説明

ロール矯正装置

【課題】 千鳥型と対向型との両方を兼ねるもので、千鳥型と対向型との変更が容易で、安価なコストで製造できるようにしたロール矯正装置を提供するものである。
【解決手段】 対の上部ロールと下部ロールを奇数組備える。材料10の挿入側から2番目の下部ロール22から奇数個の中央の下部ロール24までの複数の下部ロール22,23,24を上下方向と左右方向に移動可能とし、その他の上部ロール11,12,13,14,15,16,17と下部ロール21,25,26,27を上下方向にのみ移動可能とする。これによって、千鳥型のロール矯正装置と対向型のロール矯正装置とに変更することができ、その変更を容易にすることができ、安い製造コストで装置を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料を真直に矯正するためのロール矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上下に対のロールを複数例配置して、上下のロールの間に材料を通過させることで、真直度を出すロール矯正装置が従来から知られている。材料は回転させないで通過させる場合と、回転させながら通過させる場合とがある。矯正装置の種類としては、ロールの配列の仕方によって、千鳥型と対向型に大別されている。
【0003】
先ず、千鳥型のロール矯正装置を図5に基づいて説明する。千鳥型のロール矯正装置は、例えば7個の上部ロール51,52,53,54,55,56,57と7個の下部ロール61,62,63,64,65,66,67とを備えるものとする。パイプ等の材料10を挿入する入口側の1対の上部ロール51と下部ロール61とが同一鉛直線上に配置され、更に出口側の3対の上部ロール55,56,57と下部ロール65,66,67とが同一鉛直線上に配置される。3個の上部ロール55,56,57は同一高さに設定され、3個の下部ロール65,66,67は同一高さに設定される。入口側(入口側を1番目とする)に近い2〜4番目の上部ロール52,53,54と2〜4番目の下部ロール62,63,64とが千鳥状(水平方向に上部ロールと下部ロールとが交互に異なる位置)に配置される。2〜4番目の上部ロール52,53,54は、他の上部ロール51,55,56,57よりコンマ何ミリか下方に配置し、2〜4番目の下部ロール62,63,64は、他の下部ロール61,65,66,67よりコンマ何ミリか上方に配置する。
【0004】
材料10は、入口側(1番目)の上部ロール51と下部ロール61との間から、出口側(7番目)の上部ロール57と下部ロール67との間に向けて移動させられる。千鳥状に配置した上部ロール52,53,54と下部ロール62,63,64を通過した後、同一鉛直線上に配置した3対の上部ロール55,56,57と下部ロール65,66,67を通過することで、材料10が真直に矯正される。この千鳥型のロール矯正装置は、真円度が良いとうメリットがあるが、その反面加工ひずみが大きいというデメリットがある。
【0005】
次に、対向型のロール矯正装置を図6に示す。対向型のロール矯正装置は、特許文献1に示されており、例えば7個の上部ロール71,72,73,74,75,76,77と7個の下部ロール81,82,83,84,85,86,87とを備えるものとする。この対向型のロール矯正装置では、7組全ての上下対の上部ロール71,72,73,74,75,76,77と下部ロール81,82,83,84,85,86,87とが同一鉛直線上に配置される。7組の上下対の上部ロールと下部ロールは、中央の上下対のロールを頂点とする左右対象の山形の形状に配置する。この対向型の矯正装置は、加工ひずみが小さいというメリットがあるが、真円度が悪いというデメリットがある。
【0006】
【特許文献1】特開平8−24752
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
千鳥型と対向型は、真円度と加工ひずみについて互いに背反するメリット・デメリットを有する。このため、矯正する材料に応じて、業者は千鳥型の矯正装置と対向型の矯正装置との2種類の機械を用意する必要があった。2種類の矯正装置を用意することで、工場施設内におけるスペースが必要となり、しかもコストが高くなるという欠点があった。
【0008】
これに対して、全ての上下対のロールを上下方向及び左右方向に移動自由にできるようにすることで、1台のロール矯正装置で、千鳥型と対向型とを兼用できることが考えられた。このロール矯正装置では、千鳥型と対向型の2台の機械を用意する必要がないため、工場施設内における占有スペースを1台分とすることが可能となる。
