説明

ローラーボトルでの分娩後取り出し細胞の体外増殖

【課題】 ローラーボトルのような容器での、哺乳動物細胞(とりわけ、分娩後取り出し細胞)の体外成長および体外増殖のパラメータを最大化する方法を提供する。
【解決手段】 ローラーボトルのような容器などの培養装置での成長速度および細胞収量を最適化する方法を提供する。それらの方法はとりわけ、分娩後取り出しヒト細胞(例えば、臍帯由来細胞)を得るのに適している。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、出願日2005年12月19日の米国仮特許出願第60/751,550号に対する利益を主張する。この米国仮特許出願明細書の内容は、参照されることによって、その全内容が本明細書に組み入れられる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は概して、哺乳動物細胞の成長および増殖に関する。本発明はとりわけ、ローラーボトル(roller bottles)のような容器で分娩後取り出し細胞(postpartum-derived cells)の体外成長および体外増殖を行う方法に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
市販の細胞治療用産物(cell therapy products)は、閉鎖されている無菌装置で産生されることが好ましい。しかし、市販の細胞治療用産物を得るために使用される多くの細胞系の成長は、足場依存性(anchorage-dependent)である。撹拌槽型反応器、振盪フラスコ、スピナーフラスコ(spinner flasks)、アップリフト反応器(uplift reactors)等は全て、懸濁液中で成長する細胞(例えば、モノクローナル抗体を産生するためのハイブリドーマ(hybridomas)、組み換えDNA技術のために使用される多くの細胞、および、大部分の昆虫細胞の培養株)にとっては有用であるが、足場依存性細胞または足場選択性細胞(anchorage-preferred cells)を成長させかつ増殖させるためのオプション(options)は、より制限されている。
【0004】
足場依存性細胞には、多くの正常二倍体細胞株だけでなく、大部分の初代細胞系(primary cell lines)も包含される。そのような細胞を大量産生するためのオプションには、ローラーボトル、繊維床(fiber beds)および中空繊維装置(hollow fiber systems)、積層プレート式または多重プレート式の培養装置(multi-plate or stacked-plate culture systems)、セルキューブ(cell cubes)、ならびに、マイクロキャリア(microcarriers)が包含され、それぞれ、利点と不利な点とを有している。
【0005】
ローラーボトルをベースとする細胞培養の方法は恐らく、足場依存性細胞および足場選択性細胞を成長させるための最も一般的に使用されている方法である。ローラーボトルは、ガラスまたはプラスチックで作られた本質的に円筒形の容器であって、少なくとも部分的に成長培地で充填されている容器である。最も新しいローラーボトルは、使い捨てプラスチック材料で作られている。ローラーボトルは、回転する装置であって、典型的には約5〜250回転/時間の間の定速で当該ボトルを連続的に「転がす(roll)」かまたは回転させる装置の上に配置される。その転動(rolling motion)によって、ローラーボトルの内部表面に付着する細胞は、成長培地に浸ることが可能となり、同時に、当該ボトル中の雰囲気との十分なガス交換が行われる。
【0006】
ローラーボトルは、様々なサイズであって、各々のサイズが一定量の面積と容量とを提供するサイズで入手することができる。多くのボトルは、1〜2リットルの容量範囲で入手することができる。市販されている2種類の一般的サイズのローラーボトルは、それぞれ、850cmおよび1050cmを提供する。微生物学的安全性(microbiological safety)が決定的に重要である場合、大き過ぎるローラーボトルは取り扱いが困難であるので、幾つかの用途に対して、大きいサイズには限界があることがある。ごく最近、拡大された内部面積を有するローラーボトルが、市販されるようになり、その問題に取り組むのに役立っている。ローラーボトル培養の取り扱い(例えば、継代培養を行うための操作)は、可能であれば、最小限に抑えられるべきである。
【0007】
ローラーボトルベース培養装置は、多くの利点を提供する。それらの利点には、装置および組立て(set-up)のための費用が比較的安いこと、組立てが比較的容易であること、ならびに、必要に応じて規模拡大または規模縮小を行うことができることが包含される。ローラーボトルは、典型的には透明であり、細胞と成長との目視検査および顕微鏡検査を行うことができる。汚染されたサンプルは、染みがつき易く、廃棄することができる。
【0008】
潜在的な欠点には、産生された細胞または生物製剤の採取、播種、移し換え(transfer)を行うために、かつ、それらの細胞に対する他の継続的操作を行うために、比較的高いレベルの技量が必要であることが包含される。必要とされる技量のレベルによって、継続的操作に関連する費用は比較的高くなることがある。必要とされる操作の量によって、汚染のリスクが比較的高くなる。それらの潜在的欠点があるにもかかわらず、ローラーボトルは、依然として使用されており、幾種類かの生物製剤を商業的に産生するためにも依然として使用されている。
【0009】
細胞培養を行うためのローラーボトルを使用する場合に考慮されるべき諸因子には、付着効率の他にも、集密状態(confluence)に到達する時間;単位表面積当りの達成可能な最大密度を包含する、付着細胞の成長パラメータ;必要とされる分離技術(detachment techniques)および分離効率;培養条件のスケーラビリティ(scalability;拡大性)だけでなく、規模拡大された条件(scaled-up conditions)の下での培養の均質性;ならびに、分離操作をうまく規模拡大する能力;がある。これらの考慮すべき事柄の幾つかは、接種パラメータ(inoculation parameters)(例えば、回転速度、培地容量);培養条件(例えば、ローラーボトルの回転速度)の他にも、初期培養の播種密度;ローラーボトルの表面積および/または形状に関連して使用される培地容量;ならびに、培養株が培養される時間の長さ;によって影響を受けることがある。
【0010】
とりわけ、細胞の治療的用途では、規模拡大されたローラーボトル条件の下で成長した細胞の特徴は、表面マーカー、遺伝子の発現、(70〜80%を超える)生存率、等の点で、所望の細胞タイプの特徴となることも重要である。
【0011】
制御可能な培養パラメータが最適化されるように試みて、成長速度と、達成される集団倍加数と、採取のために利用可能な総細胞数とを同時に最大化するという点で、ローラーボトル培養装置を改良する必要性が存在する。
【0012】
〔発明の概要〕
本発明は、その幾つかの態様の1つにおいて、ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の成長パラメータを最大化する諸方法を提供する。本発明によると、ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加数を最大化する諸方法が提供される。それらの方法は、少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、850cm培養ボトルの中で少なくとも約100mLの培地容量を使用することと、約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、少なくとも約5.5日間培養することと、を含む。
