説明

ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法

【課題】互いに束ねられる複数の電線を含むワイヤハーネスにおいて、防水された短絡回路を容易に形成することが可能な方法を提供する。
【解決手段】この方法は、特定の複数の電線10の端末を共通のジョイントコネクタJCに接続することにより相互短絡させる工程と、防水体50を形成してこの防水体50内にジョイントコネクタJCを密封して防水する工程と、を含む。防水体50は、第1シート体52Aと、ジョイントコネクタJC及びこれにつながる各電線10の端部10aと、第2シート体52Bとを重ね合わされる工程と、その重ね合わせ状態で第1シート体52Aの側からエアを吸引することにより第2シート体52Bの周縁部分52bと第1シート体52Aの周縁部分52aとを密着させるとともに両シート体52A,52Bを電線10の端部10aの表面に密着させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のワイヤハーネスにおいて、当該ワイヤハーネスに含まれる複数の電線のうちの特定の電線同士を接続することにより短絡回路を形成するための方法、及び、短絡回路を含むワイヤハーネスを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のワイヤハーネスにおいて短絡回路を形成する方法として、ジョイントコネクタを用いたものが知られている。このジョイントコネクタは、例えば、前記ワイヤハーネスにおいて互いに束ねられる複数の電線のうちの特定の電線の端末にそれぞれ装着される複数のコネクタ端子と、これらのコネクタ端子を保持するコネクタハウジングと、このコネクタハウジングに保持され、前記各コネクタ端子と嵌合することにより当該コネクタ端子同士を短絡させる短絡用導体とを有する。
【0003】
さらに、前記ジョイントコネクタを用いて形成された短絡回路部を防水するための方法として、特許文献1には、当該ジョイントコネクタを弾性材料からなる袋状のコネクタカバーに挿入し、当該コネクタカバーの開口側端部をその弾性復帰力を利用して前記ジョイントコネクタにつながる各電線に密着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−124746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載される方法では、コネクタカバーの開口側端部をその弾性復帰力のみによって電線に密着させんとするものであることから、複数本の電線全てに対してコネクタカバーの開口側端部を確実に密着させるには、相当の弾性復帰力が必要であり、このような弾性復帰力を得ることは容易でない。当該弾性復帰力を得るには、コネクタカバーの自然開口径(弾性変形していない状態での径)をジョイントコネクタの最大外径よりもかなり小さく設定しなければならず、このことは、当該コネクタカバー内へのジョイントコネクタの挿入作業を非常に煩わしいものにする。すなわち、作業者は特別な治具等を用いて前記コネクタカバーの開口を非常に大きな力で強制的に拡張させなければならない。また、このような作業の自動化もきわめて困難である。
【0006】
前記のような難しい作業を避けながら前記コネクタカバーの電線への密着をより確実にする方法として、前記弾性復帰力だけでなく、例えば粘着テープといった補助的な部材を併用することが考えられるが、このような補助的部材の併用は、著しい工数の増加及び構造の複雑化を招く。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、互いに束ねられる複数の電線を含むワイヤハーネスにおいて、防水された短絡回路を容易に形成することが可能な方法、及び、当該短絡回路をもつワイヤハーネスを容易に製造することを可能にする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る方法は、前記ワイヤハーネスに含まれる電線のうちの特定の複数の電線の端末を共通のジョイントコネクタに接続することによりこれらの電線同士を短絡させる短絡工程と、前記ジョイントコネクタの周囲にこのジョイントコネクタを覆いながらこのジョイントコネクタにつながる電線の端部に密着することにより当該ジョイントコネクタを密封して防水する防水体を形成する防水体製造工程と、を含む。