説明

ワクチン及びその製造方法

【課題】副作用がなく、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)による貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能なバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)に対するワクチンの提供。
【解決手段】マウスに感染するバベシア原虫の1種、バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を含有するワクチンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バベシア属に対するワクチン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バベシア症は、赤血球内寄生原虫であるバベシア原虫によって引き起こされる溶血性の疾病であり、主にダニによって媒介される。バベシアの種類としては、70種類以上が知られており、その種類によって寄生する動物種が異なる。
これらの中でもイヌに寄生するバベシアは、主にバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoniB.gibsoni))及びバベシア・キャニス(Babesia canisB.canis))の2種類が知られている。
バベシア症は、バベシアの種類によって地理的分布が限定されており、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)は主にアジアに分布しており、バベシア・キャニス(B.canis)は主にヨーロッパに分布しているため、我が国では、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)のイヌへの感染が問題となっている。
現在、日本国内のイヌの約7.4%が、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に感染しているといわれており(非特許文献1参照)、更に、その10.6%のイヌが抗体陽性であり(非特許文献2参照)、無症状のキャリアー(保菌動物)も存在するため、その感染は全国に拡大している点で問題である。
【0003】
バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に感染したイヌは、発熱、食欲不振、便秘、下痢、胃潰瘍、口内炎、浮腫、腹部膨満(腹水)、皮下出血、発疹(紫斑)、白血球数の減少、関節の腫脹、背中の痛み、てんかん発作、肝臓の酵素値(GOT、GPT)の増加、血小板の減少、リンパ節の肥大、脾臓の肥大、細菌性ショック、抑鬱状態などの慢性症状を呈し、急性症では、溶血性貧血、血尿、黄疸、リンパ節障害、嘔吐などの症状が現れる。また、劇症では、低体温、ショック、昏睡、DIC(播種性血管内凝固)、代謝性アシドーシスなどの症状が現れ、幼犬又は老犬では、死に至る場合も少なくない。
【0004】
バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)によるイヌの感染症の治療薬としては、主としてジミナゼン製剤(商品名:ガナゼック、ノバルティスアニマルヘルス株式会社製)が用いられてきたが、前記ジミナゼン製剤は小脳出血に起因する神経症状、肝障害、腎障害などを惹起するなどの副作用があるため、その使用が制限されている(非特許文献3参照)。
事前の抗生物質(クリンダマイシン)の投与により感染抑制が可能であるが、事前に反復投与してしまうと、体内に常在する細菌が薬剤耐性を有し、耐性菌が出現する点で現実的ではない。
また、新たな抗原虫薬も注目されている(特許文献1〜4参照)が、耐性株の出現が示唆されている点で問題である。
【0005】
前記したように、有効な治療薬が存在しないため、イヌがバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に感染しないよう、予防することが重要である。
一般に、感染症の予防としてはワクチンが使用される。バベシア・キャニス(B.canis)に対するワクチンは、Pirodog(登録商標)として市販されており、バベシア・キャニス(B.canis)株の培養物の上清から調製されている(特許文献5参照)。しかし、このワクチンは、一般に一部の野生型のバベシア・キャニス(B.canis)による感染に対してほとんど保護効果がないことが報告されている。また、バベシア・キャニス(B.canis)とバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)とは種が異なるため、前記ワクチンは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に対するワクチンとして有効であるとの報告はない。
【0006】
バベシア症と同様に原虫によって引き起こされるマラリア症においては、異なる種のマラリア原虫(Plasmodium)が、それぞれワクチン候補となる表面抗原の相同性は有するものの、そのワクチン効果は種によって異なることが知られており(非特許文献4〜5参照)、原虫においては、表面抗原の相同性の有無で、そのワクチン効果を予測することは非常に難しい。
また、マウスマラリア原虫であるプラスモディウム・ヨエリ(Plasmodium yoeliiP.yoelii))でマウスを免疫し、プラスモディウム・ベルゲイ(Plasmodium bergheiP.berghei))で攻撃した場合、前記プラスモディウム・ヨエリ(P.yoelii)はワクチン効果を示さず、マウスは前記プラスモディウム・ベルゲイ(P.berghei)に感染するが、反対に、プラスモディウム・ベルゲイ(P.berghei)でマウスを免疫し、プラスモディウム・ヨエリ(P.yoelii)で攻撃した場合は、前記プラスモディウム・ベルゲイ(P.berghei)がワクチン効果を示し、前記プラスモディウム・ヨエリ(P.yoelii)のマウスへの感染を抑制することができることが知られている(非特許文献6参照)。同様にして、マウスマラリア原虫であるプラスモディウム・シャバウディ(Plasmodium chabaudiP.chabaudi))でマウスを免疫し、プラスモジウム・ビンケイ(Plasmodium vinckeiP.vinckei))で攻撃した場合、前記プラスモディウム・シャバウディ(P.chabaudi)はワクチン効果を示さず、マウスは前記プラスモジウム・ビンケイ(P.vinckei)に感染するが、反対に、プラスモジウム・ビンケイ(P.vinckei)でマウスを免疫し、プラスモディウム・シャバウディ(P.chabaudi)で攻撃した場合は、前記プラスモジウム・ビンケイ(P.vinckei)がワクチン効果を示し、前記プラスモディウム・シャバウディ(P.chabaudi)のマウスへの感染を抑制することができることが知られている(非特許文献6参照)。
このように、一の種でワクチン効果を示すことが知られていても、他の種でワクチン効果を示すとは限らない点で、原虫に対するワクチン開発は非常に困難である。
【0007】
更に、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に対するワクチンは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)が大量培養できないため、その開発が困難とされている。
特許文献6では、主用抗原タンパク質P50タンパク質を利用した、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に対するワクチンが報告されている(特許文献6参照)が、その感染防御率は49.2%と十分満足するものではなく、またこのワクチンは、ヘマトクリット値を有意に低下させることができないため、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染症による貧血症状を緩和することができない点で問題である(非特許文献7参照)。
【0008】
したがって、副作用がなく、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)による貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能なバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に対するワクチンの提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−053987号公報
【特許文献2】特開2005−314345号公報
【特許文献3】特開2005−247767号公報