【0013】
更に本発明によると、ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加速度を最大化する諸方法が提供される。集団倍加速度を最大化する方法は、少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、約6日間よりも短い間培養することと、を含むことが好ましい。
【0014】
本発明は、その態様の別の態様において、ローラーボトル培養装置で分娩後取り出し細胞を採取する時の細胞密度を最大化する諸方法を提供する。これらの方法は、約0.5〜1rpmの回転速度を使用することと、850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、約10,000細胞/cm未満の播種密度を使用することと、約5.5〜6.7日間にわたって培養することと、を含む。
【0015】
更に本発明の1つの態様によると、ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の集団倍加速度と採取密度と総集団倍加数(total number of population doublings)とを同時に最大化する諸方法が提供される。これらの方法は、本出願書類では時々、上述の諸パラメータを得るためにローラーボトル培養装置を最適化する方法とも呼ばれる。これらの方法は、約0.65〜0.9rpmの回転速度を使用することと、850cm培養ボトルの中で少なくとも約300mLの成長培地を使用することと、約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、約5.5〜6.5日間にわたって培養することと、を含むことが好ましい。
【0016】
前述の諸方法は、分娩後取り出し細胞が臍帯由来細胞である場合、とりわけ有用である。現在好ましい分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068に実質的に類似する細胞、または、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068と全く同一である細胞である。
【0017】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下に記述される本発明の様々な態様に係る諸実施例、諸図面および詳細な記述に関連して記述される。
【0018】
〔説明に役立つ具体例の詳細な記述〕
本発明は、その多くの態様の幾つかにおいて、ローラーボトル培養装置で成長した細胞集団から採取するのに利用できる足場依存性細胞(anchorage-dependent cells)の量、そのような培養株の成長速度、または、そのような培養株の総集団倍加数(total number of doublings)を最大化する別々の方法を提供する。本発明は、前述の諸パラメータの3個全てを同時に最大化する方法をも提供する。前述の諸方法によって産生される細胞および細胞集団もまた、本発明において提供される。
【0019】
ローラーボトル培養装置は、細胞培養の技術分野で知られている。本発明で使用されるローラーボトル培養装置は、関心ある少なくとも1種類の細胞系(cell line)と、成長培地と、ローラーボトルと、当該ローラーボトルを回転させるための装置と、細胞を採取するための手段とを備えている。成長培地は、基本培地、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)(DMEM)、アドバンストDMEM(Advanced DMEM)、ハムF12(Ham's F12)、またはそれらの組合せ(例えば、DMEM:F12が1:1の培地)を含有することが好ましい。成長培地は、血清で補足することができる。例えば、幾つかの具体例において、成長培地は、ウシ胎仔血清(FBS)または新生仔ウシ血清(NCS)で補足される。血清の含有率は、成長培地の全容量の0%(無血清培地)から20%までの濃度で変動することができる。成長培地を補足するためには、成長因子、例えば、血小板由来成長因子BB(PDGF−BB)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)等、またはそれらの組合せを使用することができる。血清含有培地または無血清培地には、成長因子が補足されていても、補足されていなくてもよい。
【0020】
ローラーボトル培養装置は典型的には、培養時間の温度を制御するための手段だけでなく、(例えば、ローラーボトルに細胞を最初に播種する間、または、後続の移し変えを行う間に)培養株を無菌で操作するための手段をも更に備えている。細胞の採取は、酵素処理、例えば、トリプシン(trypsin)、トリプシンーEDTA、ディスパーゼ(dispase)およびコラゲナーゼ(collagenase)を使用する酵素処理、または、他の複数種類の酵素を使用する酵素処理、または、複数種類の酵素と他の成分との組合せを使用する酵素処理、または、他の成分を用いない複数種類の酵素の組合せを使用する酵素処理によって達成することができる。他の市販の製品を利用してもよい。それらの製品は、トリプル・エクスプレス(TrypLe Express)(ギブコ社(Gibco, Inc.))を包含するが、それらに限定されない。細胞は、手動操作(例えば、バッチ遠心分離(batch centrifugation))によって採取されることが可能であり、または、採取は自動化することができる。
【0021】
現在のところ、採取するのに利用できる細胞の量を最大化する方法は、分娩後取り出し細胞(とりわけ、胎盤由来細胞または臍帯由来細胞)に適用することが好ましい。本発明で好ましいタイプの細胞は、特許出願日2004年6月25日の米国特許出願第10/877,446号(胎盤由来細胞)および特許出願日2004年6月25日の同第10/877,012号(臍帯由来細胞)の明細書に記述されている。これらの米国特許出願明細書は、参照されることによって、その全てが本明細書に組み入れられる。ATCC受入番号PTA−6067、PTA−6068、PTA−6074、PTA−6075またはPTA−6079として、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(the American type Culture Collection:米国微生物系統保存機関)から入手することのできるタイプの細胞も好ましい。それらの細胞の各々に関する特性表示および記述もまた、参照されることによって、本明細書に組み入れられる。本方法が臍帯由来細胞(例えば、ATCC受入番号PTA−6067およびPTA−6068)の培養を最大化または最適化する方法に向けられることは、とりわけ好ましい。
【0022】
本発明は、その幾つかの態様の1つにおいて、ローラーボトル培養装置で成長した細胞集団を得るのに達成することのできる集団倍加数を最大化する方法を提供する。それらの細胞は、分娩後取り出し細胞であることが好ましい。また、それらの細胞は、臍帯由来細胞であることがよりいっそう好ましい。現在好ましい具体例において、それらの細胞は、ATCC受入番号PTA−6067およびPTA−6068である。
【0023】