この方法の特徴として、前記防水体製造工程は、第1シート体と、前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる各電線の端部と、第2シート体とを、前記ジョイントコネクタ及び前記電線の周囲において前記第1シート体の幅方向の両側部分と前記第2シート体の周縁部分とが直接接触可能となるように重ね合わされる重ね合わせ工程と、その重ね合わせ状態で前記第1シート体の側からエアを吸引することにより前記第2シート体の周縁部分と前記第1シート体の周縁部分とを密着させるとともに両シート体を前記電線の表面に密着させることで両シート体同士の間に前記ジョイントコネクタを密封する密封工程と、を含む。ここで、前記エアの吸引は、前記重ね合わせ工程の段階から行われていてもよい。すなわち、当該エアの吸引を開始するタイミングは、前記重ね合わせ工程の完了の前後を問わない。
【0009】
この方法では、複数の電線の端部がジョイントコネクタに接続されることにより短絡回路が形成されるのに加え、第1シート体、前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる各電線の端部、及び第2シート体がこの順に重ねられた状態で、第1シート体の側からエアが吸引されることにより、両シート体間に前記ジョイントコネクタが密封された構造の構築、すなわち、防水体の製造が達成される。従って、従来のように袋状の防水体の開口を専用の治具で強制的に拡開しながら当該防水体内にジョイントコネクタを挿入するといった面倒な作業は不要であり、作業者の負担の少ない工程で確実に短絡回路の形成及びその防水が達成される。
【0010】
この方法では、前記特定の電線の端末にそれぞれ電線側端子が装着される一方、前記ジョイントコネクタとして、単一の金属板からなり、その厚み方向と直交する方向に並ぶ複数の嵌合部を有して各嵌合部が前記各電線側端子とそれぞれ嵌合され、その嵌合状態で当該電線同士を短絡させる短絡用金属板と、この短絡用金属板の厚み方向に偏平な外形を有し、当該短絡用金属板を保持するとともに、当該短絡用金属板の各嵌合部に前記各電線側端子が嵌合されるのを許容するように当該各電線側端子を受け入れる複数の端子収容室を囲む絶縁ハウジングと、を有するものが用いられるのが、好ましい。このジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部は全体として偏平な(電線の配列方向と直交する方向である厚み方向が小さい)形状を有するので、その厚み方向に両シート体を重ね合わせることにより、両シート体同士の接合をより確実かつ容易に行うことが可能である。
【0011】
さらに、前記ジョイントコネクタは、前記端子収容室に臨む外壁を有してこの外壁に前記電線側端子を係止する端子係止部が形成され、この端子係止部は前記電線側端子を係止する係止位置とこの係止位置から外側に退避して前記外壁から外向きに突出する退避位置との間で弾性変位可能なものであり、この端子係止部が前記係止位置で前記第1シート体または前記第2シート体によって外側から拘束されるように両シート体の周縁部分同士の接合が行われることが、好ましい。この方法では、前記ジョイントコネクタに密着する第1シート体または第2シート体を利用して当該ジョイントコネクタの外壁に形成された端子係止部を前記係止位置に拘束することにより、当該端子係止部が当該係止位置から前記退避位置に変位するのを抑止して当該端子係止部が電線側端子を係止する状態をより確実に保持することが可能になる。
【0012】
本発明に係る方法は、エアを吸引するための複数の吸引口が開口する成形面をもつ真空成形用型を用いることにより、さらに効率よく行われることが可能である。具体的に、この真空成形用型を用いた場合には、前記重ね合わせ工程が、前記成形面上に前記第1シート体を敷くことと、前記第1シート体の周縁部分が前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の外側にはみ出すように当該第1シート体の上に当該ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部を載せることと、前記第2シート体をこの第2シート体が前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の周囲で前記第1シート体の周縁部分に重なるように前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の上に被せることと、により行われ、前記密封工程が、前記真空成形用型の吸引口からエアを吸引することにより行われる。
【0013】
