説明

ワイヤロープの端末ソケット加工方法

【課題】鉛レスで身体への悪影響を防ぐと共に、ワイヤロープの素線に施す錫の仮メッキと鋳込み金属の亜鉛との相性の良さにより固着性能が高まり充分な強度の端末処理を達成することができる。
【解決手段】ワイヤロープ1に金属ソケット20を挿嵌し、ロープの端末をストランド3に解撚、分解して中心部にある芯綱4を露出させる。露出した芯綱4を切除すると共に、ストランド3を茶せん状にばらす。そのばらし部5を第1洗浄工程、第2洗浄工程を経て錫で仮メッキを施す。金属ソケット20内に茶せん状のばらし部5を引き込み、亜鉛を注入して鋳込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの端末に金属ソケットを固着する加工方法に関するもので、さらに詳しくは、金属ソケットを完全な鉛フリーにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワイヤロープの端末には、例えば、機械装置や構造物などと締結固定できるように金属ソケットが固着されている。そのワイヤロープと金属ソケットの固着は、一般的に合金止め法で行われている。すなわち、ワイヤロープの端末をストランドに解撚、分解してばらし部とし、そのばらし部を金属ソケットの中空部に挿入した後、溶融した合金を流し込んで固定する方法が採られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
鋳込材の合金としては、鉛系合金、錫系合金、亜鉛、亜鉛合金などが用いられているが、その中でも安価であり、鋳込み温度が低く素線を傷めなくて破断強度が高いなどの理由によって鉛系合金が一番多く使われているのが現状である。
【特許文献1】特開平7−246298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、鉛を使うことによって人体への悪影響を及ぼすことが問題とされており、また鉛を含有する材料が廃棄されると、人体に有害な鉛が溶出し、重金属汚染を引き起こすおそれが大きいことから、産業界全体において、鉛の使用を極力避ける方向になってきており、ロープ端末金具においても、鉛を含有しない所謂鉛フリーの採用が望まれている。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題として研究開発されたもので、その目的とするところは、鉛レスで身体への悪影響を防ぐと共に、ワイヤロープの素線に施す錫の仮メッキと鋳込み金属の亜鉛との相性の良さにより固着性能が高まり充分な強度の端末処理を達成することができるワイヤロープの端末ソケット加工方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として、本発明では、ワイヤロープに金属ソケットを挿嵌し、ロープの端末をストランドに解撚、分解して中心部にある芯綱を露出させ、露出した芯綱を切除すると共に、ストランドを茶せん状にばらし、そのばらし部を第1洗浄工程、第2洗浄工程を経て錫で仮メッキを施した後、金属ソケット内に茶せん状のばらし部を引き込み、亜鉛を注入して鋳込むことを特徴とするワイヤロープの端末ソケット加工方法を開発し、採用した。
【0007】
また、上記のように構成したワイヤロープの端末ソケット加工方法において、前記第1洗浄工程は有機溶剤液槽に浸漬してグリースや汚れを洗浄し、前記第2洗浄工程は塩酸を2〜3倍に薄めた希塩酸に塩化亜鉛を約10%溶解させた媒着剤液層に浸漬して錆などの付着物を落とし、表面を活性化しワイヤと錫の合金反応を促進することを特徴とするワイヤロープの端末ソケット加工方法を開発し、採用した。
【発明の効果】
【0008】
仮メッキを錫で行い、鋳込み金属を亜鉛で行うことにより端末ソケット加工が完全な鉛フリーになり、身体に害を及ぼす鉛害がなくなる。また、仮メッキを錫で行うから、比較的低温で出来、素線の強度低下を防ぐことができると共に、鋳込み金属の亜鉛との相性が良く、ワイヤロープの素線と金属ソケットとの固着性能が向上し、十分な強度の端末定着部となる。さらに、破断荷重においても、鉛系合金との差異がなく、クリープ性状は鉛系合金に比較して亜鉛を使用する方が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
まず、ワイヤロープ1の端末部に取付ける金属ソケット20を、ワイヤロープ1の構成および径などと適合するタイプであるか、またサイズが合っているかを確認すると共に、金属ソケット20のテーパー状の内面21を目視で調べ、付着物があれば洗浄液で清掃除去する。油脂分が付着していると鋳込み金属との固着力が不十分となり事故を起こす原因となるので清掃を完全に行う。そして、清掃した金属ソケット20をワイヤロープ1に挿通しておく。(図1)
【0010】
ワイヤロープ1の端部から径の2〜3倍長さの位置に、メッキ鉄線を捲回するシージング部2を設けワイヤロープ1の撚りの緩みを防ぐ。(図2)
【0011】
ワイヤロープ1の端部からシージング部2までのロープを各ストランド3が均等に配列するように解きほぐす。(図3)
【0012】
ストランド3を解きほぐすと中心部にある心綱4が露出し、その心綱4をストランド3の外に出し根元から切断する。(図4)
なお、心綱が鋼線で出来ている鋼心ワイヤロープにおいては、その鋼心の鋼線を茶せん状にばらしておく。
【0013】
ストランド3をスパイキ、ペンチなどの工具を使って各ストランド3を根元まで解いて茶せん状にばらしてばらし部5とする。(図5)
【0014】
ばらし部5のもつれ、極端な曲がりや広がり過ぎなどを整形して、ワイヤロープ1の軸芯と、ばらし部5の軸芯を一致させた後、第1洗浄工程の有機溶剤の洗浄液槽6に浸漬してロープグリースや汚れなどを落とす。(図6)
【0015】
続いて、工業用塩酸を2〜3倍に薄めた希塩酸に塩化亜鉛を約10%溶解させた第2洗浄工程の媒着剤の洗浄槽7に浸漬して錆などの付着物を素早く落とす。その時、シージング2の箇所に浸からないように漬ける。(図7)
【0016】
その後、300〜350℃に溶融した錫メッキ槽8の中に、ばらし部5を徐々に浸漬して全体に錫を付着させた後、引き上げ滴を叩いて余分に付着した錫を落としておく。(図8)
【0017】
このメッキ作業は固着力に対しての影響が大きいので、全ての素線に完全に斑のないようシージング部2の根元近くまでメッキが施されていなければならない。上記の範囲以外の温度では錫の付着が悪くなり、メッキの作用をしなくなると共に、鋳込み金属との固着力が劣ることになるから適さない。
【0018】
化成ソーダ3〜5%溶液を用意し、仮メッキ処理した以外の部分で酸が残っていると思われる部分にかけて中和処理する。
【0019】
そして、金属ソケット20を所定位置に止め、ばらし部5を金属ソケット20のテーパー内面21内に引き込む。その時、ばらし部5は金属ソケット20のテーパー内面21に均一に分布させる。シージング部2の上部が金属ソケット20内に入っていなければ腐蝕や疲労破壊を生じるおそれがあり、定着効率が悪くなる。
【0020】
ワイヤロープ1をバイス9で固定してワイヤロープ1と金属ソケット20が垂直になるようにセットする。すなわち、ワイヤロープ1と金属ソケット20の軸芯を一致させることにより、鋳込み金属の亜鉛を均等に充填できる。(図9)
【0021】
つぎに、金属ソケット20とワイヤロープ1の隙間から鋳込み金属が漏れないように粘土などで塞ぎ、金属ソケット20の外側面から100〜150℃になるようにガスバーナー10で加熱して鋳込金属の流動性を良くなるようにしてある。(図10)
【0022】
鋳込み金属の亜鉛が充填された槽11内の温度を490〜510℃に保ち、カス凝固物を取り、メタル表面の酸化物を除去する。(図11)柄杓12で亜鉛を掬い上げ金属ソケット10に連続して注入する。(図12)金属ソケット20内に鋳込まれた亜鉛は固化し、この固化によりワイヤロープ1の端末が金属ソケット20に一体的に結合される。(図13)そしてこの金属ソケット20を介してワイヤロープ1の端末を所定の部位に締結することが可能になる。
【0023】
亜鉛の注入時の温度は450〜470℃であり、450℃以下では亜鉛が固まり注入しにくくなり、470℃以上になると、素材に悪影響を与えるので好ましくなく、前記の範囲が好適である。
