説明

ロータリ圧縮機

【目的】 ガス冷媒が圧縮室から吸入室へ漏れるのを防止することができるロータリ圧縮機を提供する。
【構成】 揺動ブッシュ5,6で仕切られたロータ2,102のブレード2a,102aの先端側の空間13,113を互いにのみ連通させた密閉空間とする。偏心円板4と偏心円板104を180度位相を異ならせて回転軸3に固定する。圧縮室11内の高圧のガス冷媒は揺動ブッシュ5,6の両平面とブレード2aの両側面との間でシールする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、冷暖房用空調機や冷凍機等に使用されるロータリ圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ロータリ圧縮機としては、図3に示すように、円筒形状のシリンダ室1aとそのシリンダ室1aに開口する穴12とを有するハウジング1と、上記シリンダ室1a内に配置され、半径方向に延びる板状のブレード2aを有する円筒形状のロータ2と、回転軸3に偏心して固定され、上記ロータ2の内周に回転自在に嵌合された偏心円板4とを備えたものがある。そして、上記穴12は、上記シリンダ室1aの円周上に開口すると共に軸方向に延びる円柱形状の穴12bとその穴12bの上部に設けた断面が矩形の穴12aとからなる。そして、上記円柱形状の穴12bには、断面が半円形状の揺動ブッシュ5,6を配置し、この揺動ブッシュ5,6の平面が上記ロータ2のブレード2aの両側面を摺接するようにしている。上記ブレード2aとロータ2によりシリンダ室1aは、低圧側の吸入室10と高圧側の圧縮室11に分かれる。上記ハウジング1は、上記穴12の右側に吸入室10に開口する吸入ポート1bを設け、上記穴12の左側に圧縮室11に開口する吐出ポート1cを設けている。この吐出ポート1cから弁9を経由して、圧縮されたガス冷媒が吐出される。また、上記揺動ブッシュ5,6とブレード2aで仕切られた空間13は、通路40により吸入ポート1bと連通させて、ポンピングロスを少なくしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来のロータリ圧縮機は、圧縮された高圧のガス冷媒が圧縮室11から、ブレード2aの側面と揺動ブッシュ5の平面との間の隙間を経由して上記揺動ブッシュ5,6で仕切られた低圧側の空間13にガス冷媒が洩れる。そして、この空間13から通路40を通って上記吸入ポート1bにガス冷媒が洩れる。
【0004】このように、上記従来のロータリ圧縮機には、ガス冷媒が高圧側から低圧側へ洩れ、動力損失が大きいという欠点がある。
【0005】そこで、この発明の目的は、ガス冷媒が圧縮室側から吸入室側へ洩れるのを防止することができるロータリ圧縮機を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1のロータリ圧縮機は、シリンダ室とそのシリンダ室に開口する穴を有するハウジングと、上記シリンダ室内に配置され、半径方向に延びるブレードを有するロータと、回転軸に偏心して固定され、上記ロータの内周に回転自在に嵌合された偏心円板と上記穴内に揺動自在に設けられ上記ブレードを揺動自在かつ進退自在に支持する揺動ブッシュとを備えたロータリ圧縮機において、上記揺動ブッシュで仕切られた上記ブレードの先端側の空間が密閉空間となっていることを特徴としている。
【0007】また、請求項2のロータリ圧縮機は、互いに軸方向に間隔をあけて配列したシリンダ室と上記各シリンダ室に夫々開口する穴を有するハウジングと、上記各シリンダ室内に夫々配置され、半径方向に延びるブレードを有するロータと、回転軸に偏心して固定され、上記各ロータの内周に夫々回転自在に嵌合され、互いに一定の位相を異ならせて回転軸に固定された偏心円板と、上記各穴内に揺動自在に設けられ、上記各ブレードを揺動自在かつ進退自在に支持する揺動ブッシュとを備えたロータリ圧縮機において、上記各揺動ブッシュで仕切られた上記各ブレードの先端側の各空間は相互にのみ連通していることを特徴としている。
【0008】
【作用】上記請求項1の構成によれば、上記揺動ブッシュで仕切られたブレードの先端側の空間は密閉空間としているので、ガス冷媒が洩れる経路は、シリンダ室の高圧側→ブレード先端の空間→シリンダ室の低圧側となる。つまり、ガス冷媒は上記高圧側のシリンダ室から上記ブレードの側面と揺動ブッシュの平面との間の隙間を通りブレード先端側の空間に入り、さらに、この空間から上記ブレードの側面と揺動ブッシュの平面との間の隙間を通ってシリンダ室の低圧側に洩れる。このため、上記揺動ブッシュの両側の平面と上記ブレードの両側面との間の往復経路によってガス冷媒をシールする。したがって従来のロータリ圧縮機に比べてガス冷媒を密封するシール長さを略2倍にすることができ、ガス冷媒の洩れを低減できる。なお、上記密閉空間の容積を大きくすれば、ブレードの往復運動によるポンピングロスを小さくすることができる。