前記第2シート体については、当該第2シート体が熱可塑性樹脂からなる層を含み、この層が加熱されることにより軟化した状態で前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部と前記第1シート体の周縁部分とに被せられるのが、より好ましい。この方法では、前記第2シート体の厚みが比較的大きくて常温での柔軟性が低い場合でも、これを加熱して軟化させることにより当該第2シート体を前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の形状になじませながら当該電線の端部及び前記第1シート体の周縁部分に良好に密着させることができる。従って、第2シート体の強度を確保するための当該第2シート体の厚みの設定と、第1及び第2シート体同士の密着によるジョイントコネクタの密封及び防水とを両立させることができる。
【0014】
前記ジョイントコネクタの密封による短絡回路の防水をより確実に行うには、前記第1シート体及び前記第2シート体のうちの少なくとも一方のシート体として、シート本体層及びこのシート本体層の裏面上に設けられる接着剤層とを有するものが用いられ、当該接着剤層により両シート体の周縁部分同士が接着されることが、より好ましい。さらには、両シート体に前記シート体及び前記接着剤層を有するものが用いられ、それぞれの接着剤層により両シート体が前記ジョイントコネクタにつながる電線の端部の表面にそれぞれ接着されることが、より好ましい。
【0015】
この方法は、前記ジョイントコネクタに接続される電線側端子のうちの少なくとも一部の電線側端子について、当該電線側端子及びこれが装着される電線の導体が互いに異なる金属材料で構成される場合に、特に有効である。このように互いに異種の金属材料で構成された電線側端子とこれに接触する電線の導体との接合部分に水分が浸入すると、当該電線側端子や当該導体の腐食を促進するおそれがあるから、このような異種金属の電線側端子と導体との組み合わせを含む短絡回路を本発明に係る方法によって確実に防水することは、極めて意義が高い。
【0016】
また本発明は、短絡回路をもつワイヤハーネスを効率よく製造するための方法を提供する。この製造方法は、複数本の電線を束ねる工程と、その電線のうちの特定の複数の電線の端末について前記の短絡回路を形成するための方法を適用することにより当該特定の電線同士を短絡させる短絡回路を形成し、かつ、これを密封する防水体を製造する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、複数の電線を含むワイヤハーネスにおいて、防水された短絡回路を容易に形成することができ、また、当該短絡回路をもつワイヤハーネスを容易に製造することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイヤハーネスの製造過程において複数の電線の端末に共通のジョイントコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
【図2】前記ジョイントコネクタがその防水のための防水体の内部に密封された状態を示す斜視図である。
【図3】前記電線の端末に装着された電線側端子が前記ジョイントコネクタに挿入される途中の状態を示す断面側面図である。
【図4】前記電線の端末に装着された電線側端子が前記ジョイントコネクタに完全に挿入された状態を示す断面側面図である。
【図5】前記ジョイントコネクタの底面図である。
【図6】前記ジョイントコネクタの断面平面図である。
【図7】前記ジョイントコネクタを密封する防水体を形成するための重ね合わせ工程を示す断面図である。
【図8】前記防水体を形成するための密封工程を示す断面図である。
【図9】(a)(b)は前記密封工程における各電線と両シート体との密着状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、この実施形態に係るワイヤハーネス100と、当該ワイヤハーネス100の短絡回路を形成するのに用いられるジョイントコネクタJCとを示す。このジョイントコネクタJCは、図2に示すような第1シート体52A及び第2シート体52Bからなる防水体50の内部に密封されることにより防水される。
【0021】
この実施の形態にかかるワイヤハーネス100は、次の工程により製造される。
【0022】
1)幹線12の形成及び特定の電線10の引き出し
