説明

ワイヤハーネスの製造方法

【課題】電線束の噛み込みやはみ出しのおそれなく、簡単に電線束の外周を覆うように保護性の高い樹脂成形体を形成することのできるワイヤハーネスの製造方法を提供する。
【解決手段】電線束Wの外周に樹脂成形体20が一体的に設けられたワイヤハーネスWHの製造方法において、ワイヤハーネスの配索経路を規定する形状に設定された成形型1、2を樹脂で形成し、該成形型1、2に形成した配索溝3の中に電線束Wを挿入すると共に、配索溝3の中にモールド樹脂10を注入して硬化させることにより、電線束と成形型をモールド樹脂で一体化させて、成形型とモールド樹脂とで前記樹脂成形体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線束の外周に樹脂成形体が一体的に設けられたワイヤハーネスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、特許文献1に記載された、電線束(複数の被覆電線を束にしたもの)111の外周を樹脂保護層112で覆った構造のワイヤハーネス110の構成を示している。樹脂保護層112は、ワイヤハーネス110の長手方向に間隔的に設けられており、長手方向に隣接する樹脂保護層112と樹脂保護層112との間に屈曲性を確保するための隙間113が設けられ、この隙間113から内部の電線束111が露出している。
【0003】
図3は、このワイヤハーネス110を成形するための下型121の構成を示している。この下型121には、樹脂保護層112を成形するための溝122が設けられており、この溝122の内部に、電線束111を浮かせた状態で支持する保持部123が設けられている。そして、ワイヤハーネス製造時は、この保持部123に電線束111を保持させた状態で、上型(図示略)を下型121の上に被せて、型の内部に確保されたキャビティにモールド樹脂を注入し、モールド樹脂の硬化を待って成形品を型から取り出すことにより、電線束111の外周を樹脂保護層112で覆った構造のワイヤハーネス110を得るようにしている。この際、下型121に設けられた保持部123が、隣接する樹脂保護層112の間の隙間113を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−100014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に記載の技術では、樹脂保護層112を電線束111と一体に成形した場合に電線束111の周囲がむら無く樹脂保護層112で覆われるように、下型121に保持部123を設けて、電線束111と下型121の内壁との間にモールド樹脂の回り込む隙間を確保するようにしているが、保持部123が存在するが故に、樹脂保護層112がワイヤハーネス110の長手方向にわたり途切れ途切れに形成され、途中の隙間113から電線束111が露出することになっている。そのため、梁状の部材のような全体の剛性を期待できるものではない上、露出した電線束111に外部部品が干渉する可能性もあり、保護性が弱いという問題がある。また、上型と下型121を合わせたときに電線束111を噛み込んだり、電線束111が樹脂保護層112からはみ出したりするおそれもある。また、下型121に電線束111をセットするときに、電線束111と下型121の内壁との間にモールド樹脂の回り込む隙間を確実に確保しなくてはならないので、電線束111のセットに注意が必要であり、作業の効率が悪いという問題もある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線束の噛み込みやはみ出しのおそれなく、簡単に電線束の外周を覆うように保護性の高い樹脂成形体を形成することのできるワイヤハーネスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 電線束の外周に樹脂成形体が一体的に設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
前記ワイヤハーネスの配索経路を規定する形状に設定された成形型を樹脂で形成し、
該成形型に形成した配索溝の中に前記電線束を挿入すると共に、
前記配索溝の中にモールド樹脂を注入して硬化させることにより、
前記電線束と前記成形型を前記モールド樹脂で一体化させて、
前記成形型とモールド樹脂とで前記樹脂成形体を構成することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【0008】
(2) 少なくとも前記モールド樹脂が硬化する前に、前記配索溝を覆うようにカバーを被せることを特徴とする上記(1)に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0009】
(3) 前記成形型を構成する樹脂と前記モールド樹脂との少なくとも一方を発泡系樹脂としたことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0010】
上記(1)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、予め形成した樹脂製の成形型の配索溝の中に電線束を挿入して樹脂モールドするため、樹脂成形体からの電線束のはみ出しや電線束の噛み込みを防止することができ、電線束に対する保護性を高く維持することができる。また、配索溝への電線束の挿入と配索溝へのモールド樹脂の注入だけで作業を簡単に終えることができるため、ワイヤハーネスの製造工程の配索作業台上において作業を行うことができる。
【0011】
上記(2)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、モールド樹脂が硬化する前に配索溝を覆うようにカバーを被せることにより、モールド樹脂の成形品質を高めることができる。
【0012】