ローラーボトル培養装置で達成し得る集団倍加数を最大化するために使用した独立変数は、回転速度、当該ボトルに入る細胞の播種密度、培養時間、および、当該ボトルに入れる培地の容量である。本明細書において、かつ、例示される諸具体例の全体にわたって、これらの独立変数は、実用性の理由から、一定範囲内で試験された。同一の原理体系を用いて、試験範囲外の他の諸値をごく普通に試験することができること;および、これらの値によって、集団倍加数の増分利得(incremental gains)が与えられることが証明され得ること;を当業者はよく理解するであろう。従属変数(ここでは、達成される集団倍加数)の最大応答(maximal response)は、これらのパラメータの関数として測定される。また、本明細書では具体的には例示されていない諸具体例も、本開示内容の一部であると意図されている。
【0024】
前記従属変数を、前記の4個の独立変数の関数として最大化するのに役立つように、回帰分析法を用いた。とりわけ応答曲面法(RSM)は、現在のところ、培養成長パラメータ(culture growth parameters)を最適化するための好ましいアプローチである。最適化手法に応答曲面法を適用することは、当該技術分野では知られている。応答曲面法を用いれば、複数個の独立パラメータの最適化を行うことによって、期待される応答または最適応答を達成することが可能となる。最大応答および最小応答を与えるパラメータの組(parameter sets)は、応答曲面法を用いて正確に決定することができる。
【0025】
本明細書に例示されるデータおよび以下の記述から分かるように、試験した前記の諸独立変数は、再現可能なように最大集団倍加数に影響を及ぼすことがある。したがって、データの統計解析によって、当業者が前記4個の独立変数の各々の最適値を決定して集団倍加数を最大化することが可能となる。
【0026】
したがって、図1から分かるように、1つの好ましい具体例において、ローラーボトルには約100〜300mLの成長培地を充填し、他の具体例では約100〜200mLを使用する。1つの具体例では、約100〜120mLを、または、正確に105〜115mLを、ローラーボトルに入れる。他の諸具体例において、ローラーボトルには、約112mLの成長培地を充填して、最大集団倍加数を達成する。それらのローラーボトルは、約2500〜約10,000細胞/cmで播種される。1つの好ましい具体例では、その範囲の下端(lower end)を使用する。例えば、播種は、約3000細胞/cm未満で行う。図1から分かるように、更に好ましいのは、試験範囲のちょうど下端における播種の具体例であって、つまり、播種が約2500細胞/cmで行われる具体例である。それらの播種ボトルを、付着および成長が行われる間回転させる。回転速度は、約0.5〜1rpmに設定する。回転は、約0.75〜1rpmの間であることが好ましい。それらの播種ボトルは、約0.8〜1rpmで回転させることがより好ましい。図1から分かるように、ほぼ1rpmまたは約1rpmの回転が好ましい。
【0027】
前記の充填し播種したローラーボトルを、約5〜7日間回転させて培養し、最大集団倍加数を達成させる。現在のところ、約5.5〜約6.5日の培養時間が好ましい。図1に示されるように、約6.2〜約6.3日間の培養も好ましい。
【0028】
集団倍加数を最大化するための諸パラメータの組として独立変数を選ぶことができることは、図1からも分かる。充填容量が約112mLの成長培地と、約2500細胞/cmの播種密度とを有するローラーボトル培養装置であって、約1rpmの速度で約6.2日の培養時間の間回転するローラーボトル培養装置は、そのような装置で達成し得る最大集団倍加数を提供するであろう。
【0029】
使用するのに好ましいローラーボトルは、典型的には、細胞が当該ローラーボトルの内面に付着するのを助ける作用物質、例えば、ゼラチン、細胞外マトリックスの分子(例えば、ゼラチン、ラミニン(laminin)、ビトロネクチン(vitronectin)、フィブロネクチン(fibronectin)、I型コラーゲン、IV型コラーゲンおよびVI型コラーゲン)等で被覆されるということを強調することができる。例示される諸具体例の多くに対してはゼラチンのコーティングを使用したが、他のコーティングは適切であるように思える。また、当業者は、市販の被覆済みローラーボトル(coated bottles)が本出願書類に教示される方法に十分に適合するということを、よく理解するであろう。そのような市販の被覆済みローラーボトルの一例は、(コーニング社(Corning)からカタログ番号3907として入手可能な)セルバインド(CellBind)で被覆されたローラーボトルである。セルバインド被覆のローラーボトルの使用、および、ゼラチン被覆済みローラーボトルとの比較は、以下の実施例4に例示される。本出願書類において提供される諸方法に従って細胞の付着および成長を行うために様々な被覆用作用物質が容認可能であることが見出だされるものと予見される。
【0030】
本発明は、その諸態様の別の態様において、時間/集団倍加の数を最小化する方法(図2を参照されたい)、または、換言すれば、ローラーボトル培養装置で成長する細胞の集団の集団倍加速度を最大化する方法を提供する。本出願書類で用いられる、集団倍加速度(population doubling rate)とは、単位時間当りの集団倍加数であり、集団倍加当りの時間の逆数である。最大集団倍加速度を達成することによって、治療用途のための必要細胞数を産生するのに必要な時間の量は減少し、かつ、容量(capacity)が限定されている培養装置の総産生量は増大する。前述のように、また、本開示内容の全体にわたって、細胞は分娩後取り出し細胞であることが好ましく、また、それらの細胞は臍帯由来細胞であることがよりいっそう好ましい。現在好ましい具体例において、それらの細胞はATCC受入番号PTA−6067およびPTA−6068である。
【0031】
ローラーボトル培養で達成することのできる集団倍加数を最大化するために使用した諸独立変数は、最大集団倍加数を達成するための諸独立変数(即ち、回転速度、ローラーボトルに入れる細胞の播種密度、培養時間、および、ローラーボトルに入れる培地容量)と同一である。従属変数(ここでは、集団倍加速度)の最大応答を測定し、次いで、これらのパラメータの関数として計算した。
【0032】
前記の4個の独立変数の関数として従属変数を最大化するのに役立つように、回帰分析法、および、とりわけ応答曲面法(RSM)を再び使用した。
【0033】
例えば、現在好ましい具体例では、図2から分かるように、諸ローラーボトルを、約100〜300mLの成長培地で充填し、好ましくは約300mLを使用する。それらのローラーボトルに、約2500〜約10,000細胞/cmで播種する。現在好ましい具体例では、その範囲の下端を使用する。例えば、播種は、約3000細胞/cm未満で行う。更にいっそう好ましいのは、播種を約2500細胞/cmで行う具体例である。付着および成長が行われる間、播種済みローラーボトルを回転させる。図2から分かるように、回転速度は約0.5〜1rpmの間に設定する。回転は、約0.75〜1rpmの間であることが好ましい。ローラーボトルは、約0.8〜1rpmで回転させることがより好ましい。図2に示されるように、ほぼ0.9〜1rpmまたは約0.9〜1rpmの回転が現在好ましい。
【0034】
集団倍加速度を最大化するために、前記の充填し播種したローラーボトルを、回転させて、約5〜7日間、好ましくは約5〜約6日の培養時間で培養する。図2は、約5日間の培養も好ましいことを示している。
【0035】
図2に示される結果に基づき、諸独立変数は、集団倍加速度を最大化するパラメータの組として選択することができる。約300mLの充填容量の成長培地と、約2500細胞/cmの播種密度とを有するローラーボトル培養装置であって、約5日間の培養のために約0.9rpmの速度で回転するローラーボトル培養装置は、そのような装置で達成し得る最大集団倍加速度を提供するであろう。