複数本の電線10が束ねられることにより幹線12が形成されるとともに、その電線10のうちの複数本(この実施の形態では4本)の電線が分岐電線群14として前記幹線12から引き出される。幹線12については、その周囲に例えばテープが螺旋状に巻き付けられることにより、電線10が束ねられた状態が保持される。前記各電線10には、いわゆる被覆電線が用いられ、当該電線10は導体とこれを被覆する絶縁被覆とをそれぞれ有する。
【0023】
この実施の形態では、前記分岐電線群14に含まれる電線10を共通のジョイントコネクタJCに接続するために、予め当該電線10の端末に図3及び図4に示すような電線側端子20がそれぞれ装着されている。この電線側端子20は、雌型の電気接触部22と電線圧着部24とを前後に有する。前記電気接触部22は、中空角筒状の本体と、この本体内で撓み可能に設けられる接触ばね片26とを有する。この電気接触部22の底壁からは、前記ジョイントコネクタJCに係止されるための被係止片28が外向きに突出している。前記分岐電線群14に含まれる各電線10の端末には、予め、その絶縁被覆を除去して導体を露出させる処理が施されており、前記電線圧着部24は、前記導体の端末及びその近傍の絶縁被覆をそれぞれ抱き込むように曲げ加工されることにより、前記分岐電線群14の端末に圧着され、その導体に電気的に接続されている。
【0024】
2)ジョイントコネクタJCへの接続(短絡工程)
前記各電線側端子20が図3〜図6に示されるようなジョイントコネクタJCに接続されることにより、当該電線側端子20がそれぞれ装着される電線10同士の短絡が行われる。
【0025】
この実施の形態にかかるジョイントコネクタJCは、単一の短絡用導体30と、この短絡用導体30を保持するための絶縁ハウジング40とを備える。前記短絡用導体30は、導電材料からなり、前記各電線側端子20に共通して接続されることによりこれらの電線側端子20同士を短絡させる。前記絶縁ハウジング40は、合成樹脂等の絶縁材料により全体が一体に成型され、前記短絡用導体30を格納した状態で保持することが可能な形状、具体的には当該短絡用導体30の厚み方向に偏平な形状を有する。
【0026】
この実施の形態に係る短絡用導体30は、単一の金属板を適当な形状に打ち抜くことにより形成された短絡用金属板からなり、複数の嵌合部32と、短絡部34とを一体に有する。各嵌合部32は、前記各電線側端子20の雌型の電気接触部22に嵌入可能な雄型(タブ)の嵌合部であり、これらの嵌合部32がその幅方向と平行な方向、すなわち短絡用金属板の厚み方向と直交する方向に配列されている。前記短絡部34は、前記嵌合部32の配列方向に延び、この短絡部34に前記各嵌合部32の基端がつながっている。
【0027】
前記絶縁ハウジング40は、互いに平行な平板状の天壁41及び底壁42と、両壁41,42の幅方向両端部同士(すなわち左側端部同士及び右側端部同士)をそれぞれつなぐ一対の側壁44とを一体に有する。これらの壁41,42,44は絶縁ハウジング40の外壁を構成する。
【0028】
前記外壁の後端部(図3〜図6では右端部)は、導体保持部43を構成する。この導体保持部43内に前記開口部43aから前記短絡用導体30の短絡部34が圧入されることにより、当該短絡部34が当該導体保持部43に保持される。
【0029】
前記導体保持部43は、前記短絡用導体30の短絡部34を保持する形状を有する。具体的には、前記短絡部34よりも一回り大きく、前記短絡用導体30の嵌合部32の配列方向に延びる外形を有し、前記短絡部34が後方(図8では左方)から挿入可能な短絡用金属板挿入口43aを囲む。この挿入口43aから前記短絡部34が前記各嵌合部32を前方に向けた姿勢で導体保持部43内に圧入される。より詳しくは、当該短絡部34の幅方向両端部に図6に示すような突起34aが形成されており、これらの突起34aが前記導体保持部43の内側面に食い込むことで前記導体保持部43に前記短絡部34が固定されている。
【0030】
前記導体保持部43よりも前側の部分には、両側壁44と平行な複数(図では3つ)の仕切り壁45がコネクタ幅方向に配列される。各仕切り壁45は、これに隣接する他の仕切り壁45または側壁44との間にそれぞれ端子収容室47を画定する。これらの端子収容室47は、各嵌合部32に対応して形成され、当該嵌合部32に前記各電線側端子20が嵌合されるのを許容するように当該電線側端子20を受け入れる形状、具体的には前方に開口してその開口から前記電線側端子20が挿入可能な形状を有する。各端子収容室47内にはそれぞれ後方から前記短絡用導体30の各嵌合部32が突出しており、当該端子収容室47に挿入された電線側端子20の電気接触部22が前記嵌合部32と嵌合することにより当該電線側端子20と短絡用導体30とが電気的に導通する。