【特許文献4】特開2008−519844号公報
【特許文献5】米国特許第4,777,036号明細書
【特許文献6】特開2002−300882号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大西 堂文ら, 日本獣医師会雑誌, 1994, 47:1, p.23−8
【非特許文献2】Konishi.K, et al., Vet Parasitol, 2008, 155, 3−4, p.204−8
【非特許文献3】Greene C. E. ed, B. W. Saunders Philadelphia, 1990, p.796−803
【非特許文献4】M.W.Goschnick, et al., Infect Immun, 2004, 72(10), p.5840−5849
【非特許文献5】Crewther PE, et al., Infect Immun, 1996, 64(8), p.3310−3317
【非特許文献6】A.A.McCOLM and L.DALTON., Annals of Tropical Medicine and Parasitology, 1983, 77(4), p.355−377
【非特許文献7】S. Fukumoto. et al.,Vaccine, 2007, 25, p.1334−1341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、副作用がなく、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)による貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能なバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)に対するワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、マウスに感染するバベシア原虫の1種であるバベシア・マイクロッティ(Babesia microti)が、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)の抗原性と交差しており、イヌにも感染可能であること、前記バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)はマウスで効率よく増殖可能であること、前記バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を感染させたマウスの赤血球をイヌに免疫することで、前記バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)のイヌへの感染率を低下させ、貧血症状も緩和できること、前記バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を感染させたマウスの赤血球に、更にアジュバントを加えることで、その効果が増大することを知見し、本発明の完成に至った。
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を含有することを特徴とするワクチンである。
<2> バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症を予防する前記<1>に記載のワクチンである。
<3> アジュバントを含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のワクチンである。
<4> アジュバントが、サポニン及びモノホスホリルリピッドAの少なくともいずれかである前記<3>に記載のワクチンである。
<5> 貧血症状を緩和する前記<1>から<4>のいずれかに記載のワクチンである。
<6> マウスにバベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を感染させる感染工程と、該マウスより赤血球を採取する採取工程と、を含むことを特徴とするワクチンの製造方法である。
<7> 赤血球を可溶化乃至溶血する可溶化乃至溶血工程と、該赤血球とアジュバントとを混合した混合溶液を得る混合工程と、を含む前記<6>に記載のワクチンの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、副作用がなく、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)による貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能なバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)に対するワクチンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、BM感染犬の赤血球を光学顕微鏡で観察した図である。
【図2】図2は、BM感染犬の全赤血球数、感染率、及びヘマトクリット値(Ht値)の経時的変化を表した図である。
【図3】図3は、BM感染マウス及びBM感染犬へのB.microtiの感染を、PCRで確認した図である。
【図4】図4は、BM感染マウス及びBM感染犬へのB.microtiの感染を、間接蛍光抗体法で確認した図である。
【図5】図5は、BM−BG感染犬の感染率の経時変化を表した図である。
【図6】図6は、BM−BG感染犬の全赤血球数の経時変化を表した図である。
【図7】図7は、BM−BG感染犬のヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を表した図である。
【図8】図8は、サポニン及びモノホスホリルリピッドAのB.microtiに対するアジュバントの活性を検討した図である。
【図9】図9は、溶血BM−サポニン感染犬の感染率の経時変化を表した図である。
【図10】図10は、溶血BM−サポニン感染犬の全赤血球数の経時変化を表した図である。
【図11】図11は、溶血BM−サポニン感染犬のヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を表した図である。
【図12】図12は、BR感染犬の全赤血球数、感染率、及びヘマトクリット値(Ht値)の経時的変化を表した図である。
【図13】図13は、BR−BG感染犬の感染率の経時変化を表した図である。
【図14】図14は、BR−BG感染犬の全赤血球数の経時変化を表した図である。
【図15】図15は、BR−BG感染犬のヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ワクチン)
本発明のワクチンは、バベシア・マイクロッティ(Babesia microtiB.microti))を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
前記ワクチンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、バベシア属に対するワクチンであることが好ましく、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoniB.gibsoni))に対するワクチンであることがより好ましい。
前記ワクチンの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不活性化ワクチン、生ワクチンなどが挙げられる。これらの中でも、生ワクチンが、獲得免疫力が強く、持続性が高い点で好ましい。
【0017】
<バベシア・マイクロッティ(B.microti)>
前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)は、マウスに感染するバベシア原虫である。前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)は、非常に増殖率がよく、マウス1個体より10個以上の虫体が回収可能である点で有利である。
【0018】
−入手方法−
前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染したマウスより入手する方法、市販品を用いる方法などが挙げられる。
【0019】
−含有量−
