説明

ロールプレス装置

【課題】プレスローラによるプレス時に、電極のうねりや湾曲、無地部分の皺発生を抑制することができるロールプレス装置を提供する。
【解決手段】ロールプレス装置20は、シート状電極1の活物質層を所定の密度に加圧調整する一対のヒートローラ2、3(プレスローラ)を備えており、ヒートローラ2、3のシート状電極1の搬送方向上流側手前に、全幅に亘ってシート状電極1を予備加熱する遠赤外線ヒータが配置されている。ヒートローラ2、3の直前でシート状電極1の表面温度が略均一となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロールプレス装置に係り、特に、一対の加熱機能付きプレスローラを備えた電池用電極のロールプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン電池の電極を作製する場合には、一般に、厚さ約15μm程度のアルミニウムや銅の金属箔の基材(集電体)上に、約50μm〜200μm程度の正極用又は負極用の活物質層を塗着し、乾燥させてシート状の電極を形成する。
【0003】
活物質層は、塗着のみでは乾燥時の空隙により密度が低く、電池形成時に十分な電池容量を確保することができない。このため、乾燥後の電極はシート状のまま熱間或は冷間(常温)ロールプレス装置で圧縮加工が施される(例えば、特許文献1参照)。ここで用いられる熱ロールプレスは、約100〜120°C程度の温度で圧縮されるが、活物質層に熱を奪われるため、予熱ローラと称される予備の加温用のローラを一対のプレスローラの上流側に配置し、活物質層を予熱する方式が採られている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−44539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のロールプレス装置での予熱ローラによる予熱では、実際には、電極の幅方向での予熱が均一には行われない。具体的には、図2の符号a、b、cは予熱ローラ4、5通過後のシート状電極1の温度分布状態を模式的に示しているが、温度の高い順にa>b>cのような温度分布となる。このため、プレス後のシート状電極の密度分布、伸びの状態が不均一になり、シート状電極にうねりや歪曲が発生する。特に、活物質層がストライプ状に塗着されたシート状電極では、基材の伸びが不均一のため、無地部分に皺11が発生し、最悪の場合亀裂となりシート状電極の破断が生ずる場合がある。
【0006】
本発明は上記事案に鑑み、プレスローラによるプレス時に、電極のうねりや歪曲、無地部分の皺発生を抑制することができるロールプレス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、一対の加熱機能付きプレスローラを備えた電池用電極のロールプレス装置において、前記プレスローラの前記電極の搬送方向上流側手前に、全幅に亘って前記電極を予備加熱するヒータを配置したことを特徴とする。
【0008】
本発明において、ヒータで予備加温された電極の表面温度が、プレスローラにより加熱プレスされたときの表面温度に対し、温度差が20°C以内となるようにヒータの加熱温度が設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プレスローラの電極の搬送方向上流側手前に、全幅に亘って電極を予備加熱するヒータを配置したので、ヒータで予備加熱された電極の温度分布が、プレスローラの直前で、電極幅方向に略均一な温度分布となり、プレスローラによる電極の加熱プレス時に電極のうねり、歪曲または無地部分の皺発生を抑制することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係るロールプレス装置の実施の形態について説明する。
【0011】
(構成)
本実施形態のロールプレス装置は、電極供給ロール側から供給されたシート状電極を一対のヒートローラで加熱しながら加圧(プレス)して電極を構成する活物質層の密度を高め、プレス後の電極を電極巻取ロールに巻き取る態様のものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のロールプレス装置20は、プレスローラとしての一対のヒートローラ2、3を備えている。ヒートローラ2、3は駆動ローラであり、軸心の周りにヒートランプやニクロム線等の熱源を内蔵している。ヒートローラ2、3間は油圧力で規制され、シート状電極1が熱間で加圧される構造が採られている。
【0013】