【0031】
前記底壁42には、前記各端子収容室47に対応する位置に、端子係止部であるランス46が形成されている。各ランス46は、前記底壁42に形成された略コ字状のスリット42a(図5)により囲まれていて、当該底壁42の本体に対してその厚み方向に撓む(すなわち弾性変位する)することが可能な自由端部を有し、その自由端部に爪状の係止部46aが形成されている。この係止部46aは、挿入される電線側端子20と接触することにより図3に示すように撓み変位して当該電線側端子20の通過を許容し、その通過後に正規の位置に弾性的に復帰することにより前記電線側端子20の被係止片28を後方から拘束する。
【0032】
つまり、当該ランス46は、前記係止部46aが前記電線側端子20をこの電線側端子20が前記嵌合部32と嵌合する位置に係止する係止位置(図4に示す位置)と、この係止位置から当該ランス46の弾性変形を伴って外側に退避する退避位置(図3に示す位置)とを有し、前記係止位置では前記底壁42の他の部分の外面と同じ面上に位置し、前記退避位置では当該底壁42の他の部分の外面から外向きに突出する。
【0033】
従って、このジョイントコネクタJCでは、その端子収容室47内に前記分岐電線群14に含まれる電線10の端末の電線側端子20が挿入されてそのまま短絡用導体30の嵌合部32に嵌合されることにより、当該短絡用導体30を接続媒体とした電線側端子20同士の短絡が達成される。すなわち、当該電線側端子20がそれぞれ装着された複数の電線10についての短絡回路が形成される。
【0034】
3)短絡回路の防水(防水体製造工程)
前記ジョイントコネクタJC及びこれにつながる電線10(分岐電線群14に含まれる電線10)の端部10aの周囲に、図2に示すような防水体50が形成され、この防水体50の内部に前記ジョイントコネクタJCが密封されることにより、前記短絡回路の防水がなされる。前記防水体50は、例えば次の工程によって効率よく製造されることが可能である。
【0035】
3−1)重ね合わせ工程
この工程は、図7に示すように前記ジョイントコネクタJCの平面形状よりも十分大きな寸法を有する第1シート体52Aと、前記ジョイントコネクタJC及びこれにつながる各電線10の端部10aと、前記ジョイントコネクタJCの平面形状よりも十分大きな寸法を有する(この実施の形態では第1シート体52Aよりも大きな形状を有する)第2シート体52Bとを前記ジョイントコネクタJCの厚み方向に重ね合わせる工程であり、この重ね合わせは、前記ジョイントコネクタJC及び前記電線10の周囲において前記第1シート体52Aの周縁部分52aと前記第2シート体52Bの周縁部分52bとが直接接触可能となるように行われる。
【0036】
この実施の形態では、防水体50の形成のために図7に示すような真空成形用型60が用いられる。この真空成形用型60は、平坦な上面を有し、これが成形面62を構成する。当該成形面62では複数の吸引口64が開口し、これらの吸引口64は前記真空成形用型60の内部に形成されたエア通路を介して図略の真空ポンプに接続され、この真空ポンプは前記吸引口64からその上方のエアを吸引する。
【0037】
前記第1シート体52Bは、前記真空成形用型60の成形面62の上に敷かれる。この第1シート体52Aは、例えば合成樹脂からなるシートにより構成される。この第1シート体52Aの周縁部分52a(前記ジョイントコネクタJCから外側にはみ出した部分)には、後述のエアの吸引による第2シート体52Bとの密着を促進するために多数の通気孔が設けられてもよい。この場合、前記通気孔の孔径は例えば3mm程度が好適である。
【0038】
前記ジョイントコネクタJC及びこれにつながる電線10の端部10aは、その外側に前記第1シート体52Aがはみ出すような相対位置関係で当該第1シート体52A上に載置される。
【0039】
前記第2シート体52Bも、合成樹脂、例えば前記第1シート体52Aと同じ材質の合成樹脂からなるシートにより構成される。そして、当該第2シート体52Bの周縁部分52bが前記第1シート体52Aの周縁部分52aと直接接触するように当該第2シート体52Bが前記ジョイントコネクタJC及びこれにつながる電線10の上に被せられる。
【0040】