【0036】
本発明は、その幾つかの態様の別の態様において、ローラーボトル培養装置で成長した細胞の集団から採取するのに利用することのできる足場依存性細胞の密度を最大化する方法を提供する。上述のように、それらの細胞は、分娩後取り出し細胞であることが好ましい。また、それらの細胞は、臍帯由来細胞であることがよりいっそう好ましい。現在好ましい具体例において、それらの細胞は、ATCC受入番号PTA−6067およびPTA−6068である。
【0037】
本発明は、その態様の別の態様において、ローラーボトル培養装置で成長した細胞の集団を採取するために細胞集団密度を最大化する方法を提供する。採取密度は、(ローラーボトル内の内部表面積の)1cm当りの細胞数として表される。
【0038】
ローラーボトル培養の採取密度を最大化するために使用した諸独立変数は、本明細書で解説される他の応答を最大化するための諸独立変数(即ち、回転速度、ローラーボトルに入れる細胞の播種密度、培養時間、および、ローラーボトルに入れる培地の容量)と同一である。採取密度の最大応答を測定し、次いで、これらのパラメータの関数として計算する。
【0039】
前記の4個の独立変数の関数として従属変数を最大化するのに役立つように、上述のとおり、回帰分析法、および、とりわけ応答曲面法(RSM)を使用した。
【0040】
従属変数(ここでは、採取に利用し得る細胞の密度)の最大応答を、これらのパラメータの関数として計算する。現在好ましい具体例では、図3から分かるように、諸ローラーボトルを、約100〜300mLの成長培地で充填し、好ましくは約300mLを使用する。それらのローラーボトルに、約2500〜約10,000細胞/cmで播種する。播種密度は、その範囲の下端(例えば、約3000細胞/cm未満の値)から選ぶことが好ましい。より好ましいのは、播種密度が約2500細胞/cmである具体例である。図3に示されるように、付着および成長が行われる間中、播種済みローラーボトルを、約0.5〜1rpmの間の速度で回転させる。好ましい具体例において、回転は、約0.75〜1rpmの間である。ローラーボトルは、約0.8〜1rpmで回転させることがより好ましい。図3に示されるように、ほぼ0.9〜1rpmまたは約0.9〜1rpm(例えば、0.98rpm)の回転が現在好ましい。
【0041】
培養された細胞の採取密度を最大化するために、前記の充填し播種したローラーボトルを、回転させて、約5〜7日間、好ましくは約6〜約7日の培養時間で培養する。図3は、約5.8日〜約6日未満の間の培養、または、約6.5日〜約6.7日の間の培養も好ましいことを示している。
【0042】
本発明は、別の態様において、ローラーボトル培養装置で成長した細胞の集団の集団倍加数と(細胞/cmの単位での)採取密度とを最大化し、同時に時間/集団倍加の数を最小化する方法を提供する。培養条件のそのような最適化によって、ローラーボトル培養装置は、治療用途のために必要とされる細胞数を産生するのにいっそう有用となり、かつ、容量が限定されている培養装置の総産生量は増大する。前述のように、細胞は分娩後取り出し細胞であることが好ましく、また、それらの細胞は臍帯由来細胞であることがよりいっそう好ましい。現在好ましい具体例において、それらの細胞はATCC受入番号PTA−6067およびPTA−6068である。
【0043】
ローラーボトル培養で達成し得る集団倍加数と、ローラーボトル培養での集団倍加速度と、ローラーボトル培養での最終採取細胞密度とを同時に最大化するのに役立つように調整した諸独立変数は、前記の個々の側面を最大化するために上記に詳述した諸独立変数(即ち、回転速度、ローラーボトルに入れる細胞の播種密度、培養時間、および、ローラーボトルに入れる培地の容量)と同一である。従属変数の最大応答を測定し、次いで、これらの独立パラメータの関数として計算した。
【0044】
前記4個の独立変数の関数として前記3個の従属変数を同時に最大化するのに役立つように、上述のとおり、回帰分析法、および、とりわけ応答曲面法(RSM)を利用した。
【0045】
例えば、好ましい具体例では、図4を参照して分かるように、諸ローラーボトルを、約100〜300mLの成長培地で充填し、好ましくは約300mLを使用する。それらのローラーボトルに、約2500〜約10,000細胞/cmで播種する。現在好ましい具体例では、その範囲の下端を使用する。例えば、播種は、約3000細胞/cm未満で行う。更にいっそう好ましいのは、播種を約2500細胞/cmで行う具体例である。他の具体例では、更に低い播種密度を使用する。付着および成長が行われる間、播種済みローラーボトルを、約0.5〜1rpmの間の速度で回転させる。図4を更に参照すれば、回転は、約0.6〜0.9rpmの間であることが好ましいことが分かる。それらのローラーボトルは、約0.68〜0.93rpmで回転させることがより好ましい。図4で分かるように、回転がほぼ0.85〜0.9rpmまたは約0.85〜0.9rpmである培養装置もまた、好ましい。
【0046】
ローラーボトル培養をさらに最適化するために、前記の充填し播種したローラーボトルを回転させて、約5〜7日間、好ましくは約5.5〜約6.5日の培養時間で培養する。図4は、約6日、例えば、5.9日、6.0日、6.1日または6.2日の間の培養もまた好ましいことを示している。
【0047】
現在好ましい培養装置において、図4に示される結果に基づき、諸独立変数は、集団倍加速度を最大化するパラメータの組として選択することができる。約300mLの充填容量の成長培地と、約2500細胞/cmの播種密度とを有するローラーボトル培養装置であって、約6.1日間の培養のために約0.7rpmの速度で回転するローラーボトル培養装置は、そのような装置で達成し得る細胞に対する最適な集団倍加速度と総集団倍加数と採取密度とを提供するであろう。
【0048】
本発明は、別の態様において、本発明の諸方法(例えば、前記の最大化された諸方法または最適化された諸方法)のいずれかによって産生される分娩後取り出し細胞、好ましくは臍帯由来細胞を提供する。様々な具体例において、それらの細胞は、細胞治療として使用される集団(populations)の状態で産生されるか、または、有用な細胞産物(cellular product)もしくは副産物(例えば、有用な細胞性因子、もしくはタンパク質)を提供するために産生される。
【0049】
本出願書類に記載される諸方法によって培養された細胞を含有する細胞治療用組成物も提供される。
【0050】
本発明の別の態様において、提供される前記の諸方法に従って培養される細胞は、出発細胞(starting cells)と実質的に同一の細胞表面マーカープロフィールまたは遺伝子発現プロフィールを有するものとして特徴付けられる。細胞に基づく治療法(cell-based therapies)の多くの用途のためには、培養条件を規模拡張して量を増大させるとき、細胞特性が変化しないことが重要である。例えば、形態、細胞表面マーカー、および、ホールマーク遺伝子(hallmark genes)の発現であって、治療用細胞を識別するのに役立つか、または治療用細胞を表示するのに役立つものは、全く同じではないにしても、実質的に変化しないままであることが望ましい。本発明によって提供される細胞、および本発明に教示される方法によって提供される細胞は、上記の諸特徴が、実質的に変化しないか、または、好ましくは、実験室条件および実験室規模の下で成長した同一の細胞と同一である。好ましい臍帯由来細胞は、当該細胞が成長する元となっている細胞の細胞表面マーカーのプロフィールと実質的に同一のものを保持する。