【0009】
しかし、全ての上下対のロール(合計14個のロール)を上下方向及び左右方向に移動自由にするロール矯正装置では、2種類のロール矯正装置を備える場合と比べてコストが低減できるが、上下方向並びに左右方向の移動手段が多いため、それ程のコスト低減ができない。また、千鳥型と対向型との間で互いに変更する際に、合計14個のロールを上下方向と左右方向とにそれぞれ位置を変更しなければならないため、その変更にかなりの時間がかかり、生産効率が悪いものであった。
【0010】
本発明は、千鳥型と対向型との両方を兼ねるもので、千鳥型と対向型との変更が容易で、安価なコストで製造できるようにしたロール矯正装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るロール矯正装置は、対の上部ロールと下部ロールを奇数組備え、材料を前記上部ロールと下部ロールとの間に挿通させて材料を矯正させるロール矯正装置において、材料の挿入側から2番目のロールから奇数個の中央のロールまでの上部ロール側か下部ロール側の一方側における複数のロールを上下方向と左右方向に移動可能とし、上下方向と左右方向に移動可能な前記複数のロールと入口側の上部ロール並びに下部ロールと出口側の上部ロール並びに下部ロールとを除いた上部ロールと下部ロールとを上下方向にのみ移動可能としたことを特徴とするものである。本発明は、前記入口側の上部ロール並びに下部ロールと前記出口側の上部ロール並びに下部ロールを上下方向にのみ移動可能としたことを特徴とするものである。本発明は、上下方向と左右方向に移動可能な前記複数のロールがそれぞれ回転軸を有し、複数の回転軸を挿通させその複数の回転軸を上下方向に移動可能とする長穴を形成する支持部材とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
全ての上部ロールと下部ロールのうち、上下方向と左右方向の両方の方向に移動可能なロールの数を、材料の挿入側から2番目のロールから奇数個の中央のロールまでの上部ロール側か下部ロール側の一方側に複数のロールのみとし、その他のロールのうちの入口側と出口側のロールとを除いたものを上下方向にのみ移動可能とすることで、対向型と千鳥型との両方に短時間で変更することができ、安いコストでロール矯正装置を製造することができる。また、上下方向と左右方向の両方の方向に移動可能な複数のロールのシャフトを支持手段で支持をして、その支持手段を移動させることで複数のロールを個別に調整することなく、横方向に容易に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るロール矯正装置の概略構成図である。本発明では、上下5対以上の奇数組のロールを用いる。この実施例では、上下7組の対のロールを用いる。7個の上部ロールを上部ロール11,12,13,14,15,16,17をとし、7個の下部ロールを下部ロール21,22,23,24,25,26,27とする。材料10の入口側(1番目)を上部ロール11と下部ロール21とし、材料10の出口側(7番目)を上部ロール17と下部ロール27とする。本発明では、7個の上部ロール11,12,13,14,15,16,17をそれぞれ回転させるための回転手段とその回転手段を移動させるための移動手段手段と、7個の下部ロール21,22,23,24,25,26,27をそれぞれ回転させるための回転手段とその回転手段を移動させるための移動手段手段とを備えているが、それらの回転手段と移動手段は既知のため図示を省略する。
【0014】
7個の上部ロール11,12,13,14,15,16,17は、上下方向にのみ移動可能とし、左右方向に移動しないものとする。なお、入口側の上部ロール11と出口側の上部ロール17は上下方向に移動しないように(即ち、上下方向にも左右方向にも移動しないように)設定しても良い。5個の上部ロール12,13,14,15,16の互いの間隔はそれぞれ同一のXとする。また、入口側の上部ロール11とその隣の上部ロール12との間の間隔をYとし、出口側の上部ロール17とその隣の上部ロール16との間の間隔をYとする。間隔Yは間隔Xよりも長い距離に設定する。
【0015】
7個の下部ロールのうち、下部ロール21,25,26,27を上部ロール11,15,16,17と同一鉛直線上に配置する。これら下部ロール21,25,26,27は、上下方向にのみ移動可能とし、左右方向に移動しないものとする。なお、入口側の下部ロール21と出口側の下部ロール27は上下方向に移動しないように(即ち、上下方向にも左右方向にも移動しないように)設定しても良い。