前記ワクチン中の前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)の含有量としては、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)のイヌへの感染を予防することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記ワクチンは、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)そのものであってもよく、バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染した赤血球を含有する血液であってもよく、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染した赤血球そのものであってもよい。
【0020】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、薬理学上許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アジュバント、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。これらの中でも、アジュバントを含有することが、ワクチンの活性が高くなる点で好ましい。前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
−アジュバント−
前記アジュバントとは、抗原の免疫原性を高める目的で抗原とともに生体に投与される助剤のことをいう。前記アジュバントの作用としては、その種類により様々な作用が知られており、抗原を吸着して抗原提示細胞への取り込みを高める作用、抗原を局所に長期間留めて徐々に放出することで抗原刺激を持続させる作用、直接免疫細胞を活性化する作用などが挙げられる。
前記アジュバントの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アルミニウム塩、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、サポニン、モノホスホリルリピッドA(Monophosphoryl lipid A:MPL)などが挙げられる。前記アジュバントは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、サポニン及びモノホスホリルリピッドAの少なくともいずれかが、優れたアジュバント活性を示す点で好ましい。
【0022】
−−サポニン−−
前記サポニンは植物に多く含まれ、その構造的としては、トリテルペンやステロイドに糖が結合した配糖体の1種である。糖の部分は水酸基が多く親水性であり、非糖部(トリテルペンやステロイド)は疎水性の性質を有する、両親媒性の構造であるため、界面活性様作用をもたらす。また、サポニンは、インターロイキンやインターフェロンなどのサイトカインの産生を高める作用を有することも知られている。この作用によって、細胞性免疫や抗体産生を活性化し、免疫力を高めることができる点で有利である。
【0023】
−−モノホスホリルリピッドA−−
前記モノホスホリルリピッドAは、細菌の細胞壁の構成成分であるリポ多糖の部分分解産物である。前記リポ多糖もアジュバント活性を有するが、毒性を有する点で問題である。一方、前記モノホスホリルリピッドAは、リポ多糖と異なり毒性が非常に低い点で有利である。前記モノホスホリルリピッドAは、直接免疫細胞を活性化することでそのアジュバント活性を示すことが知られている。
【0024】
−−入手方法−−
前記アジュバントを入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品より入手する方法、合成により入手する方法、植物より抽出して入手する方法などが挙げられる。
【0025】
−−含有量−−
前記ワクチン中の前記アジュバントの含有量としては、アジュバント活性を発揮できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500mg〜1,000mgが、優れたアジュバント活性を示す点で好ましい。
【0026】
<使用>
前記ワクチンは、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併用されてもよい。また、前記ワクチンは、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0027】
<剤型>
前記ワクチンの剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が好ましい。
【0028】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に、賦形剤、及び必要に応じて各種添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0029】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0030】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0031】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加することにより、製造することができる。ここで、前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0032】
−軟膏剤−
前記軟膏剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤などが挙げられる。
前記軟膏剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤などを配合し、常法により混合し、製造することができる。
前記基剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
【0033】
−貼付剤−
前記貼付剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤などを、常法により塗布し、製造することができる。
前記支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタンなどのフィルム、発泡体シートなどが挙げられる。
【0034】
−スプレー剤−
前記スプレー剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エアゾール剤、粉剤、乳剤、液剤、水和剤などが挙げられる。
スプレー剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、米国特許第2,868,691号明細書及び米国特許第3,095,355号明細書に記載の方法などを使用して製造することができる。
【0035】
<投与>
前記ワクチンの投与方法、投与量、投与回数、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、注射による投与方法、吸入による投与方法、スプレーによる投与方法などが挙げられる。これらの中でも、注射による投与方法が好ましい。
前記注射による投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、粘膜下投与、皮下投与などが挙げられる。
前記スプレーによる投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、眼、鼻、口腔、肛門、膣の粘膜上皮など、身体の少なくともいずれかの表皮にスプレーして非経口投与する方法などが挙げられる。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、イヌが好ましい。
【0036】
<用途>
前記ワクチンは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能であるため、イヌへの投与(予防接種)に好適に利用可能である。なお、前記ワクチンをイヌに投与することを含む、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染症を予防するための予防接種方法も、本発明の範囲内に含まれる。
【0037】
(ワクチンの製造方法)
本発明のワクチンの製造方法は、マウスにバベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させる感染工程と、該マウスより赤血球を採取する採取工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0038】
<感染工程>
前記感染工程は、マウスにバベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させる工程である。前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)をマウスに感染させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)を腹腔内に投与する方法、静脈内に投与する方法などが挙げられる。これらの中でも、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)をマウスの腹腔内に投与する方法が、簡単であるため、好ましい。