【0024】
上記のように構成された本発明のワイヤロープの端末ソケット加工方法によれば、有機溶剤液槽に浸漬して洗浄する第1洗浄工程および塩酸を2〜3倍に薄めた希塩酸に塩化亜鉛を約10%溶解させた媒着剤液層に浸漬して洗浄する第2洗浄工程を経て仮メッキを行うので、素線をメッキする錫の付着力が良くなり、その後に行われる鋳込み金属の亜鉛との相性が良く、固着強度が向上し十分な強度の端末定着部として安心して使うことができる。また、仮メッキを錫で行うので比較的低温で出来、素線の強度低下を招くことがなくなると共に、完全な鉛フリーとなり、身体に悪影響を与えないので安心して作業ができるものである。
【0025】
つぎに、上記実施の形態で得た本発明の鉛レス(錫−亜鉛)ソケット加工方法と従来の鉛系合金ソケット加工方法との破断試験を行った。その結果を下表に示す。
【表1】


以上から明らかなように、3種類のロープとも鉛レスソケット加工方法と鉛系合金ソケット加工方法において、破断荷重は殆ど変わりがなく、完全な鉛フリーとなる本発明のソケット加工法に優位性があることが判明した。
【0026】
以上、本発明の主要な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの実施に限定されるものではなく、発明の目的を達成でき、且つ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、建設土木装置用、吊り橋などの構造物用、クレーン設備用、船舶用、索道用、エレベータ用などに使用されるワイヤロープの端末加工に適するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ロープに金属ソケットを挿嵌した側面図である。
【図2】ロープにシージング部を設けた側面図である。
【図3】ロープ端部をストランドに解きほぐした側面図である。
【図4】ロープ心を露出した側面図である。
【図5】ストランドを解きほぐしてばらし部とした側面図である。
【図6】洗浄液槽に漬けた状態の縦断面図である。
【図7】媒着剤槽に漬けた状態の縦断面図である。
【図8】仮メッキ槽に漬けた状態の縦断面図である。
【図9】ロープと金属ソケットをセットした状態の正面図である。
【図10】金属ソケットを加熱している状態の正面図である。
【図11】鋳込み金属槽の縦断面図である。
【図12】金属ソケットに亜鉛を注入している状態の縦断面図である。
【図13】鋳込んだ状態の縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ワイヤロープ
3 ストランド
4 心綱
5 ばらし部
20 金属ソケット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープに金属ソケットを挿嵌し、ロープの端末をストランドに解撚、分解して中心部にある芯綱を露出させ、露出した芯綱を切除すると共に、ストランドを茶せん状にばらし、そのばらし部を第1洗浄工程、第2洗浄工程を経て錫で仮メッキを施した後、金属ソケット内に茶せん状のばらし部を引き込み、亜鉛を注入して鋳込むことを特徴とするワイヤロープの端末ソケット加工方法。
【請求項2】
前記第1洗浄工程は、有機溶剤液槽に浸漬してグリースや汚れを洗浄し、第2洗浄工程は塩酸を2〜3倍に薄めた希塩酸に塩化亜鉛を約10%溶解させた媒着剤液層に浸漬して錆などの付着物を落とし、表面を活性化しワイヤと錫の合金反応を促進することを特徴とする請求項1に記載のワイヤロープの端末ソケット加工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−241652(P2006−241652A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62421(P2005−62421)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(504435379)株式会社テザックワイヤロープ (1)
【Fターム(参考)】