【0016】
7個の下部ロールのうち、残り3個の下部ロール22,23,24は、上下方向にも左右方向にも移動できるように設定する。即ち、7個の下部ロールのうち、2番目の下部ロール22から真中に位置する下部ロール24までの3個の下部ロール22,23,24を、上下方向にも左右方向にも移動できるように設定する。ここで、図1に示す実施例では、7個の下部ロールでは、3個の下部ロール22,23,24が上下方向にも左右方向にも移動できるようにしたが、5個の下部ロールでは2番目の下部ロールから真中の下部ロールまでの2個の下部ロールが上下方向にも左右方向にも移動できるようにし、9個の下部ロールでは、2番目の下部ロールから真中の下部ロールまでの4個の下部ロールが上下方向にも左右方向にも移動できるようにする。
【0017】
次に、本発明を使用して対向型のロール矯正装置にする場合について説明する。7組の上部ロールと下部ロールのうち、上部ロール11,15,16,17と下部ロール21,25,26,27とが同一鉛直線上に配置されており、それら全てのロールが左右方向に移動しないように設定されている。残りの3組のうち上部ロール12,13,14は左右方向に移動しないように設定されているが、下部ロール22,23,24は左右方向に移動可能となっているため、下部ロール22,23,24を左右方向に移動させて、下部ロール22,23,24を上部ロール12,13,14と同一鉛直線上に配置させる。これによって、7組全ての上部ロール11,12,13,14,15,16,17と下部ロール21,22,23,24,25,26,27とがそれぞれ同一鉛直線上に配置する。
【0018】
その後、入口側の上部ロール11と出口側の上部ロール17とを同一の高さに設定し、上部ロール11と上部ロール17との間にある5個の上部ロール12,13,14,15,16の高さを中央が高くなり左右対称の山形となるようにそれらの高さを設定する(図2)。最高の高さとなる中央の上部ロール14の高さは、両端の上部ロール11,17の高さより一般には数ミリ程度高く設定される。これと同様に、入口側の下部ロール21と出口側の下部ロール27とを同一の高さに設定し、下部ロール21と下部ロール27との間にある5個の下部ロール22,23,24,25,26の高さを中央が高くなるような左右対称の山形となるようにそれらの高さを設定する(図2)。最高の高さとなる中央の下部ロール24の高さは、両端の下部ロール21,27の高さより一般には数ミリ程度高く設定される。同一鉛直線上に配置されている上下1組の間隔は、材料10を挿通できる間隔に設定する。このように、それぞれの上部ロールと下部ロールとを移動させることによって、対向型のロール矯正装置とすることができる。これら上部ロール11,12,13,14,15,16,17と下部ロール21,22,23,24,25,26,27との間に材料10を通過させることによって、材料10を真直に矯正することができる。
【0019】
次に、対向型から千鳥型へのロール矯正装置への変更について説明する。初期状態として、7組全ての上部ロール11,12,13,14,15,16,17と下部ロール21,22,23,24,25,26,27とがそれぞれ同一鉛直線上に配置されており、しかも全ての上部ロールの高さが同一高さで、かつ全ての下部ロールの高さが同一高さとなっている状態とする(図1)。この図1の状態から、左右に移動可能な3個の下部ロール22,23,24を、それらの間の等間隔Xを保持しながら、入口側の下部ロール21に向けて(図で左側)に移動させる(図3)。
【0020】
3個の下部ロール22,23,24を、入口側の下部ロール21側に移動させた図3の状態では、水平方向において、下部ロール22は上部ロール11と上部ロール12との間に位置し、下部ロール23は上部ロール12と上部ロール13との間に位置し、下部ロール24は上部ロール13と上部ロール14との間に位置する。その後、下部ロール22,23,24を所定の高さだけ上方に移動させ、上部ロール12,13,14を所定の高さだけ下方へ移動させる。下部ロール22,23,24や上部ロール12,13,14の所定の高さは、コンマ数ミリ程度のものである。図3の状態から、下部ロール22,23,24と上部ロール12,13,14とを上下方向に移動させることで、千鳥型のロール矯正装置にすることができる。これら上部ロール11,12,13,14,15,16,17と下部ロール21,22,23,24,25,26,27との間に材料10を通過させることによって、材料10を真直に矯正することができる。
【0021】
以上のように、本発明では、対向型と千鳥型とのどちらのロール矯正装置にも適用できるようにするために、全ての上部ロールと全ての下部ロールとを上下方向に移動させる(入口側と出口側の上部ロールと下部ロールとは上下方向に移動しない場合もあり得る)が、水平方向に移動させるものを3個の下部ロール22,23,24のみとしたものである。このように、水平方向に移動させるロールを少ない数に限定して、対向型と千鳥型との両方のロール矯正装置を作ることができるので、製造コストを低減でき、工場のロール矯正装置の設置面積も少なくできるものである。
【0022】
次に、図4において、下部ロール22,23,24を左右方向にまとめて移動させる構造について説明する。下部ロール22,23,24は、それぞれ回転軸32,33,34を有し、その回転軸32,33,34は支持部材40に形成される穴42,43,44に挿通されている。穴42と穴43との水平方向の間隔と、穴43と穴44との水平方向の間隔はXに設定する。これら穴42,43,44は上下方向に長く形成されており、回転軸32,33,34は上下方向に移動できるように設定されている。また、この支持部材40には、下部ロールを22,23,24の各回転手段(図示せず)を移動させるための移動手段が固定されている。対向型と千鳥型との相互に変更する場合には、支持部材40を図示しない移動手段で移動させるだけで、下部ロール22,23,24を左右方向に移動させることができ、それぞれの下部ロール22,23,24の左右方向の位置調整を行う必要がない。これによって、対向型と千鳥型との相互の変更が容易に行える。なお、支持部材40を用いた例を示したが、この支持部材40は必ずしも用いなくても良い。
【0023】
前述の実施例においては、下部ロール22,23,24を左右方向に移動させたが、下部ロール22,23,24に代えて上部ロール12,13,14を左右方向に移動させるようにしても良い。また、前述の実施例では7組の上部ロールと下部ロールとを用いたが、5組や9組以上の奇数組であっても良い。奇数組としたのは対向型の場合に、中央の1組を頂点とするためである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るロール矯正装置の概略構成図である。
【図2】本発明におけるロール矯正装置を対向型のロール矯正装置にした状態を示す概略構成図である。
【図3】本発明におけるロール矯正装置において一部のロールを図2の状態かた移動した状態を示す要部拡大図である。
【図4】本発明におけるロール矯正装置を千鳥型のロール矯正装置にした状態を示す概略構成図である。
【図5】従来既知の千鳥型のロール矯正装置の概略構成図である。
【図6】従来既知の対向型のロール矯正装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
10 材料
11,12,13,14,15,16,17 上部ロール
21,22,23,24,25,26,27 下部ロール
32,33,34 回転軸
40 支持部材
42,43,44 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対の上部ロールと下部ロールを奇数組備え、材料を前記上部ロールと下部ロールとの間に挿通させて材料を矯正させるロール矯正装置において、材料の挿入側から2番目のロールから奇数個の中央のロールまでの上部ロール側か下部ロール側の一方側における複数のロールを上下方向と左右方向に移動可能とし、上下方向と左右方向に移動可能な前記複数のロールと入口側の上部ロール並びに下部ロールと出口側の上部ロール並びに下部ロールとを除いた上部ロールと下部ロールとを上下方向にのみ移動可能としたことを特徴とするロール矯正装置。
【請求項2】
前記入口側の上部ロール並びに下部ロールと前記出口側の上部ロール並びに下部ロールを上下方向にのみ移動可能としたことを特徴とする請求項1記載のロール矯正装置。
【請求項3】
上下方向と左右方向に移動可能な前記複数のロールがそれぞれ回転軸を有し、複数の回転軸を挿通させその複数の回転軸を上下方向に移動可能とする長穴を形成する支持部材とを有することを特徴とする請求項1記載のロール矯正装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−83251(P2007−83251A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271766(P2005−271766)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(391035304)日本伸管株式会社 (8)