【0039】
前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)がマウスに感染したか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させたマウスの血液を採取し、光学顕微鏡で赤血球を観察する方法、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)の遺伝子配列に特異的なプライマーを用いてPCRで確認する方法、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)を抗原として作製した抗体を用いて蛍光染色で確認する方法などが挙げられる。
前記光学顕微鏡で観察する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記赤血球をライトギムザ液で染色する方法が、赤血球を簡便に区別することができる点で好ましい。
【0040】
<採取工程>
前記採取工程は、前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させたマウス(以下、「BM感染マウス」と称することがある。)より赤血球を採取する工程である。
前記BM感染マウスより前記赤血球を含有する血液を採取する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、心臓採血により採取する方法が、簡便であり、大量の血液を得ることができる点で好ましい。なお、前記採取の際に用いる注射器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ヘパリンにより凝固防止処理を施した注射器であることが好ましい。
【0041】
前記採取した血液中の赤血球へのバベシア・マイクロッティ(B.microti)の感染率を算出する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、全赤血球数及び前記ライトギムザ染色した血液塗沫を、血球計算版を用いて計測した後、下記計算式により算出する方法などが挙げられる。
感染率(%)=顕微鏡視野中の感染赤血球数/顕微鏡視野中の全赤血球×100
前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染した赤血球(以下、「BM感染赤血球」と称することがある。)の数は、前記全赤血球数及び前記感染率より算出することができる。
【0042】
前記赤血球は、前記採血した血液の状態であってもよいし、前記赤血球のみを分離したものであってもよい。前記採取した血液より、前記赤血球を分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離による方法などが挙げられる。前記遠心分離により、赤血球は沈殿し、血漿やその他の血球成分は上清や中間層として分離することができる。
前記遠心分離により得られた赤血球は、そのまま用いてもよいが、洗浄することが、その他の血球成分などを取り除くことができる点で好ましい。前記洗浄する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記遠心により沈殿した赤血球とPBS(−)とを混合した後、再び遠心分離し、上清のPBS(−)を除去する方法などが挙げられる。
前記血液及び前記分離した赤血球の少なくともいずれかは、前記BM感染赤血球の数が所望の数となるように希釈して用いることが好ましい。前記希釈する溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PBS(−)が好ましい。
【0043】
前記BM感染赤血球を保存する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採取した血液を凍結する方法などが挙げられる。なお、前記希釈は、凍結前に行ってもよいし、凍結融解後の前記BM感染赤血球の使用前に行ってもよい。
【0044】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記BM感染赤血球を、可溶化乃至溶血する可溶化乃至溶血工程、前記可溶化乃至溶血したBM感染赤血球とアジュバントとを混合した混合溶液を得る混合工程などが挙げられる。
【0045】
−可溶化乃至溶血工程−
前記可溶化乃至溶血工程は、前記BM感染赤血球を、可溶化乃至溶血する工程である。前記可溶化乃至溶血工程では、赤血球膜を破壊することにより、赤血球内に存在する前記バベシア・マイクロッティ(B.microti)を外界に露出せることができる。
前記BM感染赤血球を可溶化乃至溶血する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記BM感染赤血球と界面活性剤とを混合する方法、前記BM感染赤血球と蒸留水とを混合する方法などが挙げられる。前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Triton−X、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、DMSO(ジメチルスルホキシド)などが挙げられる。前記蒸留水及び前記界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記BM感染赤血球と蒸留水とを混合する方法が、効率よく前記BM感染赤血球を、可溶化乃至溶血できる点で好ましい。
前記BM感染赤血球と前記蒸留水及び前記界面活性剤の少なくともいずれかとを混合する混合比としては、前記BM感染赤血球を可溶化することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0046】
−混合工程−
前記混合工程は、前記可溶化乃至溶血したBM感染赤血球とアジュバントとを混合した混合溶液を得る工程である。前記アジュバントとしては、例えば、前述したワクチンに含まれるアジュバントを用いることができる。前記可溶化乃至溶血したBM感染赤血球とアジュバントとを混合する混合比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などに何ら限定されるものではない。
【0048】
(製造例1:B.microtiワクチンの製造)
<感染工程>
野外でバベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染したマウスの血液を採取し、継代培養したバベシア・マイクロッティ(B.microti)1×10個を、ddyマウス(n=2)(日本エスエルシー株式会社)に、注射器を用いて腹腔内投与することにより、マウスにバベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させた(以下、「BM感染マウス」と称することがある。)。
【0049】
<採取工程>
BM感染マウスの血液は、バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染後10日目に、ヘパリンによる凝固防止処理を施した注射器を用いて心臓採血により採取した。
【0050】
−調製−
採取した血液中の全赤血球数を、血球計算版を用いて計測した。次いで、ライトギムザ液(メルク社製)にて前記赤血球を染色し、染色した血液塗沫と、光学顕微鏡とを用いて感染率を計測した。感染率は、下記計算式より算出することができる。
感染率(%)=顕微鏡視野中の感染赤血球数/顕微鏡視野中の全赤血球×100
【0051】
前記全赤血球数及び前記感染率より、感染赤血球数を算出した。感染赤血球数(以下、「BM感染赤血球」と称することがある)が1×10個となるように、採取した血液をPBS(−)(0.8質量%塩化ナトリウム、0.02質量%塩化カリウム、0.115質量%リン酸水素二ナトリウム、0.002質量%リン酸二水素カリウム)で希釈し、本発明のワクチンを得た。
【0052】
(実施例1:ワクチン投与の効果)
<バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染犬の作出>
−BM感染赤血球によるイヌへの免疫−
