説明

ワイヤーハーネスの分岐部固定方法、分岐部固定用フィルム及びワイヤーハーネス分岐部固定構造

【課題】本発明はテープ結束作業を不要にし、作業効率の向上、ワイヤーハーネスの寸法精度の向上、製品コストの低下を図ることができるワイヤーハーネスの分岐部固定方法、分岐部固定用フィルム及びワイヤーハーネス分岐部固定構造を提供する。
【解決手段】本発明のワイヤーハーネスの分岐部固定方法は、熱収縮フィルムからなる分岐部固定用フィルム4を保持治具1に取り付け、分岐部固定用フィルム4上にワイヤーハーネス2の分岐部2aを載置して、保持治具1により保持する工程と、分岐部固定用フィルム4を折り返し、重ねられた部分を接着、溶着又は熱圧着して、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを被覆する工程と、分岐部固定用フィルム4を加熱、収縮させて、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを固定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に用いられるワイヤーハーネスの分岐部を固定するためのワイヤーハーネスの分岐部固定方法、分岐部固定用フィルム及びワイヤーハーネス分岐部固定構造に関し、特に、テーピング処理を不要にしたワイヤーハーネスの分岐部固定方法、分岐部固定用フィルム及びワイヤーハーネス分岐部固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に用いられるワイヤーハーネスの製造に際して分岐部を固定する場合、テープ巻きによるテーピング処理方法が行われていた。
【0003】
図4は、従来のテーピング処理方法を説明するための説明図である。
【0004】
ワイヤーハーネス組立図板の布線図(図示せず)に沿った適宜位置に保持治具1が立設されており、その保持治具1の上部に形成された三又状の保持杆部1a〜1cの間にワイヤーハーネス2の分岐部2aを保持する。ワイヤーハーネス2の分岐部2aは、幹線部2bから枝線部2cがT字状に分岐して構成されている(図4(A)参照)。
【0005】
テーピング処理を行う場合、人手により、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを保持治具1から取り外して、ワイヤーハーネス2の分岐部2aにテープ3をたすき掛けに巻き付けて結束する(図4(B)参照)。
【0006】
テーピング処理が完了した後は、テープ結束されたワイヤーハーネス2を保持治具1の元の位置に戻して保持する(図4(C)参照)(以下、この技術を従来例1という)。
【0007】
また、特許文献1には、ワイヤーハーネスの分岐部の一側面側に配置されるシート基部と、そのシート基部より外側に延びて形成された結束片部とを備えた分岐部結束用シートを用いて、ワイヤーハーネスの分岐部を分岐部結束用シートを介してテープ巻きするテーピング処理方法が開示されている。このテーピング処理方法によれば、テープ結束作業を容易にするとともに、分岐部における電線のはみ出しを防止することができる、としている(以下、この技術を従来例2という)。
【特許文献1】特開平8−163742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来例1では、ワイヤーハーネス2の分岐部2aをテープ3により結束する作業が煩雑で面倒であり、作業効率が悪いという課題がある。
【0009】
また、テープ結束作業は人手により行われるので、作業者の技量によって分岐部成形の良否のバラツキが大きく、製品の品質を不安定にするという課題がある。
【0010】
また、テープ結束作業の前に、一端、ワイヤーハーネス2を保持治具1から取り外す必要があるため、ワイヤーハーネス2の寸法精度が低下するという課題がある。
【0011】
さらに、テープ結束作業の場合、分岐部2aの形態(分岐数、分岐径、方向等)毎にテープ3の使用量が異なるため、テープ3を過剰に使用しやすく、製品コストが高くなるという課題がある。
【0012】
従来例2では、分岐部結束用シートを用いてテープ結束作業の効率化を図っているが、テープ結束作業を必要としている点については従来例1と変わらないので、従来例1と同様の課題がある。
【0013】
さらに、従来例2では、テープの他に分岐部結束用シートを必要としているので、部品点数が増加し、製品コストが高くなるという課題がある。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、テープ結束作業を不要にし、作業効率の向上、ワイヤーハーネスの寸法精度の向上、製品コストの低下を図ることができるワイヤーハーネスの分岐部固定方法、分岐部固定用フィルム及びワイヤーハーネス分岐部固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1のワイヤーハーネスの分岐部固定方法は、
(1)熱収縮フィルムからなる分岐部固定用フィルムにより、ワイヤーハーネスの分岐部を被覆する工程と、
(2)前記分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするものである。
本発明の第2のワイヤーハーネスの分岐部固定方法は、
(1)熱収縮フィルムからなる分岐部固定用フィルムを保持治具に取り付け、前記分岐部固定用フィルム上にワイヤーハーネスの分岐部を載置して、前記保持治具により保持する工程と、
(2)前記分岐部固定用フィルムを折り返し、重ねられた部分を接着、溶着又は熱圧着して、前記ワイヤーハーネスの分岐部を被覆する工程と、
(3)前記分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第3のワイヤーハーネスの分岐部固定方法は、
(1)熱収縮フィルムからなる第1の分岐部固定用フィルムを保持治具に取り付け、前記第1の分岐部固定用フィルム上にワイヤーハーネスの分岐部を載置して、前記保持治具により保持する工程と、
(2)前記ワイヤーハーネスの分岐部上に熱収縮フィルムからなる第2の分岐部固定用フィルムを載置して前記保持治具に取り付け、前記第1の分岐部固定用フィルムと第2の分岐部固定用フィルムとを接着、溶着又は熱圧着して、前記ワイヤーハーネスの分岐部を挟み込む工程と、
(3)前記第1の分岐部固定用フィルム及び第2の分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の分岐部固定用フィルムは、前記ワイヤーハーネスの分岐部固定方法に用いられ、前記保持治具の保持杆部を挿通する挿通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明のワイヤーハーネス分岐部固定構造は、ワイヤーハーネスの分岐部と、熱収縮フィルムとを有するワイヤーハーネス分岐部固定構造であって、前記ワイヤーハーネスの分岐部に対して熱収縮フィルムが熱収縮した状態で固定されており、かつ前記熱収縮フィルム同士が互いに重ね合わされて固定されている部分が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を奏する。
【0020】
(1)テーピング処理が不要であるので、作業が簡単になり、作業効率が向上する。
【0021】
(2)人手によらず、分岐部固定用フィルムの収縮によりワイヤーハーネスの分岐部を自動的に固定するので、分岐部成形の良否のバラツキがなくなり、製品の品質を安定化することができる。
【0022】
(3)作業前にワイヤーハーネスを保持治具から取り外す必要がないため、ワイヤーハーネスの寸法精度を向上させることができる。
【0023】
(4)ワイヤーハーネスの分岐部の形態(分岐数、分岐径、方向等)が異なる場合であっても定形の分岐部固定用フィルムを用いることができるので、部材の過剰使用を防止でき、製品コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態例に係るワイヤーハーネスの分岐部固定方法を説明するための説明図である。
【0025】
ワイヤーハーネス組立図板の布線図(図示せず)に沿った適宜位置に保持治具1が立設されており、その保持治具1の上部に形成された三又状の第1〜第3の保持杆部1a〜1cに略長方形状の分岐部固定用フィルム4を取り付け、その分岐部固定用フィルム4上にワイヤーハーネス2の分岐部2aを載置して、保持治具1により保持する(図1(A)参照)。
【0026】
ワイヤーハーネス2の分岐部2aは、幹線部2bから枝線部2cがT字状に分岐して構成されている。
【0027】
分岐部固定用フィルム4は、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等で作られた略短形の熱収縮フィルム(シュリンクフィルム)により構成されている。
【0028】
分岐部固定用フィルム4には、図3(A)に示すように、その中央部に長手方向に延びた第1の挿通孔4aが形成され、その四隅近傍に円形の第2〜第5の挿通孔4b〜4eがそれぞれ形成されている。
【0029】
分岐部固定用フィルム4の第1の挿通孔4aに保持治具1の第1の保持杆部1aが挿通され、枝線部2cを挟んだ位置にある第2の挿通孔4b及び第3の挿通孔4cに保持治具1の第2の保持杆部1b及び第2の保持杆部1cがそれぞれ挿通されている。
【0030】
次いで、分岐部固定用フィルム4を折り返して、第4の挿通孔4dを保持治具1の第2の保持杆部1bに挿通させ、第5の挿通孔4eを保持治具1の第3の保持杆部1cに挿通させる(図1(B)参照)。
【0031】
次いで、分岐部固定用フィルム4の重ねられた部分を接着、溶着又は熱圧着して、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを被覆する。
【0032】
その後、分岐部固定用フィルム4を加熱、収縮させて、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを固定する(図1(C)参照)。
【0033】
本発明の第1の実施形態例に係るワイヤーハーネス2の分岐部固定方法によれば、テーピング処理が不要であるので、作業が簡単になり、作業効率が向上する。
【0034】
また、人手によらず、分岐部固定用フィルム4の収縮によりワイヤーハーネス2の分岐部2aを自動的に固定するので、分岐部成形の良否のバラツキがなくなり、製品の品質を安定化することができる。
【0035】
また、作業前にワイヤーハーネス2を保持治具1から取り外す必要がないため、ワイヤーハーネス2の寸法精度を向上させることができる。
【0036】
さらに、ワイヤーハーネス2の分岐部2aの形態(分岐数、分岐径、方向等)が異なる場合であっても定形の分岐部固定用フィルム4を用いることができるので、部材の過剰使用を防止でき、製品コストを抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態例では略短形の分岐部固定用フィルム4が折り返されて、その対向する角部のフィルム同士がT字状のワイヤーハーネス2の分岐部2aの両側でそれぞれ互いに重ね合わされて接着、溶着又は熱圧着されており、これにより、分岐部固定用フィルム4がワイヤーハーネス2の分岐部2aに対して確実に固定される効果を奏する。
【0038】
図2は、本発明の第2の実施形態例に係るワイヤーハーネス2の分岐部固定方法を説明するための説明図である。
ワイヤーハーネス組立図板の布線図(図示せず)に沿った適宜位置に保持治具1が立設されており、その保持治具1の上部に形成された三又状の第1〜第3の保持杆部1a〜1cに略長方形状の第1の分岐部固定用フィルム5を取り付け、その第1の分岐部固定用フィルム5上にワイヤーハーネス2の分岐部2aを載置して、保持治具1により保持する(図2(A)参照)。
【0039】
第1の分岐部固定用フィルム5はポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等で作られた略短形の熱収縮フィルムからなり、図3(B)に示すように、保持治具1の第1〜第3の保持杆部が挿通される第1〜第3の挿通孔5a〜5cが形成されている。
【0040】
次いで、ワイヤーハーネス2の分岐部2a上に第2の分岐部固定用フィルム6を載置して保持治具1に取り付ける(図2(B)参照)。第2の分岐部固定用フィルム6はポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等で作られた略短形の熱収縮フィルムからなり、図3(C)に示すように、保持治具1の第1〜第3の保持杆部1a〜1cが挿通される第1〜第3の挿通孔6a〜6cが形成されている。
【0041】
次いで、第1の分岐部固定用フィルム5と第2の分岐部固定用フィルム6とを接着、溶着又は熱圧着して、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを挟み込む。
【0042】
その後、第1の分岐部固定用フィルム5及び第2の分岐部固定用フィルム6を加熱、収縮させて、ワイヤーハーネス2の分岐部2aを固定する(図2(C)参照)。
【0043】
本発明の第2の実施形態例によれば、2枚の分岐部固定用フィルムを使用するので、第1の実施形態例のように1枚の分岐部固定用フィルムを折り返す必要がなく、小形の分岐部固定用フィルムを使用できるとともに、分岐部固定用フィルムに形成される挿通孔の数を少なくできる。
【0044】
また、本実施形態例では略短形の分岐部固定用フィルム5,6が重ね合わされ、フィルム同士がT字状のワイヤーハーネス2の分岐部2aの両側等でそれぞれ互いに重ね合わされて接着、溶着又は熱圧着されており、これにより、分岐部固定用フィルム5,6がワイヤーハーネス2の分岐部2aに対して確実に固定される効果を奏する。
【0045】
なお、第1の分岐部固定用フィルム5と第2の分岐部固定用フィルム6との位置決めを容易にするために、任意な箇所に位置決め用の孔7、8がそれぞれ形成されていてもよい。
【0046】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。例えば、本発明が適用されるワイヤーハーネス2の分岐部2aはT字状の形態のものに限定されず、分岐数、分岐径、方向等を問わず、種々の形態の分岐部にも適用できる。
【0047】
また、分岐部固定用フィルム4、5,6の形状や挿通孔の位置及び数は例示であり、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両等に用いられるワイヤーハーネスの製造に際して分岐部を固定するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(A)〜(C)は、本発明の第1の実施形態例に係るワイヤーハーネスの分岐部固定方法を説明するための説明図である。
【図2】(A)〜(C)は、本発明の第2の実施形態例に係るワイヤーハーネスの分岐部固定方法を説明するための説明図である。
【図3】(A)は分岐固定用フィルムを示す平面図、(B)は第1の分岐固定用フィルムを示す平面図、(C)は第2の分岐固定用フィルムを示す平面図である。
【図4】(A)〜(C)は従来のテーピング処理方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1:保持治具
2:ワイヤーハーネス
3:テープ
4:分岐部固定用フィルム
5:第1の分岐部固定用フィルム
6:第2の分岐部固定用フィルム
7:位置決め用の孔
8:位置決め用の孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)熱収縮フィルムからなる分岐部固定用フィルムにより、ワイヤーハーネスの分岐部を被覆する工程と、
(2)前記分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするワイヤーハーネスの分岐部固定方法。
【請求項2】
(1)熱収縮フィルムからなる分岐部固定用フィルムを保持治具に取り付け、前記分岐部固定用フィルム上にワイヤーハーネスの分岐部を載置して、前記保持治具により保持する工程と、
(2)前記分岐部固定用フィルムを折り返し、重ねられた部分を接着、溶着又は熱圧着して、前記ワイヤーハーネスの分岐部を被覆する工程と、
(3)前記分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするワイヤーハーネスの分岐部固定方法。
【請求項3】
(1)熱収縮フィルムからなる第1の分岐部固定用フィルムを保持治具に取り付け、前記第1の分岐部固定用フィルム上にワイヤーハーネスの分岐部を載置して、前記保持治具により保持する工程と、
(2)前記ワイヤーハーネスの分岐部上に熱収縮フィルムからなる第2の分岐部固定用フィルムを載置して前記保持治具に取り付け、前記第1の分岐部固定用フィルムと第2の分岐部固定用フィルムとを接着、溶着又は熱圧着して、前記ワイヤーハーネスの分岐部を挟み込む工程と、
(3)前記第1の分岐部固定用フィルム及び第2の分岐部固定用フィルムを加熱、収縮させて、前記ワイヤーハーネスの分岐部を固定する工程と、
を有することを特徴とするワイヤーハーネスの分岐部固定方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のワイヤーハーネスの分岐部固定方法に用いられる分岐部固定用フィルムであって、前記保持治具の保持杆部を挿通する挿通孔が形成されていることを特徴とする分岐部固定用フィルム。
【請求項5】
ワイヤーハーネスの分岐部と、熱収縮フィルムとを有するワイヤーハーネス分岐部固定構造であって、
前記ワイヤーハーネスの分岐部に対して熱収縮フィルムが熱収縮した状態で固定されており、かつ前記熱収縮フィルム同士が互いに重ね合わされて固定されている部分が形成されている、
ことを特徴とするワイヤーハーネス分岐部固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−149566(P2007−149566A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344742(P2005−344742)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】