【0009】上記請求項2の構成によれば、上記各揺動ブッシュで仕切られたブレードの先端側の各空間は互いにのみ連通しているので、ガス冷媒が洩れる経路は、シリンダ室の高圧側→ブレード先端の空間→シリンダ室の低圧側となる。このため、上記揺動ブッシュの両側の平面と上記ブレードの両側面との間の往復経路によってガス冷媒をシールする。したがって、従来のロータリ圧縮機に比べて、ガス冷媒を密封するシール長さを略2倍にすることができガス冷媒の洩れを低減できるまた、上記ロータ内の各偏心円板は互いに一定の位相が異なるように回転軸に固定している。このため、上記各ブレードの先端側の空間全体は、容積が常に略一定か、または、容積変化が小さくなる。したがって、上記各ブレードが往復運動しても上記空間においてガス冷媒を殆んど圧縮しないので、ポンピングロスを無くすことでき、また、上記空間において潤滑油と液冷媒の圧縮を防止して、損傷を防止できる。
【0010】
【実施例】以下、この発明のロータリ圧縮機を図示の実施例により詳細に説明する。
【0011】図1はこの発明の実施例のロータリ圧縮機の断面図を示しており、1は円筒形状のシリンダ室1aと、このシリンダ室1a内に開口する吸入ポート1b,吐出ポート1cおよび穴12を有するハウジング、2は上記シリンダ室1a内に配置され、半径方向に延びるブレード2aを有する円筒形状のロータ、3は上記ロータ2の内周に回転自在に嵌合した偏心円板4が固定された回転軸、5,6は上記穴12に揺動自在に設けられ、上記ブレード2aを揺動自在かつ進退自在に支持する半円形状の揺動ブッシュである。上記穴12は、上記シリンダ室1aの円周上に開口すると共に、軸方向に延びる円柱形状の穴12bと、その穴12bの上部に設けた断面が矩形の穴12aとからなる。そして、上記円柱形状の穴12bには、断面が半円形状の揺動ブッシュ5,6を配置し、この揺動ブッシュ5,6の平面が上記ロータ2のブレード2aの両側面に摺接するようにしている。
【0012】図2は図1のA−A線断面図であり、上記ロータ2と同一構造のロータ102を軸方向に間隔をおいて配置している。すなわち、上記シリンダ室1aと同一形状のシリンダ室101aに上記ロータ102を配置し、そのロータ102の板状のブレード102aの両側面を、穴112に配置した半円形状の揺動ブッシュ(図示せず)の平面部によって揺動自在に支持している。このロータ102の内周に、回転軸3に固定した偏心円板104を回転自在に嵌合している。上記偏心円板104は、前述の偏心円板4とは、180度位相を異ならせて回転軸3に固定している。上記ロータ2,102と偏心円板4,104の両側面は、ハウジング1,7,8に摺動自在に接触している上記ブレード2a,102aの先端側の各空間13,113は互いにのみ連通した密閉空間としている。
【0013】また、上記ロータリ圧縮機の回転軸3の一端は図示しないモータに連結して、図1において矢印Rの方向に回転軸3を回転させて、上記回転軸3に固定された偏心円板4をロータ2の内側で偏心回転運動させるようにしている。上記偏心円板4に応じてロータ2は、シリンダ室1a内を摺接しながら半径方向に移動し、上記ブレード2aを中心として揺動運動する。このとき、ブレード2aの先端面は、上記揺動運動により穴12a内で僅かに左右に揺れながら上下に往復運動する。上記回転軸3を中心に偏心円板4が回転すると、上記ブレード2aとロータ2により上記シリンダ室1aは、吸入室10と圧縮室11に分かれる。上記吸入室10は、上記吸入ポート1bからガス冷媒を吸入し、上記圧縮室11はガス冷媒を圧縮し、圧縮工程でガス冷媒が所定以上の圧力になったとき、上記吐出ポート1cから弁9を経由して吐き出す。このように、上記回転動作を繰り返すことにより、このロータリ圧縮機は吸入,圧縮,吐出を連続して行う。また、もう一方のロータ102の吸入,圧縮,吐出動作は、図2において、上記偏心円板4と104との位相が180度異なることを除いて同じである。したがって、各シリンダの吸入,圧縮,吐出の動作は互いに位相が180度ずれて行われる。
【0014】上記シリンダ室1a内の高圧のガス冷媒は、圧縮室11から圧縮室11側に面するブレード2aの側面と揺動ブッシュ5の平面との間の隙間を経由して、上記ブレード2aの先端側の空間13にガス冷媒が洩れる。そして、上記空間13に洩れたガス冷媒は、吸入室10側に面するブレード2aの側面と揺動ブッシュ6の平面との間の隙間を経由して、低圧の吸入室10に洩れる。上記ブレード2aの先端側の空間13は密閉空間となるので、ガス冷媒が洩れる経路は、ブレード2aの両側面と揺動ブッシュ5,6の両平面との間の隙間だけとなり、圧縮室11(高圧側)→空間13→吸入室10(低圧側)となる。また、もう一方のシリンダのガス冷媒が洩れる経路も、図2においてブレード102aの両側面と図示しない揺動ブッシュの平面との間の隙間だけとなる。したがって、従来のロータリ圧縮機の圧縮室(高圧側)→ブレード先端側の空間→通路→吸入ポートの経路に比べて、ガス冷媒を密封するシール長さが略2倍になり、ガス冷媒の洩れを低減できる。したがって、動力損失を低減できる。