本出願書類に提供される諸方法に従って産生された細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−αおよびHLA−ABCの表面マーカーの2個以上を発現することが好ましい。それらの細胞は、これらのマーカーの全てを発現することがより好ましい。また、細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141およびHLA−DRDPDQの表面マーカーの2個以上を発現しないことが好ましい。それらの細胞は、上記の表面マーカーのいずれも発現しないことがより好ましい。非常に好ましい具体例において、それらの細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、HLA−ABC、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141およびHLA−DRDPDQの各々に対して同一の細胞表面マーカーのプロフィールを発現する。更に、好ましい細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−αおよびHLA−ABCの発現に対しては陽性であるが、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141およびHLA−DRDPDQの発現に対しては陰性である。細胞系の細胞表面マーカーのプロフィールを評価するための幾つかの方法が存在するということを、当業者は認識するであろう。本明細書で使用されているように、蛍光標識された抗体を使用することによって、細胞表面マーカータンパク質を検出することができるならば、当該細胞は陽性であると判断され、また、蛍光抗体によって細胞表面マーカーを検出することができないならば、当該細胞はそのマーカーに対して陰性であると判断される。表6は、本発明に係る臍帯由来細胞に対する好ましい諸細胞表面マーカーの概要を提供する。
【0051】
同様に、本発明の方法に従って産生される細胞は、実質的に同一の、または全く同一の遺伝子発現プロフィールを保持することが好ましく、とりわけ、遺伝子の発現が細胞を特徴付けるのに役立つ当該遺伝子、またはその細胞系を示すホールマーク(hallmarks)として役立つ当該遺伝子についてはそうである。本発明に係る臍帯由来細胞は、レティキュロン(reticulon)、LDL−R、IL−8およびGAPDHの発現遺伝子で注目されている。提供される細胞は、これらの遺伝子を当該細胞が発現することに関し、様々な具体例において実質的に類似しているか、または、全く同一である。
【0052】
本発明のこれらの態様または他の態様は、諸添付図面および以下に記載される諸実施例を参照して更に記述される。当業者は、それらの実施例が本発明のほんの幾つかの態様を例示するために提供されているのであって、本発明を限定するものではないということをよく理解するであろう。
【0053】
<実施例1:培養条件の諸パラメータを決定するための最適化実験>
細胞:使用した細胞は、臍帯由来細胞系、ATCC受入番号PTA−6067および/またはPTA−6068、からのものである。
【0054】
培地:最適化実験の間に使用した成長培地は、低グルコース、ウシ胎仔血清15%、ペニシリン−ストレプトマイシン1%、および2−メルカプトエタノール1ppmを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)であった。
【0055】
ボトル:複数個の850cmボトル(例えば、コーニング社(Corning)カタログ番号430851)を使用した。
【0056】
ゼラチンコーティング:2%ゼラチン溶液20mLを、各々の850cmボトルに入れた。それらのボトルを、1rpmのローラー装置(roller system)に20分間置いた。過剰のゼラチン溶液を吸引によって除去し、次いで、それらのボトルをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)20mLで洗浄した。
【0057】
細胞の播種:凍結保存細胞からのP13臍帯022803細胞を極低温バイアル(cryogenic vial)から解凍し、次いで、洗浄してジメチルスルホキシド(DMSO)を除去した。300mL培地で予備充填された単一の850cmローラーボトルであって、CO5%、大気ガス95%を含有する圧縮空気で1分間、事前ガス処理されたローラーボトルの中に、細胞を播種した。
【0058】
培養:細胞を、37℃に設定された温度制御室の中で培養した。
【0059】
採取:培地を各々のローラーボトルから吸引によって除去し、次いで、付着細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)50mLで洗浄した。PBSを吸引によって除去し、次いで、トリプシン−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)10mLを添加して、当該ローラーボトルの表面から細胞が引き離されるのを助けた。ローラーボトルを、ローラー装置に戻し、次いで、0.75rpmで5分間培養した。培養の後、各々のボトルに培地40mLを加えた。細胞を含有する培地を、次いで、50mL円錐管(conical tube)に移し換え、次いで、300xgで5分間遠心分離した。遠心分離の後、当該培地を吸引によって除去し、次いで、各々の細胞ペレットを、培地10mLの中に再懸濁(re-suspended)させた。細胞を、ベックマン・コールター・セデックス計器(Beckman-Coulter Cedex instrument)を用いて計数した。
【0060】
統計モデル:ボックス・ベーンケン応答表面モデル(Box-Behnken Response Surface model)を用いた。
【0061】
実験計画および最適化は、ミニタブ(Minitab)14.0を用いて計算した。表1に、試験した諸パラメータを示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実験計画:表1に記載の実験は、上記手順に従って計画した。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
<実施例2:最適化された培養条件の妥当性確認(validation)>
細胞:使用した細胞は、CBAT050604B P6(継代6回目)として分類されている臍帯由来細胞であった。
【0070】
培地:妥当性確認の実験のために、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−低グルコース、ウシ胎仔血清15%、ペニシリン−ストレプトマイシン、2−メルカプトエタノールを使用した。
【0071】
ボトル:ボトルは、850cm培養ボトル(例えば、コーニング社カタログ番号430851)を使用した。
【0072】
ゼラチンコーティング:2%ゼラチン溶液20mLを、各々の850cmボトルに入れた。それらのボトルを、ローラー装置に20分間置いた。当該ゼラチン溶液を吸引によって除去し、次いで、各々のボトルをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)20mLで洗浄した。
【0073】
細胞の播種:5.0×10個のP9臍帯由来細胞(番号050604B)を単一の極低温バイアルから解凍し、次いで、洗浄してジメチルスルホキシド(DMSO)を除去した。300mL培地で予備充填された単一の850cmローラーボトルであって、CO5%、大気ガス95%を含有する圧縮空気で1分間、事前ガス処理されたローラーボトルの中に、細胞(2.12×10個)を播種した。
【0074】
培養:細胞を、37℃に設定された温度制御室の中で培養した。
