動伸張機構としては、流体圧シリンダのような駆動源を使用した機構とすることが考えられる。
【0061】
また、上記実施形態のロータリースクリーン印刷機では、版胴キャリアを取り付ける取り付け部はハンガーピンであり、版胴キャリアの被取付箇所は先端フック部であったが、このような取付構造は他にも種々のものがあり、ピンにフック状の部位を引っ掛ける構成には限定されるものではないことは勿論である。例えば、連結体に被取付箇所が設けられている構成であっても良い。尚、「取り付け部は、前記版胴キャリアの被取付箇所が係合される部位であって」における「係合」とは、版胴キャリアの被取付箇所が取り付け部に対して機構的に係わり合って版胴ユニットが取り付け部から動かないよう止められるという程度の意味である。したがって、上記のような引っ掛けの他、嵌め込みや挟み込み、ネジ止め等、各種の機構的手段が採用され得る。
【符号の説明】
【0062】
1 版胴キャリア
2 版胴
21 スクリーン版
22 版枠
3 保持枠
311 被取付箇所としての先端フック部
321 被取付箇所としての先端フック部
4 連結体
5 固定具
6 テンション調節機構
71〜74 取り付け部としてのハンガーピン
81 接近距離位置決め機構
82 幅方向位置決め機構
9 圧胴
W シート状ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のスクリーン版と、スクリーン版の両端に設けられた版枠とから成り、回転しながら印刷対象のシートに接触することで印刷が行われるロータリースクリーン印刷用版胴において、ロータリスクリーン印刷機への装着及びロータリースクリーン印刷機からの取り外しの際に版胴を保持した状態で装着及び取り外しされて版胴の持ち運びに利用されるロータリースクリーン印刷用版胴キャリアであって、
両端の版枠において版胴を保持するよう両端に設けられた保持枠と、両端の保持枠を連結した連結体とより成り、
保持枠は、版枠を外側に向けて押圧しながら版枠を保持することが可能であり、
連結体は、保持枠を外側に向けて押圧することで版枠を介してスクリーン版に適切なテンションを与えることが可能なものであることを特徴とするロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項2】
前記版胴が回転しても前記保持枠及び前記連結体が回転しないように、前記保持枠の前記版枠を臨む面にベアリング部材を備えていることを特徴とする請求項1記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項3】
前記版枠は前記スクリーン版と同軸の円環状であり、前記ベアリング部材は、両側の前記版枠の周方向に沿った状態となるようそれぞれ複数設けられたローラであることを特徴とする請求項2記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項4】
前記それぞれ複数設けられたローラのうちの少なくとも二つは、前記版枠を外側に向けて押圧しながら前記版枠に接触するよう設けられていることを特徴とする請求項3記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項5】
前記それぞれ複数設けられたローラのうちの少なくとも一つは、前記版胴が前記印刷対象のシートに接触する位置とは反対側の位置において前記版枠に接触するよう設けられていることを特徴とする請求項2乃至4いずれかに記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項6】
前記両端に設けられた保持枠の離間距離を調節することでスクリーン版に与えるテンションを調節するテンション調節機構を備えていることを特徴とする請求項1乃至5記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項7】
前記各連結体は、複数の棒状の部材であり、前記テンション調節機構は、各連結体と一方の側の保持枠との距離を伸張させる向きに作用する弾性体を備えたも機構であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリア。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載のロータリースクリーン印刷用版胴キャリアと、この版胴キャリアによって保持された前記版胴とより成る版胴ユニットを装着し、版胴を回転させ、回転するスクリーン版に印刷対象のシートを接触させて送ることで印刷を行うロータリースクリーン印刷機であって、
版胴ユニットが取り付けられる取り付け部を有しており、
取り付け部は、前記版胴キャリアの被取付箇所が係合される部位であって、この取り付け部は、送られる前記シートに対して前記回転するスクリーン版が接触する位置である印刷位置に対して所定の位置関係となる位置に設定されており、この取り付け部に前記版胴キャリアを係合することでその版胴キャリアに保持された前記版胴のスクリーン版の所定箇所が印刷位置に位置するようになっていることを特徴とするロータリースクリーン印刷印刷機。
【請求項9】
版胴の径が異なる版胴ユニットについて収容することができる収容スペースを有しており、
前記取り付け部は、版胴の径が異なる版胴ユニットを取り付け可能であって、版胴の径が異なる版胴ユニットについて、被取付箇所を係合することでスクリーン版の所定箇所が前記印刷位置に位置させることができるものであることを特徴とする請求項8記載のロータリースクリーン印刷機。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate