説明

ワイヤーハーネス用高強度細径電線

【課題】 端末固着性にすぐれ、かつ耐衝撃性にすぐれているワイヤーハーネス用高強度細径電線を提供する。
【解決手段】 軟化されてその最大伸びが10%以上に形成された銅又は銅合金からなる中心線の周囲に、その最大伸びが10%以上の有機繊維を複数本撚り合わせた構造を有し、該銅又は銅合金に対する該有機繊維の重量比が1〜5%の範囲にあり、その太さが断面積で表して、0.03〜0.3mmであることを特徴とするワイヤーハーネス用高強度細径電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス(以下、WHとも略記する)用高強度細径電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネス(WH)用電線としては、軽量でかつ高強度の細径電線が要望されている。特開2001−167644号公報(特許文献1)には、補強繊維と金属マトリックスとからなる複合体からなる繊維を中心線として用い、その周囲に複数本の導線(素線)を撚り合わせたものが開示されている。この場合、該補強繊維としては、最大伸びが2%以内の炭素繊維や炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維等のセラミックス繊維が用いられる。
しかし、このような電線の場合、中心線に補強繊維を用いていることから、その端末固着力が低下するという問題がある。即ち、中心線の外周部(外殻部)に配置されている金属線を端子で掴んで固定化した場合、その電線に張力を加えると、その中心線が滑って抜けてしまうという問題がある。また、その補強繊維の最大伸びが2%以下と低いことから、衝撃(瞬時に電線を高速で引っ張るときの応力)に対する抗力が小さいという問題もある。
特公平4−138616号公報(特許文献2)には、中心線にアラミド繊維を用いる電線が示されているが、この場合、アラミド繊維の伸びは4%以下と小さく、この電線も耐衝撃性に劣るという問題を含む。
【0003】
【特許文献1】特開2001−167644号公報
【特許文献2】特公平4−138616号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、端末固着性にすぐれ、かつ耐衝撃性にすぐれているワイヤーハーネス用高強度細径電線を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、軟化されてその最大伸びが10%以上に形成された銅又は銅合金からなる中心線の周囲に、その最大伸びが10%以上の有機繊維を複数本撚り合わせた構造を有し、該銅又は銅合金に対する該有機繊維の重量比が1〜5%の範囲にあり、その太さが断面積で表して、0.03〜0.3mmであることを特徴とするワイヤーハーネス用高強度細径電線が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高強度細径電線は、その外周部(外殻部)に有機繊維を用いることから、高強度でありながら、軽量であるという利点を有し、さらに、端末固着力にもすぐれかつ耐衝撃性にもすぐれている。従って、本発明の電線は、ワイヤーハーネス用電線として好適のものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の電線において、その中心線は、銅又は銅合金からなる。この場合、銅合金としては、慣用のもの、例えば、添加金属として3.0〜5.0%(重量%)のNi、0.5〜0.5%のSi、0.2%のSnを含む銅合金が用いられる。中心線の太さは、その断面積で表して、0.03〜0.3mm、好ましくは0.08〜0.22mmである。中心線の断面は円形又は方形であることができる。
この銅又は銅合金からなる中心線は、軟化されて、その最大伸びは10%以上、好ましくは15〜25%に形成されている。また、銅合金の軟化処理は、温度400〜450℃で、8〜16時間熱処理することによって実施される。
この中心線には、必要に応じ、有機繊維を介在させることができる。この場合、1つの有機繊維の周囲に複数の銅又は銅合金線を撚り合わせた構造の中心線とすることが好ましい。この場合の有機繊維としては、その最大伸びが10%以上のものであり、外殻線として用いる有機繊維と同様のものを用いることができる。
【0008】
本発明の電線において、その中心線の外周囲に配置する外殻線は、有機繊維からなる。この有機繊維において、その最大伸びは、10〜30%、好ましくは15〜25%である。また、その引っ張り強度は、130kg/mm以上、好ましくは300kg/mm以上である。
【0009】
該有機繊維は、モノフィラメント、繊維束又は撚糸からなることができる。その繊維中心径は、電線サイズにより変化するが、例えば、電線サイズが0.08mm、0.13mm、0.22mmの場合には、それぞれ、0.135mm、0.175mm、0.210mmとなる。
【0010】
外殻繊維としては、ナイロン繊維、PP繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。アラミド繊維等の最大伸びが10%未満の繊維の場合、撚り繊維に形成するとともに、その撚りピッチを細かくすることにより、その最大伸びを10%以上に設定することができる。例えば、アラミド繊維の場合、その撚りピッチを細かくし、2本の繊維の1本をS(右)撚り1000T/m以上、もう1本をZ(左)撚りで700T/m以上で撚ったものをZ撚りで800T/m以上で撚る(T/m:1m間でのターン数)。このようなアラミド撚り繊維の最大伸びは10%以上となる。撚り回数が多ければ多い程伸びは向上し、該伸びはその撚り回数で調節することができる。
【0011】
本発明の高強度細径電線は、銅又は銅合金からなる中心線の周囲に有機繊維からなる外殻線を複数撚り合わせた複合構造を有する。この場合、銅又は銅合金に対する有機繊維の重量比は、1〜5%である。
このような重量比とすることにより、強度と導電率のバランスのとれた電線を得ることができる。中心線1本当たりの外殻線の数は、それらの太さにより異なるが、一般的には4〜7本、好ましくは6〜7本である。
本発明の電線の太さは、断面積で表して、0.05〜0.22mm、特に、0.08〜0.22mmであるが、その用途に応じて適宜定める。
【0012】
本発明の電線において、中心線に対する外殻線の撚りピッチは、2.0〜16.0mm、好ましくは8〜12mmである。
【0013】
本発明の電線は、これに絶縁被覆を施して絶縁被覆電線とすることができる。
【0014】
本発明の電線において、その強度は電線サイズにより異なるが、例えば、電線サイズが0.08mm、0.13mm、0.22mmの場合には、それぞれ、40〜60N、80〜100N、120〜140Nである。
【0015】
本発明の電線は、その外殻が有機繊維から形成されていることから、端末固着力にすぐれており、その端末を端子に掴み固着させた場合、その電線に張力を与えても、容易にその端子から脱離するようなことはない。
しかも、本発明の電線は、その最大伸びが10%以上と高いことから、耐衝撃性にすぐれ、瞬時にこれを高速で引っ張っても、伸びを生じてその衝撃力を吸収するため、容易に破断されることはない。
さらに、本発明の電線は、軽量でありながら高い強度を有することを特徴とする。
【実施例】
【0016】
次に本発明を実施例により詳述する。
【0017】
実施例1
直径0.210mmのナイロン繊維束(932dtex)1本の外周に、直径0.210mmの硬銅線6本を撚り線機にてZ撚り(ピッチ10mm)で圧縮して、直径0.55mmの導体を形成した。軟化炉にて約200℃で5時間真空軟化させた後、押出機にて被覆材(肉厚0.2t)を被せて被覆電線とした。
このようにして得た本発明の電線は、軽量でありながら、高い引っ張り強度を有し、かつすぐれた端末固着性と耐衝撃性を有することが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化されてその最大伸びが10%以上に形成された銅又は銅合金からなる中心線の周囲に、その最大伸びが10%以上の有機繊維を複数本撚り合わせた構造を有し、該銅又は銅合金に対する該有機繊維の重量比が1%〜5%の範囲にあり、その太さが断面積で表して、0.03〜0.3mmであることを特徴とするワイヤーハーネス用高強度細径電線。

【公開番号】特開2006−108035(P2006−108035A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296357(P2004−296357)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】