前記両シート体52A,52Bの材質は特に限定されないが、少なくとも第2シート体52Bは例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステルといった熱可塑性樹脂であることがより好ましい。このような熱可塑性樹脂からなる第2シート体52Bは、加熱されることにより軟化するため、当該第2シート体52Bの強度を確保するためにその厚みが比較的大きく設定されていても、すなわち当該第2シート体52Bの常温での柔軟性が低い場合でも、その軟化によって第2シート体52Bは前記ジョイントコネクタJCやこれにつながる電線10の端部10aの形状に十分なじみながら前記第1シート体52Aの周縁部分52aや電線10の表面と良好に接触することができる。
【0041】
具体的には、例えば図7に示すようなヒータ66が前記真空成形用型60の上方に配置され、このヒータ66の下面上に前記第2シート体52Bが保持部68によって保持されかつ軟化し、その状態で当該ヒータ66から前記第2シート体52Bが切り離されて前記ジョイントコネクタJCおよびこれにつながる電線10の端部10aの上に被せられるのがよい。
【0042】
また、前記吸引口64からのエアの吸引は、次の密封工程でのみ行われてもよいが、好ましくはこの重ね合わせ工程の段階から行われるのがよい。この重ね合わせ工程でのエアの吸引は、前記成形面62上での第1シート体52Aの保持、さらには、当該第1シート体52A及び前記ジョイントコネクタJC上への前記第2シート体52Bの誘引に寄与する。
【0043】
3−2)密封工程
前記の重ね合わせ状態で前記第1シート体52Aの側、より詳しくは前記各吸引口64側すなわち第2シート体52Bと反対の側から第1シート体52Aの上側(すなわち第2シート体52B側)のエアが吸引される。これにより、前記第2シート体52Bの周縁部分52bが吸引されて前記第1シート体52Aの周縁部分に密着するとともに、両シート体52A,52Bの(後端側の)周縁部分52a,52bが前記電線10の端部10aに密着し、これにより、前記ジョイントコネクタJCを密封する防水体50が形成される。特に、前記第1シート体52Aの周縁部分52aに多数の通気孔が設けられている場合には、その通気孔を通じて当該周縁部分52a上のエアが直接的に吸引されるから、当該周縁部分52aと第2シート体52Bの周縁部分52bとの密着が促進される。当該通気孔が設けられていない場合は、前記周縁部分52a上のエアが当該周縁部分52aの外側に回り込むようにして前記吸引口64へ吸引される。
【0044】
一方、前記電線10同士の間隔は、ジョイントコネクタJCから離れるに従って狭くなっているが、図9(a)(b)に示されるように、当該電線10同士の間隔の大小にかかわらず前記両シート体52A,52Bは前記真空成形用型60によって各電線10の表面に良好に密着することができる。
【0045】
前記両シート体52A,52Bの周縁部分52a,52b同士の密着状態は、当該周縁部分52a,52b同士が接着されることで、より確実に保持される。具体的には、前記両シート体52A,52Bのうちの少なくとも一方について、シート本体層(例えば上述した合成樹脂製のシート)とその裏面(相手方のシート体に対向する面)上に設けられる接着剤層とを有するものが、用意されればよい。その接着剤層は両シート体52A,52Bの周縁部分52a,52b同士を接着することでその密着状態を強固にする。当該接着剤層には、例えば、ブチルゴム系の粘着剤のような柔軟性に富むものや、エポキシ樹脂等の熱硬化性の液状剤が好適である。
【0046】
図7〜図9に示す例では、第1シート体52A及び第2シート体52Bの双方に接着剤層を含むものが用いられている。すなわち、第1シート体52Aは、シート本体層54A及びその裏面上に設けられる接着剤層56Aを有し、第2シート体52Bは、シート本体層54B及びその裏面上に設けられる接着剤層56Bを有している。このようなシート体52A,52Bの組み合わせによれば、その周縁部分52a,52b同士の密着だけでなく、図9に示すような(後端側の)周縁部分52a,52bと各電線10の端部10aの表面との密着も前記接着剤層56A,56Bによる接着でそれぞれ強固に保持される。
【0047】
以上示した方法は、従来のように袋状の防水体の開口を専用の治具で強制的に拡開しながら当該防水体内にジョイントコネクタを挿入するといった面倒な作業を要しない。作業者はきわめて負担の少ない工程で確実に短絡回路の形成及びその防水を実行できる。
【0048】
この方法は、特に、前記電線側端子20のうちの少なくとも一部について、当該電線側端子10及びこれが装着される電線の導体が互いに異なる金属材料で構成される場合、例えば当該導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなって前記電線側端子20が銅または銅合金からなる場合に、顕著な優位性を発揮する。すなわち、互いに異種の金属材料で構成された電線側端子20及びこれが装着される導体は、その接合部分に水分が浸入すると腐食が進行し易いから、当該電線側端子20を含む短絡回路を確実に防水することは、接続信頼性の向上及び寿命の延長に大きく寄与する。