製造例1のワクチン(BM感染赤血球1×10個を含有)を、ビーグル犬(n=2)(日本農産工業株式会社)の橈側皮静脈より静脈内投与することにより、ビーグル犬にバベシア・マイクロッティ(B.microti)を感染させ、バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染犬(以下、「BM感染犬」と称することがある。)を作出した。BM感染犬は、2個体を後述する検査に用いた。また、バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染後41週間後のBM感染犬2個体を、後述するバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染に用いた。
【0053】
−BM感染犬の検査−
BM感染犬の全赤血球数、感染率、及び感染赤血球数を検査するため、BM感染犬へのバベシア・マイクロッティ(B.microti)投与後3ヶ月間は週に2回(火曜日と金曜日)、それ以降は週に1回(火曜日)、BM感染犬の血液を頚静脈より採血した。採取した血液の全赤血球数、感染率、及び感染赤血球数は、前述した方法と同様の方法で算出した。
また、採取した血液をヘマトクリット遠心管(VITREX MEDICAL社製)に充填し、ヘマトクリット遠心機にて15,000×g、5分間、遠心分離を行い、ヘマトクリット計算版を用いてヘマトクリット値(Ht値)を計測した。
【0054】
図1に、BM感染犬の赤血球を光学顕微鏡で観察した像を示す。なお、図1中、矢印はバベシア・マイクロッティ(B.microti)の感染を示す。
図2に、BM感染犬の全赤血球数、感染率、及びヘマトクリット値(Ht値)の経時的変化を示す。図2より、全赤血球数は、バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染後32日目で4.1×10個/μLに低下した。また感染率は、バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染後53日目で1.0%を示した。
【0055】
−バベシア・マイクロッティ(B.microti)感染の確認−
−−バベシア・マイクロッティ(B.microti)遺伝子発現の確認−−
製造例1で作出したBM感染マウス及び前記BM感染犬にバベシア・マイクロッティ(B.microti)が感染しているか否かについて確認するため、BM感染マウス及びBM感染犬の赤血球、並びにコントロールとして、無処置マウス及び無処置犬の赤血球より、それぞれのDNAを抽出し、B.microtiの遺伝子配列に特異的な配列を有するプライマーを用いてDNAを増幅した。各PCR産物を電気泳動することにより、バベシア・マイクロッティ(B.microti)の遺伝子発現の確認を行った。なお、バベシア・マイクロッティ(B.microti)の遺伝子が発現していた場合、154bpにバンドを検出することができる。
図3に、電気泳動像を示す。レーン1はBM感染マウス、レーン2は無処置マウス、レーン3はBM感染犬、及びレーン4は無処置犬の結果を示す。図3より、BM感染マウス及びBM感染犬では目的の大きさのバンドが検出されたことから、バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染していることが確認された。
【0056】
−−抗血清の確認−−
次に、前記BM感染犬の赤血球へのバベシア・マイクロッティ(B.microti)の感染を、間接蛍光抗体法(IFAT)を用いて確認した。
前記BM感染マウス及び前記BM感染犬の赤血球をIFATスライドにコートし、完全に乾燥させた後、無水アセトンで10分間固定した。1次抗体として、BM感染マウスの抗血清、若しくはBM感染犬の抗血清を用いた。前記固定したIFATスライドに前記1次抗体を添加し、37℃にて30分間反応させた。次いで、PBST(0.8質量%塩化ナトリウム、0.02質量%塩化カリウム、0.115質量%リン酸水素二ナトリウム、0.002質量%リン酸二水素カリウム、0.05体積% Tween20)で洗浄した後、2次抗体(1次抗体にBM感染マウスの抗血清を用いた場合は、Fluorescein(FITC)−conjugated AffiniPure Goat Anti−Mouse IgG(Jackson Immuno Research LABORATORIES社製)、1次抗体にBM感染犬の抗血清を用いた場合は、Fluorescein(FITC)−conjugated AffiniPure Rabbit Anti−Dog IgG(Jackson Immuno Research LABORATORIES社製))を用い、37℃にて30分間反応させた。PBSTで3回洗浄後、蛍光顕微鏡で観察した。
図4に、蛍光顕微鏡像を示す。図4中、光っている部位が感染を示す。図4より、BM感染犬の赤血球にバベシア・マイクロッティ(B.microti)が感染していることが確認された。
【0057】
図1〜4の結果より、マウスに感染するバベシアであるバベシア・マイクロッティ(B.microti)は、イヌにも感染可能であることが示唆された。
【0058】
<バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染犬の作出>
−バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染赤血球の調製−
野外でバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に感染した犬の血液を採取し、継代培養したバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染赤血球を用い、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染赤血球が7×10個となるように、PBS(−)で希釈した。
ビーグル犬(n=1)の橈側皮静脈より、注射器を用いて前記バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染赤血球7×10個を静脈内投与することにより、ビーグル犬にバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させた(以下、「B.gibsoni感染赤血球供与犬」と称することがある。)。
バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後31日目に、ヘパリンによる凝固防止処理を施した注射器を用いて、B.gibsoni感染赤血球供与犬の血液を頚静脈により採取し、前述した方法と同様の方法で、全赤血球数、感染率、及び感染赤血球数を算出した。
なお、前記バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染赤血球は、Vega y Martinez(VYM)リン酸緩衝液(2質量%グルコース、0.0016質量%塩化カルシウム、0.04質量%塩化カリウム、0.1415質量%リン酸二水素カリウム、0.0154質量%硫酸マグネシウム七水和物、0.1937質量%リン酸水素ナトリウム十二水和物、0.7077質量%塩化ナトリウム)に、0.00423質量%アデニン(A2785、シグマ社製)、及び0.00708質量%グアノシン(G6264、シグマ社製)を懸濁し、pH7.2に調整した溶液に懸濁し、凍結保しておくことが可能である。
【0059】
−感染−
前記BG感染赤血球1×10個を、BM感染犬(n=2)、若しくは無処置犬(n=2)の橈側皮静脈より静脈内投与することによりバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させた。以下、BM感染犬に、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させた犬を、「BM−BG感染犬」、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)のみを感染させた犬を、「BG対照犬」と称することがある。
【0060】
−BM−BG感染犬の検査−
BM−BG感染犬及びBG対照犬の全赤血球数、感染率、及び感染赤血球数を検査するため、BM−BG感染犬及びBG対照犬へのバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)投与後3ヶ月間は週に2回(火曜日と金曜日)、それ以降は週に1回(火曜日)、BM−BG感染犬及びBG対照犬の血液を頚静脈より採血した。採取した血液の全赤血球数、感染率、及びヘマトクリット値(Ht値)は、前述した方法と同様の方法で算出した。
【0061】
−−感染率−−