シート状電極1には、以下のようなリチウムイオン電池用電極が用いられるが、本発明はこれに制限されるものではない。正極用電極には、例えば、リチウムマンガン複酸化物を正極活物質とし、導電剤と結着剤とを添加し、これに分散溶媒を添加、混練してスラリを作製しておき、得られたスラリを厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に均一に塗布して正極活物質層を形成した後、乾燥させたフープ状の電極を用いることができる。一方、負極用電極には、例えば、非晶質炭素を負極活物質とし、結着剤を添加し、これに分散溶媒を添加、混練してスラリを作製しておき、得られたスラリを厚さ10μmの圧延銅箔(集電体)の両面に均一に塗布して負極活物質層を形成した後、乾燥させたフープ状の電極を用いることができる。
【0014】
本実施形態では、量産性を高めるために(2つ分のフープ状の電極を得るために)、幅方向両側および幅方向中央に両面とも活物質が塗布されない未塗布部(以下、無地部分という。)を形成したストライプ状の電極が用いられている。この電極が上述した電極供給ロールとしてロールプレス装置20に装着される。
【0015】
ヒートローラ2、3のシート状電極1の搬送方向(図1の矢印参照)上流側には、ヒートローラ2、3でシート状電極1を加熱、加圧する前にシート状電極1に予熱を付与するための一対の予熱ローラ4、5が配設されている。予熱ローラ4、5も駆動ローラであり、軸心の周りに熱源を内蔵している。
【0016】
本実施形態のロールプレス装置20の特徴は、予熱ローラ4、5のシート状電極1の搬送方向下流側であって、ヒートローラ2、3のシート状電極1の搬送方向上流側手前(直前)に、搬送されるシート状電極1を全幅に亘って非接触状態で予備加熱するヒータとしての予熱炉9が配置されていることである。予熱炉9は、中央にシート状電極1が搬送可能な中空部が形成された箱状を呈しており、遠赤外線ヒータを内蔵している。このため、予熱ローラ4、5で予熱され搬送されるシート状電極1(の両面)は、ヒートローラ2、3の直前で、シート状電極1の温度分布が幅方向で略均一となる。
【0017】
電極供給ロール(不図示)および予熱ローラ4、5間、予熱ローラ4、5および予熱炉9間、並びに、ヒートローラ2、3および電極巻取ロール(不図示)との間には、それぞれ、シート状電極1の搬送角度を調整して案内するためのガイドローラ6、7、8(従動ローラ)が配設されている。
【0018】
なお、ロールプレス装置20は、図示しないモータを備えており、このモータがギア、ベルト等で構成される駆動伝達機構を介して、ヒートローラ2、3、予熱ローラ4、5および電極巻取ロールの軸心に駆動力を供給している。
【0019】
(動作)
次に、本実施形態のロールプレス装置20の動作について、予熱炉9を欠く従来のロールプレス装置と比較しつつ説明する。
【0020】
まず、ロールプレス装置20の全体動作について説明すると、電極供給ロール側から供給されたシート状電極1は、ガイドローラ6で搬送方向を変え、予熱ローラ4、5で予熱(例えば、120°C)され、ローラガイド7で再度搬送方向を変え、予熱炉9により(ヒートローラ2、3の直前で、換言すれば、予熱炉9の出口で)シート状電極1の温度分布が幅方向で略均一となるように(例えば、120°Cで)予熱され、ヒートローラ2、3で加熱(例えば、120°C)、加圧されて所望の密度が確保され、ガイドローラ8で搬送方向をさらに変えて電極巻取ロール側に巻き取られる。
【0021】
活物質層がストライプ状に塗着されたシート状電極1は、ヒートローラ2、3で加熱、加圧される前に、例えば、120°Cに加温された予熱ローラ4、5で、表裏面が加温される。この加温されたシート状電極1は、予熱ローラ4、5からヒートローラ2、3に搬送される際に搬送路上で若干冷却される。図2に示すように、このときのシート状電極1表面の温度分布は、高温側からa>b>cの順になる。特に、本実施形態のように活物質層がストライプ状に塗着されたシート状電極1では、温度分布が双山型の様相を示し、シート状電極1の幅方向中央の無地部分11は、その両側の活物質層部分10に比べ、温度低下が大きくなる。シート状電極1がヒートローラ2、3で加圧されるとき、シート状電極1の無地部分11は、両側の活物質層部分10よりも薄いため加圧はされずに、ヒートローラ2、3による再加熱のみが作用する。この再加熱により無地部分11には伸びが発生するが、両側の活物質層部分10には加圧力が働くため無地部分11の伸びは縦皺となって現れる(図2参照)。無地部分11に皺の発生したシート状電極1は、電極巻取ロールで巻き取る際に亀裂が発生し電極破断を生じさせる。また、シート状電極1にうねりや歪曲を発生させる原因となる。