上記(3)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、成形型を構成する樹脂とモールド樹脂との少なくとも一方を発泡系樹脂としたので、軽量化およびでコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイヤハーネスの製造方法によれば、樹脂成形体からの電線束のはみ出しや電線束の噛み込みを防止することができて、電線束に対する保護性を高めることができると共に、配索溝への電線束の挿入と配索溝へのモールド樹脂の注入だけで、配線束の保護と配索経路に沿った樹脂成形体の形成を簡単に終えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のワイヤハーネスの製造方法の説明図で、(a)は配索経路が直線状である場合の製造方法の説明図、(b)は配索経路が屈曲している場合の製造方法の説明図である。
【図2】従来の電線束の外周に樹脂保護層が設けられたワイヤハーネスの例を示す斜視図である。
【図3】そのワイヤハーネスの樹脂保護層を成形するための下型の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のワイヤハーネスの製造方法の説明図で、(a)は配索経路が直線状である場合の製造方法の説明図、(b)は配索経路が屈曲している場合の製造方法の説明図である。
【0016】
この製造方法は、電線束Wの所要区間の外周に樹脂成形体20が一体的に設けられたワイヤハーネスを製造する場合の製造方法であり、まず、ワイヤハーネスの配索経路を規定する形状に設定された成形型1、2を樹脂成形して用意し、これを水平な作業台の上に置く。ここで、ワイヤハーネスの配索経路が直線状の場合は図1(a)に示すような直線状の成形型1を使用し、ワイヤハーネスの配索経路が屈曲状である場合は図1(b)に示すような屈曲形状の成形型2を使用する。これらの成形型1、2の上面には、電線束Wの配索溝3が成形型1、2の形状に沿うように形成されている。
【0017】
次に、成形型1、2に形成した配索溝3の中に電線束Wを挿入し、その状態で配索溝3の中に適量のモールド樹脂10を注入機11により注入して、モールド樹脂10を硬化させることにより、電線束Wと成形型1、2をモールド樹脂10で接着して一体化させる。この際、少なくともモールド樹脂10が硬化する前に、配索溝3を覆うようにカバー7を被せて硬化を待ち、モールド樹脂10の硬化によりカバー7も接着して一体化させる。そして、成形型1、2およびカバー7をそのまま成形品上に残すことで、硬化したモールド樹脂10と樹脂製の成形型1、2およびカバー7とで電線束Wの外周を覆う樹脂成形体20を構成する。このように製造することで、電線束Wの所要区間の外周に樹脂成形体20が一体的に設けられたワイヤハーネスWHを得ることができる。
【0018】
このように本実施形態のワイヤハーネスの製造方法によれば、予め形成した樹脂製の成形型1、2の配索溝3の中に電線束Wを挿入して樹脂モールドするため、樹脂成形体20からの電線束Wのはみ出しや電線束Wの噛み込みを防止することができ、電線束Wに対する保護性を高く維持することができる。また、配索溝3への電線束Wの挿入と配索溝3へのモールド樹脂10の注入だけで成形作業を簡単に終えることができるため、電線束Wの保護と配索経路に沿った樹脂成形体20の形成を簡単に行うことができ、ワイヤハーネスWHの製造工程の配索作業台上において作業を行うことが可能となる。また、モールド樹脂10が硬化する前に配索溝3を覆うようにカバー7を被せるので、モールド樹脂10の成形品質を高めることができる。
【0019】
なお、成形型1、2を構成する樹脂やモールド樹脂10の材料としては、PP、PE、EPP(発泡系)やEPDM(ゴム系)などを使用することができる。特に成形型1、2を構成する樹脂とモールド樹脂10の少なくとも一方の材料として発泡系樹脂を使用した場合は、ワイヤハーネスWHの軽量化と樹脂使用量減によるコスト低減を図ることができる。
【0020】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0021】
例えば、上記実施形態では、成形型1、2の配索溝3の中に先に電線束Wを挿入し、その後からモールド樹脂10を注入するようにした場合について説明したが、成形型1、2の配索溝3の中に先にモールド樹脂10を注入し、モールド樹脂10が硬化する前に電線束Wを配索溝3の中に挿入して、その状態でカバー7を被せてモールド樹脂10を硬化させるようにしてもよい。
【0022】
あるいは、成形型1、2の配索溝3に電線束Wを挿入し、その後からカバー7を被せ、その状態で配索溝3の中にモールド樹脂10を注入して硬化させるようにしてもよい。
【0023】
また、上記実施形態では、カバー7を樹脂材で構成し、樹脂成形体20上に残すようにした場合を説明したが、カバー7を金属で構成し、モールド樹脂10の硬化後にカバー7を取り外すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0024】
W 電線束
WH ワイヤハーネス
1,2 樹脂で構成された成形型
3 配索溝
7 カバー
10 モールド樹脂
20 樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束の外周に樹脂成形体が一体的に設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
前記ワイヤハーネスの配索経路を規定する形状に設定された成形型を樹脂で形成し、
該成形型に形成した配索溝の中に前記電線束を挿入すると共に、
前記配索溝の中にモールド樹脂を注入して硬化させることにより、
前記電線束と前記成形型を前記モールド樹脂で一体化させて、
前記成形型とモールド樹脂とで前記樹脂成形体を構成することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記モールド樹脂が硬化する前に、前記配索溝を覆うようにカバーを被せることを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【請求項3】
前記成形型を構成する樹脂と前記モールド樹脂との少なくとも一方を発泡系樹脂としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−248409(P2012−248409A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119333(P2011−119333)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】