図5に、感染率の経時変化を示す。BM−BG感染犬及びBG対照犬ともにバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後11日目の感染率が最も高く、BG対照犬では4.6%であったのに対し、BM−BG感染犬では1.8%であったことから、イヌは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染前に、バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染することで、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)への感染率が60%抑制された。
【0062】
−−赤血球数−−
図6に、全赤血球数の経時変化を示す。全赤血球数が4×10個/μL(図6破線)以下の場合、貧血状態となる。BM−BG対照犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、その全赤血球数は1.8×10個/μLであったのに対し、BM−BG感染犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後25日目であり、その全赤血球数は2.6×10個/μLであった。また、全赤血球数が4×10個/μL以下であった期間(貧血状態であった期間)は、BG対照犬は38日間であったのに対し、BM−BG感染犬は21日間であったことから、17日間短縮していた。
これらの結果より、イヌは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染前にバベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染することで、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)による貧血症状が軽度になり、その期間が短縮することが認められた。
【0063】
−−ヘマトクリット値(Ht値)−−
図7に、ヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を示す。ヘマトクリット値(Ht値)が35%(図7破線)以下の場合、貧血状態となる。BM−BG対照犬のHt値が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後11日目であり、そのHt値は13.5%であったのに対し、BM−BG感染犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、そのHt値は21%であった。また、Ht値が35%以下であった期間(貧血状態であった期間)は、BG対照犬は60日間であったのに対し、BM−BG感染犬は35日間であったことから、25日間短縮していた。
これらの結果からも図6と同様に、イヌは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染前にバベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染することで、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)による貧血症状が軽度になり、その期間が短縮することが認められた。
【0064】
(実施例2:アジュバントの検討)
<アジュバントの調製>
アジュバントとして、サポニン(ACCURATE CHEM社製)及びモノホスホリルリピッドA(RIBI社製)を用いて以下の検討を行った。サポニンは、PBS(−)で希釈し、1,000mLに調製した。モノホスホリルリピッドAは、PBS(−)で希釈し、0.5mg/mLに調製した。
【0065】
<BM感染赤血球の調製>
製造例1のBM感染マウスより、製造例1と同様の方法で血液を採取した。前記BM感染マウスの赤血球を、1,750×g、5分間、遠心分離を行い、血漿及びバフィーコートを除去し、BM感染赤血球を得た。このBM感染赤血球に、PBS(−)10mLを添加し、転倒混和することによりBM感染赤血球を洗浄した後、1,750×g、5分間、遠心分離を行い、上清を除去した。前記洗浄は2回行った。
次いで、ライトギムザ液にて前記BM感染赤血球を染色し、実施例1と同様の方法で感染率を計測した。採取した血液は、BM感染赤血球が1×10個/mLとなるようにPBS(−)を用いて希釈した。次いで、この希釈したBM感染赤血球を、Triton−Xで可溶化、若しくは蒸留水で溶血させた。具体的には、前記BM感染赤血球にTriton−Xを、BM感染赤血球:Triton−X=1:15(V/V)の割合で添加することにより、BM感染赤血球を可溶化した。また、BM感染赤血球:蒸留水=1:1(V/V)の割合で蒸留水を添加することにより、BM感染赤血球を溶血させた。
【0066】
<BM感染赤血球とアジュバントとの混合>
−BM感染赤血球とサポニンとの混合−
前記可溶化乃至溶血させたBM感染赤血球と、前記250μg/mLサポニン溶液とを等量混合することにより、アジュバントを含有するワクチンを製造した(以下、可溶化したBM感染赤血球とサポニン溶液とを混合した溶液を、「可溶化BM感染赤血球−サポニン」、溶血したBM感染赤血球とサポニン溶液とを混合した溶液を、「溶血BM感染赤血球−サポニン」と称することがある。)。この可溶化BM感染赤血球−サポニン及び溶血BM感染赤血球−サポニンそれぞれ0.2mL(BM感染赤血球1×10個及びサポニン25μgを含有する)を、後述するマウスへの免疫に用いた。
【0067】
B.microti感染赤血球とモノホスホリルリピッドAとの混合−
前記可溶化乃至溶血させたBM感染赤血球と、500μg/mLモノホスホリルリピッドA溶液とを等量混合することにより、アジュバントを含有するワクチンを製造した(以下、可溶化したBM感染赤血球とモノホスホリルリピッドA溶液とを混合した溶液を、「可溶化BM感染赤血球−MPL」、溶血したBM感染赤血球とモノホスホリルリピッドA溶液とを混合した溶液を、「溶血BM感染赤血球−MPL」と称することがある。)。この可溶化BM感染赤血球−MPL及び溶血BM感染赤血球−MPLそれぞれ0.2mL(BM感染赤血球1×10個及びモノホスホリルリピッドA 50μgを含有する)を、後述するマウスへの免疫に用いた。
【0068】
<アジュバントを含有するワクチンのマウスへの免疫>
可溶化BM感染赤血球−サポニン、溶血BM感染赤血球−サポニン、可溶化BM感染赤血球−MPL、及び溶血BM感染赤血球−MPLそれぞれ0.2mLを、3週間ごとに3回、ddyマウスの背部皮下に投与(免疫)した(以下、可溶化BM感染赤血球−サポニンを投与したマウスを、「可溶化BM−サポニン感染マウス」、溶血BM感染赤血球−サポニンを投与したマウスを、「溶血BM−サポニン感染マウス」、可溶化BM感染赤血球−MPLを投与したマウスを、「可溶化BM−MPL感染マウス」、溶血BM感染赤血球−MPLを投与したマウスを、「溶血BM−MPL感染マウス」と称することがある(表1参照)。)。
最終免疫の3週間後に、可溶化BM−サポニン感染マウス(n=6)、溶血BM−サポニン感染マウス(n=6)、可溶化BM−MPL感染マウス(n=6)、及び溶血BM−MPL感染マウス(n=6)の血液を心臓より採取し、1,750×g、5分間、遠心分離を行い、血清(n=6/群をプールしたもの)を得た。この血清を後述するアジュバントの検討に用いた。
【0069】
【表1】

【0070】
<検討>
アジュバントの検討は、ウエスタンブロットにて行った。即ち、SDSゲル(9.7質量%アクリルアミド、0.3質量% N,N’−メチレンビスアクリルアミド、4.5質量%トリスヒドロキシメチルアミノメタン、0.1質量%SDS、0.4質量%過硫酸アンモニウム、0.05質量%TEMED)に、製造例1のBM感染マウスの赤血球又はBM非感染マウスの赤血球を、1ウエルあたり20μgアプライし、電気泳動を行った。次いで、メンブレン(ATTO社製)にブロッティングし、スキムミルク(北海道乳業株式会社製)でブロッキングを行った後、前記したように調製したBM感染マウス、可溶化BM−MPL感染マウス、可溶化BM−サポニン感染マウス、溶血BM−MPL感染マウス、溶血BM−サポニン感染マウス、及びBM感染マウスの血清を、それぞれPBS(−)で200倍に希釈した血清を反応させ、ジアミノベンジジン(DAB)により検出した。
【0071】
結果を、図8に示す。図8中、「BM」はBM感染マウスの赤血球、「M−NRBC」はBM非感染マウスの赤血球を示す。BM感染マウスの血清を反応させた場合、BM感染マウスの赤血球(レーン13)は、BM非感染マウスの赤血球(レーン14)では認められなかったバンドが検出されており、B.microtiの感染による抗原が存在することが認められた。
Triton−Xで可溶化した場合は、BM感染マウスの赤血球(レーン1、3、及び5)とBM非感染マウスの赤血球(レーン2、4、及び6)とでバンドパターンに違いは認められなかった。
蒸留水で溶血した場合は、BM感染マウスの赤血球(レーン7、9、及び11)は、BM非感染マウスの赤血球(レーン8、10、及び12)では認められなかったバンドが検出されており、バベシア・マイクロッティ(B.microti)の感染による抗原が存在することが認められた。