【0022】
これに対し、本実施形態のロールプレス装置20では、ヒートローラ2、3の加熱、加圧により発生するシート状電極1のうねり、湾曲、皺を防止するために、ヒートローラ2、3の手前に、シート状電極1を全幅に亘って略均一な温度に予備加熱する予熱炉9が配置されている。このため、本実施形態のロールプレス装置20によれば、無地部分11に皺が発生せず、また、シート状電極1にうねりや歪曲も発生しない。
【0023】
(試験)
次に、本実施形態のロールプレス装置20の予熱炉9の加熱温度を設定するために行った試験について説明する。
【0024】
この試験では、ヒートローラ2、3および予熱ローラ4、5の温度をともに120°Cに設定し、予熱炉9の設定温度を、80°Cから120°Cの間で10°Cずつ5段階に変化させて、シート状電極1の中央の無地部分11の皺発生状況を観察した。試験結果を下表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、ヒートローラ2、3による加熱、加圧の直前で電極表面温度が均一となるようにシート状電極1を予熱炉9で加熱することにより、活物質層がストライプ状に塗着されたシート状電極1において、無地部分11への皺発生を抑止できる。また、皺を抑止するためには、ヒートローラ2、3とシート状電極の表面温度との温度差は、少なくとも20°C以内であり、10°C以内であることがより望ましい。
【0027】
(効果等)
本実施形態のロールプレス装置20では、ヒートローラ2、3のシート状電極1の搬送方向上流側手前に、搬送されるシート状電極1を全幅に亘って予備加熱するヒータとしての予熱炉9が配置されている。このため、シート状電極1の活物質層プレス工程において、プレス時のうねりや湾曲、或は無地部分の皺発生を抑止でき、電極品質を飛躍的に向上させることができる。特に、活物質層がストライプ状に塗着されたシート状電極においては、従来、無地部分での皺発生のため非常に困難であった広幅の熱プレスが、比較的容易に実現可能となり、量産性が格段に向上する。
【0028】
なお、本実施形態では、シート状電極にリチウムイオン電池用電極、シート状電極の作製方法、加熱炉9に遠赤外線ヒータをそれぞれ例示したが、本発明がこれらに制限されないことは論を待たない。また、ヒートローラ、予熱ローラ、予熱炉の温度(120°C)を例示したが、これらはシート状電極の所望密度やロールプレス装置20のシート状電極の搬送速度等との関係で設定されるものであり、本発明が例示した温度に限るものでないことは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明はプレスローラによるプレス時に、電極のうねりや湾曲、無地部分の皺発生を抑制することができるロールプレス装置を提供するものであり、このロールプレス装置で製造された電極は品質、量産性に優れるため、ロールプレス装置の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のロールプレス装置の要部を示す外観斜視図である。
【図2】従来のロールプレス装置の要部を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
2 ヒートローラ(プレスローラの一部)
3 ヒートローラ(プレスローラの一部)
9 予熱炉(ヒータ)
20 ロールプレス装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の加熱機能付きプレスローラを備えた電池用電極のロールプレス装置において、前記プレスローラの前記電極の搬送方向上流側手前に、全幅に亘って前記電極を予備加熱するヒータを配置したことを特徴とするロールプレス装置。
【請求項2】
前記ヒータで予備加温された前記電極の表面温度が、前記プレスローラにより加熱プレスされたときの表面温度に対し、温度差が20°C以内となるように前記ヒータの加熱温度が設定されたことを特徴とする請求項1に記載のロールプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−245788(P2009−245788A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91753(P2008−91753)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】