【0049】
本発明において、用いられるジョイントコネクタの具体的な形状及び構造は特に限定されない。例えば、コネクタ端子が上下複数段にわたって配列されたものでもよいし、電線側端子20及び短絡用導体30がそれぞれ別のコネクタハウジングに保持されていてこれらのコネクタハウジング同士が嵌合されるものでもよい。
【0050】
しかし、各図に示すようなジョイントコネクタJCは、その厚み方向の寸法が小さい偏平な形状を有するから、その厚み方向に当該ジョイントコネクタJC及びこれにつながる電線10と両シート体52A,52Bとが重ね合わされることにより、当該両シート体52A,52Bの周縁部分52a,52b同士の密着及び当該周縁部分52a,52bと前記電線10の表面との密着がより容易にかつ確実に行われる。
【0051】
特に、前記のように外壁(図では底壁42)に端子係止部であるランス46が形成されるものでは、厚み方向の寸法がさらに削減されるのに加え、このランス46がその退避位置において当該外壁から外向きに突出するものを用いる場合には、このランス46を前記係止位置で前記第1シート体52Aまたは前記第2シート体52B(図8では第1シート体52A)によって外側から拘束するように両シート体の周縁部分52a,52b同士の接合を行うことにより、簡単な構造でジョイントコネクタJCでの接続信頼性を高めることができる。すなわち、この方法では、前記ジョイントコネクタJCを密封する第1シート体52Aまたは第2シート体52Bを利用して当該ジョイントコネクタJCの外壁(この実施の形態では底壁42)を外側から拘束することにより、ランス46が前記係止位置から前記退避位置に変位するのを抑止できるから、ジョイントコネクタJCに電線側端子20を二重係止するための特別な構造を付与することなく、すなわち当該ジョイントコネクタJCの形状を薄型形状に維持したまま、ランス46による電線側端子20の係止をより確実に保持することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
JC ジョイントコネクタ
10 電線
12 ワイヤハーネスの幹線
14 分岐電線群
20 電線側端子
30 短絡用導体
32 嵌合部
34 短絡部
40 絶縁ハウジング
42 底壁(外壁)
43 導体保持部
46 ランス(端子係止部)
47 端子収容室
50 防水体
52A 第1シート体
52a 第1シート体の周縁部分
52B 第2シート体
52b 第2シート体の周縁部分
54A,54B シート本体層
56A,56B 接着剤層
60 真空成形用型
62 成形面
64 吸引口
66 ヒータ
100 ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに束ねられる複数の電線を含むワイヤハーネスにおいて、防水された短絡回路を形成するための方法であって、
前記ワイヤハーネスに含まれる電線のうちの特定の複数の電線の端末を共通のジョイントコネクタに接続することによりこれらの電線同士を短絡させる短絡工程と、
前記ジョイントコネクタの周囲にこのジョイントコネクタを覆いながらこのジョイントコネクタにつながる電線の端部に密着することにより当該ジョイントコネクタを密封して防水する防水体を形成する防水体製造工程と、を含み、
前記防水体製造工程は、第1シート体と、前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる各電線の端部と、第2シート体とを、前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の周囲において前記第1シート体の周縁部分と前記第2シート体の周縁部分とが直接接触可能となるように重ね合わされる重ね合わせ工程と、その重ね合わせ状態で前記第1シート体の側からエアを吸引することにより前記第2シート体の周縁部分と前記第1シート体の周縁部分とを密着させるとともに両シート体を前記電線の端部の表面に密着させることで前記両シート体同士の間に前記ジョイントコネクタを密封する密封工程と、を含む、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記特定の電線の端末にそれぞれ電線側端子が装着される一方、前記ジョイントコネクタとして、単一の金属板からなり、その厚み方向と直交する方向に並ぶ複数の嵌合部を有して各嵌合部が前記各電線側端子とそれぞれ嵌合され、その嵌合状態で当該電線同士を短絡させる短絡用金属板と、この短絡用金属板の厚み方向に偏平な外形を有し、当該短絡用金属板を保持するとともに、当該短絡用金属板の各嵌合部に前記各電線側端子が嵌合されるのを許容するように当該各電線側端子を受け入れる複数の端子収容室を囲む絶縁ハウジングと、を有するものが用いられ、その厚み方向に両シート体が重ね合わされる、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項3】