【0015】また、図2に示すように、上記ロータ2,102内の各偏心円板4,104は互いに180度位相が異なるように回転軸3に固定しているので、上記ブレード2a,102aの先端側の互いに連通している両空間13,113からなる全密閉空間は、容積が常に一定となる。したがって、上記各ブレード2a,102aが上下運動しても、空間13,113内でガス冷媒が圧縮されることがなく、ポンピングロスを無くすことでき、また、上記空間13,113内での潤滑油と液冷媒の圧縮を防止して、損傷を防止できる。
【0016】上記実施例では、2シリンダ構成のロータリ圧縮機としたが、1シリンダ構成のロータリ圧縮機とした場合も上記2シリンダ構成のロータリ圧縮機と同様に冷媒を密封するシール長さを略2倍にすることができ、ガス冷媒の洩れを低減できる。そして、ブレード先端の空間の容積を大きくすることにより、ブレードの往復運動によるポンピングロスを小さくすることができる。
【0017】また、上記実施例では、ロータリ圧縮機を構成するシリンダの数を2とし、各偏心円板を互いに180度位相を異ならせて回転軸に固定したが、シリンダの数と偏心円板の各位相は上記のものに限定されないのは勿論である。例えば、シリンダの数が3個の構成で、偏心円板を120度ずつ位相を異ならせてよく、シリンダの数が4個の構成で、偏心円板を90度ずつ位相を異ならせてもよい。
【0018】
【発明の効果】以上より明らかなように、請求項1の発明のロータリ圧縮機は、揺動ブッシュで仕切られたブレードの先端側の空間を密閉空間としたものである。したがってこの発明によれば、ガス冷媒が洩れる経路は、ブレード両側面と揺動ブッシュの両平面との間の隙間となるので、従来のロータリ圧縮機に比べて、ガス冷媒を密封するシール長さを略2倍にすることができ、ガス冷媒の洩れを大幅に低減して、洩れによる動力損失を少なくすることができる。
【0019】また、請求項2の発明のロータリ圧縮機は、回転軸に偏心して固定され、各ロータの内周に夫々回転自在に嵌合された偏心円板を、互いに一定の位相を異ならせて回転軸に固定し、各揺動ブッシュで仕切られた各ブレードの先端側の各空間を相互にのみ連通したものである。したがって、この発明によれば、ガス冷媒の洩れを少なくするという請求項1の効果に加えて、ブレードによるポンピングロスを低減でき、かつ、ブレードによる潤滑油と液冷媒の圧縮を無くして、損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1はこの発明の一実施例のロータリ圧縮機の断面図である。
【図2】 図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】 図3は従来のロータリ圧縮機の断面図である。
【符号の説明】
1,7,8…ハウジング、2,102…ロータ、2a,102a…ブレード、3…回転軸、4,104…偏心円板、5,6…揺動ブッシュ、10…吸入室、11…圧縮室、12,112…穴、13,113…空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ室(1a)とそのシリンダ室(1a)に開口する穴(12)を有するハウジング(1)と、上記シリンダ室(1a)内に配置され、半径方向に延びるブレード(2a)を有するロータ(2)と、回転軸(3)に偏心して固定され、上記ロータ(2)の内周に回転自在に嵌合された偏心円板(4)と、上記穴(12)内に揺動自在に設けられ、上記ブレード(2a)を揺動自在かつ進退自在に支持する揺動ブッシュ(5,6)とを備えたロータリ圧縮機において、上記揺動ブッシュ(5,6)で仕切られた上記ブレード(2a)の先端側の空間(13)が密閉空間となっていることを特徴とするロータリ圧縮機。
【請求項2】 互いに軸方向に間隔をあけて配列したシリンダ室(1a,101a)と上記各シリンダ室(1a,101a)に夫々開口する穴(12,112)を有するハウジング(1,7,8)と、上記各シリンダ室(1a,101a)内に夫々配置され、半径方向に延びるブレード(2a,102a)を有するロータ(2,102)と、回転軸(3)に偏心して固定され、上記各ロータ(2,102)の内周に夫々回転自在に嵌合され、互いに一定の位相を異ならせて回転軸に固定された偏心円板(4,104)と、上記各穴(12,112)内に揺動自在に設けられ、上記各ブレード(2a,102a)を揺動自在かつ進退自在に支持する揺動ブッシュ(5)とを備えたロータリ圧縮機において、上記各揺動ブッシュ(5)で仕切られた上記各ブレード(2a,102a)の先端側の各空間(13,113)は相互にのみ連通していることを特徴とするロータリ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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