【0075】
速度:0.7rpm
【0076】
継代:継代培地を、各々のローラーボトルから吸引によって除去し、次いで、付着細胞を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)50mLで洗浄した。PBSを吸引し、次いで、トリプシン−EDTA10mLを添加した。ボトルをローラー装置に戻し、次いで、0.75rpmで5分間培養した。培養の後、各々のボトルに培地40mLを加えた。細胞を含有する培地を、次いで、50mL円錐管に移し換え、次いで、300xgで5分間遠心分離した。遠心分離の後、当該培地を吸引によって除去し、次いで、各々の細胞ペレットを、培地10mLの中に再懸濁させた。細胞を、ベックマン・コールター・セデックス計器を用いて計数した。細胞を、ガス処理済みローラーボトルの中に約2500細胞/cmで播種した。
【0077】
<継代当りの細胞収量>
【表7】

【0078】
<実施例3:最適化培養条件で増殖された細胞の特徴付け>
細胞:特徴付け実験のために使用した細胞は、継代6回目の臍帯由来細胞(050604B P6)であった。
【0079】
成長培地:成長培地として、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−低グルコース、ウシ胎仔血清15%、ペニシリン−ストレプトマイシン、2−メルカプトエタノールを使用した。
【0080】
ボトル:850cm培養ボトル(例えば、コーニング社カタログ番号430851)。
【0081】
ゼラチンコーティング:2%ゼラチン溶液20mLを、各々の850cmボトルに入れた。それらのボトルを、ローラー装置に20分間置いた。当該ゼラチン溶液を吸引によって除去し、次いで、各々のボトルをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)20mLで洗浄した。
【0082】
細胞の播種:継代9回目の臍帯由来細胞(5.0×10個のP9)を単一の極低温バイアルから解凍し、次いで、洗浄してジメチルスルホキシド(DMSO)を除去した。300mL培地で予備充填された複数個の850cmローラーボトルであって、CO5%、大気ガス95%を含有する圧縮空気で1分間、事前ガス処理されたローラーボトルの中に、細胞(2.12×10個)を播種した。
【0083】
培養:細胞を、37℃に設定された温度制御室で培養した。
【0084】
速度:0.7rpm
【0085】
細胞の採取:培地を各々のボトルから吸引によって除去し、次いで、付着細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)50mLで洗浄した。PBSを吸引によって除去し、次いで、トリプシン−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)10mLを添加した。それらのボトルを、ローラー装置で0.75rpmで5分間培養した。培養の後、それらボトルに培地40mLを加えた。細胞を含有する培地を、次いで、50mL円錐管に移し換え、次いで、300xgで5分間遠心分離した。遠心分離の後、それらの培地を吸引によって除去し、次いで、各々の細胞ペレットを培地10mLの中に再懸濁させた。細胞を、ベックマン・コールター・セデックス計器を用いて計数した。
【0086】
フローサイトメトリー分析(Flow Cytometry Analysis)のための抗体染色:細胞を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に入れたウシ胎仔血清3%(v/v)の中に、1×10個/mLの細胞濃度に再懸濁させた。抗体を、製造者の仕様書のとおりに添加し、次いで、細胞と一緒に暗所で4℃で30分間、培養した。培養の後、細胞を、PBSで洗浄し、次いで、遠心分離を行って非結合抗体を除去した。細胞を、PBS500μLに再懸濁させ、次いで、フローサイトメトリーによって分析した。
【0087】
フローサイトメトリー分析:フローサイトメトリー分析を、ファックスキャリバー(FACScalibur)(ベクトン・ディキンソン・サンノゼ社(Becton Dickinson San Jose)、カリフォルニア州)計器を用いて行った。
【0088】
抗体:次の諸抗体を使用した。
【0089】
【表8】

【0090】
全RNAの分離:RNAを、製造者の仕様書(RNeasy・ミニ・キット(RNeasy Mini Kit);キアゲン社(Qiagen)、カリフォルニア州バレンシア(Valencia))に従い、RNeasy・ミニ・キットを用いて分離した。RNAを、DEPC処理済み水50μLで溶出し、次いで、−80℃で貯蔵した。
【0091】
逆転写:タクマン逆転写試薬(TaqMan reverse transcription reagents)(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City))と共にランダム・ヘキサマー(random hexamers)を使用して、25℃で10分間、37℃で60分間、および、95℃で10分間、RNAの逆転写を行った。諸試料を、−20℃で貯蔵した。リアルタイムPCRを使用して、「シグネチャー遺伝子(signature genes)」と称される遺伝子(酸化LDL受容体、インターロイキン−8、レニンおよびレティキュロン(reticulon))を更に詳細に調べた。
【0092】
リアルタイムPCR:PCRを、アッセイズ・オン・デマンド(Assays-on-Demand)(登録商標)遺伝子発現産物を使用してcDNA試料に対して行った。酸化LDL受容体(Hs00234028)、レニン(Hs00166915)、レティキュロン(Hs00382515)、CXCリガンド3(Hs00171061)、GCP−2(Hs00605742)、IL−8(Hs00174103)、およびGAPDH(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州フォスターシティー)を、ABIプリズム(prism)7000SDSソフトウェア(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州フォスターシティー)を備えた7000系列検出装置を使用し、製造者の取扱説明書(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州フォスターシティー)に従って、cDNAおよびタクマン・ユニバーサル・PCRマスター混合物(TaqMan Universal PCR master mix)と混合した。熱サイクル条件は、初期に50℃で2分間および95℃で10分間、次いで、95℃で15秒間および60℃で1分間を40サイクルであった。
【0093】
結果:
【表9】

【0094】
最適化ローラーボトル培養条件で増殖された細胞のリアルタイムPCR分析
【表10】

【0095】
<実施例4:セルバインド・ローラーボトル(CELLBIND ROLLER BOTTLES)における最適化培養条件の妥当性確認>
細胞:050604B P7
【0096】
培地:ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−低グルコース、ウシ胎仔血清15%、ペニシリン−ストレプトマイシン、2−メルカプトエタノール。
【0097】
ボトル:コーニング850cmボトル(カタログ番号430851)、セルバインド・コーニング850cmボトル(カタログ番号3907)。
【0098】