これらの結果より、サポニン及びモノホスホリルリピッドAは、アジュバントとして好適に用いることができることが確認された。また、BM感染赤血球は、蒸留水で溶血させる方法が、本発明のワクチンとして適していることが示唆された。以下の実施例では、安価で使用しやすいことからサポニンをアジュバントとして用いた。
【0072】
(実施例3:アジュバントを含有するワクチンの効果)
<アジュバントを含有するワクチンの投与>
実施例2と同様の方法で、可溶化BM感染赤血球−サポニンを調製した。この可溶化BM感染赤血球−サポニン(溶血BM感染赤血球1×10個及びサポニン500mgを含有する)を、3週間ごとに3回、ビーグル犬(n=2)の背部皮下に投与した(以下、可溶化BM感染赤血球−サポニンを投与したイヌを「溶血BM−サポニン感染犬」と称することがある。)。最終免疫の5週間後に、溶血BM−サポニン感染犬を、後述するバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染に用いた。
【0073】
<非感染赤血球−サポニン対照犬の作出>
バベシア・マイクロッティ(B.microti)非感染マウスの赤血球を前記した方法と同様の方法で溶血させ、前記サポニン溶液を、前記した方法と同様の方法で混合し、イヌへ投与することで、対照犬(以下、「非感染赤血球−サポニン対照犬」と称することがある。)(n=2)を作出した。
なお、本実施例では、何も投与していない無処置犬(n=2)も使用した(表2参照)。
最終免疫の5週間後に、非感染赤血球−サポニン対照犬及び無処置犬を、後述するバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染に用いた。
【0074】
【表2】

【0075】
<感染>
実施例1と同様の方法でBG感染赤血球供与犬よりBG感染赤血球を調製した。
BG感染赤血球1×10個を、溶血BM−サポニン感染犬、非感染赤血球−サポニン対照犬、及び無処置犬の橈側皮静脈より静脈内投与に投与することによりバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させた。
【0076】
<溶血BM−サポニン感染犬の検査>
溶血BM−サポニン感染犬、非感染赤血球−サポニン対照犬、及び無処置犬の全赤血球数、感染率、感染赤血球数、及びヘマトクリット値(Ht値)を検査するため、各群へのBG感染赤血球投与後3ヶ月間は週に2回(火曜日と金曜日)、それ以降は週に1回(火曜日)、各群の血液を頚静脈より採血した。採取した血液の全赤血球数、感染率、感染赤血球数、及びヘマトクリット値(Ht値)は、実施例1と同様の方法で算出した。
【0077】
−感染率−
図9に感染率の経時変化を示す。非感染赤血球−サポニン対照犬の感染率が最も高かったのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、その感染率は6.8%であり、また無処置犬の感染率が最も高かったのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後24日目であり、その感染率は8.5%であったのに対し、溶血BM−サポニン感染犬の感染率が最も高かったのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、その感染率は2.5%であった。即ち、溶血BM−サポニン感染犬の感染率は、非感染赤血球−サポニン対照犬に対して63%、無処置犬に対して70%抑制された。
【0078】
−赤血球数−
図10に、全赤血球数の経時変化を示す。実施例1と同様に、全赤血球数が、4×10個/μL(図10破線)以下の場合、貧血状態となる。非感染赤血球−サポニン対照犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後28日目であり、その全赤血球数は1.2×10個/μLであり、また無処置犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後28日目であり、その全赤血球数は1.4×10個/μLであったのに対し、溶血BM−サポニン感染犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後24日目であり、その全赤血球数は3.4×10個/μLであった。また、非感染赤血球−サポニン対照犬及び無処置犬の全赤血球数が、4×10個/μL以下であった期間(貧血状態であった期間)は42日間であったのに対し、溶血BM−サポニン感染犬は7日間であったことから、35日間短縮していた。
これらの結果より、BM感染赤血球を単独で投与した場合(図6)と比較して、アジュバントとともにBM感染赤血球を投与(図10)することで、貧血症状を呈する期間は更に短縮し、その貧血の程度も更に軽度になることが認められた。
【0079】
−ヘマトクリット値(Ht値)−
図11に、ヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を示す。実施例1と同様に、ヘマトクリット値(Ht値)が35%(図11破線)以下の場合、貧血状態となる。非感染赤血球−サポニン対照犬のHt値が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後28日目であり、そのHt値は11%であり、また無処置犬のHt値が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、そのHt値は14%であったのに対し、溶血BM−サポニン感染犬のHt値が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、そのHt値は25%であった。また、Ht値が35%以下であった期間(貧血状態であった期間)は、非感染赤血球−サポニン対照犬は51日間、無処置犬は69日間であったのに対し、溶血BM−サポニン感染犬は17日間であった。即ち、溶血BM−サポニン感染犬のHt値が35%以下であった期間は、非感染赤血球−サポニン対照犬に対して34日間、無処置犬に対して52日間短縮していた。
これらの結果からも、BM感染赤血球を単独で投与した場合(図7)と比較して、アジュバントとともにBM感染赤血球を投与(図11)することで、貧血症状を呈する期間は更に短縮し、その貧血の程度も更に軽度になることが認められた。
【0080】
(比較例1:バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)による免疫)
バベシア・マイクロッティ(B.microti)とは異なる種のマウスバベシアであるバベシア・ロドハイニ(Babesia rodhainiB.rodhaini))によりイヌを免疫し、その後バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)をさせ、検討を行った。
【0081】
<バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)感染赤血球の調製>
−感染−
野外でバベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)に感染したマウスの血液を採取し、継代培養したバベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)1×10個を、ddyマウス(n=4)に、注射器を用いて腹腔内投与することにより、マウスにバベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)を感染させた(以下、「BR感染マウス」と称することがある。)。
【0082】
−採取−
BR感染マウスの血液は、バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)感染後8日目に、ヘパリンによる凝固防止処理を施した注射器を用いて、BR感染マウスの血液を心臓採血により採取した。
【0083】
−−調製−−
採取した血液は、実施例1と同様の方法で、全赤血球数、感染率、及び感染赤血球数を算出した。感染赤血球数(以下、「BR感染赤血球」と称することがある)は、過剰量の7.5×10個/mLとなるようにPBS(−)を用いて希釈した。
【0084】
<BR感染赤血球によるイヌへの免疫>