請求項2記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記ジョイントコネクタは、前記端子収容室に臨む外壁を有してこの外壁に前記電線側端子を係止する端子係止部が形成され、この端子係止部は前記電線側端子を係止する係止位置とこの係止位置から外側に退避して前記外壁から外向きに突出する退避位置との間で弾性変位可能なものであり、この端子係止部をその係止位置で前記第1シート体または前記第2シート体が外側から拘束するように両シート体の周縁部分同士の接合が行われる、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記重ね合わせ工程は、エアを吸引するための複数の吸引口が開口する成形面をもつ真空成形用型の当該成形面上に前記第1シート体を敷くことと、前記第1シート体の周縁部分が前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の外側にはみ出すように当該第1シート体の上に当該ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部を載せることと、前記第2シート体をこの第2シート体が前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の周囲で前記第1シート体の周縁部分に重なるように前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部の上に被せることと、を含み、前記密封工程は、前記真空成形用型の吸引口からエアを吸引することを含む、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項5】
請求項4記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記第2シート体が熱可塑性樹脂からなる層を含み、この層が前記重ね合わせ工程において加熱されることにより軟化した状態で当該第2シート体が前記ジョイントコネクタ及びこれにつながる電線の端部と前記第1シート体の周縁部分とに被せられる、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記第1シート体及び前記第2シート体のうちの少なくとも一方について、シート本体層及びこのシートの裏面上に設けられる接着剤層を有するものが用いられ、当該接着剤層により両シート体の周縁部分同士が接着される、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項7】
請求項6記載のワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法において、
前記第1シート体及び前記第2シート体の双方が前記シート本体層及び前記接着剤層を有し、各接着剤層により両シート体が前記電線の端部の表面にそれぞれ接着される、ワイヤハーネスにおける短絡回路の形成方法。
【請求項8】
短絡回路をもつワイヤハーネスを製造するための方法であって、
複数本の電線を束ねる工程と、
その電線のうちの特定の複数の電線の端末について請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の方法を適用することにより、当該特定の電線同士を短絡させる短絡回路を形成し、かつ、これを密封する防水体を製造する工程と、を含む、短絡回路をもつワイヤハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−174632(P2012−174632A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38020(P2011−38020)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】