ゼラチンコーティング:2%ゼラチン溶液20mLを、複数個のコーニング850cmボトル(カタログ番号430851)に入れ、次いで、ローラー装置に20分間置く。当該ゼラチン溶液を吸引によって除去し、次いで、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)20mLで洗浄する。複数個のセルバインド・コーニング850cmボトルは被覆されない。
【0099】
細胞の播種:5.0×10個の継代9回目の臍帯由来細胞050604Bを単一の極低温バイアルから解凍し、次いで、洗浄してジメチルスルホキシド(DMSO)を除去した。300mL培地で予備充填された単一の850cmローラーボトルであって、CO5%、大気ガス95%を含有する圧縮空気で1分間、事前ガス処理されたローラーボトルの中に、2.12×10個の細胞を播種した。
【0100】
培養:細胞を、37℃に設定された温度制御室で培養した。
【0101】
速度:0.7rpm
【0102】
継代:継代培地を、各々のローラーボトルから吸引によって除去し、次いで、付着細胞を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)50mLで洗浄した。PBSを吸引し、次いで、トリプシン−EDTA10mLを添加した。ボトルをローラー装置に戻し、次いで、0.75rpmで5分間培養した。培養の後、それらのボトルに培地40mLを加えた。細胞を含有する培地を、次いで、50mL円錐管に移し換え、次いで、300xgで5分間遠心分離した。遠心分離の後、当該培地を吸引によって除去し、次いで、各々の細胞ペレットを、培地10mLの中に再懸濁させた。細胞を、ベックマン・コールター・セデックス計器を用いて計数した。細胞を、ガス処理済みローラーボトルの中に2500細胞/cmで播種した。
【0103】
結果:
【表11】

【0104】
本発明は、上記に記述され例示される諸具体例に限定されず、添付特許請求の範囲内で変形および変更を行うことができる。
【0105】
〔実施の態様〕
(1)ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加数を最大化する方法において、
少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で少なくとも約100mLの培地容量を使用することと、
約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
少なくとも約5.5日間培養することと、
を含む、方法。
(2)実施態様1に記載の方法において、
前記回転速度は、約1rpmであり、前記培地容量は、850cm培養ボトルの中で約112mLであり、前記培養時間は、約6.2日である、方法。
(3)実施態様1に記載の方法において、
結果的に約3回の集団倍加となる、方法。
(4)実施態様1に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
(5)実施態様4に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
(6)ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加速度を最大化する方法において、
少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、
約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
約6日間よりも短い間培養することと、
を含む、方法。
(7)実施態様6に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.93rpmであり、前記培養時間は、約5.5日間よりも短い、方法。
(8)実施態様6に記載の方法において、
前記集団倍加の時間は、約30時間より短い、方法。
(9)実施態様6に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
(10)実施態様9に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
【0106】
(11)ローラーボトル培養装置で分娩後取り出し細胞を採取する時の細胞密度を最大化する方法において、
約0.5〜1rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、
約10,000細胞/cmの播種密度を使用することと、
約5.5〜6.7日間にわたって培養することと、
を含む、方法。
(12)実施態様11に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.98rpmであり、前記培養時間は、約6.7日間である、方法。
(13)実施態様11に記載の方法において、
前記細胞密度は、少なくとも約3×10細胞/cmである、方法。
(14)実施態様11に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
(15)実施態様14に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
(16)ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の集団倍加速度と採取密度と総集団倍加数とを同時に最大化する方法において、
約0.65〜0.9rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で少なくとも約300mLの成長培地を使用することと、
約2,500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
約5.5〜6.5日間にわたって培養することと、
を含む、方法。
(17)実施態様16に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.7rpmであり、前記培養時間は、約6〜6.3日間である、方法。
(18)実施態様16に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.85rpmであり、前記培養時間は、約6〜6.3日間である、方法。
(19)実施態様16に記載の方法において、
集団倍加時間は、約39時間よりも短く、前記集団は、少なくとも約3回倍加(about 3 doublings)し、採取時の前記細胞密度は、少なくとも約1.8×10細胞/cmである、方法。
(20)実施態様16に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
(21)実施態様20に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】最大集団倍加数(3.04)を達成するための、計算された最適な回転速度(1.0rpm)、培地容量(112mL)、播種密度(2,500細胞/cm)および培養日数(6.27日)である。各々のグラフの黒い線は、(x軸に沿った下端(low)から上端(high)までの)因子の水準に対する(y軸に沿った最小から最大までの)集団倍加数のプロット値を表している。青い線は、4つのグラフ全てについて、個々のy軸の最大値を表している。赤い線は、x軸上の点であって、因子の水準に対する集団倍加数のプロット値(黒い線)が個々のy軸の最大値(青い線)と交差し、したがって、因子の最適水準を明示する点を表している。