前記希釈した血液2mL(BR感染赤血球1.5×10個を含有する)を、ビーグル犬(n=2)の橈側皮静脈より静脈内投与することにより、ビーグル犬にバベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)を感染させ、バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)感染犬(以下、「BR感染犬」と称することがある。)を作出した。BR感染犬は、2個体を後述する検査に用いた。また、バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)感染後103日目のBR感染犬2個体を、後述するバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染に用いた。
【0085】
<BR感染犬の検査>
前記BR感染犬について、実施例1と同様の方法で、全赤血球数、感染率、感染赤血球数、及びヘマトクリット値(Ht値)を算出した。
【0086】
図12に、BR感染犬の全赤血球数、感染率、及びヘマトクリット値(Ht値)の経時的変化を示す。バベシア・ロドハイニ(B.rodhaini)感染後17日目の感染率は、0.14%であり、ほとんど感染は認められず、全赤血球数及びHt値にも変化は認められなかった。
【0087】
<バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の感染>
実施例1と同様の方法でBG感染赤血球を調製し、BG感染赤血球1×10個を含有する血液を、前記BR感染犬、若しくは対照犬(n=2)の橈側皮静脈より静脈内投与することによりバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させた。以下、BR感染犬に、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)を感染させたイヌを、「BR−BG感染犬」、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)のみを感染させたイヌを、「BG対照犬」と称することがある。
【0088】
<BR−BG感染犬の検査>
前記BR−BG感染犬及びBG対照犬について、実施例1と同様の方法で、全赤血球数、感染率、感染赤血球数、及びヘマトクリット値(Ht値)を算出した。
【0089】
−感染率−
図13に、感染率の経時変化を示す。BG対照犬の感染率が最も高かったのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後24日目であり、その感染率は8.5%であったのに対し、BR−BG感染犬の感染率が最も高かったのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目であり、その感染率は9.5%であったことから、イヌは、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染前に、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)に感染しても、その感染率はほとんど変化しなかった。
【0090】
−赤血球数−
図14に、全赤血球数の経時変化を示す。全赤血球数が4×10個/μL(図14破線)以下の場合、貧血状態となる。BG対照犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後28日目であり、その全赤血球数は1.4×10個/μLであったのに対し、BR−BG感染犬の全赤血球数が最も減少したのはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後31日目であり、その全赤血球数は2.3×10個/μLであった。また、全赤血球数が4×10個/μL以下であった期間(貧血状態であった期間)は、BG対照犬は42日間であったのに対し、BR−BG感染犬は28日間であったことから、14日間短縮していた。
【0091】
−ヘマトクリット値(Ht値)−
図15に、ヘマトクリット値(Ht値)の経時変化を示す。ヘマトクリット値(Ht値)が35%(図15破線)以下の場合、貧血状態となる。BR−BG感染犬及びBG対照犬ともにバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染後21日目のHt値が最も低く、BG対照犬では14%であったのに対し、BR−BG感染犬では17%であった。また、BG対照犬のHt値が、35%以下であった期間は、69日間であったのに対し、BR−BG感染犬は45日間であったことから、24日間短縮していた。
【0092】
実施例1及び3、並びに比較例1の結果を下記表3に示す。アジュバント(サポニン)を添加した溶血BM感染赤血球(実施例3)は、BM感染赤血球単独の場合(実施例1)と比較して、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)のイヌへの感染率を抑制し、貧血の緩和効果も優れていることが認められた。
一方、BR感染赤血球を感染させたイヌ(BR−BG感染犬)は、全赤血球数の抑制やHt低下の抑制作用は認められたものの、その効果はBM感染赤血球を感染させたイヌ(BM感染犬)より低く、また感染率はほとんど抑制できなかった(比較例1)。これより、マウスバベシアでも種類が異なるとバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)感染に対するワクチン効果はないことが示唆された。
【0093】
【表3】

【0094】
実施例1〜3では、バベシア・マイクロッティ(B.microti)に感染したマウスの赤血球そのものを投与したことから、複数抗原が関与していることが示唆される。原虫の感染予防には、複数の抗原が関与していることが示唆されている(Vet Immunol, 2:1, 1981, p.45−56、 Parasite Immunol, 27, 2005, 439−45参照)ことから、本発明のワクチンはバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)の複数抗原に有効であることが推測される。
また、マウスの自己免疫性溶血性貧血に関与する抗体はイヌの赤血球膜を認識しないため副作用を抑制できることが知られている(Chia−Rui Shen, et al., Blood, 2003, 102(15), p.3800−3806、Debra M. et al., J.Biol.Chem, 1988, 263(20), p.10022−10028)ことから、本発明のワクチンは、イヌのバベシアバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)の感染に優れた予防効果を有し、貧血症状を緩和でき、副作用のない安全性の高いワクチンとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のバベシア・マイクロッティ(B.microti)を含有するワクチンは、副作用がなく、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症に対する優れた予防効果を有し、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)による貧血症状を緩和することができ、効率よく大量に製造可能であるため、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)によるイヌの感染症の予防に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を含有することを特徴とするワクチン。
【請求項2】
バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)によるイヌの感染症を予防する請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
アジュバントを含有する請求項1から2のいずれかに記載のワクチン。
【請求項4】
アジュバントが、サポニン及びモノホスホリルリピッドAの少なくともいずれかである請求項3に記載のワクチン。
【請求項5】
貧血症状を緩和する請求項1から4のいずれかに記載のワクチン。
【請求項6】
マウスにバベシア・マイクロッティ(Babesia microti)を感染させる感染工程と、
該マウスより赤血球を採取する採取工程と、
を含むことを特徴とするワクチンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−26241(P2011−26241A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173565(P2009−173565)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000173865)財団法人日本生物科学研究所 (6)
【Fターム(参考)】