【図2】集団倍加当りの最短時間(29.71)を達成するための、計算された最適の回転速度(0.92rpm)、培地容量(300mL)、播種密度(2,500細胞/cm)および培養日数(5日)である。各々のグラフの黒い線は、(x軸に沿った下端から上端までの)因子の水準に対する(y軸に沿った最小から最大までの)集団倍加当りの時間のプロット値を表している。青い線は、4つのグラフ全てについて、個々のy軸の最大値を表している。赤い線は、x軸上の点であって、因子の水準に対する集団倍加当りの時間のプロット値(黒い線)が個々のy軸の最小値(青い線)と交差し、したがって、因子の最適水準を明示する点を表している。
【図3】最大採取密度(細胞/cm)(3.59×10個)を達成するための、計算された最適な回転速度(0.98rpm)、培地容量(300mL)、播種密度(10,000細胞/cm)および培養日数(6.67日)である。各々のグラフの黒い線は、(x軸に沿った下端から上端までの)因子の水準に対する(y軸に沿った最小から最大までの)採取密度のプロット値を表している。青い線は、4つのグラフ全てについて、個々のy軸の最大値を表している。赤い線は、x軸上の点であって、因子の水準に対する最大採取密度のプロット値(黒い線)が個々のy軸の最大値(青い線)と交差し、したがって、因子の最適水準を明示する点を表している。
【図4】最小の時間/集団倍加(38.07時間)、最大集団倍加数(3.17)および最大採取密度(細胞/cm)(1.8×10個)を達成するための、計算された最適な回転速度(0.705rpm)、培地容量(300mL)、播種密度(2,500細胞/cm)および培養日数(6.1日)である。各々のグラフの黒い線は、(x軸に沿った下端から上端までの)因子の水準に対する(y軸に沿った最小から最大までの)応答値のプロット値を表している。青い線は、4つのグラフ全てについて、個々のy軸の最大値または最小値を表している。赤い線は、x軸上の点であって、因子の水準に対する応答値のプロット値(黒い線)が、集団倍加数および採取密度の個々のy軸の最大値(青い線)、ならびに集団倍加当りの時間のy軸の最小値(青い線)と交差し、したがって、因子の最適水準を明示する点を表している。
【図5】最適化ローラーボトル培養条件の下、継代6代目から継代9代目までに増殖した臍帯細胞系050604Bの培養日数に対する集団倍加数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加数を最大化する方法において、
少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で少なくとも約100mLの培地容量を使用することと、
約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
少なくとも約5.5日間培養することと、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記回転速度は、約1rpmであり、前記培地容量は、850cm培養ボトルの中で約112mLであり、前記培養時間は、約6.2日である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
結果的に約3回の集団倍加となる、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
【請求項6】
ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の培養株の集団倍加速度を最大化する方法において、
少なくとも約0.85rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、
約2500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
約6日間よりも短い間培養することと、
を含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.93rpmであり、前記培養時間は、約5.5日間よりも短い、方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、
前記集団倍加の時間は、約30時間より短い、方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
【請求項11】
ローラーボトル培養装置で分娩後取り出し細胞を採取する時の細胞密度を最大化する方法において、
約0.5〜1rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で約300mLの成長培地を使用することと、
約10,000細胞/cmの播種密度を使用することと、
約5.5〜6.7日間にわたって培養することと、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.98rpmであり、前記培養時間は、約6.7日間である、方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法において、
前記細胞密度は、少なくとも約3×10細胞/cmである、方法。
【請求項14】
請求項11に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。
【請求項16】
ローラーボトル培養装置での分娩後取り出し細胞の集団倍加速度と採取密度と総集団倍加数とを同時に最大化する方法において、
約0.65〜0.9rpmの回転速度を使用することと、
850cm培養ボトルの中で少なくとも約300mLの成長培地を使用することと、
約2,500細胞/cm未満の播種密度を使用することと、
約5.5〜6.5日間にわたって培養することと、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.7rpmであり、前記培養時間は、約6〜6.3日間である、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、
前記回転速度は、約0.85rpmであり、前記培養時間は、約6〜6.3日間である、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法において、
集団倍加時間は、約39時間よりも短く、前記集団は、少なくとも約3回倍加し、採取時の前記細胞密度は、少なくとも約1.8×10細胞/cmである、方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、臍帯由来細胞である、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、
前記分娩後取り出し細胞は、ATCC番号PTA−6067およびPTA−6068である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−519728(P2009−519728A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547732(P2008−547732)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/062315
【国際公開番号】WO2007/073552
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(507209506)エシコン・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Ethicon Incorporated
【住所又は居所原語表記】Rt. 22 West,P.O.Box 151,Somerville,NJ 08876−0151 United States of America
【Fターム(参考)】